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2005年07月30日

1990年代ドイツにおける食品小売業の構造―小売業態分析からの一考察(斉藤 2001)

要約
 この論文は東西ドイツ統一後の1990年代におけるドイツ小売業の構造的変化を分析することで,グローバル競争時代に展開される小売業を究明するための手がかりとすることを目的としている。ここでは特に食品小売業を取り上げることにより,小売業の中で生じている構造変化を考察したいとしている。ポーターが指摘するように小売業は元来マルチドメスティックな産業(35ページ)であり,競争は国内において展開されたのであり,巨大小売業は特定の国・地域を基盤として成長し,国境を越えて事業を展開しグローバル化を遂げたとしており,巨大小売業の母国である各国の小売市場の特性を明らかにすることは不可欠であるとしている。また,ドイツにおいては1996年の閉店法改正等規制緩和の動きが見られるなどわが国と似た状況におかれていることから,ドイツ小売業はわが国小売業を比較するための興味深い比較対象であると述べられている。

1.食品小売業における業態構造
 ドイツにおいて食品小売業は小売商品分野で最大の比率をしめており,最も基本的な商品分野であり,市民生活に欠かすことのできない,ある意味において伝統的な商品分野であると述べられている。その食品小売業について業態別に店舗数,売場面積,売上の推移から考察が行われている。その特徴として第一に食品小売業において接客販売方式をとる非セルフサービス小売店は売上高・構成比ともに取るに足らないカテゴリーとなっており,経済的にはほとんど影響力のない店舗形態となったとしている。第二に「その他のセルフサービス小売店」(46ページ)のカテゴリーにおいても店舗数,売場面積,売上高とも減少し,これもまた食品小売業において大きな意味を成さない位置づけとなっているとしている。第三にスーパーマーケット業態は売上高実績とその構成比率がそれぞれ92年・90年をピークに減少し,売上高の構成比率についてもゆるやかに低下させていることから,売場面積が1,000㎡以下のスーパーマーケット業態は90年代ドイツにおいてほぼ成熟化しているとしている。第四にスーパーマーケットよりも売場面積が大規模の業態を意味するセルフサービス百貨店・コンシューマーマーケットのカテゴリーにおいては店舗数,売場面積,売上高において実績値,構成比率ともに着実に伸張していることから,売上面積の増加,店舗の大型化を基本的傾向として見てとれるとしている。第五に食品ディスカウントストアについては店舗数,売場面積,売上高のいずれについても実績値,構成比率ともに高い成長を示しており,これもドイツ食品小売業の主要な傾向として見てとれると述べられている。

2.食品小売業における企業グループの動向
 ここではスーパーマーケットやコンシューマーマーケットなどの売上高のうち,食料品のみを取り出し集計したものをもとに考察が成されている。まず,食料品売上高の企業別グループのトップはエデカであり,エデカは1907年に13地域の購買組合の連合体として設立され,順調に会員数を増やし,店舗数ではコンシューマーマーケットを中心とするが,売上高ではセルフサービス百貨店の構成比率も高いとしている。第二位は同様にコーペラティブチェーンであり,エデカより「1926年に分離独立して設立された」(49ページ)レーヴェグループであり,レーヴェは食品以外の日用品まで含めた総合売上においてはメトロに次ぐドイツ第二位の巨大企業であると述べられている。レーヴェの食品小売業の主力業態はディスカウントストア,ついで大規模スーパーマーケットであると述べられている。これに続くのがレギュラーチェーンの展開を行うアルディとメトロであるとしており,アルディはヨーロッパ8カ国だけでなくアメリカにも進出しており,メトロは食品売上においては第四位であるが,グループ傘下の流通企業の総合売上高はドイツ第一位,世界ランキングで第三位という巨大企業であるとしている。メトロの主力業態は会員制C&C業態のメトロやマクロなどであり,食品小売業は必ずしも事業の中心分野ではないとしている。
さらに第五位はスーパーマーケットやコンシューマーマーケットを主力とするテンゲルマンであり,第五位までの累計シェアが63.7%,7グループで77.5%にも達するとしており,ドイツ食品小売業において上位集中が進んでいることは明白であるとしている。

 結論は次の通りである。1990年代のドイツ食品小売業は「市場シェアの集中化と企業のグループ化」(50ページ)と表現できるとしており,この集中化とグループ化が推進された具体的な方向として,まず第一に店舗の売場面積の拡大が進行し,結果スーパーマーケット業界を基点にある種のサブ業態としてコンシューマーマーケットやセルフサービス百貨店が,もう一つの展開軸として限定された商品アイテムの品揃えと低価格訴求を行う食品ディスカウントストアが生まれ,主要業態として普及・拡大していくと述べられている。第二にそのような大型店舗をチェーン化することにより多店舗化が進められたとしており,レギュラーチェーンとして展開される場合と独立小売商を結集して大規模化を図るコーペラティヴチェーンとして推進される場合があったものの,多店舗化による大規模化とグループ化が進行するという点では一致していたとしている。また同時にこれらの企業のいくつかは食品部門内での複数業態への進出や他の小売分野への進出,企業統合の推進により巨大化を実現したとしており,このようにして少数の巨大小売グループが食品分野を含めて小売市場の圧倒的な部分を占拠するといったドイツ小売業の構造が成立したとしている。

 論点は次の通りである。ドイツの業態については詳細に述べられていたが,ドイツ食品小売業についての特殊性についての言及が不足しているように思われる。

出典:斉藤雅通(2001)「1990年代ドイツにおける食品小売業の構造―小売業態分析の視点からの一考察」『立命館経営学第39巻第6号』35―51ページ。

投稿者 02takenaka : 2005年07月30日 23:26

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