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2005年05月04日

近代流通業における市場地位の変動 (田村 2003)

要約
 この論文は,市場地位の変動が激しい近代流通業のメカニズムを解明することを目的としている。そのために,まず1974年から1999年までの25年間の市場の実態を述べ,この間の企業の市場地位の変動がどのような要因によって生じたのか,実証的に検討している。「市場地位の変動は,主として各企業の売上成長率の分散が大きいことによって生じる。この分散が大きくなる原因は、各企業の個別成長要因の持続性が低いためである」(14ページ)さらに,「個別成長要因は、業態の成長力とフォーマットの成長力によって規定される」(11ページ)とし,市場地位の獲得は,業態とフォーマットの革新による,と結論づけている。最後に,変化し続ける流通環境に対して,業態革新を継続できる企業,つまり成長し続けられる企業はどのような特質を持っているのか,明らかにすることを次の課題としている。

理論的検討は次の通りである。市場地位の変動要因である,業態の成長力は,経済発展による商品カテゴリーの多様化や,消費者の生活様式の成熟化によって変化する。コンビニや通信販売などの新しい業態の発展や,マイカーの普及による郊外商業が発展したことが例に挙げられる。このような業態の多様化によって,既存の業態のシェアは変化する。このことから,市場地位の変動は,このような業態成長力に依存することを示している。

実証分析は以下の通りである。「市場地位の変動は,主として各企業の売上成長率の分散が大きいことによって生じる。この分散が大きくなる原因は、各企業の個別成長要因の持続性が低いためである」(14ページ)ここでは,個別成長率を測定するため,個別成長係数αの回帰分析から,企業の期待シェア増加率を推定した。1984年から1994年までのシェア増加率を,1974年から1984年までのそれと比較すると,大きく低下している。それはこの期間内に,大型店の規制緩和,国際化,情報化,バブル経済の崩壊など,流通環境の大きい変化が生じたため,企業は安定して成長することが困難になったからである。つまり,個別成長要因をほとんど維持できなかったのである。しかし,それ以降は新しい流通環境が企業内に浸透し始め,それに企業が対応したことで,シェア増加率は上昇した。これは同時に個別成長要因の持続性が増加したことを意味している。

流通企業の個別成長力は,フォーマットの成長力によって決定される。ここでは,1974年から1999年までの成長力を測定するため,フォーマット成長要因の係数αを回帰分析によって推定している。分析の結果,流通環境が激しく変化した1984年から1994年にかけては,この数値は大きく低下したことが示され,このことは流通環境に変化が生じれば,フォーマットの成長率は低下することを示している。

 結論は以下の通りである。近代流通業の市場地位の変動要因である,業態とフォーマットの成長力の持続性は,流通環境によって変化する。そして,流通環境の変化が激しかった近年においては,業態とフォーマットの成長力の持続性は調査期間を通して低かった。ここに近代流通業における激しい市場変動の原因がある。流通環境の変化に対して,業態とフォーマットの成長を継続できる企業のみが近代流通業で成長できる,と結論付けている。

出典:田村正紀(2003),「近代流通業における市場地位の変動」 『流通科学研究所モノグラフ』No.016。

投稿者 02umeda : 2005年05月04日 16:53

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