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2005年06月07日

日本企業はなぜ国境を越えたのか-進出要因研究の再検討-(川端 1999)

要約
 商業の国際化研究では,製造業の国際化の理論をそのまま商業に応用する研究が多く見られる。商業と製造業との違いを認識し,商業の本質的特性を踏まえた研究はあまり行われていない。商業資本の国際化を解明するためには「なぜ進出したのか(するのか)」という国際化進出の意思決定を研究することが重要である。進出要因研究は欧米の研究者を中心にある程度の研究蓄積がなされている。それらは,欧州や米国の小売業をベースとしたものであるため,日系小売業の海外進出要因と同じあるとは限らない。日系小売業はアジアを中心に多くの海外店舗を出店しているにもかかわらず,その動機や要因に関する実証分析があまりなされていない。そうしたことを踏まえ,この論文では既存の進出要因研究を整理した上で,筆者のヒヤリング調査を基に日系小売企業の進出要因について実証的な再検討がなされている。

理論的検討
 まず,欧米系小売企業の進出要因について検討されている。1980年代までの研究では,小売業の国際化進出要因を,市場飽和や出店規制といったネガティブな機械制約的要因が重視されていた。しかし,90年代以降は,企業の前向きな成長志向が国際化進出により重要な影響を与えているという結果が示されている。日系小売業の進出要因として,規制緩和要因(アジアおける商業外資の直接投規制の緩和),海外市場の拡大要因(現地の日本人市場の形成),国内要因(大店法,出店コストの増加),その他(アジアへの投資コストの低下)等が指摘されている。欧米小売業及び日系小売業の進出要因として挙げられているものは,環境要因であり,「業態などの主体の特性が配慮されておらず,また海外市場と国内市場との相違も踏まえて」(6ページ)いないと指摘している。
 しかし,進出を決断した企業は,こうした環境要因からだけではなく企業側の内部要因も影響を受けているはずである。いくら環境要因が整っていたとしても,企業側の内部的要因が備わらなければ進出はあり得ない。こうした主体側の要因を解明するために筆者はヒアリング調査を行っている。まず主体側の要因を考える際には,海外出店が小売主体にとってどのようなものであるかを明らかにしなければいけない。筆者のヒヤリング調査によると,小売業は海外市場と国内市場との間に断絶性が存在すると考えている。両者が違うのであれば,外部的環境要因だけでは海外市場への進出を説明することは出来ない。両者の違いを乗り越えてでも進出を決定させる要因が主体の側に存在するはずである。ヒヤリング調査の結果,国内市場と海外市場との間の断絶を超えさせた要因としてキーパーソンの存在と現地からの進出要請の二つが挙げられている。1980年代中頃までの海外出店については,社長あるいは重役が進出を積極的に押し進めた。社長の個人的な判断で進出市場や合併先が決定されることも少なくなかった。社長や重役が社内の合意形成に積極的に関与した,トップダウン的な決断で進出が進んだ。
 これに対し,1980年代後半以降の出店を促した要因は,現地からの要請である。アジア諸国での資産バブルや建設バブルにより,大量の商業施設が建設され,外資小売業に供給された。日本の百貨店やスーパーにも多数の勧誘が寄せられた。日系企業は都心の一等地立地や物件の話題性,自社のイメージへの寄与を優先し,収益性は二の次されていた。この時期の海外進出は,新たな市場の選択や立地点の模索ではなく,進出依頼物件の中からの選定作業として捉えられていた。
 
結論
 筆者のヒヤリング調査を基に,海外進出を促す主体側の要因としてキーパーソンの存在とアジア諸国での商業不動産開発による現地からの要請の二つが挙げられている。

論点
 国内市場と海外市場は断絶されているとしているが,その根拠が述べられていないと思う。

出典:川端基夫(1999)「日系小売企業はなぜ国境を越えたのか-進出要因研究の再検討-」『経営学論集』,第39巻第2号,1-17ページ。

投稿者 02daigo : 2005年06月07日 17:10

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