2005年07月30日

1990年代ドイツにおける食品小売業の構造―小売業態分析からの一考察(斉藤 2001)

要約
 この論文は東西ドイツ統一後の1990年代におけるドイツ小売業の構造的変化を分析することで,グローバル競争時代に展開される小売業を究明するための手がかりとすることを目的としている。ここでは特に食品小売業を取り上げることにより,小売業の中で生じている構造変化を考察したいとしている。ポーターが指摘するように小売業は元来マルチドメスティックな産業(35ページ)であり,競争は国内において展開されたのであり,巨大小売業は特定の国・地域を基盤として成長し,国境を越えて事業を展開しグローバル化を遂げたとしており,巨大小売業の母国である各国の小売市場の特性を明らかにすることは不可欠であるとしている。また,ドイツにおいては1996年の閉店法改正等規制緩和の動きが見られるなどわが国と似た状況におかれていることから,ドイツ小売業はわが国小売業を比較するための興味深い比較対象であると述べられている。

1.食品小売業における業態構造
 ドイツにおいて食品小売業は小売商品分野で最大の比率をしめており,最も基本的な商品分野であり,市民生活に欠かすことのできない,ある意味において伝統的な商品分野であると述べられている。その食品小売業について業態別に店舗数,売場面積,売上の推移から考察が行われている。その特徴として第一に食品小売業において接客販売方式をとる非セルフサービス小売店は売上高・構成比ともに取るに足らないカテゴリーとなっており,経済的にはほとんど影響力のない店舗形態となったとしている。第二に「その他のセルフサービス小売店」(46ページ)のカテゴリーにおいても店舗数,売場面積,売上高とも減少し,これもまた食品小売業において大きな意味を成さない位置づけとなっているとしている。第三にスーパーマーケット業態は売上高実績とその構成比率がそれぞれ92年・90年をピークに減少し,売上高の構成比率についてもゆるやかに低下させていることから,売場面積が1,000㎡以下のスーパーマーケット業態は90年代ドイツにおいてほぼ成熟化しているとしている。第四にスーパーマーケットよりも売場面積が大規模の業態を意味するセルフサービス百貨店・コンシューマーマーケットのカテゴリーにおいては店舗数,売場面積,売上高において実績値,構成比率ともに着実に伸張していることから,売上面積の増加,店舗の大型化を基本的傾向として見てとれるとしている。第五に食品ディスカウントストアについては店舗数,売場面積,売上高のいずれについても実績値,構成比率ともに高い成長を示しており,これもドイツ食品小売業の主要な傾向として見てとれると述べられている。

2.食品小売業における企業グループの動向
 ここではスーパーマーケットやコンシューマーマーケットなどの売上高のうち,食料品のみを取り出し集計したものをもとに考察が成されている。まず,食料品売上高の企業別グループのトップはエデカであり,エデカは1907年に13地域の購買組合の連合体として設立され,順調に会員数を増やし,店舗数ではコンシューマーマーケットを中心とするが,売上高ではセルフサービス百貨店の構成比率も高いとしている。第二位は同様にコーペラティブチェーンであり,エデカより「1926年に分離独立して設立された」(49ページ)レーヴェグループであり,レーヴェは食品以外の日用品まで含めた総合売上においてはメトロに次ぐドイツ第二位の巨大企業であると述べられている。レーヴェの食品小売業の主力業態はディスカウントストア,ついで大規模スーパーマーケットであると述べられている。これに続くのがレギュラーチェーンの展開を行うアルディとメトロであるとしており,アルディはヨーロッパ8カ国だけでなくアメリカにも進出しており,メトロは食品売上においては第四位であるが,グループ傘下の流通企業の総合売上高はドイツ第一位,世界ランキングで第三位という巨大企業であるとしている。メトロの主力業態は会員制C&C業態のメトロやマクロなどであり,食品小売業は必ずしも事業の中心分野ではないとしている。
さらに第五位はスーパーマーケットやコンシューマーマーケットを主力とするテンゲルマンであり,第五位までの累計シェアが63.7%,7グループで77.5%にも達するとしており,ドイツ食品小売業において上位集中が進んでいることは明白であるとしている。

 結論は次の通りである。1990年代のドイツ食品小売業は「市場シェアの集中化と企業のグループ化」(50ページ)と表現できるとしており,この集中化とグループ化が推進された具体的な方向として,まず第一に店舗の売場面積の拡大が進行し,結果スーパーマーケット業界を基点にある種のサブ業態としてコンシューマーマーケットやセルフサービス百貨店が,もう一つの展開軸として限定された商品アイテムの品揃えと低価格訴求を行う食品ディスカウントストアが生まれ,主要業態として普及・拡大していくと述べられている。第二にそのような大型店舗をチェーン化することにより多店舗化が進められたとしており,レギュラーチェーンとして展開される場合と独立小売商を結集して大規模化を図るコーペラティヴチェーンとして推進される場合があったものの,多店舗化による大規模化とグループ化が進行するという点では一致していたとしている。また同時にこれらの企業のいくつかは食品部門内での複数業態への進出や他の小売分野への進出,企業統合の推進により巨大化を実現したとしており,このようにして少数の巨大小売グループが食品分野を含めて小売市場の圧倒的な部分を占拠するといったドイツ小売業の構造が成立したとしている。

 論点は次の通りである。ドイツの業態については詳細に述べられていたが,ドイツ食品小売業についての特殊性についての言及が不足しているように思われる。

出典:斉藤雅通(2001)「1990年代ドイツにおける食品小売業の構造―小売業態分析の視点からの一考察」『立命館経営学第39巻第6号』35―51ページ。

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2005年07月29日

小売市場の競争構造(関根 1995)

要約
 本論分は,小売市場における独占的競争の特徴を明らかにすることにより流通政策その他に貢献することを目的として書かれている。全体の構成としては,まず,独占的競争の理論と最近の経済学者の小売競争理論をレビューし,続いて小売市場を特徴付ける独占要素と小売市場の特殊性が検討されている。そして第三に業態と小売競争,競争の垂直的次元,立地と小売競争という視点から小売競争の枠組みを提示している。そして結論として,流通政策への合意と今後の課題が示されている。

小売競争理論のレビュー
 まず独占的競争の理論として,『独占的競争は製品差別化による競争』(72ページ)であるとするE.H.Chamberinの競争理論が取り上げられている。Chamberinは製品差別化の対象を「製品それ自体の特徴」と「販売をめぐる諸条件」とし,製品差別化は生産者の行う製品差別化と,小売店が商品の最終消費者への販売に際して行う差別化があるとしている。そして次に企業の立場から競争を差別的優位性の追求と捉えたW.Aldersonの理論が取り上げられ,差別優位性の追及とは企業が市場地位の差別化のためにとる戦略であるとし,その戦略の選択肢として①市場細分化を通じての差別化,②訴求(広告)の選択による差別化,③トランズベクション(品揃えと変換の連鎖)による差別化,④製品改善による差別化,⑤生産過程の改善による差別化,⑥製品革新による差別化の6つが挙げられており,ここではChamberinの理論と比べると販売をめぐる諸条件が欠落してい反面,トランズベクシションという概念で垂直的関係を取り上げている。さらに企業差別化による競争の概念は,Havengaにより明確にされ,小売商は顧客の愛顧をめぐって最適な「小売ミックス」を構成し差別的優位性を獲得しようとするとしている。しかしこのChamberinとAldersonの理論は生産者市場と小売市場を区別しないことが共通の問題点として指摘される。井原哲夫は『小売業の行動を製造業の行動に擬して扱う場合があるが,その処理には大きな無理が生じる』(74ページ)とし,小売競争の重要な要素として立地や品揃えが指摘されている。そして,経済学の小売競争理論として製造業者間の競争と小売段階の競争に分けて分析した丸山雅祥の理論や,有賀健の小売段階の競争は地域寡占を特徴とする非価格競争であるとしたものがあるが,それらは小売競争の特徴づける要因ではあるが,小売競争全体像を明らかにすることに成功していないとしている。

小売市場における独占的要素
 生産者市場で行われる独占的競争と小売市場で行われる独占的競争では本質的な違いがあるとして,まず小売市場の不完全性が指摘されている。小売市場の不完全性に対して2人の見解が示されており,H.Smithは小売市場の不完全性として①消費者の買物は地理的範囲に限定されること,②消費者は商品の品質,原価,価格に対して完全な情報を持っていない,③多くの場合消費者と小売店の間に特殊な信頼関係が成立していること,④自己の小売店舗を愛顧してくれている顧客層を形成していることの4つの要素を指摘し,一方M.Hallは小売市場の特殊性として,①消費者が空間的に散在していること,②多種多様な商品を扱うので価格決定が難しいこと,③生産者が決定した一定の再販売価格に従わなければならないこと,④顧客に対する広告,配達などのサービスを付加し他の小売商と差別化できることが指摘している。小売市場を特徴付ける独占的要素としては,業態,垂直的関係,立地があるとしそれらが順に検討されている。

小売市場の競争構造
 小売の競争構造としては,業態,垂直的関係,立地の3つがある。まず業態についてだが,小売競争の特徴の一つとして,異業態間で競争が行われることが挙げられる。業態は小売業のマーケティング戦略の特徴として識別され,それは主に顧客との対応方式と品揃えの違いにより分類することができ,各小売業は業態による差別化を行っている。異業態間競争に関しては業態革新を品揃え拡大によるものと専門化による品揃え縮小のよるものに分け,これらの相異なる勢力が小売商業において業態を無限に変化させていくプロセスを形成するとしている。市場参入が効果的に行われると,品揃え拡大プロセスが浸透し異業態間競争が激化し,他方専門化のプロセスは店舗の個性,ユニークさを強調するものであるとしている。次に異業態間競争が小売市場に及ぼす影響について,①継続的な業態革新が行われていること,②革新に基づく新業態の登場は既存業態との間で異業態間競争を引き起こし小売市場を活性化させる,③新業態は生産者に対し独立的性格を有するものが多く業界で地位を確立すればPB商品の開発が行われること,④新業態の成功は後発の模倣企業を誘発することから異業態間競争は同業態間競争に変化すること,⑤その業態が成熟期に達すると競争は安定するが,これが次の新業態の登場の機会を作り出すことの5つが述べられている。
 次に小売競争の垂直的関係についてだが,小売業の競争は生産者,卸売商などの川上のチャネルの影響を強く受けると考えられてきており,生産者が商業者に対して開放的販売制,集約的販売制,選択的販売制のいずれを採用するかによって小売市場における競争の相対的独立性が異なるとされている。しかし,そういった小売競争が垂直的関係にどのように影響を受けるのかを評価するのは難しいとした上で,小売競争の垂直的関係を商標によって考察している。これは商標が商品流通の主導権を示すものであるという特徴を持っているからであるとしている。商標はNBとPBに分けられるが,チェーンストア経営の発達による小売企業の販売力の増大がPB商品開発を活性化しており,PB商品は価格競争力により生産者に対する対抗力を発揮していると述べられている。そして小売競争と商標の関係として,PB商品の成功は小売競争を活性化すること,有力なNB商品が多いほど生産者市場の影響が大きくなり,逆にPB商品の開発が進むほど小売市場の独自性が強まること,PB商品には価格訴求のものが多いことなどがあげられている。わが国の特徴としては,市場のほとんどが有力なNB商品で占められているため,PB商品の比重が増えることにより垂直的関係を考慮しなくなることは難しいとしている。そもそも生産者と小売業者の意見は基本的に対立することがその理由として挙げられるが,大規模小売業の登場により,生産者が小売の販売力や情報力を軽視できなくなったことが小売主導の製品開発の背景にあるとしている。つまり商品開発の主導権が生産者から大規模小売業者へ移行することによって小売市場の主体性が増すと述べられている。
 そして最後に立地と小売競争の関係が述べられている。小売業の立地に関する研究は主に「集積の理論」「中心地理論」「小売引力の法則などがあるが,立地が小売競争にどのような影響を与えるかについて直接的に扱った研究はほとんど無いことを指摘し,その影響を解明するためにの5つの問題点を処理する必要があると指摘されている。その問題点とは①ミクロかマクロどちらで処理するか,②独占的の意味をどうとるか,③個性的商品と非個性的商品では立地の持つ意味がどう変化するか,④立地と環境の変化をどう捉えるか,⑤集積間競争と店舗間競争の関係はどうかであるとしている。

結論は以下の通りである。独占的競争が行われている小売市場の特殊性を業態,垂直的関係,立地の3点から論ずることにより,小売競争の一般理論構築のための問題解決の視点や,今後の研究方向を示すことをもって結論とている。そして流通政策への合意として,①業態革新と競争構造の実証的分析,②大規模小売商によるPB開発の活発化により消費者の商品開発へ参画が求められた場合,それをどう制度化するのか,③立地に関して情報ネットワークの高度化など環境が変化に対する競争構造の変化のを分析することという3つの課題を示している。

出典:関根孝(1995)「小売市場の競争構造」『専修商学論集』第59号,71-90ページ。

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2005年07月27日

米国小売業のイノベーション(渦原 2001)

要約
 近年,ロジスティックスや情報通信の技術発達などによって,企業との取引関係,顧客対応において小売業のイノベーションが進展している。米国小売業は,電子商取引において世界の最先端にあり,それを活用した新業態の開発などイノベーションを次々と生み出してきている。この論文では,米国小売業の業態開発や適応行動などイノベーションの本質を考察しており,合わせて今後の課題と展望を論じている。

米国小売業のイノベーション
 ここでは,米国の小売業態の進展とその発展の規定要因について述べている。
米国の小売業態は,食品を取り扱う小売業と扱わない小売業とに分かれて発展を遂げてきた。米国の小売業の発展の歴史は,度重なるイノベーションによる新業態の誕生の歴史であり,第一回目はデパート,第二回目は通信販売,第三回目はディスカウント・ストアの誕生であったとしている。このように新しいビジネスモデルが次々と誕生し,顧客の愛顧を獲得した競争力のある業態が選別されてきた。そして,今や電子商取引の登場による,第四のイノベーションが生み出されたとしている。次に,このような小売業のイノベーションの規定要因として,ここでは米国の流通システムの特徴に加えて,消費者行動の変化と技術革新を挙げている。まず米国の流通システムは,流通チャネルが短い,小売業が強大で自立性がある,PBが強い,などの特徴がある。そして,イノベーションが生まれた背景として,外部環境の変化,特に消費者行動の変化に着目している。米国の消費者は,民族の多様化,家族人員の減少などが目立ってきているだけでなく,価格と価値のバランスを重視するバリュー志向,健康志向などが顕著になってきている。また技術革新においても,インターネットを利用した電子商取引やロジスティックスの技術革新により,顧客に対するサービスが向上している。以上のことが,近年における業態開発のイノベーションの源泉となっている,と述べている。

イノベーションの新たな展開
 近年,インターネットを利用した電子商取引により,企業の取引関係,顧客対応において変化し始め,新業態の開発などのイノベーションが生み出されてきている。インターネットのマーケティングの特徴として,時間と距離を克服し直接的に需給接合が可能になり,顧客購買行動の分析が容易になったなどがあり,取引関係や顧客対応において革新が生まれた。そして,そのイノベーションによる新たなビジネスモデルとして,オンライン専業を挙げている。その代表例として,アマゾン・ドット・コムがあり,次第に既存の大手小売業が本格的参加し始めた。しかし,オンライン専業業態は,顧客とのリアルタイムのやりとりや,物流や在庫管理の整備が十分ではないという問題を抱えていた。このような問題点を受けて,新たに生まれたビジネスモデルとして,クリック&モルタル業態を挙げている。クリック&モルタル業態とは,小売企業が実店舗とオンライン販売を兼ねた業態である。このクリック&モルタル業態の誕生によりオンライン専業との間で,勢力争いが展開され,最近では「インターネットと有店舗の融合化によるマルチ・チャネルの優位性が見られた」(144ページ)としている。そして,クリック&モルタル業態は今後,商品提供だけでなく,物流や金融機能も付加し,サービスの範囲を拡大する方向にある,としている。最後にこの論文では,これからの小売業は,クリック&モルタル業態が主流となる方向に展開しており,オンラインの強みを上手く活かして,販売チャネルの使い分けによる相乗効果を発揮させることが重要である,としている。また,日本の小売業についても,日本ではコンビニエンスストアや携帯電話を情報端末として利用したインターネット・ビジネスの発展が見られ,米国とは異なる小売業の展開が予想されると述べている。

結論は以下の通りである。米国小売業は消費者行動の変化への対応,技術革新によって,新業態の開発するなど,イノベーションを次々と生み出し,近年では,電子商取引の発達によりオンライン専業やクリック&モルタル業態という新業態が誕生した。今後も米国小売業は,専門的な情報提供やリピーターの確保などによって,電子商取引を成功させ,クリック&モルタル業態を広く展開していく方向にあるとしている。

出典:渦原実男(2001)「米国小売業のイノベーション」『流通』No.14,137-147ページ。

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2005年07月26日

Product Bias in the Central American Common Market(Schooler 1965)

要約
 この論文では中米市場間を対象とし,原産国に対する認識の違いによって製品の評価に違いが生じるのか,また生じるのであれば,どのような要因が原産国に対する認識の違いを生むのかについて分析がなされている。

仮説
 政治的な統一への様々な試みの失敗は,中央アメリカにおける歴史のひとつである。地域間に存在する他国への妬み,警戒心,敵意が政治的統一を拒んできたのである。これらの要因は経済問題にも影響を与えると考えられ,特に製品の評価に重要な影響を与えていると考えられる。こうした考えを前提として,原産国の製品評価に対する影響や認識の違いを生む要因について検証がなされている。
 まずこの論文では,次のような仮定が示されている。同じ製品であっても,原産国の違いによって製品に対する評価が異なる。さらにある特定国を原産国とする製品は種類が違っても同じ評価を得る。こうした仮定を基に,以下の仮説をたて検証が試みられている。
仮説1.製品の原産国のちがいによって製品評価に差が生じる。
 さらに,第2の仮説として,対象国の政府・産業・労働組織・国民に対する評価や対象国へ旅行経験の有無が,その国に対する評価に影響を与える重要な要因と仮定し検証を試みている。

検証
 グアマテラにあるサンカルロス大学の学生でありアルバイトをしている200名を調査対象とし,その200名を無作為に50人ずつ4つのグループに分類し比較がなされている。ここでは,メキシコ,グアマテラ,エルサドバドル,コスタリカを対象国としている。ミックスジュースと綿と麻で出来た布地を対象製品とし,4つのグループごとに異なった原産国ラベル(メキシコ・グアマテラ・エルサドバドル・コスタリカ)を製品に貼付する。原産国ラベル以外は同一製品である二つの製品に対する評価がグループ間でどのような差が出ているのかについて検証されている。
 さらに,対象国の政府,経済構造,労働組織,国民に対して回答者がどのように評価しているかについてや対象国への旅行の有無についても調査が行われている。

結果
 仮説1.の検証の結果から,グアマテラとメキシコ製品は同一の評価を受けていることが明らかにされている。さらに,グアマテラとメキシコの製品に対する評価はコスタリカやエルサドバドルの製品よりも高い評価を得ていることが示されている。調査の結果から4つの調査国は、メキシコとグアマテラの上位国とコスタリカとエルサドバドルの下位国に分類され、製品評価に対する影響に違いがることが明らかにされている。
 第2の仮説の検証の結果から,経済構造や労働組織,旅行の有無は原産国の評価に対して影響を与えていないことが明らかにされている。その国の国民に対する評価と政府に対する評価が原産国による製品評価の違いに影響を与えていることが明らかにされている。

結論
 原産国ラベル以外は同一の製品であるにもかかわらず,原産国表示の違いによって,製品評価に差が出たことから原産国効果の存在が証明されている。さらに,そうした原産国の評価の違いを生み出す要因として,その国の国民に対する評価や政府に対する評価が重要であることが明らかにされている。

出典:Schooler, Robert D. (1965), "Product Bias in the Central American Common Market," Journal of Marketing Research, Vol. 2, No. 4, pp. 394-397.

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2005年07月25日

中国の小売競争―百貨店の盛衰とスーパーマーケットの台頭―(葉 2004)

要約
 まず「業態の分析と研究は,小売業構造における競争状態を明らかにするもの」(65ページ)であると述べられ,この論文では,業態の発展や流通の変革が小売競争の過程であるとされている。そこで,小売競争に関するこれまでの研究がレビューされている。レビューを通して,小売競争構造に関する研究が整理され,分析の視点が4つ挙げられている。その中の異業種間競争に主に焦点をあて,「中国における百貨店の盛衰,及びスーパーマーケットの台頭プロセス」(65ページ)の考察がなされている。最後に,中国の今後の小売競争の展望が示されている。

小売競争に関する既存研究
 ここでは,これまでの小売競争に関する研究が整理されている。まず,流通は生産と消費の懸隔を架橋するものであるから,生産と消費の両方から影響を受けるとし,流通競争構造についても「生産と消費の両側面における諸条件を考慮しなければならない」(66ページ)と述べられている。次に,流通競争とくに小売競争については主に経済学的な分析がなされてきたとし,そのような既存研究を整理している。小売競争は多様で特殊的であるために,経済学によるアプローチも依然必要であるが,小売に特殊な理論モデルの構築や分析方法の開発が必要と述べられている研究や,同じような考えに基づいて今までとは異なるアプローチを取っている研究があることが示されている。

小売競争の構造
 そして,これまでの研究を整理した結果,小売競争構造について垂直的競争,水平的競争,異業態間競争,商業集積間競争という4つの視点が示されている。
 寡占的製造企業が商業者の交渉力を弱めるためにマーケティングが導入され,そのような製造企業のマーケティング活動によって競争構造が変化すること,また近年の小売業のPB導入などによって流通における両者の勢力のバランスが変わることなど,製造企業と小売業の対立で競争は変わるとされている。また,生活協同組合など消費者もまた流通に介入していると述べられている。このように,流通機能は主として商業者が担うが,その一部を製造企業や消費者が分担しているために,垂直的競争の問題が引き起こされると述べられている。これは小売業に特有であり,経済学ではこの視点が弱いという指摘もなされている。また,「水平的競争は,同業態の流通機関,ないし流通組織体相互間の競争である」(68ページ)。さらに,異業態間競争はスーパーマーケットやコンビニエンス・ストア,専門店,百貨店など異なる小売業態間の競争であるとされている。小売業の総合化と専門化が同時に進行しているために異業態間の競争が生まれると述べられている。経路間競争もここに含まれる。そして,ショッピングセンター,商店街,小売市場などの競争を商業集積間競争としている。

中国における小売競争の変動と現状
 競争の新展開として流通のグローバル化が挙げられている。中国小売市場への巨大流通外資の参入は競争の局面を揺るがすものと考えられるとされ,中国における小売競争の変動と現状についてみていくことにしている。
 まず,中国における小売競争がどのように変動してきたかが示されている。改革・開放以前は,中国における業態は「供銷社(農村),百貨店(都市),そしてよろずやの三種類に限定されていた」(70ページ)という。それが改革・開放以降,外資系小売企業によってスーパーマーケット,GMS,コンビニエンス・ストア,倉庫型ストアなどが持ち込まれたことによって大きく変化した。これにより中国の小売市場では競争が生まれたという。ここでは百貨店とスーパーマーケットの競争を中心に,中国市場における小売競争を見ていくことにしている。
 百貨店は1900年に登場し,行政部門として管理されていたために競争もなく,中国小売業の主力業態として長い間その地位が守られていたという。1980年代後半から1990年代前半にかけて黄金期を迎え,好況が続いていたが,改革・開放によりその優位性が弱まっていったとされており,いま,百貨店は「異業態競争に直面して生き残るための改革が迫られている」(72ページ)と述べられている。しかし,そもそもの不振の原因は「水平的「過度競争」にある」(73ページ)という。したがって,百貨店の衰退において,需要を無視した短期間での新店舗の大量出店が,もたらした水平的競争の激化,スーパーマーケットなどの新業態の相次ぐ出店による異業態間競争,さらに「外資系百貨店の参入による既存国営百貨店への影響(垂直的競争,水平的競争)」(73ページ)という競争構造が見られると述べられている。 そして,「中国の百貨店業界は,不振の対策として,業態内の自己革新,及び業態転換による経営再建が散見される」(74ページ)とも述べられている。

これからの展望
 これまでも外資系小売企業による参入によって異業態間競争や水平的競争,垂直的競争が激しく行われてきたが,WTO加盟によりさまざまな規制が緩和されることで競争はより一層激化すると述べられている。また,「中国流通市場全体が飛躍的成長を遂げつつあるなか,いずれの業態も依然として成長の余地は大きい」(76ページ)という見方も正しいかもしれないとも述べられている。そして,百貨店とスーパーマーケットの品揃えや立地における相互補完や強調の関係も見過ごせないとしている。いずれにしろ,グローバリゼーションの進展に伴って,「中国市場における小売競争は新しい段階に踏み込んでいる」(76ページ)と締めくくられている。

出典:葉翀(2004)「中国の小売競争―百貨店の盛衰とスーパーマーケットの台頭」『流通科学大学論集-流通・経営編-』第16巻第3号,65-77ページ。

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2005年07月23日

小売業の主要業態の論理的構造―百貨店とスーパーの基本構造(出家 2004)

要約
 この論文は小売業の主要業態である「百貨店」と「スーパー」の基本構造について考察を行っている。大規模小売業は必ず何らかの業態を採用していることから,大規模小売業を「業態論」として把握する必要があるとし,大規模小売業が業態を通じてのみ大規模化が可能であると考えるならば,いかなる過程を経て業態を採用し,大規模化を行ったかという過程の解明は大規模小売業の具体的形成過程の解明につながるとしている。ここでは石原武政・中野安の研究成果について取り上げた後,「買回品」「最寄品」をキーワードとして百貨店とスーパーの業態説明を行うことで二業態の論理的識別が明確にされている。そして日本においてはこの二大業態が小売業を牽引してきたことから,この主要業態の識別を明確にすることが大規模小売業の具体的形態について把握するという点で重要な意味を持つとしている。

1.百貨店の基本構造
 百貨店は取扱品目のフルライン化がみられ,その点ではスーパーと共通性を持つが,売上高に占める割合から主力商品は衣料品であることが理解できるとしており,「買回品」が取扱商品の主力であると述べられている。この「買回品」は購入頻度が少ないことから百貨店は多くの購買人口を必要とするとしており,そのため広域な商圏をはじめから必要とするとしている。また,買回品は最寄品と比べて商品回転率が良くなく,売上を上げるためには商品単価を上げる必要がある。重要なことは消費者がこの高価格な商品を気にしないで購入するように仕向ける必要があり,その手段が高級品であるという点であるとしている。このようにして百貨店の「買回品」は高級品へとシフトし,「高級化・高品質・高価格・高サービス(対面販売)」(105ページ)が条件になるとしている。そして百貨店の利潤は質の追求によって実現されるのであり,その商品の質を浮き立たせることを目的に建物・売場・陳列を豪華・華麗にするとしている。以上のように百貨店は必然的に高コスト型経営を行うこととなる。そして更に買回品は最寄品と比較して購買頻度が低く販売効率が悪いとしており,そのことから少量仕入れ・少量販売を余儀なくされ,多品種少量・個別対応仕入れを行うと述べられている。このように百貨店は一つの建物に業種にみられた売買の集中を内部化し,縦の拡大を図りながら発展したとしている。

2.スーパーの基本構造
 (総合)スーパーは売上高において占める割合が高いのが食料品日常衣料を中心とする最寄品であり,これがスーパーの主力商品であると述べられている。最寄品は購買頻度が高いため価格を低く設定するのが特徴であるとし,そして購買頻度が高いことから小商圏でよいと言うことができ,立地条件に制約がないということが述べられている。また,最寄品は購買頻度が高いことから低価格設定を行わざるを得ず,「低価格訴求型戦略」による薄利多売が志向されることとなるとしている。そして低価格設定を行うためには低価格仕入れが必要になるため,チェーンシステムを採用しているとしており,本部による大量一括仕入れにより低価格仕入れを実現したとしている。そして「大量仕入れ―大量販売」(108ページ)という規模の経済が本部と支店の円滑的なシステムによりできあがるとしている。このようにスーパーは百貨店と異なり出店展開=横への拡大により成長したとしている。「買回品」とは異なり「最寄品」は購買頻度が高く,マスマーケットを初めから持ち,消費者の大量購買を実現することが容易であったとしており,販売の標準化・画一化を志向したイノベーションシステムがスーパーの中核システムであるとしている。さらに最寄品は低価格設定を前提にせざるを得ず,低利潤を余儀なくされるため薄利多売により利潤の拡大を図るが,経営管理コストが増大すると利潤が消えてしまうため経営管理コストの節減が重要課題になったとしている。そこからセルフサービスが考え出されたとしている。以上のようにスーパーは流通レベルの「標準化・画一化」(109ページ)による規模の経済を考慮した各種のイノベーションにより支えられたとしている。

 結論は次の通りである。買回品・最寄品をキーワードとすることにより百貨店とスーパーという小売業の主要業態の基本的論理的な識別が明確になったとしており,小売業の大規模化はこのような業態を通して実現したことが重要であり,そういった意味で業種から業態への過程を把握するということは大規模小売業形成の具体化において重要であるとしている。そして零細小売業にとっては同一の取扱品目を扱う点で百貨店よりもスーパーの方がより脅威となり得るとしている。

 論点は次の通りである。筆者も述べているところであるが,今後はコンビニエンス・ストアも含めた考察が必要であると考える。


出典:出家健治(2004)「小売業の主要業態の論理構造―百貨店とスーパーの基本構造」『関西大学商学論集第49巻第3・4号合併号』89―110ページ。

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2005年07月22日

米国ウォルマート社の小売業態開発の展開(渦原 2002)

要約
 本稿では2000年度売上高1933億ドルで,全10ヶ国で4294店舗を営む世界一の小売業であるウォルマートについて,創業期,DS導入期,DS成長期,DS成熟期,スーパーセンターへの転換とグローバル展開期とその史的展開を概観することにより,業態開発戦略とその展開,優れた小売技術と革新について分析がなされている。そして結論として,今後ウォルマートが継続的に成長していくための5つの課題が指摘されている。

ウォルマートの業態開発戦略とその展開
 ここではウォルマートの業態開発展開を開発順に見ることにより,新業態開発の動機やその業態の特徴などが述べられている。まず創業時のバラエティストアだが,これはソフトグッズや非耐久消費財を中心に多様な日用雑貨を低価格で提供する小売業であり,このころから既にウォルマートの,ベンダーとの取引条件時の価格交渉のシビアさ,コスト管理の厳格さが誕生していたとしている。しかし,バラエティストアの多店舗化と大規模化を推進していくうちバラエティストア業態での限界とディスカウントストア(以下DSとする)の潜在能力に可能性を見出し,DS業態の開発を進めることになる。DS時代には,ウォルマートの経営的特徴である大型店で多様なブランド品を提供する手法である『エブリデー・ロープライス戦略』が消費者の支持を集め低価格でも販売量により利益が確保された。さらにこのころに自社の物流センターを建設し,周辺に店舗を効率よく配置するドミナント戦略でその規模を拡大していったとしている。次に,DSの成熟化問題や大都市地域市場進出を目的としてメンバーシップ制のキャッシュアンドキャリー卸であるメンバーシップホルセールクラブを導入したとされている。しかし現在ではDSストアの成熟化問題を解決するはずが,メンバーシップ・ウェアハウスのビジネス自体が成熟期に入ってしまっている。そして次に試験的に導入されたのがハイパーマーケット業態であるが,この業態も客が欲しい商品を探すのに時間がかかる上に,レジの待ち時間が長く,品揃えも限定されているという問題点があり,他の低価格訴求業態と比較して必ずしも競争力が得られなかったため,消費者からの評判が悪くわずか4店舗で出店を中止した。そしてそのハイパーマーケットの反省点を踏まえてスーパーセンターの開発に着手した。スーパーセンターはハイパーマートのコンパクト版であり,DSに大型スーパーマーケットを組み合わせた衣食住のフルラインの業態であり,この業態で初めてウォルマートが本格的に食料品分野に進出してきたため既存スーパーマーケットは大きな打撃を受けたとされている。そしてこのスーパーセンターが現在は全米ウォールマートの主力業態になっておりDSからスーパーセンターへの業態転換を促進中であるとしている。そしてこのスーパーセンター業態を中心にグローバル展開を図っていく計画であると述べられている。

小売技術と革新
 ウォルマートの店頭で目にするスローガンが"We Sell for Less"(わが社はより安く販売する)と"Satisfaction Guaranteed"(顧客満足保証)であり,それを可能にするための経営手法がエブリデー・ロープライス(以下EDLPとする)経営と,それを可能にする低コストオペレーションシステムと顧客サービスの向上する経営の確立にあるとしている。その具体的方法として,ベンダーとのコスト管理,効率的物流システムの構築,戦略的パートナーシップの確立,勤労意欲のある従業員と顧客満足経営の構築などが挙げられている。さらにその中でもベンダーとの協力による低コスト経営と,メーカーと小売業の協働事業CPFRへの取り組み,最新の情報技術の活用について言及されている。ベンダーとの協力による低コスト経営を実現する方法には大きく分けて3つあり,①メーカーとの直接取引きや,中間商人や販売員の排除,②物流コスト削減のための自社物流センター・自社トラック隊の設置,③広告費の削減などがコスト削減を可能にし競争優位の源となっているとしている。次にメーカーと小売業の協働事業CPFRへの取り組みであるが,これはいわゆる戦略的同盟であり,メーカーと小売業の両者が消費者起点により取引関係を再構築し,小売の持つPOSデータを利用し,ベンダーが主導権を握り在庫管理,受発注,配送計画などのシステム間連携を行うことにより生産・在庫コストの削減を可能にしている。最後に最新の情報技術の活用であるが,この情報技術活用の戦略の要となるのが『超大型の記憶装置の中に詳細な生データを蓄積し,ユーザーの問い合わせにこたえて必要な情報を提供する仕組み』(122ページ)であるデータウェアハウスである。さらにウォルマートはこのデータツールであるウェアハウスを分析し情報からナレッジへ進化させる分析ツールを持っており,これらを統合したナレッジコロニーをベンダーとともに利用することによりストアレイアウトの改革やプランニングの改善,取り扱い商品構成,販売促進などの分野で成果を出しているとしている。さらにはメーカーと小売業がインターネットなどを通じて需給予測データを互いに作成しすり合わせることにより在庫削減と販売機会の損失を防いでいると述べられている。

結論として,今後ウォルマートが大企業病に陥らず発展するための課題として,『①新しい成長開発,②積極的な海外店舗展開と国際経営戦略の推進,③PB商品の拡充と,メーカーとの良好な関係維持,④地域社会や中小商店の出店反対運動への対応,⑤労働組合員や差別訴訟への対応』(124ページ)があげられている。

論点としては,課題の③に挙げられていたPB商品開発であるが,米国や日本のように流通の上位集中が進んでいない国では,PB商品戦略はあまり効果的でないと考えられる上に,PB商品の拡充はメーカーとの関係の悪化を生むのではないかと考えられる。

出典:渦原実男(2002)「米国ウォルマート社の小売業態開発の展開」『西南学院大学商学論集』第48巻第3・4合併号,112-124ページ。

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2005年07月21日

「グローバル競争時代」の大規模小売業の戦略展開(宮内 2001)

要約 
日本百貨店協会や日本チェーンストア協会が公表する「売上高動向」を見ると,1992年以降,下降傾向を続けており,長期的な低迷状態に陥っている。そして,そのような長期不況下での経営再建・戦略展開が小売業の分野で進められ,大手スーパー企業グループによる新たな経営戦略が見られるようになった。この論文では,こうした状況の下で,小売業が危機的な状況に陥っている要因を明らかにし,そして今後,危機的状況からいかに脱却し,国際競争力をどのようにして創りあげていくのかについて検討している。

日本小売業の現状
 ここでは,現在の日本小売企業が陥っている危機的状況について概観し,その状況に陥った要因を挙げている。
 まず,現在の景気停滞の要因として,90年代不況の影響を挙げている。こうした景気停滞は,個人消費の萎縮を引き起こし,国民経済として需要と供給のバランスが崩れたため,小売業に深刻な打撃を与えることとなったとしている。第二の要因として,供給能力の過剰,とりわけ大規模小売業の出店戦略を挙げている。1990年代に入り,規制緩和が徐々に進むにつれ,大規模小売業各会社は活発な出店戦略を展開したが,1990年から1999年までの日本経済全体の成長率は約1%とわずかであったため,店舗の拡大路線の採用は,小売マーケットにおける破滅的な競争を引き起こす結果になったとしている。第三の要因として,小売業が危機的状況に陥ったのは,企業の多角化戦略の失敗による負債の増大であるとしている。大手総合スーパー各社は,複数事業の組み合わせによるコスト節減を意図し,範囲の経済性を追及し,小売業態の多様化や事業の多角化を進めた。しかし,企業グループの多くは,中核としていた事業との関連性が薄い事業を多く抱え込んだことで,範囲の経済性を得ることができず,経営資源の過度の分散を招き,業績不振をもたらすことになったとしている。続いて第四の要因には,含み資産重視型経営が破綻したことを挙げている。含み資産重視型経営とは,借り入れをして不動産を保有し,不動産価格の上昇を狙うという,土地の含み資産に依存した経営である。そして,この含み資産重視型経営を進めることで,企業は競争力のない店舗を出店させ,低水準の収益率しか確保できず,90年代不況の影響により,過大な負債を抱えることとなったとしている。最後に,小売業の成長が止まったのは,小売業態の成熟化・陳腐によるものであるとしている。製造業にとって新商品の開発が大きな意味を持つように,小売業にとっては,新たな業態の開発が持続的な成長を支える基盤となっている。しかし,近年においては店舗側の業態供給能力がマーケットの業態のニーズに追いついたため,革新的な新業態を創り出せなくなってきており,新たな業態が創り出せないということは,消費者のニーズを満たす新しいシステムを構築できないことを意味し,小売業の衰退につながると述べられている。

小売業の戦略展開の方向性
 ここでは,現在の危機的状況から日本小売業はいかに脱却し,どのようにして国際競争力を獲得できるのか,という課題に対して8つの戦略を述べ,それぞれの戦略を検討している。
 まず大規模小売企業は,これまでの損失を返上するために,人員削減や赤字店舗の閉鎖を進め,経営再編のための経営戦略の実現に取り組んでいることを挙げている。また同時に総合商社と資本・業務提携関係を深めており,さらに企業集団の再編に取り組んでいることから,大規模小売企業は大規模な業界再編成をともなっているとしている。
 次に,流通業界再編成を進めるにあたって,効率性の追求を挙げている。そのためには不採算店舗を閉鎖し,新たに採算が見込まれる地域に新たに店舗を開設することが必要になり,店舗もスクラップ・アンド・ビルドが一層進められていくであろう,と述べている。
 三つ目に,今後,小売業の停滞傾向が続き,価格破壊が進行するなかで,大規模小売業各社は,かつての売上高至上主義から脱却し,利益重視主義にもとづく,低コストによる店舗経営の追求や,費用に対する効率経営の徹底化が必要であるとしている。
 四つ目に,販売,在庫管理などのすべての流通機能における情報技術の活用を挙げている。なかでも消費者のニーズに機敏かつ柔軟に対応するシステムの構築が重要であり,それにより顧客満足の実現が可能になるとしている。
 また,顧客のニーズに即した対応を迅速・柔軟に行うために,売り場での従業員の創意工夫や積極性を汲み上げる仕組みが必要になるとしている。つまり,現場を足で這いずり回るタイプの,MBW(Management By Walking)型の売場改革・業務改革・組織改革を進め,現場における情報交換・共有を行うことが重要であるとしている。
 さらに,大規模小売業各社が持続的な発展をしていくためには,新しい小売業態の開発・創造が必要であるとしている。ここでは,次世代を担う新しい小売業態として,情報技術活用型業態を挙げており,21世紀を見据えた長期的な視点から,情報を活用した「eリテイラー」や「eビジネス」,「電子商取引」といった情報技術の活用による業態の開発が活発化していると述べている。
 その上,大規模小売業各社は,情報技術の活用による,新しい商品開発・供給システムを構築によって,競争力の強化が図れるとしている。それにはSCMとCRM(カスタマー・リレーションシップ・マネージメント)があり,ここではその両者を結びつけたDCM(ディマンド・チェーン・マネージメント)について述べられている。DCMとは,「SCMとCRMを基礎に店舗や顧客に関する知識・情報を企業組織全体に還流させ活用する仕組みを作り上げること」(67ページ)としており,従来のチェーンストア・マネージメントの組織的硬直性やフレキシビリティの欠如などを克服するものであるとして,DCMが商品開発・供給システムにおいて革新性を生み出すとしている。
 最後に,日本小売企業が国際展開を進めるにおいて,グローバル・パートナーシップとグローバル・ソーシングを行う必要性について述べている。これからのグローバル競争時代を迎えるにあたって,取引慣行の差異などの問題は効率的な取引システムを構築する上で大きな障害となり,戦略的調達を行うためには,あらゆる産業分野において国際的な協調が必要になるとし,グローバルな観点からの効率性追求が重要であるとしている。

 結論は以下の通りである。日本小売企業は現在陥っている危機的状況から脱却するためには,業界や店舗の再編,効率経営,革新的な業態の開発,そして情報技術の活用などが求められるとしている。さらに今後,小売業のグローバル化が進むにつれ,系列や国境を越えた企業間の提携・強調が必要となると考えられている。

出典:宮内拓智(2001),「『グローバル競争時代』の大規模小売業の戦略展開」『経済』2001年8月号,53-71ページ。

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2005年07月20日

専門店の分化 (田村 2002)

