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2005年07月23日

小売業の主要業態の論理的構造―百貨店とスーパーの基本構造(出家 2004)

要約
 この論文は小売業の主要業態である「百貨店」と「スーパー」の基本構造について考察を行っている。大規模小売業は必ず何らかの業態を採用していることから,大規模小売業を「業態論」として把握する必要があるとし,大規模小売業が業態を通じてのみ大規模化が可能であると考えるならば,いかなる過程を経て業態を採用し,大規模化を行ったかという過程の解明は大規模小売業の具体的形成過程の解明につながるとしている。ここでは石原武政・中野安の研究成果について取り上げた後,「買回品」「最寄品」をキーワードとして百貨店とスーパーの業態説明を行うことで二業態の論理的識別が明確にされている。そして日本においてはこの二大業態が小売業を牽引してきたことから,この主要業態の識別を明確にすることが大規模小売業の具体的形態について把握するという点で重要な意味を持つとしている。

1.百貨店の基本構造
 百貨店は取扱品目のフルライン化がみられ,その点ではスーパーと共通性を持つが,売上高に占める割合から主力商品は衣料品であることが理解できるとしており,「買回品」が取扱商品の主力であると述べられている。この「買回品」は購入頻度が少ないことから百貨店は多くの購買人口を必要とするとしており,そのため広域な商圏をはじめから必要とするとしている。また,買回品は最寄品と比べて商品回転率が良くなく,売上を上げるためには商品単価を上げる必要がある。重要なことは消費者がこの高価格な商品を気にしないで購入するように仕向ける必要があり,その手段が高級品であるという点であるとしている。このようにして百貨店の「買回品」は高級品へとシフトし,「高級化・高品質・高価格・高サービス(対面販売)」(105ページ)が条件になるとしている。そして百貨店の利潤は質の追求によって実現されるのであり,その商品の質を浮き立たせることを目的に建物・売場・陳列を豪華・華麗にするとしている。以上のように百貨店は必然的に高コスト型経営を行うこととなる。そして更に買回品は最寄品と比較して購買頻度が低く販売効率が悪いとしており,そのことから少量仕入れ・少量販売を余儀なくされ,多品種少量・個別対応仕入れを行うと述べられている。このように百貨店は一つの建物に業種にみられた売買の集中を内部化し,縦の拡大を図りながら発展したとしている。

2.スーパーの基本構造
 (総合)スーパーは売上高において占める割合が高いのが食料品日常衣料を中心とする最寄品であり,これがスーパーの主力商品であると述べられている。最寄品は購買頻度が高いため価格を低く設定するのが特徴であるとし,そして購買頻度が高いことから小商圏でよいと言うことができ,立地条件に制約がないということが述べられている。また,最寄品は購買頻度が高いことから低価格設定を行わざるを得ず,「低価格訴求型戦略」による薄利多売が志向されることとなるとしている。そして低価格設定を行うためには低価格仕入れが必要になるため,チェーンシステムを採用しているとしており,本部による大量一括仕入れにより低価格仕入れを実現したとしている。そして「大量仕入れ―大量販売」(108ページ)という規模の経済が本部と支店の円滑的なシステムによりできあがるとしている。このようにスーパーは百貨店と異なり出店展開=横への拡大により成長したとしている。「買回品」とは異なり「最寄品」は購買頻度が高く,マスマーケットを初めから持ち,消費者の大量購買を実現することが容易であったとしており,販売の標準化・画一化を志向したイノベーションシステムがスーパーの中核システムであるとしている。さらに最寄品は低価格設定を前提にせざるを得ず,低利潤を余儀なくされるため薄利多売により利潤の拡大を図るが,経営管理コストが増大すると利潤が消えてしまうため経営管理コストの節減が重要課題になったとしている。そこからセルフサービスが考え出されたとしている。以上のようにスーパーは流通レベルの「標準化・画一化」(109ページ)による規模の経済を考慮した各種のイノベーションにより支えられたとしている。

 結論は次の通りである。買回品・最寄品をキーワードとすることにより百貨店とスーパーという小売業の主要業態の基本的論理的な識別が明確になったとしており,小売業の大規模化はこのような業態を通して実現したことが重要であり,そういった意味で業種から業態への過程を把握するということは大規模小売業形成の具体化において重要であるとしている。そして零細小売業にとっては同一の取扱品目を扱う点で百貨店よりもスーパーの方がより脅威となり得るとしている。

 論点は次の通りである。筆者も述べているところであるが,今後はコンビニエンス・ストアも含めた考察が必要であると考える。


出典:出家健治(2004)「小売業の主要業態の論理構造―百貨店とスーパーの基本構造」『関西大学商学論集第49巻第3・4号合併号』89―110ページ。

投稿者 02takenaka : 2005年07月23日 23:58

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コメント

非常に参考になる論文である。

スーパーと百貨店が共存可能であるのは両者の利益追潤が別dimensionであると言う理論が示している。

惜しむらくは、「百貨店の基本構造」の「売買の集中を内部化」という意味が、経営の基礎を知らない私にとって難解な語句であり、分かりやすい言葉に置き換えた方がよい事である。

コンビニを含めた考察も楽しみにしています

投稿者 旅人 : 2005年10月04日 19:06

 
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