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2005年05月09日

海外進出を促進する小売企業の主体的要因 ―中国小売市場における外資系企業を事例にして―(方 2004)

要約
 これまでの小売企業の海外進出動機についての研究は,Alexanderが「プッシュ要因」及び「プル要因」にまとめているように,主に環境決定論的に行われてきた。また,進出方法についての研究は,主に製造企業を分析対象とする経営学に依存している状態にある。しかし,現実には,同じ環境下にある小売企業が,海外進出に対して異なった動機や方法を持っている。本稿はそうした既存研究の限界に焦点を当てた試論である。具体的には中国に進出している外資小売企業の事例を足がかりにして,既存の要因研究においてはあまり議論されなかった企業自身の主体的要因こそが,上記の企業間差異を生み出す重要な要因ではないかと考えて仮設を形成し,最終的に,小売企業の海外進出研究における自国要因,進出先国要因,企業自身の主体的要因という3つのキーコンセプト及びそれらの間の関係性を特定化する。(141ページ)

 
 小売業の海外進出についての研究は,「主に海外進出動機及び海外進出方法の2つの側面から行われてきた」(142ページ)とし,その2つの主な研究をレビューしている。進出動機に関するいずれの研究も「主に企業を取り巻く外部環境を論じてきた」(144ページ)と述べている。しかし,同じ環境下にある企業がそれぞれ異なる海外進出戦略をとっていることから「既存研究が挙げた諸要因によっては企業の進出動機を説明しきれない部分が残されている」(144ページ)と指摘している。つまり,Alexanderが示したプッシュ要因,プル要因などの外部環境以外の要因が存在するとし,事例を用いて検討することにしている。また,海外進出方法に関する研究については,製造業を対象としたものが中心であるとし,それらの研究が小売業に適応できるかどうかを検討することにしている。
 
 
 以上のことを検討するにあたって,まず外資小売業を取り巻く中国市場環境を示し,次にフランス小売業「オーシャン」と台湾小売業「大潤發」の事例を紹介している。
 フランス第2位の小売企業であるオーシャン,台湾第2位の小売企業である大潤發は,それぞれ異なる動機を持って中国市場に進出した。しかし,オーシャンが中国市場において大潤發を吸収,さらには両社50%ずつ出資し香港で「香港太陽株式会社」を立ち上げるに至った。この事例を小売業海外進出の動機に関する既存研究の不足点を補う手がかりと捉え,その経緯と戦略の意義を示している。

 既存研究のレビューから,小売業海外進出の動機には外部環境以外の要因が存在するとした。さらに,この論文ではその要因を海外へ進出する企業自身に見出している。よって,「小売企業の海外進出動機及び海外進出方法に影響する要因を,自国環境要因,進出先環境要因,そして,企業自身の主体的要因の3つの視点から論じ,新たな仮説・モデルの提唱」(153ページ)を行っている。

仮説は以下の4つである。
①小売企業の海外進出動機を規定する要因として,自国環境要因,進出先環境要因,及び企業自身の主体的要因というの3つの要因が挙げられる。
②小売企業の海外進出方法を規定する要因として,及び企業自身の主体的要因というの3つの要因が挙げられる。
③小売企業の海外進出動機や進出方法を規定する要因のうち,自国環境要因及び進出先環境要因は間接的要因であり,企業自身の主体的要因は直接的要因である。
④小売企業の海外進出方法として,吸収・合併は重要な市場拡大戦略である。

 オーシャン,大潤發にとって中国は進出先国として同じ環境であり,また,各々の自国環境についても「市場の成熟化,フォーマットの飽和,競争の激化などの共通点」(153ページ)を指摘している。両国の大きな相違点として「大潤發の母国である台湾は進出先である中国とほぼ同じ民族,言語,習慣,文化を持ち,それらの点で相互理解が暗黙裡に行いやすい点」(153ページ)を挙げている。さらに,オーシャンと大潤發における歴史・資金力・経営ノウハウ・国際経験といったような両社自身の主体的要因の違いを指摘している。また,中国市場への進出で両社は異なった市場戦略を採用していることも示している。
 このような検討から,小売業の海外進出では企業自身の主体的要因が重要であり,「企業の規模,経営状況,海外経験,リーダーシップなどの差異によって,海外進出動機,及び進出方法が違ってくる」(155ページ)と述べている。
 
 この3つの要因が異なる影響を持つとして仮説③が挙げられている。同じフランス小売企業であるカルフールとオーシャンは,中国進出において外部環境要因はまったく同じであるが,異なる企業自身の主体的要因を持つため,進出動機及び進出方法が異なっている。このことから,企業は外部要因の影響を受けつつ,それを自社の経営条件と結合することによって,海外市場への進出動機・進出方法が規定されるとしている。よって,「自国環境要因・進出先環境要因は間接的要因であり,企業自身の主体的要因は直接的要因である。」と述べている。

 そして,オーシャンの大潤發吸収の事例から「経営者,従業員,用地及びシェアはすでに確保され,特に政府の政策で早い時期にしか得られない用地を入手することが可能というメリット」を持つ吸収・合併戦略が、小売企業の海外進出における市場参入・拡大の有効な手立てであるとしている。


結論 
 この論文では,最終的に自国環境要因と進出先国環境要因という企業を取り巻く外部環境要因の他に,企業自身の主体的要因という3つ目の要因を提示している。さらにこの3つの要因間の関係を検討し,小売国際化の新しい概念モデルを提案している。最後は,「概念モデルをさらに精緻化させ,観測変数を定めた上で,実証分析が行われることが望まれる」と結ばれている。


論点
 この論文の評価すべき点は,3つ目の要因として企業自身の主体的要因を提示したというところである。しかし仮説③のような直接要因と間接要因にまで言及するには,議論が不足しているように思う。企業の余剰資産を活用するために海外進出という道を選択し,その後参入先選択のために進出先国環境を比較・検討するというケースも十分に考えられるからである。課題ともされているが,この点においては実証分析による検討が必要と思われる。


出典:方斌 「海外進出を促進する小売企業の主体的要因 ―中国小売市場における外資系企業を事例にして―」『三田商学研究』第47巻第3号,2004年8月,141-160ページ。

投稿者 02eiko : 2005年05月09日 17:19

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