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2005年05月12日

世界覇権を巡る闘い(田村 2004)

要約
この論文は,1990年から2002年の期間において世界の小売企業トップ10に入る企業を勝ち組,10位以下の企業を負け組みに分類し,その分類に基づいて各企業の成長要因を規模の優位性とそれを支える競争優位基盤に基づいて分析するとともに,世界の小売業の先頭集団の平均成長率の低下という事実に対し,この壁を越えるために各企業がどのような戦略をとり世界市場での覇権を目指すのかについて書かれている。結論は小売企業が全国市場の壁に直面したときに海外市場進出という小売国際化の道をとり,そしてその国際小売企業の次の標的となる市場が日本であるという事実に対し,日本の先発小売業者はこの世界競争にどう立ち向かうべきなのかという問題提起を結論として締めくくっている。

理論的検討は以下の通りである。勝ち組企業と負け組企業を分ける要因は規模の優位性を発揮しながら成長できたかどうかにあるとし,その規模の優位性を生み出す要因が競争優位基盤によるものとして理論を展開させている。規模の優位性とは企業規模の成長が財務効果を向上させることであるとし,その指標となるのが資本利益率である。その売上利益率向上を達成する2つの要因が売上利益率と資本回転率であり,この2つはトレードオフの関係にある。そしてその売上利益率を変化させる要因が競争優位基盤であり,購買力,小売ブランド,需給チェーンシステム,業態ポートフォリオを革新することにより達成されるとしている。しかし,小売業が優位性基盤を利用して成長を続けるにはその売上高が絶えず拡大しなければならないが,その売上高成長はフォーマットの壁,業態市場の壁,本国市場の壁によって阻害される。フォーマットや業態市場の壁は新しい業態を開発することにより乗り越えらるが,本国市場の壁は克服できない壁である。小売企業はこの壁を小売の国際化により克服しようとした。国際化に成功した勝ち組企業に見られる特徴は,ハイパーマートを中心に大型店展開していることと,外国売上比率が高く,進出外国数が多いかどうかである。そしてその国際化の出店先として選ばれてきたのが,中南米,中央ヨーロッパ,アジアなどの新興市場である。しかし新興市場に対する先発者利益も,複数の先頭集団企業が参することによる競争の激化により鈍化してきた。この新興市場進出の構図をウォルマートは一新した。というのもウォルマートは次なる進出先を市場規模の大きい地域,英,独,仏.日本という先進国市場とした。この戦略の背景には,国際市場の壁に直面した小売企業が,規模の経済性を発揮しながら発展するには市場規模の格段に大きい先進国市場を掌中に収める必要があり,それにより世界制覇を目指すという意図を含むものであった。

実証分析は以下の通りである。この論文では,2000年度の財務数字を利用して勝ち組小売企業の事例分析がなされている。ここでは売上利益率と資本回転率を軸に上位小売企業の資本利益率の増加を分析している。テスコはメーカーを支配下に置くという戦略で強力な小売ブランドという武器を得ることにより,高い売上利益率による企業成長を遂げている。それに対しコストコは強力な価格訴求力による大量販売により,高い資本利益率を達成し企業成長している。そしてこの売上利益率と資本回転率の同時達成により企業成長を達成しているのが,現小売業界1位のウォルマートである。ウォルマートの他の先頭集団企業に対する優位性基盤は,高度に情報武装した需給チェーンシステムによると述べられている。それを支えるのが自社物流システム,データハウスを中核とするデマンドチェーンの構築,リテールリンクによる電子市場の構築であると述べられている。

結論は以下の通りである。勝ち組企業が次なる小売国際化の市場として日本に参入し始めている。これに対抗するには,現日本先発小売企業が世界競争をふまえどう産業ルネッサンスを行うことができるかにかかっていると述べられている。

出展: (田村正紀 2004) 「世界覇権を巡る闘い」,『流通科学研究所モノグラフ』,No,71。

投稿者 02kayasi : 2005年05月12日 23:52

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