2005年07月30日

広告コミュニケーション機能の統合化モデル-広告はどのようにコミュニケーション機能を発揮しているのか(亀井 2000)

 本稿は,広告コミュニケーションが過小評価されている現実に対して,広告コミュニケーションを統合的な機能側面から考察することによって,その在り方を再考察している。あくまでも本稿は広告コミュニケーション機能の再評価のための仮説を構築することが目的であり,提示した尺度によりその妥当性を証明する必要があるとしている

 広告は本来,多角的で多面的であるが,私たちはそれを部分的,一面的にしか捉えようとしていないのではないのかとしている。例えば,商品広告について訴求対象としての消費者などの心理変容から購買行動へと変化する,コミュニケーション効果プロセスの機能のモデルや理論が存在する一方で,ステークホルダーを対象とする,企業等の組織への心情的理解から支持行動に至る情緒的効果の発生を主とした,企業広告などにかかわるコミュニケーション機能の説明が他方で存在しているとしている。これら二つの相互関係は企業イメージとブランドイメージなど個々で論じられることはあっても,その二つを統合化したものは表面化しなかったとしている。最近になって統合化マーケティングの考え方がようやくでてきたが,部分的には高いレベルを持っているけれども,統合的な認識はほとんど確立されていないというのが実態であるとしている。
 広告の真の機能を知るためには,これまで蓄積されてきた広告要素を統合化することが必要であり,またそこにおいても解明されていない部分を考察していくことによって,現代における広告の機能と存在意義が明らかになるとしている。

 広告コミュニケーションの諸機能について受け手の視点から統合化を考えると以下のとおりになる。例えば商品販売を目的とした広告において,受け手の心理は簡単に言うと,認知→情動→行動という変化の過程があるが,それは企業による消費者の説得を通じての,購買行動誘発を目的とした促進的コミュニケーションの説明であり,広告コミュニケーションの部分的理解でしかないということは明らかであるとしている。なぜなら企業広告などはこのような促進的コミュニケーションでは十分に説明ができないからであるとしている。このような視点から広告コミュニケーションの機能を見てみると,直接的ないし,準直接的に行動誘発に結びつく側面が大部分を占めるのと同時に,直接的に行動誘発に直結せずに受け手の中で整理されて,結果として影響を及ぼす機能側面も広告コミュニケーションは兼ね備えているとしている。このような認識の下で,実際に発揮されている広告コミュニケーション機能は以下の四つであるとしている。
①購買行動などの(直接的な)行動誘発
②自主的評価・選択基準の形成
③自己アイデンティティの構築・再確認
④企業・商品との心的関係性の構築

 上記の四つの機能はそれぞれが独立した形で力を発揮するのではなく,相互に作用し合う形で存在しており,「広告コミュニケーションは,そうした諸機能が有機的に結合された立体的な構造を有するものとして認識することができるのである」(4ページ)としている。本稿ではモデルが提示されている。
 広告を通じて蓄積された知識,また広告以外のコミュニケーション形態(報道や通信)により入手された情報が広告を通じて,主観的知識が客観的知識に変わる過程は,「暗黙知」から「形式知」に変容する一種として理解できるとしている。そう捉えると「主観的知識の持ち主は,広告を含むさまざまなコミュニケーションを通じて,それらを客観的な知識へと変質・昇華させていくことが期待される」(5ページ)としている。このようにして上記四つの機能より蓄積,形成された知識は消費者の日常生活的な知識にとどまらず,人間として生きていくための「知恵」にまで昇華させる必要がある。それは消費が生活の一部であるためとしている。人間として価値ある人生を送るためには,公共広告や社会広告などに接触することにより形成されていく,「生きていく上での知恵」(6ページ)が大きな意味を持つとしている。

 次に,前述した四つの機能の具体的尺度が述べられている(ただし,直接的な行動誘発機能面は除かれている)。ここでは,尺度の構築の論考を記す。自主的評価・選択基準の形成という機能側面については企業などの組織が提供した企業・商品情報に対して,受け手側の対応パターンからの整理が可能であり,「受け手の側で既に一定の評価・選択基準を保持していて,その完成と質的向上を目指して,提示される広告へ部分的あるいはアドホックに耳を傾けるという状況が想定される」(6ページ)としている。自己アイデンティティの構築・再確認の側面はやはり,自分らしさや他人との同質性,差異を確認・評価することにより,類型が浮かび上がってくるとしている。企業・商品との心的関係性の構築に関しては,広告を通じて消費者のブランドや企業,商品に対する一方的な思い込みや,消費を通じて得た満足により企業と顧客の良好な双方的関係の構築を考えると類型が浮かび上がるとしている。

 結論は以下のとおりである。本稿で記した四つのコミュニケーション機能は,受け手の知恵の形成を螺旋的に押し上げていく側面を理解する必要があり,その具体的な内容は明確ではないが,それは人間が本来持っている「他者への思いやりと誠意」(7ページ)に関わるものであるとしている。

出典:亀井昭宏(2000),「広告コミュニケーション機能の統合化モデル-広告はどのようにコミュニケーション機能を発揮しているのか」『日経広告研究所報』,第34巻2号,2-7頁。

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2005年07月29日

広告と消費者行動-消費者の「広告経験」に及ぼす文化の影響(堀内 2005)

要約
 広告を見ることによって浮かんでくる空想や思考など,近年では多様な「広告経験」が研究されるようになってきた。「広告経験」には,個人特性や個人的な関心事項の他,個々の消費者が属する文化が大きく関わっている。本稿では,「広告経験」を文化論的な視点から検討し,「広告経験」の側面を明らかにすることを試みている。

 まず本稿では,なぜ「経験」が消費者行動研究領域でブームになっているのかを説明している。このブームの背景には,二つの要因があるとしている。まず,一つは学術的要因であるとし,従来の消費者行動研究(特に,消費者情報処理の考え方に基づく研究)が選択・購買意思決定までの過程に過度に注意を払ってきたことであると述べられている。消費者行動は,商品選択までで終わりなのではなく,むしろその後のモノやサービスの使用・利用の過程が重要だという考え方が芽生え,浸透して行ったのだとしている。二つ目に,学術的要因以外には,市場環境への変化を挙げている。それは,物資が不足していた時代とは異なり,商品を入手するだけでは満足とは言えなくなった変化である。 
 「広告研究」の研究の例として,Mick and Buhlを紹介している。Mick and Buhlが論じた広告研究とは,「個々の消費者が広告を見たり聞いたり読んだりしたとき,自己と関連づけて広告の根本的な意味を理解することを指す」(43ページ)とし,次の3つのポイントを挙げている。①広告の意味は固定されたものでなく,消費者によって活性化される②メッセージを受けとめる際,消費者は何らかの期待を持って受けとめている③広告は準フィクションである。つまり,広告経験とは主観的なものであり,同じ広告が提示されても,その広告によって生じる広告経験は消費者によって様々だということであり,個々の消費者の人生経験や考え方が影響を及ぼしているのであるとしている。
 次に,本題である文化論的視点からとらえた広告経験について説明している。広告経験を文化論的視点からとらえるということは,文化という要因に着目することであるが,日常生活の中で,文化という要因を認識することは容易ではない。というのも,私たちが普段広告を見るとき,広告について身の回りの消費者と語り合う時,その消費者も同じ文化圏内の消費者だからであり,自分自身の広告経験が文化の影響をどのように受けているかを把握するのは困難であるからであると説明している。そしてここで,広告経験を文化論的視点から説明するための概念モデルを3つ説明している。1つ目は,McCracken(1986,1988)の意味移動モデルで,文化的に構成された世界に存在する既知の属性と,商品に存在している属性との類似性を見出し,両者を結合させるというものである。こうして意味づけされた商品を,消費者が自分の物として受け入れたとき,意味の移動は完了するとしている。2つ目は,McCracken(1987)の意味ベースモデルで,商品は,自らの生活世界を構成している様々な事柄の意味を理解し,体系化していくための重要な道具とされ,広告はこのプロセスの中で独特な役割を果たすと想定されている。3つ目はSolomon(1988)の意味の篩(ふるい)モデルで,これは,商品が潜在的に持っている多数の意味の中から,選ばれたいくつかのものだけが一般大衆に広まっていくメカニズムを説明するモデルである。これら3つを踏まえて,「それらに共通していることは,商品および商品の消費という行為には多分に文化的意味が託されているということ,そして,その意味を伝達する有力な媒体として広告が存在するということである」(46ページ)と考察している。しかし,これらのモデルには,①実際には,広告主側が意図しなかった意味が伝達されることもあるわけだが,モデルではこのことが考慮されていない②広告はいつも文化的意味を伝達しているわけではないが,このことがモデルには十分示されていない③広告は自分の文化の理解だけでなく,他の文化の理解にも役立つと考えられるが,このことがモデルには取り上げられていない,というような問題が残されているとしている。そして,「これらのモデルは消費者の視点から広告を捉えたものであるが,消費者行動研究領域への貢献を十分明らかにしていないように思える」(47ページ)とし,今後は,消費者行動研究領域の中での意味づけや,他の研究テーマとの関連性も考慮して広告経験研究を進めていく必要があるとしている。

出典:堀内圭子(2005),『広告と消費者行動-消費者の「広告経験」に及ぼす文化の影響』『日経広告研究所報』,219号,42-47頁。


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2005年07月28日

ユビキタス時代のマス広告の表現変容に関する考察(南 2005)  

要約
この論文では,(時には人の考え,予想に反して)時代は変化しており,それに伴い変化するメディアの中で「ユビキタス時代」の到来を目前に控えた今,マス広告はどのように変化するのか?それがとるべき道を考察している。

 筆者はユビキタス時代を2008-2010年に設定している。その頃には世界人口の3人に1人が携帯電話を持っており,日本におけるそれはほぼ全ての成人が必需品として所有している予想に準拠している。
 ユビキタス時代には様々な変化が考えられ,最も影響力のあるマス広告=テレビCMを取り巻く外的環境も大きく変化した。
①CMザッピング装置の普及
②One to OneコミュニケーションによるCM視聴態度の変化
③媒体の多様化による媒体価値の低下(セントラル・バイイングによる媒体価格の抑制による)(16ページより)
などが挙げられ,これらの変化によって新たなパラダイムが出現するため,「テレビ媒体の代理買い付けを主要な収益源としてきた広告会社の機構変革を促し,コンサルティング会社,クリエイティブ・エージェンシー,メディア・エージェンシーへ機能分化する広告業界ビックバンの可能性を視野に収めておく必要がある」(16ページ)。しかし,このビジネスモデルは広告主に選択肢をもたらすが逆に包括的な機能は果たさない。そのため広告主は一元化した機能を果たす「IMC機能やAP(アカウントプランナー)機能が求められる」(17ページ)。
 「ユビキタス時代」へ至るまでには,行動科学・人間の合理性に基づくモダン(実証主義的マーケティング)に始まるが,人間は多面的でその行動は「非合理的」で数字では割り切れないものが多く内包されているとうい観点から発達したポストモダン(解釈主義的)マーケティングが台頭した。「多面性を持った生活者を多重構造のタッチポイントで据えるホリスティックマーケティングが2000年代のマーケティングを活気付けている」(17ページ)。
 「ユビキタス時代」は消費者の情報摂取態度の選別化を極め,ウェブと連動するもの,ドラマ仕立てのものなどの対策がすでに取られている。それに加え,ユビキタス時代はメディア環境に変化を及ぼし,「生活者と企業の間を情報がインタラクティブするデジタル・メディア」(18ページ)がある。今後インタラクティブ性が更に進めば,企業にとってそれは生活者情報を知ることができるという積極的な意味を持つと筆者は主張する。生活者をパートナーとして据え生活者の声を企業活動に生かすことが重要である。マス広告の機能を果たしながら生活者との接点を持つCRM(カスタマー・リレーションシップ・マーケティング)が実践されなくてはならない。そのため「マス広告は頻度よりも到達度が求められるようになる」(19ページ)。
 情報で溢れている今日では,消費者は自分に関心のあることには敏感であり,積極的に関与するが,そうでない場合は認知しない。消費者に「到達」するためにはまず消費者からの広告無視のザッピングを防がなくてはならない。
消費者が第一段階として好感を抱き,さらに大きな関心を示した時(関心>好感),速やかな認知を示す。関心よりも好感が勝っている時(好感>関心),「クオリティの高い情報に触れたいという生活者の要望にこたえる感性刺激型の『マス広告情報』パターン」(20ページ)ができる。クオリティの高い情報とはブランド・エクイティに寄与するものと定義され,消費者が心で受け入れるインサイト広告がマス広告の情報の質を高めると筆者は述べている。

結論
 情報の「量」が満たされると次は「質」が求められる。「ユビキタス時代」は,広告ザッピングの時代であり,マス広告は,消費者の購買意欲を導くインサイト広告に変容することが求められ,その製品の価値を感知させていかなくてはならない。

出典:南勲(2005),「ユビキタス時代のマス広告の表現変容に関する考察」『日経広告研究所報』,39(1),16-21頁。

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2005年07月26日

エリア別のコミュニケーションを考える-定性的なアプローチによる探索-(国生 2002)

 ここでは,消費者の声からコミュニケーションのエリア差を探索するために,広告に関連する自由連想や自由回答のデータを収集し,収集したデータをテキストマイニングによって分析した結果が紹介されている。

 欧米のメディア・プランニングではジオグラフィックの記述があり,エリアごとの適切な戦略によって全体の課題解決を図ることが提言されているとしているが,日本のエリア・マーケティングは重点地域を選択することで集中的に課題解決を図ろうとする発想が強いとしている。近年では,よりエリアの視点からの課題解決が求められるようになってきているが,ビークルの選定などをエリア別で行うことはあっても,コミュニケーション戦略に欧米のようなジオグラフィックの視点を取り込むことは少ないのではないかとしている。今回の分析にあたり,交通網やメディアの発達によって日本のエリア差は縮小傾向にあるという見解に対しては,著者の過去の分析を通じてエリア差の存在は確認しているとしている。
 
 今回の分析は,札幌市,東京都23区,名古屋市,大阪市,福岡市の5地域に居住する20~49歳の消費者(パネル登録者)によるウェブ・リサーチで収集された自由回答をテキスト型データとして使用している。また,自由回答との関連を分析するために,データ収集時に定量的な設問も行っている。分析にはWordMinerが使用されている。自由回答の質問は,①広告と聞いて思い浮かぶこと,②あなたにとって広告とは,③この3ヶ月間に見たCMで好きなもの3つを選んでⅰ.何の広告か,ⅱ.どのような広告か,ⅲ.どんな印象を持ったか,というものである。
 
 質問①についての自由回答はメディアに関連する語が上位を占め,複数回答で選択肢型の「日ごろから関心のある広告」という質問と比べてみると比率は異なるが順位は似ているとしている。自由回答の上位5つは順に「テレビ」,「新聞折込」,「新聞」,「交通広告」,「宣伝」となっている。居住地別の差異としては,名古屋市では「新聞折込」が「テレビ」を上回ったこと,東京23区では「新聞折込」,「新聞」と「交通広告」がほぼ並んでいて「交通広告」は2位であること,福岡市ではメディアに関連した答えは少なかったことと「雑誌」が5都市で1番上位にきたこと,が述べられている。質問②についての自由回答は「情報」という言葉を含んだ語が多くあがり,全体の40%にのぼったとしている。クラスター数を20と指定して行ったクラスタリングの結果,サンプルサイズの大きい順に「情報源」,「商品を知る」,「楽しみ」,「邪魔と興味」,「購入の参考」,「宣伝」,「イメージをつくる」,「流行を知る」,「目につく」,「暇つぶし」,といった順になっている。居住地別では名古屋市で「情報」が,福岡市で「楽しみ」,「流行を知る」の比率がそれぞれ比較的高く,質問①の結果と関連しているようだとしている。また,「楽しみ」,「流行を知る」については居住地別のレンジが性年代別に比べて高くなっている。質問③についての自由回答はデータの収集時期に放送されていたボスHG,au,写ルンです,スカイパーフェクTV,ケミストリーのコラボレーションCMをあげる回答の非常に多かった。ブランド名・企業名では他の4社とコラボレーションしていたボスが圧倒的に多くあがっている。コラボレーションCMをあげた人を居住地別に見ると名古屋市でやや高めとなっている。コラボレーションCM以外のその他の広告を居住地別に見るとローカルCMも含まれてくることに対して,分析は行っていないが出稿量の影響がありそうだとしている。コラボレーションCMとその他の広告の印象については,両者とも「おもしろい」が最も上位にきているのに対し,2番目にくるのが前者では「続き」が見たい,「ストーリー」が「楽しみ」で,後者は「~したいと」いう欲求や意向であったが,「買いたい」,「飲みたい」などの欲求や意向を広告の印象として多くの人があげたことには少し驚いたとしている。

結論と課題
 今回の分析で「消費者のメディア接触の量だけでなく,質を洞察してエリアに適した戦略を策定すること」(33ページ)の重要性の認識を強めたとしている。また,消費者にとって広告が情報源であると同時に,そこに驚きやおもしろさを得る楽しみを見出していることを再認識したとしている。課題としては,今回のウェブ・リサーチでは答えたい人だけが答えたとも考えられる点,居住地の代表性の問題といった点から一般化を行うのは危険であることなどが述べられている。

出典:国生理枝子(2002),「エリア別のコミュニケーションを考える-定性的なアプローチによる探索-」『日経広告研究所報』,第36巻5号,28-33頁。

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2005年07月23日

競争広告の方向性(岩本 1996)

要約
 激化したマーケット市場では,企業の優位性をアピールするような広告を出すことが困難になってきている。そこで本稿は競争力のある広告のコミュニケートの仕方を見直し,競争力を発揮できる広告とはどのようなものであるかの整理を試みるとしている。

1.マーケティング競争のファンダメンタルズ
 マーケティングにおける競争は,競合者,規制,経済状況などの様々な外部からの要因に影響を受ける。そのために企業は,管理可能な資源をうまく組み合わせて,変化する環境に対応しているとし,本稿ではその一つであるマーケティング戦略の基礎となるマーケティング・ミックスに重点をおいている。その組成の背景は,「最適な組み合わせで標的市場に対するアプローチの遺漏をなくし,円滑な購買が遂行されるよう消費者に寄与,貢献することにある」(11ページ)としている。その際,違う変数同士がシナジー効果を期待できるように編成されている。広告などを連動させるプロモーション・ミックスでは,メディアを併用させるメディア・ミックスや訴求内容をメディアに合わせて行うメッセージ・ミックスもよく知られるようになってきたとしている。また,各媒体同士がかけあいをしながら,訴求効果を高めていくブリッジ広告も定着しつつあるとしている。しかし,その一方各部門ごとに独自の訴求を繰り返すことは,企業としての統一感や効率性が欠如してしまうため,統合型マーケティングの重要性も唱えられてきていると記している。
 競争優位を勝ち取るためには,自社資源,競合者の行動と顧客ニーズの3つが重なり合うエリア(オーバーラップ領域)にいかに取り組むかにかかっているとしている。すなわち,いくら競争優位の源泉があっても,その訴求が消費者に的確に届かなければ意味がないのである。そのためにも,どのような広告をうつのかを考えることが重要となってくる。そのような場合「競争優位の訴求は客観的で信頼性が高いことが求められるわけで,情報提供型広告に目が向けられることになる」(12ページ)としている。

2.競争広告とメッセージ戦略
 バーコウィッツらは販売主眼において,製品・サービスの広告を①導入期に用いられる開拓広告(情報提供型広告)②他社との比較優位を強調するための競争広告(説得型広告)③知識の補強や商品の成熟期に用いられる想起広告に分けることができるとしている。その中でも競争広告は競合者との競争優位の差を明確にして,選択的需要を増進することであるが,「競争広告は市場での地位に関係なく,競争原理にのっとり,競争優位性を訴求しながら販売につなげる広告を広く指すものである」(12ページ)としている。また,販売につながらなくとも,競合者の広告活動を相殺することで,自社製品の販売額の減少をおさえる,防御広告と捉えることもできるとしている。マーシャル,ピグーらは,競争広告はシェアの奪い合いになるだけで,社会的浪費であるとしているが,競い合うことで市場活性化につながるので,狭い視野で見るのは適切ではないとしている。競争広告の中で既存の製品の批判をすることで新製品を売り出す広告を挑戦広告と言う。挑戦広告は日本の風習などにそぐわないとしているが,こうした広告が登場すると情報インパクトは絶大なものであるとしている。
 広告戦略のプロセスは,広告目標や標的が設定され,メディア戦略やメッセージ戦略をどのように行うかが決定され,本稿では後者のメッセージ戦略を取り上げている。その手法としては「エンターテイメントとユーモア,証拠だて,名声の利用,スライス・オブ・ライフ,比較,象徴,サブリミナル」(13ページ)があり,それにタレントや動物を組み合わせたものが定式化していると記している。その手法の焦点となるのはユニーク・セリング・ポイントの強調,ブランドのポジショニングであり,ブランド戦略の展開と連携した差別化戦略にスポットが当てられており「差別化の対象は品質,デザイン,支援体制,イメージ,価格である」(13ページ)としている。メッセージのパターンは以下の8つが挙げられている。①No.1の訴求②プロ・先駆者の推奨・保証③専門用語の使用④イノベータの登場⑤プレミアムの付与⑥選択の強要⑦値下げの強調⑧アンチ・セグメンテーション(何にでも合う万能タイプ製品であることを主張し,競争力をもつこと)しかし,競合者との比較したメッセージ戦略には限界があるので,この領域だけで競争広告が展開されることは少なくなったとしている。

3.競争広告の競争力の方向性
 広告が訴求力を発揮するためには,製品自体が明白な比較優位性を保持していなければならない。しかし,すぐに販売やマーケットシェアに直結せずに,のちのち販売などにつながることを見越して,製品は常に市場で入手できる状態にしておかなければならないとしている。
 売上高を誇示する広告は,キーファクターなどを明示しなければ持続性はなく,短期間のプロモーションに終わってしまう危険性があり,プロフィットプロモーションには繋がらないとしている。目先の比較優位性訴求に依存せずに「長期計画の中での性格付け,メディア・ミックス,異業種との連携が組み込まなければならない。値引きを伴わない付加価値提供型のプロモーション,すなわち,ブランドパワーにつながる一貫性のある競争優位を生み出すプロモーションが広告情報に組み込まれる必要があろう」(14ページ)としている。
 競争力を高めるためには,顧客の声を聞かなければならず,そのためには莫大なコストがかかってしまう。そのため企業はコストがかかり見通しのつきにくい新規顧客よりも,既存顧客とのつながりを強化して,維持していく傾向にある。また,新規顧客に何らかのプロモーションを実行しようとしても,新規顧客の情報が乏しいため,競争優位性の訴求も不明確になってしまうとしている。それを避けるためにも,顧客データベースを常に更新し,インタラクティブ性をもち,「自ら入り込んでいくオンデマンド性のある広告から支援を受け,ネガティブな情報ものせていくことで信頼関係や学習関係を保持していくことが欠かせない」(15ページ)としている。

 結論は以下のとおりである。以前からある優位性の訴求やタレントに頼った広告では現在のマーケティング市場では通用しなくなってきており,企業が顧客と同じ場所でコミュニケートし,双方が満足を得る状態を維持することが広告には重要であるとしている。すなわち,広告でアクションを起こすと,それに顧客が応えてスパイラル効果が起こることで,広告は初めて競争力をもつとしている。

出典:岩本俊彦(1999),「競争広告の方向性」『日経広告研究所報』,第30巻4号,11-15頁。

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2005年07月22日

広告と広報の融合に向けて―コミュニケーション中心の経営:MOTからMOCへ(小林 2005)

要約
 現場では,広告と広報の融合が始まっているとし,本論では三つの節で,テーマの序説を述べている。最初の節では,トップマネジメントの経営観と広告・広報観が,決断と実行により経営改革と広告・広報改革の成否を決めることを示し,次節では,広告・広報の側から融合を調べ,最終節では経営における全体的なコミュニケーション活動の側から融合を見ている。世の中が「インフォメーション」重視の時代から,「コミュニケーション」重視の時代に移っているという認識のもとに本論を組み立て,情報という言葉も,インフォメーションと訳すよりもコミュニケーションという意味で使う方が世の中の実態に合うようになったとしている。

 いまだに実務でも学者の議論でも,広告とは広報は違う仕事をしているという見方があり,広告か,広報かという二者択一がある。西欧を中心とする近代科学は,「垣根を低くする」「垣根を破壊する」のではなく,「垣根を高くする」「垣根を作る」というような,「AかBか」が問題の,物事を分けるという要素還元的な見方で発展してきた。このような考え方はもう古いため,ここでは化学反応と物理的反応を参考にしている。核分裂と核融合では,核融合の方が大きなエネルギーを放出する。広告・広報でも,分けるより結びつける方が大きな効果をあげるとしている。しかし,広告と広報を別の仕事と見ることだけを良しとする見方は間違っていると述べている。「広告・広報を取り巻く状況に応じた戦略を採用することが求められる。融合であれ,統合であれ,状況に応じた組み合わせ採用の必然性が見えなければならない」(35ページ)としている。
 次に,広告・広報を再定義している。広告には,情報提供型広告,説得型広告,比較広告,リマインダー広告があるとし,一方PR活動は,好意的評判を得て好ましい企業イメージを抱き、悪い噂や事件を未然に防いで,企業の様々な関係集団と良いリレーションシップを形成するとしている。また,広報部門の機能は,「報道対策,製品パブリシティ,社会環境対策,ロビー活動,投資家対策などである」(36ページ)と説明している。広告・広報の再定義でまず問題になったことは,広告・広報をマーケティングの中で捉えるだけでよいのかということであり,続いてコーポレート・コミュニケーションから見た広告・広報が問題になった。ここでは広告・広報をシステムズ・アプローチで考えることにしている。まず,システムの定義をJISより,多数の構成要素が有機的な秩序を保ち,同一目的に向かって行動するものであるとしている。システム工学の立場からシステムを見ると,外部構造と内部構造があるとし,「内部構造が与えられた時その外部機能を求めることが分析であり,外部機能が与えられた時その内部構造を決定することが統合である」(36ページ)と説明している。システムで見る広告・広報に期待されている外部機能には,広告・広報という二つの仕事の間に壁や差がなく,問題は,この外部機能を達成するための内部構造が十分に対応しているかどうかということであり,内部構造については,仕事の組織,取引構造,インターネットの登場による媒体革新など,システム各要素とその組み合わせを見て,外部機能に応える革新をしなければならないとしている。
 続いてMOC(マネジメント・オブ・コミュニケーション)について述べられている。まず,MOCは,八〇年代に技術力で差を付けられた米国のアメリカ企業への対抗意識と理論的・実践的な対応として生まれたMOT(マネジメント・オブ・テクノロジー)を教師として学ぶべきだとしている。「MOTについて書かれた文献を読むと,その実現のためにはコミュニケーションあるいはMOCを中心に据えなければならないことがわかる」(37ページ)としている。最後に,広告と広報はMOCの最重要なサブシステムとしての役割を果たすことを予想しており,「広告・広報の再定義の結論もここから導くことにしたい」(37ページ)としている。

出典:小林貞夫(2005)「広告と広報の融合に向けて―コミュニケーション中心の経営:MOTからMOCへ」『日経広告研究所報』,221号,33-37頁。

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2005年07月20日

コミュニケーション・コンセプトの再構築-特集“質”コミュニケーションのパラダイムシフト-(松岡 1993)

要約
この論文では,「双方向性」をキーワードにコミュニケーションのリストラが求められてきていることを主張している。そして筆者は,この問題を「コミュニケートするべき内容の戦略的決定」(52ページ)つまり,目的達成のためには戦略や計画性が重要であること,物事を大衆に伝えるためには雄弁であることに増して,説得性があることが求められていることに主眼を置いて説明している。また,「伝達手段とその効率についての吟味」,広告主がメディアの変化に対応して,双方向性を意識した説得力のある効率的な情報の配信をすることの必要性を述べている。

人に物を伝えるためにはまず,雄弁性が求められる。しかし,それだけでは事足りず,説得性が要求される。筆者はこのことを,湾岸戦争における日本の振る舞いを例に説明している。湾岸戦争における日本の諸外国の評価は決して高くはない。「たとえ米英と意見が異なっていても,日本が自分の主張を論理的に説明しうる限り,英米は日本の積極的意見表明を沈黙よりはるかに評価しただろう」(52ページ)。(国際社会で)自分の意見を主張するには、説得性=相手にその結論を受け入れさすに足る,反論の余地の無い論理が存在しなくてはならない。
 同じく,湾岸戦争の例を通じて,プロパガンダと説得の違いを説明している。「説得は相互行為であって,説得する者とされる者の双方の要求を満足させようとするが,プロパガンダは,プロパガンディストの望む意図をさらに促進するような反応を得ようとするものである」(53ページ)。また,湾岸戦争では,マスコミからの報道と実態・真相とがだいぶ食い違う部分がある。原油で真っ黒に汚れた海鳥は資料映像であったり、国家的な情報操作のもと,さまざまなイメージ広告の手法がこれに利用された。少なくともアメリカ人は,日本人よりもずっと戦略的で,彼らがどのような戦略目的を持っているかの考察は重要である。日本人の悪い意味の特徴として,本格的なシンクタンクを持っておらず,「ストラテジーとロジスティックの欠如」(54ページ)が挙げられる。
 その日本人である我々も,マーケティング・コミュニケーションを吟味していかなければならない。この分野では,「論理派」と「感性派」の根深い対立がある。具体的には,マーケターとクリエイターが分離しているため,マーケティング担当者が構築してきた「伝えたいもの・訴えたいもの」をクリエイターが無視して全く異なる広告が出来上がる事態が起こる。この両者の間の苛立ちを筆者は「広告表現のブラックボックス」(54ページ)と表現する。「伝えようとする情報が受け手にとって積極的に処理され,かつ処理しやすい題材のとき広告表現の方向は非常に明快である」(55ページ)。「誰かに何かを伝える」ということが広告コミュニケーションの最大の要素であり,理論である。そのためにも,伝えたい点を加工しないで,できるだけ「そのまま」伝えることが望ましい。「伝えるべき何かのチョイスこそマーケティングにおいてきわめて戦略的な課題であって,クリエイターによって簡単に無視されてよいものではない」(55ページ)と筆者は主張している。その「何か」の決定はコミュニケーションおいて最重要事項なので,クルクルと変えてはいけない。メッセージの真実性を維持するためにも説得型,情報提供型のCMが望ましい。
 コミュニケーションの第二の視点として,メディアの変化が挙げられる。メディア選択の主導権は消費者にあるため,その多様化は,消費者にメッセージ到を達させる可能性の低下を引き起こす。一人の人間が全てのメディアに接触することは不可能なので,どうしてもメディアの選択は「探索型」になる。このような時代にメディア効率の判断基準は「費用対効果」しかない。広告主は,消費者に探索されやすいメディアを模索していかなくてはならない。

結論
広告で伝えるべき内容の決定がコミュニケーションにとって最も重要であり,できるだけ加工,脚色せずにストレートに伝える広告を目指していくべきである。重要なのは,相手を納得させる論理と説得力である。メディアの多様化で,消費者にメッセージが届く可能性が低下している今,広告主は,自分のところに消費者を導き,探索させるよう,仕向ける努力が求められる。

出典:松岡茂雄(1993),「コミュニケーション・コンセプトの再構築」『ブレーン』,33(10),52-56頁。

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2005年07月19日

コミュニケーション装置としての「企業サイト」の役割とその評価手法(山下・日高 2003)

 ここでは,企業サイトの現状や評価の視点が述べられ,企業サイトをブランドイメージとの関係で評価する『e-Site index』という手法を用いて,企業サイトの企業ブランド評価に対する影響についての傾向が紹介されている。

 まず,企業サイトが重要なコミュニケーション手段となり,広告メディア・商取引・消費者アンケート・ユーザーとの窓口などの様々な機能を果たし,広報などの企業活動を支援するといった目的よりマーケティングを目的としてきているといったような企業サイトについての現状が述べられている。次に,企業サイトの運営体制が紹介されている。企業内でのサイト運営体制には,広報などの単一部署がサイトを管理する一極集中型,複数の部署で運営するが統括を単一部署が行う主管型,独立した事業部ごとにサイトを管理・運営する分散型があるとし,日本広告主協会が03年に実施した会員社向けアンケートでは,それぞれ24.5%,66.4%,8.2%,となっているとしている。また,従業員1000人以下の企業では一極集中型が6割にもなり,1000人以上5000人未満の企業では主管型が8割ほどになるなど,サイト運営体制は企業規模と関連があるとしている。しかし,それ以上にサイトに取り組む姿勢の違いによる影響が大きいとしている。最近ではネット単体でのコミュニケーションを考えるだけでなく,「コミュニケーション活動全体の中での役割を考え,各コミュニケーションメディアの相乗効果を図る」(24ページ)という考えになってきているとしている。その際,訴えたいメッセージが「メディア間で有機的に連携しているか」(24ページ)が課題となるとしている。自社サイトが巧く使えているのか評価して欲しいといった企業のニーズも高まっているとしている。
 
 企業サイトを評価する視点には①ユーザビリティ,②企業サイト価値の金額換算,③情報サービス主体としてのブランド力,④ブランド接点の1つとしてのブランド力,の4つがあるとしている。①は,ユーザーから見てストレスのないメニューデザインで使いやすさのチェックである。ダイアルアップが接続環境の中心で企業サイトも珍しかった頃のサイト評価の主な目的であり,ユーザリビリティのレベルが向上した現在でも発信する情報が膨大になったためサイト評価の重要な視点であり,チェックし続けることが重要だとしている。②は,サイトをマーケティング施策の1つと考え,利益への貢献度を推定するものでブランド評価の手法を援用したものであるとしている。③は,企業サイトを情報サービスを行う企業ブランドとして認知・好意・イメージ評価を中心に評価する視点で,ポータルサイトなどのネット専業企業にとっては企業ブランドそのものであるとしている。④は,企業サイトでの体験が企業ブランドの好意・イメージを向上させるのか,企業ブランドの評価向上への課題は何であるかということに答える評価手法であり,『e-Site index』はこの考え方に基づくものであるとしている。
 
