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2005年07月07日

小売マーケティング成果と買物行動(高橋 2004)

要約
 本稿では,品揃え形成,価格設定,プロモーションなどの小売マーケティング活動の成果と買物行動の関係について店舗レベルでの分析と考察が行われている。消費者行動が小売マーケティング成果に及ぼすフィードバックについての研究が十分に行われていないという問題点を指摘し,買物行動上の成果と店舗の経営成果の関連性や,両者を規定する小売マーケティング要因を解明することを研究課題としている。まず,成果指標を小売マーケティング目標との関係により類型化し,続いて消費者の買物行動と小売マーケティングの関係についての分析フレームワークを示し,ホームセンターの店舗及び買物客から得られた2年分のデータを用いて,①店舗レベルでの小売マーケティング成果指標の次元の抽出とそれらの次元間の関係,②抽出され成果と小売ミックス要素変数ないしは,店舗属性評価変数との関係,③年度の異なる2つのデータの分析による時間的安定性の吟味の3つについて実証分析が行われている。そして結びとして分析結果から仮説を導き出すとともに今後の研究課題を示している。

理論的検討
 まず,小売マーケティング成果を小売業が持つマーケティング目標に対する達成度として捉えることを前提として,何を目標としているかにより小売マーケティングを,最高級の品揃えを目標とした製品志向のマーケティング,顧客ニーズ対応を目標とした消費者志向マーケティング,ストアロイヤルティをベースにした顧客との長期的信頼関係の構築を目指すリレーションシップマーケティングに分類している。そして成果指標としては売上やマーケットシェア,それに利益などのように目標の達成度を業績として捉えたものと,顧客満足やストアロイヤルティのように消費者行動面から捉えたものを考える必要性があることを示している。業績面を成果として捉える指標としては,生産性があげられ,一方消費者行動面を捉える指標としては,買物満足やストアロイヤルティなどがあげられている。
 分析の枠組としては,店舗の業績面から捉えた成果指標と消費者行動面から捉えた成果指標はいかなる関係にあるのかということが,小売店と消費者の関係の中で概念的に捉えられており,それらの成果指標は小売マーケティング行動ないし消費者行動によそれぞれ規定されていると同時に互いに影響しあう関係であるということが述べられており,それが具体的に説明されている。

実証分析
 今回の分析に用いられたデータは2001年2002年にホームセンター企業(最大6社)の全店舗から得られたデータであり,これは①データが店舗と顧客という2つの情報源から同時に得られている,②データが複数の企業から得られている。しかも統計解析に耐えられるだけの店舗数でサンプルが構成されている,といった理由で入手困難なデータであると述べられている。
 まず,店舗および消費者から収集した様々な小売マーケティング指標について,それらの背後に存在する次元を因子分析により抽出し,その次元間の関連性についても明らかにされている。分析方法としては主因子法による因子分析が行われている。その結果,各年度につき業績面から捉えた因子からは1つの因子が,同じく消費者行動面からは2つの因子が抽出されたとされている。消費者行動面から抽出された因子は,態度的ロイヤルティと行動的ロイヤルティであると想定されており,次に業績面から捉えた因子と,消費者行動から捉えた2つの因子の相関が分析されており,その結果として態度的ロイヤルティ→行動的ロイヤルティ→業績面から捉えた成果という因果的連鎖の存在が暗示される結果となったと述べらている。
 次に抽出された小売マーケティング成果因子が小売ミックス要素といかなる関係にあるかが段階的に回帰分析されており2つの年次で共通の結果が出るかということが注目されている。業績面から捉えた成果因子,態度的ロイヤルティ因子,行動的ロイヤルティ因子の3つの従属変数と1,小売ミックス要素を構成する13の独立変数を用いた分析により,3つの因子のうち業績面から捉えた成果因子のみ2つの年度で共通して有意となり,売場面積当りの従業員数が豊富で,広告への依存度が低く,最低価格保障といった機動的な価格対応をしない店の方がマーケティング成果が高く,2年間については安定的であるという結果が得られた。逆に態度的ロイヤルティ因子を小売ミックスで説明することはかなり困難があるという結果も得られた。
 そして最後に,小売マーケティング成果因子を小売ミックスに対する消費者評価によりどこまで説明できるかについて検討されており,従属変数には同じく3つの因子を,独立変数には消費者による店舗属性評価変数が用いられ分析されている。結果としては,小売ミックスと全く逆の結果が得られ,態度的ロイヤルティ因子の説得力が高く,説得力が低かったのが業績面でから捉えた成果因子を従属変数としたものであった。しかし,従属変数別に見ると,2つの年度で有意になったのは,態度的ロイヤルティでは店舗の雰囲気だけであったとしている。一方,行動的ロイヤルティ因子に関しては,2つの年度で,来店所要時間,価格の安さ,雰囲気について有意差が見られたため,行動面からみたホームセンターに対するストアロイヤルティの規定要因は,立地,価格,店舗の3つであるという結果も得られた。

分析結果と課題
 本研究を「入手及び公表が困難なデータを用いて行った極めて探索的なもの」(243ページ)とした上で,実証分析の結果から5つの体系仮説を示すことで,後の研究に一定の示唆を与える学術的貢献をすることを結びとしている。そして今後の課題として今回のデータが,ホームセンターという業種にしぼった分析であり,他の業態での分析の必要性や,時系列に分析するには2年というデータでは不十分という点,加えて買物行動が店舗の業績に結びつくまでの過程について小売業務プロセスから解明する必要がある点の3つを指摘している。

出典:高橋郁夫(2004)「小売マーケティン成果と買物行動」『三田商学研究』第47巻3号,229-245ページ。

投稿者 02kayasi : 2005年07月07日 23:59

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コメント

こんにちは。初めまして。
リレーションシップマーケティングを検索して参りました。

難しいですね。
少しは関係あるかなと思いましたのでトラックバックさせていただきます。もしご迷惑でしたら、削除してください。

投稿者 あがさ : 2006年01月04日 22:11

 
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