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2005年06月06日

アジアにおける小売業の国際化(矢作 2000)

要約
 小売業において「クロスボーダー(国境超え)による持続的成長戦略の重要性が急激に高まった」ことを受け,この論文ではアジア各国における小売業国際化の実態把握が研究の目的とされている。「資本の自由化,外資参入状況,現地小売業への影響」(91ページ)のデータが集められ,特に失敗の研究に重点を置き,比較分析がおこなわれている。

理論的検討
 小売業の持続的成長の戦略には,品揃えの総合化・品揃えの専門化など,取扱商品の見直しがあり,その延長として業態転換・多角化,新業態の開発があるとされている。しかし,多様な業態が発達している先進国では,これらの戦略による持続的成長の余地は大きくないとしている。ここでは,国境を超えた地理的拡大が持続的成長の鍵を握るという認識の下,アジアにおける小売業国際化の実態の把握が試みられている。そこで,「資本の自由化,外資参入状況,現地小売業への影響」(91ページ)のデータを集め比較検討がおこなわれている。

国際化の展開と背景
 小売業国際化の歴史の概観を通して,次のようなことが示されている。「90年代に入って,国際化は大規模小売業にとってかなり一般的な成長戦略となった」(93ページ)が,現在でもヨーロッパ小売業による国際化の中心は欧州域内であり,「文化圏の異なるアジアへの参入は散発的である」(93ページ)とされている。しかしながら,アジアへの進出が加速している事実も示されている。この背景を説明するため,アジアにおける小売業国際化の要因をプッシュ要因とプル要因にわけ,整理している。ここでは,市場性,法的規制,経営戦略,その他の四つの要素で整理されている。この作業から,「市場性と法的規制におけるプッシュ,プル要因が時期的に見事にかみ合っている」(95ページ)ことが明らかにされている。具体的には,市場性としては,欧米の低い経済成長とアジアの高い経済成長が挙げられ,法的規制としては,欧州の厳しい出店規制とアジアの資本自由化が挙げられている。これらが時期的にかみ合ったことで,欧米小売業のアジア進出が促進されたと述べられている。

国際化のプロセスと参入モードの選択
 ここでは,3つの国際化として,各国の貿易・為替制限から影響を受ける商品の国際化,経営技術の国際移転,各国の資本自由化政策から影響を受ける資本の国際化が挙げられている。この3つの国際化のうち,「商品の国際化と経営技術の国際移転は「業務提携」に含め,資本の国際化は「合弁会社」,「完全子会社」の2つに分け」(92ページ),参入モードの選択問題が考えられている。業務提携,合弁会社,完全子会社,この3つの参入モードそれぞれの特徴が統制,経営資源の投入,ノウハウ等の流出リスクの3つの要素で整理されている。さらに,小売業特有の国際化リスクを回避する手段として,「①業務提携のような低関与型参入により国際化リスクを削減する,②業務提携から資本進出へといった段階的参入方式により現地市場の情報と知識を蓄積し活用する」(96ページ)という2つの方式が示されている。文化的に遠い地域や,外資出資比率に制限のあるアジアで有効な方法として①が紹介され,製造業のように固有の製品やブランドを持つような小売業が利用可能な手段として②が紹介されている。
 
参入後の競争と経営状況
 最後には,アジアにおける小売業のグローバルな競争による,現地の競争や現地市場の構造の変化について述べられている。日本を除いたアジア各国,各地域の現地小売業への影響は深刻であることが示されているが,有力な小売業のアジア進出の成功例が限られていることも示されている。特に,日系小売業の不振が採り上げられ,経営収支構造の問題が指摘されている。現地市場に適合的な収支構造を確立するために3つの問題があるという。「販売管理費自体の適切な管理」,「適切な粗利益率を確保するための商品調達の改善」,「販売効率あるいは在庫回転率」(99ページ)の3つの問題である。日本のスーパーと欧米のハイパーマーケットの経営モデルを比較したところ,日本は高い販売管理費,高い粗利益率,高い在庫回転率の3高,欧米はその逆の3低がその特徴として明らかにされている。日系企業のアジア進出では低い粗利益率と高い販売管理費が,外資専門店の日本進出では高い販売管理費や低い販売効率がその足かせとなったと述べられている。「グローバル化はそれぞれの国で構築された異質な経営モデルが競い合う場」(99ページ)とし,小売業の海外市場進出の失敗の研究を通して,異質な海外市場でのそれぞれの経営モデルの変容を見ていきたいとしている。

論点
 参入モードの選択においては,アジアにおける適切な参入モードなど,もう少しアジアの市場特性等に焦点を当てた詳細な検討が必要であると思う。

出典:矢作敏行(2000)「アジアにおける小売業の国際化」『経営志林』,第37巻第3号,89-101ページ。

投稿者 02eiko : 2005年06月06日 17:03

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