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2005年06月11日

イトーヨーカ堂の中国現地化プロセス(矢作 2005)

要約
 この論文はイトーヨーカ堂の中国における現地化プロセスについて述べられている。イトーヨーカ堂は海外市場進出に消極的な姿勢をとってきたが、1997年に春熙店を開業して以来,中国において合計で5店舗のそれぞれに条件の異なる店舗を開業し,1年以上経過した店舗すべてにおいて黒字経営にしたとしている。これまでの中国での出店はゆるやかな始動時期にあるということができ,その実態について述べられている。ここでは,イトーヨーカ堂が自国市場において蓄積した経営資源を中国市場に移転し,現地市場において蓄積するために,比較的長い時間を要することとなった要因を見つけ出し,その分析を通じて小売業国際化の現地化プロセスについて検討を行うことを目的としている。そして最後に出店戦略の弾力化,人的資源の蓄積,調達・供給体制の整備,経営理念を貫くことによりゆるやかな始動が今後迅速な成長へと転換する可能性を示唆している。

 ケーススタディーの結果,次のことが述べられている。まず,開店当初の戸惑いとして,現地市場に即座に適応できないこと,すなわち「標準化のなかの部分適応」(76ページ)の実現が困難であるということについて述べられている。イトーヨーカ堂の中国プロジェクト・チームは実際に生活体験をすることにより,程度の差こそあれ避けることのできない地域市場への適応を適格に実行するための努力を行っているとしている。しかしながら初めての海外進出における「部分適応」への取り組みは予想を上回り困難であったとしている。また,現地市場に適応することのできない要因は市場理解の不足という要因のみでなく,把握した需要に応じた商品調達を行い,売場に適切に並べることができなければ,顧客の支持を得ることはできないとしている。中国において知名度のないイトーヨーカ堂に対し,中国系企業は無関心であり,商品調達面において不安を残すこととなった。その現地仕入れ体制の弱点を補うため,自社開発商品への依存度を高めたが,日本で開発された商品に関しては好みの違いと高価格という理由からあまり売れなかったとしている。また,従業員教育も問題点としてあげられ,接客サービス概念がなかった中国人従業員に対して日本と同様のプログラムによる教育を行ったと述べられている。次に競争の加速について述べられている。ここでは,成都における小売競争の実態について述べられており,同業態間,異業態間競争が立地変動を伴いながら進んだことが述べられており,競争に耐えることのできない国内百貨店や大型商業施設は閉鎖に追い込まれることになったとしている。次に頻繁な売場変更について述べられており,まず98年に自社買い取り商品と日系メーカーの商品を引き下げる一方で「店中店」の売場比率が引き上げられたことが述べられており,また,99年には家電,家具等の大型専門店の成長に伴い住居用品関連売場の見直しも行われ,結局のところ家電製品売場の大幅な削減を行い,衣料品関連売場を拡充するという決定を下したことが述べられている。02年の売場変更時には,子供服,肌着,玩具等と食品売場の拡充を行ったとしている。これらの売場改革によって売上高に占める食料品の比率が飛躍的に増大し,全体の業績をも押し上げているとしている。「店中店」は年2回の売場変更時に入れ替えが絶えず行われており,その比率は更に高められたが,「店中店」はその販売,在庫管理,販売価格においてメーカーが請負うため,単にその比率を高めるだけでは問題が発生するとしており,店舗全体のイメージや販売促進を考慮した上で選択を行うことと,その能力を引き出し,管理する対策が課題であるとしている。最後に店舗運営ノウハウの移転について述べられている。事例として十里堡店をとりあげており,「店舗運営については日本で確立した基本理念や原則を,移転する方針を貫いている」(79ページ)としている。POSデータの活用については,POSデータを基に1日3回のミーティングを行うことにより,弾力的な商品発注が可能となることや,また,売場を組長単位まで小さく分けて管理を行い単品管理をしているところに特徴があるとしている。また,原則を貫きながらも現地市場に合わせ柔軟に対応した例として,北京におけるチラシ宅配システムがとりあげられており,費用の関係で適当な新聞媒体が見つからなかったことによりチラシの宅配を行うシステムを作り出したことが述べられている。そして,労働力が豊富であり,人件費が安い現地の事情に合わせ,チラシによる宣伝広告という手段を移転し,活用した効果は大きいと言えると述べられている。

 結論は次の通りである。イトーヨーカ堂は中国においても価値や品質を重視する経営を貫き,単品管理を軸とした店舗運営ノウハウの移転をしっかりと行ったとしており,筆者は今後の中国における日本型総合スーパーの成長可能性はどの程度迅速・適格に市場条件に対応できるか否かにかかっているとしている。

出典:矢作敏行(2005)「イトーヨーカ堂の中国現地化プロセス」『経営志林』第41巻4号,71―88ページ。

投稿者 02takenaka : 2005年06月11日 21:10

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