要約
 業界やマスコミで専門店と呼ばれてきたのは,百貨店・スーパー・生協・コンビニという業態に属さない店舗あるいは企業とされている。最近10年間において流通業界全体が停滞している中,専門店は売上高を伸ばしてきている。しかし,企業と消費者の間で専門店の認識に違いが見られる。このことは、専門店と呼ばれるセクターにおいて,大きな分化が起きていることを示している。このような分化がどのような形で起こり,それに対して業態やフォーマットに関連するどんな用語がうまれるのか,専門店という言葉はどのように揺れ動いているのかについて分析がなされている。

専門店の意味
 まずここでは,従来よく利用されてきた業態やフォーマットの関連用語(量販店・チェーン店・専門店・総合店・セルフサービス・スーパー・大型店・老舗・高級店・デパート)との関連で消費者が専門店という言葉をどのように認識してきたかを確認している。
 首都圏に展開する主要流通企業40社を表すためにどのような業態・フォーマット用語を,消費者が使用されているかを調査している。これら40の企業について,先ほどの10種の業態用語が該当するかどうかをイエスかノーで答えてもらっている。
 その結果,専門店に比べると,デパートやスーパーという用語は特定の1カテゴリーにのみ使用されていることが明らかにされている。高島屋や三越などの百貨店は9割を超える消費者がデパートと認識し,ジャスコやイトーヨーカ堂も8割を超える消費者がスーパーとして認識していることが明らかになった。
 それに比べて,専門店という言葉はこのような性格を持っていない。調査から,特定企業を専門店と認識する比率が低いことが明らかにされている。このことは,専門店という世界が大きい変化の過程のなかにあるということが示されている。
 この調査から,専門店という店舗は業態・フォーマットの複数のカテゴリーに帰属していることを示し,単一の業態・フォーマットで識別できないことを明らかにしている。消費者の店舗識別において複数のカテゴリー間で意味の重複関係があることが示されている。
 業態・フォーマット概念は店舗を分類するための概念とされている。しかし,ここでのように業態・フォーマットが意味の重複性を含んでいるので,10種の業態を意味の類似性から,いくつかのクラスターに分類する。共通のクラスターに分類された業態は,共通の属性を持っており,消費者にとって共通の意味を含む程度が高いということが明らかにされている。
 そして,10種の業態が3つのクラスターに分類されている。1つめが,量販型専門店チェーン(量販店・チェーン店・専門店),2つめがGMS(総合店・セルフサービス・スーパー・大型店),最後が都心店(老舗・高級店・デパート)である。その中で,量販型専門店チェーン内部の異質性が際立っている。つまり,フォーマットとしての文化が大きい事を示している。その異質性,分化の大きさをより深く理解するために,ここでは,業態・フォーマット概念を超えて,店舗の属性が検討されている。

店舗属性の検討
 「店舗属性は,品揃え,価格,接客様式,サービス,店舗施設,立地など,顧客訴求力に関連する店舗の特徴」(8ページ)とされている。ここでは,40社の店舗属性について14種の特徴を用意し消費者からのデータを収集している。さらに,因子分析によって14種の店舗属性が4つの次元(郊外型立地・明確なコンセプト・広く深い品揃え・高度接客対応)に要約されている。
 因子分析の結果を用いて,専門店企業がどのようなクラスターに分類できるのかが調べられている。クラスター1は,高級ブランドショップである。その特徴は,明確な店舗コンセプト,高度接客対応に卓越していることである。クラスター2は,大衆ブランドショップである。クラスター1よりもグレードがひとつ低い。明確な店舗コンセプトを狙っているがあまり強くない。クラスター3はライフスタイルショップである。明確な店舗コンセプトを広く深い品揃えとを結合しているところである。クラスター4は郊外型廉売店である。郊外に立地し,廉売を特徴としている。クラスター5は,郊外型立地による廉売を目指すが,クラスター4に比べると,競争力が弱い。クラスター6は,都心型専門店ビルである。大都市のターミナルや駅周辺に立地する専門店ビル・デベロッパーから構成されている。しかし,店舗属性において卓越した特徴は持っていない。クラスター7は,都心型大型専門店である。少数の商品カテゴリーについて,深い品揃えを廉売で提供する特徴を持っている。
 以上の分析から,店舗の基本属性で明確な認識をもたれている専門店のフォーマットは,ブランドショップ(クラスター1,2),ライフスタイルショップ(クラスター3),郊外型廉売店(クラスター4,5),都市型大型専門店(クラスター6,7)の4種であることが明らかにされている。これらを専門店フォーマットとここではよんでいる。
 
店舗属性と店舗成果
 各専門店フォーマットを代表する企業は,過去10年間で百貨店やスーパーを越える売り上げ成長率を達成してきている。卓越企業の特質は,その専門店フォーマットの主要基盤属性について卓越していることが特徴である。
 さらに,4種の基本属性の保有・非保有の組み合わせからできる16セルを基に競争関係についても分析がなされている。同じフォーマットに属する企業でも副次的属性によって別々のセルに位置していることが明らかにされた。隣接したセルは競争関係におかれる。卓越した売り上げ成長もこのセルのどこに位置するかによって変化してくる。卓越企業は無競争のセルに属していることが明らかにされている。

出典:田村 正紀(2005),「専門店の分化」『流通科学研究所モノグラフ』No.075。

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2005年07月18日

Does Patriotism Have any Marketing - Exploratory Findings for the "Crafted with Pride in U.S.A." Campaign (Daser and Meric 1987)

要約
 この研究は,"Crafted With Pride in U.S.A."キャンペーンのような,愛国的な広告の使用に対する意識や態度を調査することを目的としている。「愛国的な訴えは,どれくらいの効果があるか」という疑問を解決し,このような研究を促進することが目標とされている。実証的な調査の結果と,保護貿易に対する態度について報告された全国規模の世論調査の結果との関連についての検討がなされている。その結果,消費者のCOOに対する意識が高まっていることが明らかにされている。

イントロダクション
 まず,アメリカにおける繊維産業の保護に対する状況が示されている。外国との競争によって打撃をうけたアメリカの産業にとって,保護貿易体制の形成が必要であるという世論が高まっているという。また"Crafted With Pride in U.S.A."キャンペーンは,繊維製品の原産国を消費者に意識させるために,アメリカの繊維・織物・アパレル連合や,アメリカ織物製造業者機構(ATMI)により1983年に開始された。さらに,ATMIは,人々が"Made in U.S.A."に注目するように立法府に援助するようはたらきかけたとされている。
 また,文献レビューの結果,これまで愛国的な広告の有効性が研究された実証的な研究はないとされ,さらに"Buy-American"は愛国心の象徴であるとするる研究はいくつか存在するが,マーケティングにおける有用性については言及されていないと述べられている。
 エスノセントリズムが高まっている状況と,この種の研究の不足から,この研究では"Crafted With Pride in U.S.A."キャンペーンのような,アメリカにおける愛国的な広告の使用に対する意識や態度を調査することが目的とされている。調査研究はノースカロライナの2地域で行われ,電話による調査が行われている。この調査研究の結果と,保護貿易に対する態度について報告された全国規模の世論調査の結果との関連についての検討がなされている。

結果
 およその消費者は保護貿易を支持し,特に失業が誘発されたなど,輸入によって打撃をうけた地域においては,保護貿易を強く支持する傾向があるという考えを,この調査研究は支持していると述べられている。82%がより厳しい制限を輸入品に課すことを支持している。これは1981年のDickersonによる研究での,55%を大きくうわまわっているという。ウォールストリートジャーナルやNBCニュースによる全国規模の世論調査ではその数字は51%であったことも示されている。
 また,消費者は"Buy-American"の問題について高い意識を持っているように思えると述べられている。大部分(88%)はそれについてテレビ広告やラジオ広告で知っているという。"Crafted With Pride in U.S.A."キャンペーンについては多少その比率が下がっている(73%)ことも示されているが,その両方に対して圧倒的に好意的な反応が報告されている。
 さらに,42%の人々は意識してアメリカ産を得ようとしているという報告もされている。衣服のラベルを見てそれがどこで作られているのかをチェックすると答えた人々の76%は,たいてい輸入品よりアメリカで作られたものを選ぶと答えたという。それにもかかわらず,衣服を購入するとき重視することを答えてもらったところ,身に合っているか(64%),価格(32%),スタイル(25%)に続き原産国は18%で4位にとどまっていることが指摘されている。
 そして,アメリカ製品の質が輸入品のそれよりも上回っていないと,すすんでアメリカ産を購入する気にはならないと答えたひとが多いことも紹介されている。

結論
 この調査研究を通して,びっくりするようなアメリカびいきの意見が得られたと述べられており,これは調査の地理的性格がある程度影響しているという。しかしながら,他の全国的な世論調査の結果もまた,保護貿易主義的な態度が広範囲に及んでいることを示していることを指摘している。また,消費者は質を重要視していることから,販売促進キャンペーンでは質の知覚問題への取り組みが必要とされるだろうと述べられている。実証的な調査を通して愛国心の強い広告の有効性を評価する絶好の機会であるとして,最後にこれからの研究への示唆と疑問があげられている。
 まず,調査の結果からもわかるように,人々の述べていることと実際の行動は矛盾しているので,愛国的な訴えの広告への行動に関する反応をとらえる実験や調査は非常に役に立つだろうとしている。また,愛国的な広告ではどのような語調がふさわしいのかの調査もも薦められている。最後に,"Crafted With Pride in U.S.A."キャンペーンは有効であるのかどうか,人々に原産がどこであるかを意識させ,最終的に自国の製品の購入に導くことができるのかどうかの調査も必要であると述べられている。

出典:Daser, Sayeste and Havva J. Meric (1987), "Does Patriotism Have any Marketing - Exploratory Findings for the 'Crafted with Pride in U.S.A.' Campaign." Advances in Consumer Research, Vol. 14, pp. 536-537.

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2005年07月16日

The development of foreign retailing in Taiwan: The impacts of Carrefour(Tsuchiya 2003)

要約
 この論文は台湾におけるカルフールの成功要因とカルフールが現地流通システムにもたらした影響について述べられている。ここでは台湾におけるカルフールの事例を通じて流通外資がどのように現地市場に参入し,現地流通システムにどのような影響を与えるのかという問題について考察することを目的としている。

1.カルフールの成功に寄与した要因
 カルフールにおけるオペレーションは成功と見なされており,その成功の要因について述べられている。まずは台湾の経済環境について,1980年代後半に台湾の経済が急成長を遂げたことや,シンガポールとは異なりしっかりとしたチェーンオペレーションを持つと同時に台湾のGNPが多くのアジア諸国と比較して高いことが述べられており,このことがカルフールが参入し成長するための十分な機会を与えたとしている。次に台湾におけるハイパーマーケットの低開発について述べられている。台湾における流通機構は1986年の外資に対する規制緩和以前は十分発達していなかったとしており,デパートだけが大規模小売業を構成していたと述べられている。また,スーパーマーケットチェーンは存在していたが,それらの多くは中小規模の店舗だったと述べられている。この状況のもと,カルフールが台湾市場に参入した時には現地における大規模な競合他社はなく,そしてハイパーマーケットは流通革命によりもたらされた新しく大規模な小売フォーマットとして受け入れられたとしている。次に現地ビジネスパートナーについて述べられている。カルフールが台湾に参入した際,政府の規制によりジョイントベンチャー方式を採用したと述べられている。パートナーは台湾で最大の食品会社であるUPEであり,UPEとその子会社との提携がカルフールにとって好都合だったとしている。カルフールはもしたくさんの所有する店舗を展開することができなければ,規模の経済と低価格での供給を通じて成功することができないと述べられており,そのため店舗数の急速な増加は競合企業のいない未発達市場における成功のための一つの重要な基準であるとしている。しかしながらこの急速な発展はたとえハイパーマーケットの発展のための費用がデパートの費用と比べて比較的安かったとしても,小売企業にとって財政上の重圧の原因となりかねないと述べられている。台湾におけるカルフールのケースは現地企業の堅固な資金力を背景に,その店舗網を急速に発展させていったことが示されているとしている。もう1つのメリットは現地パートナーの政治的つながりであり,UPEの政治的影響力によってカルフールは優良な土地を円滑に手に入れることができたとしている。そしてこのことが小売業国際化プロセスにおける慎重なビジネスパートナー選択の重要性を示唆すると述べられている。カルフールの成功要因として更に現地流通システムとの関係について述べられている。台湾においては外国貿易業者との取引を除いて,中間業者を除く一般的傾向があり,台湾製造業者と小売企業間での直接取引が好まれる傾向にあるとしている。このことが製造業者から直接購入するカルフールの発展を裏付けるように働いたと述べられている。

2.現地流通システムにおける影響
 カルフールは台湾において最も影響力のある流通業者となったとしており,この影響は小売業と製造業の間の関係の発展に影響を及ぼしたと述べられている。大規模小売業者による影響の一つに流通システムにおける主導権が製造業から小売業へと移行したことがあげられており,台湾における新たな流通システムは強力なバイイングパワーを強みとした小売業にコントロールされたチャネルに特徴付けられるとしている。ハイパーマーケットの展開によってカルフールが圧倒した情勢は総売上高と店舗数の増加に見ることができるとしており,その上大部分が小規模の製造業者である供給業者に対する取引上の姿勢が次第に侵略的になったとしている。供給業者はカルフールとの契約において様々な費用を要求されたと述べられており,サービス料金やリベート,祝祭における販売促進料金,陳列料金,折込み広告料金,テレビ・新聞広告料金など様々な費用を支払わされているとしている。カルフールの要求は年々厳しくなったとしており,供給業者はカルフールと取引をすることによって何も利益を見出せないという程度まで取引関係によってこれらの厳しい金融負担を受け入れさせられたと述べられている。しかし,カルフールが中小製造業者にとって魅力的な巨大マーケティングチャネルを供給していることは真実であるとしている。

3.カルフールと供給業者間の論争
 カルフールのふるまいは数年に渡って供給業者との摩擦を引き起こしたとしており,ニュージーランドの牛乳製造企業のように,様々な料金に対して要求する額が高額すぎるために利益が見出せないとしてカルフールとの取引を取りやめる企業もあったとしている。台湾の主要企業の数社も同様に商品を撤退させたが,国際的ブランドを持ち大規模流通に抵抗できる立場を維持できるP&Gや他のグローバル企業とは異なり,台湾の大部分の企業は弱すぎて大規模流通と交渉することができないと述べられている。カルフールは供給業者との取引において問題や論争を巻き起こしたとしており,公正取引委員会はこの状況を深刻に捉え,そしてサービス料金や祝祭における販売促進料金などの料金をより詳細に調査し始め,相当な要求や余分な徴収,供給業者の厳しい財政が強調され,カルフールは優位な市場地位を利用して円滑な取引を侵害しているという結論に達したと述べられている。この調査は独占禁止法が改正された後の「不公正費用」の初めの重要な統制であることが述べられている。

 結論は次の通りである。台湾における市場開放政策は小売業者がチャネルをコントロールする時代が来たことと同意であり,ハイパーマーケットの出現は明確に製造業者と小売業者間の関係性について元の流通システムの改革を引き起こしたとしている。そして,公正な取引を実行可能にするビジネス環境を確保するルールが必要とされているとし,台湾のケースは大規模外国小売企業を受け入れるための市場開放政策と競争政策の法の欠乏が不公正な競争の原因となり得ることについて提案している。


J.Dawson, Masao Mukoyama, Sang Chul Choi and Roy Larke “The development of foreign retailing in Taiwan: The impacts of Carrefour” The Internationalization of Retailing in Asia, Routledgecurzon Advances in Asia-pacific Business, pp35-48.

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2005年07月15日

商品開発体制に与えたコンビニ台頭のインパクト(小川2003)

要約
 本稿では,コンビニの台頭にともない起こったナショナル・ブランドメーカー(以下NBメーカーとする)における商品開発体制の変化を明らかにすることを目的にしている。ここでは加工食品メーカーとコンビニチェーンへのインタビューが取材データとして用いられている。NBメーカーがコンビニからの商品開発の要請に応えるメリットは2つあり,第一にコンビニ店頭の棚を新製品導入時に優先的に確保できる可能性が高まること,第二に,メーカーが気づいていない消費者ニーズを標的とする商品企画を行うことができる可能性があることがあげられている。一方,共同製品開発のリスクとしては他チェーンへの販売機会の消滅,発注打ち切りによる開発費用・在庫費用の未回収化,ブランド評価への負の影響などが考えられるが,試行錯誤の中でその対応策も誕生し,その対応策の中でもテストマーケティングの可能性が期待されている。結論として近年における商品開発枠組みの多次元化と,メーカー・小売間での機能補完性の明確化とそこでの機能間インターフェイス管理の高度化の進展という傾向を指摘している。

商品開発体制
 NBメーカーはこれまでできるだけ多様な経路で自社ブランドを大量に販売することを目指して商品開発を目指してきたのに対し,近年では,NBメーカーが特定コンビニチェーンと共同で商品開発を行い,そのチェーンの店舗網のみを通じて販売するという試みを行うまでに至っている。共同開発が行われるようになった背景には2つの理由があり,1つはコンビニチェーン店舗数の増加により単品アイテムについてはコンビニの販売量が,他業態をおさえ最大というメーカーが出始めたことや,2つめにコンビニチェーンが大量で精度の高い店頭情報を迅速に本部で集計・分析できるシステムを導入したことが理由としてあげられる。NBメーカーがコンビニからの要請に応えるメリットとしては2つがあり,第一に要請のあったコンビニ店頭の棚を商品開発時には優先的に確保できる可能性が高まることと,第二に,メーカーが気づいていない消費者ニーズを標的とする商品企画を行うことができる可能性があることの2点が指摘されている。NBメーカーとしては,共同開発には,他チェーンへの販売機会の喪失,発注打ち切りによる在庫費用・開発費用の未回収化,ブランド評価への負の影響といった3つの負のリスクが伴うので共同開発は避けたいところだが,NBメーカーは成熟市場の中で厳しい競争関係に直面しており,販路としてのコンビニの規模の増加が無視できない状況になってきていること,一部の加工食品の中にはコンビニでの売り上げが伸びず,コンビニ店内での売り場面積が縮小される傾向にあることから,コンビニでの店内売場占有率を上げるため,コンビニという業態に合った商品開発の必要性に迫られたことの2点があげられている。

特定チェーン向け共同商品開発の成功事例
 特定のコンビニチェーン向けの共同商品開発の最近の成功例としては,セブンイレブンと日清食品との間で共同開発された「名店仕込みシリーズ」がある。これは2000年4月に最初に導入されたカップめんで有名ラーメン店のメニューを再現したもので,発売1年半で約3000万食を販売するヒット商品となった。これは現在でもセブンイレブンのみで販売されている。この製品開発に当たりセブンイレブンは店舗内の雑誌の売れ行きにより,消費者のカップめんに対する関心がそれまでの特定の地域に根ざした味から,特定の店の味に移行するという仮説を立て,商品化を目指したが,名店の味をカップめんで再現するには相当の技術が必要であったとしている。そして開発力のあるメーカーである日清食品に開発を依頼したのだが,当初日清食品は共同開発は一切やらない企業として知られていたので,それを説得するために,POSデータから日清食品のカップヌードルが,特定地域の味を再現するご当地シリーズの影響で売上が落ちているという情報を提供し,共同商品開発に協力してくれれば,開発された商品に対して店頭販売に対して経営資源を優先的にさくことを約束し,双方にメリットのある形で共同製品の開発が進んだとしている。

テストマーケティング
 共同商品開発には,3つのリスクが伴うが,NBメーカーのリスク低減のための重要な方法としてテストマーケティングがあげられている。テストマーケティングには大きく分けて2種類あり,1つは商品販売の期間や量をあらかじめ制限した形で行われるものと,もう1つは,相手方チェーンの強みを活かす形での商品企画の2種類がある。前者の場合には販売期間や数量をあらかじめ制限することによって生産や原材料・包材の調達,売れ残りの在庫などに関して発生するロスを極小化することができることや,このテストマーケティングで成功した後は,NBメーカーはその結果から学び次の全販路向け製品の開発に生かすことが出来ることがメリットとなる。後者は開発する商品について,取り組み相手が競合チェーンより秀でている部分を出来るだけ活かす形で進められるということであり,例としてセブンイレブンとキリンビールの共同開発した「まろやか酵母」があげられている。この商品は,キリンビールの酵母の持つ独特の味わいを提供できる上面発酵製法と,セブンイレブンの工場から店舗まで低温で配送できるチルド配送という技術の相乗効果として生まれ,現在では販路を拡大しセブンイレブン以外でも売られている。

共同製品開発研究のインプリケーション
 商品開発枠組みの多次元化による変化として,業態別マーケティングの必要性が認識されるようになったことと,NBメーカーと各小売業との間の機能的補完関係が意識されるようになってきたことがあげられている。前者はもはや全販路向けの商品開発が困難になってきており,業態の差を意識した新しいカテゴリーの商品開発がNBメーカーに求められていると述べられている。後者ではメーカーの持つ技術力や消費者調査能力と小売持つ実需把握機能や店頭支援機能がお互い補完的に働くことによっての相乗効果が期待されており,そこでは各機能間のインターフェイスをうまく管理することがより重要になってくると述べられている。

出典:小川進(2003)「商品開発体制に与えたコンビニ台頭のインパクト」『国民経済雑誌』第188巻6号,39-51ページ。

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2005年07月13日

小売企業の総合型業態による海外戦略-ウォルマートの海外展開を通じて-(白石・鳥羽 2003)

要約
 この論文では,「食品と非食品を幅広く取り扱う総合型業態の小売企業」の国際化に焦点を当て,総合型業態で急激に国際化を展開しているウォルマートの海外戦略について検討している。そこではまずウォルマートの海外進出の背景や海外戦略の特徴を明らかにし,次に個別市場における国際的な展開に視点を転じ,ケース・スタディを行っている。最後に,これまでの検討を通じて,総合型業態による海外進出の課題について考察を試み,多様な市場へ海外展開する総合型業態の小売企業に一定の示唆を与えている。

ウォルマートの海外展開
 ここでは,ウォルマートの海外展開について,まず海外進出にいたる背景を確認し,次にウォルマートの海外戦略の特徴を明らかにする。
 ウォルマートの海外進出要因として,環境要因によるプッシュ要因とウォルマートの主体的なポジティブ要因を指摘している。まずプッシュ要因として,近年アメリカでは各自治体による大型店舗の規制がなされているため,大型店舗での出店が困難な状況に追い込まれていること,また国内市場においても上位企業による集中化が進んでいることから,海外進出の重要性が高まっていることを挙げている。ポジティブ要因には,自社構築の情報技術,大規模性など海外市場における強みを十分に備えていることを指摘している。
 ウォルマートの海外戦略について,ここでは海外立地選択,海外進出モード選択,業態の展開,海外流通戦略の4つの側面から分析している。まず海外立地選択について,既存研究では,「小売企業の海外進出の順路として,比較的に参入障壁が低い近隣の同質的市場への進出から開始され,海外経験が蓄積するにつれ市場領域が段階的に拡張していく」(90ページ)と考えられており,ウォルマートの海外進出も周辺の近隣諸国から開始された。この背景には,地理的・文化的近隣性に加え,北米自由協定という経済圏が存在しており,その後は買収や合弁などの市場機会を見出しながら分散的に進出し,市場の拡大を図ったとしている。次に,海外進出モードの決定について,その特徴として進出国の状況に応じて,合弁や買収,直接投資などあらゆるタイプを柔軟に採用していることを挙げている。しかし,ウォルマートは進出国においても母国市場で蓄えたノウハウを創造的に移転していくために,莫大な資本力を基盤とする買収による展開に力点を置いているとしている。さらに,買収先の選定として,自らが展開する業態とマッチした業態を展開している企業をターゲットとし,買収によって獲得できるメリットを最大限に活用することを意図している。次に,業態の展開に関して,進出モードの決定と同様に,進出国の市場環境に合わせて対応し,多様な業態を展開する「多業態戦略」を採用している。最後に海外流通戦略については,進出各国において独自の供給システムの構築,海外市場における直接取引関係の構築など「グローバル・ソーシング」を積極的に展開していることに特徴付けられる。また,こうした供給システムの構築は,情報通信技術の発達によるものとし,全世界のサプライヤーとの電子取引関係を可能にするシステムを展開し,詳細な販売関連データをサプライヤーと共有することで,効率化を図っているとしている。

海外展開のケース
 ここでは,ウォルマートの個別市場における展開として,ブラジルとイギリスをケースに取り上げ,海外展開を先述した立地選択,進出モード選択,業態の展開,流通戦略の4つの側面から検証している。そして,これまでの検討から総合型業態による海外進出の課題を挙げている。
 まずブラジル市場におけるケースについて。ブラジルでは,ウォルマートが参入する以前にカルフールをはじめとする外資系小売企業が既に参入していることや経済環境が不安定であることなどの立地選択において好ましくない条件が存在していたが,一方で,合併による進出を可能にする強力なパートナーの存在があったことが進出の決定的な要因としてとしている。ブラジルでの業態展開については,現地の消費者特性に合わせた形でなされたが,他の外資系小売企業が既に同業態で展開していたため,競争関係に直面し,多大な損失を被ったとしている。次に流通戦略では,ウォルマートはバイイング・パワーを訴求したメーカーとの直接取引など母国市場と同じ戦略を試みたが,ブラジルではメーカーの寡占化が進んでいたことから本来のバイイング・パワーが発揮できない,といった状況にあった,と述べられている。
次にイギリス市場におけるケースについて。イギリスのような小売市場が成熟した市場に進出することは困難である。しかし,「小売市場が高度に発達した市場に参入するには,既存の資源を有効に活用できる手法が理想的」(99ページ)であり,イギリスでは理想的な買収対象企業が存在したことから,ウォルマートは進出を決定したとしている。この買収の結果,食料品と非食料品の両方の強化につながり,総合型業態の展開を大きく進展させたとしている。また流通においても,買収を行ったことで,買収先の既存の供給業者に対して,バイイング・パワーを発揮した取引が可能になったとしている。
これまでの検討から,小売企業が各進出市場において成功するためには,自らの強みを実現すべく如何にカスタマイズされた小売システムを構築していくのか,という流通戦略の実行能力に掛かっている,と述べている。ウォルマートの強みの本質は,低価格販売,大量販売,大量仕入,低仕入コスト,間接費の削減という「バーチャス・サークル」という循環プロセスの実現にあることから,ウォルマートなど総合型業態による海外進出は,「如何にして現地市場でバーチュアス・サークルを実現するのかという問題が課題となる」(102ページ)としている。進出先国の小売環境は母国といくらか類似性を帯びている部分もあるが,多くの異質性を帯びていることは当然であり,そうした海外市場で独自の小売システムを構築できる能力こそが,総合型業態で海外展開する小売企業の成功条件となる,としている。

 結論は以下の通りである。総合型業態で海外展開を試みる小売企業は,進出先の環境に適応しながらも,母国市場で構築した強みを生かすべく,現地適応化する部分と標準化する部分を柔軟に組み合わせた独自の小売システムを構築することが課題となる。また今後の課題として,日本市場における外資系小売企業の展開を注目することで,如何にカスタマイズされた小売システムを構築していくのかという問題を明らかにすることを挙げている。

出典:白石善章・鳥羽達郎(2003),「小売企業の総合型業態による海外戦略-ウォルマートの海外展開を通じて-」『流通科学大学論集』第16巻第1号。

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2005年07月12日

Country Image : Halo or Summary Construct? (Min 1989)

要約
 この論文では,カントリーイメージの効果について研究がなされている。ここでは,2つの仮説が挙げられている。1つ目は,後光モデル仮説と呼ばれるもので,製品評価に対してカントリーイメージが後光効果を及ぼすというものである。2つ目は,構成概念モデル仮説と呼ばれるもので,カントリーイメージがひとつの構成概念としての役割を果たすというものである。
 検証の結果,消費者が当該国の製品をあまり知らない時,カントリーイメージは消費者が製品属性について評価を行う際に後光効果をもたらし,製品評価を通じて,消費者のブランドに対する態度に間接的に影響を与えることが明らかにされている。
 逆に,消費者が当該国の製品をよく知るようになると,カントリーイメージは製品属性に対する消費者の信念を要約した構成概念となる。そして,ブランドに対する態度に直接に影響を与えることが明らかにされている。 

仮説
 この論文では,カントリーイメージの効果について2つの仮説が挙げられ,検証がなされている。
 後光効果仮説によると,カントリーイメージは製品属性に対する消費者の信念に直接に影響を与えるとし,さらに消費者の信念を通じて間接的に消費者の製品評価・ブランドに影響を与えるとされている。
 構造関係は,カントリーイメージ→信念→ブランド属性となる。
 構成概念仮説によれば,消費者は製品情報を通じて,カントリーイメージを形成するとされている。そして,カントリーイメージは直接的にブランドに対する態度に影響を与えるとされている。
 構造関係は,信念→カントリーイメージ→ブランド属性となる。
 
検証と結果
 この論文での検証では,米国,日本,韓国におけるTVセットと小型自動車が取り上げられ,電話によるインタビュー調査が行なわれ,116人の回答者からの回答を基に検証がなされている。 
 この調査から,製品評価の際にカントリーイメージが重要であるということが明らかにされている。
 消費者が当該国製品についてあまり知らないとき,カントリーイメージは消費者が製品属性を評価する際の後光として作用し,消費者の信念を通じてブランドへの態度に対しても間接的に影響を与えることが明らかにされている。
 これに反して,消費者が当該国製品についてよく知っていれば,カントリーイメージは,製品属性についての信念を要約する構成概念となる。そして,ブランド属性に対して,直接に影響を与えるということが明らかにされている。
 これらのことから,カントリーイメージと製品属性,ブランド属性の間に構造的な相互関係があることがわかる。
 
インプリケーション
 今回の論文から,カントリーイメージと製品属性,ブランド属性の間に構造的な相互関係があることがわかる。このことは,メーカーや国際的マーケターに重要な示唆を与える。カントリーイメージが構成概念として作用するということは個別企業と当該企業の属する産業の間での利益の対立が起こることを意味している。個別企業は消費者に好意的なカントリーイメージを利用することで劣等な製品を販売でき利益をあげることができる。
 しかし,このやり方がまかり通れば,その国のイメージは下落し,産業内の他の企業にも影響を与える。なぜなら消費者は製品の情報を通じてカントリーイメージを形成しているからである。
 したがって,製品品質の水準管理は政府レベルと同じく産業レベルでも必要である。水準を満たしている輸出者には,税制優遇や補助金などで輸出を奨励し,逆に水準を満たしていない輸出者に対しては,輸出関税や輸出許可の停止などの罰則を課すことで,製品水準を維持していく必要である。

出典:Han, C. Min (1989), "Country Image : Halo or Summary Construct?" Journal of Marketing Research, Vol. 26, No. 2, pp. 222-229.

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2005年07月11日

ポプラの成熟市場型ビジネス・モデルの分析(佐藤 2002)

要約
 この論文では,市場成熟期における小売業のビジネス・モデルについての示唆を得ることを目的とし,コンビニエンスストアのポプラが取り上げられ,「消費者ニーズに合わせた規模の店舗を出店する」(1ページ)デマンド・チェーン・マネジメントと呼ばれる同社のビジネス・モデルが分析されている。はじめにポプラの沿革をたどり,ビジネス・モデル形成のプロセスに触れたのち,そのビジネス・モデルの特徴が示されている。さらに,M&Aを通じた地域拡大戦略,立地・出店戦略などについて検討がされた後,成熟市場型コンビニのビジネスモデルとしてポプラの特徴がまとめられている。最後に,考えられるポプラの今後の課題が示されている。

ポプラの沿革
 1976年,米国小売業の見学ツアーで知ったコンビニという新しい商売を導入し,父親が経営していた広島の酒屋を夜間営業の店に衣替えしたのがその始まりであると記されている。初めは近くのスーパーでよく売れているものを中心に品揃えしていたが,夜間営業の店に来るお客の要望は,スーパーのそれとは異なることを知り,ヒヤリングなどから得た情報をもとに品揃えを行った。その結果,売り上げが飛躍的に伸びたとされている。しかし,夜間に販売する商品の供給業者が見つからず,また温かいお弁当がほしいというお客の声に応えるために,弁当のポプラを設立し,その後「「製販一貫体制」を自社で構築,1992年には物流会社も設立した」(3ページ)と記されている。しばらくしたのち,セブン‐イレブンやローソンの進出があり,ナショナル・チェーンに対抗するか,フランチャイジーとして生き残るかの決断を迫られた。その際,あらゆるフランチャイズチェーンの契約書を取り寄せて検討し,それらの優れた点をミックスし,オリジナルの契約書を作り上げ,それをきっかけにフランチャイズチェーンの展開をはじめたという。

ポプラのビジネス・モデルの特徴
 まず,ポプラのビジネス・モデルの大きな特徴として,ロイヤルティの徴収方法が挙げられている。一般のCVSは各店舗の粗利の3~4割程度を本部に納める「「粗利分配方式」を採用しているのに対して,ポプラは売上高の3%を収める方式」(4ページ)を採用している。この徴収制度により,ポプラ加盟店の損益分岐点がかなり低くなり,その結果,売上高が少ない地域でも利益を出すことが可能になっているという。また,「ポプラが加盟店に対して柔軟な姿勢で臨む背景には,ポプラ本体がコンビニのフランチャイザーである前に,製造・卸売業としての意識が強いことも影響している」(6ページ)と述べられているように,ほとんどの日配品を独自で製造し,配送も自らで行っている。加盟店は商品全体の25%を本部から仕入れる以外はどこから仕入れてもよく,地域密着型の品揃えができるという。また,製販一貫体制は,消費者の声を直接製造に生かせるといった利点があり,また流通の中間コスト引き下げによる60円という安価なおにぎりの導入を可能にさせたと述べられている。

ポプラの地域拡大戦略と立地・出店戦略
 ポプラは,M&Aによる他地域への進出を多く行っている。具体的には,北九州への進出の際にはトップマートを,関東への進出の際にはパスコリテール,ハイ・リテイル・システム,さらにはジャイロを買収し拡大してきたことが示されている。M&Aを選ぶ理由として,すでに完成した人材が得られること,他社の運営ノウハウや商品政策がわかることなどがあげられている。また,売上高の3%徴収という制度がポプラへの移行をスムーズにさせたとも述べられている。
 コンビニがオーバーストア状態となっている現在,各社はオフィスビルの中層階や地下など,利用客が限定される「「特殊立地」への出店を余儀なくされて」(16ページ)いるが,ポプラの契約でなら負担は少なく,出店の決断はしやすいとされている。また,オフィスビルの中の店舗では,週休2日で営業時間も1日14時間程度であるという。このような店舗はハイ・リテイル・システムが展開していた生活彩家という店舗で展開されており,品揃えもサラリーマンやOLを対象としてポプラとの差別化をはかっている。このような立地向けに,M&Aにより得た「生活彩家」ブランドを活用しているという。

成熟市場型ビジネス・モデルの特徴とその課題
 ポプラのビジネスモデルの特徴は,「顧客価値実現のために加盟店に企業家精神の発揮を求めている点にある」(17ページ)とされている。「顧客満足を実現して,多く売れば売るほど加盟店主の利益は大きくなる」(18ページ)ことが加盟店主のやる気を促し,また品揃えの面などでの自由がそのやる気を削がせないという。また,ポプラの徴収するロイヤルティの低さが,ローカル・ニーズへの対応を立地の面でも可能にし,さらに,製販一貫体制によりローカル・ニーズへの対応がしやすく,またM&A戦略のような攻撃的な戦略も「成熟市場において十全に威力を発揮するビジネス・モデルであると評価できる」(20ページ)と述べられている。
 最後に,企業家精神が豊富な人材を募集し続けられるかどうか,大手のCVSチェーンと「ローカル・チェーン」としてどのように競争していくのかという2つの課題が挙げられている。そして,従来のビジネス・モデルとの関係を考えながらそれらをうまく調整していく必要性が指摘されている。

出典:佐藤 善信(2002),「ポプラの成熟市場型ビジネス・モデルの分析」『流通科学研究所モノグラフ』No.004。

投稿者 02eiko : 20:47 | コメント (0) | トラックバック

2005年07月09日

PB商品の購買行動に関する国際比較調査―アメリカとタイ(シャノン・マンダチターラ・矢作 2003)

要約
 この論文ではアメリカとタイにおけるPB商品の購買行動について実証分析が行われている。ここでは,国際的な見地から新たな検討を加えることを目的とし,多様な商品分野でPB商品の開発が行われているアメリカと,外資系小売企業を中心にPB商品の市場投入が進んでいるタイの2カ国でグロサリー分野のPB商品における購買行動を対象に,両国で類似したサンプルを抽出し,実証分析が行われている。これまでのPB研究がデモグラフィック(人口動態的)要因,心理的要因,行動科学要因という3つの分析視点から行われていることが明らかになったと述べられており,この3つのグループからなる研究仮説をまとめ,分析結果からこれらの仮説についての検討が行われている。

 実証分析から得られる考察は次の通りである。まず,学究的観点に基づき12の主要な分析次元を設定したとしており,アンケート調査はカンザス州ウィチタとバンコク首都圏の周辺都市であるバングダにおいてアメリカ人159名,タイ人204名のグロサリー買物客をサンプリングし,英語とタイ語で同一内容の質問表に基づき実地したと述べられている。データ分析にはロジスティック回帰と呼ばれる多変量統計解析が用いられている。PB商品の購買行動を特徴づける要因は3つの要因に分類されており,まず家族月収,大卒か否か,及び世帯人数といったデモグラフィック要因についてはPB商品買い物客がアメリカ人であるか否かについて説明もしくは予測するために適した変数とは言い難いとしている。次に心理的要因については分析結果を通じてアメリカ人がブランド間での品質的なばらつきについて知覚していないとしており,アメリカのPB商品を購買する消費者は利用するカテゴリーすべてのブランドを基本的に類似したものであると考えているということになるとしている。また,PB商品における低価格の重要性についてはタイ人とは対照的にアメリカ人にとって価格は,PB購入に関してあまり問題とされないことが言えるとしている。NB商品がPB商品より品質が高いと考えられているか否かという論点に関しては,アメリカ人はPBよりもNBの方が必ずしも高品質であるとは考えていないが,その一方でここでもタイ人についてはアメリカ人と対照的な結果が導き出されており,NB商品がPB商品よりも品質が優れていると考えている人が多く存在し,PB商品購入時における低価格の重要性が相対的に高くなるとしている。最後に行動的要因についてチェーンロイヤリティを持つかという論点に関しては,アメリカ人はあまりチェーン・ロイヤリティを重視せず,反対にタイではチェーン・ロイヤリティを持っていることが分かるとしている。タイ人がチェーンロイヤリティを持つ理由としてはタイにおけるチェーンストアの発展がごく最近であることと,交通手段の制約による店舗選択への制約があげられている。また,買物人数についてはタイ人はアメリカ人よりも多くの人数で買物をすることを好んでいることが分かるとしており,タイがアメリカと比較して集団主義的社会であることがその理由であるとしている。そして,この分析を通してアメリカ人がほとんどのブランドが同じような品質にあると感じ,そのことが知覚するPB商品の購入リスクを軽減させていることを確認できたことが収穫であると述べられている。


 結論は次の通りである。アメリカとタイにおける国際比較研究を通じてチェーン・ロイヤリティ,買物人数,NB・PB商品のブランド間における知覚品質などの様々な論点において両者の違いが明確にされている。今後の課題としては個人主義者や集団主義的な文化が影響するのか否かについて調査・検討することがあげられている。


出典:ランドール・シャノン,ルジルターナ・マンダチターラ,矢作敏行(2003)「PB商品の購買行動に関する国際比較調査―アメリカとタイ」『経営志林』第40巻1号,127―143ページ。

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2005年07月07日

小売マーケティング成果と買物行動(高橋 2004)

要約
 本稿では,品揃え形成,価格設定,プロモーションなどの小売マーケティング活動の成果と買物行動の関係について店舗レベルでの分析と考察が行われている。消費者行動が小売マーケティング成果に及ぼすフィードバックについての研究が十分に行われていないという問題点を指摘し,買物行動上の成果と店舗の経営成果の関連性や,両者を規定する小売マーケティング要因を解明することを研究課題としている。まず,成果指標を小売マーケティング目標との関係により類型化し,続いて消費者の買物行動と小売マーケティングの関係についての分析フレームワークを示し,ホームセンターの店舗及び買物客から得られた2年分のデータを用いて,①店舗レベルでの小売マーケティング成果指標の次元の抽出とそれらの次元間の関係,②抽出され成果と小売ミックス要素変数ないしは,店舗属性評価変数との関係,③年度の異なる2つのデータの分析による時間的安定性の吟味の3つについて実証分析が行われている。そして結びとして分析結果から仮説を導き出すとともに今後の研究課題を示している。

理論的検討
 まず,小売マーケティング成果を小売業が持つマーケティング目標に対する達成度として捉えることを前提として,何を目標としているかにより小売マーケティングを,最高級の品揃えを目標とした製品志向のマーケティング,顧客ニーズ対応を目標とした消費者志向マーケティング,ストアロイヤルティをベースにした顧客との長期的信頼関係の構築を目指すリレーションシップマーケティングに分類している。そして成果指標としては売上やマーケットシェア,それに利益などのように目標の達成度を業績として捉えたものと,顧客満足やストアロイヤルティのように消費者行動面から捉えたものを考える必要性があることを示している。業績面を成果として捉える指標としては,生産性があげられ,一方消費者行動面を捉える指標としては,買物満足やストアロイヤルティなどがあげられている。
 分析の枠組としては,店舗の業績面から捉えた成果指標と消費者行動面から捉えた成果指標はいかなる関係にあるのかということが,小売店と消費者の関係の中で概念的に捉えられており,それらの成果指標は小売マーケティング行動ないし消費者行動によそれぞれ規定されていると同時に互いに影響しあう関係であるということが述べられており,それが具体的に説明されている。

