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2005年06月29日

プライベート・ブランドの発展と動因(堂野崎 2003)

要約
 近年,小売企業が市場において生き残っていくための手段として,PB開発が重要であるとされている。しかし,わが国のPB開発は欧州諸国と比べて大きく遅れており,市場に占めるPB比率が低いのが現状である。そこで,この論文では,PB比率が高まる要因とは何かという疑問において,多くの研究者によって指摘されてきた小売市場の上位集中化がPB比率の向上に寄与するという議論と,PB製品の品質と価格訴求力の向上がPB比率の向上に寄与するという議論を取り上げ,それらの議論に妥当性を見出すことを目的としている。

理論的仮説
 欧州の諸国の市場におけるPB製品の売上高に占める市場占有率は,国によっては例外も存在するものの,平均15.3%であり,日本の1.4%と比較すると相対的に高水準にある。中でも,イギリスは小売市場におけるPB比率がとくに高い水準にあり,29.7%を占めている。またフランス,ドイツらの先進国も平均を上回る市場占有率を示している。このような現状から,どのような要因がその国におけるPB比率を左右するのか,という疑問が生じ,それに対して過去に様々な分析がなされてきた。その分析の中でもこの論文は,小売市場の集中度の高まると,小売市場でのバイイングパワーが高まるため,生産段階・流通段階への介入と統制が可能となり,PB商品の開発・販売が促進され,PB比率が高まるという議論と,PB製品の品質と価格訴求力の向上がPB比率を高めていくという議論が,非常に説得力があると思慮し,その二つの議論の妥当性を検討している。

実証分析
 Ⅰ.小売市場の上位集中化とPB比率との相関関係
 まず,小売市場の集中化が進んでいる欧州先進諸国,とりわけイギリス,ドイツ,フランスにおける小売市場と,小売市場の集中化が進んでいない日本の小売市場の現状を概観し,各国の上位5社の市場占有率を示し,「上位集中化とPB比率との相関関係を検討」(165ページ)する。欧州の3国の小売集中化に共通して述べられることは,M&Aによる大規模小売組織への集中化である。イギリス,ドイツ,フランスでは企業間のM&Aが活発に行われており,大手5社の市場占有率を見ると,57.6%,61.3%,61.5%といずれも高い数値であった。その他にも,イギリス小売企業は,ポイント・カード戦略など顧客の信頼度を高めてきたことで小売組織の大規模化を進め,ドイツやフランスの小売企業は,事業の多角化が小売組織の大規模化に結びついた,としている。これに対して,日本の小売市場は,上位流通業の革新性が乏しいことなどの理由から,小売市場の集中化が進んでいないとしている。これらの小売市場の上位集中化の状況と前述したPB製品の売上高に占める市場占有率を照らし合わせ,「小売市場の集中化が進んだ国ではPB比率が高い」(169ページ)ことから,両者に相関性が見られるとしている。

 Ⅱ.PB製品の品質,価格訴求力の向上とPB比率との相関関係
 欧州では一般的なPBは高価格・高品質のプレミアムPBへと発展する一方で,ある一定の品質と価格での優位性を追及したエクスクルーシブ・ブランドの存在もあり,2種類のPBが小売市場において分極化が進んでいるとしている。ここではドイツの1980年代の食品小売市場の変化からその現状を説明しており,高価格帯の製品と低価格帯の製品の割合が増加する一方で,中価格帯の製品の割合は減少し,価値訴求型のPBと価格訴求型のPBの存在が明確になったとしている。そして,価値訴求型のPBはNBと遜色ない品質の高まりから,PB製品の購買へとつながり,また価格訴求型PBはNBより低価格であるという魅力から消費者の購買を促すとし,PBの品質と価格訴求力の双方の向上がPBの比率を高める,と述べている。

 結論は以下の通りである。PB比率を高める要因として,過去の研究から小売市場の上位集中化と,PB製品の品質と価格訴求力の向上がPB比率を高めるとし,それらは実証の結果,妥当性があるとしている。しかし,これら2つの要因からPB比率が高まると結論付けるには短絡的であるとし,他の要因についても検討を試みることを今後の課題としている。

 論点は以下の通りである。小売市場の集中度の程度とPB製品の売上高に占める市場占有率を照らし合わせることだけで,小売集中度が進んだ国ではPB比率が高い,とは言えず,小売企業に継続的に新しいPBを開発する能力があるか,また市場にPB進出の余地があるか、などを考慮する必要があると思う。

出典:堂野崎衛(2003),「プライベート・ブランドの発展と動因」『中央大学大学院論究経済学・商学篇』第35巻1号,157―173ページ。

投稿者 02umeda : 2005年06月29日 23:06

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