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2005年06月01日

ネスレの戦略とマーケティング~欧州多国籍企業の本質~(梶浦 2000)

要約
 この論文は,欧州多国籍企業の国際マーケティングの成功要因について述べている。ここでは,欧州の環境と経営者の志向性の相互関係によって解釈を試み,成功要因を欧州という地域を意識した経営戦略である,としている。欧州多国籍企業の事例として,ネスレの競争優位の源泉を考察している。

Ⅰ.欧州の社会環境と欧州多国籍企業の経営戦略との相互関係
 欧州多国籍企業は,欧州の単一市場において,まず環境的に近縁であるEU市場に標的を合わせた経営戦略をとることで,環境リスクの小さい市場から開発を進めることができる。それによって,多国籍企業としての土台を構築することができる。ここではそのような欧州の社会環境と企業の経営戦略の関係を,独自の特質としている。また,欧州環境における欧州多国籍企業の特徴を表すものとして,吸収合併の多さが挙げられる。EU成立以後,欧州企業の買収が増加していることから,域内単一市場における競争優位を構築するために吸収合併が活発化したのである。このように「経営者の経営視野がEUという地域を標的としている」(77ページ)ことから,欧州多国籍企業の経営は地域志向性を重視していることがいえる。

Ⅱ.ネスレの事例
 欧州多国籍企業の成功事例として,ネスレの四つの競争優位の源泉について述べられている。
①「欧州中心に分散化した多国籍企業化が確立している」(78ページ)
 ネスレは研究開発センターと工場を欧州中心に配置し,また欧州の伝統・文化といった要素を重視した経営を行っていることから,「ネスレが欧州中心に多国籍企業化が分散して進捗している」(79ページ)としている。
②「創業まもなくビッグビジネスとなり,多国籍化も進んでいた」(80ページ)
 ネスレは創業直後に,製品開発において欧州市場で成功したため,比較的早い段階で,多国籍企業化することができた。このことにより早い段階において,欧州において競争優位を確立できたのである。
③「ブランド確保のために合併買収,提携が貫徹されている」(81ページ)
 これはネスレが創業後から継続的に成長できた要因を説明するものである。「ネスレは,創業以来一貫する合併買収,提携という戦略によって欧州ブランドを獲得し,競争優位を保持してきた」(82ページ)とあり,ネスレの競争優位の特質は,欧州ブランドの買収であるとしている。
④「ブランドの維持と管理に成功している」(82ページ)
 多国籍企業においてブランド戦略は,いかに標準化と適応化を行うか,という点が重要である。そこでネスレはブランドを重要度によって階層化することで問題解決をしている。つまり重要度の低いブランドは海外子会社に管理させ,重要度の高いブランドは本社によって展開するのである。さらに重要度の高い欧州ブランドについては,本社の意思決定によって厳格に管理することによって重要に取り扱われている。このように「ネスレのブランド戦略は,欧州ブランドを機軸に展開されているのである」(83ページ)

 結論は以下のとおりである。ここでは欧州多国籍企業の経営戦略の成功を,ネスレの事例を通じて述べてきた。ネスレは経営の思考や行動を欧州の地域性によって規定し,欧州中心に分散化した多国籍企業化を成功することができた。このように欧州多国籍企業は,欧州を意識した経営スタイルをとること,「ローカルを考え,グローバルに行動する」(83ページ)ことによって多国籍企業としての競争優位を得ることができた,としている。

出典:梶浦雅己(2000)「ネスレの戦略とマーケティング~欧州多国籍企業の本質~」『Business Research』,74-83ページ。

投稿者 02umeda : 2005年06月01日 23:58

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