実証分析
 今回の分析に用いられたデータは2001年2002年にホームセンター企業(最大6社)の全店舗から得られたデータであり,これは①データが店舗と顧客という2つの情報源から同時に得られている,②データが複数の企業から得られている。しかも統計解析に耐えられるだけの店舗数でサンプルが構成されている,といった理由で入手困難なデータであると述べられている。
 まず,店舗および消費者から収集した様々な小売マーケティング指標について,それらの背後に存在する次元を因子分析により抽出し,その次元間の関連性についても明らかにされている。分析方法としては主因子法による因子分析が行われている。その結果,各年度につき業績面から捉えた因子からは1つの因子が,同じく消費者行動面からは2つの因子が抽出されたとされている。消費者行動面から抽出された因子は,態度的ロイヤルティと行動的ロイヤルティであると想定されており,次に業績面から捉えた因子と,消費者行動から捉えた2つの因子の相関が分析されており,その結果として態度的ロイヤルティ→行動的ロイヤルティ→業績面から捉えた成果という因果的連鎖の存在が暗示される結果となったと述べらている。
 次に抽出された小売マーケティング成果因子が小売ミックス要素といかなる関係にあるかが段階的に回帰分析されており2つの年次で共通の結果が出るかということが注目されている。業績面から捉えた成果因子,態度的ロイヤルティ因子,行動的ロイヤルティ因子の3つの従属変数と1,小売ミックス要素を構成する13の独立変数を用いた分析により,3つの因子のうち業績面から捉えた成果因子のみ2つの年度で共通して有意となり,売場面積当りの従業員数が豊富で,広告への依存度が低く,最低価格保障といった機動的な価格対応をしない店の方がマーケティング成果が高く,2年間については安定的であるという結果が得られた。逆に態度的ロイヤルティ因子を小売ミックスで説明することはかなり困難があるという結果も得られた。
 そして最後に,小売マーケティング成果因子を小売ミックスに対する消費者評価によりどこまで説明できるかについて検討されており,従属変数には同じく3つの因子を,独立変数には消費者による店舗属性評価変数が用いられ分析されている。結果としては,小売ミックスと全く逆の結果が得られ,態度的ロイヤルティ因子の説得力が高く,説得力が低かったのが業績面でから捉えた成果因子を従属変数としたものであった。しかし,従属変数別に見ると,2つの年度で有意になったのは,態度的ロイヤルティでは店舗の雰囲気だけであったとしている。一方,行動的ロイヤルティ因子に関しては,2つの年度で,来店所要時間,価格の安さ,雰囲気について有意差が見られたため,行動面からみたホームセンターに対するストアロイヤルティの規定要因は,立地,価格,店舗の3つであるという結果も得られた。

分析結果と課題
 本研究を「入手及び公表が困難なデータを用いて行った極めて探索的なもの」(243ページ)とした上で,実証分析の結果から5つの体系仮説を示すことで,後の研究に一定の示唆を与える学術的貢献をすることを結びとしている。そして今後の課題として今回のデータが,ホームセンターという業種にしぼった分析であり,他の業態での分析の必要性や,時系列に分析するには2年というデータでは不十分という点,加えて買物行動が店舗の業績に結びつくまでの過程について小売業務プロセスから解明する必要がある点の3つを指摘している。

出典:高橋郁夫(2004)「小売マーケティン成果と買物行動」『三田商学研究』第47巻3号,229-245ページ。

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2005年07月06日

わが国グローバル小売企業の国際化戦略の展開-イオンをケースとして-(山本 2002)

要約
 近年の小売業界は,ハイパーマーケットやディスカウント・ストアなど新しい小売業態の出現や,欧米を中心とする小売企業の海外進出によるグローバルな競争の状態にある。そして,この急激な小売企業の国際化に伴って,それに対する研究も多く見られるようになったが,小売企業の参入後の実証研究は,未だ十分進んでいない状態である。本稿では,小売企業の国際化に関する実証研究が小売企業の国際化研究を考える上で重要であると考え,小売企業の国際化の実態を分析し,新たな研究の課題を発見しようと試みている。ここでは,まず既存研究を整理し,その問題点を明らかにする。次にイオンの国際展開の実態を分析し,今後の研究へのインプリケーションを得ることを目的としている。

既存研究の整理
 小売企業の戦略に関する既存研究は,参入戦略と参入以降の戦略に分けられる。まず参入戦略については,100%子会社,合弁,フランチャイズなどの参入方式戦略に関わる研究が見られる。一方,参入以降の研究については,「規範的研究の蓄積は見られるものの,実証研究はきわめて少ないという傾向がある」(30ページ)。規範的研究では,例として,ペレグリニによる小売業態面での多角化と地理的多角化の二つの軸をもとにした,小売企業の成長戦略モデル構築が挙げられる。しかし,外部環境の変化に影響されやすい小売業において実際にとられる戦略は,当初に意図された計画的戦略ではなく,外部環境に適応しようと試行錯誤を重ねた戦略であることから,小売企業が参入した地域においてどのような国際化戦略をとったのか,という課題を明らかにすることこそが重要であるとしている。

イオンの国際展開
 ここでは,小売業の参入後の戦略について明らかにするため,イオンの海外における小売戦略を国別に分析し,考察を行っている。
 イオンは1985年から継続的に海外進出を行っており,他の日系小売企業の海外からの撤退が相次ぐ中で,一線を画している。そのイオンの海外進出の特徴として,現地でのニーズ・情報を収集し,それに適応した戦略をとっている。例えば,タイでは,参入当初から大規模なGMSとSMの二種類の業態をとっていたが,マクロなど小売外資の郊外での大型店舗の出店競争が始まり,郊外において競争が激しくなったため,タイではまだ育っていなかったSM業態や,マックス・バリュー(SSM)をバンコク中心部で展開することで,競争を避けて市街地に小規模店舗を展開するという戦略へと転換した。香港では,景気が悪く,デフレ状況であったことから,100円ショップ「ダイソー」を展開する大創産業と提携し,「10ドルプラザ」という新業態を展開するなど,各国の小売環境の変化に応じて,新しい業態を開発するなど動きが見られる。また,現地消費者が経験したことのない商品やサービスを積極的に導入することで,新しいニーズを生み出そうとする動きも見られるなど,当初意図した戦略ではなく,現地市場に参入した後に海外子会社や店舗レベルでの「創発的な行動」(35ページ)がとられており,そのような行動を可能にする子会社戦略が有効に機能している,と分析している。また,外資の日本進出への対策のために,有力外資との競争が激しいアジアへ進出することを薦めるなど,海外出店に対して積極的な態度を見せている。これらのイオンの国際展開から得られる,研究へのインプリケーションとして,まず小売企業の国際戦略を把握するためには,各国での撤退や進出といった動向だけでなく,海外子会社の動向を考慮することが必要であることが挙げられる。そして,小売企業研究の失敗の捉え方に関して,イオンは海外進出で生じる店舗の閉鎖などを失敗と捉えず,試行錯誤を重ね,企業全体がその経験から学習することにより,長期的にはプラスになると考えていることから,これまでの店舗閉鎖や撤退を失敗とする短期的な捉え方ではなく,長期的な見解から戦略を捉えるべきである,としている。

結論は以下の通りである。イオンの国際化戦略を分析すると,海外子会社や各店舗による創発的な行動が,業態面や商品政策面において海外市場への適応を生んでいる,としている。 そして,この研究から抽出できる研究へのインプリケーションとして,まず,海外子会社の動向を追跡しなければ,国際戦略を把握できないこと,次に,失敗に対する捉え方は,長期的な国際化戦略を捉えることが重要であることを挙げている。最後に,当研究が日系小売企業のイオンの国際展開にのみ焦点を当てたことから,今後国際戦略を考察するにあたって,欧米系,現地系の小売企業との競争の視点を取り入れる必要がある,としている。

出典:山本崇雄(2002),「わが国グローバル小売企業の国際戦略の展開-イオンをケースとして-」『世界経済評論』,第46巻10号,29-39ページ。

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Gauging Foreign Product Promotion (Anderson and William 1972)

要約
 この論文では,消費者の外国製品に対する選好に人口統計学上の客観的要因やパーソナリティが影響を与えているのかについての分析がなされている。分析の結果,外国製品の選好に対して消費者のパーソナリティが関連していることが明らかにされている。保守的な人であるほど,独断的態度をとる人ほど,外国製品への選好が低いという結論を下している。

分析
 1970年5月に国内生産車および海外生産車の購入者がそれぞれ58人ずつが回答者として選ばれている。
 まず,彼らの外国製品に対する選好度合いを測るために「外国製品は質の悪い部品で作られている」や「外国製品はいかなる点においても優れている」といった質問をし「とてもそう思う」から「全然思わない」までの意見によって回答してもらっている。この調査から,消費者を海外製品に対する選好度合いによって3つのグループに分類している。
 次に,回答者を人口統計学上の項目(家長の職業・年収・家長の教育水準・回答者の社会的地位・結婚期間・家長の年齢)と個人的な性質(地位に対する執着心・保守性・大取引に対する態度・独断的態度)を図る項目について解答してもらっている。そして,それらの項目と外国製品に対する選好に
についての関連を分析している。
 
結論
 客観的尺度を分析したところ,家長の教育水準以外は,外国製品選好にたいして影響を与えていないことがわかった。このことから人口統計学上の客観的要因は外国製品の選好と関連がないことが明らかにされいる。
 しかし,消費者のパーソナリティは外国製品の選好に影響を与えていることが明らかにされている。比較的低い地位にあり,保守的な傾向が低く,独断的な考えをあまり持っておらず,さらには,大学教育を受けたという比較的教育水準の高い人が外国製品に対しての強い選好を示しているという結果が示されている。
 この結果は,外国製品に対する評価というのは,個人が変化・相違に対してどれほど寛大であり,寛容性を持っているかによって下されるという常識的な考えと一致する。
 逆に,外国製品に対しての選好が低い人は,比較的高い地位にあり,保守性が強く,独断性が高い人であり,満足な大学教育を受けていないという特徴が示されている。
 保守性の高い人程外国製品に対して低い選好を示すという分析結果は,保守主義者はいかなる変化・相違についても懐疑的な態度をとるという常識的な考えと一致している。
 国内生産車の所有者に比べて,外国生産車の所有者は比較的社会的地位が低く,より寛大な性格を有しており,教育水準が高いという性質を備えている。

インプリケーション
 外国製品に影響を与える個人的性質につていて明らかになったことにより,効率的な市場計画やマーケティング戦略がたてられるようになる。さらに,プロモーション戦略を評価する際の判断基準となるだろうとしている。

出典:Anderson, W. T. and William H. Cunningham (1972), "Gauging Foreign Product Promotion," Journal of Advertising Research, Vol. 12, No. 1, pp. 29-34.

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2005年07月04日

Consumers' Perceptions of Imports (Dornoff, Tankersley and White 1974)

要約
 ここではまず,アメリカの貿易赤字とドルの価値低下は,アメリカ経済における海外製品の影響によるものであり,また,1962年から72年の10年間の輸入品のすさまじい成長が,この影響の大きさを証明していると述べられている。この海外製品の発展を理解するために,アメリカ経済の変化の原因に対する何らかの洞察が必要であると述べられている。そこで,この論文では,アンケートによって海外製品へのアメリカ消費者の知覚が調査されている。さらに,それらのデータに社会経済的分析が与えられている。

調査の概要
 これまでの研究は,特定の国からの海外製品の固定観念化や,固定観念にとらわれた消費者のイメージを変える方法といったことに焦点があてられてきたが,消費者の知覚については無視されてきたとして,消費者の知覚を調査することにしている。国については,マイナーな国ばかりが取り上げられてきたが,ここではアメリカ経済に影響を与えるような国からの製品について,消費者知覚を調査している。特に,輸入品への消費者知覚はどのようなものか,それらは国の間で違いがみられるのか,製品クラス間ではどうなのか,社会経済的指標に基づく分類で違いはみられるのかといったことが,主に調査すべき事柄とされている。
 この論文では,シンシナティ大都市エリアの電話帳から無作為に抽出された対象へ,質問表が送付され,そこから得られたものがデータとして用いられている。また,海外製品に関するReiersonの研究で以前に使用された質問表を,因子分析により要約したものが利用されている。国については,アメリカの主要な輸出国の代表としてドイツ,フランス,日本が選ばれている。

結果
 輸入品全体の消費者知覚と特定の国からの輸入品の消費者知覚は,全回答の算術平均から得られている。これらをグラフにし,さまざまな考察が与えられている。
 調査では輸入品は,アメリカ製品より優れているとは認識されていなかったことが示されている。また,特定の国々については次のような結果が明らかにされている。フランスはほめられることも,非難されることもなく,全体的にはっきりしていない。それに対して日本は大きく評価が分かれているが,トータルでみて優れていると認識されており,回答者は日本製品をアメリカ製品のよい代理品とみなしていることが示されている。
 さらに,機械製品,食品,衣料品,電機製品の4つの製品クラスにわけてみてみると,日本は電機製品においてアメリカよりも上位に位置し,またドイツは機械製品において優位である。Reiersonの7年前の研究では,全ての製品カテゴリーにおいてアメリカが一位,日本が最下位となっていた。このような結果は,未だにアメリカは全体を通して常にトップを維持しようとしており,他の国々は主要な領域に特化しているために得られたのではないかと述べられている。

社会経済的分析
 ここではさらに,市場細分化の基盤を提供するために,データに社会経済的分析が与えられている。回答者の性別,年齢,教育水準によってデータがわけられ,マン・ホワイトニーU検定による分析がなされている。分析の結果,いくつかの知覚の違いが見られた。男女間では輸入品の知覚に有意差は見られなかったが,年齢と教育水準には有意差があったことが明らかにされている。高い年齢層では輸入品全体にネガティブな知覚を持っており,特に日本製については強いネガティブな反応が見られている。逆に若年層は輸入品に好意的であることも示されている。また,教育水準については,大卒者など高学歴の者ほど輸入品に好意的であることが明らかにされている。学歴と所得の正の相関があり,所得は輸入品購買機会とも関係があるのではないかという考察もなされている。また,高学歴者は最新の情報に精通しているために,現在の海外製品の質についてそれなりの知識があるということも原因の1つと考えられている。

結論
 調査から,海外製品に対する知覚は過去2,3年の間に変化したことが明らかになった。また,社会経済的な分類間でいくつかの差も見られた。これは,市場細分化や販売戦略の立案に役立つと述べられている。
 海外製品がアメリカ経済に影響を及ぼし続けると,このような情報の重要性は増し,また,海外貿易市場でアメリカの競争優位が維持され続けるならば,今回のような調査はますます重要になると述べられている。
 
出典:Dornoff, Ronald J. , Clint B. Tankersley, and Gregory P. White(1974),"Consumers' Perceptions of Imports,"Akron Business and Economic Review,Vol.5, No.2, pp.26-29.
 

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2005年07月02日

日本からアメリカへ:店舗発注システムの国際移転(小川 1999)

要約
 この論文はセブン-イレブン・ジャパンからセブン-イレブン・ハワイ(以下SEH)への仮説検証型店舗発注システムについて述べられている。仮設検証型店舗発注システムとは小売企業側に発注の主導権があり,発注権限が店舗の発注担当者にあり,発注商品やその数量の決定にPOSを代表とするデジタル化された商品情報が活用されるという特徴を有するものであるとしている。これまでにセブン-イレブン・ジャパンは世界でも類を見ない店舗発注システムの開発に成功しており,現在このシステムをライセンス元であるセブン-イレブン・インク社に移転しようとしている。ここではアメリカのセブン-イレブン・インク社での取り組みに先立ち実地されているSEHにおける試みと現時点における成果について述べられており,セブン-イレブン・ジャパンが開発してきた店舗発注システムの海外移転可能性について考える上で一定の示唆を与えるとしている。 

 ケース・スタディーの結果,次のことが述べられている。SEHは1989年にセブン-イレブン・ジャパンがセブン-イレブン・インク社の所有するハワイ店舗を買収することにより設立されたものであり,1店あたりの収益,売上高は毎年改善しているが,全体として利益は出ていない状況であるとしている。また,立地パターンに関しては,セブン-イレブン・ジャパンと同様のドミナント出店を行っておらず,多店舗出店のメリットを十分享受するまでには至っていないと述べられている。店舗発注システムに関わるハードウェアとソフトウェアはセブン-イレブン・ジャパンから導入されたものであったが,システムとしては第3次と第4次の間のレベルのものであり,セブン-イレブン・ジャパンのシステムと比較すると低いレベルにあるとしている。SEHの店舗発注についてはジェネラル・マネージャーである稲垣がバイヤーに単品管理の効用を納得させるということから変革が行われたとしている。ここで店員ではなくバイヤーを説得しようと試みたのは,店頭で発注するアイテムの絞り込みやモデル・ゴンドラ台帳の作成を行うのがバイヤーであるという理由によるものであったとしている。当時のバイヤーの論理はメーカーやベンダーと同様店頭に並べるアイテム数を増やせば増やすほど,売上げを伸ばすことができるというものであったとしており,これに対し稲垣はアイテム数を増やして回転のよくない商品を置くことによって店頭の商品の品揃えは変化せず,店員は商品の動きに対し鈍感になり,どの商品が売れるかといった判断力を失うとし,売れない商品を売れる商品に入れ替えることにより商品もより多く売れ,在庫も減らすことができるとして説得を試みたとしている。説得に応じようとしないバイヤーに対し,稲垣は実際に店舗において売上が伸びることを実証することにより,バイヤーを説得することに成功したと述べられている。また,ポテトチップス・メーカー,フリート・レイとの取引について事例として取り上げられており,SEHが従来型のベンダーによる発注からSEHによる発注に移行し,それによりSEHの店舗の売上が増加したと述べられている。ある棚をすべてメーカーに任せることによりその棚のフェース管理ができなくなり,売り場を自社で管理できないことにより顧客が買いやすい陳列をすることができず,さらに,死に筋を排除できないことから結果として変化のある売り場作りができなくなるとしており,また店員にとっても自分達で商品を管理しなければ,在庫を減らす努力をしなくなり,商品のフェース・アップも怠りがちになり,また,売れる商品に対しての関心がなくなり,結果市場の変化に鈍感になるとしている。これを店舗で発注した商品を100%買い取る代わりに発注した商品については必ず各店舗に納入させることにし,このことから,それまでベンダーが発注,納品を行っていたために従来は配送ルート上,最初の方に位置する店舗に売れ筋商品が傾斜的に納品されることが多かったことにより,最後に位置する店舗に売れ筋の商品が納入されないということなどから引き起こされていた店舗への過少納品の問題が解決され,販売に関する機会ロスの減少により,結果として売上の増加にもつながったとしている。それと同時にベンダー・メーカーが持つ幅広い商品を店頭に並べることにより売上を伸ばすことができるという論理から逃れることができ,売れ筋や新商品に発注を絞ることが可能になったとしている。そしてそのことで販売個数は増加し,在庫数を減らすこともできたとしている。

 結論は次の通りである。仮説検証型店舗システムの導入はSEHが実施した数々の改善努力と合わさることにより成果を生み出されたとしており,パートタイマーの質の問題から日本でしか稼動しないと考えられていた仮説検証型発注システムも,いくつかの改善努力とともに導入することによってその効力を発揮する可能性があるとしている。

 論点は次の通りである。SEHでの取り組みについて売上高は改善されているものの,全体の間接費を吸収できるまでには至っておらず,全体として利益が出ていないという状況で評価を下すことは時期尚早と言えるのではないだろうか。

出典:小川進(1999)「日本からアメリカへ」『研究年報XLV』1―18ページ。

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2005年06月30日

英国プライベート・ブランドの発展過程(下)(矢作2000)

要約
 本稿では,第2次世界大戦後の英国におけるプライベートブランドの発展の過程についてAGDのスーパーパネル調査をデータとして用いて分析がなされている。まず,PB発展過程を1950年から1970年代のPB開発模索期と,1980年代以降のPB開発拡充期に分け,前者では国内における時代背景とPBシェアの関連性,低価格ジェネリックPBの登場などが分析されており,後者では英国主要スーパーマーケット(テスコ,セインズベリー,アズダ,セーフウェー,サマーフィールド,クイック・セーブ,ウエストローズ,生協)におけるPB比率の推移,商品別のPB比率の動向などが研究されている。次に1980年代以降の傾向としてジェネリックから通常の低価格PB,そしてNBの模倣を経て付加価値型PBへと発展するPBの戦略転換と流通の上位集中により,PBが重要視されてきたことが取り上げられ,最後に英国のスーパーマーケットの高いPB比率と品質重視のPBプログラムを支える小売企業の技術・商品開発に対する投資について検討されており,それを支えるテクノロジストの存在等が紹介されている。

第2次世界大戦後のPBの発展
 ここでは,第2次大戦後のPBの発展過程を1960年から1970年代の模索期と,1980年以降の拡充期に分けて分析し,最後に近年におけるPB商品戦略の転換について述べられている。
 1950年代におけるセルフサービス方式の導入,スーパーマーケットによる業態革新の進展,1960年代における再販売価格維持制度の廃止,1960年から1970年代にかけてのグロサリー・ストアからスーパーマーケットへの転換という時代背景により,スーパーマーケットの市場における地位が高まり,それにともない,PB商の市場浸透も進んでいったとされている。1960年から1970年代にかけての英国スーパーマーケット市場におけるPB比率は,長期的には上昇したが,1977年から1979年にはNBの値下げ等による価格競争が激化し,PBシェアは一時的に低下する現象が見られた。この価格競争の激化により,PB開発の方向性が変わり,ムダなものをできるだけ省き基本的な機能だけを追求したジェネリックPBが誕生したが,1980年代半ばにはジェネリック商品は極端な低価格のため,①仕入れ条件がよほどよくないと利益確保が難しい,②低い品質が店舗イメージまで低下させるおそれがある,③低価格ブランドは景気の影響を受けやすいという理由により失墜した。
 PB拡張期においては,1980年代から1990年代にかけて英国主要スーパーのPB比率は軒並み上昇するが,40%代半ばで頭打ちする傾向にあり,それに対してPB開発部門担当は「多くのPBを持つとカテゴリーの売上高を最適化できない」(25ページ)とし,近年ではPBとNBのブランドミックスの最適化を模索する傾向にあるとしている。続いて商品別の動向が検討されており,一般的には,品質の差別化が困難で大量生産,大量販売が可能なコモディティ商品分野においてPB比率か高いことが確認されており,さらにコモディティ商品は製品ライフサイクルの成熟期にあり画期的な新製品が登場しにくい,製造技術が伝播している,遊休生産設備が存在するという傾向があるとされている。例外として,製品ライフサイクルが成熟期にあるコモディティ商品でも,製品技術開発の激しい分野ではNBが強い傾向にあり,一方製品ライフサイクルの成長期にあり,新製品の投入が活発な分野であっても,惣菜などの調理済み食品は品質管理が難しいという点からサプライチェーンを持つ小売側がPB開発が優位な場合もあるとされている。
 最後に1980年代以降のPB商品戦略の転換としてジェネリックから通常の低価格PB,そしてNB模倣型をへて,付加価値型PBへというLaaksonenのPB発展段階論を取り上げ,スーパーストア化,流通の上位集中化の中での利益確保の手段,非価格競争要素としてのPBの重要性の2つが指摘されている。

製品開発力
 ここでは,高いPB比率をを生み出す製品開発を可能にする要因として,活発な新製品の投入と,テクノロジストの存在があげられている。英国スーパーマーケットの高いPB比率と品質重視のPBプログラムを支えているのが,技術,商品開発に対する積極的な投資であり,それがPB比率の低い米国や日本との大きな違いであると述べられている。英国スーパー上位3位(セインズベリー,テスコ,セーフウェー)のPB品目数と新製品開発投入数を見ると,年間総品目数の約10%を越すPB新製品が投入されており,これは相当な勢いでPB製品が見直され,改良されていることを示している。上位チェーンの場合は,新製品開発の基準が厳しく設定されており,同時に消費者パネルによるPB食品の試食,試飲が行われており,そこでもし他社より品質が劣るとの結果が出れば,すぐにその商品が見直され改良される。こういったシステムが確立していることが積極的な新製品の投入を可能にしていると述べられている。
 次にテクノロジストだが,活発な新製品開発を可能にする要因として,テクノロジスト(専門技術者)の存在は見逃せないとされている。1970年から1985年におけるテクノロジストのスタッフ数の増加と,PB比率には一定の関連性がみられ,特に,1970年代以降はPB商品の品質管理が重要視される傾向にあり,専門的な技術と能力をもつテクノロジストが自社ブランド品のサンプルの検査を担っていた。さらに,小売・サプライヤー関係でのテクノロジストの役割は,製品開発のアイデアや仕様書の作成を供給メーカーに依存しているグループと,自社で製品開発,製法技能研究を備えたグループの2種類があると指摘さており,ほとんどの小売業は前者に含まれるとしている。

結論は以下の通りである。英国スーパーマーケットの強力なPBプログラムはテクノロジストの果たす行動から説明可能であるとし,「小売側が商品開発や品質,衛生管理基準について独自の知識と判断をもつことで,小売・サプライヤー関係を自社の望む方向に展開,効率的に管理できる」(32ページ)とし,それには小売が技術開発のリスク,費用を負担する体制が必要であると述べられている。

論点は,PB商品導入時の消費者パネル調査において,食品の調査のことしか触れられておらず,主要なPB商品である実用衣料に対する調査の方法や必要性が検討されていないと考えられる。

出典:矢作敏行(2000),「英国プライベート・ブランドの発展過程(下)」『経営志林』第36巻4号,21~32ページ。

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2005年06月29日

プライベート・ブランドの発展と動因(堂野崎 2003)

要約
 近年,小売企業が市場において生き残っていくための手段として,PB開発が重要であるとされている。しかし,わが国のPB開発は欧州諸国と比べて大きく遅れており,市場に占めるPB比率が低いのが現状である。そこで,この論文では,PB比率が高まる要因とは何かという疑問において,多くの研究者によって指摘されてきた小売市場の上位集中化がPB比率の向上に寄与するという議論と,PB製品の品質と価格訴求力の向上がPB比率の向上に寄与するという議論を取り上げ,それらの議論に妥当性を見出すことを目的としている。

理論的仮説
 欧州の諸国の市場におけるPB製品の売上高に占める市場占有率は,国によっては例外も存在するものの,平均15.3%であり,日本の1.4%と比較すると相対的に高水準にある。中でも,イギリスは小売市場におけるPB比率がとくに高い水準にあり,29.7%を占めている。またフランス,ドイツらの先進国も平均を上回る市場占有率を示している。このような現状から,どのような要因がその国におけるPB比率を左右するのか,という疑問が生じ,それに対して過去に様々な分析がなされてきた。その分析の中でもこの論文は,小売市場の集中度の高まると,小売市場でのバイイングパワーが高まるため,生産段階・流通段階への介入と統制が可能となり,PB商品の開発・販売が促進され,PB比率が高まるという議論と,PB製品の品質と価格訴求力の向上がPB比率を高めていくという議論が,非常に説得力があると思慮し,その二つの議論の妥当性を検討している。

実証分析
 Ⅰ.小売市場の上位集中化とPB比率との相関関係
 まず,小売市場の集中化が進んでいる欧州先進諸国,とりわけイギリス,ドイツ,フランスにおける小売市場と,小売市場の集中化が進んでいない日本の小売市場の現状を概観し,各国の上位5社の市場占有率を示し,「上位集中化とPB比率との相関関係を検討」(165ページ)する。欧州の3国の小売集中化に共通して述べられることは,M&Aによる大規模小売組織への集中化である。イギリス,ドイツ,フランスでは企業間のM&Aが活発に行われており,大手5社の市場占有率を見ると,57.6%,61.3%,61.5%といずれも高い数値であった。その他にも,イギリス小売企業は,ポイント・カード戦略など顧客の信頼度を高めてきたことで小売組織の大規模化を進め,ドイツやフランスの小売企業は,事業の多角化が小売組織の大規模化に結びついた,としている。これに対して,日本の小売市場は,上位流通業の革新性が乏しいことなどの理由から,小売市場の集中化が進んでいないとしている。これらの小売市場の上位集中化の状況と前述したPB製品の売上高に占める市場占有率を照らし合わせ,「小売市場の集中化が進んだ国ではPB比率が高い」(169ページ)ことから,両者に相関性が見られるとしている。

 Ⅱ.PB製品の品質,価格訴求力の向上とPB比率との相関関係
 欧州では一般的なPBは高価格・高品質のプレミアムPBへと発展する一方で,ある一定の品質と価格での優位性を追及したエクスクルーシブ・ブランドの存在もあり,2種類のPBが小売市場において分極化が進んでいるとしている。ここではドイツの1980年代の食品小売市場の変化からその現状を説明しており,高価格帯の製品と低価格帯の製品の割合が増加する一方で,中価格帯の製品の割合は減少し,価値訴求型のPBと価格訴求型のPBの存在が明確になったとしている。そして,価値訴求型のPBはNBと遜色ない品質の高まりから,PB製品の購買へとつながり,また価格訴求型PBはNBより低価格であるという魅力から消費者の購買を促すとし,PBの品質と価格訴求力の双方の向上がPBの比率を高める,と述べている。

 結論は以下の通りである。PB比率を高める要因として,過去の研究から小売市場の上位集中化と,PB製品の品質と価格訴求力の向上がPB比率を高めるとし,それらは実証の結果,妥当性があるとしている。しかし,これら2つの要因からPB比率が高まると結論付けるには短絡的であるとし,他の要因についても検討を試みることを今後の課題としている。

 論点は以下の通りである。小売市場の集中度の程度とPB製品の売上高に占める市場占有率を照らし合わせることだけで,小売集中度が進んだ国ではPB比率が高い,とは言えず,小売企業に継続的に新しいPBを開発する能力があるか,また市場にPB進出の余地があるか、などを考慮する必要があると思う。

出典:堂野崎衛(2003),「プライベート・ブランドの発展と動因」『中央大学大学院論究経済学・商学篇』第35巻1号,157―173ページ。

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2005年06月28日

原産国,生産国,ブランドのイメージに関する調査(藤沢 2002)

要約
 多国籍製造企業が海外生産を実施する際,消費者が抱く生産国イメージは重要な役割を果たす。「日本の消費者は中国の現地生産車といえどトヨタ・ブランドゆえに日本製と大差ない購入姿勢をみせるであろうか,それともメイド・イン・チャイナに抵抗感を顕にするであろうか。さらに,ホンダ,日産など他のメーカー品にはどういった購入態度が期待されようか」(549ページ)ということについて分析がなされている。ブランド・イメージが生産国イメージの悪さを払拭するのか,それとも生産国イメージによりマイナスの影響を受けやすいのか,ブランド比較を通じての実証がなされている。

実証分析
 この論文における実証分析の目的は,「製品のブランドイメージに対して原産国と生産国が異なる場合の影響度を図る」(552ページ)ことである。あるいは逆に,「ブランド・ロイヤリティが強い製品が果たして原産国と生産国のイメージのギャップを克服することが出来るのか」(552ページ)ということについても分析が行われている。
 まず,乗用車,パソコン,ステレオの3つの製品カテゴリーを抽出。抽出された3製品のそれぞれにブランド力の強いメーカーと弱いメーカー(強いのにトヨタ・ソニー・NEC,弱いのにマツダ・アイワ・シャープ)の2社を挙げている。そして,3種類の製品のメーカー(2社)の造る製品を日本生産,進出拠点先で自社生産(タイ,マレーシア,中国),OEM委託生産に分けたうえで,それぞれの購入希望価格を答えてもらう。例えば,トヨタの2000CCクラス乗用車の国内生産車の日本国内生産車を購入するときの希望価格を100とした場合,その他(進出拠点先で自社生産とOEM委託生産)の購入希望価格を答えてもらっている。そして,生産拠点間,ブランド間において比較がなされている。

実証分析の結果
 原産国と生産国のイメージの一致度が強く要求されるのは,高関与型製品(消費者が製品の購買意思決定するまでに要する情報処理プロセスの長さによって決定される。ここでは自動車・パソコン・ステレオの順に関与が高いとされている)の中でもローブランド品においてである。高関与型の中で,ハイブランドは強いブランド・ロイヤリティのおかげで,アジア生産品でも希望購入価格指数が相対的に高く,両国イメージが一致しなくてもそれを相殺できる。
 海外での自社内生産がもっとも強く要求されるのは,高関与型製品の中でブランド・ロイヤリティが高い製品においてである。低関与型製品であっても,ブランド・ロイヤリティが高い製品ではアジアにおいて自社生産が望ましい。 

結論
 原産国イメージと生産国イメージのギャップを解消するには,同製品カテゴリーでもブランド・ロイヤリティの大きい製品を持つ企業のほうが有利であることが示されている。また,消費者の関与度が高い製品分野でブランド・ロイヤリティが弱い企業において,原産国イメージと生産国イメージの一致度が最も強く要求されることが明らかにされている。さらに,海外自社生産への転換と拡大にはブランド・ロイヤルティが強い企業ほどにスムーズに事を運べないという指摘がなされている。
 この論文で明らかにされている原産国イメージ,生産国イメージ,ブランド・ロイヤリティの関係を考慮することで,他国籍企業の市場参入行動原理につながると結ばれている。

論点
 日本生産とその他(進出拠点先での自社生産とOEM委託生産)の購入希望価格を答えてもらっているが,海外自社生産とOEM委託生産の違いについてそれほど回答者や消費者が認識されているとは思えない。また,それについての有意差についても明記されていない。さらに,ブランド力による比較がなされているがそれらのブランドを選択した理由が示されていない。

出典:藤沢武史(2002),「原産国,生産国,ブランドのイメージに関する調査」『商学論究』第50巻第1・2号,549-563ページ。 

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2005年06月27日

原産国イメージと生産国イメージとブランドイメージの関係(藤沢 2000)

要約
 グローバルな製品政策に関する研究領域において,原産国イメージと生産国イメージが互いに独立なものとして扱われていないことを受け,その二つの関係性を解明すること,また製品のブランドイメージへの影響を明らかにすることが,この論文の目的とされている。その目的達成のために「原産国イメージと生産国イメージが製品カテゴリーによってどういった違いがあるか」(36ページ)について実証的研究がなされている。まず,研究のフレームワークが示され,それに基づき2つの仮説が立てられている。次に,その仮説の検証ためにおこなわれたアンケートの結果,結果に対する考察が示され,最後にインプリケーションと課題が述べられている。

フレームワークと仮説
 まず,原産国は「ある特定製品ブランドの発祥国」(36ページ)と定義されている。基本的に原産国イメージは国ごとのイメージから形成されるが,それは特に発展途上国製品の場合,製品カテゴリーに区別なく,国の発展段階をベースとし原産国イメージに影響を与えるという。他方先進国製品の場合は,自動車はドイツと日本,ワインならフランスやスペインといったように「製品カテゴリー間での原産国イメージの格差が大きい」(36ページ)と述べられている。そこで,工業技術力とマーケティング力の2つで構成される国別イメージが,原産国イメージと生産国イメージを独立に形成し,その二つがブランドイメージに影響を与える,というような研究のフレームワークが提示されている。さらに,ここでは2つの仮説が立てられている。高関与型製品ほど原産国イメージと生産国イメージの格差が小さい,またブランドロイヤルティの高い製品ほど原産国イメージと製造国イメージの格差が小さいという仮説である。高関与型製品というのは,ある製品の購買意思決定までに,製品に関する情報処理に時間を多く要する製品である。

調査の結果と仮説検証
 仮説の検証のためにアンケート調査が行われている。アンケートでの国別イメージの対象国は日本,日本との貿易でかかわりの深い国々の13カ国,対象製品カテゴリーは乗用車,コンピュータ,音響機器の3つである。国別イメージである工業技術力とマーケティング力それぞれについて,高く評価できると判断した国順に順位をつけてもらい,また3製品についても原産国イメージ,生産国イメージにわけ同じ様に順位をつけるように求めている。その他個人属性として,3製品それぞれに購買意思決定するまでの時間の長さの順,特定ブランドへのこだわり度等の質問が用意されている。これらのデータをもとに,工業技術力とマーケティング力の相関,これら2つの国別イメージと製品カテゴリー別原産国イメージおよび生産国イメージの相関,原産国イメージと生産国イメージの相関が実証的に分析されている。
 分析の結果,工業技術力とマーケティング力の相関は非常に高かったことが示されている。また,原産国イメージと生産国イメージの適合度の最も高いものは乗用車であり,逆に低いものは音響機器であること,コンピュータは,原産国イメージと国別イメージ,生産国イメージと国別イメージともに相関が弱いことなどが示されている。コンピュータについてのこのような結果は,コンピュータはグローバルな標準化製品であること,買い替えサイクルが短く,買い替えの際にブランドスイッチングが起きやすいこと,ブランド・ロイヤルティが音響機器に比べて低いことなどに起因するとしている。また,購買意思決定するまでの時間の長さを関与度と定義し,関与度の高い製品は順に乗用車,コンピュータ,音響機器となっていることがアンケートから示されている。これらの結果から,関与度の高い製品ほど原産国イメージと生産国イメージの格差が小さいという仮説1は支持されるとされている。また,仮説2に関しては今回の調査からは明らかにされなかったと述べられている。

インプリケーションおよび今後の課題
 ブランド・ロイヤルティに関する仮説2は今回の調査からは検証されなかったが,「ブランド・ロイヤルティは同じ製品カテゴリー間で比較検討した方が望ましい」(43ページ)とし,いくつかその方法が示されている。その方法に基づいた,ブランドイメージと原産国イメージと生産国イメージの関係についての検討は次の機会としている。また,ブランド・イメージと生産国イメージの関係を明らかにすることも次の課題とされている。

論点
 工業技術力とマーケティング力が国別イメージを構成すると考え,その二つの相関を分析しているが,そのように考えた理由が明確にされていない。また,工業技術力とマーケティング力自体が何かという説明もなく,アンケート項目に盛り込み,それをデータとして使用しているのことにも問題があると思う。

出典:藤沢武史(2000),「原産国イメージと生産国イメージとブランドイメージの関係」『商学論究』第48巻第2号,35-44ページ。

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2005年06月25日

英国プライベート・ブランドの発展過程(上)(矢作 1999)

要約
 この論文は英国における第2次大戦前のPB開発の初期的状況について述べられている。ここでは英国や他の欧州諸国におけるPB開発の起源とも言える生協と,それに台頭した小売企業としてマークス&スペンサー(以下M&S)の事例について取り上げられており,生協はまじりっけがなく,量目が確かで,適切な利潤の商品の確保を目指したとしており,一方で一定限度額の高品質の商品を提供することにより差別化を試みたM&Sは,生産過程の上流にまでさかのぼることにより,独自の価値ある商品開発を行ったことが述べられている。両者のPB開発における目的と動機には微妙に差異が認められるが,品質や価格面で十分に商品供給体制が整備されていない状況において大量販売力を背景に良質で廉価な商品を,流通業者自らが開発し販売する責任と権限を担ったという点においては同一であると述べられている。

1.生活共同組合
 英国や他の欧州諸国においてPBが初めて広く導入されることとなったのは,1844年英国のロッジデールで最初の店舗を開設した生活共同運動においてであると述べられている。食料品の供給不足がひどいことによる様々な疑惑と結びつき,生協のPBは消費者の強い支持を得ることに成功したと述べられており,早くも19世紀末に流通企業として初めて大量販売力を背景に加工製品の製造を開始し,海外を含めた産地やメーカーから大量仕入れを行ったとしている。1980年代以降,生協の卸部門は良質な生活必需品を適切な価格で提供するという社会的使命の実現に向け,調達した商品に固有の名称を付けて販売し,これが「Co-op」ブランドの起源になっていると述べられている。しかしながら生協を脅かす存在としてマルチプルズや一般消費財メーカーが台頭したとしており,卸部門と小売部門が組織的に分離,独立している上に小売部門が各地域の生協に分かれている生協は各地域生協の管理が不十分であり,中央本部の一括仕入れの規模の経済が働きにくい組織・管理体制であったという問題点が述べられている。

2.M&S
 両大戦期間マルチプルズが急成長し,その中からM&SのようにPB開発に秀でた小売企業が出現したと述べられている。M&SにおけるPBは不況と輸入品の急増に悩んだコラー社がM&Sの大量注文に関心を持つようになり,ひそかにM&Sに向けた女性用ストッキングを供給し始め,その後これが「セント・マイケル」と名づけられたことにより始まったとしている。M&Sが発注した商品をすべて買い取るということを条件に前もって生産設備の一定の割合を確保することにより,メーカーは営業や広告費の削減や,安定操業と原材料や人手の計画的な確保が可能になったとしている。さらにM&Sはコラー社との直接取引によって1ダースあたりのストッキングを1シリング浮かせることに成功し,その1シリングの1部を製品の品質改善のための共同作業に当てたと述べられている。費用の削減は製品価値の向上というかたちで顧客に還元され,結果として従来に比べ販売が急激に増大し,利潤においても小売企業,メーカー双方で大幅に改善されたと述べられている。また,1930年代にM&Sは繊維メーカーのブリティッシュ・セラニーズ社に対し婦人下着の新素材開発を依頼し,「V-30」というレーヨンが「セント・マイケル」の生産を行う縫製工場にもたらされたとしており,その後も高品質の様々な素材が開発され,原材料にまでさかのぼる商品開発の先駆的な事例となったと述べられている。また,M&Sの供給業者に対する支援は奥深く,商品の品質の決定や向上させる仕様や製法だけに留まらず,さらにその先の工程である原材料の選定,費用引き下げにまで及ぶとしている。メーカーと接触し,消費者が必要とする商品を適切な価格において販売するためにPB開発を行ったという点ではM&SのPB開発の動機は生協と同様,商品の供給確保であると考えられるが,M&Sの欲していたのは消費者にとって「価値のある」商品であったとしている。小売業の競争が激化していた両大戦期において,競合店が扱うことができない魅力のあるPB商品を提供することが競争差別化の有効な手段であると認識されていたと述べられている。以上のように1930年代M&SがPB開発に急傾斜したのは供給される商品の制約条件を克服するという目的によるものであるとしており,販売・流通・生産の各段階を統合する力になったのは技術指導の重要性を認識していた経営者の理念であり,主体的選択の結果であったと述べられている。

