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2005年06月13日

消費者の専門店認知基準(田村 2005)

要約
 専門店と呼ばれている業態が多様に分化し,その市場シェアが増加しているという市場の状況変化を読み取るために,この論文では,これまで主要業態の残余カテゴリーとされてきた専門店のより詳細な検討が試みられている。「専門店という用語が消費者によってどのように使用されているのかについて実証的に分析」(2ページ)することで,その目的を達成しようとしている。

理論的検討
 はじめに,専門店と呼ばれている業態の売上高シェアの伸びが,日経流通新聞からのデータにより示されている。これは,消費者の専門店指向の高まりと理解されているが,専門店が「百貨店,スーパー,コンビニ,生協,通信販売を除いた残余の業態」(2ページ)として定義されていることに問題があると指摘している。そこで,残余カテゴリーとされる専門店のシェアの伸びが,消費者の専門店指向の高まりと単純に理解してよいのかという問題意識に基づき,「専門店という用語が消費者によってどのように使用されているのかについて実証的に分析」(2ページ)している。消費者が専門店をどのように捉えているのか,それは日経調査で定義される専門店とどのように異なるかを明らかにし,専門店という領域をより詳細に検討しようとしている。まず,専門店とは何か,いくつかの辞書の定義が紹介され,その定義の多様さが示されている。次に,専門店に関する消費者アンケートから,専門店と呼ばれる主要企業の専門店認知率が測定されている。消費者アンケートをもとに,さらに分析が進められ,消費者はどのような特徴を持つ店舗を専門店と判断しているかが明らかにされている。

実証方法
 アンケートは,首都圏・京阪神都市圏に住む消費者3000人を対象とし行われている。消費者はどのような特徴を持つ店舗を専門店と判断しているかを明らかにするために,76の店舗属性をあげ,そのそれぞれについて専門店と判断する基準となりうるかどうかを,5点尺度で回答してもらったものが分析に使用されている。
 まず,店舗属性変数を減らすために因子分析が行われている。その結果,店舗属性は76種から15種の因子に要約されている。
 次に,消費者が専門店を識別する基準として,要約された因子をどの程度用いているかが測定されている。その方法は,各因子を構成概念と考え,「各構成概念を定義する店舗属性の素点スコア(5点尺度)を加算した総和尺度」(7ページ)を用いて構成概念を測定するというものである。総和尺度構成においては,単純構造を示さない,因子負荷量が0.3前後の店舗属性は取り除かれている。さらに,「構成概念を構成するために使われる各項目が,同じ構成概念を測定しているのか」(7ページ)という問題を内部一貫性とし,その内部一貫性はクロンバッハのα係数によって測定されている。α係数が基準値を超えないものは構成概念から除いている。しかし,基準値よりは低いが項目平均スコアの高い,「品揃えの限定」は構成概念のかわりに,それを構成する店舗属性の項目が分析に取り入れることにしている。このようにして構成された総和尺度の項目平均スコアが示され,平均スコアの年令層間の差異も分析されている。

分析結果
 まず,消費者の専門店認知率はどの企業についてもそれほど高くはなく,企業間でもかなりの差が見られ,専門店と分類されてきた業態は「消費者の目から見ると,業態的にきわめて異質な世界」(4ページ)として映っていると述べられている。年代間でもその認知率に差異があることも示されている。
 次に,総和尺度スコア検討の結果,品揃えの限定に関わる属性の平均スコアが最も高く,消費者が専門店と判断する際の,最も重要な店舗属性は品揃えの限定であると述べられている。さらに,接客対応力,高級品品揃え,雰囲気,常連客特典,価格プレミアムなどきわめて多様な店舗属性も認知基準となっており,このことは「伝統的専門店から多様な店舗フォーマットが分化している現実を反映したもの」(9ページ)と捉えられている。一方で価格訴求力の平均スコアが最も低く,「ディスカウントストアは消費者によって専門店でないことの基準として使われている」(9ページ)とされている。年令層別の差異の分析から,高齢層では高級専門店が意識されていることが明らかにされている。
 また,専門店で買いたい商品についてのアンケート結果では,時計・メガネや宝飾品類,婦人・紳士服などが家電などよりも上位にあり,日経専門店調査に登場する多くの専門店(ホームセンター,百円ショップ,家電専門店,ドラッグストア)は,専門店として消費者に認知されていないことを示すものと述べられている。

結論
 日経調査の専門店コンセプトと消費者のそれには大きな差異があることが,最も重要な発見物とされている。特定商品を取り扱うという企業のフォーマットが,多様に分化している状況にあっても,その領域を専門店というひとくくりにしてきたことが,この差異の原因とされている。最後に「専門店の分化の内容を明らかにし,それをふまえて多様なフォーマットを概念的・理論的に整理すること」(11ページ)を重要な問題として捉え,専門店のコンセプトの位置を明らかにすることが次の重要課題とされている。

出典:田村正紀(2005),「消費者の専門店認知基準」『流通科学研究所モノグラフ』No.074。

投稿者 02eiko : 2005年06月13日 20:52

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