 今回の調査で使用されたのは「企業サイトを企業ブランドへの貢献度で評価する視点を中心」(25ページ)とした『e-Site index』の一般企業版で,「企業サイトの企業ブランド評価への影響に関する一般傾向」(25ページ)をいくつか紹介するとして,①「企業でのサイト体験は『企業ブランドイメージ』に好影響を与えている」(26ページ),②「企業サイト体験は,企業ブランドイメージのうち『活気』『センス』という感覚的な側面にも好影響を及ぼす傾向が見られる」(26ページ),③「自社ブランドのユーザーから特に高い評価を受ける企業サイトもあり,企業サイトの内容が,ブランドユーザーへの情報メディアとして効果的なものになっていることが確認できる」(26ページ),の3点が示されている。①については,自動車やパソコンより食品やトイレタリーなどでその傾向が強く,相対的に訪問者は少ないがイメージの向上にはつながっているとしている。②については,サイトの活気やセンスが企業ブランドイメージに影響する傾向があるということだろうとし,イメージの高かった企業でもブランドイメージとの統一感が感じられなかったりすると評価が上がらないことがあるとしている。また,社会性やポリシーなどの企業姿勢への理性的な評価もサイトを通じて向上するとしている。③については,ユーザーの評価がノンユーザーの評価を上回る傾向が見られ,ユーザーの心理的ロイヤリティーの向上効果を期待できるとし,自動車やパソコンといった耐久財でその傾向が強いとしている。今後もブランド接点やコミュニケーション装置として企業サイトの影響は大きくなるとし,企業サイトの個別のコンテンツの目的に応じた効果測定法が必要になるが,個別評価と全体評価を合わせて定期的に調査・把握することが望ましいとしている。

出典:山下史郎・日高靖(2003)「コミュニケーション装置としての『企業サイト』の役割とその評価手法」『日経広告研究所報』,第37巻6号,22-27頁。

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2005年07月18日

満足保証のコミュニケーション(有馬 1997)

要約
 本稿では,顧客保証政策に有効なコミュニケーション方法に関しての分析を進めるために顧客保証政策の具体的方法,またそれを実施しようとする企業の意図や消費者の捉え方の変化などを整理し,満足保証政策を有効に顧客にアピールするための具体的なコミュニケーション方法に関しての示唆を目的としている。

満足保証政策の概要と満足概念
 90年代以降,多くの企業で顧客満足を実現するため,消費財メーカーやサービス業を中心に,社内に顧客対応セクションやCS推進室などの顧客満足を専門に扱う組織を設置したりするなどの様々な取り組みが行われている。近年のアメリカ合衆国における顧客満足の捉え方は,1つの方向性を持ち,その理念の実現のための手段も基本的に集約されつつあり「満足保証政策」と呼ばれる方法の採用という形で表れている。満足保証政策は,購入商品が気に入らない場合に,不良商品でなくても交換や返金に応じるもので,多くの企業が無期限で返金・交換に応じる。また,サービス業の場合においては提供したサービスを無償にしたり,場合によっては「見舞金」などの形でさらにいくらかの金銭を顧客に支払うものである。企業がこの顧客満足政策を推進するようになった背景には,企業の顧客満足に対しての捉え方が変化してきたからである。それは「単に商品やサービスの提供のよって顧客や社会に奉仕するといった日本にも浸透している従来の経営観からでは,ここまで踏み込んだ顧客満足の考え方は容易には想定できないからである」(13ページ)。満足概念の既存研究では消費者の満足とは,購買によって不満を感じない状態全般をさすというものであり,購買結果の喜ばしい場合だけでなく,苦情を言うほどの不満がない状態や買い直さなければならないほどの不満を感じない状態などの強く不満を感じていない精神状態全般を含む広範囲な概念として位置づけられてきた。オリバーなどによって満足を幅のある概念として位置づけて分析を進める研究がなされ,消費者の満足を消費者の気分が愉快であるか不愉快であるか,気分が興奮しているか平穏な状態にあるかによって4つの状態があると仮定されている。満足保証政策はただ単に顧客の「苦悩」「退屈」な状態を「冷静」という状態に転化させるための政策ではなく,顧客の感情をさらに「上機嫌」という状態に転化させることを目的として実施されている。

満足保証政策のコミュニケーション活動
 満足保証政策の目的は,積極的な顧客満足の提供である。したがって「コミュニケーション活動に焦点を当てた場合にも同様な視座から手段が考えられることになる。そのために積極的な顧客満足を引き出すために必要とされる情報収集並びに発信活動が行われることになるわけである」(15ページ)。「上機嫌」な顧客の反応を得るためのコミュニケーション活動を実施するためには,顧客の要望を迅速に察知し,それが直ちに実感できる形で具現化することが必要である。なぜなら,単に顧客の苦情や意見に耳を貸すだけでは顧客の「上機嫌」な感情を引き出すことはできないからである。また,調査・分析などの検討期間を長く取り,実行までに大きなタイムラグがある市場調査の方法では,満足保証の実施には有効に効力を発揮しない可能性が高い。顧客満足を得るための企業側からの情報発信活動は,アメリカの事例を見るかぎり2種類ある。1つ目は,積極的なプロモーションを各種メディアを有効に利用して行うものである。アメリカの場合,マスメディアを使用して自社の満足保証を浸透させるやり方はあまり存在していない。しかしながら,「日本企業が今後満足保証政策を導入して積極的な顧客満足を実現していくためには,積極的な情報発信活動も当然必要とされてくる。そこで,商品の返金や交換措置の利用方法などの消費者教育的な側面を有した広告活動が第一に必要とされてくるものと思われる」(16ページ)。2つ目は,従業員による人的コミュニケーションを重視した活動である。これは従業員が顧客に話しかける際に販売を意識した応答ではなく,顧客の問題解決のために相談に乗るという姿勢で接客が行われるものである。この姿勢によって顧客は従業員が非常に親密に感じられるようになり顧客満足に繋がるのである。「顧客満足の情報発信活動は,現状において媒体を使用した活動よりも人的コミュニケーションの活動の方が効果が顕著に表れやすいものと思われる。しかしながら,媒体の使用方法の工夫によっては大きな効力を発揮する可能性も高い」(17ページ)。

結論
 単に返金や交換に応じるだけでは顧客の「上機嫌」の獲得はできない。したがって,顧客との双方向のコミュニケーション活動が重要である。こうした積極的なコミュニケーション活動によって,「満足保証政策は他者との差別化の手段として効力を発揮する可能性が高いことを示唆することができる」(17ページ)。

出典:有馬賢治(1997),「満足保証のコミュニケーション」『日経広告研究所報』,31(3),12-17ページ。

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2005年07月16日

消費経験の新たなコミュニケーション(桑原 1999)

要約
 本稿では消費者研究をするにあたり,「3‐Dステレオ」と「エッジ」という考え方を用いることの重要性を説いている。そして,最後にその考え方を広告コミュニケーションに当てはめて考えるとしている。

 近年では消費者研究の領域が拡大し,昔からの消費者の購買行動が変化していったとして,過去の消費者研究のレビューを行っている。さらに今日における消費概念はあらゆる対象についての獲得場面,使用,廃棄の3つの消費局面があると記している。この3つの消費局面において,消費者のニーズとウォンツの両方を満たす場合はそのサービスの中で,消費者価値を供給する経験を創造するプロセスを通じている。このようにして「価値のかかわる消費経験が,消費者研究の焦点として浮かび上がってくるのである」(14ページ)としている。経験としての消費の重要性に着目することは,顧客主導型のマーケティングを展開する上で,リレーションシップにより顧客の消費経験が進化し変化していくさまに相当するとしている。本稿では消費経験の意味を深く理解し,洞察を得るために消費経験を3‐Dステレオ写真と解釈することで,消費者とどのようにコミュニケーションをとっていくのかについて論じるとしている。また,3‐Dステレオ写真を用いた理由も述べるとしている。
 まず,3‐Dステレオ写真の説明が簡単にされている。カメラを2つ用意し,人間の目と同じ並びで撮影する。そうすると角度が異なるが,同じ被写体を撮った写真ができあがる。その2枚の写真の幅を合わせて見ることにより,立体的な像を再生するとし,例として写真が載せられている。立体的イメージを得るための方法は2つあるとし,本稿では裸眼で見るFree-Viewingの平行法を使用したとしている。Free-Viewingの長所としては色の鮮明さが挙げられる。短所は写真を拡大できない点と見るための訓練が必要であるとしている。ゆえに見るのは困難であるが,「見えた時の感動は大きく,それはまた,後に述べるように本論の主張とも無関係ではない,諦めずに挑戦してほしいとしている」(15ページ)。そのようにして見えた画像は鮮明かつ現実感豊かで,奥行きの感じられるものとなるとしている。
 そのことを消費経験に当てはめて考えてみると,写真によって,頭の中に立体イメージを結ぶということは洞察の契機と呼応するとしている。それは角度の異なる知覚を融合させることによって,奥行きについて豊かな知覚が得られるという点においてである。最も深く消費者のことを考えるということは「いくつかの異なった視点の結合,統合,調和,あるいは,融合が伴っているべきだということである」(16ページ)としている。そうするならば,消費者研究において考えると,いろいろな視点を融合させて,より深い消費経験の理解に結びつけることに集中すべきであろうとしている。また,本稿では消費者研究をエッジの上を歩くことと捉えている。エッジの上を歩くとは,いろいろな意見が衝突する知覚において最も安全な道を見つけて通ることであるとしている。そうすることにより,奥行きの深い最も深い洞察に達するとしている。消費者経験におけるエッジを歩くとは,意思決定を中心とした見方と,経験的側面に焦点を置く見方について「道」を見つけることが重要であるとしている。このような方法は「消費者研究という領域の中で,新しい発見をもたらす中心的なルートとなる可能性を秘めている」(17ページ)としている。そしてそのことは3‐Dステレオに基づいた表現の適切さを意味しているとされている。消費経験においてエッジを歩くことは創造性の本質や,イノベーション,深い洞察を反映する効果があり,そのためには3‐Dの経験はかなりの効果があるとしている。
 広告コミュニケーションに上記の考えを当てはめると,「消費者のもつ,広告を読み味わう戦略はと,そこにあてはまらない広告メッセージの新しさの境界線上に,消費者の心に届く道が形成され,広告は訴求力をもつことになる」(18ページ)としている。広告を見る消費者に対して,エッジの上を歩くという,新しい視覚的世界を創造させることが経験を伝えるコミュニケーションになると記されている。

出典:桑原武夫(1999),「消費経験の新たなコミュニケーション」『日経広告研究所報』,第32巻6号,14-18頁。

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2005年07月15日

広告表現の文化差-内容分析による時代比較と国際比較(石井 2004)

要約
 この論文では,新聞広告の内容分析を通して,広告表現と文化の関係を考察している。まず,既存研究より,日本の広告はソフトセル(イメージ中心)訴求が多く,アメリカは反対にハードセル(情報中心)訴求が多いのではないかということを予想し,六つの商品カテゴリーを用いて新聞広告の広告アピールの時代変化を測定している。また価格の有無や,広告中で使われているモデルの特性などについても評定している。その結果,六つの商品カテゴリーにほぼ共通して見られたのは,モデルの高齢化であるとし,自動車,ビール,保険,携帯電話の広告にはハードセル化と,モデル(人物)利用の減少が見えるとしている。

 本稿では,日本の広告における文化の問題を扱った研究結果をレビューすることから始めている。まず,日本の広告はソフトセルであるという予想を基に,日米の雑誌広告を内容分析によって比較したミュラー(Mueller 1987)では,「日本の広告でソフトセルや地位のアピール,アメリカの広告ではハードセルや製品のメリットの強調が相対的に多いこと」(37ページ)を示したとしている。そしてテイラー(Taylor et. al. 1994)では,「日本のCMは,アメリカのCMよりも,相対的に後の部分にブランド名や会社名が出てくること,ブランド名の言及回数がアメリカのCMよりも相対的に少ないこと」(37ページ)を示したとしている。次に,広告における外国要素について,荻原(2000)では,「93年と2003年のテレビCMを比較し,外国人の登場回数はやや増加していること,白人の比率が高いこと,自動車や精密・事務機器で外国人の比率が高いこと」(38ページ)を明らかにしたことを紹介している。しかし,これらの比較研究は,広告における商品カテゴリーの比率を無視している点に方法論的な問題があり,広告表現は商品カテゴリーによってかなり異なり,単純にことなる時点を比較すると広告表現の一般的な変化なのか商品カテゴリーの比率の変化なのかを区別できないと説明している。
 次に,本研究に移る。主要なデータは六つの商品カテゴリー(自動車,ビール,テレビ受信機,マンション,デパート,保険)について三十三年間(七〇-〇二年)の新聞広告を内容分析したものである。本研究では,広告アピールの時代変化を測定するため,チェンの研究で使われている広告アピールを参考に,便利さ,効果,現代性,技術,美しさ,自然など,三十一のアピールを設定して,新聞広告を批評した。まず,三十一のアピールを少数次元に縮約するため,数量化Ⅲ類(ホマルズの等質性分析)を適用している。そして、第一次元を,家族中心的なアピールと商品自体のイメージを強調するアピールと商品自体のイメージを強調するアピールを分ける次元,第二次元を高齢者志向か若者志向かを分ける次元であると解釈している。これらの次元と,ハードセルの相関の結果,高齢者思考はハードセル,若者志向はソフトセルと関連があることがわかったとしている。また,時代変化を見てみたとき,テレビの広告では,家族中心的なアピールの経時的な減少があるとしている。外国要素については,商品カテゴリーにより,欧米人モデルの出現比率はかなり異なることがわかったとしている。広告に使われているモデルについては,比率(外国人,日本人すべて含む)は四〇%前後であるが,この比率は商品カテゴリー間で,また時代によりかなり大きな差があると説明し,変化として認められるのは,モデルの高齢化であることがわかったとしている。

結論
 六つの商品カテゴリーにほぼ共通して見られたのは,モデル(登場人物)の高齢化であり,消費者の高齢化が反映しているものだとしている。そして「男性比率が高まる傾向も見られたが,これは広告表現の変化というより,男性比率が高い商品カテゴリーの広告数が相対的に増えたためであると考えられる」(41ページ)と述べている。また,自動車,ビール,保険,携帯電話の広告に見られるハードセル(情報中心)への変化とモデル(人物)利用の減少という変化が挙げられている。このハードセル化を日本人の個人主義化を示唆するものと解釈することも可能であるが,広告表現の変化を日本人の個人主義化のみで説明するのは危険であるとも述べられている。また,商品カテゴリーごとに変化のパターンはかなり異なり,製品のライフステージが影響を与えている可能性もあるとしている。「普及期には製品の生活上の意味を強調するためソフトセル的な表現が多いが,商品が成熟し,ブランド間の競争が激しくなると機能や価格など,ハードセル表現が多くなるのかもしれない」(42ページ)とし,今後のこれらの要因を考慮した実証研究の必要性を説いている。

出典:石井健一 (2004)「広告表現の文化差-内容分析による時代比較と国際比較」『日経広告研究所報』,第218号,36-42頁。

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2005年07月13日

「広告」の本質-「市場」における「非=市場的なるもの」-(桜井 1994)

要約
 この論文では,広告における数多くの研究・調査・議論の中で,現代社会における「広告」の意義を肯定はすれど,そもそも広告とは何か?なぜ広告が存在するのか?を考察しているものが少ないことを指摘している。普段の我々にとって,あまりに見慣れてしまった広告は,その「慣れ」によって,思い込みをしている部分もある。本論では,広告を見慣れないものとしてとらえた上で,広告の本質を探っている。

 現代社会において広告は,大きな意義を持っている。消費によって支えられている現代社会・市場において広告は一つの産業になりつつあり,その比重も大きなものである。しかし,「我々は,現代において広告があまりにあたりまえになってしまっているがゆえに,広告の本質を探求しようとさえしなくなっているのではないだろうか」(47ページ)。既存の広告論は広告の「存在をあたりまえ」のものと見なし,素朴だが本質的な問い,「なぜ?」に答えてくれないように見える。「あたりまえ」という前提を払拭してこそ広告の本質を探る事ができると著者は主張している。また,なぜ現代社会(市場社会)で広告が繁栄しているのかを考察している。現在,市場と広告の結びつきは非常に強く,切っても切り離せない。それが前述の「あたりまえ」を生み出しているのではなかろうか?
 広告を「見慣れないもの」としてみるための事例として,「ぴあ」がある(ぴあ=映画館の上映情報などが掲載された有料情報誌)。今では「ぴあ」は都市情報誌の一つとして「あたりまえのもの」として受け入れられているが,出回り始めた当初は,「ぴあ」に対する「大人」と「若者」ではその反応が対照的であった。若者のほうが合理的で,自分たちにプラスになるものや有用性のあるものに対しては躊躇無く代価を払いその情報を取得する。しかし大人達にとってみれば従来,街や新聞の紙面広告で「無料-タダで」提供されていた情報に対してお金を払うこと違和感を覚えた。大人にとってみれば,情報=タダのイメージがより強かったため「ぴあ」のような情報誌がしっくりはまらなかったのであろう。
 「なぜ広告においては情報の無償譲渡がなされるのか?」(49ページ)。広告においてもたらされる情報が消費者にとって重要なものであれば,まさにその「情報」にお金を払うのが本来の市場社会なのではないか?
 「広告とは,すくなくとも,情報の『流通』であることはまちがいないだろう」(51ページ)。そしてその,情報の譲渡に代価・コストが本来発生するのは言うまでもない。しかし広告によって情報は消費者に「譲与」される。この点において広告は「非=市場的なものである」(51ページ)。このことを筆者は「市場メカニズムの不十分さを,なんらかの仕掛けでもって広告が補っている」(52ページ)と考えている。
 情報の譲渡においてはいくつかのパラドックス・困難が見受けられる。①「立ち読みのパラドックス」と②「スパイのパラドックス」と著者は呼んでいるものである。①は,情報の中身は開けてみないと自分にとっての価値は分からないが,本を購買しなくても立ち読みでその情報を取得してしまったらもはやその本を買うには及ばないことを指し,②はスパイがある情報を握りある会社との商談のテーブルについたとき,その時点で,その情報の中身を開示する前に競合他社が「新製品の開発に成功した」という有益な情報をその会社に(無償で!!)提供した事になる。これがスパイのパラドックスである。「情報流通に関する2つのパラドックスは,実は情報財として意識されていない多くの商品にもあてはまる」(54ページ)。このようなパラドックスに対処しているのが広告ではないだろうか?広告とは企業の販売促進のツールであり,一見「情報の無償譲渡」をするがきちんと「モトをとる」のが広告である。立ち読みのパラドクスによって情報の中身を知ってしまったら,「買う」ことをしなくなるかもしれないが,情報が流通しなければ当該商品は売れないのである。そこで広告はその情報を「あげてしまう」のである。消費者は広告によって「そこに有益なものがあることを知っており,従って,他の場所にも効用のある商品がある可能性があっても,そのための『探索のコスト』をかけるよりも『既に知っている』商品を買うほうが功利的になるのである」(55ページ)。
 しかし広告にも困難さ,無効性はある。1つは広告が成功した事によって「情報上のギャップ」(56ページ)がなくなってしまった時。2つ目は他社との相対的な無効性である。今日さまざまな企業が存在し,それぞれが独自の広告戦略をとっている中で,同じ「手」で対抗する可能性は否定できず,相対的優位性・アドバンテージは薄れていく。3つ目は「賢い消費者のパラドックス」(57ページ)と呼ばれるものであり,商品の中には広告をされていない「隠れた名品」の可能性があり,消費者はそれを探す可能性もある。また広告をしていない商品のほうが企業はその製品に自信があるのだ,と消費者は学習し広告が無力になってしまう場合もある。
 上記の問題の解決策として「マルチ商法」(58ページ)がある。それは「消費者を自分の階層性の内部に取り込んでしまうことで,広告の無効性に対抗しているように見える」(58ページ)。1・2の情報ギャップを消失させ,消費者をマルチ階層の中で「昇進」させることで,他商品の魅力に気付いても,当該のほうが有利であると思わせるに足るように読みこむのである。しかし著者は長期的なマルチ商法は不可能であるとし,広告の困難性と物を売る事の困難性を述べている。

結論
 広告の本質とは何か?それは情報譲渡のパラドックスを逆手に取り,まず消費者に有益な情報を無償で提供することで消費者の情報探索のコストを省き,消費者の効用の期待値を大きくさせることである。市場メカニズムだけではうまくクリアできなかったことを,無償譲渡によって広告は突破したのである。

出典:桜井芳生(1994),「人文学科論集」『鹿児島大学法文学部』,40巻,47-59頁。

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2005年07月12日

消費者の視点からとらえたマーケティング・コミュニケーションの影響過程(堀内 2001)

 ここでは,マーケティング・コミュニケーションを「消費者行動にかかわるコミュニケーション全般」(20ページ)としている。従来の広告効果研究が1つの広告を対象にした送り手からの1直線的なモデルであることに対し,消費者は多様なマーケティング・コミュニケーションに接しているし,必ずしも1直線的な影響を受けるわけではないとし,消費者の視点から「マーケティング・コミュニケーションの影響過程について検討する」(20ページ)としている。

 まず,モデルを構築するために適用可能な理論や考え方を検討している。製品星座,自律的空想的快楽主義,消費経験論を取りあげている。製品星座からは日常において消費者は複数のマーケティング・コミュニケーションに接触し,それらの組み合わせで捉えているという考えが,自律的空想的快楽主義からは消費者が製品やサービスの使用場面を想像し,その場面を実現するものとして個別ブランドを欲するという考えが,消費経験論からは消費者のマーケティング・コミュニケーションへの接触経験という考えが,従来の理論や考えを基にマーケティング・コミュニケーションの影響を考えるために置き換えられ,今回の研究に適用されたものである。さらにマーケティング・コミュニケーションへの接触経験では,それを長期的視点で捉えること,なかでも接触時期の異なる複数のマーケティング・コミュニケーションと購買のかかわりを検討できるとしている。これらの考えを基に,消費者の視点から捉えたマーケティング・コミュニケーションの影響過程についてのモデルが示されている。モデルの命題として,①「消費者は,多様なマーケティング・コミュニケーションに接触して1つの購買に至ることがある」(22ページ)②「マーケティング・コミュニケーションの影響過程のうち,マーケティング・コミュニケーション接触から具体的な購買欲求喚起までは,非連続的に移行することがある」(22ページ)③「マーケティング・コミュニケーションによる購買欲求喚起の効果は長い期間をかけて生じることがある」(22ページ)の3点が挙げられている。

 当該製品を購買した理由,購買に至るまでの経緯,必要と感じた時には補足説明を自由回答形式のインタビューによって収集している。そこからいくつかの事例を紹介し,それぞれの命題の妥当性を吟味していくとしている。命題①に関しては,新種のボイス・レコーダーの存在を知ってから注文に至るまでの事例と,最寄り駅に隣接したホテルに話題の衣料品店がオープンし家族の洋服を購入した事例が紹介されている。これらの事例から,日常生活において消費者は,「多様なマーケティング・コミュニケーションに接しながら購買欲求を喚起され,1つの購買に至る」(23ページ)ことがあり,購買欲求の喚起には様々な種類のマーケティング・コミュニケーションがかかわることがあるとし,これらは命題の妥当性を示していると言えるとしている。命題②に関しては,既に紹介されたボイス・レコーダーの事例と,大学生のグループによる旅行会社の選定の事例が紹介されている。これらの事例から,マーケティング・コミュニケーションへの接触から購買欲求喚起に至るのに非連続的移行が認められたとしている。よってこれらの事例は命題の妥当性を示していると考えられるとしている。今回の研究で見出された非連続的移行は,購買欲求を喚起された特定ブランドを入手することが不可能な必然的なものと必然的でないものとに大別でき,後者はさらに2つに分けられるとしている。消費者の知覚マップに有力ブランドやロイヤルティの高いブランドが存在する場合と,2つ以上(同一の刺激でなくてもよい)のマーケティング・コミュニケーションに接触した場合であるとしている。命題③に関しては,命題①で紹介された事例を取りあげ,「数ヶ月,数年にわたるマーケティング・コミュニケーションへの接触が購買欲求を喚起することがあると言える」(25ページ)とし,命題は妥当性があると考えられるとしている。

結論と課題
 消費者の視点からマーケティング・コミュニケーションの影響過程を検討した結果,多様なマーケティング・コミュニケーションに影響されて1つの購買に至ることがあること,影響過程は非連続的であることもあること,影響が長期にわたることなどがわかったとしている。一方で,残された課題として製品星座の考えを適用したマーケティング・コミュニケーション星座とIMCの関係を明らかにすること,製品カテゴリーレベルでの欲求が既に存在した時の影響過程についての検討,マーケティング・インプリケーションの可能性の検討が挙げられている。

出典:堀内圭子(2001),「消費者の視点からとらえたマーケティング・コミュニケーションの影響過程」『日経広告研究所報』,第35巻6号,20-25頁。

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2005年07月11日

広告表現評価の尺度開発(上)―「おっ!」「なるほど!」と思われる広告―(鈴木・安田 2003)

要約
 本稿では,クリエイターとマーケターがともに納得でき,共有できる広告表現評価の指標を開発しようとするのが本研究の試みである。

1.はじめに
 新聞を見る場合,広告業務に関わる人々は広告から目を通す習慣が少なからずあるかもしれないが,一般の人々は行きずりの人であるため広告よりも記事一般を無意識的に優先している。したがって,広告を無視し素通りさせる方が圧倒的に多く,しかも広告に目を通したとしても広告の平均処理時間は2秒間であると言われている。そこで,広告読者を獲得するためにはこの2秒間で「おっ」と言わしめる必要がある。また,広告読者になってくれた,注目されたからと言って,商品やサービスが必ず売れるわけではないが,まず注目されなければその先はなく,広告接触時での生存率が重要である。しかし,広告読者を獲得したとしてもその広告を読んで「なるほど」と思わず,期待に反するものであれば広告主に対する失望感が生まれ,広告主へのマイナスイメージが増えるばかりである。したがって,広告表現が「どのように広告読者を獲得し,どのように広告読者に評価され,そして商品あるいはサービスの販売にどのように力を発揮できるかを検証することは,広告業務に携わる人にとって常に大きな関心事」(3ページ)であり,クリエイターやマーケターにとって広告表現がどのように広告読者の心をつかみ理解されるかはビジネスの関心事である。しかし,戦後の長い広告の歴史の中で見てもクリエイターとマーケターが表裏一体となって存在することは難しく,企画と調査が乖離した状況が続いていた。そこで,本稿では両者が理解できる一定の客観性の指標を開発することやクリエイターが意図したように広告読者は受け止めているかを調査により検証していくことを視野に入れている。

2.<広告表現>評価に関する先行事例について
 広告表現効果の先行事例としては,広告効果を商品の売上から切り離し,「知名度」「理解率」「行動率」といったコミュニケーション目標で広告効果を測ろうとした「目標による広告管理」である「ダグマー」を始め,広告表現,デザインに関する注目率調査の記述やデザイン要素の注目率調査により客観的評価が難しい広告表現をデータ化した記述,アイカメラを用いて眼球運動測定を行った広告効果測定や眼鏡などを一切装着することのない最先端のアイカメラであるアイ・スコープを用いて視聴者が広告を見た瞬間からの視線の動きをリアルタイムに捉えることができる広告効果測定,または最新の認知心理学や脳生理学の知見に基づき広告表現を検証することを主張するものなど様々な広告表現の効果測定がある。

3.本研究の仮説  
 本研究の最大の目的は,「広告表現を読者の視点から評価する『尺度(モノサシ)』を得ることであり,研究的関心と同時に,クリエイティブワークの現場において実際に参照される(利用される)ことを目指している」(6ページ)であり,その結果を得るため以下の3点を仮説要因としている。第1点は細分化したデザイン素材などの表現アイテムは言及要素とせず,広告原稿全体を対象とした結果としての評価測定を行うこと。第2点は一般的に広告効果として考えられる累積効果の側面(継時的時間要因)は排除し,その広告に対する接触時点を考慮する(広告接触は短期記憶,ブランド認識・イメージ形成は長期記憶)。第3点は評価を2つの側面から観測すること。つまり,「おっ,と思う(印象)広告」と「なるほど,と思う(理解)広告」という2つの視点で評価観測することである。

出典:鈴木昭男・安田輝男(2003),「広告表現評価の尺度開発(上)―『おっ!』『なるほど!』と思われる広告―」『日経広告研究所報』,37(1),2-7ページ。

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2005年07月09日

広告戦略立案のためのブランド連想分析-「方向性」概念を基軸として(佐藤 2003)

要約
 過去の研究では,ブランドを起点として発生する連想に関するものがほとんどであったが,本稿ではブランドの外側の概念からブランドへ向かう連想が重要な意味を持つという考えより,独自の分析フレームを作り,自由連想調査を行い,連想の構造の視点より強いブランドとは何であるのかを分析するとしている。

1.はじめに
 過去のブランド連想に関する研究はブランド・エクイティ研究とともに発展してきたとし,ブランドを起点としてそこから抱くイメージや連想するものを対象とした研究が大半であったとしている。しかし,本稿では実際の購買,消費行動において「製品カテゴリ」や「製品属性・ベネフィット」からブランドを連想することも重要な意味があるとし,ブランド連想の定義を広く捉え,方向性概念を基軸とした連想の分析フレームを提案し,その枠組みより自由調査を行い,連想構造の視点より強いブランドの要因を分析するとしている。例として「アミノ酸」,「アミノサプリ」が挙げられておりその方向性は以下のとおりである。アミノ酸からアミノサプリを連想するのか,アミノサプリからアミノ酸を連想するのかということである。

2.ブランド連想における方向性概念と「ABCトライアングル」
 Farquhar and Herr(1993)は,ブランドを起点として連想するものと,あるものから連想してブランドに向かう方向性には強度に不均衡があるため両者を区別すべきであるとしている。阿久津・石田(2002)のビタミンCとアセロラドリンクの関係性の研究をみると,その差は明らかであるとしている。ここで『ビタミンCの摂取を目的とする考慮集合を想定してブランド想起の問題を考える場合,「ビタミンC→アセロラ」の連想は,「アセロラ→ビタミンC」よりもはるかに重要』(44ページ)であるとしている。次に指標については以下のことが述べられている。ブランドを起点とした場合,そこから連想した項目はブランドの「理解度」を示す指標としては適切であるが,消費場面において連想からブランドに向かった方がブランドの強さの指標としては適切であるとしている。
 つまり,「ある概念からブランドへ向かう連想が強いということは,その概念のグループ内にいる他の競合銘柄に比べて優位にある」(45ページ)としている。また,ブランドを連想させる機会が多いものも非常に有利であるとしている。
 前章でも紹介したように本稿ではブランド連想を広義の範囲で捉えている。これに基づき「ブランド(Brand)」,「カテゴリ(Category)」,「製品属性(Attribute)」に分け,各項目より残りの2つに矢印を引いたものを「ABCトライアングル」と呈示している。ここでのブランドはKeller(1998)の定義に従って,「ブランド部分を単なるブランド名のみならず,ブランドを識別させる要素も含めて考える」(45ページ)としている。広告戦略においてこの考えを適用する時には,ブランド,広告間の連想を,ブランド,カテゴリ・製品属性の関係と同一に考えずに広告を手段的要素,カテゴリなどのブランドに関する連想を目的的要素として分けて考えるとしている。

3.自由連想調査調査概要
 前章で記した分析フレームに従って,機能性飲料(ポカリスエット,ダカラ,アクエリアス,アミノサプリ)と茶飲料(おーいお茶,生茶,まろ茶,爽健美茶)について大学生を対象として2002年の10月下旬から11月下旬に,一銘柄についてカテゴリ,ブランド,属性の各々を起点とした連想をリサーチしたとしている。この際,連続して質問すると互いの連想に悪影響を及ぼすので,調査は分けて行ったとしている。

4.調査結果
 各ブランドのカテゴリ,属性,ブランドを起点とした調査を行ったが,本稿では主要部分を抜粋して紹介するとしている。
 まず,ブランドを起点とした自由連想の飲料銘柄連想の総合的分類を行っている。次に各ブランドについて個別に分類すると以下のとおりである。「ポカリスエット」,「アクエリアス」,「おーいお茶」はカテゴリ関連の連想が多いカテゴリ型,「ダカラ」や「生茶」はブランド周辺の連想が際立っている広告型,「アミノサプリ」,「爽健美茶」はその商品の特性の知識などが相対的に強く表された属性型,「まろ茶」は全体的に連想反応が低い,埋没型であると記されている。また,広告型の2つはマインド・シェアの高いブランドであるともしている。
 強いブランドの連想構造とは何かについて「ポカリスエット」,「ダカラ」,「アミノサプリ」の3銘柄に焦点を当てて考察するとしている。「ポカリスエット」の調査結果より,ロングセラー・ブランドは「利用目的連想の構築は長期にわたるコミュニケーションの蓄積がないと難しい」(47ページ)としている。「ダカラ」の調査結果より,広告によるところが大きいブランドは効能・ベネフィットを補強する知識を加えていくことや,効能イメージを消費者側の日常生活にうまく浸透させて結び付けていくことが必要であるとしている。「アミノサプリ」の調査結果より,消費者の知識内で属性部分がカテゴリと機能するようになると,追随する競合銘柄に対して優位に立てるとしている。
 カテゴリを起点としてブランドの連想を構築するには,コミュニケーションの面から考えるとブランドに流れやすくすることやブランドへ向かう連想数を増やすことが挙げられている。製品戦略の視点から見れば,サブカテゴリの構築やパイオニア戦略があるとしている。広告戦略において連想を流れやすくするということは,「広告メッセージに内包されるコンテクストを強化して説得力をもたせること」(48ページ)であるとしている。つまり,結節点を入れることによって概念間を強化することであるとしている。そうすることにより強固な連想が構築されるとしている。