 結論は次の通りである。現代におけるPBはNBと比較して劣等財的なイメージが強いが,生産と流通が未発達な状況においてPB開発は,とくにM&Sの場合において品質信頼性を確保するという競争手段としての側面を合わせ持っていたと考えられるとしている。

論点は次の通りである。M&Sについては肯定的な見解のみが述べられているが,戦前M&Sにおいて負の要素はなかったのだろうか。

出典:矢作敏行(1999),「英国のプライベート・ブランドの発展過程」『経営志林』第36巻3号,33―43ページ。

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2005年06月23日

日本におけるディスカウントストア業界の現状と課題(白石・安1997)

要約
 本稿では,1990年代の日本経済界において「価格破壊」のと呼ばれる低価格競争の中心となるディスカウントストアに焦点を当て,ディスカウントストアを低価格訴求型のブームで終わる小売業態としてではなく,一つの革新的な小売業態として議論を展開している。ここではまず第一に,ディスカウントストアの本質を解明するためにディスカウントストアの特徴となる機能,役割等を考察している。そして第二に,ディスカウントストア業界の現状を把握するためその成長過程,成長の推移,そしてその事象を取りまとめるいくつかの特徴的な動向を分析,検討し最後に現在のディスカウントストアの重要視している政策を検討することにより,今後のディスカウントストアの成功要因とその課題を提示することを目標としている。

ディスカウントストア展開の意義と営業形態の特徴
 ディスカウントストアの最も基本的な機能を「同一市場内で同一商品,あるいは同等の機能を持つ商品を低価格で提供すること」(114ページ)とし,ディスカウント展開の意義を,従来のメーカーの流通支配による商品価格の下方硬直性に対して消費者が不満を示したことと,そのニーズを充足するための小売業の努力と捉え,その努力には従来の非合理的な取引慣行の変化を促したこと,ローコストオペレーション技術と小売業の商品開発能力の向上により,商品の低価格化を促したことなどがあげられている。
 続いて,ディスカウントストアの業態の特徴として,一時的な低価格販売や,一部の人気商品の安売りではなく,消費者の生活価値を実現させるために必要な総合的な商品をディスカウントし持続的に提供することをあげ,それを持続するのに必要なのは低コスト経営であると述べられている。そしてその低コスト経営を実現するのが地価の安い,交通の便利な郊外への店舗立地や,建築費,販売管理費,人件費の削減などであるとしている。

日本のディスカウントストアの成長と現状
 ここでは,ディスカウントストアの成長の歴史を大きく3つに分けて分析している。まず第一期には,1950年代後半の,セルフサービスやチェーンオペレーションでのスーパーマーケットの廉価販売を挙げており,これは大店法や,メーカーの商品出荷停止により発展を阻まれたとしている。第二期は1970年代前半のオイルショック以降のヨドバシカメラ,メガネドラッグなどのニューディスカウンターの登場があげられ,ニューディスカウンターは当時,廉価の理念を打ち出し低価格販売を実現させたが,メーカーの正規のチャネルからの仕入れが出来ないことによる品質の低下が問題となり,消費者の支持を得ることが出来なかったとしている。第三期は1990年以降をさし,メーカーの過剰生産が,ディスカウントストアを正規の販売チャネルとして認める結果となり,ディスカウントストアの価格決定権が強化されたことに加え,大店法の規制緩和や独禁法の適用が強化されたこと,さらに消費者が商品の妥当性を考慮し低価格志向を強く持ち始めたことなどが特徴として述べられている。さらに日経新聞社の「ディスカウントストア調査」の結果によると,ディスカウントストアは近年高い売上高成長をしているという事実が導かれたことに対して,その成長を取り巻く動向について4つが挙げられている。それは第一に,流通小売業のもつ情報力を背景としたメーカーとの協力関係の進展,第二に,第一の要因とは間逆に低価格販売に反対するメーカーとの対立関係の激化という二重構造があげられている。第三には,大店法の撤廃による営業時間の変更,休日日数の減少や多業態との共同出店などの出店計画の変化があげられており,最後にディスカウントストア業者間の競争の激化により,今後は廉価販売だけの企業は市場から姿を消すという意見が述べらており,製品差別化等の対策の必要性が示唆されている。

現在の日本のディスカウントストアの主要政策とその課題
 ディスカウントストアの最も重要な営業政策は消費者に対して常に魅力的な低価格の商品を提供することであり,この政策を実行するためには仕入れ値引き下げ政策,PB商品開発政策,ローコストオペレーション政策の3つが重要であるとし議論が展開されている。
 まず仕入れ値引き下げ政策だが日本の流通取引慣行は,歴史的に,長期継続的な取引関係によっての相互関係と信頼による人間関係を重視するという保守的な特徴をもっており,この慣行に基づく建値制,リベート制,特約店制などがメーカー主体の下方硬直的な価格政策の原因であると指摘し,正規チャネルを介したメーカーとの直接取引き,計画発注による仕入れ値引き下げ等により,企業側主体ではなく,消費者の利益を考慮に入れた流通取引風土の定着が仕入れ値引き政策によるディスカウントストアの成長を促すとしている。
 次にPB商品政策だが,PB商品開発の目的は小売他店舗との差別化であり,それにより強力な競争力を得ようとするものである。PB商品開発のメリットとしては,小売価格を自由に決定できること,店舗で得た顧客情報を反映し,商品や機能デザインなどをコントロールできること,さらにはPB商品の独自のPRが可能でありそれが店舗イメージのアップにもつながるとしている。そして今後のPB商品が定着するかどうかは,環境変化に適応できるPB商品を開発できるかであるとし,消費者のニーズに適応可能なPB開発には高品質,低価格,高い粗利率の3つの条件が必須であるとし,この課題をクリアするためにはメーカーとディスカウントストアの両方のイノベーションが必要であると述べられている。
 最後にローコストオペレーション政策が分析されている。ディスカウントストアにおいては破壊的な低価格販売の実現のため,仕入れ価格の低減と合わせて販売管理費の削減が必要不可欠とされている。ローコストオペレーションを実現する方法には,パートタイム労働者の採用の増加による人件費の削減や,店舗設備や什器のコスト削減があるが,このコスト削減にはサービスの質を落とさないという前提があり,コスト削減の追及によるサービス効率の低下は購買意欲の低下につながるために注意が必要としている。さらに業務効率を向上させてコストを低減させる方法として,POSデータやEOSに代表される情報システムの活用による物流費や販売管理費の削減が今後重要視されてくるとしている。

結論は以下の通りである。ディスカウントストアは「既存の流通業界の生産性向上に対する努力不足とメーカー主導の下方硬直的な価格政策によって引き起こされた消費者の価格に対する不満を解消させながら,適正利潤を確保するために営業形態面において独自な方法を採用している」(131ページ)とし,今後のディスカウントストア業界の展望は,流通規制緩和などを基盤とした新しい小売技術を開発としたディスカウントストアの新規参入が活発となり,ディスカウントストア業者同士の競争の激化が予想されると述べられている。

論点は,PB商品開発を進めることがディスカウントストアの重要な政策と位置づけているにも関わらず,低価格,高品質,高い粗利益率を達成する為の要因については具体的な見解が示されていないと思われる。

出典:白石善章・安譜換(1997),「日本におけるディスカウントストア業界の現状と課題」『流通科学大学論集』,113-133ページ。

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2005年06月22日

プライベート・ブランド開発の現代的意義-ブランド・アイデンティティ確立の必要性-(伊部 2002)

要約
 今日の小売企業は,消費市場の行き詰まりを打破すべく,様々な形で競合他社との差別化を図ろうとしている。そして,ここでは小売企業のブランドであるPB開発の差別化を挙げている。PBの開発において,他者との差別化を生むためにはどのようなことが必要なのか,と問題提起し,まず過去のPB開発の特徴を米日の研究に基づいて概観し,そして,PB間で差別化を果たすための課題について検討している。

PB開発の特徴
 ここでは,これまでのPB開発の特徴を,小売業者自身の行動に関する事柄と小売業を取りまく環境に関する事柄に分けて述べ,今後のPB開発の差別化を果たす上で必要となる要素について検討する。
 これまでのPB開発の特徴として,小売業自身の行動に関する事柄には,まずNBとの価格優位性を意識したPB開発をしてきたことがある。また,小売業のPB開発は中小製造業者との共同開発による,品質より価格を優先したPBが多く,中小製造業が多数存在するカテゴリーほど,PBシェアは高いことが挙げられる。次に,日米の研究から商品カテゴリーに関して,コモディティ商品においては,PBシェアは高いが,高付加価値商品,嗜好品などにおいてはシェアは低いことが挙げられている。これは,小売業者は製品開発や製造に関するノウハウを持ち合わせていないため,高い製造技術を必要とする高付加価値商品の開発は困難であるからである。
 小売環境に関する事柄には,まずNB製造業者の行動とPBシェアにどのような影響を与えているのかについて述べており,製造業者の数,NB製品の多様化の度合,プロモーション活動の頻度とPBシェアの関係において,負の相関性が見られることが実証されている。次に消費者属性については,PB商品の高頻度の購買者は,低価格志向の程度が強く,また所得の低い消費者層が多いため,できるだけ安く購買したいという意識が働くため,こだわりのPBを購入するというより,安く買いたいという消費者心理が働くため,ブランド・ロイヤルティが低いという特徴が見られる。しかし,そのような消費者層は景気循環の影響を受けやすく,不況時には購入頻度が高く,好況時には低いという傾向がある。そのため,価格訴求型のPBは,長期的に安定した成長は望めないとしている。
 このように,これまでのPB開発の特徴は,「価格の優位性を誇示しながら,コモディティ商品中心に展開し」(30ページ),またPBを購入する消費者は,価格志向が強く,中流階層やそれ以下の消費者が中心であったといえる。そして,今後のPB開発において差別化を行うためには,これまでのPB開発の特徴から如何に脱却できるかが問題であるとしている。つまり,これからのPB開発では,PB商品の変化(具体的には,価格から品質重視のPB開発,コモディティ商品から高付加価値商品のPB開発)や,PB消費者の変化,つまり安定した消費者層の獲得が課題となる。

PB開発の差別化
 ここでは前述したPB開発の差別化を行うにあたって,必要となる概念について考え,それを「PBのブランド・コンセプトの明確化によるブランド・アイデンティティの確立」(31ページ)としている。ブランドには必ず,ブランドを特徴付けるアイディアや意図を明確にしたブランド・コンセプトが存在し,それを如何に消費者・従業員などに伝えるか,というブランド・アイデンティティの確立がPB開発の差別化において必要である,としている。例えば「ユニクロ」は,『カジュアル・ウェアをファースト・フード感覚で買える店』(32ページ)などのPBのブランド・コンセプトを,「ユニクロ」というブランドに凝縮することによって,ブランド・アイデンティティを確立している。このことから,ブランド・コンセプトの明確化による,ブランド・アイデンティティの確立が差別化を図るPB開発の現代的意義である,と述べている。
  
 結論は以下の通りである。今後のPB開発の差別化において,品質重視,高付加価値商品,大規模製造業者との開発,景気に左右されない消費者の獲得などが課題となる。そして,その課題の克服には,如何にブランド・コンセプトの明確にし,ブランド・アイデンティティを確立するか,を考える必要がある。

出典:伊部泰弘(2002),「プライベート・ブランド開発の現代的意義-ブランド・アイデンティティ確立の必要性-」『経営学論集』vol.42 No.2,18-32ページ。

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2005年06月21日

小売国際化のプロセスについて(矢作 2002)

要約
 1980年代の小売国際化の研究は,だれが,いつ,どこで,どのように,なぜ国際化するのかという「事実の観察」にとどまっていた。そこでは,初期の参入動向や参入動機・参入モード研究への概念化が不足していた。
 こうした課題を克服するために,先行の文献をレビューし,研究の対象を明確にし,代表的なモデルを検討することで,小売国際化の概念モデルの構築を目指している。

研究対象の確認
 小売国際化の理論化を進めるためにあたり,まず初めに,小売国際化の対象を確認している。小売国際化とは小売業の諸活動が国境を越えて,異なる国際市場に組み込まれていく過程を意味している。したがって,分析の視点は市場と組織と分けられる。

代表的なモデル
 ここでは,市場と組織の2つの分析次元における代表的な概念モデルが紹介されている。市場モデルの代表例としてAlexanderとMyersのしめした市場モデルが挙げられている。彼らは「母国市場で小売業が獲得した競争優位性をテコにして1次市場から3次市場へと国際化が進む概念図」(30ページ)を明らかにした。このモデルでは,小売国際化が繰り返される過程の中で,組織学習が行われるとされている。小売企業は異質な市場環境の中で学習を行い,新たな経営資源を獲得する。こうした学習効果は他の市場にフィードバックされ,次の国際化戦略に大きな影響を与える。市場モデルはそうした国際化プロセスを抽象化している。市場モデルは段階論的アプローチを採用しているが,現実にかなりの頻度で観察される不規則な参入を説明できないという課題が残っている。
 組織行動モデルの代表例としてVidaとFairhurstのモデルが紹介されている。ここでえは,国際化を「前提」「プロセス」「結果」の3つの過程に分けている。国際化を左右する「前提」条件として「経営者特性」と「企業特性」が挙げられている。つまり,内部要因の影響により,類似の環境におかれた企業間にも国際化に対する取り組みに違いがでると説明している。その結果,「プロセス」の促進,阻害要因として企業の内部的特性と外部環境要因が1つのセットと捉えられ,促進要因が阻害要因を上回れば,企業は国際化戦略をとることになる。企業の内部要因を中心にしたアプローチは,能動的な国際化と受動的な国際化を識別する分析に有用である。「結果」における意思決定として,市場選択,参入モードの決定の2つがあげられている。最後に,国際化が繰り返される中で,獲得された成果と学習効果が次なる国際化の「前提」条件に直接影響し,国際化の促進,阻害要因の変化を引き起こすとしている。

小売国際化の概念モデルの構築
 以上のように小売国際化の対象領域を確認し,小売国際化の市場モデルや組織モデルの代表例が挙げられている。そして,これまでの研究の検討から,組織行動モデルの改訂版として「小売国際化の組織行動モデルⅡ」が提案されている。以下は,このモデルの特徴である。実証研究によれば,国際化の初期段階にある企業は,進出先市場との人的関係や現地の出店依頼により進出を決定し,体系的な市場参入戦略を立てない傾向にある。それに対し,国際化の経験を積んだ企業は市場の選択についてしっかりした戦略を立てる傾向があるとさている。したがって,このモデルではVidaとFairhurstに従い,市場参入は「漸進的,あるいはランダム」な行動であるというアプローチを採用している。
 次に,「組織行動モデル」における3つの段階は採用していない。国際化の拡大,現状維持,縮小,撤退という意思決定は「プロセス」でもあるが,同時に「結果」でもある。だから,それらを進出先市場における一連の戦略立案・実行との結果であると位置づけた。「組織行動モデル」における「前提」は母国市場の状況と企業内部要因とし,「プロセス」と「結果」のところは進出先市場における行動として2段階に配置しなおしている。
 当然のことながら,国際化プロセスの結果が母国市場と他の進出先市場にフィードバックによる組織学習の成果は明示されている。「小売国際化の組織行動モデルⅡ」のオリジナリティは,戦略立案の中に,小売業務システムの選択を組み入れているところである。販売,仕入れ,経営技術の3つの主要な小売業務活動の相互関連性に注目したモデルになっている。
 以上が「組織行動モデルⅡ」の特徴である。

結論
 主要文献を手がかりとし,小売業国際化の対象領域を確認し,市場モデル,組織レベルを検討し,組織行動モデルの改訂版として「組織行動モデルⅡ」が提案されている。このモデルによる実証分析が今後の課題であるとされている。

論点 
 市場モデルや組織モデルで指摘されている組織学習が,国際化戦略に与える影響についてもっと詳しく研究する必要があると考える。

出典:矢作敏行(2002),「小売国際化プロセスについて」『経営志林』38巻第4号,27-44ページ。

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2005年06月20日

プライベート・ブランド,競争および公共政策―英国の事例を中心として―(土井 1994)

要約
 この論文では,プライベート・ブランドの拡大を1990年代の消費財市場最大の特徴と捉え,PBの理論的な分析がおこなわれている。その予備的考察として,英国におけるPBの展開の考察がなされている。それに基づき,PB導入の決定要因と導入による効果の検討,さらに法的・政策的フレームワークの考察がなされている。それらの考察の結果,「PBの理論的,政策的含意と課題」(246ページ)が明らかにされている。

PBの発展―英国の事例―
 ここでは,PBの展開がもっとも進んでいる英国の事例が取り上げられている。まず英国におけるPBの比重などについて概観した後,PB拡大の理由について検討がなされている。英国のスーパーマーケットのシェアは日本や米国に比べてかなり高く,スーパーマーケット自身が企画力・販売力を持つためPB導入が容易であったこと,PB戦略が地理的拡大が落ち着いた後の利潤拡大戦略のひとつとなったことや,情報システムの高度化などが,PB拡大の内部環境における要因として挙げられている。また,内部環境以外の要因としては,消費者の志向の変化,既存ブランド・メーカーのPB向け製品の生産開始と拡大,規制の緩和や変更,英国における商標法の緩さなどが挙げられている。さらに,英国のPBの特徴が示されている。PBはLB(リーディング・ブランド)と比べ低価格であり,LBメーカーがPB向け製品を生産するなど品質に差はなく,「近年のPB品は単なる「エコノミー型」ではなく,「高品質・低価格型」となっている」(254ページ)と述べられている。

PBの理論的考察―導入の決定と効果―
 ここでは,PBの導入決定要因とその効果について英国の事例を考慮にいれつつ理論的な考察がなされている。
 導入決定要因の考察には,新規参入と垂直統合の議論,取引費用理論,フリーライディングの理論などが用いられている。PBは,製造部門の創設や既存の製造企業買収など内製や,製造企業との長期的な取引を通じてPB製品を調達し,自身の店舗でそれを販売するものであるので,「流通業者の後方垂直統合による新規参入である」(257ページ)と述べられている。このことから,新規参入と垂直統合の議論から分析が行われている。分析の結果,「ブランド品仕入れとPB導入とのソーシング・ミックスによる利潤」(258ページ)がブランド品仕入れのみの利潤より大きいという関係がおこるときにPBは導入されると述べられている。具体的には,メーカーとの取引における費用が増大し,それに代わる垂直統合による仕入れを模索するとき,つまり取引費用の引き下げを目指すときや,競合品の販売を行うことでメーカーへの依存度を引き下げ,交渉力の強化を目指すとき,また小売業者間でLB製品の仕入れ価格に相違がなく競争優位がないとき,などが挙げられている。さらに,ただ乗り回避のために「当該企業のみが販売するPB品を導入することによって品質管理ないし評判の効果」(260ページ)を内部にとどめることができることも示されている。
 また,流通業者が「垂直的にはLB企業のエージェントであると同時に,水平的には競争者である」(258ページ)ために,PBは固有の競争効果をもたらすとしてその効果も検討されている。その結果,PB導入による低価格競争とLB製品のブランド力低下が,知名度が低くブランド力をもたないような第三ブランドを扱う下位メーカーの活動機会を与える場合もあり,売り手数の増加によって競争が激化する可能性が示されている。しかし,一方でPBの拡大による販売経路の制限や,PBの価格戦略に対抗するために新規参入者は価格を切り下げなければならないなど,PBが参入阻止と集中上昇をもたらす可能性も示されている。これらの効果についてはより精緻な分析が必要とされると述べられている。

法的・政策的フレームワーク
 最後に,PBに関係するわが国の法的・政策的なフレームワークの概観がなされている。PBを直接扱う法律は存在しないために,競争法の下で検討される。競争制限が予想されるケースとして,不当廉売やおとり廉売,PB仕入れの際の不当な値引き要求,小売業とメーカーの垂直合併,PB品を優位に販売するための小売業者間の競争制限,PB小売業者とブランド品メーカーの販売段階での共謀などが挙げられている。「これらの問題をめぐる法律・政策がPBの政策的フレームワークとなる」(269ページ)と述べられている。これらの問題に関する議論を深めるためには,小売段階や消費財の産業組織における競争に関する理論的・実証的分析が必要であると述べられている。

結論
 これらの分析の結果,PBは消費財の産業組織を競争的なものへと誘引するなど,産業組織に一定の影響をおよぼすことが明らかにされている。PB化は,流通構造の変革や市場開放といったわが国における重要課題の解決と関連しているとして,PB化がわが国の流通構造や取引慣行に与える影響,およびPB製品調達による市場開放などの問題についての分析が今後の課題とされている。

論点
 法的・政策的フレームワークの検討の必要性があまり感じられない。

出典:土井教之(1994),「プライベート・ブランド,競争および公共政策―英国の事例を中心として―」『経済学論究』48巻第3号,245-274ページ。

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2005年06月18日

台湾のコンビニエンス・ストアの展開(許 1996)

要約
 この論文は台湾におけるコンビニエンス・ストアの登場と発展について述べられている。ここでは主に台湾の商業の現状,コンビニエンス・ストアの導入と展開,日本と台湾のコンビニエンス・ストアの比較について述べられている。台湾のコンビニエンス・ストアは1979年に食品メーカーである「統一企業」が「統一超商」の開店したことにより登場したが,日本の1店舗当り人口が2756人であるのに対して,台湾では1万6967人であるということに示されているように,台湾のコンビ二エンス・ストアは成長段階にあり,飽和状態に達するには時間を要すると述べられている。今後の課題としては,現状では不十分であるEOSやPOSなどの情報システムを導入することがあげられている。最後に今後コンビニエンス・ストアの発展に伴い,中小零細小売業が廃業・転業に追い込まれるという社会問題が発生するであろうとしている。

1.台湾商業の現状
 台湾では零細商店が大半を占めているが,その一方で1986年以降綜合小売業(百貨店,スーパーマーケット,コンビニエンス・ストア,量販店を指す)が急成長したと述べられており,また,大手企業は外国の流通企業との連携や合弁会社の設立を行い,外資や経営ノウハウを導入したとしている。その中でも百貨店は主に日本企業との提携・合資が多く,コンビニエンス・ストアはアメリカ企業が多いとしている。

2.台湾におけるコンビニエンス・ストアの導入と現状
 台湾のコンビニエンス・ストアは1979年に食品メーカーである「統一企業」が「統一超商」を展開することにより登場したとしている。同社は同年10月にサウスランド社との提携を行い,系列下の店舗名をセブンイレブンに変更したと述べられている。この統一企業の小売業参入は自社の工場で生産された商品の専売店を開くことを目的としたものであり,「この場合のコンビニエンス・ストアはメーカーの商品がうまく売れる経路をつくるためにつくられた店舗である」(5ページ)としている。台湾におけるコンビニエンス・ストアは始め主婦を対象として住宅地に出店したが,伝統的な雑貨店や市場は客との馴染みが深い上,価格もコンビニと比して安価であることやコンビニの店舗が少なかったことから,消費者にとって疎遠な存在だったと述べられている。しかしながら,1988年以降,それまで統一超商一社であったコンビニ業界に多くの会社が参入していると述べられている。女性の社会進出や世帯人口の減少により消費の多様化や少量化が引き起こされたことが追い風となり,標的を主婦から学生やサラリーマンを中心に設定を変更し,店舗についてもそれまでの住宅地から人通りの多い交差点のコーナーや道路端に出店するようになったとしている。また,統一超商のセブン・イレブン,統一麵包,全家便利商店,OK便利商店,萊爾富の上位5社が全店舗数の約78%売上高で97%と占めるとしており,上位集中度が極めて高いことが述べられている。

3.台湾におけるコンビニエンス・ストアの展開
 まず,チェーンシステムにおいては1989年にはRCが中心であったが,1994年にはRC占有率が減少し,FC(フランチャイズチェーン)やVC(ボランタリーチェーン)が増加したとしている。また,VCについては利益のほとんどがオーナーに帰属し,組織面では小売業者の資本,経営上の独立性が確保され,台湾人に受け入れられやすいシステムであるとしている。情報システムについてはコンビュータを導入している店舗は32.4%,コンピュータを在庫管理に利用している店舗が約10%,コンピュータを店頭の運営管理に利用している店舗が約27%であることから,コンビニにおける情報システムの普及は不十分であり,今後普及させることが課題になるとしている。

4.台湾と日本の比較
 台湾におけるコンビニエンスストアは小売業全体の0.4%,売上高は全体の1.6%であるのに対し日本においては店舗数3.2%,売上高5.8%を占めているとしている。参入主体については台湾では主として食品メーカーであるのに対し,日本の場合はスーパーが多くを占めるとしており,その理由として台湾では食品メーカーによる自社商品におけるチャネル確保があげられており,日本ではスーパーの売上鈍化による多角経営の発展や大店法回避があげられている。店舗展開については台湾においてはポランタリーチェーン方式が有力であるのに対し,日本においてはフランチャイズチェーンが有力であると述べられている。そして,物流システムにおいては台湾では,自社の配送センターをつくるものや専業物流会社に委ねるものやメーカーや卸売業者が直接店舗に配送するものなどに分類されるのに対し,日本では自社配送センターや,既存の問屋ルートが利用されることが多いとしている。

 結論は次のとおりである。台湾におけるコンビ二エンス・ストアは発展段階にあり,今後の出店地域は北部地域への過剰出店を避け,中・南部地域へ店舗展開を行うことが予測されると述べられている。

 論点は次のとおりである。主婦が家庭のために食品を買う時間を減らしたいと願ったことや働く女性が増えたことが追い風となったとしながらも,ターゲットを主婦から学生やサラリーマンを中心としたものに設定し直したと述べられていることに少し矛盾があるように思われる。


出典:許家彰(1996),「台湾のコンビニエンス・ストアの展開」『千里山商学』第41号,1―20ページ。

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2005年06月16日

小売国際化における「Ethnic Enclaves(飛び地市場)」の役割(川端2000)

 要約
 この論文では,戦後の日系小売企業の海外進出の重要な進出要因の一つである「海外の日本人市場」を対象とした進出が,従来の研究ではあまり重要視されてこなかったという問題点を取り上げ,その海外の日本人市場の形成過程と特性,そしてその変化を明らかにすることにより,日系小売企業の海外進出に与えてきた影響を検討している。海外の日本市場には海外旅行者を対象にしたツーリスト市場と,在外邦人市場があるとされており,本稿では事例として,欧州市場と香港市場への進出が例として取り上げられている。

ツーリスト市場と小売業の進出
 ツーリスト市場とは海外市場において日本からの観光客を相手にビジネスを行うものであるとされている。そのツーリスト市場の成長要因となるのは,日本人の海外旅行者の増加であるが,その海外旅行者の増加に影響を与える要因としては,大きく分けて次の2点があげられている。1つ目は1964年4月からの観光目的での渡航自由化と,2つめにプラザ合意による急激な円高によるとされている。
次に欧州と香港におけるツーリスト市場の事例研究がなされている。欧州の日系小売企業の進出は百貨店業態での進出が多く,主に欧州はブランド物やファッションを中心とする商品の調達地域であり日本人観光客に向けて,海外という慣れない環境で安心して買い物が出来る日本と同様の空間を提供することが目的とされた。ここで行われている商法は免税商法であり,VAT(付加価値関税)分を値引きした価格で販売することが欧州での日系百貨店の価格競争力であったとされている。欧州での日系百貨店による海外ツーリスト市場は1980年代における市場の構造変化により衰退傾向にあり,その理由としては以下の4点が挙げられている。一つ目に日本人がブランド品を直営店で購入するようになったこと,二つ目に日本人旅行者の商品知識が豊かになったこと,三つ目に団体での旅行者が減少したこと,四つ目に日本人観光客の購買額が低下したことが挙げられている。
 香港への出店も百貨店業態での進出が多く,当初その対象は在外市場の富裕層と駐在邦人だったが,日本人旅行者の増加によりその売上高を大きく伸ばしたことにより,その対象がやがて旅行客にシフトしていったとされている。香港へ旅行する日本人を始めとしたアジア人はショッピングに多額の出費をする傾向にあり,中でも日本人は欧州と同様にハンドバッグやブランド品の香水等に多くの出費をする傾向があるとされている。このことが欧米など多くの国から旅行者が香港に来るにも関わらず,日本の百貨店だけが香港に進出したのかという理由の一端をであると述べられている。しかし,欧州同様に香港における日本の百貨店も旅行者の減少によりオーバーストア状態を引き起こし,撤退が多くなっているとされている。その撤退の一番の理由としては,香港における店舗の家賃が急上昇したことにより利益を低下させた部分が大きいとされている。

在外邦人市場と日系小売業の進出
 海外の日本人市場にはもうひとつ在外邦人市場があり,日系企業の駐在員とその家族の形成する市場であり,この邦人市場に支えられている日系企業も少なくないと述べられている。シンガポールの日系企業の駐在員の数は人口の1%の3万人であることなどからも,その市場規模が小さくないことがうかがえるとしている。在外邦人市場への出店動機は,現地市場での拡大を目指したとされているが,在外邦人をターゲットにすることは現地消費者より客単価が高いことなどからも有利であり,やがて本国の消費者より在外邦人をターゲットとするほうにシフトしてきたとされている。在外邦人市場を対象とした出店には,スーパー業態での出店が多かったとされている。進出先としての欧米地域では,ヤオハンの米国へ出店したスーパーから見られるように,当初の日本人向けからアジア人向けへその対象を拡大させてきたケースも見られるとされている。一方アジア地域における在外邦人市場向け出店は,香港での現地消費者向けの店舗がやがて韓国人や日本人顧客層を吸引した点や,バンコクでのフジスーパーにおける現地での広域在外邦人市場を獲得したケースが成功例として取り上げられているが,結論としては邦人市場を対象としたため,スーパーの多店舗展開が出来ない理由であるとしている。

結論
 海外の日本人市場を目指した出店動向からは海外出店およびその成長に関して2つ考察がなされており,一つはツーリスト市場及び在外邦人市場はニッチ市場であり,さらに出店の際の店舗コストが高いという要因がチェーンストア形式での多店舗展開を阻害したため拡大に失敗したとされており,二つ目は海外で得た技術やノウハウが移転できなっかたという点であると述べられている。結論としては,「海外の日本人市場を目指した進出は,一定の市場を確保してきたものの,利潤を上げるあるいは,海外市場で企業として成長する『仕組みづくり』には成功してこなかった。」(52ページ)と述べられている。

論点
 日系小売企業の日本人市場を対象とした研究で欧州と香港が例として取り上げられているにも関わらず,その両者における衰退要因の違いなどの比較検討がなされていないので,なぜその地域がツーリスト市場として選ばれたのかの論拠を示すべきだと考えられる。

出典:川端基夫(2000),「小売国際化における「Ethnic Enclaves(飛び地市場)」の役割」,『龍谷大学経営研究』,33-52ページ。

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2005年06月15日

台湾の小売業発展におけるセブン-イレブンのマーケティング展開(鍾 2001)

要約
 この論文では,台湾でのセブン-イレブンの発展について述べられている。近年,流通業の最先端の例として,セブン-イレブン・ジャパンが挙げられるが,隣国の台湾においてもセブン-イレブンは成功している。ここでは台湾セブン-イレブンの発展を見るために,まず台湾の小売業の発展を概観し,次にセブン-イレブンはどのようなマーケティングを行い,成功したのか,歴史的な側面から考察している。

Ⅰ.台湾小売業の発展と概況
 小売業の発展は,経済環境や消費者行動など多くの要因によって影響される。まず台湾での1人当たりGNPの増加と小売業の発展を見ると,GNPの増加に伴って,発展する業態は,百貨店,スーパー,CVS,大型ショッピングモール,と推移している。GNPが6000ドルを超えた1988年以降から,CVSが高度成長を始め,台湾のCVSの年間売上高の推移を見ると,1994年と1999年では,約2,5倍の増加が見られた。また店舗数においても,増加の傾向が見られることから,台湾の消費市場におけるCVSの影響力は大きくなってきているといえる。

Ⅱ.台湾セブン-イレブンのマーケティングの展開
 ここでは,台湾セブン-イレブンのマーケティング活動について述べ,またどのような経営活動によって成功いたのか,歴史的に考察する。
台湾では,CVS業態が導入されるまで,メーカーと卸との取引関係は卸主導であった。そこで,台湾セブン-イレブンの親会社である食品メーカーの統一企業が,他のメーカーに先駆けて,卸の支配を排除し,自社の小売チャネルを形成するために,セブン-イレブンを導入しようとしたのが台湾セブン-イレブンの始まりである。しかし,当初は台湾のGNPは低く,消費者のCVSに対する認識は低かった。又,米国のセブン-イレブンの標準化された戦略をとったため,経営は赤字であった。しかし,立地選択,価格政策,品揃え形成などの現地適応化のマーケティング活動に訂正することによって,次第に売上を伸ばし始め,黒字転換を果たした。「長時間営業,立地の選択,品揃えにおいてCVSの『便利さ』という経営特質を再確認して,小売形態の差別化を達成した」(101ページ)のである。その後,多数のCVSが参入し,競争が激しくなり,台湾セブン-イレブンは優位性を持続するために経営革新を進めた。具体的には,海外のセブン-イレブンの物流,管理システムのノウハウを積極的に学習した。中でも,日本のセブン-イレブンの弁当などの商品開発や物流システム,POSシステムの導入などの経営ノウハウの模倣は,台湾セブン-イレブンの成長に不可欠であったとしている。又,自社のブランド商品の開発,フランチャイズ・チェーンへの出展方式の転換による規模の経済の獲得も,重要な成長要因として挙げられる。このように,台湾セブン-イレブンは,外部の経営ノウハウのを模倣・革新し,台湾の消費環境に適応した形で台湾セブン-イレブン独自の経営ノウハウを生み出すことにより,優位性の持続をもたらしているとしている。

結論は以下の通りである。台湾セブン-イレブンの初期段階は,米国の消費環境に合わせた標準化戦略であったため,ターゲット市場の選択,立地選択などを誤り,成功しなかった。しかし,標準化できない部分を試行錯誤の末,現地に適応していくことにより成長が可能となり,さらにセブン-イレブン・ジャパンを始めとする海外のセブンイレブンの経営ノウハウの導入などの革新を行うことにより,他のCVSとの優位性を持続することができた。

出典:鍾淑玲(2001)「台湾の小売業発展におけるセブン-イレブンのマーケティング展開」『立命館経営学』,第39巻,第5号,87-115ページ。
 
 

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2005年06月14日

小売業の国際化-OLIパラダイム-(金﨑 2003)

要約
 小売業は,第2次世界大戦後国境を越えて発展してきた。しかし,長年にわたり小売業の活動は,自国の国内市場および地域市場に限られたいた。いくつかのデータの示すところによれば,小売業の国際化レベルは他業種と比べ,低いレベルにとどまっている。
 この論文では,小売企業活動の地理的範囲を規定している要因を明らかにすることを目的としている。その際に,事業主体の他国籍企業の意思決定プロセスに注目し,OLIパラダイムの考えを応用することで説明している。

理論的検討 
 OLIパラダイムは,海外で活動を行っている企業に関わる理論である。このOLIパラダイムは所有特殊的要素,立地特殊的要素,内部化インセティブの3つの変数により,在外生産の理論化を行っている。所有特殊的要素とは,企業が技術や知識,ノウハウ,製品差別化能力などの無形資産を保有することにより,優位性を持つことが出来るというものである。その場合,外国企業は在外生産を行っても,現地企業よりも収益を上げることが出来ると考えられる。さらに,そうした無形資産を本国で利用した方が効率のよい場合,輸出という戦略が選択される。しかし,外国での利用がより有利である場合は,海外生産が行われるとされている。こうしたことは,立地特殊的要素として説明される。さらに,こうした無形資産は企業間,国家間での移転は容易には行われない。この無形資産の取引を市場が組織化できない場合,企業は海外に自ら子会社を設立し,在外生産を行うことを選択する。
 このパラダイムは製造業を念頭に構築されたものであった。しかし,提唱者ダイニングは,あらゆる在外生産は,OLIパラダイムを参考にすることで説明可能であるとしている。
 この論文では,小売業特有の条件を明らかにし,OLIパラダイムに当てはめ,小売業国際化のパターンを明らかにしている。
 小売サービスは,現地で生産され同時に消費されるという特徴を持つ。そのため,現地市場の規制・開放性,そして市場規模が進出国選定において重要となる。さらに,もっとも消費者に近いところに位置することから,製造業以上に現地の社会的・文化的差異の影響を受けやすい。以上のことから,「小売業においては,外国市場の規模が大きいほど,外国市場の開放性が高いほど,本国と外国の文化的相違が小さいほど,外国市場にひきつけられる」(23ページ)という仮説が立てられる。
 小売業は現地市場で事業展開を行う必要がある。その際,文化的差異や社会的・政治的制度の相違により,現地企業に比べて非常に不利な状況に直面する。小売業が国際化するためには,こうした不利な条件を乗り越える競争優位を有する必要がある。このことから,小売企業は「本国市場におけるプレゼンスが大きいほど,外国市場に参入する強い動機が生まれる」(23ページ)という仮説が導き出される。
 小売業の持つ所有特殊的要素は,内容が開示されなければ取引相手がその内容を評価できないが,開示すればただ乗りされる危険性があるため,適切な価格を設定することが難しく市場取引にはなじまない。そのため,小売企業に内部化インセンティブが働くという仮説が導き出される。
 立地特殊的要素に関して「小売業においては,外国市場の規模が大きいほど,外国市場の開放性が高いほど,「本国と外国の文化的相違が小さいほど,外国市場にひきつけられる」(23ページ)という仮説が示されていた。ほとんどの小売企業は純粋に国内でしか活動を行っていないか,本国市場と文化的に密接な関係にある地域にしか進出していない。さらに,本国と近似している国の所得が増加した時に,進出が行われている。このことから,仮説は支持されていると考えられる。
 所有特殊的要素における仮説として,「本国市場におけるプレゼンスが大きいほど,外国市場に参入する強い動機が生まれる」(23ページ)が示されていた。しかし,本国で競争優位を得ている小売手法を海外進出国に移転したが,異質の環境に直面し,有効に活用できないまま多くの企業が失敗しているのが現状である。本国でいくら競争優位を得た手法であっても,異質な環境に移転することの難しさを示している。
 小売業において外国市場でも収益をうみだす資産が乏しいため,内部化インセンティブが強く意識されることはなかったとされている。

結論
 近年国際化を急速に進めている欧州小売企業の事例は,当該企業が新たな所有特殊的優位を築いていることを示している。しかし,小売企業が競争優位の源泉とされている店舗形態,陳列,店舗レイアウト,マネジメント・ツールや情報システムの活用など小売技術などは,特許によって保護されるものではなく,模倣されるのが比較的容易なものである。そのため,「これらをうまくコーディネートするある種組織的な能力によって,他の小売企業が出来ないような価値を商品にすること」(28ページ)が国際進出を成功させる要因であるとしている。

論点
 仮説の検証が十分になされていない。文化的に離れているところに進出し,成功している企業も存在するし,所有特殊的要素の仮説検証ではある1社の企業の事例のみしか取り上げておらず一般化することは出来ない。小売業と製造業の違いについての検討も十分に行われいないので,小売企業の低国際化を説明できないと思う。この論文の目的である,なぜ小売企業の国際化レベルの低さを規定する要因についての分析が十分でないと思われる。

出典:金崎賢希(2003)「小売業の国際化—OLIパラダイムによる説明」『九州産業大学経営学論集』,第14巻第2号,17-30ページ。 

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2005年06月13日

消費者の専門店認知基準(田村 2005)

要約
 専門店と呼ばれている業態が多様に分化し,その市場シェアが増加しているという市場の状況変化を読み取るために,この論文では,これまで主要業態の残余カテゴリーとされてきた専門店のより詳細な検討が試みられている。「専門店という用語が消費者によってどのように使用されているのかについて実証的に分析」(2ページ)することで,その目的を達成しようとしている。

理論的検討
 はじめに,専門店と呼ばれている業態の売上高シェアの伸びが,日経流通新聞からのデータにより示されている。これは,消費者の専門店指向の高まりと理解されているが,専門店が「百貨店,スーパー,コンビニ,生協,通信販売を除いた残余の業態」(2ページ)として定義されていることに問題があると指摘している。そこで,残余カテゴリーとされる専門店のシェアの伸びが,消費者の専門店指向の高まりと単純に理解してよいのかという問題意識に基づき,「専門店という用語が消費者によってどのように使用されているのかについて実証的に分析」(2ページ)している。消費者が専門店をどのように捉えているのか,それは日経調査で定義される専門店とどのように異なるかを明らかにし,専門店という領域をより詳細に検討しようとしている。まず,専門店とは何か,いくつかの辞書の定義が紹介され,その定義の多様さが示されている。次に,専門店に関する消費者アンケートから,専門店と呼ばれる主要企業の専門店認知率が測定されている。消費者アンケートをもとに,さらに分析が進められ,消費者はどのような特徴を持つ店舗を専門店と判断しているかが明らかにされている。

