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2005年05月07日

小売業におけるIT活用の現状と本質―POSデータ活用の日米比較を中心に―(佐藤 2004)

要約
 この論文では,ウォルマートとセブンイレブンの比較から日米のIT活用の差異について明らかにしている。ここでは,「ウォルマートがITに求めるものは,現場における意思決定の代替えである。ディシジョンをコンピュータに委ね,作業の標準化,マニュアル化を通じてLabor Costの削減を図り,戦略的にLow Priceへ結びつけることである。セブンイレブンの場合は,IT活用に求めるのはディシジョンサポートまでで,意思決定はあくまでも人間が行う形である」(1ページ)としている。また,この2社の比較をもとに,日米のPOSデータの活用方法の違いについて社会環境の違いから検討している。最後に「IT活用にはビジネスモデルとの整合性が最も重要である」(1ページ)とし,IT活用に優れている企業は,「トップが自分のビジネスの要を熟知し,Inside Outの発想でITを活用している」(1ページ)と結論付けている。

ケーススタディーの結果,次のことが述べられている。ウォルマートのPOSデータ活用については,メーカーに対してPOSデータをオープンにする変わりに,自社製品の在庫コントロールと,ディストリビューションセンターまでの配送を委ねるというCRP(Continuous Replenish Program)から,「在庫コントロールだけでなく,ウォルマートの店舗の活性化のため,カテゴリー単位の改善策や販促策を提案することも義務づけた」(6ページ)リテールリンクという手法へと進化したことが述べられている。しかしながら,いずれにせよ「ウォルマートにおけるPOSデータ活用の目的は,あくまでもコストダウンである」(6ページ)としている。一方,セブンイレブンジャパンのPOSデータ活用については,変化に対応できるのは人間の頭脳だけであるという考えの下,発注の意思決定は現場の従業員に委ねている。また,セブンイレブンでは品切れは悪である,という方針に基づき,機会ロスを削減する目的でもPOSデータの活用を行なっている。そして,2社のPOSデータ活用の差異について日米における社会環境の面から検討を行なっている。「米国では,社会階層の下層の人口割合が多く」(8ページ),民族性による価値観の相違もあるため,小売業に求められるのはディスカウトであり、従って,ウォルマートはPOSデータの活用により発注作業の無人化を図り,人件費の削減を目的にしたと述べられている。これに対し,日本の場合は中間層が多く,また「世界で一番要求水準が高くて複雑な消費者が存在する」(8ページ)ため,「セブンイレブンは消費者の変化スピードへの対応と品切れの防止を目的として,人間が意思決定するための有用な資料として,POSデータを利用している」(8ページ),と検証されている。また,日米で従業員に求める役割が異なるということも要因であるとしている。


論点は次の通りである。この論文では,POSデータの活用方法における差異について社会環境の面から検討を行っているが,総合小売業のウォルマートとコンビニエンスストアのセブンイレブンという異業態間での比較には限界があるのではないだろうか。


結論は次の通りである。IT導入時には,その目的と効果を明確にする必要があり,目的が不明確なまま導入すると,現場の混乱を引き起こすということにもなりかねない。IT活用に最も必要なのはビジネスモデルとの整合性であり,IT活用に優れている企業に共通するのは,自らのビジネスの要を熟知し,「トップのリーダーシップにより,Inside Outの方向でITが構築されていることである」(13ページ)と結論付けている。


出典:佐藤 俊彦(2004),「小売業におけるIT活用の現状と本質―POSデータ活用の日米比較を中心に―」『流通科学研究所モノグラフ』No.050。

投稿者 02takenaka : 2005年05月07日 16:21

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コメント

間宮と申します。慶應商・植竹晃久ゼミ出身です。
現在米国に駐在し、米国セブンイレブン・ウオルマート両社に関わっています。現場の人間として上記論文は非常に的を得た内容だと思っています。この分野に関し、更に掘り下げようとされている方がいらっしゃいましたら、別途議論をさせて頂きたいと思っています。

投稿者 間宮 : 2006年03月08日 02:50

間宮様,コメントをいただきありがとうございます。指導教員の馬場でございます。投稿者に論点提出理由を明らかにするエントリーをアップさせますので,ご意見・ご指導を賜れば幸いです。バッサリとお斬りいただけますと,学生・小職とも勉強になりますので,よろしくお願い致します。

投稿者 馬場 : 2006年03月08日 18:35

間宮様,コメントを頂きまして誠にありがとうございます。このエントリーを投稿しました02takenakaと申します。業態間比較には限界があるという論拠の提出理由についてアップいたします。未熟な内容で恐縮ですが,ご意見を頂ければ幸いです。私は上記論文で述べられている日米の社会環境の差異の他に,業態の違いが欠かせない要素であると考えました。コンビニのように定価販売を基本とし,小規模店舗のドミナント出店を行う業態であれば,限られた商品数の中でいかに消費者にとって必要な商品を取り揃えるかということが最も重要であると考えます。一方,ウォルマートのようなDS,SCと呼ばれる業態においては消費者が求めるのは社会性に関わらずディスカウントであり,日本社会においてもこのような業態に対してディスカウントは重要な要素であると考えました。コンビニのPOSデータ活用とDS,SCのそれにはそもそもそれぞれの業態において目的の違いがあり,上記論文においても業態の違いについて言及される必要があるのではないかと考え,このような論拠を提出しました。

投稿者 02takenaka : 2006年03月11日 21:44

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