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2005年07月22日

米国ウォルマート社の小売業態開発の展開(渦原 2002)

要約
 本稿では2000年度売上高1933億ドルで,全10ヶ国で4294店舗を営む世界一の小売業であるウォルマートについて,創業期,DS導入期,DS成長期,DS成熟期,スーパーセンターへの転換とグローバル展開期とその史的展開を概観することにより,業態開発戦略とその展開,優れた小売技術と革新について分析がなされている。そして結論として,今後ウォルマートが継続的に成長していくための5つの課題が指摘されている。

ウォルマートの業態開発戦略とその展開
 ここではウォルマートの業態開発展開を開発順に見ることにより,新業態開発の動機やその業態の特徴などが述べられている。まず創業時のバラエティストアだが,これはソフトグッズや非耐久消費財を中心に多様な日用雑貨を低価格で提供する小売業であり,このころから既にウォルマートの,ベンダーとの取引条件時の価格交渉のシビアさ,コスト管理の厳格さが誕生していたとしている。しかし,バラエティストアの多店舗化と大規模化を推進していくうちバラエティストア業態での限界とディスカウントストア(以下DSとする)の潜在能力に可能性を見出し,DS業態の開発を進めることになる。DS時代には,ウォルマートの経営的特徴である大型店で多様なブランド品を提供する手法である『エブリデー・ロープライス戦略』が消費者の支持を集め低価格でも販売量により利益が確保された。さらにこのころに自社の物流センターを建設し,周辺に店舗を効率よく配置するドミナント戦略でその規模を拡大していったとしている。次に,DSの成熟化問題や大都市地域市場進出を目的としてメンバーシップ制のキャッシュアンドキャリー卸であるメンバーシップホルセールクラブを導入したとされている。しかし現在ではDSストアの成熟化問題を解決するはずが,メンバーシップ・ウェアハウスのビジネス自体が成熟期に入ってしまっている。そして次に試験的に導入されたのがハイパーマーケット業態であるが,この業態も客が欲しい商品を探すのに時間がかかる上に,レジの待ち時間が長く,品揃えも限定されているという問題点があり,他の低価格訴求業態と比較して必ずしも競争力が得られなかったため,消費者からの評判が悪くわずか4店舗で出店を中止した。そしてそのハイパーマーケットの反省点を踏まえてスーパーセンターの開発に着手した。スーパーセンターはハイパーマートのコンパクト版であり,DSに大型スーパーマーケットを組み合わせた衣食住のフルラインの業態であり,この業態で初めてウォルマートが本格的に食料品分野に進出してきたため既存スーパーマーケットは大きな打撃を受けたとされている。そしてこのスーパーセンターが現在は全米ウォールマートの主力業態になっておりDSからスーパーセンターへの業態転換を促進中であるとしている。そしてこのスーパーセンター業態を中心にグローバル展開を図っていく計画であると述べられている。

小売技術と革新
 ウォルマートの店頭で目にするスローガンが"We Sell for Less"(わが社はより安く販売する)と"Satisfaction Guaranteed"(顧客満足保証)であり,それを可能にするための経営手法がエブリデー・ロープライス(以下EDLPとする)経営と,それを可能にする低コストオペレーションシステムと顧客サービスの向上する経営の確立にあるとしている。その具体的方法として,ベンダーとのコスト管理,効率的物流システムの構築,戦略的パートナーシップの確立,勤労意欲のある従業員と顧客満足経営の構築などが挙げられている。さらにその中でもベンダーとの協力による低コスト経営と,メーカーと小売業の協働事業CPFRへの取り組み,最新の情報技術の活用について言及されている。ベンダーとの協力による低コスト経営を実現する方法には大きく分けて3つあり,①メーカーとの直接取引きや,中間商人や販売員の排除,②物流コスト削減のための自社物流センター・自社トラック隊の設置,③広告費の削減などがコスト削減を可能にし競争優位の源となっているとしている。次にメーカーと小売業の協働事業CPFRへの取り組みであるが,これはいわゆる戦略的同盟であり,メーカーと小売業の両者が消費者起点により取引関係を再構築し,小売の持つPOSデータを利用し,ベンダーが主導権を握り在庫管理,受発注,配送計画などのシステム間連携を行うことにより生産・在庫コストの削減を可能にしている。最後に最新の情報技術の活用であるが,この情報技術活用の戦略の要となるのが『超大型の記憶装置の中に詳細な生データを蓄積し,ユーザーの問い合わせにこたえて必要な情報を提供する仕組み』(122ページ)であるデータウェアハウスである。さらにウォルマートはこのデータツールであるウェアハウスを分析し情報からナレッジへ進化させる分析ツールを持っており,これらを統合したナレッジコロニーをベンダーとともに利用することによりストアレイアウトの改革やプランニングの改善,取り扱い商品構成,販売促進などの分野で成果を出しているとしている。さらにはメーカーと小売業がインターネットなどを通じて需給予測データを互いに作成しすり合わせることにより在庫削減と販売機会の損失を防いでいると述べられている。

結論として,今後ウォルマートが大企業病に陥らず発展するための課題として,『①新しい成長開発,②積極的な海外店舗展開と国際経営戦略の推進,③PB商品の拡充と,メーカーとの良好な関係維持,④地域社会や中小商店の出店反対運動への対応,⑤労働組合員や差別訴訟への対応』(124ページ)があげられている。

論点としては,課題の③に挙げられていたPB商品開発であるが,米国や日本のように流通の上位集中が進んでいない国では,PB商品戦略はあまり効果的でないと考えられる上に,PB商品の拡充はメーカーとの関係の悪化を生むのではないかと考えられる。

出典:渦原実男(2002)「米国ウォルマート社の小売業態開発の展開」『西南学院大学商学論集』第48巻第3・4合併号,112-124ページ。

投稿者 02kayasi : 2005年07月22日 23:46

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