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2005年06月04日

事例研究:イオンのアジア戦略(矢作 2004)

要約
 この論文は2003年度に連結売上げ高で国内小売業界ナンバー1の座に付いたイオンのアジア市場参入動向と同社の小売国際化プロセスについて述べられている。イオンは世界小売業トップ10に名を連ねるという「グローバル10」構想を掲げる小売企業であり,アジア戦略を構想の柱の1つに位置づけており,人材面の蓄積についても国内小売企業随一の海外経験者を経営陣に抱える企業であるとしている。ここではその参入状況について第1期と第2期に分けて述べられており,第1期(1985-1994)ではほぼ同時期に参入しながら明暗を分けることとなったマレーシアとタイの事例が中心に述べられており,第2期(1995-)では中国,中でも珠江デルタ地帯における戦略について焦点を当てて述べられている。

1.第1期(1985-1994)東南アジア
 ジャスコ(2001年8月イオンに社名変更。この論文においては社名変更の時期を考慮し使い分けられている)のアジア出店は進出先国や企業からの出店要請をきっかけとするいわば「受動的国際化」であると述べられており,東南アジア進出戦略の特徴として現地市場密着型小売市場の開発にこだわったこと,アジア戦略の首尾一貫性,現地人材登用を重視したこと,国際化を推進する人材蓄積が確保されていることをあげており,ジャスコを「日本のスーパーのなかでは東南アジア市場で首尾一貫して関与してきた唯一の企業である」(88ページ),としている。現時点において「明」のマレーシア「暗」のタイとその成果は二分することとなった。ほぼ同時期にショッピングセンターの開発に取り組んだマレーシアとタイであったが,マレーシアにおいてはショッピングセンターの開発を行い,そこへ核店舗としてするという新たな方針を打ち出すことで成功を納めたが,タイにおいてはショッピングセンターであるラタナティベート店の初期投資負担が格段に重く,また,タイで一般的な委託販売から自主企画商品の開発販売への切り替えに失敗したことにより不振を引き起こし,そのことがサイアム・ジャスコ(ジャスコのタイにおける合弁会社)全体の業績悪化を招き,2004年にはスーパー業態からの全面撤退を余儀なくされる結果となった。この両国の比較から,ショッピングセンターの発展状況・立地条件の違いや,店舗投資パターンや商品政策の経営要因によって経営成果が分かれる結果になったと述べられている。

2.第2期(1995-)中国
 ジャスコは中国において撤退の多い日本企業の中で,上海からの撤退という問題点を除けば,広東省や北部の山東省にタイミングよく参入したと述べられている。その点を象徴するのが,人材面の蓄積であり,海外戦略の成功例であるマレーシア・香港が戦略を推進するための人材供給源になっていると述べられている。香港市場において成功を納めたイオンであったが,今後大きな成長は望めないとの判断から経営資源を活かせる珠江デルタ地帯(広州・深圳・広東省を中心とした広東省一円の地域を指す)に移転して活用するという判断を下した。広州の2店舗については順調に売上げ高を伸ばしたが,それを受けて広州市以外で展開した3店舗については売上げ高が計画を下回り,現地での地域適応を模倣している段階であると述べられている。深圳については顧客の信頼が競合店より高い客単価,購入点数の多さに現れるという店舗運営哲学に基づいた経営を行いながらも,競合店と同一商品,同一ブランドの商品については価格引下げ競争が避けられないため,競争的な価格設定の徹底を行っている。一方,差別化を図ることが可能な生鮮食品や惣菜については,日本食の提案や安心,安全な商品の提供,地域ニーズの発掘・対応の3点を差異化策として打ち出しているとしている。しかしながら,珠江デルタ地帯は有力外資が数多く参入する最激戦地であり,現時点ではイオンは後塵を拝している状況にあるとしている。そして最後に中国においてイオンの出店速度が遅い理由として欧米企業と比べて戦略の明確化が成されていないこと,市場性の差異に適応するのに時間を要し,安定した出店パターンの確立していないこと,原則として現地資金調達でまかなっていることにより財務面で制約があること,本社主導で意思決定を行うこと,出店速度をあげるための経営基盤が構築できていないことがあげられている。 

 結論は次の通りである。今後イオンは戦略の明確化,迅速な市場性の差異への適応,安定した出店パターンの確立,財務面での問題の克服,意思決定を現地主導にすること,出店基盤の構築などの現在の課題を克服し,出店速度を速めることが重要である。

 論点は次の通りである。この論文において,青島ジャスコの成功例についてもふれられていたが,その成功要因についての検討が不足しているように思う。

出典:矢作敏行(2004)「事例研究:イオンのアジア戦略」『経営志林』第41巻3号,81―99ページ。

投稿者 02takenaka : 2005年06月04日 23:22

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