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2005年07月20日

専門店の分化 (田村 2002)

要約
 業界やマスコミで専門店と呼ばれてきたのは,百貨店・スーパー・生協・コンビニという業態に属さない店舗あるいは企業とされている。最近10年間において流通業界全体が停滞している中,専門店は売上高を伸ばしてきている。しかし,企業と消費者の間で専門店の認識に違いが見られる。このことは、専門店と呼ばれるセクターにおいて,大きな分化が起きていることを示している。このような分化がどのような形で起こり,それに対して業態やフォーマットに関連するどんな用語がうまれるのか,専門店という言葉はどのように揺れ動いているのかについて分析がなされている。

専門店の意味
 まずここでは,従来よく利用されてきた業態やフォーマットの関連用語(量販店・チェーン店・専門店・総合店・セルフサービス・スーパー・大型店・老舗・高級店・デパート)との関連で消費者が専門店という言葉をどのように認識してきたかを確認している。
 首都圏に展開する主要流通企業40社を表すためにどのような業態・フォーマット用語を,消費者が使用されているかを調査している。これら40の企業について,先ほどの10種の業態用語が該当するかどうかをイエスかノーで答えてもらっている。
 その結果,専門店に比べると,デパートやスーパーという用語は特定の1カテゴリーにのみ使用されていることが明らかにされている。高島屋や三越などの百貨店は9割を超える消費者がデパートと認識し,ジャスコやイトーヨーカ堂も8割を超える消費者がスーパーとして認識していることが明らかになった。
 それに比べて,専門店という言葉はこのような性格を持っていない。調査から,特定企業を専門店と認識する比率が低いことが明らかにされている。このことは,専門店という世界が大きい変化の過程のなかにあるということが示されている。
 この調査から,専門店という店舗は業態・フォーマットの複数のカテゴリーに帰属していることを示し,単一の業態・フォーマットで識別できないことを明らかにしている。消費者の店舗識別において複数のカテゴリー間で意味の重複関係があることが示されている。
 業態・フォーマット概念は店舗を分類するための概念とされている。しかし,ここでのように業態・フォーマットが意味の重複性を含んでいるので,10種の業態を意味の類似性から,いくつかのクラスターに分類する。共通のクラスターに分類された業態は,共通の属性を持っており,消費者にとって共通の意味を含む程度が高いということが明らかにされている。
 そして,10種の業態が3つのクラスターに分類されている。1つめが,量販型専門店チェーン(量販店・チェーン店・専門店),2つめがGMS(総合店・セルフサービス・スーパー・大型店),最後が都心店(老舗・高級店・デパート)である。その中で,量販型専門店チェーン内部の異質性が際立っている。つまり,フォーマットとしての文化が大きい事を示している。その異質性,分化の大きさをより深く理解するために,ここでは,業態・フォーマット概念を超えて,店舗の属性が検討されている。

店舗属性の検討
 「店舗属性は,品揃え,価格,接客様式,サービス,店舗施設,立地など,顧客訴求力に関連する店舗の特徴」(8ページ)とされている。ここでは,40社の店舗属性について14種の特徴を用意し消費者からのデータを収集している。さらに,因子分析によって14種の店舗属性が4つの次元(郊外型立地・明確なコンセプト・広く深い品揃え・高度接客対応)に要約されている。
 因子分析の結果を用いて,専門店企業がどのようなクラスターに分類できるのかが調べられている。クラスター1は,高級ブランドショップである。その特徴は,明確な店舗コンセプト,高度接客対応に卓越していることである。クラスター2は,大衆ブランドショップである。クラスター1よりもグレードがひとつ低い。明確な店舗コンセプトを狙っているがあまり強くない。クラスター3はライフスタイルショップである。明確な店舗コンセプトを広く深い品揃えとを結合しているところである。クラスター4は郊外型廉売店である。郊外に立地し,廉売を特徴としている。クラスター5は,郊外型立地による廉売を目指すが,クラスター4に比べると,競争力が弱い。クラスター6は,都心型専門店ビルである。大都市のターミナルや駅周辺に立地する専門店ビル・デベロッパーから構成されている。しかし,店舗属性において卓越した特徴は持っていない。クラスター7は,都心型大型専門店である。少数の商品カテゴリーについて,深い品揃えを廉売で提供する特徴を持っている。
 以上の分析から,店舗の基本属性で明確な認識をもたれている専門店のフォーマットは,ブランドショップ(クラスター1,2),ライフスタイルショップ(クラスター3),郊外型廉売店(クラスター4,5),都市型大型専門店(クラスター6,7)の4種であることが明らかにされている。これらを専門店フォーマットとここではよんでいる。
 
店舗属性と店舗成果
 各専門店フォーマットを代表する企業は,過去10年間で百貨店やスーパーを越える売り上げ成長率を達成してきている。卓越企業の特質は,その専門店フォーマットの主要基盤属性について卓越していることが特徴である。
 さらに,4種の基本属性の保有・非保有の組み合わせからできる16セルを基に競争関係についても分析がなされている。同じフォーマットに属する企業でも副次的属性によって別々のセルに位置していることが明らかにされた。隣接したセルは競争関係におかれる。卓越した売り上げ成長もこのセルのどこに位置するかによって変化してくる。卓越企業は無競争のセルに属していることが明らかにされている。

出典:田村 正紀(2005),「専門店の分化」『流通科学研究所モノグラフ』No.075。

投稿者 02daigo : 2005年07月20日 08:38

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