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2005年05月14日

日本市場におけるウォルマートの初期展開―参入後の経緯と今後の展望―(白石・鳥羽 2004)

要約
この論文は「ウォルマートの日本市場における初期展開を一企業による小売システムの構築プロセスという視点から整理し,今後の展開を展望することを目的としている」(79ページ)。ウォルマートの日本市場への参入は2002年,ほぼ買収による参入に当たる「西友と住友商事との包括的業務提携」(85ページ)という形で行なわれた。その展開はまだ始まったばかりであるが,「水面下においては,日本市場へカスタマイズされた小売システムの構築に向けて着々と進展している」(98ページ)ことが窺われる。また,これまでの日本市場における試みは,「商品調達システムやマネジメント体制の確立に力が入れられている」(98ページ)とあるように,表出的で競争者が模倣しやすい業態という側面ではなく,「目立ちにくく,模倣することが困難な背後のサブシステムにおける競争優位を築こうとしている」(98ページ)。

ケーススタディーの結果,次のことが述べられている。ウォルマートの日本市場におけるこれまでの試みは,「業態を背後で支援する商品調達システムやマネジメント体制の確立に力が入れられていることに特徴付けられる」(98ページ)。まず,商品調達システムについては,ウォルマートの競争優位を支える重要な情報システムとして「リテイル・リンク(RL)」がある。これは,「前日にどの店でどの商品がいくつ売れたのかといった情報を基に,物流センターと店舗には適正水準の在庫があるのかといった問題を確認する。そして,状況に応じて本部と連絡を交わす」(91ページ)。また,「商品分野ごとに,首位メーカーにウォルマートのPOS(販売時点情報管理)データなどを開示し,「カテゴリーキャプテン」と称する特定取引先に,品揃えや棚割などの提案を受けるといったことも試みる仕組みとなっている」(91ページ)。このRLが日本で完成すれば,「サプライチェーン全体で生産計画の最適化や流通在庫の削減」(91ページ)につながるため,店頭価格を下げることが可能になると述べられている。日本市場においてもその基礎となる「スマート・システム(S.S)」(91ページ)の導入が開始され始めたが,「不定期の特売やリベートがある日本の商慣行」(91ページ)の下では,生産,物流,販売コストを標準的な数値として把握し,無駄を排除する手法が馴染み難いとしている。商品システムにおけるその他の課題としては,供給業者との取引関係構築と,「世界レベルにおける商品調達システムの構築」(93ページ)としている。マネジメントの面では,「リテイルスタンダード」(RS)と称される,「日常業務の達成度を全店共通のチェック項目と判断基準で自己採点し,各店舗のオペレーション上の問題を把握する仕組み」(94ページ)や,「1日の業務スケジュールを逐一記した「ダイロ(DIRO:Day In the Life Of)」(98ページ)の導入を行っている。これによって徹底した業務の標準化に取り組み,また,従業員に占めるパートタイマー比率の引き上げを行うことにより人件費の削減につなげている。そして,ウォルマートの日本市場における今後の展開は,「良循環(Virtuous Circle)」(95ページ)の実現能力の点で強みを持つスーパーストアの出店に目標が定められている。ここでいう良循環とは,「低価格販売→大量販売→大量購入→大量仕入・低仕入コスト→間接費の削減→低価格販売」(95ページ)というプロセスを意味している。「総合型業態を展開する小売企業にとっては,この良循環を実現することがグローバル小売企業としてのパラダイムである」(97ページ)と言われ,日本においてもその実現が要求される。「業態」,「商品調達システム」,「マネジメント」の3つの側面における様々な試みは,良循環を回転させるための仕組みとして作用する。しかしながら「現状では,リテイル・リンクを基盤とする商品調達システムの構築やマネジメント体制の確立にプライオリティが置かれ,業態レベルでは顕著な変化が見受けられない」(97ページ)ことから,「良循環が回転しているとは言えない」(97ページ)。


結論は次の通りである。日本市場におけるウォルマートの展開は開始されたばかりであり,その展開の行方を把握することは,困難なように思えるが,「個々の展開を一企業による小売システムの構築という視点から包括的に捉え直してみると,水面下においては,日本市場でカスタマイズされた小売システムの構築に向けて着々と進展している」(98ページ)ことが窺われる。「ウォルマートの日本市場におけるこれまでの試みは,業態を背後で支援する商品調達システムやマネジメント体制の確立」(98ページ)に重点が置かれている。それは,表出的で模倣されやすい業態という側面ではなく,「目立ちにくく,模倣することが困難な背後のサブシステムにおける競争優位を築こうとしているのである。」(98ページ)と結論付けている。


論点は次の通りである。この論文において,RLについて述べられているが,日本でRLのようなシステムを構築する際に発生する問題についての議論が不足しているように思われる。

出典:白石善章・鳥羽達郎(2004),「日本市場におけるウォルマートの初期展開―参入後の経緯と今後の展望―」『流通科学大学論集―流通・経営編―』第16巻第3号,79―99ページ。

投稿者 02takenaka : 2005年05月14日 14:18

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