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2005年06月20日

プライベート・ブランド,競争および公共政策―英国の事例を中心として―(土井 1994)

要約
 この論文では,プライベート・ブランドの拡大を1990年代の消費財市場最大の特徴と捉え,PBの理論的な分析がおこなわれている。その予備的考察として,英国におけるPBの展開の考察がなされている。それに基づき,PB導入の決定要因と導入による効果の検討,さらに法的・政策的フレームワークの考察がなされている。それらの考察の結果,「PBの理論的,政策的含意と課題」(246ページ)が明らかにされている。

PBの発展―英国の事例―
 ここでは,PBの展開がもっとも進んでいる英国の事例が取り上げられている。まず英国におけるPBの比重などについて概観した後,PB拡大の理由について検討がなされている。英国のスーパーマーケットのシェアは日本や米国に比べてかなり高く,スーパーマーケット自身が企画力・販売力を持つためPB導入が容易であったこと,PB戦略が地理的拡大が落ち着いた後の利潤拡大戦略のひとつとなったことや,情報システムの高度化などが,PB拡大の内部環境における要因として挙げられている。また,内部環境以外の要因としては,消費者の志向の変化,既存ブランド・メーカーのPB向け製品の生産開始と拡大,規制の緩和や変更,英国における商標法の緩さなどが挙げられている。さらに,英国のPBの特徴が示されている。PBはLB(リーディング・ブランド)と比べ低価格であり,LBメーカーがPB向け製品を生産するなど品質に差はなく,「近年のPB品は単なる「エコノミー型」ではなく,「高品質・低価格型」となっている」(254ページ)と述べられている。

PBの理論的考察―導入の決定と効果―
 ここでは,PBの導入決定要因とその効果について英国の事例を考慮にいれつつ理論的な考察がなされている。
 導入決定要因の考察には,新規参入と垂直統合の議論,取引費用理論,フリーライディングの理論などが用いられている。PBは,製造部門の創設や既存の製造企業買収など内製や,製造企業との長期的な取引を通じてPB製品を調達し,自身の店舗でそれを販売するものであるので,「流通業者の後方垂直統合による新規参入である」(257ページ)と述べられている。このことから,新規参入と垂直統合の議論から分析が行われている。分析の結果,「ブランド品仕入れとPB導入とのソーシング・ミックスによる利潤」(258ページ)がブランド品仕入れのみの利潤より大きいという関係がおこるときにPBは導入されると述べられている。具体的には,メーカーとの取引における費用が増大し,それに代わる垂直統合による仕入れを模索するとき,つまり取引費用の引き下げを目指すときや,競合品の販売を行うことでメーカーへの依存度を引き下げ,交渉力の強化を目指すとき,また小売業者間でLB製品の仕入れ価格に相違がなく競争優位がないとき,などが挙げられている。さらに,ただ乗り回避のために「当該企業のみが販売するPB品を導入することによって品質管理ないし評判の効果」(260ページ)を内部にとどめることができることも示されている。
 また,流通業者が「垂直的にはLB企業のエージェントであると同時に,水平的には競争者である」(258ページ)ために,PBは固有の競争効果をもたらすとしてその効果も検討されている。その結果,PB導入による低価格競争とLB製品のブランド力低下が,知名度が低くブランド力をもたないような第三ブランドを扱う下位メーカーの活動機会を与える場合もあり,売り手数の増加によって競争が激化する可能性が示されている。しかし,一方でPBの拡大による販売経路の制限や,PBの価格戦略に対抗するために新規参入者は価格を切り下げなければならないなど,PBが参入阻止と集中上昇をもたらす可能性も示されている。これらの効果についてはより精緻な分析が必要とされると述べられている。

法的・政策的フレームワーク
 最後に,PBに関係するわが国の法的・政策的なフレームワークの概観がなされている。PBを直接扱う法律は存在しないために,競争法の下で検討される。競争制限が予想されるケースとして,不当廉売やおとり廉売,PB仕入れの際の不当な値引き要求,小売業とメーカーの垂直合併,PB品を優位に販売するための小売業者間の競争制限,PB小売業者とブランド品メーカーの販売段階での共謀などが挙げられている。「これらの問題をめぐる法律・政策がPBの政策的フレームワークとなる」(269ページ)と述べられている。これらの問題に関する議論を深めるためには,小売段階や消費財の産業組織における競争に関する理論的・実証的分析が必要であると述べられている。

結論
 これらの分析の結果,PBは消費財の産業組織を競争的なものへと誘引するなど,産業組織に一定の影響をおよぼすことが明らかにされている。PB化は,流通構造の変革や市場開放といったわが国における重要課題の解決と関連しているとして,PB化がわが国の流通構造や取引慣行に与える影響,およびPB製品調達による市場開放などの問題についての分析が今後の課題とされている。

論点
 法的・政策的フレームワークの検討の必要性があまり感じられない。

出典:土井教之(1994),「プライベート・ブランド,競争および公共政策―英国の事例を中心として―」『経済学論究』48巻第3号,245-274ページ。

投稿者 02eiko : 2005年06月20日 17:56

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