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2005年07月21日

「グローバル競争時代」の大規模小売業の戦略展開(宮内 2001)

要約 
日本百貨店協会や日本チェーンストア協会が公表する「売上高動向」を見ると,1992年以降,下降傾向を続けており,長期的な低迷状態に陥っている。そして,そのような長期不況下での経営再建・戦略展開が小売業の分野で進められ,大手スーパー企業グループによる新たな経営戦略が見られるようになった。この論文では,こうした状況の下で,小売業が危機的な状況に陥っている要因を明らかにし,そして今後,危機的状況からいかに脱却し,国際競争力をどのようにして創りあげていくのかについて検討している。

日本小売業の現状
 ここでは,現在の日本小売企業が陥っている危機的状況について概観し,その状況に陥った要因を挙げている。
 まず,現在の景気停滞の要因として,90年代不況の影響を挙げている。こうした景気停滞は,個人消費の萎縮を引き起こし,国民経済として需要と供給のバランスが崩れたため,小売業に深刻な打撃を与えることとなったとしている。第二の要因として,供給能力の過剰,とりわけ大規模小売業の出店戦略を挙げている。1990年代に入り,規制緩和が徐々に進むにつれ,大規模小売業各会社は活発な出店戦略を展開したが,1990年から1999年までの日本経済全体の成長率は約1%とわずかであったため,店舗の拡大路線の採用は,小売マーケットにおける破滅的な競争を引き起こす結果になったとしている。第三の要因として,小売業が危機的状況に陥ったのは,企業の多角化戦略の失敗による負債の増大であるとしている。大手総合スーパー各社は,複数事業の組み合わせによるコスト節減を意図し,範囲の経済性を追及し,小売業態の多様化や事業の多角化を進めた。しかし,企業グループの多くは,中核としていた事業との関連性が薄い事業を多く抱え込んだことで,範囲の経済性を得ることができず,経営資源の過度の分散を招き,業績不振をもたらすことになったとしている。続いて第四の要因には,含み資産重視型経営が破綻したことを挙げている。含み資産重視型経営とは,借り入れをして不動産を保有し,不動産価格の上昇を狙うという,土地の含み資産に依存した経営である。そして,この含み資産重視型経営を進めることで,企業は競争力のない店舗を出店させ,低水準の収益率しか確保できず,90年代不況の影響により,過大な負債を抱えることとなったとしている。最後に,小売業の成長が止まったのは,小売業態の成熟化・陳腐によるものであるとしている。製造業にとって新商品の開発が大きな意味を持つように,小売業にとっては,新たな業態の開発が持続的な成長を支える基盤となっている。しかし,近年においては店舗側の業態供給能力がマーケットの業態のニーズに追いついたため,革新的な新業態を創り出せなくなってきており,新たな業態が創り出せないということは,消費者のニーズを満たす新しいシステムを構築できないことを意味し,小売業の衰退につながると述べられている。

小売業の戦略展開の方向性
 ここでは,現在の危機的状況から日本小売業はいかに脱却し,どのようにして国際競争力を獲得できるのか,という課題に対して8つの戦略を述べ,それぞれの戦略を検討している。
 まず大規模小売企業は,これまでの損失を返上するために,人員削減や赤字店舗の閉鎖を進め,経営再編のための経営戦略の実現に取り組んでいることを挙げている。また同時に総合商社と資本・業務提携関係を深めており,さらに企業集団の再編に取り組んでいることから,大規模小売企業は大規模な業界再編成をともなっているとしている。
 次に,流通業界再編成を進めるにあたって,効率性の追求を挙げている。そのためには不採算店舗を閉鎖し,新たに採算が見込まれる地域に新たに店舗を開設することが必要になり,店舗もスクラップ・アンド・ビルドが一層進められていくであろう,と述べている。
 三つ目に,今後,小売業の停滞傾向が続き,価格破壊が進行するなかで,大規模小売業各社は,かつての売上高至上主義から脱却し,利益重視主義にもとづく,低コストによる店舗経営の追求や,費用に対する効率経営の徹底化が必要であるとしている。
 四つ目に,販売,在庫管理などのすべての流通機能における情報技術の活用を挙げている。なかでも消費者のニーズに機敏かつ柔軟に対応するシステムの構築が重要であり,それにより顧客満足の実現が可能になるとしている。
 また,顧客のニーズに即した対応を迅速・柔軟に行うために,売り場での従業員の創意工夫や積極性を汲み上げる仕組みが必要になるとしている。つまり,現場を足で這いずり回るタイプの,MBW(Management By Walking)型の売場改革・業務改革・組織改革を進め,現場における情報交換・共有を行うことが重要であるとしている。
 さらに,大規模小売業各社が持続的な発展をしていくためには,新しい小売業態の開発・創造が必要であるとしている。ここでは,次世代を担う新しい小売業態として,情報技術活用型業態を挙げており,21世紀を見据えた長期的な視点から,情報を活用した「eリテイラー」や「eビジネス」,「電子商取引」といった情報技術の活用による業態の開発が活発化していると述べている。
 その上,大規模小売業各社は,情報技術の活用による,新しい商品開発・供給システムを構築によって,競争力の強化が図れるとしている。それにはSCMとCRM(カスタマー・リレーションシップ・マネージメント)があり,ここではその両者を結びつけたDCM(ディマンド・チェーン・マネージメント)について述べられている。DCMとは,「SCMとCRMを基礎に店舗や顧客に関する知識・情報を企業組織全体に還流させ活用する仕組みを作り上げること」(67ページ)としており,従来のチェーンストア・マネージメントの組織的硬直性やフレキシビリティの欠如などを克服するものであるとして,DCMが商品開発・供給システムにおいて革新性を生み出すとしている。
 最後に,日本小売企業が国際展開を進めるにおいて,グローバル・パートナーシップとグローバル・ソーシングを行う必要性について述べている。これからのグローバル競争時代を迎えるにあたって,取引慣行の差異などの問題は効率的な取引システムを構築する上で大きな障害となり,戦略的調達を行うためには,あらゆる産業分野において国際的な協調が必要になるとし,グローバルな観点からの効率性追求が重要であるとしている。

 結論は以下の通りである。日本小売企業は現在陥っている危機的状況から脱却するためには,業界や店舗の再編,効率経営,革新的な業態の開発,そして情報技術の活用などが求められるとしている。さらに今後,小売業のグローバル化が進むにつれ,系列や国境を越えた企業間の提携・強調が必要となると考えられている。

出典:宮内拓智(2001),「『グローバル競争時代』の大規模小売業の戦略展開」『経済』2001年8月号,53-71ページ。

投稿者 02umeda : 2005年07月21日 17:47

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