 結論は以下のとおりである。①消費者のブランド知識を知るためには,ブランドの連想構造を十分に調べなければならず,②考慮集合概念からブランドに向かう連想強化のための鍵概念の洗い出し,そしてそれがブランドに帰着するための独自のコンテクスト創造,③長期的コミュニケーションにおけるブランド想起のためのきっかけ増加,④連想することにより,自社ブランドがどれだけ連想のシェアがあるのか知っておくことが必要であるとしている。

出典:佐藤志乃(2003),「広告戦略立案のためのブランド連想分析-「方向性」概念を基軸として」『日経広告研究所報』,第37巻4号,44-49頁。

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2005年07月07日

クオリティ・オブ・ライフに関する基本的問題(渋谷 1998)

要約 
 クオリティ・オブ・ライフは生命の質、生活の質などと訳されているが,適訳がなく,現在では英語あるいは略語のQOLをそのまま使用していることが多い。QOLは人それぞれによってとらえ方,感じ方は異なるが,基本的には人間としてより充実した生活を送るために,その生活の質や人生の質を重視し,肉体的,精神的,社会的に良好な状態を保つ,あるいは向上を目指す考え方であると述べられている。高齢者の福祉,精神医療,終末医療,社会環境,社会老年学など,さまざまな分野でその重要性が唱えられているとしている。近年、特に医療の世界においてクオリティ・オブ・ライフが重視されてきているとし,この述語の意味するところは何であるのかというこの問いに答えるには,「Life」という概念を検討することが必要不可欠であるとしている。この論文の意図は,「Life」の多義性を解明し,さらにクオリティ・オブ・ライフをめぐって生起する問題点を指摘することとしている。

1.生命
 「命の質」という場合には生命の質の良否という価値判断の前に「生命とは何か」という問いにある程度答えなければならない。私たちは「生命体」を単に「生命」と称するあり,必ずしも両者を自覚的に区別しているわけではなく,私たちは「生命体」なり「生命」なりを無反省に使用しているのである,としている。言うまでもなく,生命現象は有機体に固有の現象であり,生命は生命体の機能であるとし,「もとより生命体としての人間は一つの統合体であり,そこに生起する諸々の生命現象は相互に関連し,一つの有機的な統一を保っている」(306ページ)と述べている。ここで論じるQOLのLifeは生命体の機能を意味し,QOLは生命体の機能の質となる,としている。

2.生と死
 死には,脳死という死や,呼吸の停止という死もあるため,「死」は,一義的ではなく,多義的なものであるとしている。死は段階的に進行するものであり,死は生命力が弱まる過程に見られる現象であるから,生と死は不可分の関係にあり,共存しうると述べている。QOLにおけるLifeが「生命」を意味するのであれば,この生命は過程としての生命現象のどの範囲を指すのであろうか。そして,或る固体において生の現象と死の現象とが共存しているとき,その個体の死をどの時点で判断するのか。これは生物学や医学の問題であると同時にそれを越えた問題であるとしている。生命の終末がどのように考えられようとも,QOLはこの時点に至るまで考慮の対象になりうると述べられている。

3.個体
 「固体という概念は,倫理学では人間の集団,社会的な組織に対立する概念とされており,個人と言われるものである」(310ページ)としている。先に私たちはQOLを生命体の昨日の質と見なし,その際,個体としての生命体を念頭に置いていたが,生命体は固体としてのみ存在するわけではないとし,生物学や医学で生命体を論ずる場合,生命体は,細胞,組織・臓器,固体,集団などのレベルで考察することができる。「個体として生命体の機能の質の良否は,当然のことながら組織・臓器としての生命体の機能の良否に依存する」(311ページ)としている。

4.QOL
 今日では「生命の量よりも質」ということが医療の合言葉であり,QOLが重大な関心事となっている。生の最終段階が死であり,生なくして死はありえない。生が社会性を持つものであるならば,生の完成としての死もまた社会性を有するものでなければならない。生も死も単なる個人のためではない。患者に自己決定権があるといっても,しれは無条件のものではなく,自ずと限界がある。患者の生死はある意味では管理された生死である。・・・このような状況で,患者のQOLをどのように理解したら良いのか。Lifeは生命でもあり,生活でもある。医療の現場でのQOLを考慮する場合に,そのQOLには現在のQOLだけでなく快癒後のQOLも含まれていると説明している。生命の質の良否は彼らの日常生活に現れてくるため,QOLは結局,生活の質であるとし,QOLを「生命の質」と訳そうが,「生活の質」と訳そうが,QOLは人間的生命の質であり,人間的生活の質なのであると述べている。

5.QOLと意思決定
 意思決定能力のない患者のQOLと生命維持については,多くの問題があり,現在でも一致した見解は見られない。QOLの段階を設け,完全な健康体の場合にそれを1とし,死体の場合にそれを0とするならば,意思決定能力のない患者のQOLは0に限りなく近いとしている。誰であれ,人格を有するものとして,等しくQOLの向上に与かる権利を有することができるが,果たして個人は自己のQOLを無制限に追求できるのか。或る個人のQOL向上のために別の個人のQOLを犠牲にすることが許されるのか。医療経済学は,今後多くの難問の解決を迫られるであろうとしている。
 
結論
 QOLの向上は誰もが願うところであるが,現実は過酷である。QOLは個人の問題ではなく,社会の問題である。個人のQOLや個人の幸福のみを追求する時代はどうやら終わりを告げようとしている。「新しい時代に即応した医療と生命倫理の確立こそが急務である」(316ページ)。

出典:渋谷久(1998),「クオリティ・オブ・ライフに関する基本的問題」『上越大学研究紀要』,第17巻第1号,305-317ページ。

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2005年07月06日

マス広告の限界とメディアのリストラクチャリング-特集“質”コミュニケーションのパラダイム・シフト-(大橋 1993)

この論文では,「メディアはメッセージである」というフレーズが多用されており,広告のコピーや映像など内容よりもメディアそのものが持つメッセージ性を重視し,「メディア」が文化や環境を作り出していることを強調している。最近のメディアの変化に比べて,「広告のメディア」の現状が変化していないことに触れ,21世紀の広告のコンセプトについて言及している。

 “メディアはメッセージである”-この言葉は,「M・マクルーハンの『人間拡張の原理』の最初に登場する」(57ページ)。メディアのメッセージ性とは,「例えば印刷は,口述文化の持つ地域性を無くし,国民を同質化しナショナリズムを生み出した」(57ページ)と指摘している。“メディアはメッセージである”この視点を筆者は日常生活が取り巻く個別のメディアに当てはめている。同じコピーや言葉でも,どういう手段=メディアで表現するかによって全く効果は異なる。「コミュニケーションの手段そのものが1つの大きなメッセージになっているということであり,もちろん,広告のコミュニケーションにもあてはまる」(57ページ)。
 広告のメディア選択の際,広告主はターゲットに対するリーチ,フリークエンシー,GRPなどの目標値に基づいて計画され,広告を載せる媒体であるメディア自体が持つ「メッセージ性」は考慮されない場合が多い。考えられてきたにしても,媒体特性程度で,例えば,新製品発売時の広告媒体としてはテレビコマーシャルが一番コストも安く,知名度を高めるには効率がいいと判断されてきた。このようなメディア選択では,誰もが同じメディア・ミックスを行うことになる。ある一定の評価の定まった広告媒体に広告が集中し,新しい媒体として他の何かが採用されたり,「メディア選択の新しい試みは行われにくくなる」(57ページ)。すると受け手は決まりきったメディアでの広告にしか出会えない。メディアの持つメッセージ性は生かされず,広告の内容(表現性・面白さ・コピー・映像・インパクト)だけが「創造性に関わる」(57ページ)問題となる。広告は表現などその内容においては独創的にその変化をさせてきたし,新しい試みなどもしてきたがメディア選択では差異性を求めるよりもむしろ効率を求めたりと保守的であった。 
 しかし,メディアのメッセージ性を組み入れたメディアとして“J-WAVE”がある。この番組編成の仕方は特徴的で時間帯によってターゲットを分け,その時間によって個別の番組を作るというのではなく,その放送が1つの番組のようになっている。その番組編成がメッセージとなっており,リスナーは「J-WAVEを聞きたい」という動機でそのラジオをつけるのである。また,J-WAVEの広告はメディア選択にも特徴があり,「東京というリージョナルな音楽マーケットに徹頭徹尾にこだわって」(58ページ)おり,巨大ポスターは東京の風景の一部となっている。つまり,広告自体が都市の一部になる事で「存在理由の訴求」の達成ができ,都市のイメージに重ねることで強いイメージで定着していく。
 広告媒体はテレビ・新聞・雑誌・ラジオの4つが主要なものであり,この構造は長年,広告の内容の変化に比べるとさほどの変化は見られないが,消費者ニーズの変化や,ニューメディアの登場によって変化が促されつつある。携帯電話やパソコンなどツー・ウェイのコミュニケーションメディアが増えとことも特徴的である。コミュニケーションメディアは新たな広告媒体となりえるだろうか?広告費をできるだけ低コストに抑えたいのは度の企業でも同じである。その有効的な使い方の1つにツー・ウェイのメディアの使用が挙がる。それを中心として「コミュニケーションのメディアの進化が広告のメディアを変えていくことは間違いない」(60ページ)。しかし一方で,情報の質も変わってくる,代表的なものが本文の言葉を借りるとするならば①情報の等身大性と②(消費者の)参加型と言え,より現実的な情報の提供が求められ,受け手が送り手になることをそれは可能にするのである。「企業はユーザーや顧客の声が自由に行き交うメディアをスポンサードすることが求められているし,そのためのメディアがいま用意されているのである」(61ページ)。ネットワークのコミュニケーションが進化していく時代に入った。

結論
 表現においてアイデンティティが必要なように,コミュニケーションのメディアの選択にもそれが求められる。より広告費を効果的に使うためにもダイレクトにコミュニケーションができるツールや対話型のメディアが必要とされており,ネットワークのメディアを作ることが必要になってくる。それを通じてコミュニケーションを創出するべきである。

出典:大橋正房(1993),「マス広告の限界とメディアのリストラクチャリング」『ブレーン』,33(10),56-61ページ。

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2005年07月05日

消費者の情報処理プロセスとコミュニケーション戦略(清水 2005)

 この論文は,消費者の意思決定プロセスの段階の違いや,製品への関与度によって重視される評価項目や利用メディアがどう異なるのかをデータを用いて分析している。

 文献レビューの結果,情報処理型プロセスについて多数のモデルが提示され,そのモデル研究によって①消費者は過去の経験を知識として蓄え,知識の違いによって外部からの情報の処理方法が異なること,②知識の違いは関与の違いと関係すること,③消費者は何段階かをかけて意思決定すること,④段階によって意思決定の方法,重視する商品属性が異なること,などが外部情報との関連で明らかにされたとしている。過去の研究から,消費者の関与度や意思決定の段階によって,評価項目が異なることは明らかにされているが,必要とされるメディアの違いまでは言及されていないとして「評価項目が異なれば,利用するメディアも異なっていいはずである」(9ページ)という問題意識を提示している。
 
 分析に用いたデータは,大日本印刷のメディアバリュー研究2004年版である。メディアの利用状況から16の商品カテゴリーに分類し,購入に関わるメディアとチャネルの利用方法が似た商品カテゴリーをクラスター分析によって類型化している。その結果,刺激-反応型の意思決定が行われる商品カテゴリーと情報処理型の意思決定が行われる商品カテゴリーにわかれたとし,刺激-反応型からはアルコール飲料を,情報処理型からは自動車が選択され,それぞれが詳しく分析されている。まず,意思決定プロセスの異なる段階での利用メディアを概観している。次に,関与度の違いによって消費者を4つのレベルに分類し,比較検討時と最終決定時にそれぞれ重要視される評価項目を関与度のレベルごとにApriori分析で求めている。最後に,重要視される評価項目と,その際の利用度が高いメディアとの関係を比較検討時,最終決定時それぞれについて偏差値で示している。

 分析の結果,アルコール飲料は「同じ評価項目を同じメディアで評価し,選択していると考えられる」(15ページ)としている。具体的には,①意思決定プロセスのどの段階においても利用メディアの違いはほとんどなく,口コミを除けばテレビなどの受動的なメディアが利用されていること,②関与度のレベルの違いによる評価項目の違いの差はほとんどなく,比較検討時と最終決定時でも同じような結果となっており,周囲の評判,広告・宣伝,品質・性能,ブランド・メーカー,割安感,使用経験が重要視されていること,③どの関与度のレベルでも比較検討時,最終決定時ともにテレビと店頭情報の影響が強く,関与度のレベルの違いが出るのは,関与度のレベルが高いほど積極的に情報を収集しなければ入手できない口コミ(能動的な情報)を重視し,レベルが低いほどメーカーや小売の情報(受動的な情報)で評価すること,が明らかになったとしている。自動車は関与度のレベルに限らず評価項目はほぼ同じだが,関与度のレベルの違いによってその項目の重要度が異なるため,それらの項目の情報を入手するのに利用されるメディアも異なってくると考えられるとしている。具体的には,①意思決定プロセスの段階が進むにつれてテレビなどの受動的な情報から店員や販売員の情報やパンフレットといった能動的な情報へと利用されるメディアがシフトすること,②比較検討時,最終決定時で評価項目に違いがあり,比較検討時は関与度のレベルの違いによる評価項目の違いはあまりないが評価項目の重要度が異なること,関与度のレベルの違いに関わらず比較検討時での評価項目の数が最終決定時よりはるかに多く,最終決定時の評価項目はブランド・メーカー,デザインなど関与度のレベルの違いに関係なくほぼ同じであること,③どの関与度のレベルでも比較検討時と最終決定時ともに店員や販売員の情報やパンフレットの影響が強く,関与度のレベルの違いが出るのは関与度のレベルが低いほど最終決定時に家族の意見を重要視し,関与度のレベルが高いほど比較検討時に多くのメディアを使うこと,が明らかになったとしている。

結論と課題
 この分析の結果は,コミュニケーション戦略において「各メディアが得意とする商品評価項目を明らかにするとともに」(15ページ)消費者が意思決定プロセスのどの段階で何を重視するのかを知ることが必要であることを示しているとしている。今回は言及できなかった,意思決定プロセスの段階ごとのメディアの組み合わせやその効果がどのようなものなのかを見ていければ,コミュニケーション戦略はより精緻なものが導けるだろうとしている。

出典:清水聰(2005)「消費者の情報処理プロセスとコミュニケーション戦略」『日経広告研究所報』,第219号,8-15頁。

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2005年07月04日

「新しい広告」の理論―AIDMAを超える新しい広告研究を求めて―(飽戸 2003)

要約
 今日,AIDMAやDAGMARなどの広告効果研究が行われてきたが,期待されるような効果は確認されていない。そこで,本稿では「『新しい広告』の理論と方法が今日の広報研究に新しい有効な視座を提供することを示唆している」(7ページ)。

1.「新しい広告」の機能
 戦後,広告量が急激に増大し,人々は広告に飽き飽きし,広告を嫌う傾向が増えてきた。テレビ視聴においてもザッピングなども一般化していた。そのような時にアメリカでおもしろ広告が出現し,人々に衝撃を与えた。このおもしろ広告は,これまでの「これを買ってください」や「こんなに安いですよ」などの販売促進広告とは異なり,「これは何だろう」と思わせるもので広告にうんざりしていた民衆に興味をもたせるものだった。このおもしろ広告は,瞬く間に日本にも普及した。その代表例は大橋巨泉が万年筆をもってつぶやく「はっぱふみふみ」広告である。おもしろ広告の特徴としてはただ表現がおもしろおかしいだけでなく,「斬新な発想と手法,さまざまな広告のタブーへの積極果敢な挑戦」(3ページ)である。また,やってはいけないことをするもの,やらなければいけないことをやっていないものやしゃれたもの,見て楽しいもの,ただ単に相手を誹謗中傷する競争広告などはネガティブ広告と言い,このネガティブ広告とおもしろ広告を総称して新しい広告としている。これまでの販売促進広告は送り手の意図の達成度を見るAIDMAやDAGMARなどの「広告のよる認知,態度変容,そして行動化が,効果研究の目的であり広告戦略の基本となる」(3ページ)。しかし,新しい広告は受け手の立場で,受け手にもたらすものを測定する利用と満足の研究が基本的視点である。つまり「自分の関心,興味に合わせて広告を楽しみ利用する,受け手の主体性の回復」(3ページ)である。

2.「新しい広告」研究の基本的視座
 新しい広告を捉えるための基本的視座は3つある。①広告の基本的機能の「プロモーション効果」と「コミュニケーション効果」のうち,新しい広告では「プロモーション効果」について検討する。②コミュニケーション効果をどのように測定するかについての理論と方法の開発に焦点が置かれるべきで広告の話題性,マスメディアのよる無意識学習の功罪,沈黙の螺旋効果,知識・情報機能,理想・夢・熱き想いを訴える機能,作品をそのまま楽しむコンサマトリー機能,新しいライフスタイルや文化をも提案していくという提案機能,広告の新しい機能の発掘と実践研究による確認・洗練が今後の課題となる。③これからの広告はインターネット,デジタルテレビ,ケイタイ電話などの新しいメディアとの協調が不可欠であり,これらのニューメディアとこれまでの新聞やテレビなどの巨大メディアをいかに連携させ,活用していくことが課題となる。

3.広報の利用と満足研究
 ここでは,新しい広告の理論が広報研究にも有効な理論と方法を提供すると考え,広報効果研究会の調査を基にプロモーション機能についてのテレビ広告と新聞広告の接触の違いについて述べられている。

結論
 これからの広告はインターネットなどのニューメディアとの協調が不可欠であるため,「インターネットとマスメディアとの機能の違い,そして役割分担と,それらさまざまな新しいメディアとの相乗効果を探ること」(4ページ)が新しい広告の重要な課題となる。
 
出典:飽戸弘(2003),「『新しい広告』の理論―AIDMAを超える新しい広告研究を求めて―」『日経広告研究所報』,37(2),2-7ページ。

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2005年07月02日

広告とユーモア知覚-その心理過程についての探索的研究(李 2002)

要約
 ブランド間の質的変化が見られない現代では,広告の中心要素である製品を直接伝えるより,それ以外の周辺的要素からアピールする広告が増えている。本稿ではその1つとして「ユーモア広告」を扱い,広告場面でのユーモア知覚が生じる心理過程について,探索的な研究を試みるとしている。

1.ユーモア知覚に関する諸理論の検討
 モリオール(1995)によると,ユーモア知覚に関する研究は大きく分けて以下の3つに大別できるとしている。①優越感情や攻撃心理によってユーモア知覚が生じるという観点から,ユーモア刺激の特徴やユーモア知覚を攻撃心理と関連づけて説明しているアプローチ,②ユーモア表現に対する理解や認知的情報処理など,ユーモア知覚が生じる認知過程に注目したアプローチ,③ユーモア知覚が生じる過程における受け手の感情的状態や変化に焦点を当てるアプローチ。それぞれのアプローチがどのように捉えられてきたのかを記している。さらに②のアプローチでは不適合理論,不適合-解消理論,メッセージに内在するスクリプトの対比性理論が挙げられており,不適合理論とはユーモア刺激からもたらされた期待感と違った結果から生じる不一致とされている。ただし,すべての不一致による驚きがユーモア知覚を引き起こすわけではなく,「安全で脅威のない状況で起こらなければならない」(79ページ)としている。以上のことは複雑な心理過程を伴う,それを説明する理論が不適合-解消理論である。その名前のとおり受け手がある情報を受け,不一致が生じて,それを理解することにより不安や緊張感が解消され,ユーモア知覚が生じる考え方がこの理論である。メッセージに内在するスクリプトの対比性理論とは「言語的刺激に対比する2つのスクリプトが存在するときユーモア知覚が生じるという理論である」(80ページ)としており,これに関する研究はあまりされていないとしている。さらに③は喚起とユーモア知覚,精神力学的理論の観点が挙げられており,前者はBerlyneのそれまでに経験したことのないユーモア刺激により,生理的喚起が高まって不快が起こり,それがのちに快感になってくる考え方とRothbartの「喚起そのものあるいはそのレベルの変化ではなく,喚起に伴う人間の解釈行為を問題にする必要がある」(81ページ)としている。後者はFreudの考え方,社会的に禁止されている事柄をユーモア知覚や刺激を通じて,抑圧から開放され生じる感情が挙げられているが,そのことに関しては実証が不可能である点が指摘されている。

2.研究課題
 前章で3つのアプローチを紹介したが,実際にはもっと多くのユーモアタイプが存在しており,ユーモア現象とユーモア心理を理解するためには,これらのアプローチを包括的に扱った研究が必要であると記している。広告におけるユーモアも同じで包括的な研究はあまりなされていないとされている。そこで本稿はユーモア知覚とユーモア広告の関連性を明らかにすることが大切であるとした上で,受け手の反応の観点からCho(1995)の行った「提示されたユーモア知覚をもたらすメッセージの特徴,ユーモア刺激の分類を試みた実証研究に基づいて32項目から構成された尺度を作成し,印刷広告に対する被験者の反応の分類」(82ページ),さらにユーモア広告のタイプとユーモア知覚との関連性についての分析がアメリカで行われた結果であることから,日本でも広告に対するユーモア知覚とその心理過程について実証研究を行う必要があるとし,さらにアメリカでの先行研究との文化差の比較を検討するとしている。

3.研究方法
 被験者は大学生158名で,対象に広告物を呈示刺激した実験により行われ1998年7月2日に実施されたとしている。対象者に呈示したものは『コピー年鑑』より抜粋したものとされている。さらに各項目の変数尺度が記されている。

4.分析結果
 まず,受け手の反応に基づいてユーモア広告のタイプを分類するために因子分析を行う。バリマックス回転後得られた因子は「機知性」,「風刺性」,「複雑性」,「日常性」,「言葉遊び」,「誇張性」の6つであると記されている。ユーモア知覚が生じる心理過程の項目も同じように因子分析し,「認知過程」,「感情過程」,「攻撃心理」と分類されている。次にどのような心理過程を経てユーモア知覚が生じるかについて相関関係より分析しており,「機知性」は「認知過程」と「感情過程」の間に有意な正の相関が見られ,「風刺性」は「認知過程」に有意な正の相関が,「複雑性」は「認知過程」との間には正の相関が,「感情過程」との間には負の相関が見られ,「日常性」は「感情過程」と「攻撃心理」に正の相関が,言葉遊び」はすべてにおいて有意な結果が出なかったとし,「誇張性」の場合は「感情過程」と「攻撃心理」において正の相関が見られたとしている。以上の結果をCho(1995)の先行研究と内容的に関連するもの比較しながら考察するとしている。さらに「風刺性」,「複雑性」,「日常性」においてCho(1995)の研究と比較する。「風刺性」は「優越理論や軽蔑・非難理論で指摘しているような攻撃心理の正の規定力が見られたのと対照的な結果」(85ページ)であったとしている。「複雑性」は,ほぼ同様の結果が得られたが感情過程との間だけCho(1995)と異なり,負の相関が見られたとしている。これは何らかの不安や困惑を受け手が感じた結果であり,それを説明する理論としては認知過程に注目したものが適切であるとしている。「日常性」は同じ結果が得られたとしている。

 結論は以下のとおりである。まずこれらまでの研究と同じように,ユーモアタイプによりユーモア知覚の心理過程が異なることが明らかにされた。国際広告においても,普遍性と文化差を考慮した研究の展開が必要性であることが再認識された。また,本稿で行った研究は欧米で展開されたものなので,今後は日本のユーモアなどを考慮した考察が必要であると記している。

出典:李津娥(2002),「広告とユーモア知覚-その心理過程についての探索的研究」『日経広告研究所報』,36(5),77-88頁。

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2005年06月30日

ブランド拡張における知覚の適合(齊藤研究会戦略グループ 2001 )

要約
 本論文では,近年注目が集まるブランド拡張に着目し,その過程で生じる知覚適合のプロセスの理解を深め,既存ブランドの進出事業先の新ブランド(以下,拡張先ブランド)への影響を吟味する。知覚適合プロセスに加えて,本論文ではブランド拡張を行うときのマーケティング・コミュニケーションの役割についても考察する。マーケティング・コミュニケーション,特に広告がブランド拡張の過程で生じる知覚適合のプロセスにどのような影響を与えるかを調査し,その調査結果をもとにブランド拡張における広告,販売戦略等のマーケティング・コミュニケーション戦略を考慮し,提言している。

 既存研究では,ブランド拡張に影響を与える要因として多くの研究者が,“知覚の適合”を挙げているが,本論文ではAaker&Kellerの研究を基にブランド・イメージが具体的にどのように変化するかを調べることで,部アンド拡張における知覚の適合プロセスについて研究を進めている。また,ブランド拡張に伴う有効な戦略を研究する立場から,マーケティング・コミュニケーションのブランド拡張への影響についても考察している。
“ブランド拡張の成功には知覚の適合が必要である”という既存研究を踏まえ,実際にブランド拡張によるブランド・イメージの変遷を調べるにあたり,以下の仮説を立てている。①ブランド拡張先のブランド・イメージは既存ブランドのブランド・イメージとブランド拡張先カテゴリーのイメージの双方から影響を受ける②ブランド拡張には既存ブランドと拡張先ブランドのブランド・イメージの類似性,すなわち“知覚の適合”がブランド拡張の必要条件である。仮説①②から,②a既存ブランドのイメージとカテゴリーのイメージ間に類似性があり,故に既存ブランドと拡張先ブランド間の知覚が適合し,ブランド拡張が成功する②b既存ブランドのイメージとカテゴリーのイメージが異なる場合,既存ブランドと拡張先ブランド間の知覚が適合せず,ブランド拡張も成功しない。という,ブランド拡張には以下の二つのパターンが存在すると仮定できる。さらに,ブランド拡張を成功に導く視点から,既存イメージを基盤とするブランド拡張に広告や販促等のマーケティング・コミュニケーションを用いて新しいイメージを付加した場合を考えたものが③広告や販促等のマーケティング・コミュニケーションは既存ブランドに新しいイメージを付加することによりブランド拡張に影響を与える。仮説③によるブランド拡張の影響への結果は,③aマーケティング・コミュニケーションによって,既存のブランド・イメージをコントロールし,知覚適合させブランド拡張を成功に導く③bマーケティング・コミュニケーションによって,既存のブランド・イメージをコントロールするが,知覚適合に失敗し,ブランド拡張に失敗する。また,既存ブランドとカテゴリーのイメージが大きく異なる場合は,既存ブランドに影響を与える場合も考えられるため,④ブランド拡張は既存ブランドにも肯定的,あるいは否定的な影響を与えるという仮説も立てる。ここでアンケートによる検証に入る。「ブランド拡張や,マーケティング・コミュニケーションによるイメージコントロールで,ブランド・イメージがどのような変化を生じるかを十五変数の値の変化で検証した」(51ページ)ここでは,マクドナルド(ハンバーガー)を既存ブランドとして,テーマパーク,スポーツクラブ,タバコの三つを拡張先カテゴリーとして仮定し,検証方法としては各項目の平均の差の検定と相関分析を行い,全体的なイメージの変化を調べるのに多次元尺度法を用いている。結果,検証により仮説①,②,②a,②b,③,③b,④を裏付ける統計結果を得ることができた。この調査を踏まえて,以下のことが提示されている。

結論
 ブランド拡張を成功させるためのステップとしては,①ブランドに対する現実の消費者意識と望ましい消費者意識を明確にする②拡張可能な候補を特定する③拡張候補の潜在力を評価する④拡張を実施するためのマーケティングプログラムを計画する⑤拡張の成功と,既存ブランドのエクイティに及ぼす影響を評価する。
 また,マーケティング・コミュニケーション戦略としては消費者知識を望ましい形へ誘導するのに,もっとも適したマーケティング・コミュニケーション手法は広告であるとしている。なぜなら,広告以外の手法で広範囲の消費者に情報を与えて,消費者知識を望ましいものに誘導することは非常に困難であるからである。広告戦略を軸にその他のマーケティング・コミュニケーション要素を設定し,統合的なマーケティング・コミュニケーション戦略を立案することが望ましい。
 
出典 慶應義塾大学 齊藤研究会戦略グループ (2001) ,「ブランド拡張における知覚の適合」『日経広告研究所報』,197号,50-54ページ。

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2005年06月29日

デジタル,ポストモダン,そしてアカウントプランニング(下)(小林・野口 1999)

 この論文では,時代の流れと共に変化してきた企業の情報戦略の焦点と生活者との関係性の変化について述べられている。メディアのポストモダン化のという局面の中で広告が取るべきコミュニケーションモデルを提示している。

優れた情報戦略は「Data」「Information」「Insight」の3段階を包含している。しかし時代の流れと共に,その焦点は変化してきた。
 マーケティングにデータベースが導入された当時,企業の情報戦略の焦点は「情報の取得(Data)」であった。企業の競争優位とは他者との差別化である,消費者調査を行いできる限りのDataを集めることで情報優位に立つことが出来た。しかし,「次第にDataは大量になり,コンピューター処理技術の発展も大量の情報処理を可能にした」(26ページ)。今度は「情報の総合(Information)」が求められるようになった。「各企業は独自のデータベースを持ち,その総合力を競うようになった」(26ページ)のである。この時点での情報戦略の枠組みは中央集権的であり,ヒエラルキー的である。「情報は集約し独占する事に意義があり,それを体系的に整理し,構築することが競争力の源泉であった」(26ページ)。この時代は情報処理の中心であるコンピューターも高速であることに開発の焦点が置かれていた。そのコンピューターを駆使して,ターゲット別,地域別,年代別など,様々な軸にそってデータを体系づけ,そのデータ構築の巨大さを競うことで優位を保ってきたのがこの段階の情報戦略であった。
 しかし,この優位を巡る競争は,進展するにつれ2つの問題が発生してきた。
①企業側の「総合的な情報」への慣れ
②情報の肥大化
第一は,巨大な情報量,体系は“多くの企業”に存在するようになってしまったことを指す。情報量をもってしての差別化が難しくなってきたのである。第二は,積み上げてきた情報体系は個人(法人)の能力では管理しきれなくなるほど巨大化したことである。情報が既に有り,整理もされているが,その量が膨大であるだけに,「その量が理解の範囲を超え,そこから何を洞察し,どんな戦略に結び付けていったらいいのかが分からなくなってきている」(27ページ)。
 このジレンマがビジネスの世界に現れてきている状況下で,情報戦略の焦点は「情報の洞察(Insight)」に移ってきていると言える。情報をもとにそこから何かを抽出しポジティブな力に変えていくことが焦点になってきている。
 除法の枠組みのポストモダン化が進行している,つまりヒエラルキー型からネットワーク型へシフトしてきているのである。この決定的な変化は,ネットワーク・コンピューティングやパソコンの浸透がもたらした。「データは硬直的ではなく常に更新される,常にインタラクティブに反応し合い,ダイナミックに流動している。この理念はパソコンとインターネットの普及で現実のものとなった」(27ページ)。もはや情報の量は焦点ではない,溢れる情報のうちどれを抽出するべきか,どの切り口で探索していったらいいかを洞察する能力が問われている。「洞察力を重視するAPの方法論はデジタルの進歩に伴ってますます重要度を増している」(27ページ)。
 メディアのポストモダン化は広告と生活者の関わりにおいて以下の3つの変化に整理できる。
①情報の寡占状態の打破
②情報圧力の激増
③情報への反応速度の劇的加速化
である(27-28ページより)。筆者はこの変化に対応し,広告者の生活者心理への作用のさせ方を変化させるべきだと主張している。多様化したメディアの中で生活者はその選択肢を広げている。「メディアの多様化は,生活者に情報の選択権を与える一方で,溢れる情報の圧力を感じさせる」(28ページ),生活者は,能動的にメディアを選択しなければならなくなるのである。デジタル技術を用いたインタラクティブなone to oneが実現すると情報はプライベートな距離に侵入してくることの危惧も指摘されている。
 「デジタル・エイジの広告コミュニケーションは,『強制的な到達』を前提とすることが出来ない」,押し付けがましさもあってはならない。強制的な文法よりも,むしろ日常会話に近いスピード感・フラットさが要求されていくのではないだろうか?と筆者は記している。筆者はこのモデルを“誘惑モデル”と名付た。①Cool,②Right,③Independent,④Unique,⑤Inspiring。これらは誘惑モデルにおいての広告コミュニケーションの評価軸である。①は注目を強制しないことを指し,②は分のわきまえを指す,③は生活者にすりよらないこと,④は独自な世界観⑤は話題の喚起である。「決して孤高に陥ることなく,生活者自身の言葉で語れる形になっており,理論的な意識の下に隠されている『エス』の部分を刺激する何かを隠し持っていることを意味している」(31ページ)。これらの背反した構造が魅力的なブランドを形作るのである。

結論 デジタル化によって,情報は生活者の受容範囲を,量・質ともにオーバーフローしている。従来の強制力を伴う文法は自社および自社製品の魅力をアピールするあまり「自慢」に陥る危険があった。これに対して「誘惑」の文法は決して無理強いの要素は無く,しかしオリジナルの世界観などにより自然と生活者に受け入れられる。本論ではこの誘惑モデルをデジタル・エイジに有効なモデルとして提示している。

出典 小林保彦,野口嘉一(1999),「デジタル,ポストモダン,そしてアカウントプランニング(下)」『日経広告研究所報』,33(5),26-32ページ。

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2005年06月28日

テレビ広告がブランド構築に与える影響(下)(阿部 2005)

 この論文は,先週にアップした,テレビ広告がブランド構築に果たしている役割を探るために,広告のクリエイティブ評価のあり方を再検討し,CMテストで収集できる項目を変数とし,消費者行動研究の成果も取り入れた枠組を提示することを目的とした論文の(下)にあたるものである。

