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2005年06月14日

小売業の国際化-OLIパラダイム-(金﨑 2003)

要約
 小売業は,第2次世界大戦後国境を越えて発展してきた。しかし,長年にわたり小売業の活動は,自国の国内市場および地域市場に限られたいた。いくつかのデータの示すところによれば,小売業の国際化レベルは他業種と比べ,低いレベルにとどまっている。
 この論文では,小売企業活動の地理的範囲を規定している要因を明らかにすることを目的としている。その際に,事業主体の他国籍企業の意思決定プロセスに注目し,OLIパラダイムの考えを応用することで説明している。

理論的検討 
 OLIパラダイムは,海外で活動を行っている企業に関わる理論である。このOLIパラダイムは所有特殊的要素,立地特殊的要素,内部化インセティブの3つの変数により,在外生産の理論化を行っている。所有特殊的要素とは,企業が技術や知識,ノウハウ,製品差別化能力などの無形資産を保有することにより,優位性を持つことが出来るというものである。その場合,外国企業は在外生産を行っても,現地企業よりも収益を上げることが出来ると考えられる。さらに,そうした無形資産を本国で利用した方が効率のよい場合,輸出という戦略が選択される。しかし,外国での利用がより有利である場合は,海外生産が行われるとされている。こうしたことは,立地特殊的要素として説明される。さらに,こうした無形資産は企業間,国家間での移転は容易には行われない。この無形資産の取引を市場が組織化できない場合,企業は海外に自ら子会社を設立し,在外生産を行うことを選択する。
 このパラダイムは製造業を念頭に構築されたものであった。しかし,提唱者ダイニングは,あらゆる在外生産は,OLIパラダイムを参考にすることで説明可能であるとしている。
 この論文では,小売業特有の条件を明らかにし,OLIパラダイムに当てはめ,小売業国際化のパターンを明らかにしている。
 小売サービスは,現地で生産され同時に消費されるという特徴を持つ。そのため,現地市場の規制・開放性,そして市場規模が進出国選定において重要となる。さらに,もっとも消費者に近いところに位置することから,製造業以上に現地の社会的・文化的差異の影響を受けやすい。以上のことから,「小売業においては,外国市場の規模が大きいほど,外国市場の開放性が高いほど,本国と外国の文化的相違が小さいほど,外国市場にひきつけられる」(23ページ)という仮説が立てられる。
 小売業は現地市場で事業展開を行う必要がある。その際,文化的差異や社会的・政治的制度の相違により,現地企業に比べて非常に不利な状況に直面する。小売業が国際化するためには,こうした不利な条件を乗り越える競争優位を有する必要がある。このことから,小売企業は「本国市場におけるプレゼンスが大きいほど,外国市場に参入する強い動機が生まれる」(23ページ)という仮説が導き出される。
 小売業の持つ所有特殊的要素は,内容が開示されなければ取引相手がその内容を評価できないが,開示すればただ乗りされる危険性があるため,適切な価格を設定することが難しく市場取引にはなじまない。そのため,小売企業に内部化インセンティブが働くという仮説が導き出される。
 立地特殊的要素に関して「小売業においては,外国市場の規模が大きいほど,外国市場の開放性が高いほど,「本国と外国の文化的相違が小さいほど,外国市場にひきつけられる」(23ページ)という仮説が示されていた。ほとんどの小売企業は純粋に国内でしか活動を行っていないか,本国市場と文化的に密接な関係にある地域にしか進出していない。さらに,本国と近似している国の所得が増加した時に,進出が行われている。このことから,仮説は支持されていると考えられる。
 所有特殊的要素における仮説として,「本国市場におけるプレゼンスが大きいほど,外国市場に参入する強い動機が生まれる」(23ページ)が示されていた。しかし,本国で競争優位を得ている小売手法を海外進出国に移転したが,異質の環境に直面し,有効に活用できないまま多くの企業が失敗しているのが現状である。本国でいくら競争優位を得た手法であっても,異質な環境に移転することの難しさを示している。
 小売業において外国市場でも収益をうみだす資産が乏しいため,内部化インセンティブが強く意識されることはなかったとされている。

結論
 近年国際化を急速に進めている欧州小売企業の事例は,当該企業が新たな所有特殊的優位を築いていることを示している。しかし,小売企業が競争優位の源泉とされている店舗形態,陳列,店舗レイアウト,マネジメント・ツールや情報システムの活用など小売技術などは,特許によって保護されるものではなく,模倣されるのが比較的容易なものである。そのため,「これらをうまくコーディネートするある種組織的な能力によって,他の小売企業が出来ないような価値を商品にすること」(28ページ)が国際進出を成功させる要因であるとしている。

論点
 仮説の検証が十分になされていない。文化的に離れているところに進出し,成功している企業も存在するし,所有特殊的要素の仮説検証ではある1社の企業の事例のみしか取り上げておらず一般化することは出来ない。小売業と製造業の違いについての検討も十分に行われいないので,小売企業の低国際化を説明できないと思う。この論文の目的である,なぜ小売企業の国際化レベルの低さを規定する要因についての分析が十分でないと思われる。

出典:金崎賢希(2003)「小売業の国際化—OLIパラダイムによる説明」『九州産業大学経営学論集』,第14巻第2号,17-30ページ。 

投稿者 02daigo : 2005年06月14日 23:38

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