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2005年06月21日

小売国際化のプロセスについて(矢作 2002)

要約
 1980年代の小売国際化の研究は,だれが,いつ,どこで,どのように,なぜ国際化するのかという「事実の観察」にとどまっていた。そこでは,初期の参入動向や参入動機・参入モード研究への概念化が不足していた。
 こうした課題を克服するために,先行の文献をレビューし,研究の対象を明確にし,代表的なモデルを検討することで,小売国際化の概念モデルの構築を目指している。

研究対象の確認
 小売国際化の理論化を進めるためにあたり,まず初めに,小売国際化の対象を確認している。小売国際化とは小売業の諸活動が国境を越えて,異なる国際市場に組み込まれていく過程を意味している。したがって,分析の視点は市場と組織と分けられる。

代表的なモデル
 ここでは,市場と組織の2つの分析次元における代表的な概念モデルが紹介されている。市場モデルの代表例としてAlexanderとMyersのしめした市場モデルが挙げられている。彼らは「母国市場で小売業が獲得した競争優位性をテコにして1次市場から3次市場へと国際化が進む概念図」(30ページ)を明らかにした。このモデルでは,小売国際化が繰り返される過程の中で,組織学習が行われるとされている。小売企業は異質な市場環境の中で学習を行い,新たな経営資源を獲得する。こうした学習効果は他の市場にフィードバックされ,次の国際化戦略に大きな影響を与える。市場モデルはそうした国際化プロセスを抽象化している。市場モデルは段階論的アプローチを採用しているが,現実にかなりの頻度で観察される不規則な参入を説明できないという課題が残っている。
 組織行動モデルの代表例としてVidaとFairhurstのモデルが紹介されている。ここでえは,国際化を「前提」「プロセス」「結果」の3つの過程に分けている。国際化を左右する「前提」条件として「経営者特性」と「企業特性」が挙げられている。つまり,内部要因の影響により,類似の環境におかれた企業間にも国際化に対する取り組みに違いがでると説明している。その結果,「プロセス」の促進,阻害要因として企業の内部的特性と外部環境要因が1つのセットと捉えられ,促進要因が阻害要因を上回れば,企業は国際化戦略をとることになる。企業の内部要因を中心にしたアプローチは,能動的な国際化と受動的な国際化を識別する分析に有用である。「結果」における意思決定として,市場選択,参入モードの決定の2つがあげられている。最後に,国際化が繰り返される中で,獲得された成果と学習効果が次なる国際化の「前提」条件に直接影響し,国際化の促進,阻害要因の変化を引き起こすとしている。

小売国際化の概念モデルの構築
 以上のように小売国際化の対象領域を確認し,小売国際化の市場モデルや組織モデルの代表例が挙げられている。そして,これまでの研究の検討から,組織行動モデルの改訂版として「小売国際化の組織行動モデルⅡ」が提案されている。以下は,このモデルの特徴である。実証研究によれば,国際化の初期段階にある企業は,進出先市場との人的関係や現地の出店依頼により進出を決定し,体系的な市場参入戦略を立てない傾向にある。それに対し,国際化の経験を積んだ企業は市場の選択についてしっかりした戦略を立てる傾向があるとさている。したがって,このモデルではVidaとFairhurstに従い,市場参入は「漸進的,あるいはランダム」な行動であるというアプローチを採用している。
 次に,「組織行動モデル」における3つの段階は採用していない。国際化の拡大,現状維持,縮小,撤退という意思決定は「プロセス」でもあるが,同時に「結果」でもある。だから,それらを進出先市場における一連の戦略立案・実行との結果であると位置づけた。「組織行動モデル」における「前提」は母国市場の状況と企業内部要因とし,「プロセス」と「結果」のところは進出先市場における行動として2段階に配置しなおしている。
 当然のことながら,国際化プロセスの結果が母国市場と他の進出先市場にフィードバックによる組織学習の成果は明示されている。「小売国際化の組織行動モデルⅡ」のオリジナリティは,戦略立案の中に,小売業務システムの選択を組み入れているところである。販売,仕入れ,経営技術の3つの主要な小売業務活動の相互関連性に注目したモデルになっている。
 以上が「組織行動モデルⅡ」の特徴である。

結論
 主要文献を手がかりとし,小売業国際化の対象領域を確認し,市場モデル,組織レベルを検討し,組織行動モデルの改訂版として「組織行動モデルⅡ」が提案されている。このモデルによる実証分析が今後の課題であるとされている。

論点 
 市場モデルや組織モデルで指摘されている組織学習が,国際化戦略に与える影響についてもっと詳しく研究する必要があると考える。

出典:矢作敏行(2002),「小売国際化プロセスについて」『経営志林』38巻第4号,27-44ページ。

投稿者 02daigo : 2005年06月21日 15:57

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