実証方法
 アンケートは,首都圏・京阪神都市圏に住む消費者3000人を対象とし行われている。消費者はどのような特徴を持つ店舗を専門店と判断しているかを明らかにするために,76の店舗属性をあげ,そのそれぞれについて専門店と判断する基準となりうるかどうかを,5点尺度で回答してもらったものが分析に使用されている。
 まず,店舗属性変数を減らすために因子分析が行われている。その結果,店舗属性は76種から15種の因子に要約されている。
 次に,消費者が専門店を識別する基準として,要約された因子をどの程度用いているかが測定されている。その方法は,各因子を構成概念と考え,「各構成概念を定義する店舗属性の素点スコア(5点尺度)を加算した総和尺度」(7ページ)を用いて構成概念を測定するというものである。総和尺度構成においては,単純構造を示さない,因子負荷量が0.3前後の店舗属性は取り除かれている。さらに,「構成概念を構成するために使われる各項目が,同じ構成概念を測定しているのか」(7ページ)という問題を内部一貫性とし,その内部一貫性はクロンバッハのα係数によって測定されている。α係数が基準値を超えないものは構成概念から除いている。しかし,基準値よりは低いが項目平均スコアの高い,「品揃えの限定」は構成概念のかわりに,それを構成する店舗属性の項目が分析に取り入れることにしている。このようにして構成された総和尺度の項目平均スコアが示され,平均スコアの年令層間の差異も分析されている。

分析結果
 まず,消費者の専門店認知率はどの企業についてもそれほど高くはなく,企業間でもかなりの差が見られ,専門店と分類されてきた業態は「消費者の目から見ると,業態的にきわめて異質な世界」(4ページ)として映っていると述べられている。年代間でもその認知率に差異があることも示されている。
 次に,総和尺度スコア検討の結果,品揃えの限定に関わる属性の平均スコアが最も高く,消費者が専門店と判断する際の,最も重要な店舗属性は品揃えの限定であると述べられている。さらに,接客対応力,高級品品揃え,雰囲気,常連客特典,価格プレミアムなどきわめて多様な店舗属性も認知基準となっており,このことは「伝統的専門店から多様な店舗フォーマットが分化している現実を反映したもの」(9ページ)と捉えられている。一方で価格訴求力の平均スコアが最も低く,「ディスカウントストアは消費者によって専門店でないことの基準として使われている」(9ページ)とされている。年令層別の差異の分析から,高齢層では高級専門店が意識されていることが明らかにされている。
 また,専門店で買いたい商品についてのアンケート結果では,時計・メガネや宝飾品類,婦人・紳士服などが家電などよりも上位にあり,日経専門店調査に登場する多くの専門店(ホームセンター,百円ショップ,家電専門店,ドラッグストア)は,専門店として消費者に認知されていないことを示すものと述べられている。

結論
 日経調査の専門店コンセプトと消費者のそれには大きな差異があることが,最も重要な発見物とされている。特定商品を取り扱うという企業のフォーマットが,多様に分化している状況にあっても,その領域を専門店というひとくくりにしてきたことが,この差異の原因とされている。最後に「専門店の分化の内容を明らかにし,それをふまえて多様なフォーマットを概念的・理論的に整理すること」(11ページ)を重要な問題として捉え,専門店のコンセプトの位置を明らかにすることが次の重要課題とされている。

出典:田村正紀(2005),「消費者の専門店認知基準」『流通科学研究所モノグラフ』No.074。

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2005年06月11日

イトーヨーカ堂の中国現地化プロセス(矢作 2005)

要約
 この論文はイトーヨーカ堂の中国における現地化プロセスについて述べられている。イトーヨーカ堂は海外市場進出に消極的な姿勢をとってきたが、1997年に春熙店を開業して以来,中国において合計で5店舗のそれぞれに条件の異なる店舗を開業し,1年以上経過した店舗すべてにおいて黒字経営にしたとしている。これまでの中国での出店はゆるやかな始動時期にあるということができ,その実態について述べられている。ここでは,イトーヨーカ堂が自国市場において蓄積した経営資源を中国市場に移転し,現地市場において蓄積するために,比較的長い時間を要することとなった要因を見つけ出し,その分析を通じて小売業国際化の現地化プロセスについて検討を行うことを目的としている。そして最後に出店戦略の弾力化,人的資源の蓄積,調達・供給体制の整備,経営理念を貫くことによりゆるやかな始動が今後迅速な成長へと転換する可能性を示唆している。

 ケーススタディーの結果,次のことが述べられている。まず,開店当初の戸惑いとして,現地市場に即座に適応できないこと,すなわち「標準化のなかの部分適応」(76ページ)の実現が困難であるということについて述べられている。イトーヨーカ堂の中国プロジェクト・チームは実際に生活体験をすることにより,程度の差こそあれ避けることのできない地域市場への適応を適格に実行するための努力を行っているとしている。しかしながら初めての海外進出における「部分適応」への取り組みは予想を上回り困難であったとしている。また,現地市場に適応することのできない要因は市場理解の不足という要因のみでなく,把握した需要に応じた商品調達を行い,売場に適切に並べることができなければ,顧客の支持を得ることはできないとしている。中国において知名度のないイトーヨーカ堂に対し,中国系企業は無関心であり,商品調達面において不安を残すこととなった。その現地仕入れ体制の弱点を補うため,自社開発商品への依存度を高めたが,日本で開発された商品に関しては好みの違いと高価格という理由からあまり売れなかったとしている。また,従業員教育も問題点としてあげられ,接客サービス概念がなかった中国人従業員に対して日本と同様のプログラムによる教育を行ったと述べられている。次に競争の加速について述べられている。ここでは,成都における小売競争の実態について述べられており,同業態間,異業態間競争が立地変動を伴いながら進んだことが述べられており,競争に耐えることのできない国内百貨店や大型商業施設は閉鎖に追い込まれることになったとしている。次に頻繁な売場変更について述べられており,まず98年に自社買い取り商品と日系メーカーの商品を引き下げる一方で「店中店」の売場比率が引き上げられたことが述べられており,また,99年には家電,家具等の大型専門店の成長に伴い住居用品関連売場の見直しも行われ,結局のところ家電製品売場の大幅な削減を行い,衣料品関連売場を拡充するという決定を下したことが述べられている。02年の売場変更時には,子供服,肌着,玩具等と食品売場の拡充を行ったとしている。これらの売場改革によって売上高に占める食料品の比率が飛躍的に増大し,全体の業績をも押し上げているとしている。「店中店」は年2回の売場変更時に入れ替えが絶えず行われており,その比率は更に高められたが,「店中店」はその販売,在庫管理,販売価格においてメーカーが請負うため,単にその比率を高めるだけでは問題が発生するとしており,店舗全体のイメージや販売促進を考慮した上で選択を行うことと,その能力を引き出し,管理する対策が課題であるとしている。最後に店舗運営ノウハウの移転について述べられている。事例として十里堡店をとりあげており,「店舗運営については日本で確立した基本理念や原則を,移転する方針を貫いている」(79ページ)としている。POSデータの活用については,POSデータを基に1日3回のミーティングを行うことにより,弾力的な商品発注が可能となることや,また,売場を組長単位まで小さく分けて管理を行い単品管理をしているところに特徴があるとしている。また,原則を貫きながらも現地市場に合わせ柔軟に対応した例として,北京におけるチラシ宅配システムがとりあげられており,費用の関係で適当な新聞媒体が見つからなかったことによりチラシの宅配を行うシステムを作り出したことが述べられている。そして,労働力が豊富であり,人件費が安い現地の事情に合わせ,チラシによる宣伝広告という手段を移転し,活用した効果は大きいと言えると述べられている。

 結論は次の通りである。イトーヨーカ堂は中国においても価値や品質を重視する経営を貫き,単品管理を軸とした店舗運営ノウハウの移転をしっかりと行ったとしており,筆者は今後の中国における日本型総合スーパーの成長可能性はどの程度迅速・適格に市場条件に対応できるか否かにかかっているとしている。

出典:矢作敏行(2005)「イトーヨーカ堂の中国現地化プロセス」『経営志林』第41巻4号,71―88ページ。

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2005年06月09日

ヨ-ロッパ小売業の国際化への途(河野1995)

要約
本稿では,まず既存の企業国際化に関する多くの分析が,製造企業を対象としてきたものであるという問題点を指摘している。そして,流通企業の国際化を論ずる本稿の目的は,①流通企業が販売するサービスの特徴を明確にすること,そして,次に過去の主な流通革新はヨーロッパから誕生したことにより,②ヨーロッパ小売業の国際化の要因を明確にすること,③ヨーロッパ小売業の国際化の現状を分析することであるとしている。

サービスの基本特性
サービスの,無形成であること,生産と消費の不可分,不均質性,貯蔵が不可能であるという4つの特性を述べ,そこから①サービスが物的財に包含される程度が,サービスの取引能力を規定すること,②供給されるサービスが有形製品に含まれる場合,外国市場に輸出したりすることが可能であること,③サービスの提供が人に依存すると企業消費者の所まで移動したり最寄に立地しなければならないことの3つの考察が行われている。

国際化の動機
 ヨーロッパ小売業の国際化の動機は,大きく分けてプッシュ動機とプル動機の2つに分けられる。プッシュ動機とは,海外市場の相対的魅力度を高めるために作用する要因であり,換言すれば小売業の本国市場を魅力の無いものにするように作用する要素である。プッシュ動機の例としては,市場の飽和,新規開店や営業時間を規制する法律や労働法があり,実例として,オランダの1990年代における市場の飽和や,フランスのロワイエ法などが挙げられている。
プル動機は,海外発展を魅力的にする要因であり,未開拓の海外市場,ニッチ市場となる可能性などが挙げられている。実例としては,差別化された商品あるいは取引フォーマット並びに普遍的手段における強い信念により,マーケティングニッチの創造と拡大を目指してきたイタリアのBenettonが紹介されている。
さらにもうひとつ,プッシュプル動機以外の要因として文化的要因が挙げられている。

国際化の現状
 ここでは,フランスが事例として取り上げられている。フランス小売業の1960年から1980年における海外進出は近隣諸国に徐々に進出するというものであった為,フランス本国や,身近な文化から遠く離れていないために,これらの諸国への進出は困難性や大きな危険性も示さなかったとしている。
次にヨーロッパ小売業の戦略について述べられている。第一の戦略は「商業信用と金融信用及び最高の収益性に達するために,生産性の利益を獲得する事のみならず,全国のリーダーになったり,あるいは,外国への競争者に対して道を閉鎖したりすることに代表される」(27ページ)としている。これには産地における強化,買収等の多様化における強化,排他的販売等の攻撃による強化が含まれると述べられている。
第二の戦略として,内部成長として,海外での子会社の設立により活発に変動する形態を与えることが可能であり,さらに外部成長としては,外国企業の買収や資本参加を介して地方パートナーと共に子会社の比較もなすことが可能である点が挙げられている。
今後の課題としては,「ヨーロッパ小売業の国際提携の問題が残っている」(29ページ)としている。

 論点はヨーロッパ企業の海外進出要因について,文化的要因も大きな影響を与えていると考えられる
が,プッシュプル要因に比べ文化的要因に関する言及があまりにも少ないように考えられる。

出典:河野三郎(1995)「ヨ-ロッパ小売業の国際化への途」『富大経済論集』,第41巻第2号,159-175頁。

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2005年06月08日

日本市場における総合小売外資の現地化プロセス(矢作 2003)

要約
 90年代以降,小売外資のアジア市場への参入機運が急激に高まっている。そして,参入が困難であると思われていた日本市場にも,小売外資はアジア市場での現地化経験やさまざまな戦略をもって事業展開を始めた。ここでは,カルフール,コストコ,ウォルマートの3社の日本市場での現状とその現地化プロセスについて概観し,最後に三社の参入後の状況についてまとめている。

3社の現状と現地化プロセス
1,カルフール
カルフールは1999年に,カルフール・ジャパンを設立し,2002年までに4店舗を展開しているが,各店の目標売上には達していないと報じられている。ここでは,その原因を聞き取り調査,消費者アンケートの評価に基づいて分析し,業態の革新性が乏しいこと,低価格イメージが浸透していないこと,消費者ニーズと実際の品揃えにおいて,ミスマッチが生じていること,顧客サービスの不十分さを原因として挙げている。そして,カルフールは参入後,多くの問題点を受け,広範囲な業務上の変更を行った。まず,消費者のニーズと実際の品揃えとのギャップを埋めるため,直輸入のPB商品の品揃えを拡大し,PB商品の取扱量を倍増させた。また,消費者に低価格イメージを浸透させるため,700品目の価格を対象に近隣のスーパーのものと比較して店頭に表示し,低価格をアピールする販促広告を行った。そして,顧客サービスの向上のために業務指針を抜本的に見直し,レイアウトや売り場作業などを日本消費者に合わせたものに改善した。このように,日本に進出して2年半の間,カルフールは標準化されたハイパーマーケット業務を部分的に修正し,日本市場への適応化を進めている。
2,コストコ
アメリカ最大の会員制ホールセールクラブであるコストコも日本市場に参入し,2003年までに4店舗を展開している。ホールセールクラブとは,卸兼小売業態であり,大ロット販売(販売単位の大きいこと)を行うこと,また会員に限定して小売販売を行い,会員収入を得ることで,粗利益を確保し,価格競争力を発揮する,という特徴を持っている。このような業態でコストコは米国において成功し,その業態のまま日本市場に参入したが,各店の売上は,目標に達していないという。ここではその要因として,知名度の低さ,大ロット販売による低価格訴求力の弱さを主な要因として挙げている。低価格訴求力の弱さについては,消費者に馴染みのない大ロット販売の価格表示では,他の小売店の価格表示との比較が困難であり,消費者に低価格訴求力が浸透しにくい,としている。参入初期では,消費者の戸惑いや知名度の低さから,短期間の事業の成功は困難であった。しかし業態の革新性の高く,他との競争が少ないため,次第に売上高を伸ばしつつある。このため,コステコ・ホールセール・ジャパンのマイク・シネガル社長は,参入後の業務変更点について大きな変更点はない。」(97ページ)と説明している。
3,ウォルマート
売上高世界1位の総合小売企業であるウォルマートは,2003年3月,西友と提携し日本市場に参入した。カルフール,コストコが完全子会社という参入形態をとったのに対し,ウォルマートは慎重な態度で参入したのは,国際化の経験不足,日本市場の複雑さ、というリスクを考慮したためである。ウォルマートについては,日本市場での現状についての記述はないが,仕入活動の参入後の現地化について,ウォルマートはこれまでメーカー,卸売業と取引を行ってきた西友を通じて取引を行うことは,カルフールなどと比べて有利である,としている。

3社の参入後の状況について
 
 まず,日本市場への適応化について。カルフールとコストコの両者は,標準化された小売業態から事業を始めたが,次第に生じた問題点に合わせて,部分的に業務を変更する「標準化の中の適応化」(101ページ)を進めた。しかし,その程度には両者に大きな差異がある。カルフールは品揃え形成から顧客サービスまで,比較的広範囲な適応化を行っているのに対し,コストコは大きな変更は行っていない。ここでは,「業務変更の程度と小売競争の関係」(102ページ)に注目し,コストコのホールセールクラブは日本市場では業務の革新性が見られるため,競争が発生しにくく,業務変更は少ない。これに対しカルフールのハイパーマーケットの業態は日本市場において,類似業態が存在するため,変更点が多くなった,と述べている。
 次に,取引慣行の相違について。主にメーカーと小売が直接取引を行う小売外資は,日本の異質な流通環境では異なった仕入活動を行っている。大ロット販売に徹しているコストコは直接取引率が高いが,カルフールは直接取引に応じる企業が少なく,卸売業の提供するサービスが高いという現状から,直接取引を基本政策としながらも日本の卸売業との取引も大切にする,という戦略をとっている。

出典:矢作敏行(2003)「日本市場における総合小売外資の現地化プロセス」『経営志林』,第40巻2号,87- 104ページ。

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2005年06月07日

日本企業はなぜ国境を越えたのか-進出要因研究の再検討-(川端 1999)

要約
 商業の国際化研究では,製造業の国際化の理論をそのまま商業に応用する研究が多く見られる。商業と製造業との違いを認識し,商業の本質的特性を踏まえた研究はあまり行われていない。商業資本の国際化を解明するためには「なぜ進出したのか(するのか)」という国際化進出の意思決定を研究することが重要である。進出要因研究は欧米の研究者を中心にある程度の研究蓄積がなされている。それらは,欧州や米国の小売業をベースとしたものであるため,日系小売業の海外進出要因と同じあるとは限らない。日系小売業はアジアを中心に多くの海外店舗を出店しているにもかかわらず,その動機や要因に関する実証分析があまりなされていない。そうしたことを踏まえ,この論文では既存の進出要因研究を整理した上で,筆者のヒヤリング調査を基に日系小売企業の進出要因について実証的な再検討がなされている。

理論的検討
 まず,欧米系小売企業の進出要因について検討されている。1980年代までの研究では,小売業の国際化進出要因を,市場飽和や出店規制といったネガティブな機械制約的要因が重視されていた。しかし,90年代以降は,企業の前向きな成長志向が国際化進出により重要な影響を与えているという結果が示されている。日系小売業の進出要因として,規制緩和要因(アジアおける商業外資の直接投規制の緩和),海外市場の拡大要因(現地の日本人市場の形成),国内要因(大店法,出店コストの増加),その他(アジアへの投資コストの低下)等が指摘されている。欧米小売業及び日系小売業の進出要因として挙げられているものは,環境要因であり,「業態などの主体の特性が配慮されておらず,また海外市場と国内市場との相違も踏まえて」(6ページ)いないと指摘している。
 しかし,進出を決断した企業は,こうした環境要因からだけではなく企業側の内部要因も影響を受けているはずである。いくら環境要因が整っていたとしても,企業側の内部的要因が備わらなければ進出はあり得ない。こうした主体側の要因を解明するために筆者はヒアリング調査を行っている。まず主体側の要因を考える際には,海外出店が小売主体にとってどのようなものであるかを明らかにしなければいけない。筆者のヒヤリング調査によると,小売業は海外市場と国内市場との間に断絶性が存在すると考えている。両者が違うのであれば,外部的環境要因だけでは海外市場への進出を説明することは出来ない。両者の違いを乗り越えてでも進出を決定させる要因が主体の側に存在するはずである。ヒヤリング調査の結果,国内市場と海外市場との間の断絶を超えさせた要因としてキーパーソンの存在と現地からの進出要請の二つが挙げられている。1980年代中頃までの海外出店については,社長あるいは重役が進出を積極的に押し進めた。社長の個人的な判断で進出市場や合併先が決定されることも少なくなかった。社長や重役が社内の合意形成に積極的に関与した,トップダウン的な決断で進出が進んだ。
 これに対し,1980年代後半以降の出店を促した要因は,現地からの要請である。アジア諸国での資産バブルや建設バブルにより,大量の商業施設が建設され,外資小売業に供給された。日本の百貨店やスーパーにも多数の勧誘が寄せられた。日系企業は都心の一等地立地や物件の話題性,自社のイメージへの寄与を優先し,収益性は二の次されていた。この時期の海外進出は,新たな市場の選択や立地点の模索ではなく,進出依頼物件の中からの選定作業として捉えられていた。
 
結論
 筆者のヒヤリング調査を基に,海外進出を促す主体側の要因としてキーパーソンの存在とアジア諸国での商業不動産開発による現地からの要請の二つが挙げられている。

論点
 国内市場と海外市場は断絶されているとしているが,その根拠が述べられていないと思う。

出典:川端基夫(1999)「日系小売企業はなぜ国境を越えたのか-進出要因研究の再検討-」『経営学論集』,第39巻第2号,1-17ページ。

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2005年06月06日

アジアにおける小売業の国際化(矢作 2000)

要約
 小売業において「クロスボーダー(国境超え)による持続的成長戦略の重要性が急激に高まった」ことを受け,この論文ではアジア各国における小売業国際化の実態把握が研究の目的とされている。「資本の自由化,外資参入状況,現地小売業への影響」(91ページ)のデータが集められ,特に失敗の研究に重点を置き,比較分析がおこなわれている。

理論的検討
 小売業の持続的成長の戦略には,品揃えの総合化・品揃えの専門化など,取扱商品の見直しがあり,その延長として業態転換・多角化,新業態の開発があるとされている。しかし,多様な業態が発達している先進国では,これらの戦略による持続的成長の余地は大きくないとしている。ここでは,国境を超えた地理的拡大が持続的成長の鍵を握るという認識の下,アジアにおける小売業国際化の実態の把握が試みられている。そこで,「資本の自由化,外資参入状況,現地小売業への影響」(91ページ)のデータを集め比較検討がおこなわれている。

国際化の展開と背景
 小売業国際化の歴史の概観を通して,次のようなことが示されている。「90年代に入って,国際化は大規模小売業にとってかなり一般的な成長戦略となった」(93ページ)が,現在でもヨーロッパ小売業による国際化の中心は欧州域内であり,「文化圏の異なるアジアへの参入は散発的である」(93ページ)とされている。しかしながら,アジアへの進出が加速している事実も示されている。この背景を説明するため,アジアにおける小売業国際化の要因をプッシュ要因とプル要因にわけ,整理している。ここでは,市場性,法的規制,経営戦略,その他の四つの要素で整理されている。この作業から,「市場性と法的規制におけるプッシュ,プル要因が時期的に見事にかみ合っている」(95ページ)ことが明らかにされている。具体的には,市場性としては,欧米の低い経済成長とアジアの高い経済成長が挙げられ,法的規制としては,欧州の厳しい出店規制とアジアの資本自由化が挙げられている。これらが時期的にかみ合ったことで,欧米小売業のアジア進出が促進されたと述べられている。

国際化のプロセスと参入モードの選択
 ここでは,3つの国際化として,各国の貿易・為替制限から影響を受ける商品の国際化,経営技術の国際移転,各国の資本自由化政策から影響を受ける資本の国際化が挙げられている。この3つの国際化のうち,「商品の国際化と経営技術の国際移転は「業務提携」に含め,資本の国際化は「合弁会社」,「完全子会社」の2つに分け」(92ページ),参入モードの選択問題が考えられている。業務提携,合弁会社,完全子会社,この3つの参入モードそれぞれの特徴が統制,経営資源の投入,ノウハウ等の流出リスクの3つの要素で整理されている。さらに,小売業特有の国際化リスクを回避する手段として,「①業務提携のような低関与型参入により国際化リスクを削減する,②業務提携から資本進出へといった段階的参入方式により現地市場の情報と知識を蓄積し活用する」(96ページ)という2つの方式が示されている。文化的に遠い地域や,外資出資比率に制限のあるアジアで有効な方法として①が紹介され,製造業のように固有の製品やブランドを持つような小売業が利用可能な手段として②が紹介されている。
 
参入後の競争と経営状況
 最後には,アジアにおける小売業のグローバルな競争による,現地の競争や現地市場の構造の変化について述べられている。日本を除いたアジア各国,各地域の現地小売業への影響は深刻であることが示されているが,有力な小売業のアジア進出の成功例が限られていることも示されている。特に,日系小売業の不振が採り上げられ,経営収支構造の問題が指摘されている。現地市場に適合的な収支構造を確立するために3つの問題があるという。「販売管理費自体の適切な管理」,「適切な粗利益率を確保するための商品調達の改善」,「販売効率あるいは在庫回転率」(99ページ)の3つの問題である。日本のスーパーと欧米のハイパーマーケットの経営モデルを比較したところ,日本は高い販売管理費,高い粗利益率,高い在庫回転率の3高,欧米はその逆の3低がその特徴として明らかにされている。日系企業のアジア進出では低い粗利益率と高い販売管理費が,外資専門店の日本進出では高い販売管理費や低い販売効率がその足かせとなったと述べられている。「グローバル化はそれぞれの国で構築された異質な経営モデルが競い合う場」(99ページ)とし,小売業の海外市場進出の失敗の研究を通して,異質な海外市場でのそれぞれの経営モデルの変容を見ていきたいとしている。

論点
 参入モードの選択においては,アジアにおける適切な参入モードなど,もう少しアジアの市場特性等に焦点を当てた詳細な検討が必要であると思う。

出典:矢作敏行(2000)「アジアにおける小売業の国際化」『経営志林』,第37巻第3号,89-101ページ。

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2005年06月04日

事例研究:イオンのアジア戦略(矢作 2004)

要約
 この論文は2003年度に連結売上げ高で国内小売業界ナンバー1の座に付いたイオンのアジア市場参入動向と同社の小売国際化プロセスについて述べられている。イオンは世界小売業トップ10に名を連ねるという「グローバル10」構想を掲げる小売企業であり,アジア戦略を構想の柱の1つに位置づけており,人材面の蓄積についても国内小売企業随一の海外経験者を経営陣に抱える企業であるとしている。ここではその参入状況について第1期と第2期に分けて述べられており,第1期(1985-1994)ではほぼ同時期に参入しながら明暗を分けることとなったマレーシアとタイの事例が中心に述べられており,第2期(1995-)では中国,中でも珠江デルタ地帯における戦略について焦点を当てて述べられている。

1.第1期(1985-1994)東南アジア
 ジャスコ(2001年8月イオンに社名変更。この論文においては社名変更の時期を考慮し使い分けられている)のアジア出店は進出先国や企業からの出店要請をきっかけとするいわば「受動的国際化」であると述べられており,東南アジア進出戦略の特徴として現地市場密着型小売市場の開発にこだわったこと,アジア戦略の首尾一貫性,現地人材登用を重視したこと,国際化を推進する人材蓄積が確保されていることをあげており,ジャスコを「日本のスーパーのなかでは東南アジア市場で首尾一貫して関与してきた唯一の企業である」(88ページ),としている。現時点において「明」のマレーシア「暗」のタイとその成果は二分することとなった。ほぼ同時期にショッピングセンターの開発に取り組んだマレーシアとタイであったが,マレーシアにおいてはショッピングセンターの開発を行い,そこへ核店舗としてするという新たな方針を打ち出すことで成功を納めたが,タイにおいてはショッピングセンターであるラタナティベート店の初期投資負担が格段に重く,また,タイで一般的な委託販売から自主企画商品の開発販売への切り替えに失敗したことにより不振を引き起こし,そのことがサイアム・ジャスコ(ジャスコのタイにおける合弁会社)全体の業績悪化を招き,2004年にはスーパー業態からの全面撤退を余儀なくされる結果となった。この両国の比較から,ショッピングセンターの発展状況・立地条件の違いや,店舗投資パターンや商品政策の経営要因によって経営成果が分かれる結果になったと述べられている。

2.第2期(1995-)中国
 ジャスコは中国において撤退の多い日本企業の中で,上海からの撤退という問題点を除けば,広東省や北部の山東省にタイミングよく参入したと述べられている。その点を象徴するのが,人材面の蓄積であり,海外戦略の成功例であるマレーシア・香港が戦略を推進するための人材供給源になっていると述べられている。香港市場において成功を納めたイオンであったが,今後大きな成長は望めないとの判断から経営資源を活かせる珠江デルタ地帯(広州・深圳・広東省を中心とした広東省一円の地域を指す)に移転して活用するという判断を下した。広州の2店舗については順調に売上げ高を伸ばしたが,それを受けて広州市以外で展開した3店舗については売上げ高が計画を下回り,現地での地域適応を模倣している段階であると述べられている。深圳については顧客の信頼が競合店より高い客単価,購入点数の多さに現れるという店舗運営哲学に基づいた経営を行いながらも,競合店と同一商品,同一ブランドの商品については価格引下げ競争が避けられないため,競争的な価格設定の徹底を行っている。一方,差別化を図ることが可能な生鮮食品や惣菜については,日本食の提案や安心,安全な商品の提供,地域ニーズの発掘・対応の3点を差異化策として打ち出しているとしている。しかしながら,珠江デルタ地帯は有力外資が数多く参入する最激戦地であり,現時点ではイオンは後塵を拝している状況にあるとしている。そして最後に中国においてイオンの出店速度が遅い理由として欧米企業と比べて戦略の明確化が成されていないこと,市場性の差異に適応するのに時間を要し,安定した出店パターンの確立していないこと,原則として現地資金調達でまかなっていることにより財務面で制約があること,本社主導で意思決定を行うこと,出店速度をあげるための経営基盤が構築できていないことがあげられている。 

 結論は次の通りである。今後イオンは戦略の明確化,迅速な市場性の差異への適応,安定した出店パターンの確立,財務面での問題の克服,意思決定を現地主導にすること,出店基盤の構築などの現在の課題を克服し,出店速度を速めることが重要である。

 論点は次の通りである。この論文において,青島ジャスコの成功例についてもふれられていたが,その成功要因についての検討が不足しているように思う。

出典:矢作敏行(2004)「事例研究:イオンのアジア戦略」『経営志林』第41巻3号,81―99ページ。

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2005年06月02日

アジアへの小売ノウハウ移転に関する考察-韓国・台湾への百貨店ノウハウ移転を例に-(川端 2003)

要約
 本稿では,小売業の技術移転問題について論じられており,まず,技術移転問題が製造業を中心とした研究が中心であったことや研究対象がスーパーマーケットに偏ってきたこと等の問題点を指摘した上で,①わが国からアジアへのノウハウの移転,②百貨店業態のノウハウ移転のの実態解明,さらに,韓国,ロッテ百貨店と台湾・中友百貨店の事例研究を基に③どのようなノウハウが,④どのようにして移転されたのかを具体的に検討している。

理論的検討は以下の通りである。小売ノウハウ移転問題を,韓国と台湾への百貨店との提携に焦点をあてて検討されている。まず,主な提携先が韓国と台湾に集中した要因としては,日本との歴史的な関係と,日本小売業が,両国を日本向け商品開発基地として捉えていたことがあげられている。次に百貨店という業態が選ばれた理由としては,1970年代までは韓国や台湾の小売業は既存小売業に店舗内の小間を貸し出す賃貸業の域を出ていなかったことと,製造業や保険業を主とする企業が百貨店を出店にあたり,統一的なコンセプトをもった日本の百貨店のノウハウが重要視されたためであると述べられている。移転されたノウハウの特徴としては,店舗関連のノウハウ項目が大半であり,小売ノウハウの中心的領域であるはずのMD関連や販売関連,業務関連のノウハウは現地環境への適応化が要求されるため,日本のものがそのまま通用しにくいので移転の対象にはなりにくかったと述べられている。続いて,移転手法の実態調査が,高島屋からロッテ百貨店への移転と,松屋から中友百貨店への移転を事例として取り上げながら分析されている。ここでは移転元企業からの長期駐在指導が,移転されたノウハウを日常の全体的な動き,そして諸活動の調整を行う点から効果的であると述べられている。
 
結論は以下の通りである。小売ノウハウ移転に関して重要なのは,移転元企業からの長期駐在指導に加えて,「日本の百貨店の社会的地位や消費者の百貨店への期待などを,経験的に知ることにより,習得すべきノウハウの必然性やその意味を理解」(45ページ)することが重要であるとされている。
 
論点は以下の通りである。小売ノウハウと暗黙知との関係の重要性が指摘されているにも関わらず,小売ノウハウの中の暗黙知に対する検討が十分なされていないところが問題点であると考えられる。

出典:川端基夫(2003),「アジアへの小売ノウハウ移転に関する考察-韓国・台湾への百貨店ノウハウ移転を例に-」,『アジア経済』,第44巻3号,31-49ページ。

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2005年06月01日

ネスレの戦略とマーケティング~欧州多国籍企業の本質~(梶浦 2000)

要約
 この論文は,欧州多国籍企業の国際マーケティングの成功要因について述べている。ここでは,欧州の環境と経営者の志向性の相互関係によって解釈を試み,成功要因を欧州という地域を意識した経営戦略である,としている。欧州多国籍企業の事例として,ネスレの競争優位の源泉を考察している。

Ⅰ.欧州の社会環境と欧州多国籍企業の経営戦略との相互関係
 欧州多国籍企業は,欧州の単一市場において,まず環境的に近縁であるEU市場に標的を合わせた経営戦略をとることで,環境リスクの小さい市場から開発を進めることができる。それによって,多国籍企業としての土台を構築することができる。ここではそのような欧州の社会環境と企業の経営戦略の関係を,独自の特質としている。また,欧州環境における欧州多国籍企業の特徴を表すものとして,吸収合併の多さが挙げられる。EU成立以後,欧州企業の買収が増加していることから,域内単一市場における競争優位を構築するために吸収合併が活発化したのである。このように「経営者の経営視野がEUという地域を標的としている」(77ページ)ことから,欧州多国籍企業の経営は地域志向性を重視していることがいえる。

Ⅱ.ネスレの事例
 欧州多国籍企業の成功事例として,ネスレの四つの競争優位の源泉について述べられている。
①「欧州中心に分散化した多国籍企業化が確立している」(78ページ)
 ネスレは研究開発センターと工場を欧州中心に配置し,また欧州の伝統・文化といった要素を重視した経営を行っていることから,「ネスレが欧州中心に多国籍企業化が分散して進捗している」(79ページ)としている。
②「創業まもなくビッグビジネスとなり,多国籍化も進んでいた」(80ページ)
 ネスレは創業直後に,製品開発において欧州市場で成功したため,比較的早い段階で,多国籍企業化することができた。このことにより早い段階において,欧州において競争優位を確立できたのである。
③「ブランド確保のために合併買収,提携が貫徹されている」(81ページ)
 これはネスレが創業後から継続的に成長できた要因を説明するものである。「ネスレは,創業以来一貫する合併買収,提携という戦略によって欧州ブランドを獲得し,競争優位を保持してきた」(82ページ)とあり,ネスレの競争優位の特質は,欧州ブランドの買収であるとしている。
④「ブランドの維持と管理に成功している」(82ページ)
 多国籍企業においてブランド戦略は,いかに標準化と適応化を行うか,という点が重要である。そこでネスレはブランドを重要度によって階層化することで問題解決をしている。つまり重要度の低いブランドは海外子会社に管理させ,重要度の高いブランドは本社によって展開するのである。さらに重要度の高い欧州ブランドについては,本社の意思決定によって厳格に管理することによって重要に取り扱われている。このように「ネスレのブランド戦略は,欧州ブランドを機軸に展開されているのである」(83ページ)

 結論は以下のとおりである。ここでは欧州多国籍企業の経営戦略の成功を,ネスレの事例を通じて述べてきた。ネスレは経営の思考や行動を欧州の地域性によって規定し,欧州中心に分散化した多国籍企業化を成功することができた。このように欧州多国籍企業は,欧州を意識した経営スタイルをとること,「ローカルを考え,グローバルに行動する」(83ページ)ことによって多国籍企業としての競争優位を得ることができた,としている。

出典:梶浦雅己(2000)「ネスレの戦略とマーケティング~欧州多国籍企業の本質~」『Business Research』,74-83ページ。

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2005年05月31日

日本の小売企業の国際化(田口 1989)

要約
 日本企業の海外進出は円高により一段と活発化し,製造業だけでなく,流通業やサービス業にまで拡大し,国際化戦略が流通企業においても重要問題となっている。この論文では,小売業の国際化に焦点をあて,背景と歴史について述べられている。さらに,最近注目されている仕入れルートの多様化についても論じられている。

国際化の歴史と背景 
 小売業国際化は戦後の高度経済成長と供に始まっている。この時期の日本の小売企業は,欧米先進諸国に集中的に進出している。先進流通技術の導入や高級ブランド品の仕入れルートの確立を目的とし,現地日系人や日本観光客を顧客としていた。また,欧米先進諸国の参入が,革新的な流通技術の導入を可能にし,日本企業の国際化への意識を高めさせた。しかし,80年代の国内市場の成熟と円高により,国際化のパターンに変化が起こった。海外仕入れルートの多様化が行われるようになった。従来の海外仕入れルートの他に,直接輸入,開発輸入,並行輸入という多様なタイプが発展している。
 直接輸入は,「小売企業が卸売企業などを経由せずに直接海外から商品を輸入すること」(58ページ)である。直接輸入は,中間を通さないため価格の低下が期待できる。これまでの直接輸入は,大手小売業になどによる有名海外ブランド商品に限られていた。しかし,円高の影響によって直接輸入の対象商品が拡大し,有名ブランド品に限らず実用性・機能性を特徴とする商品にまで広がっている。
 開発輸入とは,小売企業が主導権を持ち商社や国内メーカーと提携した形でプライベート・ブランド商品の生産や海外メーカーへのOEM発注などである。開発輸入による商品では,より消費者の要求に応えられる製品が生産することができる。

結論
 円高が小売の国際化について大きな影響を与え,今までの後発型の国際化パターンから多様な国際化タイプへと変化をもたらしている。

論点
 円高という企業の外側の環境を国際化パターンの原因としているが,企業の内要因変化についても考えるべきだと思う。

田口冬樹(1989)「日本の小売企業の国際化について」『専修経営学論集』,第47号,45-80ページ。

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2005年05月30日

業態識別要件としてのイノベーション(坂田 2004)

要約
 この論文では,新業態が生まれる際に生じたイノベーションが,小売業態の識別要件となりうるかという問題について検討されている。まず,小売業態とイノベーションの関係を扱った既存研究のサーベイが行われている。イノベーションにより新業態が他業態と識別されるという仮説が既存の小売業態論のサーベイから導き出されている。次に,その仮説の検証が行われている仮説の検証にあたり,百貨店,スーパー,コンビニといった日本における代表的な小売業態の変容の歴史の概観がなされている。

既存研究のサーベイ
 既存の小売業態論のサーベイから得られた示唆は次の通りである。小売業態の進化においては,新しい小売業態が「何らかのイノベーションを伴っていなければならない」(53ページ)ということがまず示されている。さらに,新しい業態が何らかのイノベーションを伴って生まれる時,そのイノベーションが,消費者の目に直接触れる部分である小売業務,いわゆる小売ミックスに反映されることで,そのイノベーションは他業態との識別要件となりうるとされている。
 これらを踏まえ,イノベーションにより新業態が他業態と識別されるという小売業態論の仮説の検証を行うことにしている。それにあたり,小売業務レベルでのイノベーションに焦点をあてながら,百貨店,スーパー,CVSといった日本における代表的な小売業態の変遷の歴史を概観している。

小売業態の変容
 百貨店の誕生においては,現金正札販売,陳列販売,取り扱い品目の拡大,店内への土足入場の4つのイノベーションが,既存の業態との識別要件となっていたと述べられており,小売業態論の仮説は支持されている。
 スーパーにおいては,セルフサービスによる販売とそれに伴う設備やシステムによる,比較的安価な商品提供が,イノベーションとして挙げられ,この点において仮説は支持されるとされている。しかしここでは,新業態の特徴は革新性で説明できるが「既存小売業態にもその説明が当て嵌まるのか」(58ページ)ということが問題とされている。百貨店におけるイノベーションも備えた上で,さらにセルフサービスによる販売というイノベーションを伴ったスーパーの生成によって,百貨店の革新性は失われたといえるが,それでも百貨店とスーパーが異なる業態と認識されるているのはなぜか。これを説明するものとして業態間の模倣と差別化が示されている。
 スーパーによるセルフサービス導入が,百貨店の対面販売重視による差別化を促し,その結果,対面販売がスーパーと百貨店の識別要件となったと述べられている。これにより,「既存業態との差別化によって新業態が生み出され,その新業態との差別化を図るために既存業態が変容していくという構図」(59ページ)が示されている。
 さらにまた,百貨店の食料品売場におけるセルフサービスの導入や,スーパーの深夜営業など,業態の境界線が曖昧になっていることが示されている。これは,小売業務の模倣によって生じるとされている。それでもそれぞれ別個の小売業態として認識されているという状況が示され,この状況を既存の小売業態論は説明しきれないという指摘がなされている。このことから,「業態の境界あるいは定義は定数としてではなく,競争に応じて変化していく変数としてとらえるべき」(61ページ)と述べられている。

結論
 これらの検討を踏まえた結論は次のとおりである。「小売業者は絶えず模倣と差別化を行っていくため,業態をイノベーションによって識別しえない」(61ページ)。しかし,小売業務以外の部分で生じたイノベーションが小売業務に反映されていること,その小売業務が模倣困難であること,この二つの条件のいずれかが満たされればイノベーションは識別要件となりうるとされている。最後に既存の小売業態論についていくつか指摘が与えられている。第一に,これまでの研究では差別化の視点はあったが模倣という視点が欠落していたこと,第二に業態を識別する認識主体別の分析がなされていないこと,第三に「近年の小売業態論は小売業者が競争優位を築くための業態を分析するのだということを暗黙のうちに想定してきた」(62ページ)ことによる理論の限界が指摘されている。

論点
 論点は次のとおりである。結論で「近年の小売業態論は小売業者が競争優位を築くための業態を分析するのだということを暗黙のうちに想定してきた」(62ページ)ことによる理論の限界を指摘しているが,この指摘は小売業態研究の目的そのものを問うているものと理解される。ではなぜ,この論文において小売業態を識別しようとしているのか,その目的が不明であると思われる。

出典:坂田隆文(2004)「業態識別要件としてのイノベーション」『中京商学論叢』第51巻第1号,51-64ページ。

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2005年05月28日

小売企業のグローバル戦略における現地の消費者―萌芽的研究の文献レビューを通じて―(白石・鳥羽 2003)

要約
 この論文は多文化型業態の可能性について提案することを目的としている。事例としてカルフールの日本進出があげられており,カルフールが日本の消費者の支持を得ることができなかった理由を,日本の消費者がカルフールに対してフランス的なものを期待したにも関わらず,実際には日本型のGMSと化してしまったことにあるとしている。異なる条件で生起し,発展してきた外資系小売企業は海外市場において容易に受け入れられるものではなく,何らかの差別的優位性を訴求しながら海外進出を行うと考えられるが,その優位性が現地消費者にそのまま受け入れられるとは考え難い。筆者はこの差別的優位性を海外市場においても発揮しうる手法であるとして多文化型業態を紹介し,その構築の必要性について明らかにしている。