 ここでは,実験によって収集されたデータを非集計レベルで分析し,仮説の検証を行い,その結果を基に広告戦略へのマネジェリアル・インプリケーションとして提示している。また,(上)の論文で「広告が態度へ与える短期的効果をインプレッション,長期的効果をイメージと定義している」(38ページ)ことを記しておく。
 仮説の検証は,仮説①CMへの接触はブランド・イメージの構築を促すか,についてはCMへの接触はブランド名の想起と互いに影響し,長期的にクリエイティブに含まれるメッセージの連想を向上させ,ブランド・イメージの構築を導くとしている。しかし,ブランドに対するイメージは,広告に対するそれと比べて構築されにくいとしている。これはメッセージの連想が広告に対する連想になりやすいためであるとされている。仮説②インプレッションがイメージに発展するという2ステージ広告モデルの妥当性,についてはモデルが支持されたとしている。これは,「CM接触直後のインプレッションはイメージの構築に重要な役割を果たしている」(42ページ)という理由による。また,CM接触直後のインプレッションが広告へのイメージの構築に直につながるのに対し,ブランドへのイメージの構築には「ブランド名の想起が媒介される」(42ページ)としている。ブランド名の想起はブランドへの高関与を表すと考えられるため精緻化見込みモデルの中心的経路による処理プロセスがブランドへのイメージの構築につながったと解釈できるだろうとしている。仮説③クリエイティブ要因とオーディエンス特性は,ブランドに対するインプレッションにどう影響するか,についてはクリエイティブへの好感度と真実性の評価が高いほど広告に含まれるメッセージがブランドへのインプレッションとして多く連想されるとしている。一方で,クリエイティブへの驚きはメッセージの連想を低下させるとしている。これは,被験者の既存イメージとの不一致により意外性が生じるためで,認知不協和,カテゴリー化,スキーマといった消費者行動理論で説明できるとしている。また,オーディエンス特性はインプレッションに影響しなかったとしている。これは,オーディエンス特性が態度形成に影響するのは短期的よりは長期に及ぶ持続的な時であり,今回の実験下では被験者が高関与(CMへの注目度が高い)であったという理由が考えられるとしている。仮説④クリエイティブ要因とオーディエンス特性は,イメージの構築にどう影響するか,についてはクリエイティブの好感度と真実性は,オーディエンス特性の影響を受けることなく広告とブランド両方へのイメージの構築をもたらすとしている。クリエイティブへの驚きは,長期的には高関与な(ブランド想起度が高い)ほど持続的に負のインプレッションが継続されるが,広告へのイメージは発見か矛盾のどちらと捉えるかによって正負の方向が決まるとしている。仮説⑤クリエイティブ要因とオーディエンス特性は,インプレッションとイメージの構築のどちらにより強く影響するか,についてはクリエイティブの好感度,真実性,驚きは接触直後のインプレッションの方に強く影響し,オーディエンス特性はイメージの構築の方にクリエイティブ要因との相互作用として影響を与えるとしている。これは,仮説③でも触れられたことだが,オーディエンス特性が態度形成に影響するのは短期的よりは長期に及ぶ記憶や持続的な態度の形成に寄与するからであるとしている。
 まとめと広告戦略へのマネジェリアル・インプリケーションについては,第一に,CMが注目を得られれば,クリエイティブ要因にのみ影響されて視聴者にインプレッションを与えるので,実務家は情報過多の現在の社会でいかに視聴者をCMにひきつけるかが重要な課題だろうとしている。第二に,CM接触直後のインプレッションは長期的には広告へのイメージの方に結びつきやすく,ブランドへのイメージの構築につなげるにはブランドの想起が重要であるため,CMはブランドのライフ・サイクルによって認知・想起を高める役割とイメージを伝達し形成する役割のどちらを担うのかを考え適切にプロデュースされなければならないとしている。第三に,好感度,真実性を評価されるクリエイティブはインプレッションにもイメージの構築にも効果的であるが,驚きをもたらすクリエイティブは負のインプレッションを生み出しブランドへのイメージは高関与なほど持続性を持つので,驚きが矛盾ではなく新たな発見をもたらし,かつ既存のイメージと一貫性をもつようなクリエイティブが望ましいとしている。最後に,クリエイティブ要因とオーディエンス特性の相互作用が確認されたとし,CM制作はクリエイティブだけでなく,ターゲット・オーディエンスの動機,知識,情報処理能力,広告への接触状況を念頭に置きながら,異質性の問題も強く認識する必要があるとしている。
 今回の研究では,自由回答で収集したデータの分析の難しさ,イメージの構築のメカニズム自体の解明を目的としなかったことや,「驚き」の具体的なメカニズムに踏み込まなかったことを挙げ,今後の課題としている。

結論
 情報処理パラダイムに基づき,広告とブランドそれぞれへの短期的,長期的影響を自由回答も取り入れた実験によって分析し,広告がブランド構築にどう役立つかを検討した結果,消費者行動研究の成果を反映する形になったが,サンプル数も少なくあくまで探索的なものであるとして,今回の結果を一般化するには他のカテゴリーで再検証が必要であるとしている。

出典:阿部誠(2005)「テレビ広告がブランド構築に与える影響(下)-商品やカテゴリーの関心・知識はどう作用するか?-」『日経広告研究所報』,第221号,38-44頁。

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2005年06月27日

広告・ブランド評価から購入への因果研究――広告表現評価・ブランド評価・購入にからむ五つの心理的広告効果ル-ト(鈴木 2000)

要約
 本稿では,広告表現効果について述べており,特に「広告の受けての表現評価が,ブランド評価や購入(経験・意向)にどう関連しているかについて」(16ページ)言及している。

はじめに
 広告評価には広告投入量のよる効果,広告表現による効果,その相乗効果の3種類ありこれまでの筆者の広告効果研究で表現効果を扱ったものは,ビデオリサーチ社のCMカルテのデータ約600本のCM表現データを使い,広告評価(広告認知率・広告好意度・広告理解度)を目的変数にして,約200項目に及ぶ広告表現要素との関連分析を行ったもの,テレビ広告認知率への表現の影響度合いを扱ったもの,人をある広告の認知者と非認知者に分け,さらに認知者から表現に反応した人を取り分け,その購入経験率や購入意向率等を比較したものがある。「しかし,以上の3つの研究は,広告の表現評価の範囲にとどまるものであったり,因果分析をしても広告の表現評価は1指標だけであり,ブランド評価を介在させないものであった。また,分析手法も個別のクロス集計・平均であったり,単純な1つの重回帰分析でしかなかった」(17ページ)。したがって,いくかの広告表現評価やブランド評価,及び購入(経験・意向)のすべてを一括してモデル化している。

5つの心理的広告効果ルート
 ビール,缶コーヒー,自動車,冷蔵庫,医薬品などの35のブランドを商品関与度,ブランド認知,媒体別広告認知(テレビ・新聞・雑誌広告でいずれかの認知を広告認知としている),表現反応(広告認知者への限定質問で広告表現への好き,もしくは興味,関心度合),購入経験(3ヶ月以内),購入意向のベースの項目に付け加えてブランド評価項目,広告表現評価項目で調査を行い,因果関係図(モデル)を作成し,心理的広告効果を5つのルートにまとめている。
①ブランドロイヤリティー
自分に合う,なじみがあるのブランド評価から,そのブランドが好きから購入に至るルートであり,ブランド論でも最もわかりやすいルートである。
②集団効果ルート
広告によって広告や商品が話題になったり,よく売れているということが推測され,自分自身の広告やブランド評価に返り,時代に合っているというブランド評価につながる購入に至るルートである。
③広告表現総合評価ルート
興味・関心が引き立てられる広告,印象に残る広告,自分の感覚に合う広告,親しみを感じる広告から広告表現の総合評価(好きな広告と表現反応広告)につながり,そこからブランドが好き,または時代に合っているのそれぞれにつながり,購入に至るルートである。
④興味・印象ロイヤルルート
広告やブランドに興味を持たせられ,後々まで印象に残っていて,それがブランドが好き,時代に合っているにつながり,購入に至るルートである。④のルートは③のルートと関わりが深く,似ているところがある。
⑤(ブランドや広告への)フィードバックルート
ブランドの飲用・利用などの購入後の商品満足度がブランド評価や広告表現評価に影響を及ぼすルートである。
この5つの心理的広告効果ルートにより,広告表現はブランド評価,または商品購入にまで影響を及ぼしていることが分かる。
 
結論
 因果関係図や5つの心理的広告効果ルートにより,広告表現効果の影響範囲がかなり明確になり,広告表現から購入までの心理的な効果ルートの強弱を理解することでブランドの広告・戦略の立案やより深い広告のキャンペーンの評価につながる。

出典:鈴木克則(2000),「広告・ブランド評価から購入への因果研究――広告表現評価・ブランド評価・購入にからむ五つの心理的広告効果ル-ト」『日経広告研究所報』,34(5),16-22ページ。


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2005年06月25日

スポーツクラブの従業員の職務満足が顧客満足に及ぼす影響に関する研究-両者の評価するサービス・クオリティの観点から(市野・清水・梁瀬・渡辺・永田 2002)

要約
 本稿はスポーツクラブにおける職務満足が,従業員と顧客,両者のサービス・クオリティ評価を媒体として顧客満足にどのように影響するかを述べている。

1.緒言
 多くの組織において従業員は組織のために働くのが当然で,職務に満足を得ることができなかった。満足の理論としてここでは,ハーズバーグの2要因理論と西田のモチベータ「引力」理論が挙げられている。組織によって従業員が満足を得るためには,衛生要因(職務をとりまく環境に関するもの)ではなく,従業員が直接満足を得る,つまり,「従業員が仕事それ自体に個人の目的を追求することが重要となる」(20ページ)と述べている。組織においても,従業員との「統合」こそが組織成果のプラス要因になるとしている。そこで本稿は,スポーツクラブの従業員の満足が「従業員と顧客の評価するサービス・クオリティを媒介として顧客満足に及ぼす影響について明らかにする」(20ページ)としている。

2.理論的背景の整理と実証モデルの構築
①従業員の職務満足が仕事を通じて組織成果に影響を及ぼすために前提となる条件
 従業員が仕事において満足を得ることが組織の利益につながるとし,サービス・クオリティを通じて顧客満足に影響を及ぼす要因となり得るための前提条件は『仕事による個人と組織の「間接的統合」と「プロフェッショナルな従業員」が理論的背景にあるものとする』(20ページ)としている。
②従業員の職務満足が従業員の評価するサービス・クオリティに影響を及ぼすメカニズム
 本稿において重要な点は従業員の満足がサービス・クオリティに影響を及ぼす要因としてどう捉えられているかである。Porterの期待理論のパラダイム,「期待→努力→遂行→報酬→満足」より2つのフィードバック・ループが存在する。本稿では,その1つの「実際に得られた,満足が報酬の価値への期待に影響を及ぼすもの」(20ページ)というフィードバックを使い,期待が高まれば遂行が高まるとしている。以上のことより従業員の職務満足はモチベーションへの継続過程を通じて,その後のサービス・クオリティを高める要因として捉えることができるとしている。
③従業員の職務満足が(従業員と顧客の)評価するサービス・クオリティを媒介として顧客満足に影響を及ぼす分析モデルの構築
 従業員個人の職務満足が影響を及ぼすサービス・クオリティ(仕事の成果)は従業員1人ひとりによって主観的に評価される。スポーツクラブにおける最も優れた組織成果は顧客の定着率であり,それを決定する顧客満足にほかならない。本研究はスポーツクラブの成果を顧客満足によって説明するものとしている。この章では分析モデルを挙げて,以下のことを明らかにすると述べている。①従業員の職務満足が,従業員の評価するサービス・クオリティに及ぼす影響②顧客の評価するサービス・クオリティが顧客満足に及ぼす影響③従業員の評価するサービス・クオリティと顧客の評価するサービス・クオリティの同調性。

3.研究の方法
①基本概念と操作化
 この章では「職務満足」,「顧客満足」,「従業員の評価するサービス・クオリティ」,「顧客の評価するサービス・クオリティ」がどのようなものであるか定義して,アンケート調査する時に使う質問項目の出し方を記している。
②調査
 対象は経営母体が同じであるスポーツクラブ4店舗で,2000年7月に実施されたとしている。回収数は従業員が109名,顧客が705名de有効標本はそれぞれ105名,691名である。
③分析
 前章で挙げた仮定について,一般統計法と有意差検定,因子分析,重回帰分析を用いて,検討したとしている。

4.結果と考察
①従業員の職務満足が,従業員の評価するサービス・クオリティに及ぼす影響
 分析の結果より職務満足が高い従業員は自分の提供したサービス・クオリティを高く評価している。つまり職務満足は従業員の評価するサービス・クオリティに影響を及ぼすとしている。
②顧客の評価するサービス・クオリティが顧客満足に及ぼす影響
 スポーツクラブ側が提供したサービス・クオリティを高く評価している顧客は,顧客満足が高い,つまり,「顧客の評価するサービス・クオリティは顧客満足に影響を及ぼしている」(24ページ)としている。
③従業員の評価するサービス・クオリティと顧客の評価するサービス・クオリティの同調性
 従業員と顧客の評価するサービス・クオリティの間には,1部違いが見られるが,基本的には同調性が認められるとしている。
④従業員の評価するサービス・クオリティが顧客の評価するサービス・クオリティを媒介として顧客満足に及ぼす影響
 分析結果より「従業員の評価するサービス・クオリティは顧客の評価するサービス・クオリティを媒介として顧客満足に影響を及ぼしている」(26ページ)と述べられている。

結論は以下のとおりである。従業員が職務に対して満足を感じるほど従業員と顧客の双方によるサービス・クオリティ評価を媒介として顧客満足に影響を及ぼすとしている。

出展:市野聖治・清水美恵・梁瀬歩・渡辺裕子・永田靖章(2002)「スポーツクラブの従業員の職務満足が顧客満足に及ぼす影響に関する研究-両者の評価するサービス・クオリティの観点から」『愛知教育大学研究報告書芸術・保健体育・家政・技術科学・創作編』,第51号,19-28頁。

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2005年06月23日

広告マネジメントの日・欧米比較-日本的広告マネジメントの本質的特徴を探る-(亀井 1996)

要約
 現在において,わが国広告関係者の一般的な認識となっている欧米流の広告管理実務(への理解)との対比における,わが国広告主の一般的な広告マネジメントの実態と特質をこの論文では浮き彫りにしている。わが国広告界における広告マネジメントの本質的特徴として,主として①「関係性」重視の広告マネジメント②「多数値」結集型の広告マネジメント③「社外依存」と「社内集中」のクロスオーバー型の広告マネジメント④「期待」と「信頼」に基づく広告マネジメントがあげられる。

 広告管理技術や理論が欧米,とりわけ広告先進国であるアメリカから導入・消化され,わが国の広告や,広告マネジメント実務が高度の成長・発展を遂げたことは紛れもない事実であると同時に,未だ広告管理思想や技術などの面で見習うべき点や事例が存在していることも事実である(7ページ)。しかし,そうした欧米流の広告管理の実務や理論は,果たしてわが広告主にとっての模範的で理論的なモデル,または「模範」に即なりうるのであろうか?現在においてもわが国広告関係者の一般的な認識になっている,欧米流の広告管理実務(への理解)との対比における,わが国広告主の一般的な広告マネジメントの実態と特質をこの論文では浮き彫りにしていく。
 ここで,わが国広告界における広告マネジメントの本質的特徴を列挙していく。第一に,「関係性」重視の広告マネジメントが挙げられる。これは,わが国広告界では,マネジメントの際の活動ないしは処理の対象(人・モノ・システム・方法・組織等々)との関係性の重視にあると見ることができ,そしてより継続的な(取引・人間・処理手続き等々との)関係性の維持のほうが原則的に優先される傾向の存在が認められるのである。第二に,「多数値」結集型の広告マネジメントが挙げられる。これは,わが国広告主の一般の広告部門のスタッフの数の多さ,広告主が取引をしている広告会社や広告製作会社をはじめとする社外の広告関係企業や利用スタッフの数の多さからわかる通り,わが国広告主の一般的な広告マネジメントが,欧米の広告界に見られるような比較的限定された広告専門家郡による限定領域的な発想や実務や競争によって実現されているのではなく,新人からベテランに至るまでの幅広い,しかも極めて流動性の高い人材郡によって支えられていることを意味する。第三に,「社外依存」と「社内集中」のクロスオーバー型のマネジメントが挙げられる。これは,いわゆるAE制ないしは一商品一広告会社制,さらには広告マネジメントの質的大変身を現実化しうるものとして,関係者の間で最近期待されているアカウント・プランナー制に見られるような,原則として社外依存型の構造にはなっていないというものである。これは「身内意識」の徹底により,マネジメント上の秘密や各種ノウハウの社外流出を極力最小化し,広告競争上の優位性を確保し続けるという長所があるが,それが,社外の専門家の英知と高度な技術を活用するという機会が少なくなるという短所も併せ持つ。そうした長所と短所の狭間で,わが国広主の広告マネジメントは,社外依存と社内集中のミックスまたはクロスオーバー型の構造を選択している,と見ることができる。最後に,「期待」と「信頼」に基づく広告マネジメントがある。これはわが国広告界の広告マネジメントが原則的に企業という組織体ないしはその構成員相互の「期待」と「信頼」に基づいているということ(10ページ)である。確かに「期待」や「信頼」はある意味において一方的なものであり,客観的な事実に対しては泡沫のような存在ではあるが,広告マネジメントもそれが広告担当者という人間によって担われ展開されている限りにおいて,その根底に存在しうる根本的な要素であろう。

結論
 市場・経営環境などの激変(の予想)は,多少のマネジメント効率や費用効率性を落としても,このような特徴的側面を変えていかなければならない決断に広告マネジャーが迫られてきていることも事実であり,このことが今後わが国の広告界の広告マネジメントの性格を大きく変えていくことも予想されるところである。

出典:亀井昭宏(1996),「広告マネジメントの日・欧米比較-日本的広告マネジメントの本質的特徴を探る-」『日経広告研究所報』,167号,7-10ページ。

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2005年06月22日

デジタル,ポストモダン,そしてアカウントプランニング(小林・野口 1999)

 コミュニケーションの枠組みが変わりつつある。
日本にも1990年代後半以後,様々な形で導入されつつあるアカウントプランニング(AP)は,デジタルエイジ・ポストモダンの文脈においてその意味を考察し,また,従来の定量重視型のプランニングジレンマが当たった限界の解決策として用いられている。この論文はAPを通して,新しいコミュニケーションの枠組みをモデル化することへの試みを目的としている。

 APは,マーケティング・コミュニケーション戦略構築の方法論である。「数字の客観性よりも人間の洞察力や直感力を評価する英国の文化的土壌で生まれ,1970年代米国の『クリエーティブ不毛の時代』へのブレークスルーを生み出す方法論として,米国に浸透した」(2ページ)。
 定量情報を重視して戦略を決定させていくことは,数字のデータが物語ると言う意味でも「客観的」であるとして,説得性にも優れ高い評価を得てきた。しかし,一方で次のような3つの危険性も有している。
①平均点のジレンマ
②評論家のジレンマ
③専門性のジレンマ
である(2-5ページより)。
 そもそも,マーケティングコミュニケーションは消費者に対して何らかの変化・態度変容を引き起こすために行われてきたはずである。しかしそれを効果的にやろうとするあまり,変化の芽を摘み取ってしまう危険性に陥る。これが前述の①である。つまり,未来の変化を引き起こすことよりも,「過去のデータを重視し,突出した独自性よりも平均点でのリスク回避を志向する」(4ページ)ことで,より効果的なアイディア,人の心を動かし得るアイディアを圧殺してしまう危険性を筆者は指摘している《リスク最小化》《アイディアの圧殺》。
 また,定量情報の量が膨大になり,分析の手法も精緻化してきた。そのため,それを扱う人の専門性も高まり,結果として「物を売るための戦略を決定する」(2ページ)という目的が見失われ,そのための手段であるべき「『データの厳密性』が目的化することがある」(2ページ)。本来,戦略決定の手助けをするために情報を収集し,分析しているはずなのにそれを厳密にしようとするあまり,戦略をかえって決められなくなってしまう・・・これが②であり《厳密性重視》《結論の回避》,結果的に②は方向性を見出せなくなり,全体が見えなくなるのである。分析細部の厳密性を重視しすぎて,時として答えを出さないほうが良いと判断してしまい分析者がただの評論家となってしまうことを筆者は危惧している。「優れたソリューションは方向性がはっきりしており,しかも全体で一つの方向を向いている」(4ページ)。
 定量情報は時としてミスディレクションを引き起こす。社会科学の調査には調査の方法論やその環境からくるバイアスがつきまとっている。結果,「一生活者の視点からすれば明らかに間違っている結論が導き出されることがある」(3ページ)。これは,専門家が専門性を追求するあまり全体像を見失い,膨大な情報量があだとなり間違いを起こしてしまうという③専門性のジレンマである《データ至上主義》《非常識な結論》。
 APは①,②,③の問題を克服する。あくまでも「主観」を重視することでアイディアを喚起し未来への可能性を残し,総合的な判断を可能にする。しかしAPは定量情報を無視するわけではない,定性情報を再評価し,insight(洞察力)・subject(主観)を再評価するのがこの方法論である。insight(洞察力)・subject(主観)はAPの核であり,「変化,不確実性,リスクをパワフルで建設的な力」(4ページ)としてとらえ,本質的な部分と方向性を見出す力である。

結論
 科学の中核で起こっていることは、「細分化」よりも「関係性」を重視しようとする方向性であり、「実験による再現性の得られない事象の発見である」(5ページ)。「エコロジー」「共生」「複雑系」「ネットワーク」(2-7ページ本文より)はすべてポストモダンを語る言葉であり,物事をトータルにとらえ,全体の中での相互関係に注目することを示している。要素に分解し数値化するよりも,単純化しきれないものも一つの関係として圧殺せずにとらえることの重要性を筆者は繰り返し説いている。広告の科学者は「ダイナミズムで創出される部分」(6ページ)を科学していく必要がある。

出典:小林保彦・野口喜一(1999),「デジタル,ポストモダン,そしてアカウントプランニング」『日経広告研究所報』,33(4),2-7ページ。

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2005年06月21日

テレビ広告がブランド構築に与える影響(上)-商品やカテゴリーの関心・知識はどう作用するか?-(阿部 2005)

 この論文は,テレビ広告がブランド構築に果たしている役割を探るために,広告のクリエイティブ評価のあり方を再検討し,CMテストで収集できる項目を変数とし,消費者行動研究の成果も取り入れながら,「広告が,ブランド構築への寄与という観点からも評価されうるような枠組」(13ページ)を提示することを目的としている。

 既存CMテストの限界を考慮して,①クリエイティブの短期的効果と長期的効果の測定,②関与や処理能力といったオーディエンス特性が広告とブランドそれぞれへの態度形成に与える影響,③自由回答法でのデータ収集と分析,に着目したCMテストを提案するとしている。広告が態度に与える短期的効果と長期的効果をそれぞれインプレッションとイメージの構築とし,[CMへの接触]-<短期的効果>→[インプレッション]-<長期的効果>→[イメージの構築]という2ステージ広告モデルが考えられるとしている。オーディエンス特性は短期的効果,長期的効果に影響を及ぼすと考えられ,特に長期的効果に影響があると予想されるとしている。これは,精緻化見込みモデルにおいて高関与で,処理能力が高い場合は中心的経路で処理されるためである。
 CMテストを行うにあたり,2ステージ広告モデルに基づき研究課題を仮説として提示している。具体的には,①CMへの接触はブランド・イメージの構築を促すか,②インプレッションがイメージに発展するという2ステージ広告モデルの妥当性,③クリエイティブ要因とオーディエンス特性は,ブランドに対するインプレッションにどう影響するか,④クリエイティブ要因とオーディエンス特性は,イメージの構築にどう影響するか,⑤クリエイティブ要因とオーディエンス特性は,インプレッションとイメージの構築のどちらにより強く影響するかの5つである。
 この研究では,ブランドとしてトヨタが使われている。自動車カテゴリーではメーカー名とブランド名は同等と認識されているので,それらを同義語とみなすとしている。①についてはCM接触前と2ヶ月後のブランドへのイメージを比較するが,データ収集間にトヨタの広告に接触する可能性を考慮し,被験者を実験群と統制群に振り分けている。まず,オーディエンス特性として,デモクラフィック情報,自動車への関心と知識,トヨタの純粋想起度,トヨタが1番好きな自動車メーカーかを尺度評価で収集し,トヨタのブランドと広告へのイメージを自由回答法で答えてもらい,広告刺激として実験群にはトヨタの企業CM6本,統制群には他の自動車メーカーのCM6本を用意し,リアリティーを高めるため,それぞれのグループにメルセデス・ベンツのCM2本を加えた合計8本を見せたとしている。CM接触を3回繰り返し,3回目の視聴で1本1本を見終わるごとに感想を自由回答法で,CMが好きかどうかを5段階尺度でそれぞれ評価させ,すべてのCM視聴後1時間たってからトヨタ・ブランドへのインプレッションを自由回答で答えてもらい,長期的効果を測定するために2ヶ月後に再びトヨタのブランドと広告それぞれへのイメージを自由回答法で収集したとしている。②~⑤については,①で検証された広告効果にクリエイティブ要因とオーディエンス特性が短期的効果であるインプレッション,長期的効果であるイメージの構築にどう影響を与えるかを調べるために実験群だけを対象に分析を進めるとしている。サンプル数は脱落者などもあって最終的に実験群35人,統制群34人である。
 実験に使われたCMの内容や,質問項目,予備分析として自由回答法で収集したデータを数量化し集計したものを表などにして記載しているが,問題の核心を探るには非集計レベルでの分析が不可欠だとしている。集計された記述統計の分析は,関心や知識などの「個人の異質性に絡んだオーディエンス特性」(19ページ)が広告効果に与える影響を考慮していないこと,実験群と統制群をランダムに割り振ったが両者が同質の対ではないことがその理由としてあげられている。
 非集計レベルでの分析,分析結果からの仮説の検証,広告戦略に対するマネジリアル・インプリケーション,研究の限界と課題は本論文の(下)にて紹介するとしている。

出展:阿部誠(2005)「テレビ広告がブランド構築に与える影響(上)-商品やカテゴリーの関心・知識はどう作用するか?-」『日経広告研究所報』,第220号,13-19頁。

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2005年06月20日

ポスター広告の色彩表現の特質と評価に関する日中台韓比較(千々岩 2003)

要約
 本稿ではポスター広告の色彩表現の特質を把握すること,またポスター広告の色彩表現を比較することによって,これらの色彩表現に対する国別の見方(評価)の一致点と不一致点を明らかにすることを目的としている。

1.ポスター広告の表現技法調査
 ポスター広告の色彩表現の特質の調査方法としては日中台韓の広告年鑑や図録から日本226,中国309,台湾278,韓国246,総数1059種類のポスター広告を収集し,データベースを構築している。そして,「制作方法」「表現方法」「印刷方法」「余白面積の大小」に区分し,複数の大学院生が一定の判断基準に基づき判定を行った。その結果,表現方法は4カ国・地域間で多少の相違が見られた。特にCGに関しては韓国と中国の使用率が高く,日本と台湾では,絵筆の使用率が高いことが判明した。印刷方法では,どの国でも4色刷りが一般的なものではあるが,日本と台湾のポスター広告には「墨+1色」という方法を用いたものが他の国に比べて若干,高い割合を示していた。また「日中台に比べ韓国は,CG使用率や4色刷り率も高く,制作に使用する色数もやや多く,色がにぶいものが多かった」(16ページ)。

2.ポスター広告の色彩解析
 140種類(各国35種類)のポスター広告の色彩解析結果,日本と中国のポスター広告は比較的使用する色数が少なく,韓国と台湾では逆に多い。また韓国のポスター広告は「ほかの3カ国のそれに比べて色が鮮明なものは少なく,色のまとまりを欠くものがやや多いことを示している」(11ページ)。各国,赤を用いたポスター広告が多いのが特徴だが,特に日本と韓国でその割合が高い。次に,ポスター広告の色彩表現に対する日中台韓の学生の見方(評価)を比較し,一致点と不一致点を明らかにするために先ほどの140種類のポスター広告を美術,デザイン,建築を専攻する493名(日本124名,中国97名,台湾150名,韓国122名)の学生に評価させた。その結果,韓国のポスター広告の色彩表現が優れ,中国が劣ると評価された。国・地域別の見方では,韓国の学生は自国のポスター広告の色彩を高く評価しており,日本の学生も韓国のポスター広告の色彩表現に高い興味を示している。台湾の学生は韓国よりも日本のものを高く評価し,自国のポスター広告の色彩に冷静な評価を下している。ポスター広告の色彩表現で4カ国・地域の学生に好感が持たれるものとして,まず挙げられるものが色数を控えたポスター広告である。またポスター広告が「その国の人の心に届くためには,その国の伝統や文化を踏まえること」(14ページ)が重要であるため地域色(ローカルカラー)やその国らしさ(ナショナルカラー)を意識した色彩表現が大切になってくる。そして,日本の学生の場合,中国,台湾,韓国の学生に比べて少ない色数で簡明な色彩表現をしたポスター広告を著しく高く評価する反面,韓国のような複雑微妙な色彩表現にも関心を示していることにより日本の学生にはポスター広告に面白さや新奇性を求める潜在的欲求が強いことを示している。

結論
 日中台韓の4カ国の学生間のポスター広告の評価に関して色彩表現が最も優れていたのは韓国であり,その逆は中国である。また色彩表現の優劣の主な要因は色数であり,どの国でも色数が少ない方が高く評価される傾向が見られた。

出典:千々岩英彰(2003),「ポスター広告の色彩表現の特質と評価に関する日中台韓比較」『日経広告研究所報』,37(5),10-16ページ。

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2005年06月18日

サービス・クオリティとロイヤルティの構造に関する分析-ファーストフード業を事例にして-(鈴木・宮田 2002)

要約
 サービス産業の役割りが増加している世界の経済活動ではサービス・マーケティングの問題が重要となっている。この論文ではファーストフード業におけるサービス・クオリティ評価の構造化とサービス・クオリティ,顧客満足度とロイヤルティの関係を調査するための構造モデルの構築を行うとしている。

1.サービス・クオリティ評価とロイヤルティの構造
①サービス・クオリティ
 サービス・クオリティの最も有名な測定手法はSERVQUAL(Service Qualityの略)があり,これは知覚サービスを測定する際に用いられ,22項目のサービス評価に関する質問項目と信頼性,反応性,確信性,共感性,物理的な要素の因子分析により抽出された5つの尺度からなる。SERVQUALはサービス後の「パフォーマンス」とサービス前の「期待」との差によりサービス・クオリティを導き出している。しかし,それは不特定ベースの測定方法であり問題点が多くあるので,本稿ではパフォーマンスベースの測定,SERVPERF(Service Performance)を用いて測定するとしている。
②ロイヤルティ
 ロイヤルティとは企業が顧客のニーズに合わせて商品を提供して,再びその企業の商品やサービスを利用してもらうことである。しかし,サービス・クオリティや顧客満足度がロイヤルティに深く影響しているのは広く認められているが,その2つ以外にもいくつかの要因を取り上げて,ロイヤルティとの関係を検証するとしている。
③本研究で仮定する構造モデルと仮説
 この章では構造モデルを構築しており,知覚サービス・クオリティ(PSQ)は「要素レベルのサービスの評価から形成されるもの」(73ページ)としており,顧客満足度やロイヤルティへの影響については全体のサービス・クオリティ(OSQ)が直接与えるものと仮定するとしている。具体的な仮説は以下の9つである。①サービス・クオリティは顧客満足度に影響を与える②顧客満足度はロイヤルティに影響を与える③サービス・クオリティはロイヤルティに影響を与える④スイッチング・コストはロイヤルティに影響を与える⑤人間関係の絆はロイヤルティに影響を与える⑥価格はロイヤルティに影響を与える⑦インセンティブはロイヤルティに影響を与える⑧周囲の評価はロイヤルティに影響を与える⑨価格は顧客満足度に影響を与える。

2.アンケートの作成と実施
 PSQについてはSERVEQUALを参考に質問項目を作成しており,そこにオリジナルの質問項目を追加して40項目としている。しかし,実際分析に用いたのは因子分析を行って,共通性が低いものを削除した25項目で行ったとしている。次にロイヤルティ,顧客満足度,OSQに関する質問項目は先行研究からの参考とオリジナルのもので構成されているとしている。ともに7段階評定尺度で,マクドナルド,モスバーガーの両方について答えてもらう。2000年9月から11月に実施し,留置調査法または,集合調査法の形式で,学生123人を対象に行ったとしている。

3.調査結果
①サービス・クオリティに関する質問項目の因子分析
 マクドナルド,モスバーガー,それぞれの質問項目についてバリマックス回転後,因子分析を行い,因子得点をつける。さらにマクドナルドはAMOSを使いPSQ評価構造とOSQとの関係を示したモデルを構築している。
②サービス・クオリティ,顧客満足度とロイヤルティとの関係
 この章では,初めの章で記した仮説①~⑨が実証されたかが記されている。ただし,仮説①は先行研究により実証されているので本研究ではその検証が除かれている。仮説①,②は両者ともに確認された。仮設③,④はマクドナルドのみ,仮説⑧はモスバーガーのみ,仮説⑤,⑥,⑦,⑨は両者ともに確認されなかった。仮設①,②が確認されたことから,ファーストフード業界において,「サービス・クオリティが顧客満足度に影響を及ぼし,顧客満足がロイヤルティに影響を及ぼしていることを示唆している」(77ページ)と述べている。

結論は以下のとおりである。ファーストフード業界において,顧客満足度やロイヤルティにサービス・クオリティは深く影響していると記されている。

出典:鈴木秀男・宮田知明(2002),「サービス・クオリティとロイヤルティの構造に関する分析-ファーストフード業を事例にして-」『日本経営工学会論文誌』,第1巻53号,71-79頁。

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2005年06月16日

良質のクリエーティブを阻害する要因から「効く広告」の考察 -「不良広告」から「効く広告」への道程(南 2003)

