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2005年06月30日

英国プライベート・ブランドの発展過程(下)(矢作2000)

要約
 本稿では,第2次世界大戦後の英国におけるプライベートブランドの発展の過程についてAGDのスーパーパネル調査をデータとして用いて分析がなされている。まず,PB発展過程を1950年から1970年代のPB開発模索期と,1980年代以降のPB開発拡充期に分け,前者では国内における時代背景とPBシェアの関連性,低価格ジェネリックPBの登場などが分析されており,後者では英国主要スーパーマーケット(テスコ,セインズベリー,アズダ,セーフウェー,サマーフィールド,クイック・セーブ,ウエストローズ,生協)におけるPB比率の推移,商品別のPB比率の動向などが研究されている。次に1980年代以降の傾向としてジェネリックから通常の低価格PB,そしてNBの模倣を経て付加価値型PBへと発展するPBの戦略転換と流通の上位集中により,PBが重要視されてきたことが取り上げられ,最後に英国のスーパーマーケットの高いPB比率と品質重視のPBプログラムを支える小売企業の技術・商品開発に対する投資について検討されており,それを支えるテクノロジストの存在等が紹介されている。

第2次世界大戦後のPBの発展
 ここでは,第2次大戦後のPBの発展過程を1960年から1970年代の模索期と,1980年以降の拡充期に分けて分析し,最後に近年におけるPB商品戦略の転換について述べられている。
 1950年代におけるセルフサービス方式の導入,スーパーマーケットによる業態革新の進展,1960年代における再販売価格維持制度の廃止,1960年から1970年代にかけてのグロサリー・ストアからスーパーマーケットへの転換という時代背景により,スーパーマーケットの市場における地位が高まり,それにともない,PB商の市場浸透も進んでいったとされている。1960年から1970年代にかけての英国スーパーマーケット市場におけるPB比率は,長期的には上昇したが,1977年から1979年にはNBの値下げ等による価格競争が激化し,PBシェアは一時的に低下する現象が見られた。この価格競争の激化により,PB開発の方向性が変わり,ムダなものをできるだけ省き基本的な機能だけを追求したジェネリックPBが誕生したが,1980年代半ばにはジェネリック商品は極端な低価格のため,①仕入れ条件がよほどよくないと利益確保が難しい,②低い品質が店舗イメージまで低下させるおそれがある,③低価格ブランドは景気の影響を受けやすいという理由により失墜した。
 PB拡張期においては,1980年代から1990年代にかけて英国主要スーパーのPB比率は軒並み上昇するが,40%代半ばで頭打ちする傾向にあり,それに対してPB開発部門担当は「多くのPBを持つとカテゴリーの売上高を最適化できない」(25ページ)とし,近年ではPBとNBのブランドミックスの最適化を模索する傾向にあるとしている。続いて商品別の動向が検討されており,一般的には,品質の差別化が困難で大量生産,大量販売が可能なコモディティ商品分野においてPB比率か高いことが確認されており,さらにコモディティ商品は製品ライフサイクルの成熟期にあり画期的な新製品が登場しにくい,製造技術が伝播している,遊休生産設備が存在するという傾向があるとされている。例外として,製品ライフサイクルが成熟期にあるコモディティ商品でも,製品技術開発の激しい分野ではNBが強い傾向にあり,一方製品ライフサイクルの成長期にあり,新製品の投入が活発な分野であっても,惣菜などの調理済み食品は品質管理が難しいという点からサプライチェーンを持つ小売側がPB開発が優位な場合もあるとされている。
 最後に1980年代以降のPB商品戦略の転換としてジェネリックから通常の低価格PB,そしてNB模倣型をへて,付加価値型PBへというLaaksonenのPB発展段階論を取り上げ,スーパーストア化,流通の上位集中化の中での利益確保の手段,非価格競争要素としてのPBの重要性の2つが指摘されている。

製品開発力
 ここでは,高いPB比率をを生み出す製品開発を可能にする要因として,活発な新製品の投入と,テクノロジストの存在があげられている。英国スーパーマーケットの高いPB比率と品質重視のPBプログラムを支えているのが,技術,商品開発に対する積極的な投資であり,それがPB比率の低い米国や日本との大きな違いであると述べられている。英国スーパー上位3位(セインズベリー,テスコ,セーフウェー)のPB品目数と新製品開発投入数を見ると,年間総品目数の約10%を越すPB新製品が投入されており,これは相当な勢いでPB製品が見直され,改良されていることを示している。上位チェーンの場合は,新製品開発の基準が厳しく設定されており,同時に消費者パネルによるPB食品の試食,試飲が行われており,そこでもし他社より品質が劣るとの結果が出れば,すぐにその商品が見直され改良される。こういったシステムが確立していることが積極的な新製品の投入を可能にしていると述べられている。
 次にテクノロジストだが,活発な新製品開発を可能にする要因として,テクノロジスト(専門技術者)の存在は見逃せないとされている。1970年から1985年におけるテクノロジストのスタッフ数の増加と,PB比率には一定の関連性がみられ,特に,1970年代以降はPB商品の品質管理が重要視される傾向にあり,専門的な技術と能力をもつテクノロジストが自社ブランド品のサンプルの検査を担っていた。さらに,小売・サプライヤー関係でのテクノロジストの役割は,製品開発のアイデアや仕様書の作成を供給メーカーに依存しているグループと,自社で製品開発,製法技能研究を備えたグループの2種類があると指摘さており,ほとんどの小売業は前者に含まれるとしている。

結論は以下の通りである。英国スーパーマーケットの強力なPBプログラムはテクノロジストの果たす行動から説明可能であるとし,「小売側が商品開発や品質,衛生管理基準について独自の知識と判断をもつことで,小売・サプライヤー関係を自社の望む方向に展開,効率的に管理できる」(32ページ)とし,それには小売が技術開発のリスク,費用を負担する体制が必要であると述べられている。

論点は,PB商品導入時の消費者パネル調査において,食品の調査のことしか触れられておらず,主要なPB商品である実用衣料に対する調査の方法や必要性が検討されていないと考えられる。

出典:矢作敏行(2000),「英国プライベート・ブランドの発展過程(下)」『経営志林』第36巻4号,21~32ページ。

投稿者 02kayasi : 2005年06月30日 23:55

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