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2005年05月23日

イオングループにおけるパートナーシップの展開(山本 2003)

要約
 この論文は,イオングループにおける供給業者とのパートナーシップを取り上げ,そのパートナーシップの成果を活用して進められている,イオングループによる流通システム変革の問題を検討している。まず,「イオングループが複数のパートナーシップから得た成果を整理し,どのような形で流通システムの変革に利用されているかについて分析」(106ページ)している。さらに,イオングループによる流通システム再編から生まれたコンフリクトを分析している。これらの分析を行うことで「今後,流通システムの合理化を目指す企業にとっての課題」(106ページ)を明らかにしようとしている。

 まず,イオングループによる供給業者とのパートナーシップの歴史に少し触れた後,その成果と問題点を整理している。
 パートナーシップから得られた成果としては,作業量の削減による人件費などのコストの削減,「正確性と即時性を備えた情報システム」(108ページ)の構築による,品揃えの充実と在庫の削減,情報の共有と利用,新商品の開発の可能性が挙げられている。
 しかし,パートナーシップの対象となる商品は,パートナーが取り扱う商品に限られるため,「①個別企業との間で成果が出ても財務内容に現れる効果は非常に小さく,また,②パートナーシップを利用したシステムと既存のシステムが並存する」(111ページ)という問題点が挙げられている。この点から,パートナーシップで採用したシステムを,小売業が取引する全ての企業に広げていくことは必然的であると述べられている。
 それを受けて,次にこのパートナーシップの成果をイオングループ全体に広げていく動きを分析している。イオングループが打ち出した,マーチャンダイジングとロジスティクス分野における戦略IT構想の検討を通して,「情報を軸に業務を改革していく過程」(116ページ)を見ている。戦略IT構想の目玉である,ODBMSというシステムの導入により,小売業の業務全体をカバーできる統合的な情報システムの構築,省力化による業務の効率化,販売情報の獲得と活用による品揃えの適正化が実現されたと述べられている。
 そして,イオングループの戦略物流構想による,ロジスティクス網の再編についても検討がなされている。中間流通をイオングループが自ら行おうとしたものであるが,これにより「イオングループとメーカー,卸売業の間にはさまざまなコンフリクトが発生している」(116ページ)とし,このコンフリクトについてさらに分析を進めている。
 イオングループの新しいロジスティクスシステムが「目標とする能力を発揮しておらず,メーカーがイオングループとの直接取引をするのを足踏みしたり,直接取引を中断したりするケースが見られている」(125ページ)その要因を検討している。イオングループがメーカーに要求している物流費や,イオングループとの直接取引を行う一方で卸売業との帳合を残すメーカーの存在,社内の混乱,ロジスティクスの不備,卸売業との関係悪化をはじめとする企業間の関係の問題が,その要因として挙げられている。

結論
 結論は次のとおりである。自社主導による流通システムの構築において生まれた,多くのコンフリクトを克服するには,「メーカーがイオングループとの取り組みに対してメリットを感じられるようにしなければならない」(126-127ページ)と指摘し,「イオングループはこれらメーカーと交渉を緊密にしながら,新たな企業間関係を育て,可能な限りWin-Winの関係に近づけていくことが期待される」(127ページ)と述べられている。最後に,これらのコンフリクトをどう克服するかについて注目していきたいとしている。

論点
 論点は次のとおりである。新しい流通システムの概要について示されている部分では,「ロジスティクスシステム能力の獲得が今後の重要課題である」(121ページ)と指摘されているにも関わらず,結論ではその指摘が欠落している。ロジスティクスシステムが不十分であれば,いくら企業間関係が改善されても,イオングループの利得につながらない。この論文で言われているWin-Winの関係を目指すには,流通システム再編の基盤となるロジスティクスシステムそのものの詳細な検討も必要とされるだろう。

出典:山本敏久(2003)「イオングループにおけるパートナーシップの展開」『立命館経営学』第42巻第4号,105-127ページ。

投稿者 02eiko : 2005年05月23日 20:52

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コメント

はじめまして、山本です。
ここでレビューされている論文の著者です。
拙論分などを取り上げていただきありがとうございます。
先生から「著者の意見を」と求められたのですが、自分の論文がレビューされるというのも初めてなもので、どうしたものかと。
質問などありましたらお受けしますというあたりで、どうかご容赦を。

それにしてもこのブログのレビューの質と量は圧巻ですね。うちの学生もこのぐらい勉強してくれるといいんですが。

それはともかく、今後ともよろしくお願いします。

投稿者 山本 : 2005年07月06日 23:14

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