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2005年07月15日

商品開発体制に与えたコンビニ台頭のインパクト(小川2003)

要約
 本稿では,コンビニの台頭にともない起こったナショナル・ブランドメーカー(以下NBメーカーとする)における商品開発体制の変化を明らかにすることを目的にしている。ここでは加工食品メーカーとコンビニチェーンへのインタビューが取材データとして用いられている。NBメーカーがコンビニからの商品開発の要請に応えるメリットは2つあり,第一にコンビニ店頭の棚を新製品導入時に優先的に確保できる可能性が高まること,第二に,メーカーが気づいていない消費者ニーズを標的とする商品企画を行うことができる可能性があることがあげられている。一方,共同製品開発のリスクとしては他チェーンへの販売機会の消滅,発注打ち切りによる開発費用・在庫費用の未回収化,ブランド評価への負の影響などが考えられるが,試行錯誤の中でその対応策も誕生し,その対応策の中でもテストマーケティングの可能性が期待されている。結論として近年における商品開発枠組みの多次元化と,メーカー・小売間での機能補完性の明確化とそこでの機能間インターフェイス管理の高度化の進展という傾向を指摘している。

商品開発体制
 NBメーカーはこれまでできるだけ多様な経路で自社ブランドを大量に販売することを目指して商品開発を目指してきたのに対し,近年では,NBメーカーが特定コンビニチェーンと共同で商品開発を行い,そのチェーンの店舗網のみを通じて販売するという試みを行うまでに至っている。共同開発が行われるようになった背景には2つの理由があり,1つはコンビニチェーン店舗数の増加により単品アイテムについてはコンビニの販売量が,他業態をおさえ最大というメーカーが出始めたことや,2つめにコンビニチェーンが大量で精度の高い店頭情報を迅速に本部で集計・分析できるシステムを導入したことが理由としてあげられる。NBメーカーがコンビニからの要請に応えるメリットとしては2つがあり,第一に要請のあったコンビニ店頭の棚を商品開発時には優先的に確保できる可能性が高まることと,第二に,メーカーが気づいていない消費者ニーズを標的とする商品企画を行うことができる可能性があることの2点が指摘されている。NBメーカーとしては,共同開発には,他チェーンへの販売機会の喪失,発注打ち切りによる在庫費用・開発費用の未回収化,ブランド評価への負の影響といった3つの負のリスクが伴うので共同開発は避けたいところだが,NBメーカーは成熟市場の中で厳しい競争関係に直面しており,販路としてのコンビニの規模の増加が無視できない状況になってきていること,一部の加工食品の中にはコンビニでの売り上げが伸びず,コンビニ店内での売り場面積が縮小される傾向にあることから,コンビニでの店内売場占有率を上げるため,コンビニという業態に合った商品開発の必要性に迫られたことの2点があげられている。

特定チェーン向け共同商品開発の成功事例
 特定のコンビニチェーン向けの共同商品開発の最近の成功例としては,セブンイレブンと日清食品との間で共同開発された「名店仕込みシリーズ」がある。これは2000年4月に最初に導入されたカップめんで有名ラーメン店のメニューを再現したもので,発売1年半で約3000万食を販売するヒット商品となった。これは現在でもセブンイレブンのみで販売されている。この製品開発に当たりセブンイレブンは店舗内の雑誌の売れ行きにより,消費者のカップめんに対する関心がそれまでの特定の地域に根ざした味から,特定の店の味に移行するという仮説を立て,商品化を目指したが,名店の味をカップめんで再現するには相当の技術が必要であったとしている。そして開発力のあるメーカーである日清食品に開発を依頼したのだが,当初日清食品は共同開発は一切やらない企業として知られていたので,それを説得するために,POSデータから日清食品のカップヌードルが,特定地域の味を再現するご当地シリーズの影響で売上が落ちているという情報を提供し,共同商品開発に協力してくれれば,開発された商品に対して店頭販売に対して経営資源を優先的にさくことを約束し,双方にメリットのある形で共同製品の開発が進んだとしている。

テストマーケティング
 共同商品開発には,3つのリスクが伴うが,NBメーカーのリスク低減のための重要な方法としてテストマーケティングがあげられている。テストマーケティングには大きく分けて2種類あり,1つは商品販売の期間や量をあらかじめ制限した形で行われるものと,もう1つは,相手方チェーンの強みを活かす形での商品企画の2種類がある。前者の場合には販売期間や数量をあらかじめ制限することによって生産や原材料・包材の調達,売れ残りの在庫などに関して発生するロスを極小化することができることや,このテストマーケティングで成功した後は,NBメーカーはその結果から学び次の全販路向け製品の開発に生かすことが出来ることがメリットとなる。後者は開発する商品について,取り組み相手が競合チェーンより秀でている部分を出来るだけ活かす形で進められるということであり,例としてセブンイレブンとキリンビールの共同開発した「まろやか酵母」があげられている。この商品は,キリンビールの酵母の持つ独特の味わいを提供できる上面発酵製法と,セブンイレブンの工場から店舗まで低温で配送できるチルド配送という技術の相乗効果として生まれ,現在では販路を拡大しセブンイレブン以外でも売られている。

共同製品開発研究のインプリケーション
 商品開発枠組みの多次元化による変化として,業態別マーケティングの必要性が認識されるようになったことと,NBメーカーと各小売業との間の機能的補完関係が意識されるようになってきたことがあげられている。前者はもはや全販路向けの商品開発が困難になってきており,業態の差を意識した新しいカテゴリーの商品開発がNBメーカーに求められていると述べられている。後者ではメーカーの持つ技術力や消費者調査能力と小売持つ実需把握機能や店頭支援機能がお互い補完的に働くことによっての相乗効果が期待されており,そこでは各機能間のインターフェイスをうまく管理することがより重要になってくると述べられている。

出典:小川進(2003)「商品開発体制に与えたコンビニ台頭のインパクト」『国民経済雑誌』第188巻6号,39-51ページ。

投稿者 02kayasi : 2005年07月15日 19:18

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