« 「広告」の本質-「市場」における「非=市場的なるもの」-(桜井 1994) | メイン | 商品開発体制に与えたコンビニ台頭のインパクト(小川2003) »

2005年07月13日

小売企業の総合型業態による海外戦略-ウォルマートの海外展開を通じて-(白石・鳥羽 2003)

要約
 この論文では,「食品と非食品を幅広く取り扱う総合型業態の小売企業」の国際化に焦点を当て,総合型業態で急激に国際化を展開しているウォルマートの海外戦略について検討している。そこではまずウォルマートの海外進出の背景や海外戦略の特徴を明らかにし,次に個別市場における国際的な展開に視点を転じ,ケース・スタディを行っている。最後に,これまでの検討を通じて,総合型業態による海外進出の課題について考察を試み,多様な市場へ海外展開する総合型業態の小売企業に一定の示唆を与えている。

ウォルマートの海外展開
 ここでは,ウォルマートの海外展開について,まず海外進出にいたる背景を確認し,次にウォルマートの海外戦略の特徴を明らかにする。
 ウォルマートの海外進出要因として,環境要因によるプッシュ要因とウォルマートの主体的なポジティブ要因を指摘している。まずプッシュ要因として,近年アメリカでは各自治体による大型店舗の規制がなされているため,大型店舗での出店が困難な状況に追い込まれていること,また国内市場においても上位企業による集中化が進んでいることから,海外進出の重要性が高まっていることを挙げている。ポジティブ要因には,自社構築の情報技術,大規模性など海外市場における強みを十分に備えていることを指摘している。
 ウォルマートの海外戦略について,ここでは海外立地選択,海外進出モード選択,業態の展開,海外流通戦略の4つの側面から分析している。まず海外立地選択について,既存研究では,「小売企業の海外進出の順路として,比較的に参入障壁が低い近隣の同質的市場への進出から開始され,海外経験が蓄積するにつれ市場領域が段階的に拡張していく」(90ページ)と考えられており,ウォルマートの海外進出も周辺の近隣諸国から開始された。この背景には,地理的・文化的近隣性に加え,北米自由協定という経済圏が存在しており,その後は買収や合弁などの市場機会を見出しながら分散的に進出し,市場の拡大を図ったとしている。次に,海外進出モードの決定について,その特徴として進出国の状況に応じて,合弁や買収,直接投資などあらゆるタイプを柔軟に採用していることを挙げている。しかし,ウォルマートは進出国においても母国市場で蓄えたノウハウを創造的に移転していくために,莫大な資本力を基盤とする買収による展開に力点を置いているとしている。さらに,買収先の選定として,自らが展開する業態とマッチした業態を展開している企業をターゲットとし,買収によって獲得できるメリットを最大限に活用することを意図している。次に,業態の展開に関して,進出モードの決定と同様に,進出国の市場環境に合わせて対応し,多様な業態を展開する「多業態戦略」を採用している。最後に海外流通戦略については,進出各国において独自の供給システムの構築,海外市場における直接取引関係の構築など「グローバル・ソーシング」を積極的に展開していることに特徴付けられる。また,こうした供給システムの構築は,情報通信技術の発達によるものとし,全世界のサプライヤーとの電子取引関係を可能にするシステムを展開し,詳細な販売関連データをサプライヤーと共有することで,効率化を図っているとしている。

海外展開のケース
 ここでは,ウォルマートの個別市場における展開として,ブラジルとイギリスをケースに取り上げ,海外展開を先述した立地選択,進出モード選択,業態の展開,流通戦略の4つの側面から検証している。そして,これまでの検討から総合型業態による海外進出の課題を挙げている。
 まずブラジル市場におけるケースについて。ブラジルでは,ウォルマートが参入する以前にカルフールをはじめとする外資系小売企業が既に参入していることや経済環境が不安定であることなどの立地選択において好ましくない条件が存在していたが,一方で,合併による進出を可能にする強力なパートナーの存在があったことが進出の決定的な要因としてとしている。ブラジルでの業態展開については,現地の消費者特性に合わせた形でなされたが,他の外資系小売企業が既に同業態で展開していたため,競争関係に直面し,多大な損失を被ったとしている。次に流通戦略では,ウォルマートはバイイング・パワーを訴求したメーカーとの直接取引など母国市場と同じ戦略を試みたが,ブラジルではメーカーの寡占化が進んでいたことから本来のバイイング・パワーが発揮できない,といった状況にあった,と述べられている。
次にイギリス市場におけるケースについて。イギリスのような小売市場が成熟した市場に進出することは困難である。しかし,「小売市場が高度に発達した市場に参入するには,既存の資源を有効に活用できる手法が理想的」(99ページ)であり,イギリスでは理想的な買収対象企業が存在したことから,ウォルマートは進出を決定したとしている。この買収の結果,食料品と非食料品の両方の強化につながり,総合型業態の展開を大きく進展させたとしている。また流通においても,買収を行ったことで,買収先の既存の供給業者に対して,バイイング・パワーを発揮した取引が可能になったとしている。
これまでの検討から,小売企業が各進出市場において成功するためには,自らの強みを実現すべく如何にカスタマイズされた小売システムを構築していくのか,という流通戦略の実行能力に掛かっている,と述べている。ウォルマートの強みの本質は,低価格販売,大量販売,大量仕入,低仕入コスト,間接費の削減という「バーチャス・サークル」という循環プロセスの実現にあることから,ウォルマートなど総合型業態による海外進出は,「如何にして現地市場でバーチュアス・サークルを実現するのかという問題が課題となる」(102ページ)としている。進出先国の小売環境は母国といくらか類似性を帯びている部分もあるが,多くの異質性を帯びていることは当然であり,そうした海外市場で独自の小売システムを構築できる能力こそが,総合型業態で海外展開する小売企業の成功条件となる,としている。

 結論は以下の通りである。総合型業態で海外展開を試みる小売企業は,進出先の環境に適応しながらも,母国市場で構築した強みを生かすべく,現地適応化する部分と標準化する部分を柔軟に組み合わせた独自の小売システムを構築することが課題となる。また今後の課題として,日本市場における外資系小売企業の展開を注目することで,如何にカスタマイズされた小売システムを構築していくのかという問題を明らかにすることを挙げている。

出典:白石善章・鳥羽達郎(2003),「小売企業の総合型業態による海外戦略-ウォルマートの海外展開を通じて-」『流通科学大学論集』第16巻第1号。

投稿者 02umeda : 2005年07月13日 23:37

トラックバック

このエントリーのトラックバックURL:
http://www2.ipcku.kansai-u.ac.jp/~t020026/blog/mt-tb.cgi/161

 
Copyright© 2005-2006 Baba Seminar. All rights reserved.