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2005年07月25日

中国の小売競争―百貨店の盛衰とスーパーマーケットの台頭―(葉 2004)

要約
 まず「業態の分析と研究は,小売業構造における競争状態を明らかにするもの」(65ページ)であると述べられ,この論文では,業態の発展や流通の変革が小売競争の過程であるとされている。そこで,小売競争に関するこれまでの研究がレビューされている。レビューを通して,小売競争構造に関する研究が整理され,分析の視点が4つ挙げられている。その中の異業種間競争に主に焦点をあて,「中国における百貨店の盛衰,及びスーパーマーケットの台頭プロセス」(65ページ)の考察がなされている。最後に,中国の今後の小売競争の展望が示されている。

小売競争に関する既存研究
 ここでは,これまでの小売競争に関する研究が整理されている。まず,流通は生産と消費の懸隔を架橋するものであるから,生産と消費の両方から影響を受けるとし,流通競争構造についても「生産と消費の両側面における諸条件を考慮しなければならない」(66ページ)と述べられている。次に,流通競争とくに小売競争については主に経済学的な分析がなされてきたとし,そのような既存研究を整理している。小売競争は多様で特殊的であるために,経済学によるアプローチも依然必要であるが,小売に特殊な理論モデルの構築や分析方法の開発が必要と述べられている研究や,同じような考えに基づいて今までとは異なるアプローチを取っている研究があることが示されている。

小売競争の構造
 そして,これまでの研究を整理した結果,小売競争構造について垂直的競争,水平的競争,異業態間競争,商業集積間競争という4つの視点が示されている。
 寡占的製造企業が商業者の交渉力を弱めるためにマーケティングが導入され,そのような製造企業のマーケティング活動によって競争構造が変化すること,また近年の小売業のPB導入などによって流通における両者の勢力のバランスが変わることなど,製造企業と小売業の対立で競争は変わるとされている。また,生活協同組合など消費者もまた流通に介入していると述べられている。このように,流通機能は主として商業者が担うが,その一部を製造企業や消費者が分担しているために,垂直的競争の問題が引き起こされると述べられている。これは小売業に特有であり,経済学ではこの視点が弱いという指摘もなされている。また,「水平的競争は,同業態の流通機関,ないし流通組織体相互間の競争である」(68ページ)。さらに,異業態間競争はスーパーマーケットやコンビニエンス・ストア,専門店,百貨店など異なる小売業態間の競争であるとされている。小売業の総合化と専門化が同時に進行しているために異業態間の競争が生まれると述べられている。経路間競争もここに含まれる。そして,ショッピングセンター,商店街,小売市場などの競争を商業集積間競争としている。

中国における小売競争の変動と現状
 競争の新展開として流通のグローバル化が挙げられている。中国小売市場への巨大流通外資の参入は競争の局面を揺るがすものと考えられるとされ,中国における小売競争の変動と現状についてみていくことにしている。
 まず,中国における小売競争がどのように変動してきたかが示されている。改革・開放以前は,中国における業態は「供銷社(農村),百貨店(都市),そしてよろずやの三種類に限定されていた」(70ページ)という。それが改革・開放以降,外資系小売企業によってスーパーマーケット,GMS,コンビニエンス・ストア,倉庫型ストアなどが持ち込まれたことによって大きく変化した。これにより中国の小売市場では競争が生まれたという。ここでは百貨店とスーパーマーケットの競争を中心に,中国市場における小売競争を見ていくことにしている。
 百貨店は1900年に登場し,行政部門として管理されていたために競争もなく,中国小売業の主力業態として長い間その地位が守られていたという。1980年代後半から1990年代前半にかけて黄金期を迎え,好況が続いていたが,改革・開放によりその優位性が弱まっていったとされており,いま,百貨店は「異業態競争に直面して生き残るための改革が迫られている」(72ページ)と述べられている。しかし,そもそもの不振の原因は「水平的「過度競争」にある」(73ページ)という。したがって,百貨店の衰退において,需要を無視した短期間での新店舗の大量出店が,もたらした水平的競争の激化,スーパーマーケットなどの新業態の相次ぐ出店による異業態間競争,さらに「外資系百貨店の参入による既存国営百貨店への影響(垂直的競争,水平的競争)」(73ページ)という競争構造が見られると述べられている。 そして,「中国の百貨店業界は,不振の対策として,業態内の自己革新,及び業態転換による経営再建が散見される」(74ページ)とも述べられている。

これからの展望
 これまでも外資系小売企業による参入によって異業態間競争や水平的競争,垂直的競争が激しく行われてきたが,WTO加盟によりさまざまな規制が緩和されることで競争はより一層激化すると述べられている。また,「中国流通市場全体が飛躍的成長を遂げつつあるなか,いずれの業態も依然として成長の余地は大きい」(76ページ)という見方も正しいかもしれないとも述べられている。そして,百貨店とスーパーマーケットの品揃えや立地における相互補完や強調の関係も見過ごせないとしている。いずれにしろ,グローバリゼーションの進展に伴って,「中国市場における小売競争は新しい段階に踏み込んでいる」(76ページ)と締めくくられている。

出典:葉翀(2004)「中国の小売競争―百貨店の盛衰とスーパーマーケットの台頭」『流通科学大学論集-流通・経営編-』第16巻第3号,65-77ページ。

投稿者 02eiko : 2005年07月25日 23:46

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