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2005年05月16日

小売業マーケティングにおける国際化戦略に関する考察(柳 2003)

要約
 この論文は,小売業が国際化する際の戦略と,その課題を明らかにすることを主な目的とし,小売業の国際化に関する既存研究をもとにそれらを検討している。まず,小売業国際化の進展過程,その定義と動因,戦略の類型について,既存研究を再考察している。次に,小売業の国際化戦略の分析・考察として,小売業の国際市場進出における阻害要因と成功要因を検討し,最後に,小売業の海外市場進出における今後の課題を示している。

Ⅰ.小売業国際化の先行研究
 まず,小売業国際化の進展過程を考察した結果,「近年の小売業の国際化は,国内市場の飽和問題などによるマーケティング環境の変化に伴い,新たな市場を求めて海外に進出するという,かつてとは異なるパターンで進んでいる」(73ページ)と述べられている。
 そこで,小売業の国際化とは何か,その定義を検討するために既存研究をレビューしている。レビューの結果,この論文では「小売業の国際化とは,店舗の出店,商品調達,技術提供,資金調達など,様々な形で国境を越え,流通活動が行われること」(74ページ)とされている。
 次に,小売業が海外進出する動機を考察している。ここでは,進出要因を簡潔に示したものとして,アレクサンダーのプッシュ要因とプル要因の論考を取り上げている。アレクサンダーは,その動機を「政治,経済,社会,文化,小売構造の五つの側面から整理している」(75ページ)が,この論文ではここにさらなる考察をあたえ,小売業国際化の動機は「政治・経済・社会・小売構造など個別企業がコントロールできない外部環境要因と,小売業自らが環境変化に応じて新たな成長機会,あるいは利益を求めて海外進出する戦略的要因に分けることができる」(76ページ)と述べている。
 さらに,既存研究の考察から小売業の国際化戦略の類型を試みている。小売業国際化の戦略パターンは投資戦略,グローバル戦略,多国籍戦略の3つある。サルモンとトージマンによると,近年において小売業は,「グローバル戦略と多国籍戦略を取っている」(74ページ)としている。前者は「母国で成功したフォーミュラ(規格化された運営方式)を,国境を越えて模造ないしは再生産する方式」(77ページ)であり,後者は「ローカル市場に適合するために,親会社に匹敵しうるような独立経営権を関係会社に付与する方式」(77ページ)とされている。グローバル戦略は消費同質化と基準の調和が各国間で進められるため,多国籍戦略に比べて高い事業成長を示すとし,「企業の国際的な展開に対応した、伸縮的なネットワーク型の経営組織が構築されることが必要である」(78ページ)と述べられている。

Ⅱ.小売業の国際化戦略についての分析および考察
 ここでは,小売業の国際市場進出における阻害要因と成功要因を検討している。(和田 1987)は阻害要因を資本市場,供給市場,販売市場,労働市場という側面から考察し,ここではその側面を詳しく検討している。さらに,成長が期待された国際市場での赤字の原因の考察も行っている。

 まず,資本形成という観点での海外出店方法における問題が,資本市場の問題として挙げられている。資本形成という観点での海外出店方法は全額出資,資本参加,合弁の3つである。「全額出資や資本参加の場合,本国小売業の側の資本蓄積に依存することが必要とされる」(80ページ)が,このことはオーバー・プレゼンスの問題にも関わり深刻化するため,開発途上国への出店は,合弁の形をとるのが一般的であると述べられている。
 供給市場の問題は,進出先における商品流通チャネルの問題である。ここでは,本国と進出先国間の流通チャネル構造の近代化度の差をずれと呼び,流通慣行や取引形態などチャネル行動の相違を違いと呼んで阻害要因としている。ずれと違い両面の認識が必要であり,その結果両面の制約性が高い場合には積極的に現地化をはかることが必要であるとされている。
 販売市場の問題は,小売業態の選択とマーチャンダイジングの問題である。文化圏の違いのために消費者行動が異なるという視点ではなく,「本国の消費行動に共通する部分と,現地国の消費行動全体に先の部分が占める比率に着目して,しっかりと見極める視点が求められる」(81ページ)と述べられている。この視点に基づき,業態戦略やマーチャンダイジングが決定されることとなる。
 さらに,労働市場の問題として労働力調達が,「海外出店を阻害する要因のうち最も重要な問題」(81ページ)とされている。
 最後に,成長が期待された国際市場での赤字原因の考察から阻害要因を提示している。それらは五つあり,「粗利益率の低さ(対総売上高比),家賃の高さ,進出時期(タイミング)の悪さ,低価格競争の激しさ,立地選定の失敗」(81ページ)である。

 さらに,小売業が黒字となる要因と認識されている点を挙げている。黒字小売業においては,前述の家賃,進出時期,立地選定のいずれかにおいて優位性が存在し,また,残りの二つの要因は赤字・黒字に関係なく経営上の問題として認識されていることをふまえ,成功要因を検討している。成功要因は八つ挙げられている。グローバルな拡大に適した業態の選択,選択した業態を現地の事情に合わせる柔軟さ,進出市場の条件にあった戦略の選択,市場進出に向けての綿密な準備,現地マネジメントチームの育成と確立,一番乗りの利点を活用した,市場参入後の迅速な拡大,優れた財務管理戦略,グローバル経営のネットワーク作りの八つである(82-83ページ)。

 最後に今後の研究課題が示されている。本国の小売業が国際市場へ進出する際の戦略や課題を模索するには,「小売業の海外出店企業の行動を正確に把握できるような事例研究を通じて,小売業の国際化戦略を分析する必要がある」(84ページ)とし,今後の研究課題として,国際化戦略を類型別にみて「国際化戦略を採用しようとする小売業はどのようなコンセプトのもとに戦略を実行すべきかについて取り上げる必要がある」(84ページ)と述べられている。

論点
 既存研究のレビューを通じての検討は,理解できる。しかし,成長が期待された国際市場での赤字の原因の考察や,成功要因の検討は根拠が示されていない。データの拠り所,分析方法も定かではないため,成功要因等においては説明力がまったくないといえる。

出典:柳哲洙「小売業マーケティングにおける国際化戦略に関する考察」『商学研究論集』第19号,2003年9月,71-87ページ。

投稿者 02eiko : 2005年05月16日 19:19

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