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2005年05月30日

業態識別要件としてのイノベーション(坂田 2004)

要約
 この論文では,新業態が生まれる際に生じたイノベーションが,小売業態の識別要件となりうるかという問題について検討されている。まず,小売業態とイノベーションの関係を扱った既存研究のサーベイが行われている。イノベーションにより新業態が他業態と識別されるという仮説が既存の小売業態論のサーベイから導き出されている。次に,その仮説の検証が行われている仮説の検証にあたり,百貨店,スーパー,コンビニといった日本における代表的な小売業態の変容の歴史の概観がなされている。

既存研究のサーベイ
 既存の小売業態論のサーベイから得られた示唆は次の通りである。小売業態の進化においては,新しい小売業態が「何らかのイノベーションを伴っていなければならない」(53ページ)ということがまず示されている。さらに,新しい業態が何らかのイノベーションを伴って生まれる時,そのイノベーションが,消費者の目に直接触れる部分である小売業務,いわゆる小売ミックスに反映されることで,そのイノベーションは他業態との識別要件となりうるとされている。
 これらを踏まえ,イノベーションにより新業態が他業態と識別されるという小売業態論の仮説の検証を行うことにしている。それにあたり,小売業務レベルでのイノベーションに焦点をあてながら,百貨店,スーパー,CVSといった日本における代表的な小売業態の変遷の歴史を概観している。

小売業態の変容
 百貨店の誕生においては,現金正札販売,陳列販売,取り扱い品目の拡大,店内への土足入場の4つのイノベーションが,既存の業態との識別要件となっていたと述べられており,小売業態論の仮説は支持されている。
 スーパーにおいては,セルフサービスによる販売とそれに伴う設備やシステムによる,比較的安価な商品提供が,イノベーションとして挙げられ,この点において仮説は支持されるとされている。しかしここでは,新業態の特徴は革新性で説明できるが「既存小売業態にもその説明が当て嵌まるのか」(58ページ)ということが問題とされている。百貨店におけるイノベーションも備えた上で,さらにセルフサービスによる販売というイノベーションを伴ったスーパーの生成によって,百貨店の革新性は失われたといえるが,それでも百貨店とスーパーが異なる業態と認識されるているのはなぜか。これを説明するものとして業態間の模倣と差別化が示されている。
 スーパーによるセルフサービス導入が,百貨店の対面販売重視による差別化を促し,その結果,対面販売がスーパーと百貨店の識別要件となったと述べられている。これにより,「既存業態との差別化によって新業態が生み出され,その新業態との差別化を図るために既存業態が変容していくという構図」(59ページ)が示されている。
 さらにまた,百貨店の食料品売場におけるセルフサービスの導入や,スーパーの深夜営業など,業態の境界線が曖昧になっていることが示されている。これは,小売業務の模倣によって生じるとされている。それでもそれぞれ別個の小売業態として認識されているという状況が示され,この状況を既存の小売業態論は説明しきれないという指摘がなされている。このことから,「業態の境界あるいは定義は定数としてではなく,競争に応じて変化していく変数としてとらえるべき」(61ページ)と述べられている。

結論
 これらの検討を踏まえた結論は次のとおりである。「小売業者は絶えず模倣と差別化を行っていくため,業態をイノベーションによって識別しえない」(61ページ)。しかし,小売業務以外の部分で生じたイノベーションが小売業務に反映されていること,その小売業務が模倣困難であること,この二つの条件のいずれかが満たされればイノベーションは識別要件となりうるとされている。最後に既存の小売業態論についていくつか指摘が与えられている。第一に,これまでの研究では差別化の視点はあったが模倣という視点が欠落していたこと,第二に業態を識別する認識主体別の分析がなされていないこと,第三に「近年の小売業態論は小売業者が競争優位を築くための業態を分析するのだということを暗黙のうちに想定してきた」(62ページ)ことによる理論の限界が指摘されている。

論点
 論点は次のとおりである。結論で「近年の小売業態論は小売業者が競争優位を築くための業態を分析するのだということを暗黙のうちに想定してきた」(62ページ)ことによる理論の限界を指摘しているが,この指摘は小売業態研究の目的そのものを問うているものと理解される。ではなぜ,この論文において小売業態を識別しようとしているのか,その目的が不明であると思われる。

出典:坂田隆文(2004)「業態識別要件としてのイノベーション」『中京商学論叢』第51巻第1号,51-64ページ。

投稿者 02eiko : 2005年05月30日 19:39

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