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2005年05月11日

東京都市圏小売システムの発展における主要傾向(田村 2002)

要約
 この論文では,経済発展に伴う都市化の過程での,都市圏小売システムの構造の変化について述べられている。ここでは東京都市圏を事例として取り上げ,中心地と非中心地と区分し,都市圏での人口増加と郊外化の現象は,小売システムにどのような影響を与えてきたのか,という問題について実証的に検討している。そこで都市圏小売システムの構造をミクロ的に規定している各都市の小売吸引力はどのような要因によって決まるか,またそれらの要因の重要度は経年的にどのように変化してきたかを検討することで,都市圏での小売システムの構造変化を明らかにしている。

 実証分析は次の通りである。東京都市圏における各都市の小売吸引力を調べるため,都市の小売吸引力の規定因のモデルを作り,「吸引力はまず施設密度と売場効率によって規定される。さらに,売場効率は店舗密度と平均店舗規模によって規定され,そして売場効率は人的サービス率と労働生産性によって規定される。」(7ページ)ことから,1974年から1999年の期間について各要因の影響度を中心地と非中心地間で比較分析をしている。
 分析の結果,まず中心地では,1990年まで施設密度の影響は増加傾向であったが,その後は一定になる。このことは施設密度の増加による吸引力の増加は限界となったことを意味する。また施設密度への店舗密度と平均店舗規模の影響力について,店舗密度の影響の方が大きくなっている。このことは「店舗密度の増加は,ロードサイドや住宅地への店舗の分散立地や店舗の専門化によって生み出される。」(10ページ)ことから,施設密度の増加は中心地内での小売分散化や店舗専門化によって行われていることを示している。
 次に非中心地では,施設密度が吸引力に与える影響は1991年までは減少し,それから1999年にかけては増加に転じている。このことは1991年以降に非中心地に商業施設の開発を行ったことで小売吸引力が増加したことを意味し,そして非中心地には小売業の開発の可能性がまだ残されていることを示している。また施設密度への店舗密度と平均店舗規模の影響力について,非中心地では平均店舗規模の影響の方が大きくなっている。このことは非中心部では小売集中化と店舗の大型化が進行していることを意味している。
しかし,非中心地の吸引力の規定因は,経年的に大きく変化することから,「東京都市圏の非中心地が依然として激しい変化の過程にある。」(13ページ)としている。
 最後に,売場効率への労働生産性と人員装備率の影響について,中心地,非中心地においても1974年時点とほとんど変化がないことから,「流通生産性に大きく影響するような流通革新が過去25年間においてほとんど行われなかった。」(14ぺージ)としている。
 
 結論は次の通りである。都市圏での人口郊外化,郊外商業の発展などの都市化の過程で,都市圏の小売システムの構造は変化していく。そして小売システムを規定している小売吸引力の要因は,中心地と非中心地とでは異なる。一連の都市化の過程で,中心地では店舗の分散立地や専門化による,店舗密度が吸引力に大きく影響し,非中心地では小売集中化や店舗の大型化による,平均店舗規模が大きく影響する。また,非中心地での吸引力に与える影響は,中心地でのそれよりも大きいことから,郊外化という環境変化に対して小売システムの適応がまだ終わっていないことを示している。

出典:田村 正紀(2002),「東京都市圏小売システムの発展における主要傾向」『流通科学研究所モノグラフ』No.012

投稿者 02umeda : 2005年05月11日 13:11

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