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2005年04月30日

市場の異質性を超越するグローバル小売業―迫られる流通外資への戦略的対応―(向山 2002)

要約
 この論文では,流通外資の強さについて検討することにより,日本企業の戦略課題を明らかにしている。ここでは,日系市場がアジアにおいて失敗を続ける原因を「高い営業経費をカバーするだけ多くの粗利益額を確保できなかったこと」(8ページ)にあるとしている。そして,「グローバル小売企業の強さは,異なる環境要因に直面したとき,得意の型に固執せず,柔軟に別の型を駆使できることにある」(18ページ)との仮説に基づき,カルフールの事例をもとにその強さを明らかにしている。カルフールの経営特性は「PBへの積極的な取り組み・グローバル展開による成長追求」(11-12ページ)であり,ここでは「商品開発能力の高まりがグローバル店舗展開を促進する」(18ページ)ことを想起している。最後に流通外資の相次ぐ進出に対してグローバル競争に対峙し,中国市場と関わって市場開拓する意欲のある企業のみが成功すると結論付けている。

 ケーススタディ-の結果,次のことが述べられている。2000年のカルフールの日本進出は多製品を取り扱う初業態の進出であったことから大きな注目を集めたが,「カルフールは多製品を取り扱いながら,グローバル展開する主要小売企業のなかで,もっともグローバル化の程度の高い企業」(11ページ)であり,その経営特性は「PBへの積極的な取り組み・グローバル展開による成長追求」(11-12ページ)である。このグローバル化プロセスや日本での経験から読み取ることができるのは,まず「カルフールの海外進出が途上国でのみ成功し,先進国では失敗している」(14ページ)という事実である。しかしながら,これはカルフールに限ったことではなく,多製品型小売企業が先進国で成功するケースは稀である。「商品部門ごとの競争に打ち勝ちながら,全体としての競争にも打ち勝つ」(15ページ)とあるように,多製品型小売企業は先進国において複雑な競争に直面している。次に本国と同様に直接取引を持ち込もうとすることであるが,これはチェーンストアの発達段階で,可能な限りの規模の利益を獲得するために,直接製造企業と交渉するようになったチェーンストアとしての本来的性格に基づくものである。また,これには第三者を介入させないことによるリスク削減の目的もある。最後にカルフールにおいて差別化を重視したPB発売後に海外出店が加速化したことを明らかにしている。

 論点は次の通りである。この論文では,カルフールの海外進出が先進国において失敗している原因を小売競争度としているが,少なくとも今回のカルフールの日本市場撤退に関しては,そのような要因のみで述べることはできないのではないだろうか。

 結論は次の通りである。グローバル小売企業の競争優位は母国商品・外国商品・現地商品を組み合わせることによって品揃えの柔軟性を実現し,「商品調達システム構築と自社商品開発能力の育成」(21ページ)に取り組み,双方向の情報のやり取りを行うことにある。このような流通外資への対処法は製造業においては,第1に成長のための新市場確保,とりわけ中国市場において流通外資と取引を開始するということ,日本市場においては,「従来の日本流取引様式へのこだわりを捨てること」(23ページ)であり,第2は流通外資との強調関係を構築により,商品開発能力を構築することである。また、流通企業においては,第1に新取引様式にシフトするということ,第2は流通外資のもつ戦力を総合的に分析することから、商品開発能力を初めとした競争優位を獲得することであると結論づけている。

向山 雅夫(2002),「市場の異質性を超越するグローバル小売業―迫られる流通外資への戦略的対応―」『流通科学研究所モノグラフ』No.008。

投稿者 02takenaka : 2005年04月30日 18:22

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