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2005年06月23日

日本におけるディスカウントストア業界の現状と課題(白石・安1997)

要約
 本稿では,1990年代の日本経済界において「価格破壊」のと呼ばれる低価格競争の中心となるディスカウントストアに焦点を当て,ディスカウントストアを低価格訴求型のブームで終わる小売業態としてではなく,一つの革新的な小売業態として議論を展開している。ここではまず第一に,ディスカウントストアの本質を解明するためにディスカウントストアの特徴となる機能,役割等を考察している。そして第二に,ディスカウントストア業界の現状を把握するためその成長過程,成長の推移,そしてその事象を取りまとめるいくつかの特徴的な動向を分析,検討し最後に現在のディスカウントストアの重要視している政策を検討することにより,今後のディスカウントストアの成功要因とその課題を提示することを目標としている。

ディスカウントストア展開の意義と営業形態の特徴
 ディスカウントストアの最も基本的な機能を「同一市場内で同一商品,あるいは同等の機能を持つ商品を低価格で提供すること」(114ページ)とし,ディスカウント展開の意義を,従来のメーカーの流通支配による商品価格の下方硬直性に対して消費者が不満を示したことと,そのニーズを充足するための小売業の努力と捉え,その努力には従来の非合理的な取引慣行の変化を促したこと,ローコストオペレーション技術と小売業の商品開発能力の向上により,商品の低価格化を促したことなどがあげられている。
 続いて,ディスカウントストアの業態の特徴として,一時的な低価格販売や,一部の人気商品の安売りではなく,消費者の生活価値を実現させるために必要な総合的な商品をディスカウントし持続的に提供することをあげ,それを持続するのに必要なのは低コスト経営であると述べられている。そしてその低コスト経営を実現するのが地価の安い,交通の便利な郊外への店舗立地や,建築費,販売管理費,人件費の削減などであるとしている。

日本のディスカウントストアの成長と現状
 ここでは,ディスカウントストアの成長の歴史を大きく3つに分けて分析している。まず第一期には,1950年代後半の,セルフサービスやチェーンオペレーションでのスーパーマーケットの廉価販売を挙げており,これは大店法や,メーカーの商品出荷停止により発展を阻まれたとしている。第二期は1970年代前半のオイルショック以降のヨドバシカメラ,メガネドラッグなどのニューディスカウンターの登場があげられ,ニューディスカウンターは当時,廉価の理念を打ち出し低価格販売を実現させたが,メーカーの正規のチャネルからの仕入れが出来ないことによる品質の低下が問題となり,消費者の支持を得ることが出来なかったとしている。第三期は1990年以降をさし,メーカーの過剰生産が,ディスカウントストアを正規の販売チャネルとして認める結果となり,ディスカウントストアの価格決定権が強化されたことに加え,大店法の規制緩和や独禁法の適用が強化されたこと,さらに消費者が商品の妥当性を考慮し低価格志向を強く持ち始めたことなどが特徴として述べられている。さらに日経新聞社の「ディスカウントストア調査」の結果によると,ディスカウントストアは近年高い売上高成長をしているという事実が導かれたことに対して,その成長を取り巻く動向について4つが挙げられている。それは第一に,流通小売業のもつ情報力を背景としたメーカーとの協力関係の進展,第二に,第一の要因とは間逆に低価格販売に反対するメーカーとの対立関係の激化という二重構造があげられている。第三には,大店法の撤廃による営業時間の変更,休日日数の減少や多業態との共同出店などの出店計画の変化があげられており,最後にディスカウントストア業者間の競争の激化により,今後は廉価販売だけの企業は市場から姿を消すという意見が述べらており,製品差別化等の対策の必要性が示唆されている。