 理論的検討は次の通りである。この論文はわが国におけるカルフールの展開事例を通じて,1つの対応策として多文化型業態構築の必要性について述べられている。日本の消費者はカルフールに日本型GMSでもフランスのハイパーマーケットでもない架空的な,日本の消費者が持つイメージにおいてのフランス的な部分を期待したが,実際には過度の現地適応化を実地したため日本型GMSと化し,消費者の不評の声を呼ぶこととなった。このことに対する対応策として多文化型業態の可能性について提案されている。多文化型業態とはエスニック型の小売店とメインストリーム型小売店が共存する社会において,エスニック型の小売店は自民族を,メインストリーム型の小売店はローカルの消費者を主なターゲットとしつつもお互いに提供し合い,異文化を提供する文化的な媒体者となり,補完的に存在するといった役割を担う小売店のことであると述べられている。筆者は海外進出を行おうとしている小売企業にとってこのような機能は有効な手段となり得るとしており,グローバル小売企業はこれまでの経験を反映するだけでなく,事前にフィージビリティー調査等を行い,現地の消費特性によって修正を試み,こうして,さまざまな規定要因の作用を受けながら提供物(オファーリング)をもたらすとしている。しかしながら,このようなプロセスを通じてもグローバル企業によってもたらされた提供物と現地の消費者が求めるものの間にはギャップが発生することがしばしばあり,それは,現地消費者の購買行動においての様々な規定要因が複雑に関連し,それが現地消費者の求めるものとして具現化されることに因ると述べられている。 多文化型業態を構築する際には,文化的に各国の消費特性を捉えることが重要であり,また,「実験的な初期展開を通じて経験的にフィードバックして行くことも必要である」(65ページ),としている。

 結論は次の通りである。多文化型業態を構築することは,グローバル小売企業が提供するものと現地消費者が求めるもののギャップを埋めるための媒体として必要であり,また,グローバル小売企業の大きな課題として,海外市場における文化的コンテクストに埋め込まれた消費特性について理解することがあげられている。

 論点は次の通りである。カルフールが日本において不評であった原因については,単にカルフールが日本型GMSと化したことのみで説明できることではないのではないだろうか。

出典:白石善章・鳥羽達郎(2003)「小売企業のグローバル戦略における現地の消費者―萌芽的研究の文献レビューを通じて―」『流通科学大学論集―流通・経営編―』第16巻第2号,49―68ページ。

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2005年05月27日

台湾における日系百貨店の成功要因(朱・葉 2003)

要約
 この論文は,日本が不況の中,日系百貨店の成功要因について述べられている。台湾に進出している日系百貨店は著しい成長過程にあるが,台湾の一人当たりの所得に占める百貨店への消費支出がアメリカが30%と日本が20%に比べ,台湾は1.5%である。この事から,これからの成長余地がありそうである事から,日系百貨店の台湾進出を考察され,経営管理方法が具体的に分析されている。

 理論的検討は以下の通りである。1996年から2001年までの台湾百貨店業界の売上高の成長率は年平均7.05%と維持されてきていたが,2002年から落ちてきている。既存百貨店の約4割が伸び悩んでいる状況の中,日系百貨店は売り上げが好調である。そこで,台湾における日系百貨店の成功要因を検討されている。

Ⅰ.台湾の現状
 台湾政府は,地域均衡発展のために,公共施設に大量投資をしている事が流通業の発展促進につながっていると考えられている。また,2003年の台湾経済研究員の予測調査によると,台湾本島と世界の経済情勢が,台湾の流通業に最も重要な影響力を持っており,アメリカや日本などの影響に左右されやすいと示されている。もともと,1611年に日本初の百貨店が創業されて以来,次々と呉服屋が百貨店へと転換し,市場シェアを向上させたが,1972年以後は,売上高が下がっていったのがプッシュ要因となっている。

Ⅱ.台湾進出モデル
 台湾百貨店の第一号店は,1928年に日本人によって創立された「菊元百貨」であるが,当時国民所得が非常に低かったため,一般的な消費者が百貨店で買い物をすることはあまりなかった。1972年以後は,国民所得も上がってきたので一般消費者も百貨店で購買するようになったが,百貨店同士の激しい価格競争になり,大手百貨店などは日本人専門家によってノウハウを習得した。1980年以後は,台湾に多くの華僑系・外資系百貨店が進出した。その後,外資との提携ブームとなった。1990年代に入り,多くの日本百貨店が台湾の百貨店と合併した。そして,大都市以外にも中型都市にも出店され,百貨店業界の競争は激化していった。

Ⅲ.日系百貨店の経営管理モデル
 日系百貨店の経営管理モデルは大きく2つに分けられる。1つは,技術提携モデルで,日系側が台湾側に技術と管理サポートを行うと同時に,日本の百貨店商品を店頭に置くなどの店舗差別化をはかった。もう1つは合資提携モデルで,日本流通業の最も一般的なモデルとされている。コストダウンとリスクの最小化を目指すために最適なモデルとされている。経営管理モデルの成功要素は計画,組織構造,指導方式,コントロール方式とされている。まず,計画とは,合弁するにあたって,合弁相手の調査や詳しい契約内容の話し合いなどが含まれる。次に組織構造とは,本社と台湾合弁企業の地位設定と合弁会社内部の人事についてである。指導方式は,経営管理者を日本本社から派遣して日本百貨店のノウハウを普及させることである。コントロール方式は,目標を達成するために,計画や組織構造を調整することである。

まとめ
 台湾では今や百貨店とコンビニエンス・ストアの合計売上高が総合小売業の売上高の50%以上を占めている。この成功要因として,日系百貨店が開店当初よりも以下のように現地適応化してきているものが多い。組織構造や指導方式は台湾の現地従業員が運用しており,コントロール方式も現地適応化している。品揃えも差別化をはかり,ますます競争優位を高めている。また,情報システムの整備により効率性も上がってきている。今後の課題としては,台湾で日系百貨店を成功へと導いた管理者を他の事業でも活用できないかという事が述べられている。

出典:朱國光・葉翀(2003))「台湾における日系百貨店の成功要因」『流通科学大学論集―流通・経営編―』第16巻第2号,101-112ページ。

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2005年05月26日

小売業国際化の推進力(田村 2004)

要約
 この論文では,既存のホランダー,カッカー,トレッドゴールド,ウィリアムズやアレキサンダーらによる小売業国際化研究が特定国ないし,特定地域の企業データにかたよっていること,また国際化企業のみを対称とした研究であり,非国際化企業を対象としていないという問題点を指摘し,自らの実証研究により,よりグローバルなレベルでの小売業国際化の推進力が何であるかを明らかにしようとしたものである。
小売業国際化を推進する要因には大きく分けて,①本国市場の飽和化,②外国における市場機会,③企業戦略特性によるものだと述べられている(4ページ)。
結論は,小売業国際化の推進力する要因となる変数は,企業規模,本国市場小売販売額成長率,専門店ダミーであり,さらに小売業国際化を進展させる推進力となる要因は,小売フォーマットの競争優位性に基づくヨーロッパダミーと,企業成長率であるとし,ホランダーの主張に加筆修正する形で「国内市場機会の消滅は,競争優位性に基づき成長力の高い挑戦者企業にとっては,国際化の強力な推進力となる。」(p,24)としめくくっている。

理論的検討は以下の通りである。既存の小売国際化研究が,特定の地域,特定国の企業データにかたよっていること,国際化企業のみを対象とした研究であり,非国際化企業を対象に入れていないことを問題点として掲げ,よりグローバルな適応可能性を見出すため,小売業売上世界ランキング100位に入る企業の1996-1998年データを用いて研究されている。
小売業国際化の推進力となる要因は大きく分けて3つあり,①本国市場の飽和化,②外国における市場機会,③企業戦略特性によるものだと述べられている。さらに本稿では,①の本国市場の飽和化,③企業戦略要因が企業の国際化を示す指標となる国際化ダミーをどのように指定するかに注目している。そこで,本国市場占有率,小売販売額シェア,専門店ダミー,本国市場小売販売額成長率,企業売上高成長年率,企業規模の6つの変数を用いて実証分析がなされている。
 
実証分析は以下の通りである。小売業国際化推進力となる3つの要因についてここでは,線形回帰モデルが,従属変数のとる値の上限,下限の境界問題等により適切でないとし,ロジットモデルを採用し,ロジスティック回帰分析が行われている。本国市場占有率,小売販売額シェア,専門店ダミー,本国市場小売販売額成長年率,企業売上高成長率,企業規模の6つの変数を用いた分析の結果,企業規模,本国市場小売販売額成長年率が最も小売業国際化影響を与えており,続いて,専門店ダミーが強い影響力を持つ。一方,本国市場占有率や小売販売額シェアなどは,小売業国際化に直接的な影響は与えないと述べられている。ここで重要なのは,企業売上高成長率についての結果であり,近年の小売国際化の研究では,市場の飽和よりむしろ,企業の成長志向,競争優位性が国際化のより重要な推進力であるという点であると述べられている。
さらに本稿では,小売業の国際化進展の推進力についても研究されており,外国売上高,外国売上高依存率,活動国数の3つの指標により分析がなされている。まず,国際化進展度により,対象企業を①進展企業,②市場拡張型進展途上企業,③市場深耕型進展途上企業,④未進展企業の4つに分類しクラスター分析を行った結果,国際化の進展パターンには2通りがあることが発見されている。1つは,活動国数を増やし,その後市場を深耕することにより外国売上高を増やしていく市場深耕型,もうひとつは,まず,活動国数を絞り,それらの市場を深耕することにより外国売上高を増やした上で,後に活動国数を増やすといったパターンがある。ここでの特徴は,ヨーロッパ小売業は国際化進展企業に多く見られ,小売国際化の先導企業であるという点である。ヨーロッパ小売業は,企業売上成長率を高めるために効果的に国際化していると述べられている。
 
結論
小売業国際化の推進力については,「国内市場機会の消滅は,競争優位性に基づき成長力の高い挑戦者企業にとっては,国際化の強力な推進力となる。」(24ページ)と締めくくられている。
 
論点
ヨーロッパ企業が非ヨーロッパ企業に比べて,国際化進展度が高い企業が多いことは述べられているが,非ヨーロッパ企業がなぜ国際化進展度を高め企業成長できていないかの要因についての言及がないように感じられる。

出典:田村 正紀(2004),「小売業国際化の推進力」『流通科学研究所モノグラフ』,No.59。

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2005年05月25日

グローバル事業創造と持続的競争優位性構築(高井,斉藤,竹之内,岸本 2000)

要約
 近年,技術と市場環境が絶えず変化し続けるハイテク業界では,企業の売上げ順位は大きく変動しており,企業が持続的に成長することが困難であることを示している。この論文では,このような企業の成長差を説明するため,企業の組織能力に論拠を求め,組織能力を構成する要因を,グローバル・ベンチャーの事例を取り上げ考察することで,組織能力を構成する要因を見出すことを目的としている。ここでは事例として,日本のハイテク業界のグローバル・ベンチャーであるナナオ,アライドテレシスを取り上げている。

Ⅰ.事例研究
 まず,ナナオの事例について。家電製品の下請け企業であったナナオは,高い技術力をもって海外市場に参入する事業創造を行った。しかし,自社製品の品質へのこだわりから,価格低下という市場の変化に適合できなかった。その対応として,ナナオは品質重視の戦略のコア部分は変えずに,コスト戦略をも考慮した戦略に転換するとともに,製品についてのサービスの供給を行い他者と差別化するなど,複数の競争優位性を持つことで,持続的競争優位性を構築することに成功した。
 次に,アライドテレシスの事例について。LANについて技術先進国であるアメリカ市場に後発的に参入したアライドテレシスは,徹底したコスト戦略を行う事業創造を行った。また,「技術レベルの高い国で開発し,コスト競争力の強い国で生産し,市場の大きい国で販売する」(52ページ)つまり,低価格で質のよい製品を市場に投入するというビジネス・モデルの戦略を一貫して追求することで,競争優位性を持続させた。グローバル・ネットワークを確立することで,スピーディな環境適応を生み出したのである。

Ⅱ.事業創造から持続的競争優位のプロセス
 両企業の事業構造の成功要因として,「高い技術力を武器に製品やシステムの完成度を高めた」(54ページ)点が挙げられる。しかし,高い技術性をもったとしても,市場ニーズに対応した戦略をとらなければ市場において成功しない。そこで両企業はさらに,市場ニーズを捉えつつ,自社の強みが生かせる戦略を立てたことが事業創造においての成功要因であったとしている。そして,変化し続ける市場環境で持続的に競争優位を保つために,複数の競争優位性を持ち,市場環境の変化に対応して,強みを変えること,また市場への柔軟性を創り出すために,「環境の変化が激しいほど,逆にその環境の中で,中核となるようなモデルや,核となる戦略思考が必要となる」(56ページ)とし,一貫したコア技術の必要性を示唆している。

結論は次のとおりである。これまでのベンチャー企業は卓越した技術をもって市場でのシェアを獲得する,技術特化戦略が特徴であった。しかし,両企業は技術力と市場戦略の両方を重視する組織能力をもつことで,大企業との競争に対抗することが可能であったとしている。しかし,今回は分析した事例が二社であることから,今後の課題として,「事例を積み上げることで導き出したインプリケーションの普遍性を検証していく必要がある」(56ページ)としている。

出典:高井 透・斉藤泰裕・竹之内秀行・岸本寿生(2000),「グローバル事業創造と持続的競争優位性構築」『世界経済評論』2000年8月号,45-56ページ。

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2005年05月24日

プライベート・ブランドと小売市場(関根 1999)

要約
 最近PB(プライベートブランド)が話題を集めている。特に,価格訴求のものではなく,高品質でNBに対抗することが目的のプレミアムPBに注目が集まっている。PB開発は大手小売商が製造業との提携によって行われる。こうしたPB開発のための組織化は小売市場の競争にどのような変化を及ぼすのかをPBを題材に検討されている。

1.PBの概念
 PBは「生産者ではなく製品の再販売業者によって設定されるブランドで,稀に生産者が再販売業者の場合もある」と定義されてる。
 小売商のPBには主に3つ種類がある。「ジェネリック商品といわれるもので,商品にブランドを設定しないもの。製品に小売商の店舗名や店舗名を表すロゴを付すもの。店舗名とは別に小売商が独自のブランドを設定するもの」(161ページ)。
 PBの開発において小売商が,新製品開発の一連のプロセスをすべて自分で行う必要がない。しかし,メーカーが最終的に商品化の意思決定を行う場合,それは本来の意味でのPBとはいえない。ここでは,「PBを商業者や消費者が製品の仕様書を自ら作成し,準備した商品に自ら設定したブランドとし,その主体としては主に小売商を想定」(162ページ)している。

2.PB商品の開発とチェーンストアの発展段階
 PBを設定する小売業の多くはチェーンストアである。PB商品の開発はチェーンストアの発展と関係がある。チェーンストアの発展段階には,量的発展と質的発展がある。「量的発展とは,チェーン化によって販売量が増加する段階である」(166ページ)とされている。ここでは,集中的な仕入れにより支払い条件などで有利さを発揮できる。「質的発展は,拡大した販売力を背景にPB商品を開発する段階」(166ページ)とされている。つまり,PB商品開発には,チェーン全体の販売量が生産の採算の取れる生産量を超えることが必要条件である。そして,PB商品は低価格,低品質の棲み分けPBから,消費者の一層の信頼獲得を得て,品質や価格を引き上げ,NBと対抗できるプレミアムPB開発の方向に進んできている。

3.PBと小売市場
 PB化の進展は小売市場の上位集中化と密接な関連をしている。小売市場の上位集中化は,チェーン化による大規模を意味しており、規模の利益,範囲の利益を発揮することによりPB化を推進することが出来るからである。そして,PB開発のための小売企業と生産者の組織化により,競争形態は同一の水平段階から,垂直的にグループ化されたVMS(垂直的マーケティングシステム)間での競争へと変化が起こっている。

 最後に,従来の研究においては,PB開発のために組織化が行われた場合,競争が促進するのか減殺するのかというという視点が欠落しているということを著者は指摘している。さらに,「小売市場の集中度が高まるとPB開発は進むが,その場合,生産者市場と同様,小売市場でも寡占化の弊害を顕在化させる危険がある。どういう条件が備われば小売市場を活性化させるのか」(176ページ)ということが今後の研究課題として挙げられている。

論点
 この論文では,これからの競争は,垂直的な組織化同士の競争になるとされているが,プレミアムPBの開発においては,生産者のライバルとなる商品を開発することにメリットはなく垂直的な組織化が行われるとは思えない。

出典:関根孝(1999)「プライベート・ブランドと小売市場」『専修商学論集』第69巻,159-177ページ。

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2005年05月23日

イオングループにおけるパートナーシップの展開(山本 2003)

要約
 この論文は,イオングループにおける供給業者とのパートナーシップを取り上げ,そのパートナーシップの成果を活用して進められている,イオングループによる流通システム変革の問題を検討している。まず,「イオングループが複数のパートナーシップから得た成果を整理し,どのような形で流通システムの変革に利用されているかについて分析」(106ページ)している。さらに,イオングループによる流通システム再編から生まれたコンフリクトを分析している。これらの分析を行うことで「今後,流通システムの合理化を目指す企業にとっての課題」(106ページ)を明らかにしようとしている。

 まず,イオングループによる供給業者とのパートナーシップの歴史に少し触れた後,その成果と問題点を整理している。
 パートナーシップから得られた成果としては,作業量の削減による人件費などのコストの削減,「正確性と即時性を備えた情報システム」(108ページ)の構築による,品揃えの充実と在庫の削減,情報の共有と利用,新商品の開発の可能性が挙げられている。
 しかし,パートナーシップの対象となる商品は,パートナーが取り扱う商品に限られるため,「①個別企業との間で成果が出ても財務内容に現れる効果は非常に小さく,また,②パートナーシップを利用したシステムと既存のシステムが並存する」(111ページ)という問題点が挙げられている。この点から,パートナーシップで採用したシステムを,小売業が取引する全ての企業に広げていくことは必然的であると述べられている。
 それを受けて,次にこのパートナーシップの成果をイオングループ全体に広げていく動きを分析している。イオングループが打ち出した,マーチャンダイジングとロジスティクス分野における戦略IT構想の検討を通して,「情報を軸に業務を改革していく過程」(116ページ)を見ている。戦略IT構想の目玉である,ODBMSというシステムの導入により,小売業の業務全体をカバーできる統合的な情報システムの構築,省力化による業務の効率化,販売情報の獲得と活用による品揃えの適正化が実現されたと述べられている。
 そして,イオングループの戦略物流構想による,ロジスティクス網の再編についても検討がなされている。中間流通をイオングループが自ら行おうとしたものであるが,これにより「イオングループとメーカー,卸売業の間にはさまざまなコンフリクトが発生している」(116ページ)とし,このコンフリクトについてさらに分析を進めている。
 イオングループの新しいロジスティクスシステムが「目標とする能力を発揮しておらず,メーカーがイオングループとの直接取引をするのを足踏みしたり,直接取引を中断したりするケースが見られている」(125ページ)その要因を検討している。イオングループがメーカーに要求している物流費や,イオングループとの直接取引を行う一方で卸売業との帳合を残すメーカーの存在,社内の混乱,ロジスティクスの不備,卸売業との関係悪化をはじめとする企業間の関係の問題が,その要因として挙げられている。

結論
 結論は次のとおりである。自社主導による流通システムの構築において生まれた,多くのコンフリクトを克服するには,「メーカーがイオングループとの取り組みに対してメリットを感じられるようにしなければならない」(126-127ページ)と指摘し,「イオングループはこれらメーカーと交渉を緊密にしながら,新たな企業間関係を育て,可能な限りWin-Winの関係に近づけていくことが期待される」(127ページ)と述べられている。最後に,これらのコンフリクトをどう克服するかについて注目していきたいとしている。

論点
 論点は次のとおりである。新しい流通システムの概要について示されている部分では,「ロジスティクスシステム能力の獲得が今後の重要課題である」(121ページ)と指摘されているにも関わらず,結論ではその指摘が欠落している。ロジスティクスシステムが不十分であれば,いくら企業間関係が改善されても,イオングループの利得につながらない。この論文で言われているWin-Winの関係を目指すには,流通システム再編の基盤となるロジスティクスシステムそのものの詳細な検討も必要とされるだろう。

出典:山本敏久(2003)「イオングループにおけるパートナーシップの展開」『立命館経営学』第42巻第4号,105-127ページ。

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2005年05月21日

小売マーケティング概念に関する一考察(佐々木 2004)

要約
 この論文は「製造業などのマーケティングと共通した側面をもちつつも,独自の活動として展開される小売マーケティングの特質」(126ページ)について明らかにしている。「小売業なかでも大規模小売業の諸活動が活性化し,その地位が向上するにつれて,今日では小売業にまでマーケティング概念が拡張されている。ここではまず,「小売マーケティングと製造業のマーケティングや販売との相違を検討し」(125-126ページ),小売マーケティング・プロセスがマーケティング環境,マーケティング・ミックスの順で述べられている。最後に小売マーケティングの特質をいっそう明らかにするための課題として,「小売マーケティングの生成過程の考察」,「マーチャンダイジング概念の歴史的検討」,「小売マーケティングにおける物的流通の側面の位置づけ」があげられている。

1.小売マーケティングの特質
 まず,小売マーケティングは製造業のマーケティングとは異なり,「最終消費者と直接に接し流通過程の最終段階」(127ページ)に位置し,「流通過程でのみ作用するものである」(127ページ)。また,小売マーケティングはマーチャンダイジングを主要な内容とし,「商品販売においては,価格が非常に大きな競争上の要素となることと,販売行為そのものがきわめて即時的」(127-128ページ)であり,「有形財のみならず店舗やサービスを含めた全体的な雰囲気が重要となる」(128ページ)といった点で製造業のマーケティングとは異なる。また,小売マーケティングと販売の相違については,販売は「顧客ニーズの充足を図る観点が弱いことと短期的な計画にもとづいて」(128ページ)遂行されるのに対し,マーケティング・コンセプトは,「顧客ニーズにもとづいて総合的なマーケティング活動が実践され,顧客満足をつうじた利益の達成が志向される」(128-129ページ)。「対市場活動として機能する販売とマーケティングの相違」(129ページ)は,生産と消費の矛盾が激化し,小売業においても市場活動が意識されたという歴史的背景に求めなければいけないとしている。大量生産の確立と製造業のマーケティング活動が活発かする中,大量の既存製品や新製品を円滑に販売するために,従来的な販売活動では対応できず,小売段階でも体系的な対市場活動としての小売マーテティングが要請されたと述べられている。「販売と小売マーケティングの差異は,市場への関心や働きかけの強さという量的な側面ではなく,対市場活動の中身にかかわる質的な側面で理解されなければならない」(130ページ)。また,小売マーケティングは,小売形態と不可分の関係にあり,小売形態・業態の決定や開発が小売業にとって固有のマネジメント課題」(131ページ)になるとしている。そして,様々な学者の見解に共通するのは標的市場の重要性であり,「設定された標的市場にたいして小売マーケティングは小売形態ないし業態と連動した諸政策,諸活動を適応していく」(132ページ)としている。

2.小売マーケティング環境と小売マーケティング計画
 小売マーケティングに影響をおよぼす要素はマクロ環境とミクロ環境からなり,マクロ環境要因についてここでは制度的環境要因・経済問題・マクロ環境要因についてふれられている。ミクロ環境は「直接的及び間接的競合他社,消費者団体,その他の利害関係者」(134ページ)を意味する外部環境要因,サプライヤーとの関係,ほぼ従業員と労働組合に集約される内部環境要因,消費者からの影響があるとしている。「消費者は小売マーケティングにとって,環境要因であると同時に,マーケティング対象である」(137ページ)と述べられている。小売マーケティングの環境の特徴としては,サプライヤーとバイヤーの影響を強く受けるということがあげられる。「流通過程の最終段階にあり消費者と直接する小売業のマーケティングにとって,消費者というミクロ環境要因はいっそう大きな位置を占める」(138ページ)としている。このような様々な環境要因を考慮したうえで,小売業者の目的が設定される。「その目的にあわせて,マーケティング機会の分析がおこなわれ,マーケティング目的が設定される」(138ページ)。「小売マーケティング目的のために策定されるのが,小売マーケティング計画」(138ページ)である。小売マーケティング計画は,長期的な戦略計画と短期的な戦略計画に分類でき」(139ページ),「長期的観点と短期的観点をあわせもつマーケティング計画の二面性ゆえに,小売マーケティングの諸活動も,戦略レベルとオペレーショナル・レベルで展開されることとなる」(139ページ)。「小売マーケティング計画において,具体的なマーケティング目的はマーケティング課業(Marketing Task)として設定され,それに応じた小売マーケティング活動が対置されることとなる」(139ページ)。小売マーケティング計画についてはコトラーが「マーケティング・プロセスのもっとも重要な要素の1つ」(139ページ)と主張している。

3.小売マーケティング・ミックス
 「小売マーケティング計画が確定されると,マーケティング・ミックスを含むマーケティング戦略が作成される」(140ページ)。小売マーケティングでは,それぞれの店舗が競争優位確立のために小売ミックスの要素を組み合わせて戦略を練り上げるため,小売ミックスの店舗における組み合わせが重要となる。「マーケティング・ミックスは企業が標的市場においてマーケティング目的を達成するさいの,マーケティング・ツールの組み合わせ」(140ページ)であり,4Pに集約されることが多い。小売業におけるマーケティング・ミックスの場合,定説は確立されていないが,4Pに沿って分類を行うことが有意であるとして,4Pに沿った分類を行っている。まず小売業の製品政策の主な活動は,品揃え形成におかれ,「これには取扱商品の数量や種類のみならず,ブランドの選定やPB 商品の開発も含まれる」(141ページ)としている。また,在庫管理も重要であり,小売業の製品政策においてマーチャンダイジングは主要な位置を占めることになる。そして,小売業の提供する「製品」はサービスや店舗の雰囲気といった要素まで包含すると考えられる。次に「小売業の価格政策は,寡占製造企業との対立と協調の関係において考慮されるべきものである」(145ページ)としている。また,大規模小売業は多様な方法で値引き販売を実施するが,これらには「製造企業からの販売やリベート,協賛金などが原資として作用している」(145ページ)。小売業のプロモーション政策としては,「広告,販売促進(狭義),パブリックリレーションズ,大量販売」(146ページ)から構成される。Placeについては小売業の立地政策が大きな位置を占めるとしている。

 結論は次の通りである。「小売マーケティングは製造業のマーケティングにおいて醸成されたコンセプトや諸技法を取り入れ」(147ページ)てきたため共通した側面をもちながらも,「それを小売業独自のものとして発展させてきた」(147ページ)と言える。

 論点は次の通りである。石原氏のマーケティングの定義に基づくと,マーケティングを行うのは寡占的製造業であり,小売業がマーケティングを行うかといった議論が不足しているのではないだろうか。

出典:佐々木保幸(2004)「小売マーケティング概念にかんする一考察」『大阪商業大学論集』第133号,125-148ページ。

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2005年05月20日

グローバル小売企業の創造的適応プロセス―日本市場におけるカルフールの事例を通じて― (白石・鳥羽 2004)

要約  この論文は,世界の小売企業売上高ランキング第2位で,ハイパーマーケットという新しい業態を生み出し,海外市場で先発者利益を得たカルフールの日本進出における戦略について書かれている。小売業が海外進出する時の戦略についての既存研究で欠如している点は,戦略類型を集計水準に基づき類推で分析していて,結果に至ったプロセスを明確にしていない点と,現地での企業行動を認識する集計水準が明確化されていない点とされている。カルフールが日本進出した要因は,出身国市場における市場の飽和と,対日貿易赤字を解消する為にフランス政府が促進したことなどである。日本市場に参入する時,オーガニック型を選択したのは,リスクを覚悟してでも進出する価値があると考えられたからです。2000年の開店当初の売上は予想よりも好ましくなかったが、2003年には売上高が前年比10%も増加している。その要因について検討されている。

理論的検討

小売企業が海外進出した際,各国の市場特性という障壁を乗り越える為の海外市場における小売企業の適応行動について検討する。

Ⅰ.日本進出後の業態戦略

 開店当初は,フランス流に興味を持った消費者が大勢押し寄せたが,カルフールは日本に現地適応化しすぎたせいで,フランス風を期待していた日本の消費者との顧客志向の違いが出てきた。だからといって,現地適応化を全くしなくてもよいというわけではないので,今までの失敗例をふまえてカルフールは独自で顧客調査を行い,日本の消費スタイルにあわせて,欧州商品の輸入販売を増加した。そして,外資系企業らしいイベントや施設も充実させていっている。

Ⅱ.商品調達システム

 第1号店開店する時に充分な商品の仕入先を確保できなかったことも開店当初の消費者の不満の一部でもあった。原因としては,取引条件を強気に出したことや,今までその卸売と取引していた小売企業から圧力をかけられていたことがある。しかし,外資系流通企業との取引を考えている卸売り企業が40.7%もある。今後はバイイングパワーを訴求しながら直接取引を実現していく。

Ⅲ.マネジメント
 初代店長がフランス人であり,日本の習慣や礼儀を知らなかったので,販売員への指導が不十分だったことや,語学能力優先で人材を採用したので,接客未経験の従業員が次々と辞めていった。それからは,採用は経験重視となり,店長も将来的に全店舗の日本人の店長を起用する考えを示している。

 結論は,以下の通りである。今までの戦略の改善により,2003年の上半期は,前年比で業績が10%増加しているので,適応行動の成果があらわれている。競争優位を発揮することは,「『全循環』の実現能力にある」(23ページ)とされ,「業態」「商品調達システム」「マネジメント」は,全循環を実現するために作用している。カルフールが多くの海外進出国で成功しているのは,全循環が回転しているからで,日本でもうまく回転させていくのがこれからの課題としている。

出典:白石善章・鳥羽達郎(2004),「グローバル小売企業の創造的適応プロセス-日本本市場におけるカルフールの事例を通じて―」『流通科学研究所モノグラフ』No.045。

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2005年05月19日

流通国際化と海外の小売業(岩下 1997)

目次
 第1章 マーケティングの国際展開(曽我信孝)
 第2章 流通の国際化と流通政策(坂本秀夫)

 第1章 マーケティングの国際展開 曽我信孝
 この章では,1980年代後半から始まる日本企業の国際展開について書かれている。日本企業多国籍化の要因は,EUやNAFTAなどのブロック経済化による現地法人設立の必要性と,低い生産価格を求めた発展途上国への進出などがあげられる。次に,国際マーケティングの展開ということで,価格政策の重要性が述べられている。国際価格設定における主要な要因として,為替レートの変動やとダンピング提訴があり,それらの解決のためには,日々の為替相場を綿密に分析し,価格修正することが大切であるとしている。続いて生産のグローバル化ということで,国際市場支配のための生産の国際化要因を3つに分類している。まず第1に,大規模市場の競争の激化による現地生産,第2に価格の国際競争力を前提としたマーケティング政策として生産国際化,最後に国際分業を前提とした生産の国際化がある。国際分業を前提とした生産の国際化には,安価な生産価格と国際的に多様化するニーズに対応するための製品ラインの拡大戦略などが含まれる。さらに国際的ニーズは,現地特有の規格や文化に影響を強く受けるため,製品政策の現地化が必要であり,その方法として研究機能の現地化があげられている。最後に国際販売チャネル政策について述べられており,主なものとして,輸出先の国で構築されたチャネルの強化や,販売会社の設立,現地販売会社の買収,海外販売会社との提携などがあげられている。
 第2章 流通の国際化と流通政策 坂本秀夫 
 この章では,流通の国際化が進展している状況のなかで,流通国際化に関する実態面と政策状況を分析し,その上で国際的視点からの新たな流通政策を提示している。
流通の国際化を大手小売企業の国際化を中心に,商品調達・輸入,海外出店,海外流通業の日本進出,日本と欧米の流通業の関係・交流と4つの側面に分けて分実態的に分析がなされている。
次に,流通政策が国際化に対してどう対処すべきかを既存の研究を分類,整理することによって,新たな道筋を見出そうとしている。まず流通政策は大きく「市場原理重視型流通政策」,「社会政策組込型流通政策」,「街づくり視点重視型流通政策」の3つに分類される。この中で,国際流通政策を流通政策に組み込んでいたのは,②の保田芳昭氏の所説のみであると述べられており,この国際流通政策を発展させることが重要であり今後の課題でもあると述べられている。
続いて,国際流通政策と切り離せない問題として,規制緩和の問題があげられている。規制緩和の本来の目的は,①国民生活の向上,②産業構造の転換,③国際的調和にあるという前提を把握した上で,従来より政府が実施してきた流通政策(市場開放政策,輸入促進政策など)の動向を分析,把握している。さらにより重要な問題として,貿易黒字を解消するためにのみ行われる規制緩和,大店法の規制緩和等を批判し,国際流通政策のあるべき姿として,「①国内の流通諸矛盾をを海外に移転させてはならないこと,②海外小売業の日本進出を容易化する,政策的な環境整備を行うこと,③輸出依存体質を是正する環境整備を行うこと」(53ページ)の3つを提唱し,結論としている。

出典:曽我信孝(1997)「マーケティングの国際展開」『流通国際化と海外の小売業』出版社,3-21ページ。
坂本秀夫(1997)「流通の国際化と流通政策」『流通国際化と海外の小売業』出版社,27-52ページ。

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2005年05月18日

先端流通産業のメガトレンド:日本と世界(田村 2004)

要約
 この論文では,まずイトーヨーカ堂などに代表される日本の先端流通産業の特質を明らかにするため,カルフールなどの世界の先端流通産業と企業規模構造,市場シェアの変化という点で比較分析することで検討している。また停滞に悩む日本の先端流通産業の原因を明らかにするため,日本・世界の先端流通産業での業態構造の変化,国際化への対応の相違を比較することでそれを検討している。

Ⅰ,日本の先端流通業の特質
 まず,企業規模の分布を世界流通業と比較した結果,世界流通企業のトップ100の全体の売上高は日本の6.2倍,最大企業の売上高は7.6倍,最小企業の売上高は4.9倍になり、さらに最大企業の成長率は7.5倍となる。この結果は,日本流通業は世界流通業に比べて,大手の流通企業への経済集中が遅れていることを示している。
 次に,1990年から2002年までの売上シェアの変化を比較すると,世界流通業では上位企業になるほど売上シェアを伸ばしている一方,順位クラスが下がるとともに売上シェアの増加率は減少している。これに対して,日本流通業では上位20位のシェアの伸びは低いが,順位クラスが下がるとともに成長率は伸び,70位以降は再び減少している。このことは,日本流通業の経済集中の過程は,世界流通業とまったく異なり,売上シェアでは,上位企業と後続の企業との差が縮まってきていることを示している。
 また市場シェアの構成員について,世界流通業では上位のシェアを構成する企業は激しく入れ替わっているが,日本流通業ではその入れ替わりは安定している。このことは,日本流通業での競争は,世界流通業と比べて静態的であることを示している。
Ⅱ,日本の先端流通産業の停滞要因
 まず,世界と日本の業態構造の相違から,この問題を検討する。「世界流通業の先頭集団を牽引しているのは廉売型量販店チェーンである。しかし,日本流通業では,廉売型量販店の先頭集団牽引力は停滞し,百貨店や専門店が台頭しつつある」(24ページ)また,百貨店や専門店は伝統的業態であり,スーパーマーケットやハイパーマーケットなどの成長グループと対照的に非成長グループという業態構成に区分されることから,日本の先端流通業の停滞要因の一つは,上位企業の中に百貨店などの非成長グループが多い点にある。また,国際化への対応の相違について考察すると,1990年代に世界流通業は市場開放に合わせて,海外市場外へ参入することによって,外国売上依存率を高めた。それに対し日本流通業の国際化への対応は,百貨店などの海外での日本人旅行者を主に標的としたもので,多くの流通企業は国際化への対応に遅れをとった。このことは,世界流通業は海外市場の開拓という非ゼロ和ゲームを行っているのに対し,日本流通業は主に国内市場を標的としたゼロ和ゲームを行ったため,国際舞台において停滞したことを示している。  
 
結論は以下の通りである。日本流通業の特性は,上位企業のシェア成長率は鈍化しているが、その構成要員の入れ替わりは静態的であり,その結果,日本流通業での大手への経済集中は世界流通業より遅れていることである。また,日本の先端流通産業の停滞は,業態構成員の成長率の低さと国際化への対応の遅れに要因があるとしている。最後に,日本の流通業はなぜ国際化への対応に遅れをとったのか,分析することを今後の課題としている。

出典:田村正紀(2004),「先端流通産業のメガトレンド:日本と世界」『流通科学研究所モノグラフ』No.069。

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2005年05月17日

米国におけるGMS小売業態の衰退化と新たな取り組み―シアーズ(Sears)社での小売技術開発の試みを中心に―(渦原 2001)

要約
 この論文では,「米国小売業の非食品分野で,長年にわたり牽引車的役割を果たしてきたシアーズ社に焦点を当てて,GMSが小売業態のライフサイクルで衰退期を迎え,生き残りを掛けてどのように経営戦略を方向転換し,小売技術の開発や組織の建て直しを試みて」(22ページ)きたかを明らかにしている。
 特に,人的資源に注目し,従業員やマネージャーの意識,態度,行動を変える従業員の意識改革や組織文化改革の分析を試みている。

シアーズの取り組み
 1970年代,全盛期を迎えたシアーズであったが,1980年代に経営不振に陥った。メイン顧客であった中産階級が崩壊したのが原因のひとつである。また,DSやカテゴリーキラーの成長によって顧客が奪われているにもかかわらず,対応が遅れたためにGMSのポジショニングが曖昧になり魅力を失ってしまった。
 そこで,シアーズは経営建て直しを行った。男性客中心から女性客中心の商品品揃えに変更。さらに,衣料品と化粧品においてプライベート・ブランドを導入した。また,金融関係の業務を整理し,小売ビジネスの本業を強化した。以上のような小売ミックスの変更を行った。
 しかし,このような表面的なマーケティング再生戦略だけでなく,官僚的な体質改善を目指し,新しいビジネスモデルの開発への試みも行われた。そこで,「是非働きたくなる場,是非買い物したくなる場,是非投資したくなる場」(34ページ)を目的として掲げた。
 従業員が勤労意欲を感じる職場を作ることで労働の質を向上させる。その結果,接客などに積極的な取り組みが行われ,サービスの質が向上し,顧客満足度を向上させることができる。それにより,買い物したくなる店舗を提供できるようになり,売り上げ増加に繋がる。こうした売り上げの増大は,投資を促す要因となり,是非投資したくなる企業になることができる。
 こうした「従業員・顧客・利益の良循環モデル」(35ページ)の構築と小売ミックスの変更により,売り上げなどにおいて徐々に成果が見られている。

シアーズの取り組みの意義
 かつてのシアーズは市場環境の変化に対して,低価格の自社ブランド品を提供すれば,顧客は満足するとう考えの基に,表面的で小手先な小売技術ミックスの調整で対応してきた。
 しかし,今回は,市場環境の大きな変化と,顧客の満足や価値の多様化に気づき,人的資源管理という組織管理の革新的な部分での小売技術ミックスの変更を行っている。人材活用・人的資源管理面では改革の成果が現れており評価できる。
 経営の方向転換以後,経営成績によれば,売り上げは伸びてきているが,純利益高は下がっている。こうしたところに,人的資源管理を中心としたマネジメント改革の限界が見受けられる。

論点 
 確かに企業内部からの改革によって顧客の満足を得ようとしたことはすばらしい。しかし,シアーズが低迷している理由は,メイン顧客であった中流顧客層が崩壊したことにある。高所得者は高級デパートへ,低所得者はDSへ顧客が流れている。こうした中で,シアーズは曖昧なポジショニングの脱却を図るために,もっと顧客の目の見えるところでの差別化を図る必要があると考える。
 ここでは,人的資源管理の限界が指摘されているが,その根拠が示されていないと思う。

出典:渦原実男「米国におけるGMSの小売業態の衰退化と新たな取り組み―シアーズ(Sears)社での小売技術開発の試みを中心に―」『西南学院大学商学研究論集』第47号,2001年2月,21-47ページ。

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2005年05月16日

小売業マーケティングにおける国際化戦略に関する考察(柳 2003)

要約
 この論文は,小売業が国際化する際の戦略と,その課題を明らかにすることを主な目的とし,小売業の国際化に関する既存研究をもとにそれらを検討している。まず,小売業国際化の進展過程,その定義と動因,戦略の類型について,既存研究を再考察している。次に,小売業の国際化戦略の分析・考察として,小売業の国際市場進出における阻害要因と成功要因を検討し,最後に,小売業の海外市場進出における今後の課題を示している。

