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2005年04月28日

グローバル小売企業の韓国進出と各国小売産業の変貌-割引店という小売業態の分世紀を中心に-(崔 2002)

要約
 この論文は,韓国独自の小売業態である割引店(ハリン店)の成功要因を明らかにすることを目的としている。ハリン店とは,従来のディスカウントストアの低価格志向業態だけでなく,韓国消費者にフィットした業態も兼ね備えた小売業態である。この小売業態により,ハリン店が現地適応化戦略に遅れをとったグローバル小売企業に対して優位に立つことを可能にした。ここでは,ハリン店のこれまでの発展を歴史的展開に即して述べられており,またハリン店独自の小売フォーマットの特徴を取り上げ,それがハリン店の競争優位に影響していることを実証的に検討している。最後に,グローバル小売企業と善戦を続けているハリン店の戦略を考察することで,日本小売企業はグローバル競争における,新たな戦略のインプリケーションを得られると結論づけられている。

歴史的考察
 まず,ハリン店のグローバル企業との競争優位に至るまでの発展が,韓国小売流通システムの歴史的展開から述べられている。1996年の流通市場開放までは,百貨店中心の小売業界の構図であったが,流通市場開放により,売場面積の制限と店舗数に対する制限が全面撤廃されたため,グローバル小売企業の韓国進出が始まり,それに対応するかたちで,ハリン店という,低価格志向業態と韓国消費者の志向に適応した小売業態とを併せ持った独自の小売業態が誕生した。そのような環境に対応し,韓国政府も流通小売のグローバル時代に即した競争力を企業が持てるようにと,「卸・小売業振興法」と「流通産業合理化促進法」を統廃合し,1997年に「流通産業発展法」を制定したことにより,ハリン店を始め,韓国小売企業の競争力が高まった。IMF経済危機の中でも,ハリン店は積極的な参入・出店をしたことによって成長を続けることができた。近年においては,相次ぐグローバル小売企業の進出に対抗すべく,ハリン店の小売フォーマットの強化がなされている。このような歴史的背景から,ハリン店は現在のような競争力を持つに至った。


実証分析
ハリン店独自の小売業態が,グローバル企業との競争において,優位に働いているかを明らかにするために,売上高,食品比重,価格水準,PB商品比重という指標を用いている。
第1に,1店舗あたりの売上高の高さについて。ハリン店1店舗当たりの売上高はグローバル小売企業の売上高と比較すると圧倒的に高く,ハリン店の経営効率の良さが見られる。第2に,全体商品売上における食品比重の高さについて。全体商品の売上高で食品の比重は,6割に至り,韓国消費者に合った小売フォーマットであることを示している。第3に,価格水準について。低価格業態のハリン店だが,低価格志向から高級化へと韓国消費者の志向が変化している,家電製品の販売価格指数を他の小売企業と比較すると,その差は開いていない。そこからハリン店は,単なる低価格フォーマットではなく,韓国消費者にフィットした小売業態であることから,消費者支持の獲得につながっている。最後に,PB商品比重の増加について。低価格,低コストのPB商品の増加は,ハリン店にとって,低利益率問題の克服につながる。
このように,ハリン店は先進国の低価格志向フォーマットを導入しながらも,韓国人の消費行動の志向に適合した,小売フォーマットを取ることで消費者に支持され,グローバル競争における優位性を獲得してきた経緯が明らかにされている。


結論
 韓国ハリン店がグローバル小売企業に対して優位に立てた要因として,韓国政府の支援など制度要因が挙げられる。また先進国の低価格志向業態を導入しながらも,韓国人の消費の志向に適合した,独自の小売フォーマットの開発も大きな要因の一つである。反対にグローバル小売企業は,グローバル・モードに執着したため,韓国の現地対応戦略に遅れをとったことが,優位に立てなかった要因である。日本小売企業はこのような韓国小売市場でのグローバル競争の考察から,グローバル小売企業との相乗的競争戦略,そしてそれがもたらした韓国小売産業全体への波及効果など,グローバル小売企業の日本市場進出への対応のインプリケーションを得られると結論づけられている。

 
出典:崔相鐵(2002),「グローバル小売企業の韓国進出と韓国小売産業の変貌-割引店という小売業態の分析を中心に-」『流通科学研究所モノグラフ』No.7。

投稿者 02umeda : 2005年04月28日 16:05

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