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2005年07月06日

わが国グローバル小売企業の国際化戦略の展開-イオンをケースとして-(山本 2002)

要約
 近年の小売業界は,ハイパーマーケットやディスカウント・ストアなど新しい小売業態の出現や,欧米を中心とする小売企業の海外進出によるグローバルな競争の状態にある。そして,この急激な小売企業の国際化に伴って,それに対する研究も多く見られるようになったが,小売企業の参入後の実証研究は,未だ十分進んでいない状態である。本稿では,小売企業の国際化に関する実証研究が小売企業の国際化研究を考える上で重要であると考え,小売企業の国際化の実態を分析し,新たな研究の課題を発見しようと試みている。ここでは,まず既存研究を整理し,その問題点を明らかにする。次にイオンの国際展開の実態を分析し,今後の研究へのインプリケーションを得ることを目的としている。

既存研究の整理
 小売企業の戦略に関する既存研究は,参入戦略と参入以降の戦略に分けられる。まず参入戦略については,100%子会社,合弁,フランチャイズなどの参入方式戦略に関わる研究が見られる。一方,参入以降の研究については,「規範的研究の蓄積は見られるものの,実証研究はきわめて少ないという傾向がある」(30ページ)。規範的研究では,例として,ペレグリニによる小売業態面での多角化と地理的多角化の二つの軸をもとにした,小売企業の成長戦略モデル構築が挙げられる。しかし,外部環境の変化に影響されやすい小売業において実際にとられる戦略は,当初に意図された計画的戦略ではなく,外部環境に適応しようと試行錯誤を重ねた戦略であることから,小売企業が参入した地域においてどのような国際化戦略をとったのか,という課題を明らかにすることこそが重要であるとしている。

イオンの国際展開
 ここでは,小売業の参入後の戦略について明らかにするため,イオンの海外における小売戦略を国別に分析し,考察を行っている。
 イオンは1985年から継続的に海外進出を行っており,他の日系小売企業の海外からの撤退が相次ぐ中で,一線を画している。そのイオンの海外進出の特徴として,現地でのニーズ・情報を収集し,それに適応した戦略をとっている。例えば,タイでは,参入当初から大規模なGMSとSMの二種類の業態をとっていたが,マクロなど小売外資の郊外での大型店舗の出店競争が始まり,郊外において競争が激しくなったため,タイではまだ育っていなかったSM業態や,マックス・バリュー(SSM)をバンコク中心部で展開することで,競争を避けて市街地に小規模店舗を展開するという戦略へと転換した。香港では,景気が悪く,デフレ状況であったことから,100円ショップ「ダイソー」を展開する大創産業と提携し,「10ドルプラザ」という新業態を展開するなど,各国の小売環境の変化に応じて,新しい業態を開発するなど動きが見られる。また,現地消費者が経験したことのない商品やサービスを積極的に導入することで,新しいニーズを生み出そうとする動きも見られるなど,当初意図した戦略ではなく,現地市場に参入した後に海外子会社や店舗レベルでの「創発的な行動」(35ページ)がとられており,そのような行動を可能にする子会社戦略が有効に機能している,と分析している。また,外資の日本進出への対策のために,有力外資との競争が激しいアジアへ進出することを薦めるなど,海外出店に対して積極的な態度を見せている。これらのイオンの国際展開から得られる,研究へのインプリケーションとして,まず小売企業の国際戦略を把握するためには,各国での撤退や進出といった動向だけでなく,海外子会社の動向を考慮することが必要であることが挙げられる。そして,小売企業研究の失敗の捉え方に関して,イオンは海外進出で生じる店舗の閉鎖などを失敗と捉えず,試行錯誤を重ね,企業全体がその経験から学習することにより,長期的にはプラスになると考えていることから,これまでの店舗閉鎖や撤退を失敗とする短期的な捉え方ではなく,長期的な見解から戦略を捉えるべきである,としている。

結論は以下の通りである。イオンの国際化戦略を分析すると,海外子会社や各店舗による創発的な行動が,業態面や商品政策面において海外市場への適応を生んでいる,としている。 そして,この研究から抽出できる研究へのインプリケーションとして,まず,海外子会社の動向を追跡しなければ,国際戦略を把握できないこと,次に,失敗に対する捉え方は,長期的な国際化戦略を捉えることが重要であることを挙げている。最後に,当研究が日系小売企業のイオンの国際展開にのみ焦点を当てたことから,今後国際戦略を考察するにあたって,欧米系,現地系の小売企業との競争の視点を取り入れる必要がある,としている。

出典:山本崇雄(2002),「わが国グローバル小売企業の国際戦略の展開-イオンをケースとして-」『世界経済評論』,第46巻10号,29-39ページ。

投稿者 02umeda : 2005年07月06日 23:28

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