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2005年05月21日

小売マーケティング概念に関する一考察(佐々木 2004)

要約
 この論文は「製造業などのマーケティングと共通した側面をもちつつも,独自の活動として展開される小売マーケティングの特質」(126ページ)について明らかにしている。「小売業なかでも大規模小売業の諸活動が活性化し,その地位が向上するにつれて,今日では小売業にまでマーケティング概念が拡張されている。ここではまず,「小売マーケティングと製造業のマーケティングや販売との相違を検討し」(125-126ページ),小売マーケティング・プロセスがマーケティング環境,マーケティング・ミックスの順で述べられている。最後に小売マーケティングの特質をいっそう明らかにするための課題として,「小売マーケティングの生成過程の考察」,「マーチャンダイジング概念の歴史的検討」,「小売マーケティングにおける物的流通の側面の位置づけ」があげられている。

1.小売マーケティングの特質
 まず,小売マーケティングは製造業のマーケティングとは異なり,「最終消費者と直接に接し流通過程の最終段階」(127ページ)に位置し,「流通過程でのみ作用するものである」(127ページ)。また,小売マーケティングはマーチャンダイジングを主要な内容とし,「商品販売においては,価格が非常に大きな競争上の要素となることと,販売行為そのものがきわめて即時的」(127-128ページ)であり,「有形財のみならず店舗やサービスを含めた全体的な雰囲気が重要となる」(128ページ)といった点で製造業のマーケティングとは異なる。また,小売マーケティングと販売の相違については,販売は「顧客ニーズの充足を図る観点が弱いことと短期的な計画にもとづいて」(128ページ)遂行されるのに対し,マーケティング・コンセプトは,「顧客ニーズにもとづいて総合的なマーケティング活動が実践され,顧客満足をつうじた利益の達成が志向される」(128-129ページ)。「対市場活動として機能する販売とマーケティングの相違」(129ページ)は,生産と消費の矛盾が激化し,小売業においても市場活動が意識されたという歴史的背景に求めなければいけないとしている。大量生産の確立と製造業のマーケティング活動が活発かする中,大量の既存製品や新製品を円滑に販売するために,従来的な販売活動では対応できず,小売段階でも体系的な対市場活動としての小売マーテティングが要請されたと述べられている。「販売と小売マーケティングの差異は,市場への関心や働きかけの強さという量的な側面ではなく,対市場活動の中身にかかわる質的な側面で理解されなければならない」(130ページ)。また,小売マーケティングは,小売形態と不可分の関係にあり,小売形態・業態の決定や開発が小売業にとって固有のマネジメント課題」(131ページ)になるとしている。そして,様々な学者の見解に共通するのは標的市場の重要性であり,「設定された標的市場にたいして小売マーケティングは小売形態ないし業態と連動した諸政策,諸活動を適応していく」(132ページ)としている。

2.小売マーケティング環境と小売マーケティング計画
 小売マーケティングに影響をおよぼす要素はマクロ環境とミクロ環境からなり,マクロ環境要因についてここでは制度的環境要因・経済問題・マクロ環境要因についてふれられている。ミクロ環境は「直接的及び間接的競合他社,消費者団体,その他の利害関係者」(134ページ)を意味する外部環境要因,サプライヤーとの関係,ほぼ従業員と労働組合に集約される内部環境要因,消費者からの影響があるとしている。「消費者は小売マーケティングにとって,環境要因であると同時に,マーケティング対象である」(137ページ)と述べられている。小売マーケティングの環境の特徴としては,サプライヤーとバイヤーの影響を強く受けるということがあげられる。「流通過程の最終段階にあり消費者と直接する小売業のマーケティングにとって,消費者というミクロ環境要因はいっそう大きな位置を占める」(138ページ)としている。このような様々な環境要因を考慮したうえで,小売業者の目的が設定される。「その目的にあわせて,マーケティング機会の分析がおこなわれ,マーケティング目的が設定される」(138ページ)。「小売マーケティング目的のために策定されるのが,小売マーケティング計画」(138ページ)である。小売マーケティング計画は,長期的な戦略計画と短期的な戦略計画に分類でき」(139ページ),「長期的観点と短期的観点をあわせもつマーケティング計画の二面性ゆえに,小売マーケティングの諸活動も,戦略レベルとオペレーショナル・レベルで展開されることとなる」(139ページ)。「小売マーケティング計画において,具体的なマーケティング目的はマーケティング課業(Marketing Task)として設定され,それに応じた小売マーケティング活動が対置されることとなる」(139ページ)。小売マーケティング計画についてはコトラーが「マーケティング・プロセスのもっとも重要な要素の1つ」(139ページ)と主張している。

3.小売マーケティング・ミックス
 「小売マーケティング計画が確定されると,マーケティング・ミックスを含むマーケティング戦略が作成される」(140ページ)。小売マーケティングでは,それぞれの店舗が競争優位確立のために小売ミックスの要素を組み合わせて戦略を練り上げるため,小売ミックスの店舗における組み合わせが重要となる。「マーケティング・ミックスは企業が標的市場においてマーケティング目的を達成するさいの,マーケティング・ツールの組み合わせ」(140ページ)であり,4Pに集約されることが多い。小売業におけるマーケティング・ミックスの場合,定説は確立されていないが,4Pに沿って分類を行うことが有意であるとして,4Pに沿った分類を行っている。まず小売業の製品政策の主な活動は,品揃え形成におかれ,「これには取扱商品の数量や種類のみならず,ブランドの選定やPB 商品の開発も含まれる」(141ページ)としている。また,在庫管理も重要であり,小売業の製品政策においてマーチャンダイジングは主要な位置を占めることになる。そして,小売業の提供する「製品」はサービスや店舗の雰囲気といった要素まで包含すると考えられる。次に「小売業の価格政策は,寡占製造企業との対立と協調の関係において考慮されるべきものである」(145ページ)としている。また,大規模小売業は多様な方法で値引き販売を実施するが,これらには「製造企業からの販売やリベート,協賛金などが原資として作用している」(145ページ)。小売業のプロモーション政策としては,「広告,販売促進(狭義),パブリックリレーションズ,大量販売」(146ページ)から構成される。Placeについては小売業の立地政策が大きな位置を占めるとしている。

 結論は次の通りである。「小売マーケティングは製造業のマーケティングにおいて醸成されたコンセプトや諸技法を取り入れ」(147ページ)てきたため共通した側面をもちながらも,「それを小売業独自のものとして発展させてきた」(147ページ)と言える。

 論点は次の通りである。石原氏のマーケティングの定義に基づくと,マーケティングを行うのは寡占的製造業であり,小売業がマーケティングを行うかといった議論が不足しているのではないだろうか。

出典:佐々木保幸(2004)「小売マーケティング概念にかんする一考察」『大阪商業大学論集』第133号,125-148ページ。

投稿者 02takenaka : 2005年05月21日 19:04

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コメント

テーマと出典が抜けているみたいなので付け加えてください。

投稿者 02daigo : 2005年05月21日 19:50

カテゴリーを指定してください。

投稿者 Baba : 2005年05月22日 13:13

見事に改行が抜けています。修正してください。

投稿者 Baba : 2005年05月23日 20:12

ご指摘いただいた箇所を修正しました。
以後気を付けます。

投稿者 02takenaka : 2005年05月24日 02:49

タイトルの( )が半角になっています。
また,セクション(1.〜3.)の間は1行空けましょう。

投稿者 Baba : 2005年05月24日 04:12

度々申し訳ございません。
修正しました。

投稿者 02takenaka : 2005年05月25日 02:36

コメントしてください




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