« 国際イメージと広告(真鍋 1998) | メイン | 国際広告とイメージ(真鍋 1998) »

2005年05月17日

米国におけるGMS小売業態の衰退化と新たな取り組み―シアーズ(Sears)社での小売技術開発の試みを中心に―(渦原 2001)

要約
 この論文では,「米国小売業の非食品分野で,長年にわたり牽引車的役割を果たしてきたシアーズ社に焦点を当てて,GMSが小売業態のライフサイクルで衰退期を迎え,生き残りを掛けてどのように経営戦略を方向転換し,小売技術の開発や組織の建て直しを試みて」(22ページ)きたかを明らかにしている。
 特に,人的資源に注目し,従業員やマネージャーの意識,態度,行動を変える従業員の意識改革や組織文化改革の分析を試みている。

シアーズの取り組み
 1970年代,全盛期を迎えたシアーズであったが,1980年代に経営不振に陥った。メイン顧客であった中産階級が崩壊したのが原因のひとつである。また,DSやカテゴリーキラーの成長によって顧客が奪われているにもかかわらず,対応が遅れたためにGMSのポジショニングが曖昧になり魅力を失ってしまった。
 そこで,シアーズは経営建て直しを行った。男性客中心から女性客中心の商品品揃えに変更。さらに,衣料品と化粧品においてプライベート・ブランドを導入した。また,金融関係の業務を整理し,小売ビジネスの本業を強化した。以上のような小売ミックスの変更を行った。
 しかし,このような表面的なマーケティング再生戦略だけでなく,官僚的な体質改善を目指し,新しいビジネスモデルの開発への試みも行われた。そこで,「是非働きたくなる場,是非買い物したくなる場,是非投資したくなる場」(34ページ)を目的として掲げた。
 従業員が勤労意欲を感じる職場を作ることで労働の質を向上させる。その結果,接客などに積極的な取り組みが行われ,サービスの質が向上し,顧客満足度を向上させることができる。それにより,買い物したくなる店舗を提供できるようになり,売り上げ増加に繋がる。こうした売り上げの増大は,投資を促す要因となり,是非投資したくなる企業になることができる。
 こうした「従業員・顧客・利益の良循環モデル」(35ページ)の構築と小売ミックスの変更により,売り上げなどにおいて徐々に成果が見られている。

シアーズの取り組みの意義
 かつてのシアーズは市場環境の変化に対して,低価格の自社ブランド品を提供すれば,顧客は満足するとう考えの基に,表面的で小手先な小売技術ミックスの調整で対応してきた。
 しかし,今回は,市場環境の大きな変化と,顧客の満足や価値の多様化に気づき,人的資源管理という組織管理の革新的な部分での小売技術ミックスの変更を行っている。人材活用・人的資源管理面では改革の成果が現れており評価できる。
 経営の方向転換以後,経営成績によれば,売り上げは伸びてきているが,純利益高は下がっている。こうしたところに,人的資源管理を中心としたマネジメント改革の限界が見受けられる。

論点 
 確かに企業内部からの改革によって顧客の満足を得ようとしたことはすばらしい。しかし,シアーズが低迷している理由は,メイン顧客であった中流顧客層が崩壊したことにある。高所得者は高級デパートへ,低所得者はDSへ顧客が流れている。こうした中で,シアーズは曖昧なポジショニングの脱却を図るために,もっと顧客の目の見えるところでの差別化を図る必要があると考える。
 ここでは,人的資源管理の限界が指摘されているが,その根拠が示されていないと思う。

出典:渦原実男「米国におけるGMSの小売業態の衰退化と新たな取り組み―シアーズ(Sears)社での小売技術開発の試みを中心に―」『西南学院大学商学研究論集』第47号,2001年2月,21-47ページ。

投稿者 02daigo : 2005年05月17日 15:48

トラックバック

このエントリーのトラックバックURL:
http://www2.ipcku.kansai-u.ac.jp/~t020026/blog/mt-tb.cgi/47

コメント

コメントしてください




保存しますか?


 
Copyright© 2005-2006 Baba Seminar. All rights reserved.