« 広告の理論と戦略 (清水 2004) | メイン | アドバタイジング・マネジメント:広告意思決定の理論 (D.A.ア-カ-,J.G.マイヤ-ズ 1977) »

2005年05月05日

近代流通業における企業成長と規模構造(田村 2002)

要約
この論文は日本の経済規模に対して国際的にみても,日本の近代流通企業が未発達である原因を検討している。主な原因は従来の大型店規制だけではなく,近代流通企業では規模の優位性が規模の比較的早い段階で消滅してしまうことによると述べられている。それは企業が規模の優位性を発揮できる限界点である最小最適規模が比較的小さい規模のところに位置するJ字型の長期総費用曲線により表されている。この長期総費用曲線は近代流通企業の規模分布とそれを生み出す確率過程の分析により明らかにされており,近代流通企業の規模分布はパレート分布であると述べられている。パレート分布を定常解として生み出す確率過程は比較効果法則と新規企業参入を仮定としている。この費用曲線での最小最適規模の位置は日本の小売業上位200社にランクされている臨界的な規模を大きく下回っている。このことが上位200社の構成企業が入れ替わることと,近代流通企業内部の経済集中が進行しないことを示している。

理論的検討は以下の通りである。この論文では国際的な観点から見た日本の代表的な流通企業の規模の低さを生み出す原因となる構造とメカニズムを検討している。近代流通業の規模の分布は右裾に高度にゆがんだ非対称な分布を描いている。これは結果的に近代流通業が多様な規模構造を維持しながらも,内部では経済集中せず規模格差を縮小しつつあることを示している。この企業分布の非対称性は近代流通企業の規模分布の構造特質である。この非対称性が共通して持つ特質は比例効果測定の想定である。つまり,比較効果法則とは規模が企業の期待成長率に対して何ら影響を与えないということである。
また流通企業の長期費用曲線がJ字型の形状を示すことは,流通革命以降の近代流通産業の生成と,中小小売商の成熟と停滞が中小小売商に対して近代流通企業が規模の優位性を発揮してきたことを示している。企業規模がそれより大きくなっても長期総費用が変化せず,一定となるような企業規模は最小最適企業規模と呼ばれている。日本のトップ200位に入る流通業はこの最適規模を大きく超えた規模領域であるので,規模の優位性を発揮できていないと述べられている。

実証分析は以下の通りである。用いるデータは1968年以降日本経済新聞社により行われてきた『日本の小売業調査』による。以下で用いるのは,各年度の売上高上位200社のデータである。日本の近代流通業の非対称性の特質である比例効果測定を検討する方法は,問題となる期間の期首と期末の企業規模についての散布図を対称尺度を用いて作成することである。その回帰曲線は1になり,45度の傾きを持ち,その点の分布が均一分散であれば比例効果法則が作用している。これは1974年から1999年までを5年刻みの期間にわけ,散布図を描いてみると,いずれの期間でもモデルの適合度はよく,回帰係数は0.1%水準以下で有意である。続いて売上高の規模に関わらずその成長率の分散は同じであるかを,企業を小・中・大の規模にクラス分けし,それぞれの5年後のクラス別の成長率の変化を用いて分析している。ここではレーベン検定と1元分散分析が行われているが,そのどちらでも規模クラスに統計的な有意差は見られないという結果が示されている。この分析が,過去25年間の長期にわたって日本の近代企業では,比例効果法則が強力に作用していることの経験的証拠を示している。
比例効果法則が作用する高度に非対称な分布には様々なものがあり,ここではパレート分布と対称正規分布の2つが分析に用いられている。1974年から,1999年までの5年刻みの分布をそれぞれ比較してみると,パレート分布の方が当てはまりがよいことが示されている。この結果にいたった原因は,対称正規分布は上位200社を決定するとその成員構成に以降の新規参入企業がないことを仮定としている。これに対し,パレート分布は最小規模以下のクラスから最小規模を超える新規企業が着実に参入するようなランダムウォークを仮定としていることによるものであると述べられている。これらの結果から日本の近代流通業上位200社では,従来のような二重構造が存在せず,新規企業の参入による上位200社の入れ替わりが激しいことを示している。

結論として流通革命以降の日本の流通業では,二重構造が存在せず,その先端の近代流通業内部でも経済集中が進行していない。この新しい構造とメカニズムが中小小売商から近代流通業にいたる成長経路を形成するとともに,国際標準から見た日本の近代流通業の低位性を生み出していると述べられている。論点として,日本の近代流通業はなぜ規模の優位性を発揮し成長できなかったのか。また日本の近代流通企業を特徴づけるパレートの法則の作用は何を基盤にして生まれたものなのかを実証的に明らかにすることが今後の課題であると述べられている。

出典 田村正紀(2002),「近代流通業における企業成長と規模構造」 『流通科学研究所モノグラフ』№12。

投稿者 02kayasi : 2005年05月05日 23:50

トラックバック

このエントリーのトラックバックURL:
http://www2.ipcku.kansai-u.ac.jp/~t020026/blog/mt-tb.cgi/25

コメント

コメントしてください




保存しますか?


 
Copyright© 2005-2006 Baba Seminar. All rights reserved.