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2005年04月24日

GMS激突競争における競争マイオピア ―イトーヨーカ堂対イオン―(田村 2003)

要約
 この論文は,業態,店舗規模が同じで,共通の商圏に出店している競合店舗間における店舗属性の類似性生成過程を明らかにしている。ここでは,イトーヨーカ堂古淵店とジャスコ相模原店の事例を用い,類似性生成過程とその問題を実証的に検討している。この過程の基本要素は顧客指向と模倣であり,顧客指向は「顧客の欲求を満足させるように店舗属性を適応させること」(p.2)と定義されている。顧客指向度測定の結果,両店共に顧客指向を追求しているとはいえなかった。類似性は,相互模倣によるものであることが示されている。模倣が容易かつ迅速に行えるために両店ともリスクを犯してまで顧客指向戦略を選択するのではなく,模倣戦略を選択していると述べられている。この競争状況は顧客指向を狙う新規参入者にとっては市場機会である。国際競争においては模倣のような短期指向ではなく価値創造競争という長期指向が重要となると結論づけられている。

  
 理論的検討は次のとおりである。市場競争は,二者以上の売り手と,買い手を含む三者間で行われる。二店舗間の競争は二者間の対抗ではなく,この市場競争の基本構造である三者関係を前提としている。類似性の鍵はこの三者間にある。
 
 類似性の生成過程の概要は次のとおりである。基本要因は顧客指向と模倣の二つであり,その過程は四つある。
・両店による顧客指向の追及
・A店による顧客指向の追及とB店による模倣
・B店による顧客指向の追及とA店による模倣
・両店ともに顧客指向を追及せずに,相互的に模倣
 
 店舗属性を小売ミックスを構成する様々な属性とした場合にはこの過程はさらに複雑なものとなる。その過程は,各属性ごとに上記の四つの過程の組み合わせによって多様に構成される。


 実証分析の構造は次のとおりである。まず,顧客指向が存在するかどうかを知るために顧客満足度の指標を用いる。顧客がどのような店舗属性を重要視しているかを消費者アンケートから得る。属性重要度と両店の店舗スコアを比較しどの程度顧客満足度を達成しているのかを見る。店舗全体の満足度は,食品,衣料品,生活雑貨の売場ごとの属性と店舗全体の属性からなる。その各売場の満足度はさらに各売場ごとの属性からなる。
 各売場の顧客満足度を推定する際には,顧客満足度を従属変数とし,各売場ごとの属性を独立変数とする重回帰式を用いる。店舗全体の満足度の推定に際しては,独立変数に店舗全体属性だけでなく,各売場の満足度を追加した重回帰式を用いる。各独立変数の相対的寄与率が属性の重要度となる。この論文は「このような属性重要度を要素にするベクトルを顧客価値ベクトルとよぶ」(p.6)ことにしている。両店の店舗スコアと顧客価値ベクトルを対比させ,消費者が重要視している属性と店舗スコアが一致していれば顧客指向が追及されているといえる。
 
 分析の結果,両店舗共に顧客指向度は非常に低かったことが示されている。つまり,両店の類似性は顧客価値の創造競争によって生み出されたものではなく,模倣によるものであったといえる。


 模倣過程の詳細を明らかにする分析の構造は次の通りである。

イトーヨーカ堂古淵店をY店,ジャスコ相模原店をJ店とする。
Y店店舗スコア=定数項+a(J店店舗スコア)+b(属性の重要度)
J店店舗スコア=定数項+a(Y店店舗スコア)+b(属性の重要度)

 二段階回帰分析を行ってこのふたつのモデルのパラメータを推定している。
 回帰係数の有意水準を見ると,店舗スコアの回帰係数は1%水準以下で有意であるという結果が得られている。これは,両店が競合相手を互いに意識してその店舗スコアを形成しているということをあらわしている。


 結論は次のとおりである。近接立地する競合店舗間に見られる類似性は,顧客指向追及の結果ではなく,相互模倣によるものであった。これは,模倣が容易かつ迅速に実行できるためであると述べられている。模倣が容易な理由としては顧客指向が企業行動システムとして構築されていないことが挙げられている。顧客欲求を的確にとらえ,それにすばやく対応する組織行動システムの構築が提案されている。さらに,企業の短期的指向も指摘されている。ますますはげしくなる国際競争の中で生き残るためには,GMSにおける模倣のような近視眼的な短期指向ではなく,顧客指向の追及のように価値創造競争という長期指向が必要であると結論付けられている。


出典:田村正紀(2003),「GMS激突競争における競争マイオピア ―イトーヨーカ堂対イオン―」『流通科学研究所モノグラフ』No.15。

投稿者 02eiko : 2005年04月24日 16:38

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コメント

eikoちゃん、レビューおつかれさまです。

モデル図(ex重回帰モデル)があればもっと読む人に伝わると思います。
可能ならば、本文中のモデル図を引用したり、自分で考えてみてはどうでしょうか。

eikoちゃん、他のゼミ生もがんばってください。

投稿者 01SP : 2005年04月24日 22:17

良くまとまっていると思いますが,01SPさんの指摘は尤もです。
モデルやフレームワークは図示するのが一番かもしれません。
公開するからには読み手が居ることを意識してください。
細かい点についてはまた後日。

投稿者 Baba : 2005年04月25日 00:11

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