要約
 消費者に「広告が届かない」と言われている現代で,「効く広告」の何が広告を「効く」ようにしているのかをコンシューマー・インサイトをツールに,製作者目線で分析を試みている。ここでは,<インサイト>と販売効果の相関性を調べ,広告から<インサイト>の抽出を試みた。その結果,<インサイト>広告は,販売シェアが平均的に高く,<インサイト>と販売シェアの相関性は認められた。しかし,<インサイト>は,販売シェアを高める必要条件であるが,<ノン・インサイト>広告に「トップブランド商品」が属することから必須条件とは言えないことが判明した。

 この論文では,広告に対する消費者リアクションが,〔見る〕→〔知る〕→〔分かる〕→〔覚える・気になる〕レベルへいたるものを「良質な広告」と定義し、購買に結びつく消費者心理<インサイト>を持っていない広告を「不良広告」と定義している。ここで,<インサイト>がある広告が目指す「効く広告」とは,「市場を活性化する広告」という定義をもとに,<インサイト>がいかに広告に販促効果をもたらし,機能的にしているのかを調べていく。<インサイト>とは,人々の心の中に潜在している「感性概念」とし,解釈者(アカウント・プランナーあるいはクリエイティブ・ディレクター)の主観的判断で導くものである。ここで,<インサイト>と販売効果の相関性を調べ,広告から<インサイト>の抽出を試みる。まず,広告〔表現〕に〔問題〕を解くソリューション・アイディアがあると想定し,この〔解答〕から企業・商品が抱える〔問題〕を類推し,〔解答〕と〔問題〕が分かったところで,この二者の中間点にある<インサイト>を導き出すという簡略化された手法を行っている。ここでは,抽出商品として,広告依存度が高い飲料(ノンアルコール及びビール)二百十五品目の中から(TVCMに登場しなかった商品,低販売シェア商品を除き)三十一商品,対象メディアをTVCMとし,抽出を行った。結果,販売シェア上位で<インサイト>のある広告,販売シェア上位で<インサイト>のない広告,販売シェア下位で<インサイト>のある広告,販売シェア上位で<インサイト>のない広告の四つの商品郡に分類された。<インサイト>のある広告は,販売シェアが平均的に高く,<インサイト>と販売シェアの相関性は認められた。しかし,<インサイト>は,販売シェアを高める必要条件であるが,<インサイト>のない広告に「トップブランド商品」が属することから必須条件とは言えないことが判明した。「トップブランド商品」は,すでに存在を知られているため,再生想起だけで済むため,〔見せる〕〔知らせる〕〔分からせる〕の段階を省略した“スキップ広告”を甘受させる状況を作り,<ノン・インサイト>広告が集中する結果を創出しているのである。「しかし,理想的には<インサイト>を革新し続け,持続性のある「ヒット商品」であり続けることである」(20ページ)としている。

結論
 <ノン・インサイト>広告でも,消費者に届くが,「届く」と「効く」の間には<インサイト>と<ノン・インサイト>の距離があると言ってもいいだろう。広告キャンペーンの多面的,有機的,統合的な連携のある仕組みが必要であることは言うまでもなく,広告のダイナミズムは<インサイト>だけでは生まれない。「『効く広告』は,小さな<インサイト>の発見に始まり,大きな組織改革に至る」(21ページ)

出典:南勲(2003),「良質のクリエーティブを阻害する要因から「効く広告」の考察 -「不良広告」から「効く広告」への道程」『日経広告研究所報』,213号,14-21ページ。

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2005年06月15日

リアイティを創造するマーケティング・コミュニケーション-ポストモダン的社会のなかでの一考察-(栗木 2003)

要約
 この論文では,新しい視点でマーケティング・コミュニケーションを現代の消費社会と結びつけながら論じている。情報システムの高度化,グローバリゼーション,生産と物流の多品種少量化がもたらしたポストモダン的な消費社会において消費者は,代替案があふれる商品の中から,相対的な個々の観点により判断し,選択を行っていく。よって,マーケティング・コミュニケーションにおけるリフレクティブ・フローの役割の重要性が以前より増していることを著者は強調している。

 マーケティングを実践していく上で,重要なのは,その一つ一つのアクションが消費者とのコミュニケーションを引き起こすということである。また,消費者にとって「製品やサービスの価値は,物理的な実体としてではなく個々人の知覚や評価を通じて構成される」(30ページ)。消費者の観点が重要なのである。その観点を考慮していかなければならないが,情報の受け手がどのような観点を用いるかによってその評価は大きく変化する。そのため,「マーケティング・コミュニケーションに当たっては,受け手となる消費者の観点に適応するだけではなく,彼/彼女の観点を構成することも必要である」(30ページ)。前者の方は比較的簡単である。消費者調査によって,どのような観点を通じたものが消費者に受け入れやすく,認識・知覚されやすいかを把握する事ができる。しかし,後者のほうはもう少し深く考えていかなければならない。なぜならば,観点そのものが“主観的・流動的・他の代替案がいくらでもあるもの”だからである。製品やサービスの使用価値は,観点次第で変化する。「観点それ自体も,一つのものの見方に過ぎないことを忘れてはならない」(31ページ)。観点とはあくまでも相対的な可能性でしかないのである。そこで必要なのが,その“相対的なもの”を“絶対的なもの”に変えていくためのプロセスである。
 情報伝達型のコミュニケーションとは,「伝えようとする内容を,広告の映像やコピー,あるいは製品のデザインや,スタイルなどの表現として確立し,その受け手である消費者に向けて発信するものである」(31ページ)。このことはこれまでにも多くの学者達が繰り返し取り上げてきた。しかし,それだけでは情報伝達の遡及的な推論,後退に留まってしまう可能性がある。一つの解決策として,ブランドやフレームを用いたアプローチを併用する事が挙げられる。
 ブランドは,特定のある観点に消費者を誘導する役割を担っている。つまり,生産者が伝えようとする概念やイメージはあらかじめ消費者構築されている知識であり,ブランドは新たにそれを確立することなく受け手の記憶を活性化させることによって伝えるのである。ブランドやフレームを通じてマーケティング・コミュニケーションをより,リアリティを創造するコミュニケーションへ転換させていくことが可能である。製品の店頭や広告によるアプローチに加えて,ブランドを用いたアプローチを行うことで,「知覚や評価を導く観点を,当の知覚や評価がメタ観点として支えるという関係が創発する」(32ページ)。そして一旦,“観点が認識を導き,認識が観点を変える”という関係が循環・サイクルになると,その製品に関して他の代替案が入り込み,新たな認識が生成する可能性は低くなる。「認識とその前提が暗黙のうちに相即するため,相対的な可能性が,絶対的な実在であるかのように思えてしまうのである」(32ページ)。消費者をその流れの中に巻き込んでいくのである。
 マーケティング・コミュニケーションには,情報伝達型のものと同時にブランドなどを媒体にして,消費者の感情を喚起させるものがあり,後者は,受け手の知覚・認識を導く観点を触発する情報の“流れ”を造り出す。これをリフレクティブ・フローと呼び,マーケティング・コミュニケーションを通して相対的なものから絶対的なものへ変換させていく過程で非常に重要な役割を果たすのである。ここでいう“絶対的”とは,「少なくとも消費者当人にとっては,『確かに魅力的に見える』,あるいは『確かに必要だと思える』事象」(35ページ)のことである。リフレクティブ・フローを通して,循環する関係の形成と一つのリアリティが構成されていくプロセスが重要な意味を持っている。

出典:栗木契(2003),「リアリティを創造するマーケティング・コミュニケーション-ポストモダン的社会のなかでの一考察-」『日経広告研究所報』,37(3),30-35ページ。


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2005年06月14日

韓国におけるTV放送プロダクト・プレイスメント(PP)の運用実態と消費者認識(宋 2004)

 この論文は,マーケティング・コミュニケーション手段としての媒体の急速な変化,消費者の広告露出への能動的回避といった傾向のなかで注目されてきているプロダクト・プレイスメント(以下PP),なかでも韓国での放送PPの活性化に着目している。PPの概念的な考察を行い,近年の調査をもとに韓国TV放送におけるPPの運用実態とPPに対する消費者認識を概観し,「韓国市場でのPP計画・実行における主要な戦略的インプリケーションを提示する」(17ページ)ことを目的としている。

 映画やTV番組で,特定の製品やロゴを登場させたりするPPだが,その技法はセリフにのせたりするなど様々である。媒体の急速な変化や登場による伝統的なマスメディアの影響力の低下や消費者の広告露出への回避などによって既存のプロモーション活動効果が減少するといった悩みを抱えていた製品スポンサー側と,制作費の高騰,興行成績の不確実性の増加により,入場料やビデオ版権といった既存の収入源の他に新たな収入源を模索していた映画制作会社の両方の必要に由来して,PPは登場したとしている。アメリカでは82年のE.T.でのリース・キャンディ以降,PPはマーケティング事業の一つとして認識されていたのに対し,韓国にPPが本格的に導入されたのは90年代に入ってからであり,映画シュリの大成功に伴って劇中のPPが相当の効果を上げたことで注目されるようになったとしている。当初は製品の無料提供という形だったのが,現在では制作費の一部を支援する形をとるようになったとしている。韓国では放送によるPPが活発に行われているが映画とTV放送を比較するとTV放送の方が圧倒的に多く,その割合は約3対7である。

 PPの概念についての論議は,ほとんどなされてこなかったが,最近ではPPをハイブリッド・コミュニケーションの一種として,その概念を規定する動きがあるとしている。ハイブリッド・メッセージとは,「商業的利益を目的に,非商業的な特性を持つコミュニケーションを使用してオーディエンスに影響を与えようとするあらゆる有料の試み」(18ページ)であり,PPはハイブリッド・コミュニケーション概念から派生した下位概念とみることができるとして「PPとは,非商業的な特性を維持しながら映画やTV番組などに製品のブランド名,イメージ,包装,ロゴなどの計画的で非強制的な挿入を通じてオーディエンスに影響を与えようとする有料の製品メッセージ」(18ページ)と定義できるとしている。PPの類型は研究目的や研究範囲によって様々だが,それらすべてが露出方法での類型であり,ミュージック・ビデオやインターネットなどPPが使用される媒体が急速に拡大しつつあり,PPの類型を使用媒体別に分類・再考察する必要もあるとしている。PPの効果についての研究はアメリカを中心に活発に行われ,近年ではコミュニケーション効果に関する研究が活発になったとしている。それらの研究から,PPを通じて製品・ブランドの認知,ポジショニング強化,好意的な態度形成,購買意図などの効果が期待され,それらの効果がターゲット,配置類型,製品群などによってかなり異なり,さらに不注意なPPによってイメージを悪くする恐れもあることが明らかになっているとしている。PPが広告市場を大きく損ない,公正競争を制限するとして規制を強めるべきだという意見もあるが,「制度化を通じて陰性的慣行から陽性的取引に転換させること」(22ページ)も問題解決の1つの対案になるだろうとしている。

 放送局の使用頻度,番組類型別の使用頻度,製品類型別の使用頻度,PPの方法,PPの形態,登場時間と登場回数といった調査データを概観し,衣類や食品・飲料の比重が高く,直接的な露出が多く,CMの15秒よりは短いが平均して約2回登場するので効果は高いだろうといったことなどが述べられている。また,PPに関心を示す企業が増えたことでPP関連の業務代行を行うエージェンシーの急速な増加や広告会社にも専門の職員が配置されるようになったとしている。PPに対する消費者の認識についても調査データを概観し,韓国の消費者はPPに対して全般的に肯定的だが,商業性が感じられるPPに対しては肯定的に捉える割合の方が高いものの否定的に感じる人が増加するとしている。PPの効果に対しても肯定的な反応を示しているが,購入意図や購買より前の段階,つまり認知や好感に効果的であるという結果であるとしている。このような結果は他の諸研究とも整合しているとしている。

 効果的なPP戦略を実行するには,PPに対する消費者認識の把握が重要であるとしている。韓国の消費者はPPに対して肯定的ではあるが,購入意図や購買においては否定的な反応も少なくなく,PPによって高まった認知や好感を購買の段階までつなげることも課題となるだろうとしている。また,自社がターゲットとする消費者層を念頭において番組を選ぶ必要もあるだろうし,商業性を帯びすぎるPPに対する否定的な反応はPPの適切性が重要であることを示唆するものだとしている。つまりストーリー展開に自然に溶け込むことでPPは効果を発揮するのだとしている。映画シュリにおいても数億ウォン投資した企業があるのに対し,数千万ウォンしか投資しなかったSKテレコムの方が大きな効果を上げた(エンディング場面で留守番電話の応答メッセージが使用されたため)ことからも適切な配置が重要であり,企画段階から緻密な戦略を立て能動的に参加する姿勢が必要であるとしている。

出典:宋貞美(2004)「韓国におけるTV放送プロダクト・プレイスメント(PP)の運用実態と消費者認識」『日経広告研究所報』,第38巻5号,17-23頁。


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2005年06月13日

ブランドの記号的成長管理と経験マーケティング(岩本 2002)

1.はじめに
2.ブランド拡張と成長管理の視点
3.消費社会の記号作用
4.経験マーケティングの構築
5.おわりに

1.はじめに
 情報の送り手はブランディング,販売方法,イメージなど様々な差別化を試みているものの,ブランドの意味的広がり(外延化)のために上手く機能していない。つまり,ブランドが表現する意味は不定形な拡散を見せており,ブランドの外延化の構造を把握し,対応していくことが消費者マインドにブランド・アイデンティティを確立することにつながるのである。そこで本稿では「ブランドの外延化をとりまく文脈を重視した(記号的)消費行為,その背景にある意味,心地よさなどの感情や感動に着目してブランドをめぐる成長管理の態様と経験マーケティングの接点を探っていくことにする」(22ページ)。

2.ブランド拡張と成長管理の視点
1)ブランドの拡張基調
 ブランド評価は機能的側面だけでなく感覚的側面(情緒的側面)も重要な要素である。例えば,腕時計では時刻を正確に表示する機能的側面はもちろんのこと,デザイン性やステータス性を求める消費者も多く存在する。また,自動車の商品価値は地位表示性や快適さやパワーなどである。このように「ブランドは機能的価値と機能以外の価値の結合体」(23ページ)である。加えて,ブランドは時間の経過とともに消費者にとって商品に対する意味が変化する。そして,このことがブランド拡張へとつながるのである。
2)成長管理のフィールド
 ブランドの評価は商品構成や商品ミックスを背景に生み出される相乗効果だけでなくビジネスモデルや経営スタイルのブランド評価に与える影響力も大きく,成長管理の枠組みはこのようなビジネスモデルや経営スタイルにまで及ぶ広範な視野をもつ。

3.消費社会の記号作用
1)記号の論理
 「記号論は社会や文化の様相を記号現象として把握し,分析するものであって」(23ページ)マーケティング記号論とは「マーケティングにおけるブランドの意味作用,記号性,象徴性などの解明を図るもの」(23ページ)である。
2)消費社会の重層性
 ボードリアールは「物は,誰かが与えた意味を表出することによってはじめて,記号としての商品になる」(24ページ)と記号的消費について述べている。しかし,現代の消費社会はガルブレイスの欲望そのものが広告や販売促進に依存する依存効果やデューゼンベリーの自らの消費支出が他人の消費水準やスタイルに影響を受けるデモンストレーション効果を無視することはできない。したがって「記号的消費は機能的消費からの移行ではなく,共存の相互補完的位置にある」(24ページ)
3)外延化の源泉
 ブランドの意味的広がり(外延化)の源泉となるものとして,まず挙げられるものが商品デザインである。明確なデザイン・イメージを主張することによって消費者を魅了し使用経験のクリオリティを向上させることができる。店舗レベルでは高級ブランド店のような独自の情報発信を行うところに外延化が見出せる。また商品に一貫したコンセプトをもたせるよりは新たな情報発信を行うほうが一層ブランド価値を高めることができる。このように外延化の源泉には商品の新規性や独自性,また稀少価値などが重要になってくる。

4.経験マーケティングの構築
1)快楽消費への視線
 ここでいう快楽消費とは消費自体が目的であり,快楽である芸術や娯楽,ファッション商品などである。企業は商品機能やベネフィットのメッセージ化に目を向けているが「消費者にブランドを通じて心地よさや感動という感覚的経験を与える視点は保持してこなかったのである」(26ページ)
2)経験価値の重視
 現代の消費社会では機能やベネフィットを重視したブランド中心のマーケティングから感覚的経験価値を重視した経験マーケティングへのシフトが重要になる。そのためには「消費者マインドに,ネーム,ロゴ,スローガン,イベントなど多様な接点を通じて,使用している間だけでなく使用後まで残る識別可能な経験価値の形成」(26ページ)が基本となる。

5.おわりに
 現代の消費社会では記号的差異化が基本的思考様式となっているため機能面だけでなく感性面にも目を向け「記号論を視野に入れたマーケティング研究,ブランド分析」(26ページ)が課題である。

出典:岩本俊彦(2002),「ブランドの記号的成長管理と経験マーケティング」『日経広告研究所報』,36(5),22-27ページ。

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2005年06月11日

日米の大学生の広告教育に対する意識調査-共通調査票による調査の結果とその意味-(嶋村 2003)

要約
 この論文は日本とアメリカの大学生の大学生活における,広告教育に対する意識の持ち方をアンケートによって調査し,その結果をまとめた物である。

1.調査実施概要,質問項目と調査票について
 調査対象は早稲田大学商学部「広告論」履修者,関西大学社会学部「広告演習」履修者,専修大学経営学部「広告論」履修者,計424名の日本学生とテキサス大学ホスティン校広告学科学生,ミシガン州立大学広告学科学生,フロリダ国際大学広告PR学科学生,計313名である。調査方法は各講義中に目的を告げて,調査票によって行う。期間は2001年12月19日~2002年2月15日としている。
 調査票は初めに日本人学生用を作り,その後日米の事情に応じて選択肢などを一部変更し英語の調査票を作ったとしている。主な質問項目は以下のとおりで,その結果の一部を次の章で記す。①大学入学前に広告について学んだ経験②広告に興味を持った時期③広告論の講座を受講している理由(日本),広告を専攻した理由(アメリカ)④広告論を受講する前に期待していた内容(日本),広告学科に入学する前に期待していた内容(アメリカ)⑤広告論で実際に扱われている内容(日本),広告学科で実際に扱われている内容(アメリカ)⑥広告論に必要な教育内容(日本),広告学科に必要な教育内容(アメリカ)⑦広告関連科目への満足度(日本),広告専攻であることへの満足度(アメリカ)⑧将来就きたい広告関連の職業⑨大学生活全般に期待すること。

2.調査結果
(1)回答者の男女比率
 日本では広告を履修している学生は関西大学の社会学部を除くと男子の方が多いとしており,これは社会学部が女子の割合が多いことと調査をしたのがゼミであったことが挙げられている。全体で見てもやはり男子の方が多い。しかし,アメリカでは男女比が逆転しており,女子学生の方が履修している割合が多いとしている。
(2)広告に興味を持った時期
 興味を持った時期は日米ともに「大学入学後」と答えた学生が多いとしている。ただし,日本と違いアメリカは高校時代から広告に興味を持ち始めていたことがうかがえるとしている。
(3)広告を専攻した理由,広告論を受講している理由
 アメリカな学生は「広告をマーケティング活動としてではなく,アメリカを代表するポピュラーカルチャーと考えている」(3ページ)としている。これに対して日本の学生は「マーケティングに関する知識として広告全般を知っておきたいからという目的が見える」(3ページ)とし,また広告に興味はあるが将来,広告を職業にしたいと考えている人は多くないとしている。
(4)広告学科,広告論で実際に扱われている内容
 アメリカでは「メディア・プランニング」,「広告制作の実技的なこと」,「広告に関する調査の方法」,「インターナショナル,グローバル広告」,「広告計画全体の流れ」,「広告と社会的責任」の6つの項目が平均値を超えたとしている。日本では「広告の規制」などいろいろな項目がアメリカを上回っているが,全体的に見ると「1つの講義の中でいろいろな内容が扱われているのが日本の広告論の特徴にも見える」(5ページ)としている。
(5)広告学科,広告論に必要な教育内容
 アメリカの学生は,全般的にどの項目も必要と回答しているが,リサーチ嫌いもあってか「広告に関する調査の方法」は相対的に見ると必要度のランクは低いとしている。日本の学生は「広告の規制」や「広告の効果測定」が講義を受けた後に必要度が増すとしている。また,「広告の歴史」は日米ともにランクは低かったと述べている。
(6)大学生活全般に期待すること
 日本の学生は「大学生活を社会に出るまでのモラトリアム期間と考えている」(7ページ)という言葉からわかるように「大学は楽しく生活するところであり,しっかり勉強して学士や修士といった学位を取得するための場とはとらえていない」(7ページ)と述べている。それに対してアメリカの学生は実際に社会に出た時のためにちゃんと勉強するための場ととらえているとしている。

 結論は以下のとおりである。日本の学生は消費者行動や心理学,マーケティング的な視点から広告を学びたいと考えている。将来どの分野にでも就職できるような幅の広い知識を必要としており,また,将来に役立つ技術をつけたいという意見も多く,これは従来の大学教育では不可能であるとしている。アメリカの学生は根本的に日本の学生と考え方が違い「大学を卒業するときには,自分を明確に差別化するものを身につけていることが当然」(8ページ)と思っている。広告勉強もすぐに役立つものを必要としていると記されている。しかし,大学生活を勉強だけで過ごすのではなく,友達と遊ぶことも日本よりポイントは低いが重要であると述べている。

出典:嶋村和恵(2003),「日米の大学生の広告教育に対する意識調査-共通調査票による調査の結果とその意味-」『日経広告研究所報』,37(4),2-8ページ。

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2005年06月09日

広告が消費者の価格感度に与える影響(下)・(奥瀬・上田2000)

4)非価格広告が消費者の課買う感度に与える影響についての実証研究
5)広告が消費者の価格感度に与える影響を考慮した広告効果測定モデルの構築
6)まとめ

4)非価格広告が消費者の課買う感度に与える影響についての実証研究
 この章では,非価格広告が消費者の意識レベルの価格感度に与える影響に関する実証分析を紹介する。奥瀬(2000)では,コンジョイント分析を用いて,被験者五十一人のアンケートデータを基に非価格広告が消費者の価格感度に与える影響についての実証分析を行っている。この実証分析では,非価格広告が消費者の価格感度を引き下げる効果があることが実証された。消費者の価格感度研究分野の先行研究との流れから言えば,今回の調査では,非価格広告の提示は被験者がブランド選択する際の「価格」の相対的な重要性を低める傾向が見られた。「これはComanor et al.(1995)の『広告は消費者の価格感度を低める』という仮説,Kaul et al.(1995)による仮説の一つである『非価格広告は消費者の価格感度を低める』という仮説を支持する」(28ページ)としている。

5)広告が消費者の価格感度に与える影響を考慮した広告効果測定モデルの構築
 この章では,「上方価格弾力性」「下方価格弾力性」と呼ばれる概念を考慮した広告効果測定モデルの構築を試みていく。上方価格弾力性とは「値下げに伴う売上の変化を示す弾力性」であり,下方価格弾力性とは「値上げに伴う売上の変化を示す弾力性であり,この上方弾力性概念,下方弾力性概念は,価格弾力性を分離することによって,値上げ時と値下げ時とで異なる消費者の価格反応を示している。これに関連して,Rossiter et al.(1997)は,「値下げに対する反応を大きくし,値上げに対する反応を小さくする」ような上方弾力性を増大させ,下方弾力性を減少させるような広告が望ましいことを示唆している。ここで仮説の再構築を試みる。今回の実証分析で用いられる広告のデータは非価格広告のデータであるため、「非価格広告は値下げに対する反応を大きくするが,値上げに対する反応を小さくする。」という仮説を検証する。また,仮説を検証する広告効果測定モデルは①広告は価格感度に影響を与える②広告が増加する場合と減少する場合とでは,その効果の変化過程は異なる③価格が引き上げられる場合と価格が引き下げられる場合で,そのインパクトの大きさは異なる,以上3つの特徴を備えている。この三つの仮説について,今回は六ブランドの台所用洗剤データを用いた。広告が消費者の価格感度に与える影響の有意性を検証するために,「広告が価格変数に影響を与える」と仮定しないモデルによる推定も行い,推定結果の比較も行うことにした。分析の結果は,価格感度への影響を仮定しないモデルの方が,モデル全体の当てはまりが良いことが示された。そして,今回提示した広告が,消費者の価格感度に与える影響を考慮したモデルの有効性を強く支持する結果は得られなかった。

6)まとめ
 以上のように,広告が消費者の価格感度に与える影響に関する二つの実証分析事例を提示した。二番目のモデル構築に関してはあまり芳しい分析結果は得られなかったが,一番目のコンジョイント分析による分析結果からは非価格広告が消費者の価格感度を低めることが示された。「このことを踏まえると,広告が消費者の価格感度に何らかの影響を与えていることは言えそうである」(31ページ)今回提示したモデルは単純なものであったため,今後ロジット型モデルなどによって検討を重ねる必要がある。

出典:奥瀬善之・上田隆穂,「広告が消費者の価格感度に与える影響(下)」『日経広告研究所報』,190号,27-31ページ。

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2005年06月08日

コンシューマーインサイトを考える-アカウントプランニングは今、経営に何をもたらすか- リサ・フォーティニ=キャンベル(2001)

要約 コンシューマーインサイトの目的は,深く感情移入しながら消費者を理解することである。「かつては,モノを作る人とその商品を買う人というのが現在よりも個人的なレベルで繋がっていた」(39ページ)。しかし現在は,マーケティングの機能が専門家・分化したことに伴い,また、企業が巨大化したことで,ビジネスの中心である『顧客』と深いつながり,『共感』を持つことが難しくなってきた。「マーケティング,広告のあらゆる段階で消費者に焦点を当てること」(45ページ)をひとつの重要な仕事と認識することは,非常に大事である。

 コンシューマーインサイトは,広告業界では比較的新しい考え方であるが,しかしその概念は非常に古く、『経営』・『売買』においての簡単で普遍的な考え方である。それはいつの時代も,消費者はビジネス成功の中核だからである。つまり,「製品を作ったり,サービスを提供したりする人が顧客との関係を見つけ,満足させ,消費者との関係維持・促進させることができなければそれはビジネスとして成立しない」(39ページ)。消費者への理解が欠如していると根本的な部分でうまくいかない場合が多い。メーカーと消費者の間に絆と理解を確立することが必要なのだ。そのためには事業規模が小規模で,顧客とのリーチが近いほうがいいのではないか?現在コンシューマー・インサイト,アカウントプランニング(AP)は,現在のマーケティングやのように多くの顧客を抱えた大企業,または国境をまたいだグローバル企業においてのそれは非常に難しいものではないのか?
 しかし,「シンガポール・エアライン,イケヤ,メルセデス・ベンツ,アップルコンピュータなどはグローバルビジネスであっても同じような顧客との結びつきを達成している」(40ページ)。消費者の特定の分野に焦点を当て,消費者が喜び、満足をもたらすように,彼らの理解に努めている。またそれが,ブランドロイヤルティ,利益・売上にはっきりと表れている。
 グローバルな市場においては,高いレベルの専門的なスキルが要求されるが,大企業の多くが機能・職能別に分かれており,専門化をすればするほど,メーカーと消費者間の距離は広がってしまう。大企業では「マネージャーが全ての顧客を個々に知ることは不可能である」(40ページ)。そこで,メーカーと消費者との間のつながりが薄い場合は,より形式化したコンシューマーインサイトとAPによって,両者の関係を強化する必要がある。そこで,つながりを再強化するコンセプトやスキルなどが必要になってくる。
①顧客を特定化すること(ターゲティング)。どの顧客と一番強いつながりを持ちたいかということを明確にするのである。「幅の広いターゲットの設定は,我々の顧客を見失う原因になりうる」(41ページ)。焦点が広すぎると消費者をひとつのカタマリとしてとらえてしまい市場全体のシェア・一年間の商品売れ行きの伸びなどのみに気を取られ,その商品を買ってくれた顧客は,ひとりひとり異なることを忘れがちである。
②顧客に対する真のインサイトを得ること。「海面下の心の部分を見ていかなければならない」(41ページ)。人間を理解する,動機付けを読み込むのである。
③「インサイトを応用し,顧客の経験をより良いものにしていくこと」(41ページ)。消費者との接点で,顧客を知り,理解し,尊重していることを伝える必要がある。

結論 コンシューマーインサイトは,コンシューマーインフォメーションとは違う。それらは「海面上の消費者に関する情報」(42ページ)である。顧客の購入パターン,人工統計学データ,広告キャンペーンの認識度など記述的な消費者を描写するデータの理解の他に,『どうしてこのように行動するのか』ということを考えなくてはならない。「表面的な声と中にある真実との違い。この真実を見抜くのがAPの仕事である」(42ページ)。消費者をビジネスの中にしっかり据えることが必要である。

出典:Lisa Fortini-Campbell(2001),「コンシューマーインサイトを考える-アカウントプランニングは経営に何をもたらすか」『日経広告研究所報』,35(3),38-46ページ.

