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2005年06月08日

日本市場における総合小売外資の現地化プロセス(矢作 2003)

要約
 90年代以降,小売外資のアジア市場への参入機運が急激に高まっている。そして,参入が困難であると思われていた日本市場にも,小売外資はアジア市場での現地化経験やさまざまな戦略をもって事業展開を始めた。ここでは,カルフール,コストコ,ウォルマートの3社の日本市場での現状とその現地化プロセスについて概観し,最後に三社の参入後の状況についてまとめている。

3社の現状と現地化プロセス
1,カルフール
カルフールは1999年に,カルフール・ジャパンを設立し,2002年までに4店舗を展開しているが,各店の目標売上には達していないと報じられている。ここでは,その原因を聞き取り調査,消費者アンケートの評価に基づいて分析し,業態の革新性が乏しいこと,低価格イメージが浸透していないこと,消費者ニーズと実際の品揃えにおいて,ミスマッチが生じていること,顧客サービスの不十分さを原因として挙げている。そして,カルフールは参入後,多くの問題点を受け,広範囲な業務上の変更を行った。まず,消費者のニーズと実際の品揃えとのギャップを埋めるため,直輸入のPB商品の品揃えを拡大し,PB商品の取扱量を倍増させた。また,消費者に低価格イメージを浸透させるため,700品目の価格を対象に近隣のスーパーのものと比較して店頭に表示し,低価格をアピールする販促広告を行った。そして,顧客サービスの向上のために業務指針を抜本的に見直し,レイアウトや売り場作業などを日本消費者に合わせたものに改善した。このように,日本に進出して2年半の間,カルフールは標準化されたハイパーマーケット業務を部分的に修正し,日本市場への適応化を進めている。
2,コストコ
アメリカ最大の会員制ホールセールクラブであるコストコも日本市場に参入し,2003年までに4店舗を展開している。ホールセールクラブとは,卸兼小売業態であり,大ロット販売(販売単位の大きいこと)を行うこと,また会員に限定して小売販売を行い,会員収入を得ることで,粗利益を確保し,価格競争力を発揮する,という特徴を持っている。このような業態でコストコは米国において成功し,その業態のまま日本市場に参入したが,各店の売上は,目標に達していないという。ここではその要因として,知名度の低さ,大ロット販売による低価格訴求力の弱さを主な要因として挙げている。低価格訴求力の弱さについては,消費者に馴染みのない大ロット販売の価格表示では,他の小売店の価格表示との比較が困難であり,消費者に低価格訴求力が浸透しにくい,としている。参入初期では,消費者の戸惑いや知名度の低さから,短期間の事業の成功は困難であった。しかし業態の革新性の高く,他との競争が少ないため,次第に売上高を伸ばしつつある。このため,コステコ・ホールセール・ジャパンのマイク・シネガル社長は,参入後の業務変更点について大きな変更点はない。」(97ページ)と説明している。
3,ウォルマート
売上高世界1位の総合小売企業であるウォルマートは,2003年3月,西友と提携し日本市場に参入した。カルフール,コストコが完全子会社という参入形態をとったのに対し,ウォルマートは慎重な態度で参入したのは,国際化の経験不足,日本市場の複雑さ、というリスクを考慮したためである。ウォルマートについては,日本市場での現状についての記述はないが,仕入活動の参入後の現地化について,ウォルマートはこれまでメーカー,卸売業と取引を行ってきた西友を通じて取引を行うことは,カルフールなどと比べて有利である,としている。

3社の参入後の状況について
 
 まず,日本市場への適応化について。カルフールとコストコの両者は,標準化された小売業態から事業を始めたが,次第に生じた問題点に合わせて,部分的に業務を変更する「標準化の中の適応化」(101ページ)を進めた。しかし,その程度には両者に大きな差異がある。カルフールは品揃え形成から顧客サービスまで,比較的広範囲な適応化を行っているのに対し,コストコは大きな変更は行っていない。ここでは,「業務変更の程度と小売競争の関係」(102ページ)に注目し,コストコのホールセールクラブは日本市場では業務の革新性が見られるため,競争が発生しにくく,業務変更は少ない。これに対しカルフールのハイパーマーケットの業態は日本市場において,類似業態が存在するため,変更点が多くなった,と述べている。
 次に,取引慣行の相違について。主にメーカーと小売が直接取引を行う小売外資は,日本の異質な流通環境では異なった仕入活動を行っている。大ロット販売に徹しているコストコは直接取引率が高いが,カルフールは直接取引に応じる企業が少なく,卸売業の提供するサービスが高いという現状から,直接取引を基本政策としながらも日本の卸売業との取引も大切にする,という戦略をとっている。

出典:矢作敏行(2003)「日本市場における総合小売外資の現地化プロセス」『経営志林』,第40巻2号,87- 104ページ。

投稿者 02umeda : 2005年06月08日 23:27

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