« 良質のクリエーティブを阻害する要因から「効く広告」の考察 -「不良広告」から「効く広告」への道程(南 2003) | メイン | サービス・クオリティとロイヤルティの構造に関する分析-ファーストフード業を事例にして-(鈴木・宮田 2002) »

2005年06月16日

小売国際化における「Ethnic Enclaves(飛び地市場)」の役割(川端2000)

 要約
 この論文では,戦後の日系小売企業の海外進出の重要な進出要因の一つである「海外の日本人市場」を対象とした進出が,従来の研究ではあまり重要視されてこなかったという問題点を取り上げ,その海外の日本人市場の形成過程と特性,そしてその変化を明らかにすることにより,日系小売企業の海外進出に与えてきた影響を検討している。海外の日本市場には海外旅行者を対象にしたツーリスト市場と,在外邦人市場があるとされており,本稿では事例として,欧州市場と香港市場への進出が例として取り上げられている。

ツーリスト市場と小売業の進出
 ツーリスト市場とは海外市場において日本からの観光客を相手にビジネスを行うものであるとされている。そのツーリスト市場の成長要因となるのは,日本人の海外旅行者の増加であるが,その海外旅行者の増加に影響を与える要因としては,大きく分けて次の2点があげられている。1つ目は1964年4月からの観光目的での渡航自由化と,2つめにプラザ合意による急激な円高によるとされている。
次に欧州と香港におけるツーリスト市場の事例研究がなされている。欧州の日系小売企業の進出は百貨店業態での進出が多く,主に欧州はブランド物やファッションを中心とする商品の調達地域であり日本人観光客に向けて,海外という慣れない環境で安心して買い物が出来る日本と同様の空間を提供することが目的とされた。ここで行われている商法は免税商法であり,VAT(付加価値関税)分を値引きした価格で販売することが欧州での日系百貨店の価格競争力であったとされている。欧州での日系百貨店による海外ツーリスト市場は1980年代における市場の構造変化により衰退傾向にあり,その理由としては以下の4点が挙げられている。一つ目に日本人がブランド品を直営店で購入するようになったこと,二つ目に日本人旅行者の商品知識が豊かになったこと,三つ目に団体での旅行者が減少したこと,四つ目に日本人観光客の購買額が低下したことが挙げられている。
 香港への出店も百貨店業態での進出が多く,当初その対象は在外市場の富裕層と駐在邦人だったが,日本人旅行者の増加によりその売上高を大きく伸ばしたことにより,その対象がやがて旅行客にシフトしていったとされている。香港へ旅行する日本人を始めとしたアジア人はショッピングに多額の出費をする傾向にあり,中でも日本人は欧州と同様にハンドバッグやブランド品の香水等に多くの出費をする傾向があるとされている。このことが欧米など多くの国から旅行者が香港に来るにも関わらず,日本の百貨店だけが香港に進出したのかという理由の一端をであると述べられている。しかし,欧州同様に香港における日本の百貨店も旅行者の減少によりオーバーストア状態を引き起こし,撤退が多くなっているとされている。その撤退の一番の理由としては,香港における店舗の家賃が急上昇したことにより利益を低下させた部分が大きいとされている。

在外邦人市場と日系小売業の進出
 海外の日本人市場にはもうひとつ在外邦人市場があり,日系企業の駐在員とその家族の形成する市場であり,この邦人市場に支えられている日系企業も少なくないと述べられている。シンガポールの日系企業の駐在員の数は人口の1%の3万人であることなどからも,その市場規模が小さくないことがうかがえるとしている。在外邦人市場への出店動機は,現地市場での拡大を目指したとされているが,在外邦人をターゲットにすることは現地消費者より客単価が高いことなどからも有利であり,やがて本国の消費者より在外邦人をターゲットとするほうにシフトしてきたとされている。在外邦人市場を対象とした出店には,スーパー業態での出店が多かったとされている。進出先としての欧米地域では,ヤオハンの米国へ出店したスーパーから見られるように,当初の日本人向けからアジア人向けへその対象を拡大させてきたケースも見られるとされている。一方アジア地域における在外邦人市場向け出店は,香港での現地消費者向けの店舗がやがて韓国人や日本人顧客層を吸引した点や,バンコクでのフジスーパーにおける現地での広域在外邦人市場を獲得したケースが成功例として取り上げられているが,結論としては邦人市場を対象としたため,スーパーの多店舗展開が出来ない理由であるとしている。

結論
 海外の日本人市場を目指した出店動向からは海外出店およびその成長に関して2つ考察がなされており,一つはツーリスト市場及び在外邦人市場はニッチ市場であり,さらに出店の際の店舗コストが高いという要因がチェーンストア形式での多店舗展開を阻害したため拡大に失敗したとされており,二つ目は海外で得た技術やノウハウが移転できなっかたという点であると述べられている。結論としては,「海外の日本人市場を目指した進出は,一定の市場を確保してきたものの,利潤を上げるあるいは,海外市場で企業として成長する『仕組みづくり』には成功してこなかった。」(52ページ)と述べられている。

論点
 日系小売企業の日本人市場を対象とした研究で欧州と香港が例として取り上げられているにも関わらず,その両者における衰退要因の違いなどの比較検討がなされていないので,なぜその地域がツーリスト市場として選ばれたのかの論拠を示すべきだと考えられる。

出典:川端基夫(2000),「小売国際化における「Ethnic Enclaves(飛び地市場)」の役割」,『龍谷大学経営研究』,33-52ページ。

投稿者 02kayasi : 2005年06月16日 23:51

トラックバック

このエントリーのトラックバックURL:
http://www2.ipcku.kansai-u.ac.jp/~t020026/blog/mt-tb.cgi/114

コメント

カンマの修正が必要なところがいくつかあります

投稿者 02daigo : 2005年06月18日 00:51

 
Copyright© 2005-2006 Baba Seminar. All rights reserved.