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2005年07月02日

日本からアメリカへ:店舗発注システムの国際移転(小川 1999)

要約
 この論文はセブン-イレブン・ジャパンからセブン-イレブン・ハワイ(以下SEH)への仮説検証型店舗発注システムについて述べられている。仮設検証型店舗発注システムとは小売企業側に発注の主導権があり,発注権限が店舗の発注担当者にあり,発注商品やその数量の決定にPOSを代表とするデジタル化された商品情報が活用されるという特徴を有するものであるとしている。これまでにセブン-イレブン・ジャパンは世界でも類を見ない店舗発注システムの開発に成功しており,現在このシステムをライセンス元であるセブン-イレブン・インク社に移転しようとしている。ここではアメリカのセブン-イレブン・インク社での取り組みに先立ち実地されているSEHにおける試みと現時点における成果について述べられており,セブン-イレブン・ジャパンが開発してきた店舗発注システムの海外移転可能性について考える上で一定の示唆を与えるとしている。 

 ケース・スタディーの結果,次のことが述べられている。SEHは1989年にセブン-イレブン・ジャパンがセブン-イレブン・インク社の所有するハワイ店舗を買収することにより設立されたものであり,1店あたりの収益,売上高は毎年改善しているが,全体として利益は出ていない状況であるとしている。また,立地パターンに関しては,セブン-イレブン・ジャパンと同様のドミナント出店を行っておらず,多店舗出店のメリットを十分享受するまでには至っていないと述べられている。店舗発注システムに関わるハードウェアとソフトウェアはセブン-イレブン・ジャパンから導入されたものであったが,システムとしては第3次と第4次の間のレベルのものであり,セブン-イレブン・ジャパンのシステムと比較すると低いレベルにあるとしている。SEHの店舗発注についてはジェネラル・マネージャーである稲垣がバイヤーに単品管理の効用を納得させるということから変革が行われたとしている。ここで店員ではなくバイヤーを説得しようと試みたのは,店頭で発注するアイテムの絞り込みやモデル・ゴンドラ台帳の作成を行うのがバイヤーであるという理由によるものであったとしている。当時のバイヤーの論理はメーカーやベンダーと同様店頭に並べるアイテム数を増やせば増やすほど,売上げを伸ばすことができるというものであったとしており,これに対し稲垣はアイテム数を増やして回転のよくない商品を置くことによって店頭の商品の品揃えは変化せず,店員は商品の動きに対し鈍感になり,どの商品が売れるかといった判断力を失うとし,売れない商品を売れる商品に入れ替えることにより商品もより多く売れ,在庫も減らすことができるとして説得を試みたとしている。説得に応じようとしないバイヤーに対し,稲垣は実際に店舗において売上が伸びることを実証することにより,バイヤーを説得することに成功したと述べられている。また,ポテトチップス・メーカー,フリート・レイとの取引について事例として取り上げられており,SEHが従来型のベンダーによる発注からSEHによる発注に移行し,それによりSEHの店舗の売上が増加したと述べられている。ある棚をすべてメーカーに任せることによりその棚のフェース管理ができなくなり,売り場を自社で管理できないことにより顧客が買いやすい陳列をすることができず,さらに,死に筋を排除できないことから結果として変化のある売り場作りができなくなるとしており,また店員にとっても自分達で商品を管理しなければ,在庫を減らす努力をしなくなり,商品のフェース・アップも怠りがちになり,また,売れる商品に対しての関心がなくなり,結果市場の変化に鈍感になるとしている。これを店舗で発注した商品を100%買い取る代わりに発注した商品については必ず各店舗に納入させることにし,このことから,それまでベンダーが発注,納品を行っていたために従来は配送ルート上,最初の方に位置する店舗に売れ筋商品が傾斜的に納品されることが多かったことにより,最後に位置する店舗に売れ筋の商品が納入されないということなどから引き起こされていた店舗への過少納品の問題が解決され,販売に関する機会ロスの減少により,結果として売上の増加にもつながったとしている。それと同時にベンダー・メーカーが持つ幅広い商品を店頭に並べることにより売上を伸ばすことができるという論理から逃れることができ,売れ筋や新商品に発注を絞ることが可能になったとしている。そしてそのことで販売個数は増加し,在庫数を減らすこともできたとしている。

 結論は次の通りである。仮説検証型店舗システムの導入はSEHが実施した数々の改善努力と合わさることにより成果を生み出されたとしており,パートタイマーの質の問題から日本でしか稼動しないと考えられていた仮説検証型発注システムも,いくつかの改善努力とともに導入することによってその効力を発揮する可能性があるとしている。

 論点は次の通りである。SEHでの取り組みについて売上高は改善されているものの,全体の間接費を吸収できるまでには至っておらず,全体として利益が出ていないという状況で評価を下すことは時期尚早と言えるのではないだろうか。

出典:小川進(1999)「日本からアメリカへ」『研究年報XLV』1―18ページ。

投稿者 02takenaka : 2005年07月02日 13:38

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