Ⅰ.小売業国際化の先行研究
 まず,小売業国際化の進展過程を考察した結果,「近年の小売業の国際化は,国内市場の飽和問題などによるマーケティング環境の変化に伴い,新たな市場を求めて海外に進出するという,かつてとは異なるパターンで進んでいる」(73ページ)と述べられている。
 そこで,小売業の国際化とは何か,その定義を検討するために既存研究をレビューしている。レビューの結果,この論文では「小売業の国際化とは,店舗の出店,商品調達,技術提供,資金調達など,様々な形で国境を越え,流通活動が行われること」(74ページ)とされている。
 次に,小売業が海外進出する動機を考察している。ここでは,進出要因を簡潔に示したものとして,アレクサンダーのプッシュ要因とプル要因の論考を取り上げている。アレクサンダーは,その動機を「政治,経済,社会,文化,小売構造の五つの側面から整理している」(75ページ)が,この論文ではここにさらなる考察をあたえ,小売業国際化の動機は「政治・経済・社会・小売構造など個別企業がコントロールできない外部環境要因と,小売業自らが環境変化に応じて新たな成長機会,あるいは利益を求めて海外進出する戦略的要因に分けることができる」(76ページ)と述べている。
 さらに,既存研究の考察から小売業の国際化戦略の類型を試みている。小売業国際化の戦略パターンは投資戦略,グローバル戦略,多国籍戦略の3つある。サルモンとトージマンによると,近年において小売業は,「グローバル戦略と多国籍戦略を取っている」(74ページ)としている。前者は「母国で成功したフォーミュラ(規格化された運営方式)を,国境を越えて模造ないしは再生産する方式」(77ページ)であり,後者は「ローカル市場に適合するために,親会社に匹敵しうるような独立経営権を関係会社に付与する方式」(77ページ)とされている。グローバル戦略は消費同質化と基準の調和が各国間で進められるため,多国籍戦略に比べて高い事業成長を示すとし,「企業の国際的な展開に対応した、伸縮的なネットワーク型の経営組織が構築されることが必要である」(78ページ)と述べられている。

Ⅱ.小売業の国際化戦略についての分析および考察
 ここでは,小売業の国際市場進出における阻害要因と成功要因を検討している。(和田 1987)は阻害要因を資本市場,供給市場,販売市場,労働市場という側面から考察し,ここではその側面を詳しく検討している。さらに,成長が期待された国際市場での赤字の原因の考察も行っている。

 まず,資本形成という観点での海外出店方法における問題が,資本市場の問題として挙げられている。資本形成という観点での海外出店方法は全額出資,資本参加,合弁の3つである。「全額出資や資本参加の場合,本国小売業の側の資本蓄積に依存することが必要とされる」(80ページ)が,このことはオーバー・プレゼンスの問題にも関わり深刻化するため,開発途上国への出店は,合弁の形をとるのが一般的であると述べられている。
 供給市場の問題は,進出先における商品流通チャネルの問題である。ここでは,本国と進出先国間の流通チャネル構造の近代化度の差をずれと呼び,流通慣行や取引形態などチャネル行動の相違を違いと呼んで阻害要因としている。ずれと違い両面の認識が必要であり,その結果両面の制約性が高い場合には積極的に現地化をはかることが必要であるとされている。
 販売市場の問題は,小売業態の選択とマーチャンダイジングの問題である。文化圏の違いのために消費者行動が異なるという視点ではなく,「本国の消費行動に共通する部分と,現地国の消費行動全体に先の部分が占める比率に着目して,しっかりと見極める視点が求められる」(81ページ)と述べられている。この視点に基づき,業態戦略やマーチャンダイジングが決定されることとなる。
 さらに,労働市場の問題として労働力調達が,「海外出店を阻害する要因のうち最も重要な問題」(81ページ)とされている。
 最後に,成長が期待された国際市場での赤字原因の考察から阻害要因を提示している。それらは五つあり,「粗利益率の低さ(対総売上高比),家賃の高さ,進出時期(タイミング)の悪さ,低価格競争の激しさ,立地選定の失敗」(81ページ)である。

 さらに,小売業が黒字となる要因と認識されている点を挙げている。黒字小売業においては,前述の家賃,進出時期,立地選定のいずれかにおいて優位性が存在し,また,残りの二つの要因は赤字・黒字に関係なく経営上の問題として認識されていることをふまえ,成功要因を検討している。成功要因は八つ挙げられている。グローバルな拡大に適した業態の選択,選択した業態を現地の事情に合わせる柔軟さ,進出市場の条件にあった戦略の選択,市場進出に向けての綿密な準備,現地マネジメントチームの育成と確立,一番乗りの利点を活用した,市場参入後の迅速な拡大,優れた財務管理戦略,グローバル経営のネットワーク作りの八つである(82-83ページ)。

 最後に今後の研究課題が示されている。本国の小売業が国際市場へ進出する際の戦略や課題を模索するには,「小売業の海外出店企業の行動を正確に把握できるような事例研究を通じて,小売業の国際化戦略を分析する必要がある」(84ページ)とし,今後の研究課題として,国際化戦略を類型別にみて「国際化戦略を採用しようとする小売業はどのようなコンセプトのもとに戦略を実行すべきかについて取り上げる必要がある」(84ページ)と述べられている。

論点
 既存研究のレビューを通じての検討は,理解できる。しかし,成長が期待された国際市場での赤字の原因の考察や,成功要因の検討は根拠が示されていない。データの拠り所,分析方法も定かではないため,成功要因等においては説明力がまったくないといえる。

出典:柳哲洙「小売業マーケティングにおける国際化戦略に関する考察」『商学研究論集』第19号,2003年9月,71-87ページ。

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2005年05月14日

日本市場におけるウォルマートの初期展開―参入後の経緯と今後の展望―(白石・鳥羽 2004)

要約
この論文は「ウォルマートの日本市場における初期展開を一企業による小売システムの構築プロセスという視点から整理し,今後の展開を展望することを目的としている」(79ページ)。ウォルマートの日本市場への参入は2002年,ほぼ買収による参入に当たる「西友と住友商事との包括的業務提携」(85ページ)という形で行なわれた。その展開はまだ始まったばかりであるが,「水面下においては,日本市場へカスタマイズされた小売システムの構築に向けて着々と進展している」(98ページ)ことが窺われる。また,これまでの日本市場における試みは,「商品調達システムやマネジメント体制の確立に力が入れられている」(98ページ)とあるように,表出的で競争者が模倣しやすい業態という側面ではなく,「目立ちにくく,模倣することが困難な背後のサブシステムにおける競争優位を築こうとしている」(98ページ)。

ケーススタディーの結果,次のことが述べられている。ウォルマートの日本市場におけるこれまでの試みは,「業態を背後で支援する商品調達システムやマネジメント体制の確立に力が入れられていることに特徴付けられる」(98ページ)。まず,商品調達システムについては,ウォルマートの競争優位を支える重要な情報システムとして「リテイル・リンク(RL)」がある。これは,「前日にどの店でどの商品がいくつ売れたのかといった情報を基に,物流センターと店舗には適正水準の在庫があるのかといった問題を確認する。そして,状況に応じて本部と連絡を交わす」(91ページ)。また,「商品分野ごとに,首位メーカーにウォルマートのPOS(販売時点情報管理)データなどを開示し,「カテゴリーキャプテン」と称する特定取引先に,品揃えや棚割などの提案を受けるといったことも試みる仕組みとなっている」(91ページ)。このRLが日本で完成すれば,「サプライチェーン全体で生産計画の最適化や流通在庫の削減」(91ページ)につながるため,店頭価格を下げることが可能になると述べられている。日本市場においてもその基礎となる「スマート・システム(S.S)」(91ページ)の導入が開始され始めたが,「不定期の特売やリベートがある日本の商慣行」(91ページ)の下では,生産,物流,販売コストを標準的な数値として把握し,無駄を排除する手法が馴染み難いとしている。商品システムにおけるその他の課題としては,供給業者との取引関係構築と,「世界レベルにおける商品調達システムの構築」(93ページ)としている。マネジメントの面では,「リテイルスタンダード」(RS)と称される,「日常業務の達成度を全店共通のチェック項目と判断基準で自己採点し,各店舗のオペレーション上の問題を把握する仕組み」(94ページ)や,「1日の業務スケジュールを逐一記した「ダイロ(DIRO:Day In the Life Of)」(98ページ)の導入を行っている。これによって徹底した業務の標準化に取り組み,また,従業員に占めるパートタイマー比率の引き上げを行うことにより人件費の削減につなげている。そして,ウォルマートの日本市場における今後の展開は,「良循環(Virtuous Circle)」(95ページ)の実現能力の点で強みを持つスーパーストアの出店に目標が定められている。ここでいう良循環とは,「低価格販売→大量販売→大量購入→大量仕入・低仕入コスト→間接費の削減→低価格販売」(95ページ)というプロセスを意味している。「総合型業態を展開する小売企業にとっては,この良循環を実現することがグローバル小売企業としてのパラダイムである」(97ページ)と言われ,日本においてもその実現が要求される。「業態」,「商品調達システム」,「マネジメント」の3つの側面における様々な試みは,良循環を回転させるための仕組みとして作用する。しかしながら「現状では,リテイル・リンクを基盤とする商品調達システムの構築やマネジメント体制の確立にプライオリティが置かれ,業態レベルでは顕著な変化が見受けられない」(97ページ)ことから,「良循環が回転しているとは言えない」(97ページ)。


結論は次の通りである。日本市場におけるウォルマートの展開は開始されたばかりであり,その展開の行方を把握することは,困難なように思えるが,「個々の展開を一企業による小売システムの構築という視点から包括的に捉え直してみると,水面下においては,日本市場でカスタマイズされた小売システムの構築に向けて着々と進展している」(98ページ)ことが窺われる。「ウォルマートの日本市場におけるこれまでの試みは,業態を背後で支援する商品調達システムやマネジメント体制の確立」(98ページ)に重点が置かれている。それは,表出的で模倣されやすい業態という側面ではなく,「目立ちにくく,模倣することが困難な背後のサブシステムにおける競争優位を築こうとしているのである。」(98ページ)と結論付けている。


論点は次の通りである。この論文において,RLについて述べられているが,日本でRLのようなシステムを構築する際に発生する問題についての議論が不足しているように思われる。

出典:白石善章・鳥羽達郎(2004),「日本市場におけるウォルマートの初期展開―参入後の経緯と今後の展望―」『流通科学大学論集―流通・経営編―』第16巻第3号,79―99ページ。

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2005年05月13日

カルフール:日本市場進出のシナリオ (田村2003)

要約
 この論文では,アジアで成功を収めているカルフールが,2000年に現地法人化によって日本市場の参入を表明したので,日本の流通業市場は脅えていたが,カルフールのフォーマットが日本の顧客価値にあわず,フォーマットの変更を迫られたが,2003年になってカルフールは日本の顧客志向にあわせて学習し,小売ミックスへ反映させていった結果,軌道に乗り始めたプロセスについて書かれている。カルフールははじめ,フランスの基本フォーマットを日本に持ち込んだが日本に勝ることがなかった。今ではどれぐらいの水準まで,カルフールの店舗競争力が達しているかのを実証分析によって明らかにした。


理論的検討は,カルフールは内部情報を漏らさないことで有名な企業のため,ヒアリングを使わずにカルフールの日本進出における現地適応化の特質と戦略を明らかにして,流通戦略論にてらしあわせることによって,戦略行動を明らかにすることです。また,店舗競争力は特定店舗の魅力度であるため,顧客満足の水準によって測定することができる。

実証分析は以下の通りである。競合点との比較における店舗競争力を見るために,カルフール幕張店,イトーヨーカ堂幕張店,イオン・マリンピア店,イズミヤ検見川浜店の4店舗で買い物調査を行った。回収標本数は804票で,顧客交流率は80.8%で,消費者の71.3%が平日に利用できる車を保有している。カルフール光明池店,ダイエー光明池店,イズミヤの和泉中央店,泉北高島屋店の4店で806票を回収した。顧客交流率は63.5%で,63.2%が平日に利用できる車を保有していることがわかった。また,店舗全体レベルにおけるカルフール幕張店の競争力は,店舗全体満足と全体属性についての競合店舗の平均スコアとマンホワイトニー検定によるスコア分布の差異の有意差検定の結果,「店舗全体満足の水準で見ると、カルフールの店舗競争力の重要な特質は,イトーヨーカ堂とは優劣がつけがたく,イオンやイズミヤに関しては優位になる」(12ページ)と述べられている。この差は,CTAREGにおけるプラット測定によって顧客価値を推定したところ,バーゲン割引率,店舗雰囲気,食品売場満足の3つの要因が60.2%であるため,他の要因で差異がなくても,この3つの要因で優位に立てば顧客価値が高くなる。イズミヤ検見川浜店とイズミヤ和泉府中店を比べたところ,和泉府中店が優位性を持っているのは店舗年齢と物流支援体制の相違によるものである。

結論は次の通りである。平日利用できる車を保有している人が多いので,車利用による各店舗の買い回りにより顧客交流率が高くなっている。顧客価値が高いのは,カルフールの店舗雰囲気や価格訴求力が顧客志向と合致しているからである。地域市場特性に合わせて調整し個店対応をしているのは,顧客志向能力の情報を店舗業務に落とし込む柔軟性があるからである。戦略としては,店舗雰囲気と若干の価格競争力があれば,日本のスーパーや郊外型百貨店などと競争しても顧客満足が獲得できるが,物流センターが整っているイトーヨーカ堂に対しては今のところ劣位に立つ傾向があることも明らかになった。消費者は,カルフールにフランスらしさを求めているため,PB商品と輸入品の比率を拡大するであろうと述べられている。そうすることによって,カルフールは中国市場のように日本市場でも成功を収めることができると思われる。

出典:田村正紀(2003),「カルフール:日本市場進出のシナリオ」『流通科学研究所モノグラフ』No.042

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2005年05月12日

世界覇権を巡る闘い(田村 2004)

要約
この論文は,1990年から2002年の期間において世界の小売企業トップ10に入る企業を勝ち組,10位以下の企業を負け組みに分類し,その分類に基づいて各企業の成長要因を規模の優位性とそれを支える競争優位基盤に基づいて分析するとともに,世界の小売業の先頭集団の平均成長率の低下という事実に対し,この壁を越えるために各企業がどのような戦略をとり世界市場での覇権を目指すのかについて書かれている。結論は小売企業が全国市場の壁に直面したときに海外市場進出という小売国際化の道をとり,そしてその国際小売企業の次の標的となる市場が日本であるという事実に対し,日本の先発小売業者はこの世界競争にどう立ち向かうべきなのかという問題提起を結論として締めくくっている。

理論的検討は以下の通りである。勝ち組企業と負け組企業を分ける要因は規模の優位性を発揮しながら成長できたかどうかにあるとし,その規模の優位性を生み出す要因が競争優位基盤によるものとして理論を展開させている。規模の優位性とは企業規模の成長が財務効果を向上させることであるとし,その指標となるのが資本利益率である。その売上利益率向上を達成する2つの要因が売上利益率と資本回転率であり,この2つはトレードオフの関係にある。そしてその売上利益率を変化させる要因が競争優位基盤であり,購買力,小売ブランド,需給チェーンシステム,業態ポートフォリオを革新することにより達成されるとしている。しかし,小売業が優位性基盤を利用して成長を続けるにはその売上高が絶えず拡大しなければならないが,その売上高成長はフォーマットの壁,業態市場の壁,本国市場の壁によって阻害される。フォーマットや業態市場の壁は新しい業態を開発することにより乗り越えらるが,本国市場の壁は克服できない壁である。小売企業はこの壁を小売の国際化により克服しようとした。国際化に成功した勝ち組企業に見られる特徴は,ハイパーマートを中心に大型店展開していることと,外国売上比率が高く,進出外国数が多いかどうかである。そしてその国際化の出店先として選ばれてきたのが,中南米,中央ヨーロッパ,アジアなどの新興市場である。しかし新興市場に対する先発者利益も,複数の先頭集団企業が参することによる競争の激化により鈍化してきた。この新興市場進出の構図をウォルマートは一新した。というのもウォルマートは次なる進出先を市場規模の大きい地域,英,独,仏.日本という先進国市場とした。この戦略の背景には,国際市場の壁に直面した小売企業が,規模の経済性を発揮しながら発展するには市場規模の格段に大きい先進国市場を掌中に収める必要があり,それにより世界制覇を目指すという意図を含むものであった。

実証分析は以下の通りである。この論文では,2000年度の財務数字を利用して勝ち組小売企業の事例分析がなされている。ここでは売上利益率と資本回転率を軸に上位小売企業の資本利益率の増加を分析している。テスコはメーカーを支配下に置くという戦略で強力な小売ブランドという武器を得ることにより,高い売上利益率による企業成長を遂げている。それに対しコストコは強力な価格訴求力による大量販売により,高い資本利益率を達成し企業成長している。そしてこの売上利益率と資本回転率の同時達成により企業成長を達成しているのが,現小売業界1位のウォルマートである。ウォルマートの他の先頭集団企業に対する優位性基盤は,高度に情報武装した需給チェーンシステムによると述べられている。それを支えるのが自社物流システム,データハウスを中核とするデマンドチェーンの構築,リテールリンクによる電子市場の構築であると述べられている。

結論は以下の通りである。勝ち組企業が次なる小売国際化の市場として日本に参入し始めている。これに対抗するには,現日本先発小売企業が世界競争をふまえどう産業ルネッサンスを行うことができるかにかかっていると述べられている。

出展: (田村正紀 2004) 「世界覇権を巡る闘い」,『流通科学研究所モノグラフ』,No,71。

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2005年05月11日

東京都市圏小売システムの発展における主要傾向(田村 2002)

要約
 この論文では,経済発展に伴う都市化の過程での,都市圏小売システムの構造の変化について述べられている。ここでは東京都市圏を事例として取り上げ,中心地と非中心地と区分し,都市圏での人口増加と郊外化の現象は,小売システムにどのような影響を与えてきたのか,という問題について実証的に検討している。そこで都市圏小売システムの構造をミクロ的に規定している各都市の小売吸引力はどのような要因によって決まるか,またそれらの要因の重要度は経年的にどのように変化してきたかを検討することで,都市圏での小売システムの構造変化を明らかにしている。

 実証分析は次の通りである。東京都市圏における各都市の小売吸引力を調べるため,都市の小売吸引力の規定因のモデルを作り,「吸引力はまず施設密度と売場効率によって規定される。さらに,売場効率は店舗密度と平均店舗規模によって規定され,そして売場効率は人的サービス率と労働生産性によって規定される。」(7ページ)ことから,1974年から1999年の期間について各要因の影響度を中心地と非中心地間で比較分析をしている。
 分析の結果,まず中心地では,1990年まで施設密度の影響は増加傾向であったが,その後は一定になる。このことは施設密度の増加による吸引力の増加は限界となったことを意味する。また施設密度への店舗密度と平均店舗規模の影響力について,店舗密度の影響の方が大きくなっている。このことは「店舗密度の増加は,ロードサイドや住宅地への店舗の分散立地や店舗の専門化によって生み出される。」(10ページ)ことから,施設密度の増加は中心地内での小売分散化や店舗専門化によって行われていることを示している。
 次に非中心地では,施設密度が吸引力に与える影響は1991年までは減少し,それから1999年にかけては増加に転じている。このことは1991年以降に非中心地に商業施設の開発を行ったことで小売吸引力が増加したことを意味し,そして非中心地には小売業の開発の可能性がまだ残されていることを示している。また施設密度への店舗密度と平均店舗規模の影響力について,非中心地では平均店舗規模の影響の方が大きくなっている。このことは非中心部では小売集中化と店舗の大型化が進行していることを意味している。
しかし,非中心地の吸引力の規定因は,経年的に大きく変化することから,「東京都市圏の非中心地が依然として激しい変化の過程にある。」(13ページ)としている。
 最後に,売場効率への労働生産性と人員装備率の影響について,中心地,非中心地においても1974年時点とほとんど変化がないことから,「流通生産性に大きく影響するような流通革新が過去25年間においてほとんど行われなかった。」(14ぺージ)としている。
 
 結論は次の通りである。都市圏での人口郊外化,郊外商業の発展などの都市化の過程で,都市圏の小売システムの構造は変化していく。そして小売システムを規定している小売吸引力の要因は,中心地と非中心地とでは異なる。一連の都市化の過程で,中心地では店舗の分散立地や専門化による,店舗密度が吸引力に大きく影響し,非中心地では小売集中化や店舗の大型化による,平均店舗規模が大きく影響する。また,非中心地での吸引力に与える影響は,中心地でのそれよりも大きいことから,郊外化という環境変化に対して小売システムの適応がまだ終わっていないことを示している。

出典:田村 正紀(2002),「東京都市圏小売システムの発展における主要傾向」『流通科学研究所モノグラフ』No.012

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2005年05月10日

中国における小売業態の発展と政府の役割―スーパーマケットを中心に―(葉 2003)

要約
 この論文では,中国におけるスーパーマーケットの発展に注目し,小売業の革新,および革新の展開に公的権力が影響を与えているのかについて分析がなされている。
 まず,小売業の革新に関する既存の理論仮説が検討されている。その中で,文化的諸条件,特に公的権力の介入が,小売発展の重要な要因であるということに焦点を当てている。
それを検証するために,中国のスーパーマーケットの発展に注目し,分析が行われている。セルフサービス方式,およびチェーン方式の展開を基準に,中国のスーパーマーケットの発展過程について明かにされている。そして,発展に対する公的権力の介入について,中国小売企業の所有制,および政府機関による政策について分析がなされている。そして,公的権力の介入が革新の一つの規定因であると結論づけている。

 理論的検討
 まず,小売業態の発展の既存研究を整理・検討し,この論文での分析のフレームワークを明示している。
 まず,cundiffの理論仮説が取り上げられている。そこでは,「小売業の発展は基本的に経済発展のレベルに規定され,次いでその他の環境諸条件が影響を及ぼす」(112ページ)としている。さらに,その革新過程は普遍的な性格を持っているとしている。つまり,どこの国においても,経済発展のレベルが同程度であれば,類似した小売の発展が起こると主張している。
 しかし,経済発展と小売業の革新の間には複雑で多くの介在変数が存在している。すなわち,経済発展以外の多くの諸条件が影響を与えていることは間違いない。これについて,bartelsは,一国の流通システムは,その国の文化的諸条件によって規定されるとしている。その国の持つ文化的諸条件によって革新は規定されるので,各国の小売業の革新は独自の展開をしていくと主張している。
 こうした研究がなされる中,田島は「公権力の介入が大きな影響を持った規定要因である」(114ページ)と主張している。田島によると,文化的諸条件の中でも公権力の流通介入は,他の環境要因に比べて,より直接的に小売業の発展に重要な影響を与えているとしている。

実証分析
 「セルフサービス方式を主要武器とする革新的な小売業態のスーパーマーケットが中国に登場したのは,1980年代前半から1990年代後半にかけてのことであった」(118ページ)とされている。しかし,こうした多くの店舗は失敗し,閉店,業態転換を強いられた。それらの多くは,セルフサービス方式を導入した独立店舗と分類されるもので,本格的なスーパーマーケットというものは存在しなかった。本格的なスーパーマーケットの条件であるチェーン・ストアをほとんど存在せず,大半が独立店舗であった。
 その後,スーパーマーケットは,1990年代後半に中国に定着し,小売業全体の急成長とともに発展することになる。「規模の経済性が重視され,チェーン・ストアの導入と積極的な展開がみられるようになった。スーパーマーケットは,多店舗展開による規模の利益を追求してきた。1990年代に入ってチェーン・ストア化を目指し,そして1990年代後半,スーパーマーケットは一挙に中国の都市部で開花」(120ページ)していくことになった。
 しかし,こうした小売業の革新は意欲的な個別企業によって先導されたわけではない。革新的な店舗のほとんどは,新しい小売業態を強力に発展させる計画の基,国有小売企業から業態転換して発展したものである。
 中国の政府介入は,行政,経済,法律の分野にわたる。行政とは上流統制である。経済では,チェーン方式の展開のために税制を調整したり,企業の資本面での優遇対策などが挙げられる。法律においては,強制的な国家の意志で政府の望ましい発展を促す手段である。

結論
 政府行動,政府介入は,明らかに中国の小売構造,小売行動に強く作用し,近年の中国における小売革新の進展,および小売業態の発展という成果をもたらしている。このことから,公的権力の介入は小売業革新における大きな役割を果たしていることが明らかにされた。

論点
 この研究では,中国という特殊な市場に焦点を与えている。もっと一般化する研究が必要である。公的権力の影響についてもただ政策の実施期間と小売の革新との時期が一緒であるということを根拠に,規定要因としているが直接的な関係についてもっと検討する必要があると考える。

出典:葉翀 「中国における小売業態の発展と政府の役割―スーパーマーケットを中心にして―」『流通科学大学論集―流通・経営編―』第15巻第3号,2003年,111-129ページ。
 

 

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2005年05月09日

海外進出を促進する小売企業の主体的要因 ―中国小売市場における外資系企業を事例にして―(方 2004)

要約
 これまでの小売企業の海外進出動機についての研究は,Alexanderが「プッシュ要因」及び「プル要因」にまとめているように,主に環境決定論的に行われてきた。また,進出方法についての研究は,主に製造企業を分析対象とする経営学に依存している状態にある。しかし,現実には,同じ環境下にある小売企業が,海外進出に対して異なった動機や方法を持っている。本稿はそうした既存研究の限界に焦点を当てた試論である。具体的には中国に進出している外資小売企業の事例を足がかりにして,既存の要因研究においてはあまり議論されなかった企業自身の主体的要因こそが,上記の企業間差異を生み出す重要な要因ではないかと考えて仮設を形成し,最終的に,小売企業の海外進出研究における自国要因,進出先国要因,企業自身の主体的要因という3つのキーコンセプト及びそれらの間の関係性を特定化する。(141ページ)

 
 小売業の海外進出についての研究は,「主に海外進出動機及び海外進出方法の2つの側面から行われてきた」(142ページ)とし,その2つの主な研究をレビューしている。進出動機に関するいずれの研究も「主に企業を取り巻く外部環境を論じてきた」(144ページ)と述べている。しかし,同じ環境下にある企業がそれぞれ異なる海外進出戦略をとっていることから「既存研究が挙げた諸要因によっては企業の進出動機を説明しきれない部分が残されている」(144ページ)と指摘している。つまり,Alexanderが示したプッシュ要因,プル要因などの外部環境以外の要因が存在するとし,事例を用いて検討することにしている。また,海外進出方法に関する研究については,製造業を対象としたものが中心であるとし,それらの研究が小売業に適応できるかどうかを検討することにしている。
 
 
 以上のことを検討するにあたって,まず外資小売業を取り巻く中国市場環境を示し,次にフランス小売業「オーシャン」と台湾小売業「大潤發」の事例を紹介している。
 フランス第2位の小売企業であるオーシャン,台湾第2位の小売企業である大潤發は,それぞれ異なる動機を持って中国市場に進出した。しかし,オーシャンが中国市場において大潤發を吸収,さらには両社50%ずつ出資し香港で「香港太陽株式会社」を立ち上げるに至った。この事例を小売業海外進出の動機に関する既存研究の不足点を補う手がかりと捉え,その経緯と戦略の意義を示している。

 既存研究のレビューから,小売業海外進出の動機には外部環境以外の要因が存在するとした。さらに,この論文ではその要因を海外へ進出する企業自身に見出している。よって,「小売企業の海外進出動機及び海外進出方法に影響する要因を,自国環境要因,進出先環境要因,そして,企業自身の主体的要因の3つの視点から論じ,新たな仮説・モデルの提唱」(153ページ)を行っている。

仮説は以下の4つである。
①小売企業の海外進出動機を規定する要因として,自国環境要因,進出先環境要因,及び企業自身の主体的要因というの3つの要因が挙げられる。
②小売企業の海外進出方法を規定する要因として,及び企業自身の主体的要因というの3つの要因が挙げられる。
③小売企業の海外進出動機や進出方法を規定する要因のうち,自国環境要因及び進出先環境要因は間接的要因であり,企業自身の主体的要因は直接的要因である。
④小売企業の海外進出方法として,吸収・合併は重要な市場拡大戦略である。

 オーシャン,大潤發にとって中国は進出先国として同じ環境であり,また,各々の自国環境についても「市場の成熟化,フォーマットの飽和,競争の激化などの共通点」(153ページ)を指摘している。両国の大きな相違点として「大潤發の母国である台湾は進出先である中国とほぼ同じ民族,言語,習慣,文化を持ち,それらの点で相互理解が暗黙裡に行いやすい点」(153ページ)を挙げている。さらに,オーシャンと大潤發における歴史・資金力・経営ノウハウ・国際経験といったような両社自身の主体的要因の違いを指摘している。また,中国市場への進出で両社は異なった市場戦略を採用していることも示している。
 このような検討から,小売業の海外進出では企業自身の主体的要因が重要であり,「企業の規模,経営状況,海外経験,リーダーシップなどの差異によって,海外進出動機,及び進出方法が違ってくる」(155ページ)と述べている。
 
 この3つの要因が異なる影響を持つとして仮説③が挙げられている。同じフランス小売企業であるカルフールとオーシャンは,中国進出において外部環境要因はまったく同じであるが,異なる企業自身の主体的要因を持つため,進出動機及び進出方法が異なっている。このことから,企業は外部要因の影響を受けつつ,それを自社の経営条件と結合することによって,海外市場への進出動機・進出方法が規定されるとしている。よって,「自国環境要因・進出先環境要因は間接的要因であり,企業自身の主体的要因は直接的要因である。」と述べている。

 そして,オーシャンの大潤發吸収の事例から「経営者,従業員,用地及びシェアはすでに確保され,特に政府の政策で早い時期にしか得られない用地を入手することが可能というメリット」を持つ吸収・合併戦略が、小売企業の海外進出における市場参入・拡大の有効な手立てであるとしている。


結論 
 この論文では,最終的に自国環境要因と進出先国環境要因という企業を取り巻く外部環境要因の他に,企業自身の主体的要因という3つ目の要因を提示している。さらにこの3つの要因間の関係を検討し,小売国際化の新しい概念モデルを提案している。最後は,「概念モデルをさらに精緻化させ,観測変数を定めた上で,実証分析が行われることが望まれる」と結ばれている。


論点
 この論文の評価すべき点は,3つ目の要因として企業自身の主体的要因を提示したというところである。しかし仮説③のような直接要因と間接要因にまで言及するには,議論が不足しているように思う。企業の余剰資産を活用するために海外進出という道を選択し,その後参入先選択のために進出先国環境を比較・検討するというケースも十分に考えられるからである。課題ともされているが,この点においては実証分析による検討が必要と思われる。


出典:方斌 「海外進出を促進する小売企業の主体的要因 ―中国小売市場における外資系企業を事例にして―」『三田商学研究』第47巻第3号,2004年8月,141-160ページ。

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2005年05月07日

小売業におけるIT活用の現状と本質―POSデータ活用の日米比較を中心に―(佐藤 2004)

要約
 この論文では,ウォルマートとセブンイレブンの比較から日米のIT活用の差異について明らかにしている。ここでは,「ウォルマートがITに求めるものは,現場における意思決定の代替えである。ディシジョンをコンピュータに委ね,作業の標準化,マニュアル化を通じてLabor Costの削減を図り,戦略的にLow Priceへ結びつけることである。セブンイレブンの場合は,IT活用に求めるのはディシジョンサポートまでで,意思決定はあくまでも人間が行う形である」(1ページ)としている。また,この2社の比較をもとに,日米のPOSデータの活用方法の違いについて社会環境の違いから検討している。最後に「IT活用にはビジネスモデルとの整合性が最も重要である」(1ページ)とし,IT活用に優れている企業は,「トップが自分のビジネスの要を熟知し,Inside Outの発想でITを活用している」(1ページ)と結論付けている。

ケーススタディーの結果,次のことが述べられている。ウォルマートのPOSデータ活用については,メーカーに対してPOSデータをオープンにする変わりに,自社製品の在庫コントロールと,ディストリビューションセンターまでの配送を委ねるというCRP(Continuous Replenish Program)から,「在庫コントロールだけでなく,ウォルマートの店舗の活性化のため,カテゴリー単位の改善策や販促策を提案することも義務づけた」(6ページ)リテールリンクという手法へと進化したことが述べられている。しかしながら,いずれにせよ「ウォルマートにおけるPOSデータ活用の目的は,あくまでもコストダウンである」(6ページ)としている。一方,セブンイレブンジャパンのPOSデータ活用については,変化に対応できるのは人間の頭脳だけであるという考えの下,発注の意思決定は現場の従業員に委ねている。また,セブンイレブンでは品切れは悪である,という方針に基づき,機会ロスを削減する目的でもPOSデータの活用を行なっている。そして,2社のPOSデータ活用の差異について日米における社会環境の面から検討を行なっている。「米国では,社会階層の下層の人口割合が多く」(8ページ),民族性による価値観の相違もあるため,小売業に求められるのはディスカウトであり、従って,ウォルマートはPOSデータの活用により発注作業の無人化を図り,人件費の削減を目的にしたと述べられている。これに対し,日本の場合は中間層が多く,また「世界で一番要求水準が高くて複雑な消費者が存在する」(8ページ)ため,「セブンイレブンは消費者の変化スピードへの対応と品切れの防止を目的として,人間が意思決定するための有用な資料として,POSデータを利用している」(8ページ),と検証されている。また,日米で従業員に求める役割が異なるということも要因であるとしている。


論点は次の通りである。この論文では,POSデータの活用方法における差異について社会環境の面から検討を行っているが,総合小売業のウォルマートとコンビニエンスストアのセブンイレブンという異業態間での比較には限界があるのではないだろうか。


結論は次の通りである。IT導入時には,その目的と効果を明確にする必要があり,目的が不明確なまま導入すると,現場の混乱を引き起こすということにもなりかねない。IT活用に最も必要なのはビジネスモデルとの整合性であり,IT活用に優れている企業に共通するのは,自らのビジネスの要を熟知し,「トップのリーダーシップにより,Inside Outの方向でITが構築されていることである」(13ページ)と結論付けている。


出典:佐藤 俊彦(2004),「小売業におけるIT活用の現状と本質―POSデータ活用の日米比較を中心に―」『流通科学研究所モノグラフ』No.050。

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2005年05月06日

カルフールの中国進出 -先発者利益の追求-(田村 2003)

要約
この論文は,中国の外資系小売業の先発者であるカルフールの中国進出における戦略を明らかにしている。カルフールは主要都市だけでなく,地方中核都市に最初の外資系ハイパーマーケットとして,売上高成長中のスーパーマーケット業界でシェアを確保し,先発者利益をねらう。中国消費市場の急速な成長で,大型店同士が近接立地して,市場を奪い合っていないので,カルフールは独占段階にあるといえる。この場合,カルフールは消費者の店舗の判断基準を自分に有利なように学習させることができる。そして,後発店舗は消費者に店舗属性を基準に評価されるようになる。そして,カルフールが中国消費者の顧客価値をどのように学習しているのか実証分析している。

理論的検討 
発展途上国で成功することが多いと言われているカルフールの海外進出の中でも「中国における外資系小売業最大の成功例」(1ページ)といわれているほどの中国進出の成功条件は何かを明らかにする。そのためにも,消費者が来店する理由と中国消費者の顧客満足の水準を以下で実証的に明らかにする。

実証分析
カルフール曲陽店と南方店と共江店の3店舗で消費者が来店する理由としてカルフールの新しい店舗属性を列挙し,複数回答方式で選択してもらったところ,「店舗面積が大きい」「商品が新鮮」「店舗が清潔」「とくに食品が清潔」(p12)というようなハイパーマーケット特有の項目があげられている。しかし,外資系の流通業である項目の回答者比率は低くなっているので,カルフールは外資系というよりもハイパーマーケットという点で中国の消費者に受け入れられていることがわかる。
 また,顧客満足の水準を調査するために,各店舗の各売り場の評点スコアの有意差検定をマンホワイトニー検定によって行った。食品売り場では,曲陽店と他店舗との間にはほとんどの点で有意差が発生するが,南方店と共江店は多くの店舗属性で有意差がなくなっている。このことから,新しい店舗では,食品売り場は標準化されていることがわかる。そして,小売ミックス要素が中核要素になっているかについて段階的回帰分析を行った。売り場満足度を従属変数とし,顧客価値を独立変数候補として,回数係数が5%水準以下で優位になった属性を店舗別に示した。

S = b1A1 + b2A2 +…+ bnAn
Sは満足度,A1~Anは属性,b1~bnはデータから推定される標準回帰係数とする。

食品売り場では,接客サービスと安全性配慮はどの店舗の属性にもなっている。それは,中国のどの地域の消費者共通顧客価値にも対応しようとしてからである。スコアからみると,衣料品売り場は低価格のベーシック商品を売り場に展開していることがわかる。生活雑貨売り場でも,すべての商圏顧客に共通する顧客価値の属性が評価されている。

この論文では,以下のような結論が述べられている。流通業の外資進出が難しい中国に進出し成功した戦略は,中央政府と交渉し,運営会社を合弁会社に転換したみかえりに,比較的短期間の間に,購買・物流センターを設立できたことによって急速に店舗展開できたことである。そして,実証分析で新しい店舗ほど評価スコアが高くなっていることから,カルフールは中国市場の顧客志向を学習しているといえる。このように顧客満足を向上させて先発者利益を追求している。このまま先発者利益を維持できればいいが、中国消費市場が急成長している今、マイカーの普及や人口の郊外化が進み、カルフールの立地独占が崩壊した時、カルフールの競争力がどれぐらいあるかによって、先発者利益が維持できるかが決まるので、店舗競争力についてがこれからの課題であると述べられている。

出展 田村 正紀(2003),「カルフールの中国進出-先発者利益の追求-」『流通科学研究所モノグラフ』No.35

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2005年05月05日

近代流通業における企業成長と規模構造(田村 2002)

要約
この論文は日本の経済規模に対して国際的にみても,日本の近代流通企業が未発達である原因を検討している。主な原因は従来の大型店規制だけではなく,近代流通企業では規模の優位性が規模の比較的早い段階で消滅してしまうことによると述べられている。それは企業が規模の優位性を発揮できる限界点である最小最適規模が比較的小さい規模のところに位置するJ字型の長期総費用曲線により表されている。この長期総費用曲線は近代流通企業の規模分布とそれを生み出す確率過程の分析により明らかにされており,近代流通企業の規模分布はパレート分布であると述べられている。パレート分布を定常解として生み出す確率過程は比較効果法則と新規企業参入を仮定としている。この費用曲線での最小最適規模の位置は日本の小売業上位200社にランクされている臨界的な規模を大きく下回っている。このことが上位200社の構成企業が入れ替わることと,近代流通企業内部の経済集中が進行しないことを示している。

理論的検討は以下の通りである。この論文では国際的な観点から見た日本の代表的な流通企業の規模の低さを生み出す原因となる構造とメカニズムを検討している。近代流通業の規模の分布は右裾に高度にゆがんだ非対称な分布を描いている。これは結果的に近代流通業が多様な規模構造を維持しながらも,内部では経済集中せず規模格差を縮小しつつあることを示している。この企業分布の非対称性は近代流通企業の規模分布の構造特質である。この非対称性が共通して持つ特質は比例効果測定の想定である。つまり,比較効果法則とは規模が企業の期待成長率に対して何ら影響を与えないということである。
また流通企業の長期費用曲線がJ字型の形状を示すことは,流通革命以降の近代流通産業の生成と,中小小売商の成熟と停滞が中小小売商に対して近代流通企業が規模の優位性を発揮してきたことを示している。企業規模がそれより大きくなっても長期総費用が変化せず,一定となるような企業規模は最小最適企業規模と呼ばれている。日本のトップ200位に入る流通業はこの最適規模を大きく超えた規模領域であるので,規模の優位性を発揮できていないと述べられている。

実証分析は以下の通りである。用いるデータは1968年以降日本経済新聞社により行われてきた『日本の小売業調査』による。以下で用いるのは,各年度の売上高上位200社のデータである。日本の近代流通業の非対称性の特質である比例効果測定を検討する方法は,問題となる期間の期首と期末の企業規模についての散布図を対称尺度を用いて作成することである。その回帰曲線は1になり,45度の傾きを持ち,その点の分布が均一分散であれば比例効果法則が作用している。これは1974年から1999年までを5年刻みの期間にわけ,散布図を描いてみると,いずれの期間でもモデルの適合度はよく,回帰係数は0.1%水準以下で有意である。続いて売上高の規模に関わらずその成長率の分散は同じであるかを,企業を小・中・大の規模にクラス分けし,それぞれの5年後のクラス別の成長率の変化を用いて分析している。ここではレーベン検定と1元分散分析が行われているが,そのどちらでも規模クラスに統計的な有意差は見られないという結果が示されている。この分析が,過去25年間の長期にわたって日本の近代企業では,比例効果法則が強力に作用していることの経験的証拠を示している。
比例効果法則が作用する高度に非対称な分布には様々なものがあり,ここではパレート分布と対称正規分布の2つが分析に用いられている。1974年から,1999年までの5年刻みの分布をそれぞれ比較してみると,パレート分布の方が当てはまりがよいことが示されている。この結果にいたった原因は,対称正規分布は上位200社を決定するとその成員構成に以降の新規参入企業がないことを仮定としている。これに対し,パレート分布は最小規模以下のクラスから最小規模を超える新規企業が着実に参入するようなランダムウォークを仮定としていることによるものであると述べられている。これらの結果から日本の近代流通業上位200社では,従来のような二重構造が存在せず,新規企業の参入による上位200社の入れ替わりが激しいことを示している。

結論として流通革命以降の日本の流通業では,二重構造が存在せず,その先端の近代流通業内部でも経済集中が進行していない。この新しい構造とメカニズムが中小小売商から近代流通業にいたる成長経路を形成するとともに,国際標準から見た日本の近代流通業の低位性を生み出していると述べられている。論点として,日本の近代流通業はなぜ規模の優位性を発揮し成長できなかったのか。また日本の近代流通企業を特徴づけるパレートの法則の作用は何を基盤にして生まれたものなのかを実証的に明らかにすることが今後の課題であると述べられている。

出典 田村正紀(2002),「近代流通業における企業成長と規模構造」 『流通科学研究所モノグラフ』№12。

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2005年05月04日

近代流通業における市場地位の変動 (田村 2003)