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2005年06月07日

「企業経営の社会性」と広告-社会的責任と社会貢献の動向を踏まえて(丹下 2004)

 この論文は,企業の社会的責任(CSR)への関心の高まりや,それに伴って個別企業のみならず産業界や国際的なレベルでの企業の社会的責任に関する基準などを策定しようとする動き,社会的責任・社会貢献・社会性などの「概念がかなり幅広く重複して」(10ページ)用いられている現状,「広く社会とのコミュニケーションを図るためのツールとしての役割が強くなってきている」(10ページ)といった広告の概念の変化などを踏まえたうえで,社会的責任や社会貢献の発祥や展開に考察を加え,企業経営の社会性という,企業の社会的責任や企業の社会貢献とは異なる新しい概念を示し,広告活動との関連から広告の社会性について論じることを目的としている。

 社会的責任の発祥と展開として,アメリカでは1920年代の経営者が社会的責任の原理を支持していたとされるが,その後経営者が主張ほど多くのことを成し遂げなかったことを受けて企業の社会的責任に関する議論が高まったこと,日本では社会的責任か利潤かといった議論が60年代なかごろになされ,70年代に頂点に達したこと,80年代には地球環境への関心の高まりが社会的責任に制度的あるいは規範的に取り組む必要性を企業に認識させたことなどが述べられているが,そういったこと以上に企業経営の国際化が日本での企業の社会的責任の内容に多大な影響を与えたとしている。80年代後半の貿易摩擦によって,在米日系企業は社会貢献を通じて現地化を促進する必要に迫られ,そのことが「日本社会に企業活動の一環として社会貢献を導入する発端となった」(11ページ)としている。社会貢献の導入によって規範的・義務的性格の強い社会的責任の概念に自発的あるいは自主的といった性格が加わり,「企業の社会的責任の内容に戦略的な側面が強くなってきた点が画期的と言える」(12ページ)としている。著者は企業の社会的責任を経済的責任と企業市民としての責任に大別し,さらに後者を遵法的責任,倫理的責任(道義的責任),貢献的責任に分類するのが妥当であるとしている。遵法的責任,倫理的責任はその性格から経営戦略的な要素が入り込む余地は少ないのに対し,貢献的責任は自主的・自発的に行われるので「企業経営上の極めて戦略的な問題と位置付けられる」(12ページ)としている。社会的責任投資(SRI)が導入されたりしたことで,企業の収益性だけでなく社会性も重要な判断基準になったなど80年代後半からの企業評価の基準として企業の社会性が注目されるようになったこと,アメリカで戦略的フィランソロピー(フィランソロピーは社会貢献の意)という概念が登場し,企業の社会的貢献が長期的な投資として捉えられようになってきたこと,企業フィランソロピーの競争優位性という論文が発表され,そのなかで現在行われているものが戦略的に行われるとは言えず,企業フィランソロピーが根付くのは21世紀の課題であるとされること,日本でもCSRが法令遵守や社会貢献といったレベルにとどまらず,企業にとってコストでなく投資であるとされていることが述べられ,これらのことから「従来の社会的責任や社会貢献の枠を超える新しい概念が,企業経営の観点から提唱されてしかるべきであろう」(12ページ)として企業経営の社会性という概念が示されている。詳細は筆者の著書を参照とのことから,その具体的な中身については言及されていないが,企業の社会的責任のように自由な経済活動を許される見返りに法を遵守したりするという規範的・義務的なことだけでなく,「本質的に企業経営において社会貢献が戦略的に導入されなければならないこと」(14ページ)が強調されている。

 また,企業経営の社会性は企業の社会的側面からも捉えることができるとしている。経営学の分野ではイシュー・マネジメント,マーケティングの分野ではソシエタル・マーケティング,ソーシャル・マーケティングと関連し,前者が製品不買運動,株主訴訟,反対広告,企業規制といった圧力に,後者が公害や環境汚染の深刻化,コンシューマリズムの高揚,企業の社会的責任論の高まりに対処する必要が生じ,企業が経済的側面だけでなく社会的側面も重要視せざるをえない状況になったとしている。

 非営利・公共的,あるいは社会的な目的を果たすために,民間企業ではなく政府関係機関や公共事業体,非営利組織や非政府組織によって有償の広告が広く利用されていることを挙げ,その際の広告効果は短期的でなく長期的に捉えられ,また製品の購入でなく知識の普及・倫理観を高めるといったところにあるとしている。このとき,営利企業で培われた広告の専門知識や技術が有効に機能し,広告の適用範囲も広がるだろうとしている。そして,広告はアイデアをも認識させる最も潜在力のあるツールと考えられているとし,創造的な広告であれば,「いかなる組織においてもイメージとともに高感度やブランド力の向上に結びつくはずである」(15ページ)としている。

結論
 営利企業を対象としていた理論や戦略が非営利組織にも導入されたり,導入しなければならないという見解が見られるが,そうだとすれば企業経営の社会性が示されるに至った根拠と経緯に基づき広告の社会性が問われ,広告活動にも収益性だけでなく社会性が強く求められてしかるべきだろうとし,「営利目的だけでなく非営利または社会公共的な目的を達成する戦略的なツールとしての広告の社会的な意義とプレゼンスは,今後ますます高まると予想される」(15ページ)としている。

論点
 結論にあたる広告の社会性それ自体や,そこに至る根拠や経緯,論文の核となるであろう企業経営の社会性についての記述が少なく,説明不足な気がする。また,非営利企業などの営利を目的とした民間企業以外の広告についてのみが扱われているように感じられ,自分の勉強不足も多分にあるだろうがタイトルや目的とのずれを感じた。

出典:丹下博文(2004),「企業経営の社会性-社会的責任と社会貢献の動向を踏まえて」『日経広告研究所報』,第217号,10-16ページ。

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2005年06月06日

「ブランド評価と広告」調査分析―2―ブランド評価形成における業種間差異(土山 1998)

1.全商品ブランドによる評価形成の流れ
2.業種別の評価形成パターン
3.企業ブランドによる評価形成の流れ
4.まとめ

1.全商品ブランドによる評価形成の流れ
 本稿では,ブランド評価形成の流れを導き出すために175個の商品ブランドに相関係数,因子分析を行い,4つの因子に測定項目をくくれると判断し「これらによって共分散構造分析を行うことにした」(37ページ)。その4つの因子とは広告が思い浮かぶ,新聞広告で見かける,テレビCMで見かける「広告接触」と名前を知っている,製品のデザインが思い浮かぶ,いろいろなイメージが思い浮かぶ「ブランド認知」と他にない特徴をもっている,品質面で特に優れている,買って間違いがない「品質認知」と憧れを感じる,親しみや好感を感じる,自分にふさわしい「愛着」である。この4つの因子間で「品質認知」と「愛着」,「広告接触」と「ブランド認知」,「ブランド認知」と「品質認知」の関係が強く結びついており,「『広告接触』が『ブランド認知』を促し,次いで『品質認知』を深め,さらに『愛着』へと発展するという流れを指摘することができる」(38ページ)。この形成過程はブランド評価が形成される基本的な流れを表すものである。

2.業種別の評価形成パターン
 耐久消費財や嗜好品が全く同じような流れでブランドの評価が形成されていくとは限らなく,業種によって形成過程に違いが存在するため,ここでは業種別に評価形成の流れを調べている。基本的な流れを表す全商品ブランドの流れと同じ結果だったのが国産乗用車と住宅であった。しかし,同じ乗用車でも国産と輸入車では異なった結果が出ており,輸入車と腕時計の場合,4つの因子の流れに違いはないが「品質認知」の項目に色々なイメージが思い浮かぶ,憧れを感じるが移動している。これは輸入車の場合「品質認知」に「性能,機能だけでなく車がもつ独自のイメージや,さらにそれから喚起される憧れの気持ち」(38-39ページ)が存在するからである。また,腕時計の場合「ブランド名やデザインが同時にそのブランドの特徴と認められ,品質への評価」(39ページ)同時に憧れへの気持ちへとつながるからである。次にファッションのブランド評価形成の過程で,輸入車と腕時計の場合と比較すると「ブランド認知」と「品質認知」の経路が逆転している。これはファッションの場合,判断や確信のステップを先に踏むことによって「ブランド名やロゴマークを購買時や話題にするときに扱っている」(39ページ)次にビール評価形成の流れは「広告接触」→「ブランド認知」→「イメージ」→「確信・愛着」となっており「ブランド名を覚えた後には,そのビールの漠然としたイメージが形成される」(40ページ)。たばこの場合,「確信・愛着」が先で最後に「イメージ」となる。これは広告媒体により自分の好みのブランドを決定し,そのブランドイメージの広がりがブランド優位性を示すからである。ブランド評価形成過程において殆どの業種で「広告接触」が最初に位置するが,パソコンだけは「品質認知」が最初で「広告接触・認知」「愛着」の3つの因子の流れになる。これは「ブランド名を覚えるよりも先に,使ってみて品質や特徴を評価したうえで,広告などによってブランドをしっかりと心の刻みつけることが多いと思われる」(40ページ)からである。そして「広告接触」と「ブランド認知」が同じ因子になったのは広告によってブランド名がより強く認知されるからである。

3.企業ブランドによる評価形成の流れ
 ここでは企業ブランドの評価形成の流れを調べるため114企業を対象とした。その結果,若干の相違は見られたが全商品ブランドの時と基本的に同じになった。この理由としては「企業名を認識したうえで商品ブランドを評価することが多いこと」(40ページ)が挙げられる。また,パソコンの企業ブランドの評価形成過程も商品ブランドと同じように「品質認知」から始まる流れになっている。

4.まとめ
 業種間のブランド評価形成の流れにおいて,輸入車や腕時計,ファッション,ビールやたばこ,パソコンなどは独特な過程であるが,殆どの業種で全ブランド評価形成過程を示しており,商品ブランドと企業ブランドの評価では多少の違いはあったが基本的に同じ過程を示していた。また「広告は認知の足掛かりであることに加えて,ブランドアイデンティティー育成に影響を及ぼしている」(41ページ)と論じている。

出典:土山誠一郎(1998),「『ブランド評価と広告』調査分析―2―ブランド評価形成における業種間差異」『日経広告研究所報』,32(1),37-41ページ。


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2005年06月04日

広告とブランドの超長期記憶(岸 2002)

要約
 この論文は広告が消費者に対し成熟ブランドの管理を行う上で,企業が「記憶の動態的な変化を長期的に把握すること」(9ページ)が重要であるとしている。本稿では消費者の頭の中に蓄積された過去のブランド価値を「超長期記憶」という心理学用語を用いて研究している。

1.超長期記憶の定義と特徴
 本稿では超長期記憶を10年以上保持されている記憶とし,12年以上の記憶保持を観察した研究は少ないとしている。また,超長期記憶が何年以上であると明記した文献は見当たらないとしている。超長期記憶の特徴については以下の5点が挙げられている。①超長期記憶は人の顔や名前,ニュース,自己の経験などについて存在するとし,その種類はエピソード記憶の他に,より一般的知識としての意味記憶も含まれているとしている。1年以上持続する潜在記憶のことでもある。②超長期記憶の形成時期のピークは子ども時代に限定すれば小学校入学時,中高年層では10歳から30歳の頃に学習,経験したことが最も記憶されるとしている。「超長期記憶は子どもから青年期,熟年期,老年期といった異なる発達段階の影響を受けて形成・保持される」(10ページ)。③若年期の記憶は鮮明であるため,好意やノスタルジアに付随するものが多いとしている。④接触頻度が高く,数年間,高水準で学習された記憶は長期間保持されるので,リハーサルがなくても検索が可能であるとしている。⑤「快」,「不快」の感情によって超長期記憶された事柄では「快」の方が多く記憶されるとしている。

2.定性調査の概要
 この章では調査の方法が述べられており,その目的は「広告に関する超長期記憶の測定可能性を確認し,その形成時期や構造などに関する仮説的知見を得る」(10ページ)ことであると記されている。調査結果は全部で14点挙げられているが,ここでは目を引いた6点だけを記すこととする。①再生できる最も古い記憶は,小学生入学前後のものであることから,対象者が広告の超長期記憶を持つことがわかる。②視覚的広告媒体が再生されやすい。③「広告の超長期記憶と現在の購買行動には明確な関連はない」(10ページ)。④中学以降の広告記憶が相対的に思い出しにくい。⑤他者の発言や,マスメディアなどにより広告記憶が再生,再構成されていく。⑥40代女性よりも20代女性の方が広告に関する知識が豊富であった。

3.定量調査の概要
 この調査の目的は再認率による広告の超長期記憶が存在することの確認,視聴時の年齢による再認率の相違分析をすること,どのような要素によってテレビCMの記憶を構築するのか,広告記憶に対する過去と現在のブランド反応の関係性についてである。次に被験者,データ収集方法などの調査方法が記されている。調査結果は以下の通りである。
①広告再認率
平均再認率は56.29%で,年代別,カテゴリー別で記している。前に紹介した定性調査とは,最近の広告も含めたこともあり,異なる結果が出たと記している。両年代(本調査では20代と40代)ともに9歳以下の時の広告再認率が低い。両年代で同じテストCMを調査すると16本中10本のCMで,20代よりも40代の方がより高い再認率を示している。
②広告超長期記憶の構造
「20代・40代とも,広告再認率が高いほど,広告コンセプト,視覚要素,聴覚要素及び言語要素の再認率平均値も高い」(14ページ)としている。CM放送を見た日から年数が経過すればするほど20代・40代ともに再認率が低下する傾向があると記している。
③広告及びブランドへの反応
「20代では視聴時インパクト,当時及び現在の広告好意,当時及び現在のブランド好意,カテゴリー関心度,ブランド使用経験率の全てについて,再認率が高いほど肯定的である」(14ページ)とし,40代でも順位が逆になってはいるが全体としては再認率が高いほど肯定的な結果が出たとしている。

 結論は以下の通りである。以上の調査から超長期記憶が広告にも存在することがわかる。これを利用して広告によりブランドの長期育成をはかるには,ブランド導入時に相手にブランド知識の基盤をしっかり形成させることが大切であるとしている。その後,一貫性のあるコミュニケーションを行うことにより,その広告記憶は断片的に留まらず,「より強固なブランド知識に発展させることができるだろう」(14ページ)と述べている。また,本稿では「早期に形成された記憶を10あるいはそれ以上後に活用するマルチ・コーポレート・ターゲット・オーディエンス」(14ページ)の考え方も示唆している。

出典:岸志津江(2002),「広告とブランドの超長期記憶」『日経広告研究所報』,36(5),9-15ページ。

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2005年06月02日

広告が消費者の価格感度に与える影響(上)・(奥瀬・上田2000)

1)はじめに
2)広告が消費者の価格感度に与える影響に関する既存研究
3)新しい枠組みの創造

1)はじめに
 統合型マーケティングコミュニケーション(IMC)のような,統合的な視点から,マーケティング戦略を構築していくためには,それぞれのマーケティング・ミックス間の関係性が明確にされることは重要であろう。また,パネルデータ,個人視聴率データ等の個人レベルデータの利用可能性が増大してきている。このことから,それらのデータを用いた個人レベルでの実証分析,および効果測定モデルの構築も可能になっている。この論文では,これらのマーケティング・ミックスの中でも広告と価格に注目し,特に広告が消費者の価格感度に与える影響に焦点を絞る。

2)広告が消費者の価格感度に与える影響に関する既存研究
 Nelson(1974)では,広告露出は消費者に情報を提供するため,消費者はそれらの情報により探索を行い,結果として消費者の考慮集合を拡大させ,ブランド間選択を価格属性に基づいて行うため,消費者の価格感度は高まるという見解を示している。この見解は一般的に「情報理論(Information Theory)」と呼ばれる。
 Comanor et al.(1979)では,広告は消費者の製品差別化を高めるものであるため,広告露出の結果としてブランド・ロイヤルティを高め,ブランド選択要因としての価格要因の重要性を低めるとする見解を示している。この見解は「市場支配力理論(Market Power Theory)」というもので,広告露出は消費者の価格感度を低めるとする,産業組織論の観点からの考え方である。
 八十年代に入ってから,両者の食い違いを解明しようとする研究が見られるようになり,それらの研究の中でも,広告が消費者の価格感度に与える影響に注目した研究に注目すると,①消費者行動要因②競争要因③広告要因の三つに分類できる。

3)新しい枠組みの創造
 現在までの研究をふまえて,①印刷広告,チラシ広告の場合には,広告は消費者の価格感度を高める傾向にあり,TV広告の場合には価格感度を低める傾向にある②価格広告は消費者の価格感度を高め,非価格公告は消費者の価格感度を低めるということがわかっている。「しかしながら,価格研究の視点からこの問題について見た場合,まだまだ議論の余地がある」(11ページ)。また,価格研究において,「損失の回避」のために,同程度の利得と損失がある場合に,利得への反応よりも損失に対してより大きく反応するという理論である,プロスペクト理論という理論がある。「これに照らして考えれば,消費者は同程度の値上げと値下げに対して,値下げよりも値上げにより多く反応すると考えられる。従って,同一の消費者であっても,同程度の値上げに対する反応と,値下げに対する反応の程度は異なると考えられる」(11ページ)。価格研究の視点から,広告が消費者の価格感度に与える影響について議論することは,価格設定は広告内容と同様に操作可能な要因であるため,マネジリアルなインプリケーションが期待され,価格研究の概念を取り入れた新しい枠組みを示唆するものである。
 
出典:奥瀬善之・上田隆穂,「広告が消費者の価格感度に与える影響(上)」『日経広告研究所報』,190号,8-12ページ。

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2005年06月01日

コンシューマーインサイトを考える(小林 2002)

 この論文は,コンシューマーインサイトの理念に基づき,米国マーケティング研究の最前線を踏まえたうえで,新しい広告コミュニケーションのあり方を追求している。また,従来の「消費者分析」と区別し,「消費者理解」の重要性を説いている。

 「インサイト」(insight)とは辞書的には,「洞察・見識・見抜く力」(35ページ)などがあり,全体の状況を把握しなおし,行動パターンの原因や意味を理解することである。コンシューマーインサイトとは…
 ①消費者の行動原理・背景にある気持ちの構造を見破る。
  つまり一人の人として消費者を据え,内面まで深く理解することである。
 ②消費者の心を動かし,行動・購買に結びつけるためのブランドと消費者の共感点を見つけ出すこと
 ③「一人一人の個別の事例に注目し,現場の声に耳を傾け『個人』にとっての主観的な意味」(36ページ)を解釈すること
 ④消費者の「文化や,人間のライフスタイルといった空気・雰囲気など目に見えないもの」(36ページ)
を解釈していく
ことである。
 
 ここ数年,「コンシューマーインサイト」という考え方が脚光を浴びるようになった理由の一つにアカウントプランニング(以下AP)が挙げられる。APは,「消費者心理や行動を理解し,広告開発の全てのステップに反映させること」(35ページ)であるが,上記の前半部分がコンシューマーインサイトに当たる。広告表現開発の方法論としてAPを導入する広告会社が増加したため,コンシューマーインサイトが注目されるようになった。APが「消費者の代弁者」(36ページ)であることもあり,プランナーに消費者の海面下・心の奥を探ることが求められるようになってきたのである。「APは,企業・ブランドの立場で発見した魅力点・特徴点をものの分かる消費者に投げかけて,消費者を鏡にしてその反応を見る」(36ページ)。商品魅力と消費者の共感点を察知していくのである。
 消費者分析は「目に見えるものの分析」である。1000のサンプル数から法則性を導き,数値に置き換えて消費者の動向を探る。従来の消費者分析の考え方では消費者を「論理的に考え,合理的に判断する存在」(36ページ)と据えてきた。しかしながら,現実的には,必要性に迫られていなくとも,利便性がなくとも衝動買いなど一瞬でその商品に興味を持つ,または購入した後にその商品の情報収集をする,購入後に違った魅力を発見するなど企業・広告会社側が想定していないケースに遭遇する事もよくある。コンシューマーインサイトが従来の消費者分析と決定的に違うのは,消費者を「分析」するのではなく「解釈」するのことである(定量調査や,グループインタビューを否定するのではなく,それだけでは掴みきれない潜在的なところにも着目するのがコンシューマーインサイトである)。コンシューマーインサイトが相手にする「目に見えない部分」には,企業側では「企業文化・商品文化」(37ページ)があり,消費者側では生き方や,「消費者集団の価値を決定する風習,習慣」(37ページ)と言った意味の文化などがある。消費者の文化の下に目には見えない生活の様式が存在する。それを見るため,理解するためには「ポストモダン」という考え方が必要になってくる。
 今,「コンシューマーインサイトを発見するための広告学」(37ページ)が必要である。
人間を客観化・抽象化せずに感覚を重視する方法,「人間がどんな事を考えているか」(38ページ)という目線で,消費者を解釈していく方法を確立する必要性を筆者は説いている。
統計学など従来のマーケティングで用いられてきた手法以外に文化人類学の「書誌学」(38ページ)などの方法も組み込んで,消費者を解釈していくべきである。新しい広告学はコンシューマーインサイトを見つけていく過程で再構築され,それはブランドを解釈する時にも大きな影響を与える。

出典:小林保彦(2001),「コンシューマーインサイトを考える」『日経広告研究所報』,35(3),34-38ページ.

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2005年05月31日

国際広告戦略の世界標準化対現地適応化(藤沢 1997)

 この論文は,広告メッセージ内容を世界標準化すべきか現地適合化すべきかという意思決定に影響を与える要因を,情報の手がかり数を判断基準として明らかにすることを中心とし,広告媒体,広告予算,広告効果についても考察を加えている。

 ここでは,広告メッセージを世界標準化すべきか現地適合化すべきなのかという意思決定に影響を及ぼす要因を明らかにするために,いくつかの先行研究をサーベイするという方法をとっている。そのなかで,ミューラーの実証研究をもとに情報の手がかり数を基準とし,必要な情報の手がかり数の量によって広告メッセージを世界的に標準化すべきかどうかの決定要因を推定している。多くの情報の手がかり数が必要とされる場合は,適合化された広告メッセージが,情報の手がかり数が少なくてもよい場合は標準化された広告メッセージが,それぞれ適しているとしている。広告メッセージの世界標準化の促進要因として,低関与型製品,テレビ広告,高コンテクスト文化,集団主義的文化,販売される各国間において製品ライフサイクル段階が導入期・成長期といった段階で類似している製品,が挙げられている。さらに,先行研究から産業財,世界中で共通したニーズを満たす製品,メッセージに含まれたユーモアも標準化に寄与するとしている。産業財,世界中で共通したニーズを満たす製品については,情報の手がかり数を基準とした場合でも標準化を推進させる要因となる点で一致するとしている。耐久消費財,高関与型製品,印刷物広告,販売される各国間において製品ライフサイクル段階が成熟期・衰退期といった段階で類似している製品,あるいは各国間で著しく異なる製品ライフサイクル段階の製品,低コンテクスト文化,個人主義的文化が,広告メッセージの現地適合化の要因となるとしている。これは,印刷物広告がテレビ広告より情報提供的であることや,製品ライフサイクルと広告のスパイラル効果では,成熟期には説得・情報提供機能,衰退期には情報提供・説得機能へと力点が移るとされていることなどにより,それぞれ情報の手がかり数が多くなるからであるとされている。

 高コンテクスト文化と集団主義的文化の方が,低コンテクスト文化と個人主義的文化と比較して,少なくとも同文化圏内においては広告メッセージを標準化しやすいとみなせるとしながらも,世界標準化という意味を考えた場合,文化コンテクスト・レベルの高低といった差異を乗り越えなければならないとし,「広告メッセージにも異文化マネジメントの定説的な考え方を適用すべきかどうかは,今後の検討課題としたい」(36ページ)としている。また,予算については,国民1人当りのGNPに応じて広告予算が算定されていると標準化の傾向を紹介し,広告効果でも標準化の必要性を述べているが,「これらはあくまでも経済的要因に着眼した発想」(36ページ)であるとして,文化的要因の差異を考慮した考察には至っていないとしている。これらのことから「予算と効果も世界的に標準化される要素だと断定してよいかどうか」(36ページ)ということも残された課題であるとしている。

論点 
 先行研究をサーベイするなかで,ポルシェの乗用車がヘネシーのブランデーなどとともに分類される高級ブランド的な製品タイプは,「消費者にとって文化とは関係なく類似したライフスタイルと期待を抱ける製品」(16ページ)であること,あるいは最初から決め買いに走りがちであることから広告メッセージの標準化が行いやすいとしている。しかし,ポルシェの乗用車をはじめとする高級車が,情報の手がかり数を多くは必要としない製品だとは思えないし,高級かどうかに関わらず乗用車は耐久消費財である。情報の手がかり数を広告メッセージ標準化・適合化の判断基準にするのは苦しいように思われる。

出典:藤沢武史(1997),「国際広告戦略の世界標準化対現地適応化」『商学論究』,44(3),13-38ページ。

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2005年05月30日

テレビCMのメッセージ効果(八巻 2000)

1.はじめに
2.視聴率(GRP)と好感度
3.好感度と購買喚起率(購起率)
4.購起率と売上高  

1.はじめに
 多情報時代である今日,日本の消費者はテレビ放送から1日4500本のテレビCMを受け入れている。しかし,その中で「消費者の記憶に残っているのは38.4%で,購買意欲に刺激を与えているのは33.8%である」(7ページ)。この33.8%のCMのメッセージ効果を視聴率,好感度,購買喚起率(購起率),販売実績(POSデータ)を使用して検証している。

2.視聴率(GRP)と好感度
 テレビ視聴率は1960年代から存在したが,このテレビ視聴率ではテレビCMを「見た」か「見てない」かのCM効果をはっきり示すことができないのでテレビ電波が届いているかを示す到達率にすぎなかった。はっきり「見た」ことを示すデータは印刷媒体の場合,再生法と再認法の2種類あり,「双方とも生理的効果を捉えている」(7ページ)。しかしながら,テレビの場合,生理的データを再認法では測りにくいため再生法によってテレビCM効果測定を行っている。「84年から実験を始めたが,『見た憶えのあるCM』よりは『好きなCM』の方が回答が出やすいことが分かり,好感度を取ることになった」(7ページ)。また,視聴率と好感度との関連性を相関関係でみると88年が0.35で98年が0.22とほとんど認められない結果になった。

3.好感度と購買喚起率(購起率)
 広告の効果は心理的効果で,広告の目標は「知名,理解,確信,行動」の態度変容である。そして,この「確信」(買いたくなる)を購買喚起率(購起率)とし,購起率と好感度を相関係数でみると88年が0.90で98年が0.93と高い関連性を示している。「従って好感要因をチェックすれば,購起率にも関連するし,また実際の売り上げにも結びつく」(8ページ)。

4.購起率と売上高
 実際に97年11月から98年10月までに放映されたCMの中でPOSデータと対応できない耐久消費財,レジャー,情報を除外し,好感度,購起率が上位14商品のCMを購起率とPOSデータによって売上高の推移を分散分析で検討している。この結果,5つのケースで有意性が示された。この5CMの好感要因でもっとも多かったものは「出演者・キャラクター」で次に「商品にひかれた」そして次に「画像」である。従って「商品に魅力を感じさせるCMがやはり売り上げに結びつくのである」(11ページ)と論じている。

 結論は以下の通りである。まず視聴率と好感度,次に好感度と購買喚起率の関係について相関係数を用いて述べており,最後に購買喚起率と売上高の関係を検討し,CMが売り上げに関係していることを述べている。

出典:八巻俊雄(2000),「テレビCMのメッセージ効果」『日経広告研究所報』,34(1),7-11ページ。

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2005年05月28日

メディア・プランニング・モデル-広告四媒体効果算定および最適予算配分-(井上 2000)

要約
 この論文は広告メディアの多様化の中,広告目標を最大化するために広告4媒体への最適予算配分モデルを提示している。また,「本論で採用されたモデルは4媒体に限定されず,将来生じる多媒体全体に適用可能な柔軟なモデルである」(9ページ)。

1.広告効果算定モデル
 まず,広告効果算定を構築するためには4媒体の各広告GRP(出稿量)とその媒体から生じたブランド認知率やキャンペーン認知率などの広告効果に関するデータが必要であるとし,この論文では「1993年8月から97年11月のビール製品に関する135のキャンペーンに対して,30代男性に限定したデータ」(10ページ)を事例として扱っている。なお,その内53は新製品ビールキャンペーン,82はリニューアルされたビールに関するキャンペーンのものである。次に,初めに挙げた各出稿量の算定方法は,テレビは「ビデオリサーチ社が行っている個人視聴率データPMを算出する」(10ページ)。ラジオは「広告出稿統計にビデオリサーチ社が行っている日記ラジオ聴取率データの30代男性に関する結果をウェイトとして積算」(10ページ),新聞と雑誌は「それぞれの広告出稿統計にビデオリサーチ社が行っているACR調査から得られたビークル閲読率を積算」(10ページ)するとし,さらに新聞は段数別注目率,雑誌はスペース別注目率を積算する。それを元に,ブランド認知効果算定モデル,ブランド認知率最大化最適予算配分モデル,キャンペーン認知広告効果算定モデル,ブランド認知率最大化最適予算配分モデルの計4つのモデルを新製品,既存商品別に記しており,そのモデルを算出するための方法が書かれている。最後に計算より導き出された新製品ブランド,新製品キャンペーン,既存ビール製品ブランド,既存ビール製品キャンペーンの各認知率を記している。

2.最適予算配分問題モデル
 最適予算配分問題を考えるためには,「各媒体におけるGRP単価を算定し予算制約式に代入する必要がある」(13ページ)。GRP単価を算定する場合,単純平均,キャンペーン平均,最頻値の3つが考えられるが本稿では,単純平均に基づく結果のみ示されている。次に,さきに述べた広告効果算定モデルならびにGRP単価に基づいて,3億円,10億円,20億円と広告予算が与えられた時におけるブランド認知率,キャンペーン認知率を最大化する4媒体の最適予算配分を解いている。得られた結果以下の7点で,①雑誌において新製品は,ブランド認知率,キャンペーン認知率を上げる効果が期待できない。②「新聞は,既存製品のブランド認知ならびにキャンペーン認知率を伸ばす媒体としては効果が期待できないことがわかる。新聞という媒体には,他の役割が大きいと思われる」(14ページ)。③新製品に対する1媒体としては圧倒的にテレビが有効である。④既存ビール製品に対してはテレビが有効だが飽和状態になりやすい。⑤新製品に対してはテレビと新聞を効率的に併用する必要がある。⑥「既存ビール製品に対しては,テレビと雑誌を併用すると非常に効果的である」(14ページ)⑦「既存ビール製品に対する最適予算配分問題の方が,新製品に対する問題より安定していた」(14ページ)と記されている。

 結論は以下の通りである。この論文のビールのモデルでは既存製品より新製品の方が適合度は高かった。これは「広告以外の要因による影響を受ける程度が高いということが考えられる」(14ページ)。すなわち,「広告以外の要因を考慮したモデリングを広告算定に対して行った上で,新製品に関する最適予算配分問題を考えることが,既存製品に関するより重要となるであろう」(15ページ)と指摘している。

出典:井上哲浩(2000),「メディア・プランニング・モデル-広告四媒体効果算定および最適予算配分-」『日経広告研究所報』,34(5),9-15ページ。

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2005年05月27日

「存在」のマーケティングにおける価値と認識の探求(武井 2000)

1.はじめに
2.方法の発展と成果
3.「意味」の発見と創造
4.「存在」のマーケティング
5.コミュニケーション活動の事例

1.はじめに
 現代のように生活が豊かな時代において,購買意思決定に際して製品が表現する「意味」や「価値」が重要になってくる。そこで,本稿では人間にとっての「意味」や「価値」を「生きがい」とし「人の幸せに貢献することのできるマーケティングの本質はどこにあるのか,また,そのためには消費者をどのように捉えていく必要があるのか」(24ページ)を論述している。

2.方法の発展と成果
 「戦後期の1950年代から60年代はマーケティングへの行動科学の導入が進んだ。そして,心理学の概念や方法などを応用することによって,消費者の言動の背後に潜む購買意思決定と関連し動機をモチベーション・リサーチなどの技法によって明らかにする研究が行われた」(24ページ)70年代以降の研究では情報処理,記憶,文脈,あるいは世界観などの認知科学を取り入れた研究がなされた。今日では多くの研究者が「生活経験」に探究している。例を挙げると「五感を刺激づけるもの(TIFFANY),エモーションの訴えかけるもの(HAAGEN-DAZS),認知や問題解決への貢献をうたうもの(MICROSOFT),身体やライフスタイルに影響を及ぼすもの(NIKE),人や文化との関係性を主張するもの(HARLEY-DAVIDSON)である」(24ページ)

3.「意味」の発見と創造
 ここでの「意味」は「対象についての知覚や解釈であり,したがって対象に内在しているというよりは,人,対象物,文脈の相互作用によってつくられる」(24ページ)ものであり「練り歯みがきと脱臭薬が,共に『身づくろいの儀式』という意味のなかに並んで位置づけられる」ように「意味」によって新たな製品グループを創造することができる。

4.「存在」のマーケティング
 人間の「存在」は家族,会社,地域社会のような「つながり」のなかにあり「存在」のマーケティングは人々に「つながり」に気づかせたり,再認識させるようなコミュニケーションである。

5.コミュニケーション活動の事例
 ここでは,資生堂,ミツカン,ベネッセコーポレーションのコミュニケーション活動の事例を紹介している。資生堂では「商品を通じての消費者との人間的接触という側面」(25ページ)に注目し,「象徴」としてのメッセージを掲げ,消費者に情報内容の「意味」を考えさせ,自然な形でマーケティング展開を理解させるコミュニケーション活動を行った。ミツカンは「鍋もの」などの家族団らんをテーマにしたテレビCMを展開することによって「家族愛をテーマとしたコミュニケーション活動」(26ページ)を行った。ベネッセコーポレーションは「顧客とのツーウェイコミュニケーションによる信頼感づくりを基軸にコミュニティーとのつながりを重視」(27ページ)したコミュニケーション活動を行った。

出典:武井寿(2000),「『存在』のマーケティングにおける価値と認識の探求」『日経広告研究所報』,34(4),23-27ページ。
    

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2005年05月26日

米国におけるマーケティングとインターネット広告(丹下 1999)

1)はじめに
2)マーケティングとインターネット
3)インターネットによる販売チャネル
4)電子メディアを用いる成功原則とは
5)インターネット広告時代への示唆
6)注目される新世代の「ネットコミ」

1)はじめに
 米国では現在,インターネットをベースとした競争が激化しており,これはソフトウェアやネットワーク機器のようなハイテク部門だけでなく,小売業のようなローテク産業においても主流になってきている。インターネットによって,企業間競争の在り方が様変わりしつつあるのである。それがマーケティングの手法や戦略,さらにその一環として行われる広告活動に大きな変革を迫っていると考えられる。このような米国における風潮は日本へも押し寄せてきている。ここでは米国におけるマーケティングとインターネットとの新しい関係を最初に考察し,それを基に二十一世紀におけるインターネット広告の課題を展望している。

2)マーケティングとインターネット
 本格的な情報化社会への変遷を背景に,フィリップ・コトラーの九九年に出版された著書『コトラー・オン・マーケティング』では二十一世紀に向けてのマーケティングにかかわる重要な環境変化が次のように指摘されている。第一に,「市場の変化が加速度的に起こるので,企業はその急激な変化を認識できないことが多くなること」(19ページ)。第二に,「市場(マーケット)やマーケティングが,従来とは全く異なる原理・原則に基づいて運用されるようになる」(19ページ)ことである。

3)インターネットによる販売チャネル
 一つ目に,顧客が直接,インターネットによって,マーケターのウェブ・ページを見ることとなる,製造業者との直接的な販売チャネルが挙げられる。大成功を収めた最も身近な例がデル・コンピューターである。もう一つの販売チャネルは,電子媒体チャネルと呼ばれるものである。この販売チャネルの方が広告業とは直接的な関連が強い。なぜなら,この電子媒体業者は広告主から会費や,ページビューによって収入を得ることになり,これがいわゆるバナー広告を中心とする,インターネット広告の草分けと考えられるからである。

4)電子メディアを用いる成功原則とは
 電子市場(エレクトロニック・マーケット)は購買者にとって多くの長所と短所がある。両方の観点から,コトラーは,新しい電子時代において現代の企業が成功を勝ち取るために尊守しなければならない四つの原則を抽出している。その第一は,「顧客に関するデータベースを構築し,それを積極的に活用すること」(20ページ)。第二に,「インターネットをどのように利用すべきかに関する明確なコンセプトを開発すること」(20ページ)。第三は,「関連するウェブ・サイトに企業のバナー広告を出稿すること」(21ページ)。第四は,「顧客が簡単にアクセスできるようにし,それに素早く対応すること」(21ページ)である。

5)インターネット広告時代への示唆
 マーケティングと広告の関係の変化について,ビル・ゲイツは九九年の『ビジネス・アット・ザ・スピード・オブ・ソート』の著書の中で,「情報技術の発達によって,企業は従来のマス・マーケティング・モデルに基づく顧客管理から,ワン・トゥ・ワンをベースとする顧客管理へシフトするようになる。このパーソナライゼーションこそがあらゆるメディアに大きな影響を及ぼし,実際問題として広告はマス化されたものから個人化されたものへ全て移行していくだろう」(21ページ)と述べている。米国において,インターネットの普及を背景とするパーソナライゼーションの浸透は,マーケティングと広告の領域に革命を起こすとまで言われている。

6)注目される新世代の「ネットコミ」
 広告コミュニケーションのスタイルは,不特定多数の一般大衆をターゲットとするマスメディアを用いた一方方向的なものから,個人を主体とするインタラクティブな双方向型のものへと大きく変化していかざるをえない。そして,この変化を推進する原動力となるのがまさにインターネットであると筆者は述べている。しかし,情報技術が十年後にどうやってマーケティングの手法を変えていくかは,おそらく誰にも予想がつかないであろう。しかし,従来から最も強力な広告媒体は人間による「口コミ」であり、このワン・トゥ・ワンのリレーションシップの重要性は普遍的なものであるといえる。このことから,「電子メールを利用したいわゆる,『ネットコミ』が二十一世紀の新しいインターネット・コミュニケーションの中軸概念の一つになり,インターネット広告もネットコミの基盤の上に成り立つことになっていくのではないか」(22ページ)と筆者は推測している。

出典:丹下博文(1999),「米国におけるマーケティングとインターネット広告」『日経広告研究所報』,45ページ。

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2005年05月25日

広告研究における消費者理解-上・下 (岸 2002)

 広告研究は,1920年代以降,マーケティングの一要素として統合的に管理する対象として研究されるようになった。同時に広告効果に関する研究も盛んになされ,それは心理学理論・心理学手法に依拠している。「科学的」ないしは学術的な広告研究は,20世紀初頭の米国で始まったとされ,「当時の米国広告業界が心理学を導入する事で,広告業の社会的地位向上を図ったと小林は指摘している」(2ページ)。20世紀後半では,「オーディエンスは生活の中で,メディアや広告をどのように利用するか」(16ページ)という受け手の視点への転換が起きている。