現在の日本のディスカウントストアの主要政策とその課題
 ディスカウントストアの最も重要な営業政策は消費者に対して常に魅力的な低価格の商品を提供することであり,この政策を実行するためには仕入れ値引き下げ政策,PB商品開発政策,ローコストオペレーション政策の3つが重要であるとし議論が展開されている。
 まず仕入れ値引き下げ政策だが日本の流通取引慣行は,歴史的に,長期継続的な取引関係によっての相互関係と信頼による人間関係を重視するという保守的な特徴をもっており,この慣行に基づく建値制,リベート制,特約店制などがメーカー主体の下方硬直的な価格政策の原因であると指摘し,正規チャネルを介したメーカーとの直接取引き,計画発注による仕入れ値引き下げ等により,企業側主体ではなく,消費者の利益を考慮に入れた流通取引風土の定着が仕入れ値引き政策によるディスカウントストアの成長を促すとしている。
 次にPB商品政策だが,PB商品開発の目的は小売他店舗との差別化であり,それにより強力な競争力を得ようとするものである。PB商品開発のメリットとしては,小売価格を自由に決定できること,店舗で得た顧客情報を反映し,商品や機能デザインなどをコントロールできること,さらにはPB商品の独自のPRが可能でありそれが店舗イメージのアップにもつながるとしている。そして今後のPB商品が定着するかどうかは,環境変化に適応できるPB商品を開発できるかであるとし,消費者のニーズに適応可能なPB開発には高品質,低価格,高い粗利率の3つの条件が必須であるとし,この課題をクリアするためにはメーカーとディスカウントストアの両方のイノベーションが必要であると述べられている。
 最後にローコストオペレーション政策が分析されている。ディスカウントストアにおいては破壊的な低価格販売の実現のため,仕入れ価格の低減と合わせて販売管理費の削減が必要不可欠とされている。ローコストオペレーションを実現する方法には,パートタイム労働者の採用の増加による人件費の削減や,店舗設備や什器のコスト削減があるが,このコスト削減にはサービスの質を落とさないという前提があり,コスト削減の追及によるサービス効率の低下は購買意欲の低下につながるために注意が必要としている。さらに業務効率を向上させてコストを低減させる方法として,POSデータやEOSに代表される情報システムの活用による物流費や販売管理費の削減が今後重要視されてくるとしている。

結論は以下の通りである。ディスカウントストアは「既存の流通業界の生産性向上に対する努力不足とメーカー主導の下方硬直的な価格政策によって引き起こされた消費者の価格に対する不満を解消させながら,適正利潤を確保するために営業形態面において独自な方法を採用している」(131ページ)とし,今後のディスカウントストア業界の展望は,流通規制緩和などを基盤とした新しい小売技術を開発としたディスカウントストアの新規参入が活発となり,ディスカウントストア業者同士の競争の激化が予想されると述べられている。

論点は,PB商品開発を進めることがディスカウントストアの重要な政策と位置づけているにも関わらず,低価格,高品質,高い粗利益率を達成する為の要因については具体的な見解が示されていないと思われる。

出典:白石善章・安譜換(1997),「日本におけるディスカウントストア業界の現状と課題」『流通科学大学論集』,113-133ページ。

投稿者 02kayasi : 2005年06月23日 21:08

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コメント

出典の形式が若干間違ってます。ディスカウントストアの売上高成長の理由として「第二に,第一の要因とは真逆に低価格販売に反対するメーカーとの対立関係の激化という二重構造があげられている。最後にディスカウントストア業者間の競争の激化により,今後は廉価販売だけの企業は市場から姿を消す」というのがあげられていますが。これらは売上高成長の要因とはなってないと思うのですがどう思いますか。

投稿者 02daigo : 2005年06月24日 16:17

02daigoさんコメントありがとうございます。確かにご指摘通り,メーカーとの対立関係の激化,廉価販売のみのディスカウントストアが姿を消すということは成長要因ではなく,ディスカウントストア業界の成長を取り巻く動向として考えられる事柄でしたので,「その原因になる4つの要素が」を「その成長を取り巻く動向について4つの要素が」に変更いたしました。

投稿者 02kayasi : 2005年06月24日 17:18

 
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