要約
 この論文は,市場地位の変動が激しい近代流通業のメカニズムを解明することを目的としている。そのために,まず1974年から1999年までの25年間の市場の実態を述べ,この間の企業の市場地位の変動がどのような要因によって生じたのか,実証的に検討している。「市場地位の変動は,主として各企業の売上成長率の分散が大きいことによって生じる。この分散が大きくなる原因は、各企業の個別成長要因の持続性が低いためである」(14ページ)さらに,「個別成長要因は、業態の成長力とフォーマットの成長力によって規定される」(11ページ)とし,市場地位の獲得は,業態とフォーマットの革新による,と結論づけている。最後に,変化し続ける流通環境に対して,業態革新を継続できる企業,つまり成長し続けられる企業はどのような特質を持っているのか,明らかにすることを次の課題としている。

理論的検討は次の通りである。市場地位の変動要因である,業態の成長力は,経済発展による商品カテゴリーの多様化や,消費者の生活様式の成熟化によって変化する。コンビニや通信販売などの新しい業態の発展や,マイカーの普及による郊外商業が発展したことが例に挙げられる。このような業態の多様化によって,既存の業態のシェアは変化する。このことから,市場地位の変動は,このような業態成長力に依存することを示している。

実証分析は以下の通りである。「市場地位の変動は,主として各企業の売上成長率の分散が大きいことによって生じる。この分散が大きくなる原因は、各企業の個別成長要因の持続性が低いためである」(14ページ)ここでは,個別成長率を測定するため,個別成長係数αの回帰分析から,企業の期待シェア増加率を推定した。1984年から1994年までのシェア増加率を,1974年から1984年までのそれと比較すると,大きく低下している。それはこの期間内に,大型店の規制緩和,国際化,情報化,バブル経済の崩壊など,流通環境の大きい変化が生じたため,企業は安定して成長することが困難になったからである。つまり,個別成長要因をほとんど維持できなかったのである。しかし,それ以降は新しい流通環境が企業内に浸透し始め,それに企業が対応したことで,シェア増加率は上昇した。これは同時に個別成長要因の持続性が増加したことを意味している。

流通企業の個別成長力は,フォーマットの成長力によって決定される。ここでは,1974年から1999年までの成長力を測定するため,フォーマット成長要因の係数αを回帰分析によって推定している。分析の結果,流通環境が激しく変化した1984年から1994年にかけては,この数値は大きく低下したことが示され,このことは流通環境に変化が生じれば,フォーマットの成長率は低下することを示している。

 結論は以下の通りである。近代流通業の市場地位の変動要因である,業態とフォーマットの成長力の持続性は,流通環境によって変化する。そして,流通環境の変化が激しかった近年においては,業態とフォーマットの成長力の持続性は調査期間を通して低かった。ここに近代流通業における激しい市場変動の原因がある。流通環境の変化に対して,業態とフォーマットの成長を継続できる企業のみが近代流通業で成長できる,と結論付けている。

出典:田村正紀(2003),「近代流通業における市場地位の変動」 『流通科学研究所モノグラフ』No.016。

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2005年05月03日

小売業による顧客価値創造―西武百貨店における営業プロセスの変更を中心に―(粟島 2004)

要約
 小売業は厳しい環境におかれている。インターネットにより,顧客は十分な情報を持ち,価格だけでなく,商品の価値やサービスの価値にも関心をもつようになっている。しかも,競争相手は国内同業者だけではない。世界中のさまざまな業態がシェアをかけ競争を仕掛けている。
 百貨店も当然こうした厳しい環境に直面している。そこで,この論文では,西武百貨店の営業プロセスの変更を取り上げ,いかにして顧客価値が創造されるかについて分析がなされている。特に顧客の視点にたった営業プロセスの変更による顧客価値の創造について明らかにされている。そして,今後小売業が提供すべき顧客価値についてのひとつの指標が示されている。

理論的検討
 この論文では,「顧客が負担するすべてのコスト(総顧客コスト)と,手にするすべての価値(総顧客価値)との差が最終的に顧客の受け取る価値であり,この差が顧客価値である」(182ページ)とされている。いかにしてこの顧客価値をプラスにするか,そのためにどのような営業プロセスが必要であるかが検討されている。ここでは,西武百貨店における営業プロセスの変更が取り上げられ,どのようにして顧客価値が創造されているかが分析されている。

1,店舗コンセプトの変更
 これまでの百貨店は,明確なターゲットもコンセプトも持たず,スケールメリットのみを目指した多店舗化と多角化を追求してきた。その結果,「何でもあるけど,欲しいものがないという」(185ページ)顧客無視の店舗戦略を展開し,量販店や専門店に顧客を奪われる結果となった。
 そこで,西武百貨店は店舗コンセプトの変更を試みた。それは「店舗のおかれた商圏を分析し,マーケットに最適かつ自店の強みを発揮できる分野に特化する」(185ページ)という当たり前のことである。
 それを基に,95年に有楽町店のリニューアルが行われた。ターゲットを20歳代から30歳代の働く女性とし,「女性のファッション領域以外の商品は構成を一切なくした」(185ページ)女性ファッション専門店として再出発。その後,この店舗は好成績を収めている。さらに,他店舗においてもそれぞれの商圏を分析しなおし,強みとして残す売り場,同グループ内の企業に任せる売り場,撤退する売り場に分類がなされている。

2,クラブオンカードの導入
 1996年,西武百貨店はクラブオンカードというポイントカードを導入した。このカードの導入が,購入金額・利用回数・利用頻度・性別・年齢などの個人情報の把握を可能にした。クラブオンカードから得られるデータにより,店舗の売り上げを支えているのは,年に何度も利用してくれて,年間買い上げ金額の多いなじみ客であることが明らかにされている。そこで,西武百貨店は,「新規顧客獲得と既存顧客の喪失を繰り返すやり方から」(190ページ),既存顧客と長期間にわたり良好な関係を築いていくというやり方に方針を変更を実施した。
 従来のマス媒体を使った顧客アプローチから,DMや電話,電子メールといった個人を対象としたアプローチ法へと営業プロセスを変更。特に,手書きDMの利用は非常に効果的であることが明らかにされている。なぜなら,クラブオンカードから得られる売上情報を基に,販売メモからの情報を付加することで,非常にパーソナルでタイムリーなメッセージを送ることに成功したからである。既存顧客を囲い込むにはこうしたパーソナルな対応の心地よさが非常に有効であることが実証されている。

結論 
 西武百貨店経営危機にある中で,こうした営業プロセスの変更を実施したことにより,業績は急回復している。こうした,営業プロセスの変更が顧客に支持されていることが明らかにされている。西武百貨店が実施した変更の原点は,顧客の立場に立つという小売業として当たり前のことである。今までの戦略がいかに顧客の視点を忘れていたかが明らかになった結果となっている。
 また,こうした変更によって成果が上がるということは,顧客視点での営業プロセスが不十分であることを示しており,すべての小売業態が実施すべきサービスの原点が明らかにされている。


論点
 確かに,2つの営業プロセスの変更によって,顧客がどのようなものを求めているかを追求し,それにあわせた戦略を実施することで成果は上がっている。しかし,顧客に合わせる戦略だけでは,ほかの小売業態との間に決定的な違いを生み出せない。百貨店自体が商品を開発したり,百貨店側から顧客に対して積極的に働きかけることなどにより,小売業態の中でも特別な存在になる必要がある。

  
出典:粟島浩二 「小売業による顧客価値創造―西武百貨店における営業プロセスの変更を中心に―」『立命館経営学』第43巻第1号,2004年5月,177-201ページ。

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2005年05月02日

国民市場における小売国際化(田村 2004)

要約
 この論文は小売国際化の推進要因を国民市場という観点から実証的に検討している。まず理論的に整理されていない小売国際化の概念を明確にするため,過去の研究を評価している。ここでは,過去のいずれの研究も小売国際化過程はミクロ過程でしか実現されていないと指摘している。よって,ミクロとマクロの両面を実証的に検討しようとしている。そこでまず,国際化の舞台となってきた国民市場の特性を明らかにするために国際小売業のI-Oマップが提案され,そこにさらに統計的分析を与えている。最後に利用可能な市場特性データを用いた分析から,小売国際化推進力のマクロ的要因を,プッシュ要因とプル要因に分けて明らかにしようとしている。

理論的検討
 この論文では小売の国際化推進力の実証的解明を「小売国際化研究の中心的課題の一つ」(1ページ)として捉え,まず理論的に不十分である小売国際化の概念そのものを明確にしている。
 小売国際化推進要因の既存の分析モデルとしてプッシュ/プル表と小売国際化過程モデルが紹介され,評価が与えられている。プッシュ/プル表は企業が国際化しようとする時点で,プッシュ要因とプル要因のふたつを対比させて整理したものである。「プル要因は外国市場を魅力的にする要因であり,プッシュ要因は本国市場の魅力を減じる要因」(1ページ)とされている。小売国際化過程モデルは企業が国際化しようとする時点だけでなく,その後の進展の過程もマクロ・ミクロの両面から捉え,モデル化しようとしたものである。
 プッシュ/プル表,小売国際化過程モデルのいずれも「小売国際化の概念はミクロ過程とマクロ過程の間を揺れ動いて」(7ページ)おり,「ミクロ過程でしかモデル化されていない」(7ページ)と述べられている。マクロ過程も「小売国際化の重要な側面」(7ページ)であるとし,この論文では小売国際化推進力をミクロ・マクロ両面について実証的に検討しようとしている。

 
実証分析の構造
 まず,小売国際化においてどのような国がその活動舞台として選択されてきたのか,またその理由を明らかにするために国民市場レベルでの小売国際化推進力を明らかにしようとされている。
 そこで,M+M Planet Retail社が提案した,国民市場の国際化指数を利用している。この指標は国際化している世界的小売業のうち2001年度の売上高上位30社を取り上げ「国別の進出企業数を平均に対して指数化している」(10ページ)もので,各国の小売の国際化を示している。この論文では,この指数に評価を与えた後に,外国企業数と本国企業数をそれぞれプル要因とプッシュ要因に対応させて検討することにしている。
 M+M Planet Retail社のデータに基づき,各国を分析単位として縦軸に本国企業数,横軸に外国企業数を取り,1つの図にマップ化してI-Oマップを得ている。ここではさらにクラスター分析を行っている。

 次に,どのような国民市場特性が国際化を促進するのか,その一般要因をプッシュ要因とプル要因にわけ統計的に検討している。
 プッシュ要因として本国市場の飽和を問題にし,それに関する利用可能な5つの市場特性を分析に用いている。5つの市場特性とは,人口千人あたり小売販売額,小売販売額,人口,小売販売額成長率,人口成長率である。データを「本国企業数がゼロの国とそれ以外の国に分割し」(14ページ)上記の市場特性に差が見られるかマン・ホワイトニーU検定を行っている。
 プル要因は,上記5つの市場特性に国際小売業上位30位に入る本国企業数を加えたものを分析に用いている。進出企業数の平均値6.6を基準に,進出企業数6以下を低進出国,7以上を高進出国として各国をわけ,マン・ホワイトニーU検定を行っている。


分析の結果と結論
 クラスター分析の結果,小売国際化の活動舞台となる国は大きく3つのグループに分けられている。グループは代表的国際小売業発生国であり,進出先国でもある先導国,進出先として選ばれることの多い進出先国,それら残りの発展途上国の3つである。それらは,さらに細かく「多様なサブグループを階層的に形成している」(12ページ)と述べている。このことから,すべての国に共通した一般要因と,各国に特殊で多様な要因が相互作用し活動舞台を規定していると述べられている。
 
 プッシュ要因における差の検定の結果,人口千人あたり小売販売額と小売販売額には差が見られた。また,国際小売業を生み,他国に進出している発展国の方がそれらの中央値が高かったことが示されている。これを国際小売業誕生の潜在条件とし,国際小売業誕生は国民市場の経済発展に依存していると述べられている。小売販売額成長率,人口成長率は未発展国の方が発展国より高く,これは本国市場の飽和仮説を支持するため,市場の飽和は小売国際化の推進要因の1つであると述べられている。 
 プル要因における差の検定の結果,5つの市場特性については高進出国が高くなり,上位30位本国企業数は小さくなるというプッシュ/プル表の期待をまったく満たさず,人口成長率以外,有意差は見られなかった。このことから,プッシュ/プル表は過去の研究から指摘された要因を実証分析の根拠なく無批判的に導入したものであることが明らかにされている。そして,この論文で行ったような国民市場特性を用いた分析だけでは,どのような国が小売国際化の進出先国として選ばれるかは,ほとんど説明できないと述べられている。市場選択は歴史的過程が深く関わるため,小売国際化のマクロ過程の実証分析は,統計分析や企業レベルでの分析に,さらに歴史的過程の検討を加えることが必要であると結論づけられている。


論点
 小売国際化のマクロ過程の実証分析には歴史的過程の検討を付け加えることが必要であると結論付けられており,確かに歴史的過程は小売国際化推進力の重要な側面である。しかしながら,推進力となった歴史的事件として挙げられているものは,
・ヨーロッパと北米における国際経済統合
・アジア経済の台頭と市場開放
・情報・物流技術の技術革新
・消費生活スタイルの国際標準化
など,かなり幅が広く「歴史的過程」という一言で言い表すことができるものではないように思う。
 今後は,この歴史的過程についてさらに詳細な検討がなされるべきである。


出典:田村正紀(2004),「国民市場における小売国際化」『流通科学研究所モノグラフ』No.058。

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2005年04月30日

市場の異質性を超越するグローバル小売業―迫られる流通外資への戦略的対応―(向山 2002)

要約
 この論文では,流通外資の強さについて検討することにより,日本企業の戦略課題を明らかにしている。ここでは,日系市場がアジアにおいて失敗を続ける原因を「高い営業経費をカバーするだけ多くの粗利益額を確保できなかったこと」(8ページ)にあるとしている。そして,「グローバル小売企業の強さは,異なる環境要因に直面したとき,得意の型に固執せず,柔軟に別の型を駆使できることにある」(18ページ)との仮説に基づき,カルフールの事例をもとにその強さを明らかにしている。カルフールの経営特性は「PBへの積極的な取り組み・グローバル展開による成長追求」(11-12ページ)であり,ここでは「商品開発能力の高まりがグローバル店舗展開を促進する」(18ページ)ことを想起している。最後に流通外資の相次ぐ進出に対してグローバル競争に対峙し,中国市場と関わって市場開拓する意欲のある企業のみが成功すると結論付けている。

 ケーススタディ-の結果,次のことが述べられている。2000年のカルフールの日本進出は多製品を取り扱う初業態の進出であったことから大きな注目を集めたが,「カルフールは多製品を取り扱いながら,グローバル展開する主要小売企業のなかで,もっともグローバル化の程度の高い企業」(11ページ)であり,その経営特性は「PBへの積極的な取り組み・グローバル展開による成長追求」(11-12ページ)である。このグローバル化プロセスや日本での経験から読み取ることができるのは,まず「カルフールの海外進出が途上国でのみ成功し,先進国では失敗している」(14ページ)という事実である。しかしながら,これはカルフールに限ったことではなく,多製品型小売企業が先進国で成功するケースは稀である。「商品部門ごとの競争に打ち勝ちながら,全体としての競争にも打ち勝つ」(15ページ)とあるように,多製品型小売企業は先進国において複雑な競争に直面している。次に本国と同様に直接取引を持ち込もうとすることであるが,これはチェーンストアの発達段階で,可能な限りの規模の利益を獲得するために,直接製造企業と交渉するようになったチェーンストアとしての本来的性格に基づくものである。また,これには第三者を介入させないことによるリスク削減の目的もある。最後にカルフールにおいて差別化を重視したPB発売後に海外出店が加速化したことを明らかにしている。

 論点は次の通りである。この論文では,カルフールの海外進出が先進国において失敗している原因を小売競争度としているが,少なくとも今回のカルフールの日本市場撤退に関しては,そのような要因のみで述べることはできないのではないだろうか。

 結論は次の通りである。グローバル小売企業の競争優位は母国商品・外国商品・現地商品を組み合わせることによって品揃えの柔軟性を実現し,「商品調達システム構築と自社商品開発能力の育成」(21ページ)に取り組み,双方向の情報のやり取りを行うことにある。このような流通外資への対処法は製造業においては,第1に成長のための新市場確保,とりわけ中国市場において流通外資と取引を開始するということ,日本市場においては,「従来の日本流取引様式へのこだわりを捨てること」(23ページ)であり,第2は流通外資との強調関係を構築により,商品開発能力を構築することである。また、流通企業においては,第1に新取引様式にシフトするということ,第2は流通外資のもつ戦力を総合的に分析することから、商品開発能力を初めとした競争優位を獲得することであると結論づけている。

向山 雅夫(2002),「市場の異質性を超越するグローバル小売業―迫られる流通外資への戦略的対応―」『流通科学研究所モノグラフ』No.008。

投稿者 02takenaka : 18:22 | コメント (0) | トラックバック

2005年04月29日

中国市場におけるカルフールの店舗競争力ー世紀聯華との比較分析ー(田村2003)

要約
この論文は、フランスのスーパーのカルフールが、中国で現地スーパーにまじってスーパー部門で2位を維持している先発者利益について明らかにしている。先発者は先発者利益を持続するために差別化し、顧客のニーズにあわせて適応して、顧客価値を維持することであるとされている。ここでは、世紀聯華 体育館店とカルフール南方店の事例を用いて両店の顧客満足度を検討している。その結果、カルフールは接客サービスや食品の差別化を図って高い顧客満足度を得ていることが判明した。「顧客価値とは消費者が店舗選択に際して用いる判断基準の重要度である。」(12ページ)と定義されている。顧客欲求を的確に満たしている。

理論的検討
カルフールは外資系企業にも関わらず、中国のスーパー部門で2位である。このような高い顧客満足度を得て先発者利益を維持できるのは、カルフールに店舗競争力があるからである。この店舗競争力がどのようなものであるかを競合店との比較において以下の実証的に明らかにする。


実証分析
 小売ミックスの状態と顧客満足水準を来店者に調査を行ない、小売ミックスについての顧客満足をマンホワトニー検定で測り、以下のことが明らかになった。
利用客の特徴としては、客単価が、カルフールは世紀聯華の倍以上あり、「発展途上国では、外資系のスーパーなど、大型店はまず中流所得者以上を顧客にする」(8ページ)とあるように中国のスーパーとターゲットが異なっている。食品売場の顧客満足水準は有意差があり、カルフールの方が高い顧客満足を達成している。衣服売り場でもカルフールは世紀聯華に明確な差を出している。
また、顧客価値ベクトルで、カテゴリー回帰分析を使って顧客価値の推定をした。推定のモデルは以下の通りである。

S = B1 X1 + B2 X2 +・・・+ Bn Xn
Sは両店の各売り場の顧客満足度
X1,X2・・・Xnは各売り場の小売ミックスのスコアであり、独立変数
B1,B2・・・Bnは各属性の顧客満足度への影響度を現す標準化係数
として本論文では推定している。
 
 この論文では,以下のような結論が述べられている。カルフールは先発者利益を得て優位性を持っている。客単価は倍以上で配置の分かりやすさやレジ待ち時間は世紀聯華に劣るが、食品安全性管理や接客サービスで差別化していて、顧客欲求に適応している。これが店舗競争力の強みになっている。そのため、店舗競争がおきても、カルフールは顧客欲求に的確に適応し、高い顧客満足を得て先発者利益を維持する。
 今後は中国で大型店を規制する新法が制定され、他の外資系流通業の競争が激しくなり、シェア拡大が予測されているので、今後の中国流通業競争の展開において、カルフールの先発者利益の維持はこれからも検討されるべき課題であると述べられている。


田村正紀(2003),「中国市場におけるカルフールの店舗競争力―世紀聯華との比較分析―」『流通科学研究所モノグラフ』No.38

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2005年04月28日

小売業におけるFSP(Frequent Shopper Program)の現状と課題  (佐藤2002)

要約
この論文は,ポイントカードシステムをベースとしたFSP(Frequent Shopper Program)を導入する国内企業の現状と課題が述べられている。FSPの本質は「すべての顧客は平等ではない。自社,自店への貢献度に応じて顧客を選別し,優良顧客にのみ報いろ」(5ページ)というものである。そのためにポイントカードを利用し,顧客行動,顧客構造を購買履歴データ読み解き,施策に反映させるのである。FSPの目的は大きく分けて2つあり,一つはポイント効果による販促効果を期待したものと,もう1つはCRM(Customer Relation Management)対応による顧客との長期リレーションシップの構築を目指したものとの2通りである。問題点はポイントカードの値引き分を潜在負債として先送りすることによる業績の悪化や,SMやGMSではCRM対応が効果的でないことがあげられる。ポイントカード導入によるFSPの目新しさがなくなった今日,顧客選別によるCRM対応を自社の本業とどう組み合わせ活かすかが,FSP導入後の各社に課せられた課題であると述べられている。

 理論的検討は以下の通りである。FSPの導入の目的はポイント効果と顧客関係強化によるCRM対応である。ポイントカード導入による顧客選別により,従来のPOSシステムでは見えなかった,誰が何を買ったのかを理解することができ,顧客の一定期間の貢献度を把握できる。貢献度による顧客構造が明らかになれば,顧客還元ファンドを優良顧客に集中させ,下位には薄い還元プログラムをとることにより,客数の減,利益の増という結果が得られる。優良顧客を選別できれば,その上位クラスターにCRM的アプローチで手厚い対応を行うのが効果的だが,CRM対応が効果を発揮するには次の条件を満たす必要がある。一つは最上位の優良顧客の富裕度が際立っていること,もう一つは顧客のアプローチが接客等のヒューマンウェアを通して行われるビジネスであることを認識することが必要である。よってCRMに適した業態は百貨店,高級専門店,ブティック,ごく一部の高級スーパーマーケットに限定される。そしてGMS,SMは上位顧客の購買額に上限があり,セルフサービスが基本であることからCRM効果は期待しにくい。これらの業態では,FSPデータの活用を中位層の購買額の引き上げに活かすべきことが指摘されている。

 実証分析は以下の通りである。この論文では顧客の貢献度の把握のため,期間買い上げ金額を変数としてデシル分析により,1ヶ月等の一定期間における購買額の多い顧客から順に並べ10区分すると,顧客においても3割の顧客が7割の売り上げに,2割の顧客が8割の売り上げに貢献する「3:7」「2:8」の法則が成り立つことを確認している。さらに顧客貢献を売上高でなく荒利額でとらえると,その差はかなり大きくなる。このことにより,小売業は下位層の低貢献度を優良顧客である上位層の高貢献度で埋め合わせしていた事が明らかにされている。

 この論文の結論は次の通りである。FSPの導入競争が落ち着いた今日,将来の優良顧客を創造するため,顧客データベースと本業のコアコンピタンスの強化が一体となった活用をいかにして行っていくことが今後の課題である。

 出典 佐藤 俊彦(2002),「小売業におけるFSP(Frequent Shopper Program)の現状と課題」『流通科学研究所モノグラフ』No.17

投稿者 02kayasi : 19:27 | コメント (2) | トラックバック

グローバル小売企業の韓国進出と各国小売産業の変貌-割引店という小売業態の分世紀を中心に-(崔 2002)

要約
 この論文は,韓国独自の小売業態である割引店(ハリン店)の成功要因を明らかにすることを目的としている。ハリン店とは,従来のディスカウントストアの低価格志向業態だけでなく,韓国消費者にフィットした業態も兼ね備えた小売業態である。この小売業態により,ハリン店が現地適応化戦略に遅れをとったグローバル小売企業に対して優位に立つことを可能にした。ここでは,ハリン店のこれまでの発展を歴史的展開に即して述べられており,またハリン店独自の小売フォーマットの特徴を取り上げ,それがハリン店の競争優位に影響していることを実証的に検討している。最後に,グローバル小売企業と善戦を続けているハリン店の戦略を考察することで,日本小売企業はグローバル競争における,新たな戦略のインプリケーションを得られると結論づけられている。

歴史的考察
 まず,ハリン店のグローバル企業との競争優位に至るまでの発展が,韓国小売流通システムの歴史的展開から述べられている。1996年の流通市場開放までは,百貨店中心の小売業界の構図であったが,流通市場開放により,売場面積の制限と店舗数に対する制限が全面撤廃されたため,グローバル小売企業の韓国進出が始まり,それに対応するかたちで,ハリン店という,低価格志向業態と韓国消費者の志向に適応した小売業態とを併せ持った独自の小売業態が誕生した。そのような環境に対応し,韓国政府も流通小売のグローバル時代に即した競争力を企業が持てるようにと,「卸・小売業振興法」と「流通産業合理化促進法」を統廃合し,1997年に「流通産業発展法」を制定したことにより,ハリン店を始め,韓国小売企業の競争力が高まった。IMF経済危機の中でも,ハリン店は積極的な参入・出店をしたことによって成長を続けることができた。近年においては,相次ぐグローバル小売企業の進出に対抗すべく,ハリン店の小売フォーマットの強化がなされている。このような歴史的背景から,ハリン店は現在のような競争力を持つに至った。


実証分析
ハリン店独自の小売業態が,グローバル企業との競争において,優位に働いているかを明らかにするために,売上高,食品比重,価格水準,PB商品比重という指標を用いている。
第1に,1店舗あたりの売上高の高さについて。ハリン店1店舗当たりの売上高はグローバル小売企業の売上高と比較すると圧倒的に高く,ハリン店の経営効率の良さが見られる。第2に,全体商品売上における食品比重の高さについて。全体商品の売上高で食品の比重は,6割に至り,韓国消費者に合った小売フォーマットであることを示している。第3に,価格水準について。低価格業態のハリン店だが,低価格志向から高級化へと韓国消費者の志向が変化している,家電製品の販売価格指数を他の小売企業と比較すると,その差は開いていない。そこからハリン店は,単なる低価格フォーマットではなく,韓国消費者にフィットした小売業態であることから,消費者支持の獲得につながっている。最後に,PB商品比重の増加について。低価格,低コストのPB商品の増加は,ハリン店にとって,低利益率問題の克服につながる。
このように,ハリン店は先進国の低価格志向フォーマットを導入しながらも,韓国人の消費行動の志向に適合した,小売フォーマットを取ることで消費者に支持され,グローバル競争における優位性を獲得してきた経緯が明らかにされている。


結論
 韓国ハリン店がグローバル小売企業に対して優位に立てた要因として,韓国政府の支援など制度要因が挙げられる。また先進国の低価格志向業態を導入しながらも,韓国人の消費の志向に適合した,独自の小売フォーマットの開発も大きな要因の一つである。反対にグローバル小売企業は,グローバル・モードに執着したため,韓国の現地対応戦略に遅れをとったことが,優位に立てなかった要因である。日本小売企業はこのような韓国小売市場でのグローバル競争の考察から,グローバル小売企業との相乗的競争戦略,そしてそれがもたらした韓国小売産業全体への波及効果など,グローバル小売企業の日本市場進出への対応のインプリケーションを得られると結論づけられている。

 
出典:崔相鐵(2002),「グローバル小売企業の韓国進出と韓国小売産業の変貌-割引店という小売業態の分析を中心に-」『流通科学研究所モノグラフ』No.7。

投稿者 02umeda : 16:05 | コメント (0) | トラックバック

2005年04月26日

日系百貨店の台湾進出―その成功要因と小売技術移転―(陳 2002)

要約
 
 この論文は,日本の百貨店の台湾市場への参入とその成功要因を明らかにしている。ここでは日台の百貨店の変遷について述べた後,日本の百貨店と台湾の日系百貨店の経営における特徴を比較している。両者の比較により,日系百貨店は品揃えや仕入れ方法においては現地適応化を行い,接客を含めたサービスや,POSシステムを導入するなどの情報システムにおいては標準化を行っていたことが明らかにされている。その後,日系百貨店の成功を目の当たりにした現地百貨店が,POSシステムの導入や店舗の大型化,大規模駐車場の設置,サービス水準の向上などの点で,日系百貨店の手法を模倣している状況にあることを述べている。そして,日系百貨店の成功要因は「よきパートナー選択と立地選択,テナント確保と管理,質の高いサービスへのニーズの高まり」(16-17ページ)にあるとしている。

ケーススタディの結果、次のことが述べられている。台湾における日系百貨店(太平洋崇光、新光三越、大立伊勢丹、大葉高島屋、廣三そごう、漢神百貨店の6社)は品揃えにおいては「現地百貨店の平均的品揃えによく似ている」(11ページ)とあるように現地適応化を行なっている。また,仕入方法についても,「百貨店は建物を提供して入居するテナントの選別・管理を行なうが,テナントがどのような商品をどのように販売するのかに関しては,一切感知しない」(11ページ)というように販売リスクを負わない現地方式を採用している。しかし,一方ではPOSシステムの導入や独自の販売員教育,「文化催事・商品の包装・友の会組織・設備の充実・買い物コンサルティング・無料駐車場」(12ページ)などの各種サービス,立地においては標準化を行い,外商については日本流を捨て去るというように,日系百貨店はすべて標準化して台湾市場に参入したのではなく,現地適応化を同時に実行したことが明らかになっている。

 論点は次の通りである。この論文では,日系百貨店の成功は現地適応化と標準化を行い、日本式システムの移転に成功したこと,台湾経済の発展によるものと述べられているが,日系百貨店の成功はこのような要因のみで説明し得るものなのだろうか。

 結論は次の通りである。「日本の百貨店は日本流経営方式・ノウハウを台湾での子会社に様々に工夫を重ねながら移転してきた」(16ページ)が,このことを可能にした背景には適切な合弁相手企業の選択により,「好立地の不動産や大型店舗用ビルの低コストでの利用が可能になった」(16ページ)ということ,また,仕入れ方法について現地適応化した結果,日本では負担となっていたコスト要因の大幅な削減にも成功したこと,そして台湾消費者の生活水準の上昇により,生活の豊かさや,ニーズにあったサービスを求める気運が高まっていたことがあると述べている。今後の課題としては,他国において同様の戦略が適応できるかということ,コンビ二エンス・ストア及び量販店の急速なシェア増加や高級感を打ち出したショッピング・センターの出店に対してどう対処するかということを指摘している。

出典:陳 玉燕(2002),「日系百貨店の台湾進出―その成功要因と小売技術移転―」『流通科学研究所モノグラフ』No.003。

投稿者 02takenaka : 16:15 | コメント (0) | トラックバック

岐路に立つ電子小売業田村(2001)

要約
現在,ネット通販の潜在市場が大きく形成されてきている。この潜在市場を現実化するために必要な要因を,消費者調査から導き出す。それが,この論文の目的である。
従来,品揃えの広さ,商品の安さ,探索の容易さが店舗流通に対するネット通販の優位性と考えられていた。しかし,調査の結果,こうした要因は新規に顧客を獲得したり,反復利用者を増やす要因とはなっていないことが明らかにされた。また,身元情報の安全性や苦情処理体制といった信頼性が,反復利用を促す重要な要因となっている事も明らかにされた。
このことから,ネット通販で成功するには,ただ単に店舗をデジタル化すればいいだけではない。安全性,信頼性の問題を解決し,ネット通販の店舗流通に対する競争優位や,店舗デジタル化のもつ経営的な意味を再認識することが重要であることが示されている。

理論的検討は次のとおりである。情報機器,ソフトの低廉化により,インターネットの一般家庭への急速な普及が進んだ。この家庭の情報化に伴い,ネット通販の潜在的な市場が形成されている。
 この潜在市場を現実化するためには,インターネットの普及以外の条件が満たされる必要がある。その条件とは,より多くの消費者がネット通販を利用するようになるという事,そして利用した人がそれに満足し,反復的に利用するようになることである。
 ネット通販を利用したいと思う人は,ネット通販のどこに魅力を感じているのか。ネット通販を利用しない人は,ネット通販のどこに問題を感じているのか。ネット通販経験者のなかで継続して利用する人と利用をやめてしまう人に分かれてしまう要因は何か。以上のことが消費者調査を基に分析されている。

実証分析は以下の通りである。この論文では消費者が4つのタイプに分類されている。まず,ネット通販非経験者については,利用したいという意思を持つ人(獲得者)と持たない人(非利用滞留者)に区分がなされ,ネット通販経験者についても反復して利用を続けている人(反復利用者)と何らかの理由で利用をやめた人(離反者)に区分がなされている。
そして,ネット通販と店舗での買い物の比較において,消費者がどういったところに差を感じているかを分析し,ネット通販の競争優位についての調査が行われている。ネット通販での買い物における価格や製品選択幅,苦情処理などの質問項目について,店舗での買い物と比べ,全く違うから全く同じまでの5点尺度で回答してもらっている。
 そして,獲得者と非利用滞留者について,先程の質問項目の平均スコアに有意な相違があるかないかを分析。獲得者と非利用滞留者の意見の相違は,ネット通販非利用者を獲得者と非利用滞留者に振り分ける要因を示していると考えられる。さらに,反復利用者と離反者の平均スコアについても比較・検討することで,ネット通販利用者を反復利用者と離反者に振り分ける要因が明らかにされる。

結論は以下の通りである。従来,ネット通販企業はネット通販にかかわる消費者行動を考慮していなかった。情報技術を利用し,店舗をデジタル化すればネット通販事業で成功が約束されていると考えられていた。
しかし,従来言われていたネット通販の競争優位を信じ,情報技術を流通システムに応用するだけでは成功しない。消費者はネット通販に何を求めているかを把握し,さらには店舗流通に対してどのような競争優位を持っているのかを再認識する。それこそがネット通販事業において成功するために必要なことである。

この論文から得られる示唆は以下の通りである。この論文では,ネット通販において,新規獲得者を誘引する要因や,反復利用を促す要因が明らかにされている。しかし,これらの要因は店舗流通においてもできることを,IT技術によってより進歩させただけである。もっとネット通販が店舗流通に対して競争優位を持つためには,IT技術の潜在能力をはっきり認識し,消費者がネット通販に何を求めているかを認識する必要がある。


出典 田村正紀(2001),「岐路に立つ電子小売業」『流通科学研究所モノグラフ』No.001。

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2005年04月24日

GMS激突競争における競争マイオピア ―イトーヨーカ堂対イオン―(田村 2003)

要約
 この論文は,業態,店舗規模が同じで,共通の商圏に出店している競合店舗間における店舗属性の類似性生成過程を明らかにしている。ここでは,イトーヨーカ堂古淵店とジャスコ相模原店の事例を用い,類似性生成過程とその問題を実証的に検討している。この過程の基本要素は顧客指向と模倣であり,顧客指向は「顧客の欲求を満足させるように店舗属性を適応させること」(p.2)と定義されている。顧客指向度測定の結果,両店共に顧客指向を追求しているとはいえなかった。類似性は,相互模倣によるものであることが示されている。模倣が容易かつ迅速に行えるために両店ともリスクを犯してまで顧客指向戦略を選択するのではなく,模倣戦略を選択していると述べられている。この競争状況は顧客指向を狙う新規参入者にとっては市場機会である。国際競争においては模倣のような短期指向ではなく価値創造競争という長期指向が重要となると結論づけられている。

  
 理論的検討は次のとおりである。市場競争は,二者以上の売り手と,買い手を含む三者間で行われる。二店舗間の競争は二者間の対抗ではなく,この市場競争の基本構造である三者関係を前提としている。類似性の鍵はこの三者間にある。
 
 類似性の生成過程の概要は次のとおりである。基本要因は顧客指向と模倣の二つであり,その過程は四つある。
・両店による顧客指向の追及
・A店による顧客指向の追及とB店による模倣
・B店による顧客指向の追及とA店による模倣
・両店ともに顧客指向を追及せずに,相互的に模倣
 
 店舗属性を小売ミックスを構成する様々な属性とした場合にはこの過程はさらに複雑なものとなる。その過程は,各属性ごとに上記の四つの過程の組み合わせによって多様に構成される。


 実証分析の構造は次のとおりである。まず,顧客指向が存在するかどうかを知るために顧客満足度の指標を用いる。顧客がどのような店舗属性を重要視しているかを消費者アンケートから得る。属性重要度と両店の店舗スコアを比較しどの程度顧客満足度を達成しているのかを見る。店舗全体の満足度は,食品,衣料品,生活雑貨の売場ごとの属性と店舗全体の属性からなる。その各売場の満足度はさらに各売場ごとの属性からなる。
 各売場の顧客満足度を推定する際には,顧客満足度を従属変数とし,各売場ごとの属性を独立変数とする重回帰式を用いる。店舗全体の満足度の推定に際しては,独立変数に店舗全体属性だけでなく,各売場の満足度を追加した重回帰式を用いる。各独立変数の相対的寄与率が属性の重要度となる。この論文は「このような属性重要度を要素にするベクトルを顧客価値ベクトルとよぶ」(p.6)ことにしている。両店の店舗スコアと顧客価値ベクトルを対比させ,消費者が重要視している属性と店舗スコアが一致していれば顧客指向が追及されているといえる。
 
 分析の結果,両店舗共に顧客指向度は非常に低かったことが示されている。つまり,両店の類似性は顧客価値の創造競争によって生み出されたものではなく,模倣によるものであったといえる。


 模倣過程の詳細を明らかにする分析の構造は次の通りである。

イトーヨーカ堂古淵店をY店,ジャスコ相模原店をJ店とする。
Y店店舗スコア=定数項+a(J店店舗スコア)+b(属性の重要度)
J店店舗スコア=定数項+a(Y店店舗スコア)+b(属性の重要度)

 二段階回帰分析を行ってこのふたつのモデルのパラメータを推定している。
 回帰係数の有意水準を見ると,店舗スコアの回帰係数は1%水準以下で有意であるという結果が得られている。これは,両店が競合相手を互いに意識してその店舗スコアを形成しているということをあらわしている。


 結論は次のとおりである。近接立地する競合店舗間に見られる類似性は,顧客指向追及の結果ではなく,相互模倣によるものであった。これは,模倣が容易かつ迅速に実行できるためであると述べられている。模倣が容易な理由としては顧客指向が企業行動システムとして構築されていないことが挙げられている。顧客欲求を的確にとらえ,それにすばやく対応する組織行動システムの構築が提案されている。さらに,企業の短期的指向も指摘されている。ますますはげしくなる国際競争の中で生き残るためには,GMSにおける模倣のような近視眼的な短期指向ではなく,顧客指向の追及のように価値創造競争という長期指向が必要であると結論付けられている。


出典:田村正紀(2003),「GMS激突競争における競争マイオピア ―イトーヨーカ堂対イオン―」『流通科学研究所モノグラフ』No.15。

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大型GMSの激突競争 ―イトーヨーカ堂対イオンの事例―(田村 2003)

要約
 この論文は,世界的小売業の日本進出でさらに激しくなる流通企業間の競争において,近接立地での大型店舗同士の競争の実態を明らかにしている。その目的は日本企業の店舗競争力の評価と,その形成基盤を検討することである。店舗競争力の基本決定要因は立地場所,売場面積規模,店舗の魅力度である。同業態,同規模で近接立地している競合店舗は店舗魅力度で差別化するしかない。ここではジャスコ相模原店とイトーヨーカ堂古淵店を事例とし両店の店舗魅力度を比較している。店舗魅力度は店舗属性に対する消費者の評価で測っている。両店舗の属性間における有意差の検定から,両店の店舗属性は非常に似通っているという結果が述べられている。店舗属性の類似性の生成要因として,両店の結託,顧客志向の追及,競合店の模倣の3つが挙げられている。最後は,店舗属性間の類似性の生成要因を明らかにすることを次の課題としている。

  
 理論的検討は次のとおりである。流通企業の競争力の中で最も重要な側面は店舗競争力である。店舗競争力は店舗の顧客吸引力にあたり,顧客数や店舗販売高としてあらわれる。店舗競争力の決定要因には店舗の立地場所,売場面積規模,店舗の魅力度などがある。同じ潜在商圏を持ち,同じ規模で同じ業態の店舗の競争では,立地場所や売り場面積だけでは差別化を図ることができない。つまり,店舗吸引力においては店舗魅力度が鍵をにぎることとなる。

 店舗魅力度を測るにあたっては,ジャスコ相模原店とイトーヨーカ堂古淵店の店舗属性に対する消費者アンケートのデータを使用している。
 店舗属性は食品売場,衣服売場,日用雑貨売場,店舗全体の属性に分けられ検討されている。各売場に特有の属性,例えば食品売場ならば生鮮三品の品揃え,鮮度などについてそれぞれ消費者満足度を消費者アンケートから得ている。
 両店を比較するにあたって,両店舗の属性間の有意差を見るためにマンホワイトニー検定を行っている。その結果,食品,衣服,日用雑貨の売場に有意差が見られなかっただけでなく,店舗全体属性においても有意差は見られなかった。これにより,両店の店舗総合満足度には有意差がなかったと述べられている。


 様々な店舗属性が存在し,店舗差別化が図られるにも関わらず,このような店舗属性間の類似性が生まれる要因として,考えられるものが3つ挙げられている。両店の結託,顧客志向の追及,競合店の模倣である。
 この中で結託は,GMSの管理体制の中で業務として実行することが困難という理由から,類似性生成要因になる可能性は低いと述べられている。また,同じ潜在商圏を持つために,両店の顧客指向追求が類似性を生み出す可能性も示している。さらに,自身で小売ミックスを改善していくよりもコストが安く,リスクも少ないために競合店を模倣する可能性がきわめて高いことも示唆している。
 

 結論としては,同規模,同業態で近接立地している店舗は,店舗魅力度を形成する店舗属性間に著しい類似性があらわれている。その類似性生成要因が,顧客指向と模倣もいずれであっても,次の課題は,両店の顧客指向度を測定しふたつの要因間の関連性を検討することとされている。これにより,日本企業間の競争の特質を明らかにし,その特質が世界的小売業の日本進出を評価する際の基盤となると述べられている。


出典:田村正紀(2003),「大型GMSの激突競争 ―イトーヨーカ堂対イオンの事例―」『流通科学研究所モノグラフ』No.22。

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