広告研究は心理学とマーケティング研究を横断しながら,科学化を推進してきた。ここで言う「科学化」とは、「現実を構成する主要な因果関係を説明し,それに基づいてある変数の影響を予測し,統制可能にするために,体系的な研究方法を導入すること」(3ページ)である。

1.20世紀前半の研究
 米国における,広告心理学成立期に活躍した心理学者として,W・スコット,D・スターチ,J・ワトソンがおり,彼らが「後の効果階層モデルに類似した広告の機能に関する枠組み(注意・関心・確信・行為・記憶)を提示し,広告訴求形態・表現要素の多面的分析を行った」(4ページ)。しかし堀田はスコットらの広告心理学が米国一般の人々の日常的なマーケティング作業にどのような影響を与えたかの判断は難しいとしている。P・チェリントンは『企業力としての広告』で,広告は商品と消費者を結びつける影響力として位置付けた。1930年以降は,広告活動自体を一定期間持続する『キャンペーン』と位置付け,広告を統合的に管理する必要性が認識された時代である。つまりマーケティング研究では「広告を企業の市場適応行動の1つとして統合的に把握する試み」(4ページ)がなされたのである。

2.20世紀後半の研究
 60年代以降の特徴のひとつは、「オペレーションズ・リサーチ(OR)や統計学が広告管理に適応されるようになり,媒体選択,リーチ・フリクエンシー推定,予算決定などを対象として意思決定モデルが多数開発されたことである」(5ページ)。また,60年代の広告実務に対する考え方に極めて大きな影響を与えた著作としては,R・コーリーによる『目標による広告管理(通称DAGMAR)』がある。「DAGMARは広告効果を売上でなく,コミュニケーション効果に限定することにより数値で広告目標を設定し,その成果を広告効果として測定する管理手法である」(5ページ)。しかし,DAGMARは考え方の明示のみであり,実用化が困難であった。
 広告効果のモデルとしては,50年代の特徴は消費者の態度変容研究の応用がおもであり,60年代は高関与学習学習型の効果階層モデル,70年代には関与度の相違を考慮した階層モデルへ,そして80年代以降は情報処理モデルへ(IMC効果を説明する上でも重要な枠組みである)と理論的には精密なモデルが提唱されるようになった。消費者行動および説得研究の基盤となった情報処理パラダイムの特徴と,広告情報処理研究をもう少し詳しく取り上げていく。「マクガイアの「情報処理モデル」では,効果階層のはじめに接触と注意があり,理解,受容,保持,行動という系列が想定されている」(16ページ)。消費者情報処理研究はブランド選択など,高度な過程を対象とする事が多いが,消費者の広告への関心が相対的に低下している現在の環境ではそれを応用することが次第に困難になっていうのではないか?という指摘もある。同時期に,「ブランド態度形成過程を説明する場合に最もよく利用されたモデルに『精緻化見込みモデル』がある」(17ページ)。ぺティとカチオポが提唱したもので,「説得的メッセージの真偽や望ましさを評価するためにそのメッセージおよび記憶内の知識を注意深く検索し,争点と関連付ける過程でオーディエンス自身が新しく情報を作り出すことと厳密に定義されている」(18ページ)。

3.オーディエンスとは誰か?
 広告効果の見えにくい時代に入り,新たな消費者理解の方法が模索されるようになった。「広告と娯楽の境界線が曖昧になり,購買意思決定においてはインターネットやフリーペーパーなど,マスメディア以外の情報源利用が増加している」(21ページ)。「『大量説得の受け手』という古典的な枠組みを超えた,オーディエンスおよび消費者理解が求められている」(21ページ)。

出典:岸志津江(2002),「広告研究における消費者理解-上・下」『日経広告研究所報』,35(216)2-8ページ。

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2005年05月24日

マーケティングと広告(土山 2002)

 この論文は,「日本の広告研究の系譜」というシリーズの第6回目で,戦後の文献を対象に,「広告とマーケティングの記述についての系譜をたどること」(41ページ)を目的としている。

 対象論文で最も古いものとして,56年の宇野が紹介されている。マーケティングの本質が理解されているか疑問を呈し,メーカーの立場でのマーケティングを解説する過程で,広告はマーチャンダイジングをプリントしたものと強調されるとしているが,広告について多くの紙幅が割かれたわけではないとしている。その後,他の著者によって「電通広告論」誌,「マーケティングと広告」誌に掲載された論文についても「あまり多くの紙幅は割かれていない」(41ページ),「広告との関係を詳細に述べるということはなかったようである」(42ページ)などとしている。60年代,広告主や広告会社に籍を置いた実務家たちによる研究があったと紹介されているが,「系譜と呼ぶべき影響の発端は明らかでない」(42ページ)としている。また,67年の宇野による論文で,改めてマーケティング導入理論の不消化が指摘され,そのなかで「マーケティング・マネジメントの一環としての広告体制のあり方」(42ページ)が論じられているとしている。これらの論文を見てきたなかで「マーケティングのフレームワークを再考する中で広告の位置づけや役割などを見直そうとする場合」(42ページ)と「様々な環境,条件でのマーケティング戦略の中で広告に触れる場合」(42ページ)に大別できるのではないかとし,この二分類のうち前者についてのマーケティングと広告を見ていくことにするとしている。

 70年代はマーケティングに関連したシリーズもののなかでの広告の記述がいくつか見られるが「特定の研究者や領域の流れを受けて解説されているものではない」(42ページ),「日本の研究論文に関しては触れられていない」(42ページ)としている。その後空白期間が続き,80年代に入ると「4P理論もしくはマーケティング・コミュニケーションにおける広告の位置づけを再考しようとする研究が現れる」(42ページ)としている。広告が「プロモーションの中に位置づけられていることに対して,広告の公共性,社会性をも含めた広いカテゴリーの中に位置づけられるべきだとして」(42ページ)4C理論を提唱し,7Cs COMPASS MODELを考察した清水,「広告のコミュニケーションプロセス論に力点を置いて」(43ページ)研究を展開した亀井,八巻らが紹介されている。その後さらに,「マーケティングと広告の枠組みの再検討を目的とした研究が相次いでいる」(43ページ)としているが,「いずれの発表も我が国の文献,研究の流れを明確にしているわけではなく,また,相互の関連性も見受けられない」(43ページ)としている。

 90年代に入ると,「市場の世界的な広がりと同質化を踏まえ,デザイン力の重要性を強調」(43ページ)した菅原,「グローバルという言葉の普及が進む時代」(43ページ)に着目して問題点を指摘,フレームワークの検討を提唱した疋田,渡辺他によるライフスタイル・マーケティングを基軸とした研究があるとし,これらは,国際マーケティング,ライフスタイル・マーケティングといった,二分類による流れでは後者にあたる「マーケティングの一タイプにおける広告の検証,考察の色合いが強いともいえよう」(43ページ)としている。90年代後半になるとIMCをテーマとする研究が多くなる。このことについて「あるテーマに対する関心が高まる時期が存在するようである」(46ページ)としている。IMCをテーマにしたものには,消費者行動論の視点から「広告の役割として長期的顧客創造の基盤づくり,消費の意味形成や社会の中での同化と差異化といった機能があることを挙げている」(45ページ)岸など多数が紹介されている。しかし,4P理論,IMC論をはじめ多くが,海外の研究,文献を「規範として理解,消化したうえで各々の考察が展開されることが多いように思われる。その過程で日本の研究も参照されているだろうが,いずれか個々の研究を発展させてというケースは多くないようである」(46ページ)としている。

 結論としては,「選定した論文の数,あるいは対象誌を考慮せずに」(46ページ)としたうえで,「研究の傾向をたどることはできても系譜を見て取るのは非常に難しい」(46ページ)としている。また,60年代中ごろから70年代前半,70年代前半を過ぎて80年代前半のように「比較的長い期間空白となる時期が見られた」(46ページ)としている。

出典:土山誠一郎(2002),「マーケティングと広告」『日経広告研究所報』,36(5),41-47ページ。

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2005年05月23日

広告の社会的役割(宮原 2002)

 この論文は企業の社会的役割と責任という観点から社会に影響力を及ぼす広告に関して記している。

1.広告批判
2.広告の社会的役割
3.広告の社会的責任
4.制度としての広告
5.企業の社会的役割と広告

1.広告批判
 広告批判として企業が販売促進として多額の広告費を費やすと消費財コストや物価が上昇し,社会がインフレを起こす可能性があることや広告は全てではないにしても,消費者に誤った情報を与えてしまうことや「広告は企業集中を促進し,独占の弊害をもたらす」(30ページ)ことなどが挙げられている。このように,経済が発展すると企業活動に伴い,広告活動も活発になり,「広告が経済問題だけでなく,社会問題や文化問題としても影響力を持つようになり,広告に対する批判が大きく浮上することになる」(30ページ)

2.広告の社会的役割
 広告の社会的役割としては,売り手と買い手の距離を縮め,購買までの過程を円滑に進める役割を果たすことや一企業の利益目的だけでなく「全社会の福祉と厚生の増進のために用いられるべき」(30ページ)としている。また,広告によって消費者が利益を受けるため一般大衆による広告費の負担や広告制作者をコントロールし,社会の利益をまもるため広告制作者を資格制にすることなどを提案している。

3.広告の社会的責任
 ここでは広告の社会的責任を広告の経済的機能から述べている。つまり「消費生活にもたらす諸メリットを消費大衆に知らせ,その面から消費購買行動の容易化,円滑化,有利化に資する」(31ページ)と主張している。そして今後の広告活動について購買行動の援助と同時に需給のバランスを維持し,広告を企業の経営的・社会的活動としている。また,広告は消費者に商品の情報を与え,選択幅を増やし,生活水準を向上させ,大量生産を可能にし,商品の低価格化に貢献してきた反面,社会環境の破壊や生産資源の浪費などの批判も存在する。したがって,これらの問題を解決するために「企業理念が顧客志向から社会福祉志向に移行する」(31ページ)ことが望ましく,これらの理念に基づいて広告のあり方を考慮する必要がある。

4.制度としての広告
 現代の高度消費経済では広告は社会的・文化的影響力をもっており「広告を現代社会の中の制度と捉えている」(32ページ)ここでの制度とは「数十年にわたって蓄積されたグループ行動のパターンをさす。制度は,ある共通の感情を社会の人々に共有させる機能を有する」(32ページ)とし,広告を単なるマーケティング・ツールとしてではなく,より広い観点から論じている。

5.企業の社会的役割と広告
 現代社会では企業の影響力が増大しており,企業の利益を得るための行為が自然環境のシステムを乱し,消費者に自分自身の幸福という自己中心的な哲学を普及させていることに疑問を投げかけており,この問題を解決するための需要の抑制に広告の役割があると論じている。

出典:宮原義友(2002),「広告の社会的役割」『日経広告研究所報』,36(4),29-33ページ。

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2005年05月21日

媒体計画についての研究(広瀬 2002)

 この論文は媒体計画を過去の論文から検索し,各媒体の研究テーマにおける媒体の系譜を記している。また,今までの研究を振り返って今後議論の余地があるテーマについても書かれている。

1 媒体計画の基礎理論についての研究
2 媒体特性についての研究
3 媒体選択についての研究
4 研究の傾向

1 媒体計画の基礎理論についての研究
 媒体計画の基礎理論は媒体スケジュールと媒体効果の理論拡張の研究に分けることが出来ると記されている。前者において媒体目標の効果測定に焦点をあてた研究は,「複数の広告媒体を用いた場合においてのモデル適用度の変化の検証」(36ページ)などが記されている。後者の理論拡張は「情報源効果の枠組みから広告メッセージと媒体イメージとの関係に焦点を当てている」(37ページ)研究が挙げられている。媒体の効果にあわせて広告目標は変わり,それは単純な媒体接触だけでは判断出来ないので「媒体接触と広告効果の関係には,まだ多くの課題が残されている」(37ページ)としている。

2 媒体特性についての研究
 この分野の研究はテレビ,新聞,ラジオ,交通広告,その他の媒体に分けることが出来る。さらにテレビは「一般的な広告媒体としての特性を探ったものと,社会学的な視点から見たテレビの特性についての研究とに大別できる」(37ページ)としており,前者には「テレビCMの提示方法の違いについて考慮した研究」(37ページ),「テレビ番組のイメージとCMとの関係」(37ページ)「CMの秒数と再生率との関係に焦点を当てた研究」(37ページ)があると記している。後者の社会学的な視点からは,沖縄にCATVが導入された時における地域社会への影響を記している。新聞についての研究は注目率を取り上げたものが最も多く,ラジオについての研究は他の媒体との相互作用や比較ついての研究が多いと記している。交通広告の研究で初期は「国鉄時代に車内広告の特性や課題について」(37ページ),最近では「スペース要因が注目率に強い影響を与えていることなど,様々な媒体特性が明らかにされている」(37ページ)があると記されている。その他の媒体研究はインターネットについてのものがほとんどである。媒体特性の研究は物理的な要因に焦点を当てたものが多く,ある特定の媒体が注目されると,その媒体の研究がまとまって行われるが,系統が行われているわけではないとしている。「消費者の心理的な要因を考慮すれば,既存の媒体についても研究の余地が残されている」(38ページ)

3 媒体選択についての研究
 この分野の研究は「メディア・ミックスの枠組みについての研究,複数の媒体を選択することによる広告効果の違いについて論じたもの,特定の広告目標に対して効率的に予算を配分する方法について探った研究」(38ページ)などに分けることが出来ると記している。媒体選択についての研究は複数の媒体別のデータ収集が難しいとされているが「自社や関連会社のデータを用いた研究が多く,興味深い成果が見られる」(38ページ)としている。

4 研究の傾向
 媒体研究に関する研究を年代別で見ると,70年代は媒体選択,80年代は媒体計画の基礎理論,90年代は媒体特性についての研究が各年代ごとに多く見られる。しかしこれは,研究の動向にすぎず,参考文献をレビューして媒体研究の系譜をまとめようとしてもほとんど出来ないとしている。また,米国の研究動向を反映させた研究,マス媒体(研究成果が公開されていないだけかもと記す),既存理論のニューメディアへの応用研究が少ないので,今後研究の余地があると記している。
 最近のインターネットに代表されるようにニューメディアは次々と生まれているが,既存媒体の議論は十分には行われていない。媒体計画についての研究は机上の理論と現実とのギャップを埋めることが極めて困難であり,理論的な背景の有無で全く意味が違ってくるとしている。すなわち「蓄積された理論と実践のギャップを埋め,効果的な媒体計画を考えるためには,これまで以上に産学共同の研究が必要となるだろう」(39ページ)ことが指摘されている。

出典:広瀬盛一(2002),「媒体計画についての研究」『日経広告研究所報』,36(3),36-39ページ。

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2005年05月20日

広告倫理についての研究(疋田 2002)

 広告倫理に関する広告は,広告の社会的責任,広告規制,広告表示,公共広告等,その対象や研究は多岐にわたる。だが実際には広告倫理を研究している論文を検索してみると,数%にとどまり,数字の上では無視しえるテーマとなってしまうものの,この論文では「系譜」という視点からは興味深い論点がある広告倫理に焦点をあてている。

1)広告倫理研究が少ない理由
2)九十七年以降に研究・論文が集中している理由
3)広告倫理研究の課題について
4)広告の本質研究についての系譜

1.広告倫理研究が少ない理由
 広告倫理をテーマとしている研究の論文の数は 2000年1月時点で0.3%にとどまり無視しえるようなテーマであるが,テーマに含まれる意義や重要性といった点からいえばかなり重みがあり,重要なテーマでありながら研究が少ないといえる。この少ない論文の多くは1997年以降に集中しており,その理由として水野由多加は「我が国では商品・サービスの購入予定者に対して『虚偽,誘導,不公正』にあたる広告物に関する自主規制を含めた規制の研究や昨今では人権に配慮した表現製作が職業倫理として自覚されることなどに関心が焦点付けられる。そのことの重要性はもちろんであるが,一方商品・サービスを購買予定しないにもかかわらず広告に広く接する人々への悪影響に関する広告倫理が忘れられているのではないだろうか」(39ページ)と指摘しており,一方で現在は広告規制や広告の法規というテーマが多く扱われ広告倫理が隠されているとも述べられている。

2.九十七年以降に研究・論文が集中している理由
 広告倫理の研究についての論文が九十七年に集中している理由として「近年ではまた再びサブリミナル(潜在意識への訴求を目的とする)広告への関心が急激に高まっており,そうした倫理的な問題点の存在をこれまで指摘されてきていた特定の広告のみならず,広告全般について本格的な論及と検討がなされるべき時期に今や到達している」(39ページ)としている。またIT技術の進歩により情報発信者と受信者の区別ができなくなってきており情報をめぐる人々の守るべきルールも今日の広告倫理への関心を高める要因となっているとの指摘もある。ただ集中的に論文が発表されたといっても,その数は六本と少なく広告倫理についての研究はまだまだこれからであるといえる。

3.広告倫理研究の課題について
 広告倫理の研究には「広告活動は企業の経営,マーケティング活動の一環として行われている状況に鑑み,企業の経営活動倫理という視点から把握してゆこうという立場」(39ページ)が現在主流になっており,現実への適用を重視したものとなっている。検討すべき問題として,ある広告を倫理的であるかをどう判断するか,非倫理的な広告が判別されてもその広告が社会に与える影響を明確にできるか,非倫理的広告が明確になり悪影響であると判断されてもそれが排除可能かどうかの3つが挙げられる。より広い視点からの広告論理の検討が必要で法的視点だけでない視点,発信者からだけでないとらえかた,広告と報道とは全くの別物かという課題が指摘されている。これらの諸研究で挙げられている課題,および調査データは相互に関わり合いをもち広告倫理の研究領域もふまえているようにみえる。だがそのことが広告倫理を研究の対象にすることをなくしてしまい研究の厚みを増すことも困難にしているといえる。

4.広告の本質研究についての系譜
 九十七年以降,広告倫理についての研究には系譜らしきものがみえるが,それ以前の研究とつながりがあるのかといえば,一見みられないようにみえるが,九十七年以降の研究で,主張されたものの中には広告は資本主義経済の中でわかれる生産者と消費者をつなげるものであり無機質な生産方法が行われることで広告もまた悪徳的なものになりやすく,広告の倫理化運動の対策としては決定的なものはなく洗練された生産関係の確立がなければならないというものや広告は表現的に勧告や助言の形をとり,その背後に正義がなければならない。利益を得るために行うのではなく,「全社会の福祉と厚生の増進のために用いられるべき本質と使命を有している」(41ページ)と結論づけられており両者の主張は研究者当人は意識していなくとも,考察方法や焦点が過去の研究者と似ており,九十七年以降とのつながりを指摘することができるといえる。

出典:疋田聡(2002),「広告倫理についての研究」『日経広告研究所報』,36(2),38-41ページ。

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2005年05月19日

広告業についての研究(栗原 2002)

 九十年代には外資系企業の本格進出によって,広告取引方法の違いが改めて注目されている。この論文では,こうした広告業の組織,広告取引,日本の広告業の特異性などを中心に研究の系譜をたどる。
 
 広告についての研究
1)広告業の近代化
2)日本の広告取引の特徴
3)広告業の新しい組織・業務

1)広告業の近代化
 戦前の広告取引は新聞,雑誌の活字媒体広告が中心だが,山本武利(1980)は「戦前の萬年社と新聞社の広告取引」という論文で,「戦前の大阪の広告代理店でトップだった萬年者の広告取引データを検証し,広告代理店と新聞社の請負契約内容,広告代理店と広告主の取引内容が個々に大きな差がある」(66ページ)ということを明らかにしている。「明治時代のデータが多いため,必ずしも『戦前』とは言えないが,『大阪朝日』『大阪毎日』などの大手新聞に比較すると,地方紙では好評単価はあっても実際には遥かに低い価格で取引され,萬年社と広告主の取引にも利益率に差がある。終戦に近い一九四四年に広告代理店の手数料が十五%と決められるまで,ある意味では力関係によって媒体料金,媒体手数料が決まる部分があった」と述べられている。(66ページ)戦後,米国広告界が近代化の手本とされる。また,組織としては「勘定代表」(account representative,account executive,account man)がいて,広告主が担当することとなる。

2)日本の広告取引の特徴
 日本の支配的な広告業種が薬品,化粧品,図書であり,耐久消費財が普及しなかったため,戦前の広告取引は「持単価制」によって,広告主ごとに料金が設定されているという状況だった。次に,戦後の近代広告化の動きとして①調査技術の導入②クリエーティブの拡充AEの導入③料金制度の検討-が進んだが,そうした中で,日本的な広告取引が生まれてきたのは,「日本企業は機密意識が強く,外部の機関(広告代理店)に対して必ずしも十分なマーケティング機能を期待していないという事情があった。また,代理店が同業種で複数企業と取引しているという,完全なAEという機能を要請できない条件もあった」(67ページ)とされている。当時の大手企業はマーケティングから広告企画・製作まで自社で担っていた事情がある。九十年代に入り,外資系企業の日本進出がいっそう激しくなったため,これに伴い外資系広告会社の日本進出も,日本広告会社への資本参加という形で活発化した。その結果,日本の広告業及び広告界の取引形態が欧米と異なるということが改めて問題となったとされている。

3)広告業の新しい組織・業務
 八十年代初めに,「広告取引基本契約の文書化」が広告主側から提案される。「いかに商習慣とはいえ,数千万,数千億に上る契約が口頭のような形でなされていることは変則であると思い,取引条件を明確にしようと思いたったのである」と広告取引の文書化に踏み切った富士通の和才(1981)が「広告取引基本契約の文書化」という論文で述べている。八十年代後半には,小林保彦が英国の広告代理店で始まったアカウントプランナーについて日本で紹介したことによると,アカウントプランナーの仕事は,クリエーティブとマーケティングを結びつけ,クリエーティブを経営戦略の視点からとらえる「クリエーティブブリーフ(広告企画書)」を作成することにある,としている。九十年代に起きた議論にIMC戦争がある。これは,マス媒体広告だけではなく,PR,SP関連広告も含めて消費者の視点から統一した展開をし,コミュニケーション効果を上げていこうというものである。広告の大きな流れは九十年代に入って,ブランドとのかかわりに移る。「『広告の機能がブランドの育成にある』との考え方に基づき,広告会社は『ブランド評価システム』の構築を急ぐ」(68ページ)としている。九十年代後半のもう一つの傾向は,インターネット広告に関する論文が増えたことである。「二〇〇一年にはインターネットユーザーが三千万人を超え,インターネット広告への研究者の関心は高まっており,広告効果測定の手法などが研究の中心になりつつある」(69ページ)としている。

出典:栗原信征(2002),「広告業についての研究」 『日経広告研究所報』,36(1),66-70ページ。

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2005年05月18日

消費者行動と広告研究(石橋 2002)

 消費者行動は,社会心理学,認知心理学,社会学,経済学,人類学をベースにした学識的な研究分野であり,消費者行動を解明する手段に広告を用いて研究を行っている。広告効果の解明には,知覚,関与,態度,記憶といった消費者行動を構成する主要な概念が用いられている。広告の目的は,消費者を何らかの形で「動かす」ことである。

広告論文の細分類
 1)広告と関与,態度
 2)広告と消費者の価格感度
 3)広告と社会学的アプローチによる消費者行動
 4)広告と社会学的アプローチによる消費者行動
 5)広告と消費者情報処理
 6)広告と消費者意識
 7)広告と心理学(認知心理学、社会心理学を含む)
 8)広告と消費者行動(消費者行動プロセス、DAGMER含む)

 広告研究との深いつながりや研究成果の多い分野として,特に消費者行動の中心的概念と考えられる「関与」と「態度」を取り上げ,「広告と関与,態度」に関するわが国の研究系譜について本文では概観している。

1.広告と関与
 広告と関与の研究では,まずKrugmanによって提示された受動的(低関与)学習理論のわが国における検証から始まり,Assaelのよる消費者のインボルブメントの度合いとブランド間に認められる差異を基準とした消費者行動の4つのタイプや,「思考」と「感情」,「ハイ・インボルブメント」と「ロー・インボルブメント」の4つの要素で構成されたFCB社の広告プランニング・モデルについて検討を加え,我が国においてもDAGMARに代表されるリニアーなモデルからサイクリカルなモデルを開発する展望を論じている(中山・清水・加藤)。「関与と広告コミュニケーション効果」の関する研究も行われており,広告関与に関する測定尺度の作成について課題として挙げられ,今後の関与研究が取るべき方向が議論されている(小嶋・杉本・永野)。消費者関与が高い場合,論理的CMが情報度の面で評価され,消費者関与が低い場合,情緒的CMが高く評価される。また,製品の関与度が高い消費者ほど雑誌広告の影響が強く,また製品への関与度が高い消費者ほど認知的メッセージの反応が強いと論じている(金)。

2.広告一般への態度
 広告一般への態度への態度研究では,まず広告機能に対する消費者評価が探索的に行なわれてきた。広告についてさまざまな角度から35の意見を集め,それに対する消費者の反応を調査し,その結果に基づいて消費者の広告に対する態度因子を求めている(小嶋・佐々木)。その後,「調査の質的低下」をある程度緩和する方策を見出し,その一環として広告に対する態度と,マスコミ接触などの関係を数量化理論で分析した結果,「利用と満足」「マスコミ非接触」「広告拒否症的態度」の3軸を抽出した研究がある(吉田・飽戸・堀・奥田)。個々のテレビCMの表現評価と購買態度やテレビCMに対する一般的な態度と関連付けて検討した研究としては,佐々木があり,「CM表現評価」から「先有傾向としての一般的購買態度」までを連結する概念モデルの構成と,その実証的分析が必要であると結んでいる。ユニークな研究として,鈴木によるフェミニズムの視点を取り入れたものがある。フェミニズム意識という新たなサイコグラフィック変数を使い,それが企業イメージ,購買意図に与える影響にどのような効果を及ぼすかを明らかにし,広告描写の目指すべき望ましい方向を検討している。

3.Aad研究
 1980年代に米国を中心に提唱されてきた概念が,広告への態度(Attitude toward the ad=Aad)である。この研究では,特定の広告物を受け手が視聴したときの態度が対象となっている。嶋村における広告に対する態度の国際比較研究(杉本・Sighn・Laroche・申)などもある。この研究では,Aad形成要因を大きく取り扱った研究(岸・嶋村,岸,青木・恩蔵・三浦・桑原15,濱岡・古川・片平,仁科・鈴木・水野)。Aadとab間の関係について取り扱った研究(田中・阿部・青木,岸,青木・恩蔵・杉本,稲葉)に大別できる。

 「関与」概念が広告研究にもたらした最大の影響は,AIDMAやDAGMARに代表される一方的かつ線形的な広告階層効果論を見直す契機を与えたことであり,消費者の広告に対するさまざまな心理的反応の重要性を明らかにし,広告研究に広がりをもたらしたことである。

出典:石橋徹(2002),「消費者行動と広告研究」 『日経広告研究所報』,35(6),16-21ページ。


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2005年05月17日

国際広告とイメージ(真鍋 1998)

目次
第12章 日本人論の検証
第13章 日本人の内容分析

 日本人論は古くからさかんであり,ここ10年ほどは外国人による日本人論が多く現れ,それがまた日本人による日本人論に拍車をかけた結果,日本人論ブームというべき長期的な現象が起こっているとしている。しかし,発表された多数の著作において,「それらを実証的に検証するという作業はほとんどなされておらず,したがってそれらの多くはどこまでも仮説の段階にとどまっているといわなければならないのである」(286ページ),「大量観察的な『社会調査』にもとづく実証的データの蓄積が十分になされていない」(286ページ)としている。こういった点から,これらを実証的に検証することには意義があるとしている。また,「現在,実証的研究においては,分析作業の手続きに関して厳密かつ詳細な記述を試みることが重要な課題となってきている」(364ページ)という考えから,調査方法や作業の手順などが極めて詳細に述べられている。
 
 第12章では「日本人論の諸命題がどの程度人びとに浸透-認知度と共感度-しており,そのことが人びとに対してどのような機能を果たしているかを捉えること」(288ページ)を目的として,質問紙調査を行っている。まず,単純集計というデータ解析法によって調査結果を記述している。次に,「質問諸項目群ごとに『スケール』を作り,それに被験者の『バックグラウンド変数』(『デモグラフィック変数』と『対外経験変数』)を加えて,それら諸スケールと諸項目の相互間の関係をPearsonの『積率相関変数』によって示した『相関マトリックス』を作成」(351ページ)し読み取るという手法を用いている。これらの作業から,「①日本『人・文化・社会』の単一性・同質性・ユニークネスという命題,②外国(人)と日本(人)はまったくちがうという『特殊主義的な』命題,③血のつながりの影響についての『決定論的な』命題,④外国人の社会参加を制限しようとする『閉鎖的な』命題,⑤日本人論である(になる)ための条件についての『硬心的な』命題」(354ページ)といったような日本人論の諸命題が現在でも多数の人に信じられていることがわかったとしている。そして,「このような諸命題を信じ込むことから日本の文化的ナショナリズムが生み出されてきているということである」(354ページ)としている。また,「どこまでも『仮説』の段階にとどまっていたもののある部分を『知見』の段階にまで引き上げるという役割を果たしたといえる」(351ページ)としている。
 
 第13章では,「日本人論の検証の準備作業として,日本人論のさまざまな記述を分類・整理することを試みたい」(356ページ)として,日本「人・社会・文化」に関する18の外国人によって書かれた文献を「雪だるま方式」と「総当り方式」によって収集し,日本「人・社会・文化」に関する記述を姉妹型カードに抜き出し,KJ法的整理で分類し,大きな枠組みとして経済・政治・社会・文化・国民性(自然を含める)の5つの基準が採用されている。

出典:真鍋一史(1998),『国際イメージと広告-国際広告・国際イメージ・文化的ナショナリズム』 日経広告研究所,281-432ページ。

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2005年05月16日

国際イメージと広告(真鍋 1998)

目次
第6章 日中相互イメージの構造
第7章 日本人の中国イメージ
第8章 中国における日本人イメージの諸相とその変化の方向 
第9章 中国における階層帰属意識と職業移動
第10章 日中相互イメージの諸相とその変化の方向
第11章 国際関係と世論

 第6章では「日本人と中国人がそれぞれお互いの「国・社会・文化・人」に対して持っているイメージの諸相を明らかにするとともに,両者のイメージの比較分析を行うことを目的とした」(129ページ)と記してある。ここでの調査は日本人の中国に対するイメージと中国人の日本に対するイメージに加え,日中両国の「一般サンプル」と「学生サンプル」に分けて行われている。国に対するイメージでは,日中間のイメージは対称的な結果になっており『日本のイメージは「豊か」「近代的」「民主的」「信頼できない」というものとなっている』(136ページ)「一般サンプル」と「学生サンプル」では日本イメージの方の差異が大きく『プラスの評定においても,マイナスの評定においても「一般サンプル」にくらべて「学生サンプル」のほうがより強い反応を示しているということである』(137ページ)人に対するイメージでは,日中間のイメージは「対称的」ではなく「対照的」な結果となっており,中国人イメージも日本人イメージも共にプラス方向に位置しているが,その程度に差異が見られる。「一般サンプル」と「学生サンプル」では「両者の差異は対日本人イメージのほうでより大きいといえる」(138ページ)次に,日中間の社会的距離感では『すべてについて日本人のほうが中国人に対して距離感が小さいことがわかる。結婚ということでは,日本人の場合とつぜん距離感が大きくなっている。中国人の場合もその点は同じに見えるが,他の諸項目にくらべてみるならば,中国人の場合は「日本人との結婚」よりもむしろ「日本人の上司のもとで働く」ことのほうで距離感がより大きい』(139ページ)このように日中間のイメージには差があり,同じ「一般サンプル」や「学生サンプル」でも大きな違いがある。

 第7章では『天安門事件(1989年6月)の前と後で日本人の中国イメージがどのように変化したかを捉えることを目的として実施された「対中国イメージ調査」の結果を報告する』(174ページ)と記されてある。事件後の結果では「貧しい」「伝統的」「軍事的に強大」「非民主的」という項目は一層高まり,前回の「信頼できる」が反対に否定的イメージになり「信頼できない」という数値が高くなった。しかし,この「信頼できない」というのは「国」に対してであり「人」に対しては前回とあまり差はなかった。結果として『中国における民主化要求運動とそれにつづく天安門事件の前と後とで,①人びとの中国(および中国人)に対するイメージがポジティブからネガティブの方向に劇的に変化したこと,②人びとの「マス・コミュニケーション」および「パーソナル・コミュニケーション」による中国情報に対する接触度が大きく増加したこと,がわかる』(184ページ)

 第8章では1988年と1992年の質問紙調査によって「中国人の対日イメージの諸相とその変化の方向」(219ページ)を明らかにしている。1988年と1992年では「ほとんどの領域で社会的距離感の短縮化が進んでいることがわかる」(207ページ)これらの年の間の変化として顕著なものは「貿易・経済の分野」であり,前回より減少したものの「科学・技術の分野」においても高いパーセントを残しており,中国の人びとはこの2分野において日本との交流が重要になると考えており,このことは中国の対日イメージが「豊かさと繁栄」という一元化の方向を示している。

 第9章では中国における階層帰属意識と職業移動について述べられている。階層帰属意識では,中国の開放改革のよって生活や収入に対する意識が高まり『現在の中国においては人びとの階層帰属意識が「収入」と,それにもとづく「生活満足度」によって大きく規定されている』(227ページ)また職業移動については,中国は改革などにより著しく経済発展しているため「親子間の職業の一致度が全般に低くなりつつある」(230ページ)

 第10章では「日本人と中国人がそれぞれお互いの国(人も含めて)に対してどのようなイメージを持っており,それが時間の経過とともにどのように変化してきたかを明らかにすることを目的とするものである」(235ページ)と記してある。ここでの内容は第8章で述べてきた内容と類似しており,日中間での「国」や「人」に対する好感度では「好き」のパーセントは両国とも同じ数値となったが「日本(人)・中国(人)が嫌い」のパーセントは中国人の方が高くなっている。また,変化の方向性に関しては第8章で述べたことに加え『日本の中国イメージが特定の事件を契機にいわば「波動」とでもいうべき変化の方向を示している』(249ページ)

