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2005年05月10日

中国における小売業態の発展と政府の役割―スーパーマケットを中心に―(葉 2003)

要約
 この論文では,中国におけるスーパーマーケットの発展に注目し,小売業の革新,および革新の展開に公的権力が影響を与えているのかについて分析がなされている。
 まず,小売業の革新に関する既存の理論仮説が検討されている。その中で,文化的諸条件,特に公的権力の介入が,小売発展の重要な要因であるということに焦点を当てている。
それを検証するために,中国のスーパーマーケットの発展に注目し,分析が行われている。セルフサービス方式,およびチェーン方式の展開を基準に,中国のスーパーマーケットの発展過程について明かにされている。そして,発展に対する公的権力の介入について,中国小売企業の所有制,および政府機関による政策について分析がなされている。そして,公的権力の介入が革新の一つの規定因であると結論づけている。

 理論的検討
 まず,小売業態の発展の既存研究を整理・検討し,この論文での分析のフレームワークを明示している。
 まず,cundiffの理論仮説が取り上げられている。そこでは,「小売業の発展は基本的に経済発展のレベルに規定され,次いでその他の環境諸条件が影響を及ぼす」(112ページ)としている。さらに,その革新過程は普遍的な性格を持っているとしている。つまり,どこの国においても,経済発展のレベルが同程度であれば,類似した小売の発展が起こると主張している。
 しかし,経済発展と小売業の革新の間には複雑で多くの介在変数が存在している。すなわち,経済発展以外の多くの諸条件が影響を与えていることは間違いない。これについて,bartelsは,一国の流通システムは,その国の文化的諸条件によって規定されるとしている。その国の持つ文化的諸条件によって革新は規定されるので,各国の小売業の革新は独自の展開をしていくと主張している。
 こうした研究がなされる中,田島は「公権力の介入が大きな影響を持った規定要因である」(114ページ)と主張している。田島によると,文化的諸条件の中でも公権力の流通介入は,他の環境要因に比べて,より直接的に小売業の発展に重要な影響を与えているとしている。

実証分析
 「セルフサービス方式を主要武器とする革新的な小売業態のスーパーマーケットが中国に登場したのは,1980年代前半から1990年代後半にかけてのことであった」(118ページ)とされている。しかし,こうした多くの店舗は失敗し,閉店,業態転換を強いられた。それらの多くは,セルフサービス方式を導入した独立店舗と分類されるもので,本格的なスーパーマーケットというものは存在しなかった。本格的なスーパーマーケットの条件であるチェーン・ストアをほとんど存在せず,大半が独立店舗であった。
 その後,スーパーマーケットは,1990年代後半に中国に定着し,小売業全体の急成長とともに発展することになる。「規模の経済性が重視され,チェーン・ストアの導入と積極的な展開がみられるようになった。スーパーマーケットは,多店舗展開による規模の利益を追求してきた。1990年代に入ってチェーン・ストア化を目指し,そして1990年代後半,スーパーマーケットは一挙に中国の都市部で開花」(120ページ)していくことになった。
 しかし,こうした小売業の革新は意欲的な個別企業によって先導されたわけではない。革新的な店舗のほとんどは,新しい小売業態を強力に発展させる計画の基,国有小売企業から業態転換して発展したものである。
 中国の政府介入は,行政,経済,法律の分野にわたる。行政とは上流統制である。経済では,チェーン方式の展開のために税制を調整したり,企業の資本面での優遇対策などが挙げられる。法律においては,強制的な国家の意志で政府の望ましい発展を促す手段である。

結論
 政府行動,政府介入は,明らかに中国の小売構造,小売行動に強く作用し,近年の中国における小売革新の進展,および小売業態の発展という成果をもたらしている。このことから,公的権力の介入は小売業革新における大きな役割を果たしていることが明らかにされた。

論点
 この研究では,中国という特殊な市場に焦点を与えている。もっと一般化する研究が必要である。公的権力の影響についてもただ政策の実施期間と小売の革新との時期が一緒であるということを根拠に,規定要因としているが直接的な関係についてもっと検討する必要があると考える。

出典:葉翀 「中国における小売業態の発展と政府の役割―スーパーマーケットを中心にして―」『流通科学大学論集―流通・経営編―』第15巻第3号,2003年,111-129ページ。
 

 

投稿者 02daigo : 2005年05月10日 14:32

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