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2005年07月29日

小売市場の競争構造(関根 1995)

要約
 本論分は,小売市場における独占的競争の特徴を明らかにすることにより流通政策その他に貢献することを目的として書かれている。全体の構成としては,まず,独占的競争の理論と最近の経済学者の小売競争理論をレビューし,続いて小売市場を特徴付ける独占要素と小売市場の特殊性が検討されている。そして第三に業態と小売競争,競争の垂直的次元,立地と小売競争という視点から小売競争の枠組みを提示している。そして結論として,流通政策への合意と今後の課題が示されている。

小売競争理論のレビュー
 まず独占的競争の理論として,『独占的競争は製品差別化による競争』(72ページ)であるとするE.H.Chamberinの競争理論が取り上げられている。Chamberinは製品差別化の対象を「製品それ自体の特徴」と「販売をめぐる諸条件」とし,製品差別化は生産者の行う製品差別化と,小売店が商品の最終消費者への販売に際して行う差別化があるとしている。そして次に企業の立場から競争を差別的優位性の追求と捉えたW.Aldersonの理論が取り上げられ,差別優位性の追及とは企業が市場地位の差別化のためにとる戦略であるとし,その戦略の選択肢として①市場細分化を通じての差別化,②訴求(広告)の選択による差別化,③トランズベクション(品揃えと変換の連鎖)による差別化,④製品改善による差別化,⑤生産過程の改善による差別化,⑥製品革新による差別化の6つが挙げられており,ここではChamberinの理論と比べると販売をめぐる諸条件が欠落してい反面,トランズベクシションという概念で垂直的関係を取り上げている。さらに企業差別化による競争の概念は,Havengaにより明確にされ,小売商は顧客の愛顧をめぐって最適な「小売ミックス」を構成し差別的優位性を獲得しようとするとしている。しかしこのChamberinとAldersonの理論は生産者市場と小売市場を区別しないことが共通の問題点として指摘される。井原哲夫は『小売業の行動を製造業の行動に擬して扱う場合があるが,その処理には大きな無理が生じる』(74ページ)とし,小売競争の重要な要素として立地や品揃えが指摘されている。そして,経済学の小売競争理論として製造業者間の競争と小売段階の競争に分けて分析した丸山雅祥の理論や,有賀健の小売段階の競争は地域寡占を特徴とする非価格競争であるとしたものがあるが,それらは小売競争の特徴づける要因ではあるが,小売競争全体像を明らかにすることに成功していないとしている。

小売市場における独占的要素
 生産者市場で行われる独占的競争と小売市場で行われる独占的競争では本質的な違いがあるとして,まず小売市場の不完全性が指摘されている。小売市場の不完全性に対して2人の見解が示されており,H.Smithは小売市場の不完全性として①消費者の買物は地理的範囲に限定されること,②消費者は商品の品質,原価,価格に対して完全な情報を持っていない,③多くの場合消費者と小売店の間に特殊な信頼関係が成立していること,④自己の小売店舗を愛顧してくれている顧客層を形成していることの4つの要素を指摘し,一方M.Hallは小売市場の特殊性として,①消費者が空間的に散在していること,②多種多様な商品を扱うので価格決定が難しいこと,③生産者が決定した一定の再販売価格に従わなければならないこと,④顧客に対する広告,配達などのサービスを付加し他の小売商と差別化できることが指摘している。小売市場を特徴付ける独占的要素としては,業態,垂直的関係,立地があるとしそれらが順に検討されている。

小売市場の競争構造
 小売の競争構造としては,業態,垂直的関係,立地の3つがある。まず業態についてだが,小売競争の特徴の一つとして,異業態間で競争が行われることが挙げられる。業態は小売業のマーケティング戦略の特徴として識別され,それは主に顧客との対応方式と品揃えの違いにより分類することができ,各小売業は業態による差別化を行っている。異業態間競争に関しては業態革新を品揃え拡大によるものと専門化による品揃え縮小のよるものに分け,これらの相異なる勢力が小売商業において業態を無限に変化させていくプロセスを形成するとしている。市場参入が効果的に行われると,品揃え拡大プロセスが浸透し異業態間競争が激化し,他方専門化のプロセスは店舗の個性,ユニークさを強調するものであるとしている。次に異業態間競争が小売市場に及ぼす影響について,①継続的な業態革新が行われていること,②革新に基づく新業態の登場は既存業態との間で異業態間競争を引き起こし小売市場を活性化させる,③新業態は生産者に対し独立的性格を有するものが多く業界で地位を確立すればPB商品の開発が行われること,④新業態の成功は後発の模倣企業を誘発することから異業態間競争は同業態間競争に変化すること,⑤その業態が成熟期に達すると競争は安定するが,これが次の新業態の登場の機会を作り出すことの5つが述べられている。
 次に小売競争の垂直的関係についてだが,小売業の競争は生産者,卸売商などの川上のチャネルの影響を強く受けると考えられてきており,生産者が商業者に対して開放的販売制,集約的販売制,選択的販売制のいずれを採用するかによって小売市場における競争の相対的独立性が異なるとされている。しかし,そういった小売競争が垂直的関係にどのように影響を受けるのかを評価するのは難しいとした上で,小売競争の垂直的関係を商標によって考察している。これは商標が商品流通の主導権を示すものであるという特徴を持っているからであるとしている。商標はNBとPBに分けられるが,チェーンストア経営の発達による小売企業の販売力の増大がPB商品開発を活性化しており,PB商品は価格競争力により生産者に対する対抗力を発揮していると述べられている。そして小売競争と商標の関係として,PB商品の成功は小売競争を活性化すること,有力なNB商品が多いほど生産者市場の影響が大きくなり,逆にPB商品の開発が進むほど小売市場の独自性が強まること,PB商品には価格訴求のものが多いことなどがあげられている。わが国の特徴としては,市場のほとんどが有力なNB商品で占められているため,PB商品の比重が増えることにより垂直的関係を考慮しなくなることは難しいとしている。そもそも生産者と小売業者の意見は基本的に対立することがその理由として挙げられるが,大規模小売業の登場により,生産者が小売の販売力や情報力を軽視できなくなったことが小売主導の製品開発の背景にあるとしている。つまり商品開発の主導権が生産者から大規模小売業者へ移行することによって小売市場の主体性が増すと述べられている。
 そして最後に立地と小売競争の関係が述べられている。小売業の立地に関する研究は主に「集積の理論」「中心地理論」「小売引力の法則などがあるが,立地が小売競争にどのような影響を与えるかについて直接的に扱った研究はほとんど無いことを指摘し,その影響を解明するためにの5つの問題点を処理する必要があると指摘されている。その問題点とは①ミクロかマクロどちらで処理するか,②独占的の意味をどうとるか,③個性的商品と非個性的商品では立地の持つ意味がどう変化するか,④立地と環境の変化をどう捉えるか,⑤集積間競争と店舗間競争の関係はどうかであるとしている。

結論は以下の通りである。独占的競争が行われている小売市場の特殊性を業態,垂直的関係,立地の3点から論ずることにより,小売競争の一般理論構築のための問題解決の視点や,今後の研究方向を示すことをもって結論とている。そして流通政策への合意として,①業態革新と競争構造の実証的分析,②大規模小売商によるPB開発の活発化により消費者の商品開発へ参画が求められた場合,それをどう制度化するのか,③立地に関して情報ネットワークの高度化など環境が変化に対する競争構造の変化のを分析することという3つの課題を示している。

出典:関根孝(1995)「小売市場の競争構造」『専修商学論集』第59号,71-90ページ。

投稿者 02kayasi : 2005年07月29日 23:59

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