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2005年07月27日

米国小売業のイノベーション(渦原 2001)

要約
 近年,ロジスティックスや情報通信の技術発達などによって,企業との取引関係,顧客対応において小売業のイノベーションが進展している。米国小売業は,電子商取引において世界の最先端にあり,それを活用した新業態の開発などイノベーションを次々と生み出してきている。この論文では,米国小売業の業態開発や適応行動などイノベーションの本質を考察しており,合わせて今後の課題と展望を論じている。

米国小売業のイノベーション
 ここでは,米国の小売業態の進展とその発展の規定要因について述べている。
米国の小売業態は,食品を取り扱う小売業と扱わない小売業とに分かれて発展を遂げてきた。米国の小売業の発展の歴史は,度重なるイノベーションによる新業態の誕生の歴史であり,第一回目はデパート,第二回目は通信販売,第三回目はディスカウント・ストアの誕生であったとしている。このように新しいビジネスモデルが次々と誕生し,顧客の愛顧を獲得した競争力のある業態が選別されてきた。そして,今や電子商取引の登場による,第四のイノベーションが生み出されたとしている。次に,このような小売業のイノベーションの規定要因として,ここでは米国の流通システムの特徴に加えて,消費者行動の変化と技術革新を挙げている。まず米国の流通システムは,流通チャネルが短い,小売業が強大で自立性がある,PBが強い,などの特徴がある。そして,イノベーションが生まれた背景として,外部環境の変化,特に消費者行動の変化に着目している。米国の消費者は,民族の多様化,家族人員の減少などが目立ってきているだけでなく,価格と価値のバランスを重視するバリュー志向,健康志向などが顕著になってきている。また技術革新においても,インターネットを利用した電子商取引やロジスティックスの技術革新により,顧客に対するサービスが向上している。以上のことが,近年における業態開発のイノベーションの源泉となっている,と述べている。

イノベーションの新たな展開
 近年,インターネットを利用した電子商取引により,企業の取引関係,顧客対応において変化し始め,新業態の開発などのイノベーションが生み出されてきている。インターネットのマーケティングの特徴として,時間と距離を克服し直接的に需給接合が可能になり,顧客購買行動の分析が容易になったなどがあり,取引関係や顧客対応において革新が生まれた。そして,そのイノベーションによる新たなビジネスモデルとして,オンライン専業を挙げている。その代表例として,アマゾン・ドット・コムがあり,次第に既存の大手小売業が本格的参加し始めた。しかし,オンライン専業業態は,顧客とのリアルタイムのやりとりや,物流や在庫管理の整備が十分ではないという問題を抱えていた。このような問題点を受けて,新たに生まれたビジネスモデルとして,クリック&モルタル業態を挙げている。クリック&モルタル業態とは,小売企業が実店舗とオンライン販売を兼ねた業態である。このクリック&モルタル業態の誕生によりオンライン専業との間で,勢力争いが展開され,最近では「インターネットと有店舗の融合化によるマルチ・チャネルの優位性が見られた」(144ページ)としている。そして,クリック&モルタル業態は今後,商品提供だけでなく,物流や金融機能も付加し,サービスの範囲を拡大する方向にある,としている。最後にこの論文では,これからの小売業は,クリック&モルタル業態が主流となる方向に展開しており,オンラインの強みを上手く活かして,販売チャネルの使い分けによる相乗効果を発揮させることが重要である,としている。また,日本の小売業についても,日本ではコンビニエンスストアや携帯電話を情報端末として利用したインターネット・ビジネスの発展が見られ,米国とは異なる小売業の展開が予想されると述べている。

結論は以下の通りである。米国小売業は消費者行動の変化への対応,技術革新によって,新業態の開発するなど,イノベーションを次々と生み出し,近年では,電子商取引の発達によりオンライン専業やクリック&モルタル業態という新業態が誕生した。今後も米国小売業は,専門的な情報提供やリピーターの確保などによって,電子商取引を成功させ,クリック&モルタル業態を広く展開していく方向にあるとしている。

出典:渦原実男(2001)「米国小売業のイノベーション」『流通』No.14,137-147ページ。

投稿者 02umeda : 2005年07月27日 17:23

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