 第11章では日本とアメリカと中国との関係について述べられている。グローバル化が進む今,より緊密な友好関係を構築するためにはお互いを理解し合うことが重要になるのだが,「日本・米国・中国における世論とマス・メディア調査」によるとこの3カ国の間には,お互いの国に対する好感度や知識度など様々な分野において差異が顕著に現れた。

出典:真鍋一史(1998),『国際イメージと広告-国際広告・国際イメージ・文化的ナショナリズム-』 日経広告研究所,129-280ページ。

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2005年05月14日

国際イメージと広告(真鍋 1998)

目次
第1章 広告の国際イメージ形成の機能
第2章 日本のテレビCMにおける「外国関連広告」の内容分析
第3章 ドイツにおける「日本関連広告」の内容分析
第4章 中国における「日本の広告」の内容分析
第5章 外国における「日本の広告」に対する態度・意見・行動

  はじめに「この研究の目的は,広告が国際イメージの形成にどのような機能を果たしており,そのことが国際マーケティング戦略にどのようにかかわってくるかを解明することにある」(3ページ)と記してある。この章では,アメリカ,中国,日本,を分析対象として外国関連広告が外国そのものをイメージするかを調査している。「ここで外国関連広告というのは,①外国の企業・団体の広告,②外国の商品・物産の広告,③外国のシンボル―たとえば外国の文化・芸術・生活・風景・建物・人物など―を取り入れた広告」(3ページ)をすべて含むものとする。その内容は①日本におけるアメリカ関連広告と中国関連広告②アメリカ合衆国のサンフランシスコにおける日本関連広告と中国関連広告③中国の上海における日本関連広告でありそれぞれを調査している。①はテレビ,CMと雑誌広告について,②は新聞広告と雑誌広告について,③は新聞広告について分類別に分けて分析している。さらに質問紙調査により細かく分析し,「外国関連広告においては,国家間の国際関係が微妙に反映されるものであること」(16ページ)と「アメリカにおいては外国の商品,製品,物産の広告は見られても,日本のように外国のイメージを使った広告はさほど多くない」(16ページ)という補足を挙げている。

 第2章では1990~1992年の日本のテレビCMにおける外国関連広告を分析している。分析結果から読みとれる内容は,アメリカのイメージが各年度,一定的で圧倒的に多いという点,外国関連広告はベルリン壁の崩壊やバルセロナ・オリンピックなどの世界情勢に大きく影響されるという点が挙げられる。

 第3章ではドイツでの日本関連広告における雑誌広告とテレビCMについてそれぞれの分析を記しており,さらに分類ごと分析し,それぞれの特長を表している。テレビCMにおいては企業名や商品名ごとにも分析されているが,ドイツへの商品輸出が少ないこともあり,サンプル数がとても少ないと書かれている。

 第4章では中国における日本の広告に関する内容分析を2種類の新聞を対象として調査,それをさらに分類別に分析する。特に目を引く結果は使用頻度が高い言葉が日本の広告ではたびたび使われるということである。ここでは中国における広告表現の変化も分析結果から読み取られ挙げられている。

 第5章では外国が「日本の国際広告に対して,どのような見方,感じ方,考え方,行動の仕方をしているか」(98ページ)ということを調査している。対象は日本以外の10ヵ国の大学生で,質問紙調査をする。この調査を分析していく上での注意点は性別,年齢,専攻領域,生活態度,生活満足度の質問項目が挙げられている。調査結果はマス・メディアへの接触度,媒体別広告への接触度,日本体験,マス・メディアによる日本との接触度,広告による日本との接触度,日本および日本人に対する好感度,日本に対する評価度,目につく日本の広告「企業・商品」と利用・購入したことのある日本の「企業・商品」,日本の広告に対する「好感度」と「有用度」,日本の広告に対する意見―ステートメント・テスト―に分類され,各国ごとに記されている。最後に「ある質問項目に対するある国の回答の分布の意味を深く理解しようとするならば,その国の事情について十分に検討することが必要となる。そのような事情については,広い意味でのその国の事情一般と,その国の広告事情とが,いったんは区別されながら分析されたうえで,再び両者が関連づけられて分析されるという手順がのぞましい」(123ページ)と書かれており,その分析作業で,日本とどのようにかかわるのかが重要なポイントであると記されている。

出典:真鍋一史(1998),『国際イメージと広告-国際広告・国際イメージ・文化的ナショナリズム-』 日経広告研究所,3-125ページ。

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2005年05月13日

アドバタイジング・マネジメント:広告意思決定の理論(D.A.アーカー,J.G.マイヤーズ 1977)

目次
16章広告の社会的,経済効果
17章広告規制

第16章では広告の社会的,経済効果について述べられている。「広告の社会的・経済的問題に関する議論は三つのカテゴリーに分類される。」(660ページ)一つ目は広告の性質と内容を表わすもので、虚偽,操作,嗜好の問題があり,特に広告訴求者が子供である場合には重大である。二つめは,家庭,音楽,学校といった他の社会的機関と競合し,それらを支配すると信じる社会の価値,ライフスタイルに及ぼす効果で,三つ目は広告の新製品の存在を知らせるための効果的手段としての広告の経済的価値はいったいなんなのかといった社会の経済システム運営の効率に及ぼす広告の効果である。
 広告は消費者に影響を与えるかどうかは三つの考え方があり,一つは潜在意識のレベルの動機に訴求して影響を与えるとする動機調査の使用,二つ目は,間接的な情緒的訴求の使用に関するもので,三つ目が広告の質や量により示される広告のパワーについての一般的な主張がある。広告は社会の価値やライフ・スタイルにプラスのインパクトを与えるだけではなく,マイナスの側面ももっていると議論される。それらの問題はどのような価値観が促進され避けられるべきなのか,広告がそれらに対してどのような影響を及ぼすかである。このように考えていくと「広告の経済的インパクトと社会的インパクトを分けることは理に合わないことである。」(677ページ)広告は基本的に経済制度であり、広告の経済的評価が明確になるべきである。ここでは消費者に対する情報提供,銘柄識別の補助,媒体援助,流通コストの問題,景気循環に及ぼす効果,製品効用の提供,新製品の販売促進が評価基準になるとしている。最も重要な問題として広告が競争に対してどのような影響をもっているかである。広告により製品を差別化でき,銘柄忠実度を生み出すことで価格競争を回避することができる。また特定の産業における大広告主は他の競争者より広告スペースを優先的に扱われ参入障壁を形成する。これにより小規模の競争者は銘柄忠実度でも支出面でも大きな苦労を要する。このような広告と市場集中に対する救済策として提案されているものの中には,「産業によっては広告を制限し,禁止したり,課税するというものがある。」(694ページ)

第17章では広告規制について述べられている。広告における虚偽の回避は産業界並びに政府の双方によって認識されており,概念的に虚偽は,あるオーディエンスの知覚過程に広告が導入され,その知覚過程のアウトプットが,(1)現実の状況とは異なり,(2)消費者の損失になるように消費者行動に影響をおよぼす場合に成立する。(701ページ)としている。広告がどのように解釈されているかを見極めるのに消費者調査があるが,裁判の虚偽広告の判例にはほとんど使われておらずその理由として虚偽が成立するか否かの決定を連邦取引委員会が独自に行う権限が,裁判所によって認められたからである。また,無知で信じやすい人をなくすことは難しく,連邦取引委員会は虚偽は誤解するする人は0%であるとしている。連邦取引委員会は虚偽広告に対して差し止めに終始していたが,救済策として訂正広告を提案した。訂正広告は「違法行為を犯した広告主は,過去の虚偽広告を,将来の広告スペースとタイムのうちの一定比率を使って訂正するように要求される」としている。問題は虚偽が消費者に対してどの程度与えるかによって罰をどの程度に設定するのか,それは妥当であるかが論議される。これらの事態をふまえ,連邦取引委員会は広告主に対して,安全性,性能,効力,品質,および他製品と比較した場合の価格に関する宣伝文句について提出させるよう要求する広告制度を検討している。さらに,「広告における真実の法案(Truth-in-advertising)」も提案され目的は,「(1)実証性ある書証が公衆にとって入手可能な情況にないかぎり,いかなる広告も流布されないことを保証するとともに, (2)知る権利,実体のない広告から自分を守る権利,および広告活動における公正の増進を図るために直接行動に訴える権利を,各個人が行使することを保証することにある。」(727ページ)広告業界は自主規制をするようになり,そのことが広告業界自身の発展に寄与している。

出典 D.A.アーカー,J.G.マイヤーズ著;野中郁次郎,池上久訳(1977)『アドバタイジング・マネジメント:広告意思決定理論』,東洋経済新報社,16-17章(659-734ページ).


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2005年05月12日

アドバタイジング・マネジメント:広告意思決定の理論(D.A.アーカー,J.G.マイヤーズ 1977)

目次
第14章 媒体モデル
第15章 媒体調査

第14章 媒体モデル
 広告戦術上の意思決定は,広告予算設定に係わる意思決定,表現意思決定,媒体意思決定に大別できる。これらの意思決定は段階的になされ,媒体意意思決定は最後に下されるのが普通である。媒体意思決定は,広告予算を利用可能な媒体オプションへ配分することに関するものである。プラナーが媒体意思決定を構造化し,効果的な媒体出稿計画を立てるのを助けるために設計され,定式化されたメカニズムである媒体モデルは,三つの要素を含んでいる。「第一に,目的関数によって出稿計画についてのある値が得られる。第二に,ヒューリスティック法が,目的関数に関して相対的にもっとも高い値を持つ出稿計画が見つかるまで,すべての出稿計画を探索する。第三に,予算制約のような制約条件が,ヒューリステック法によって考慮される出稿計画を限定する」(602ページ)とされている。目的関数の構成要素に焦点を絞り,二つの定式化されたモデルが紹介されている。MEDIACモデルは,広告過程に関するある特定の見解に基礎を置いている。広告露出によって訴求対象セグメントの心的状態や露出価値が創出される。露出価値は必ずしも線形的であるとは限らないが,売り上げに直接連結されている。しかしながら,露出価値は,忘却によって絶え間なく侵食されていく。MEDIACは媒体オプションを選択するだけでなく,時間軸に沿って出稿をスケジュール化する。現実の時間が組み込まれているので,反復関数や,ビークル露出パターンの季節調整を定式化してモデルに合わせることが,自然に可能になる。「MEDIACの限界は,露出が集計的な意味においてのみ蓄積あるいは忘却されるということである」(603ページ)これに対してADMODは,銘柄知名獲得や新規試用購買意思決定のような,広告で促進しようとしている消費者の特定の認知変化あるいは意思決定に焦点を当てている。ADMODでは,サンプル内の全個人についてその出稿のインパクトを吟味する。このインパクトは,「意思決定あるいは認知変化の純価値,出稿計画から作り出される個人への露出回数および露出情報資源,期待された認知変化あるいは意思決定を得る確立に基づいた露出のインパクトなどに依存している」(604ページ)としている。

第15章 媒体調査
 広告露出の測定に際しては,ビークルの露出の測定と,ビークル中の媒体オプションへの露出の測定とを分けて考えなくてはならない。ビークル露出は注意深く定義される必要がある。「印刷媒体ではビークル露出はあるビークルの典型的なあるいは平均的な号の,『中身を読む』ことと定義することができる」(607ページ)電波媒体では,例えば「ある番組の間テレビ受像機が『つけられている』時間の長さが基準になるのである」」(607ページ)ビークル露出をフィールド調査で測定しようとする場合には,雑誌の編集内容への関心をきくとか,ニールセン式の自動モニター装置を利用するとかいった技法を工夫しなければならない。媒体オプション露出は,回答者がある広告に物理的に露出したかどうか,または広告のある部分を心の中に吸収したかどうかを判定することにより測定することができる。「広告への露出は広告の大きさや形,ビークルの中の位置,当該製品クラス,オーディエンスのタイプ,表現アプローチといった媒体オプション変数に依存することが示唆されている。媒体オプションの情報源効果は読者をひきつけるビークルの能力の測度でも,オーディエンスの質の測度でも,広告注目率を獲得するためのビークルの能力の測度でもない。媒体オプションの情報源効果を評価する基準は広告のキャンペーンの目的に密接に関係していなければならない」(651ページ)としている。コミュニケーション理論は,媒体オプションの情報源効果の決定に,ある洞察を与えた。「ビークルという情報源は,それがどの程度公明であり,専門的であり,威信があると評価されるかによって広告の効果に異なった影響を与えるであろう」(651ページ)と筆者は述べている。媒体クラス情報源効果は,媒体クラス間の相対比較に関するものである。媒体クラス情報源効果は,使用される表現アプローチに依存することを明らかにした調査がある。この調査は,露出測度の場合と同様に,情報源効果の場合にも,ある結果が依存している諸条件をいつも明確にしなければならないという一般結論があてはまることを示したわけである。

出典 D.A.アーカー,J.G.マイヤーズ著;野中郁次郎,池上久訳(1977)『アドバタイジング・マネジメント:広告意思決定理論』,東洋経済新報社,14-15章(573-658ページ).

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2005年05月11日

アドバタイジング・マネジメント:広告意思決定の理論(D.A.アーカー,J.G.マイヤーズ 1977)

12章 表現戦略とクリエイティブ・スタイル
13章 クリエイティブ予算設定とコピー調査
 

12章 表現戦略とクリエイティブ・スタイル
  この章では,特定の広告表現の開発に関わる意思決定に着目し,表現戦略とクリエイティビリティとの関係について述べられている。広告戦略では,さまざまな表現代替案の様式を作り出し,洗練するときに適切に設定された目的がいかに重要な役割を果たすかが明らかにされる。広告の目的・表現戦略の重点は,①銘柄知名度を上げ,試用購買を促進する。②既成の銘柄の場合には,競争品の間でその銘柄を際立たせることが出来るような商品の特徴を強調したり,顧客を引き止め,引き続き使用を続けさせることに大別される。
広告目的は,代替案の無限の集合を,適度に小さな集合へ縮小することが出来,同時に,その部分集合内から新しい代替案を示唆する際にも役に立つ。(475ページ)操作的には,広告のストーリーがどのように展開し,基本的なアイディアがどう組み込まれ,どう提示されるかを厳密に記述したコピー・プラットフォームの開発が第一ステップとなる。製品特徴をどのような特定の形で際立たせたらよいかを記述するのである。(475ページ)
 メッセージを提示するためにスポークスマンやパーソナリティを用いる場合は,情報源の①信頼性、②魅力,③力などを考慮にいれる。①はスポークスマンがどの程度専門家とみなされるか,信じられるか,不公平でないか,によって得られる。例えば,医者は医薬品を勧めるためにはうってつけである。②は,受け手が情報源をどの程度自分と同一視し愛好するかに関わる概念である。③は,送り手が正ないし負の制裁をどの程度与えうるかということである。
 メッセージの設計に当たっては,注意を情報源自体(エトス),情動とムード設定(パトス),推理と論理(ロゴス)のどれに集中してもよい。(527ページ)
 広告主は論議の一面だけを示すべきか,二面的に議論すべきなのか?一般に,教育程度の低い人や製品に対し好意を抱いている人には一方的なメッセージが,教育程度の高い人や,製品に対しまだ好意を抱いていない人には譲歩を含んだメッセージが効果的である。(485ページ)ユーモア訴求は,気晴らしになり,対抗議論を妨害できるので有効である。恐怖訴求は,生み出された恐怖が受け手に動機付けを与えるほど十分大きく,かつ回避や敵意をもたらす程強すぎない時に有効である。
 クリエイティブ・スタイルという概念は,あるクリエイティブ・グループ,個人,代理店によってとられるアプローチの本質的性質をさす。それはある程度までは,特定の製品ないし市場特性に作用される。(514ページ)
 クリエイティビリティの心臓部を成すものとしてアイデアの算出が挙げられるが(515ページ),一般的に数百の可能なアイデアが創出されてはじめていくつかの理にかなった代替案が作成される。広告表現の製作にはクリエイティブ・アイデアが印刷,電波など最終的な広告として開発されていく過程が含まれる。その際,よいレイアウトを作るために,写真,トレードマーク,ヘッドライン,コピー,など基礎的要素や広告サイズの考慮が必要になる。
 テレビコマーシャルの製作の第一段階は,一連の小スケッチに,アクションの記述と,語りや歌の言葉がつけられた「ストーリーボード」の開発である。それが承認されると,製作スタジオで最終的なコマーシャルが製作される。(528ページ)

13章 クリエイティブ予算設定とコピー調査
  この章では,クリエイティブ努力に関連した予算意思決定(533ページ)について主に述べられている。
 ひとつのクリエイティブ・キャンペーンの開発に要するコストは,人件費,資材費,間接費など,個々の広告の製造に関わる支出(532ページ)と,いくつかの代替案の選択にコピー・テストが使用されている場合には(533ページ)、その費用が含まれている。Grossモデルは,クリエイティブ予算の規模を決めるための,厳密で,分析的なアプローチを提供している。このモデルで重要な鍵となる仮説は,全てのクリエイティブ努力がどれも同程度の効果をもたらすことは不可能であるということ,さらに,ある特定のキャンペーン目的と,この意思決定に基づく危険性に応じて最もふさわしいコピー・テスト法を選択する事が可能であると示唆している。キャンペーン代替案の増加につれて,製作及びテスト.コストが増大する(534ページ)。しかし,同時に高い収益を生むキャンペーン発見の機会もまた増大する。Grossモデルは,広告キャンペーンの代替案がいくつ作られるべきかという問いに答えようとしているのである。
 広告キャンペーンの効果は,コピー・テストの質(その妥当性と信頼性)によっても決定される(545ページ)。重要な3つの要素として
①操作的な目的がなければならない。
②テストされる被験者は、訴求対象母集団を代表するものでなければならない。
②結果のバイアスをもたらすようなテスト状況に対する被験者の反応を最小化しなければならない。が挙げられるが,問題もあり,①の場合はその目的を代表されるような,測定可能でかつ有用な変数が存在しなければならない。しかし目的を開発することは決して簡単な課業ではない(547ページ-566ページより)②の場合は,理想的には,被験者はランダムに選ばれ,標本サイズも,統計的にも信頼される結果をもたらす大きさをもっていなければならない。しかし,実際にはランダム標本をとることが経済的に不可能なことが多い。また,回答者を集めにくいことからくるバイアスが,大きな問題となるテストもある。③の場合は,テスト環境や測定機器に対する回答者の反応である。回答者は,テストされる状況になると,普段とは異なる行動を取る傾向がある(547ページ)。
コピー・テストとは,基本的には何らかの形で,広告を回答者に露出し,その反応を測定する事に係わるものである。反応測度は,例えば注意,理解,態度変容あるいは購買といった種々の構成概念を代表する。その目的は,広告のどの部分が最も注意をひき,容易に記憶され,感情変化を引き起こすかを決めることである(555ページ)。コピー・テストは,実験室環境を用いて行われるもの,シュミレートされた自然な環境を使用するもの,全く自然な市場テストを使用するものに分けられる。「主観的な」状態を測定することのできる「客観的な」反応記録機器には,アイ・カメラ,ポリグラフ,瞳孔反射計,タキストスコープなどがある。
コピー・テスト方法や広告調査方法を概観すると,あらゆる状況に適応した普遍的な方法や測度変数はありえないという結論にいたる。しかし,目的を明確にしておかなければ,悪いコピー・テスト結果が出たとしても,それが戦略のまずさに由来するのか,あるいは実践のまずさによるものなのかを判断する事が出来ない(563ページ)。戦略的な問題点は,まず戦略的な調査を通じて答えられるべきであり,その後初めて,戦略実践のインパクトを評価するためにコピー・テストが役に立つのである。

出典 D.A.アーカー,J.G.マイヤーズ著;野中郁次郎,池上久訳(1977)『アドバタイジング・マネジメント:広告意思決定理論』,東洋経済新報社,12-13章(462-571ページ).

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2005年05月10日

アドバタイジング・マネジメント:広告意思決定の理論(D.A.アーカー,J.G.マイヤーズ 1977)

目次
第9章 知覚過程
第10章 学習と態度変容
第11章 伝播とパーソナル・インフルエンス

 第9章では,コミュニケーションにおける知覚過程について述べられている。「第1に,個人は広告に露出し,それに注意を向けなければならない。第2に,彼は広告主が意図した通りにそれを解釈しなければならない」(357ページ)とし,広告が目的を果たすには,受け手に知覚されなければならないとしている。
知覚過程は,注意と解釈の2つの段階で構成されるとしている。この過程に影響を与える変数には,「過程に対するインプット,すなわち刺激」(320ページ)と「『オーディエンス条件』と名付けられ,個人差を反映する変数」(320ページ)の2つの主要なタイプがあるとしている。前者は強さ,大きさ,メッセージ,新しさ,位置,前後関係であり,後者が,情報の必要性,態度,価値,興味,自信,社会的関係,認知様式などであるとしている。
 露出された広告のすべてが注意のフィルターを通過できるわけではない。そこで,人が情報を得る動機を明確にしておくことは,このフィルターの働きを理解するのに有益であるという考えから,過去の理論や実証研究をもとに考察を行っている。そして,その動機は,1.「意思決定にとって実用的価値がある情報を獲得する」(357ページ)ため,2.「自己の態度や購買経験を支持する情報を得る,そして支持しない情報をさけるため」(357ページ)で選択露出と呼ばれる,3.「多様性を求め,退屈さと戦うため」(357ページ)であるとしている。
 解釈過程は,ゲシュタルト心理学の概念を用いることで理解が容易になるとしている。「第1に刺激は全体として知覚される。第2に個人は秩序のある認知形態に対する認知動因を持つ」(358ページ)とし,認知動因の例として閉鎖,同化‐対比が紹介されている。
 最後に,解釈を測定する方法として,直接法,投影法,自由面接法が事前テストとして紹介されている。

 第10章では,「知覚過程を通過した情報,すなわち認知が態度と行動に与える影響について」(363ページ)を考察している。「態度がどのように発達し変化するか」(363ページ)をいくつかの理論を用いて考察している。まず,学習理論が説明されている。ここでは,「消費者は基本的に製品の使用に関連した『報酬』と『罰』に反応する」(417ページ)とされている。次に,バランス理論,適合性理論の一貫性理論が説明されている。これらの理論は,「広告コミュニケーションが単に銘柄選択行動を誘発するのみならず,情報探索に結びつく行動を誘発するという意味で,動機づけを行う理由に洞察を与える」(418ページ)とし,「説得的メッセージが直接その銘柄に対する認知構造を惹起するのではなく,媒介的な段階が生じるということである」(418ページ)としている。一貫性理論の変形である不協和理論は,「消費者は種種の行動と認知的変容につながるような自己の行動に対する合理化を求める」(418ページ)とするとともに,「購買後にも広告を続けることの有効性を指摘している」(419ページ)
 競争相手の攻撃に対し態度を変化させないように抵抗できるようにするには,「競争相手の主張や,自己の製品のマイナスの特性を暗示的あるいは明示的に述べた後,これらを論破する」(419ページ)という論破の概念が有効であるとしている。
 マイナスの態度を変容させるには,対象となる受け手が「広告主のいかなる主張にも反論する傾向を有していると思われる」(419ページ)とし,「反論過程に対して干渉する錯乱」(419ページ)が唯一の方法であるとしている。

 第11章では,伝播とパーソナル・インフルエンスについて述べられている。「伝播とは,あるものが人々の間に広まってゆく過程である」(426ページ)とされ,いかなる種類の情報も「ある形態のコミュニケーション・チャネルを通じて伝播してゆく」(426ページ)としている。垂直的チャネルは,「コミュニケーション単位間の関心,社会的地位,人口統計的あるいは経済的特性に意味のある差がみられる場合に存在」(426ページ)し,水平的チャネルは,「コミュニケーションが関心,社会的地位,人口統計的,経済的特性の等質な集団成員間に流れる場合に存在する」(426ページ)とされている。水平的チャネルの重要な要素は「対面的相互作用」(431ページ)であるとしている。パーソナル・インフルエンスは,「集団成員が果たす様々な機能,役割による自然の産物として,対面的関係を基盤として集団内部に発生する」(431ページ)としている。
 情報の2段階流れモデルは,「オピニオン・リーダーと称される個人が最初に情報を受信する傾向をもち」(461ページ),彼が属する集団の他者に情報を広め,影響を与えることを説明している。ここでは,オピニオン・リーダーは特定的な現象であり,各種の分野ごとにリーダーは異なり,マス・メディアとの接触では,マス・メディア全般にではなく,関心のあるマス・メディアには多く接触するという考えを支持しているようである。そして,「集団によっては,集団の態度,意見,行動等に影響を及ぼす情報の『ゲイトキーパー』と『オピニオン・リーダー』は,同一の個人であるとは限らないとするのが妥当であろう」(440ページ)としている。
 しかし,情報の2段階流れモデルは,「人々が革新を採用するか,拒絶するかという複雑な過程は説明していない」(442ページ)。そこで,採用過程モデルが紹介されている。これを理解するうえで重要な概念として革新者概念がある。革新者とは,「他者より早期に革新を採用する傾向をもつ人」(442ページ)である。「採用過程の初期段階には,マス・コミュニケーションは多大な影響を及ぼし,後期段階にはパーソナル・インフルエンスがいっそう大きな影響力をもつ」(462ページ)としている。また,マーケティング・ミックスの諸変数も採用率に影響するとしている。
 最後に「採用率の予測と広告情報の伝播率を確認する目的」(462ページ)の定式化された数学モデルとしてBassモデル,伝播率研究にパーソナル・インフルエンスの効果が導入されたモデルとしてDIFFUSEが紹介されている。

出典:D.A.アーカー,J.G.マイヤーズ著;野中郁次郎,池上久訳(1977)『アドバタイジング・マネジメント:広告意思決定の理論』東洋経済新報社,9-11章(318-461).

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2005年05月09日

アドバタイジング・マネジメント:広告意思決定の理論 (D.A.ア-カ-,J.G.マイヤ-ズ 1977)

目次
第6章 態度と市場構造
第7章 行為を促進すること:行動的目的
第8章 コミュニケーション・システム

第6章では態度について述べられている。態度は「認知的(知名,理解,知識),情緒的(評価,愛好),および動能的(行為傾向)」(225ページ)の3つの構成要素からなっており,態度の測定には「直接測定」(225ページ)「派生測定」(225ページ)と呼ばれる態度モデルがある。「直接測定は,態度の対象(単数および複数)についての明示的な属性や次元基準を回答者に与えずに,回答者の行動について質問し,あるいは観察することを含んでいる。派生測定は,態度の対象(単数および複数)についての被調査者の反応パターンを調べることによって行なわれる態度状態の評価に基づいており,通常は一組の属性あるいは次元の基準を含んでいる。したがって,派生測定はいろいろなタイプの態度モデルと見ることができ,与えられた市場ではどのタイプのアプローチやモデルの使用が最も適切であるかの評価ができる」(277ページ)そして,総合的態度に強い影響を及ぼす属性にレバリッチがある。高いレバリッチをもつ属性は,消費者にとって重要であり,ある銘柄と他の銘柄を区別する時などに使われ,購買意向に関しての決定要素となる。

第7章では「行動に影響をおよぼす際の広告の役割と,特定の市場状況下で,行動がどのように目的設定の有益な基礎になりうるか」(284ページ)について述べられており,消費者は広告によって即時行動を促進されるため,広告の役割は長期的な売上よりも短期的な即時売上に関連している。そのため,過去の広告は購買意思決定に無関係であり,現在の広告も将来の売上には無関係である。そして,「広告目的は新規試用者を獲得する広告の能力のみならず,受容の意思決定に影響を与える能力も反映するように拡張することが必要である」(296ページ)

第8章ではマス・コミュニケーションにおける広告の役割について述べられている。消費者は6つの段階を通して情報を処理しており,この情報処理段階にコミュニケーション・システムの5つの構成要素を組み合わせたものが説明マトリックスと呼ばれる。この説明マトリックスは広告のデザインや許可,または広告キャンペーンの開発に有効であり,キャンペーンの長所と短所を把握することができる。また,キャンペーン展開後に「得られる潜在的効果の評価のためにも使うことができる」(313ページ)そして,消費者や市場過程をさらに深く理解することによって,広告主は広告キャンペーンの目的達成を促進することができる。
出典:D.A.ア-カ-,J.G.マイヤ-ズ著;野中郁次郎,池上久訳(1977)『アドバタイジング・マネジメント : 広告意思決定の理論』 東洋経済新報社,6-8章(224-317).

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2005年05月07日

アドバタイジング・マネジメント:広告意思決定の理論( D.A.ア-カ-,J.G.マイヤ-ズ 1977)

目次
第4章 広告目的の設定
第5章 イメージと競争的位置

第4章では広告における目的設定の在り方を記している。広告目的の機能は「1つはコミュニケーション能力」(105ページ),「第2は意思決定の基準を提供すること」(106ページ)である。広告活動はマーケティング活動の1部でしかないが,目的設定によって結果が変わってくる。しかし,その結果は即時性がなく,すぐには表面には出てこない。また,この章では「DAGMAR」(広告結果測定のための広告目標の定義)(123ページ)をコミュニケーション過程として,例を挙げて記している。「DAGMARは広告目標を,所与の期間内に限定されたオーディエンスの間で達成さるべき特定のコミュニケーション課業として定義する」(166ページ)DAGMARアプローチは経営に際して多大に影響するが,広告マネジャーと研究者の間に生まれた批判の声もある。そのDAGMARに対しての6つの挑戦(批判)が「売上目標」(139ページ),「実用性」(140ページ),「測定問題」(140ページ),「システムにおけるノイズ」(140ページ),「偉大なアイデアの抑制」(141ページ),「コミュニケーション結果の階層モデル」(142ページ)である。これを受け,本章ではDAGMAR MODⅠⅠ(DAGMARに改良を加えたモノ)を提言しており,GMの例を挙げて説明している。また,DAGMARアプローチの実行に際して,媒介変数の決定が重要であるということも記している。

 第5章ではイメージと態度(次章で詳しく説明される)の媒体変数を前章で記したDAGMARより拡張して説明している。広告により消費者にイメージを与える時には自社の特色を知り直す必要があり,また,コスト面で広告費は資金配分における割合が少ないのでイメージを与えた後の正確な測定が必要であると記している。さらに広告はイメージを維持する重要な力であると同時に消費者のイメージを大きく違う方向に向ける性質もある。ここで他社と差別化をはかるためには,「事前に,代替銘柄間で意味のある区別ができるような属性や特性を見つけることが,基本的な課題となる」(175ページ)といっており,マールボロー物語の失敗と成功を例に挙げ説明している。広告戦略において大切なことは短期的な利益を追求しないということである。
 広告などのイメージに対して消費者が反応を示さない場合には銘柄への態度の真の決定要因が問題になってくる。このことについても本章で記されている。
 また,本章ではさまざまな例を挙げて空間配置分析を説明している。空間配置分析とは,理解という媒介変数をより拡張しているものと見なされ,「対象が種々のセグメントによってどこに位置づけられるか,そしてこれらの位置のどのような変化が望ましいのかについて,計量的分析の枠組みを提供し,一つのイメージは多くの属性や次元に係わっているという認識のうえにたって,いくつかの次元を同時にとり扱うための種々の技法を援用する」(191ページ)と記されている。

出典:D.A.ア-カ-,J.G.マイヤ-ズ著;野中郁次郎,池上久訳(1977)『アドバタイジング・マネジメント : 広告意思決定の理論』 東洋経済新報社,4-5章(105-220).

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2005年05月06日

アドバタイジング・マネジメント:広告意思決定の理論 (D.A.ア-カ-,J.G.マイヤ-ズ 1977)

目次
第1章広告管理の領域
第2章広告意思決定
第3章予算意思決定

第1章では広告管理の領域について述べられている。具体的には広告の制度を述べ,広告文献の展望を行い,広告意思決定者が避けては通れないモデルとモデル・ビルディングの有効性を説いている。
 広告の制度として,良く知られている三つの形態があり,広告主,広告代理店,媒体がある。広告主は多種多様ではあるが,産業財広告と消費財広告,どちらに出しているかにより分類することができ,産業財広告は非消費者を含む業界紙に強く依存しており,ダイレクト・メールや見本市などによく見られる。消費財広告は消費者に対して広告するのはもちろんであるが多様な形があり,P&Gなどの包装消費財製品,GMにみられる耐久消費財,シアーズロバックによる小売業といった区別がある。広告代理店は媒体配分意思決定を行うことが多く,その報酬として広告費の15%を受け取りこれは昔から変わっていない。今後は長く変わっていない報酬の検討の必要がある。また媒体の発展は広告に影響を与えてきたが1922年のラジオ,1948年のテレビが革命的な変化をもたらし,広告の飛躍的な成長の転機をなった。
 広告の文献の展望として今まで膨大な文献が存在するが多くは学問的なアプローチがなされ,経済的な視角をもっていたり,記述的な入門的参考書がそれである。他にも社会学者,哲学家,政治家の著作などもあるが,本書のアプローチとしては「広告キャンペーンを生み出す意思決定に焦点をあてた経営管理的視角に動機づけられている」(28ページ)としており広告意思決定者が利用できる多くのモデルが利用されているが,これらは「暗示的,言語的,論理フロー,数学的,意思決定的,記述的,あるいはこれらのタイプの組み合わせ」(28ページ)であり、モデルは情報処理者,語彙の基盤,調査を導くものとして役立つとしている。
 
 第2章では広告意思決定について述べられている。広告意思決定に影響を与える要因は内部要因と外部要因があるが,内部要因は主にマネージャーが関係しなければならないもので広告の目的と予算の選択,広告表現の意思決定,選択すべき媒体の決定がある。これらの要因は他のマーケティング計画と別に行うことはできず,「広告はマーケティングの一部分でしかなく,広告努力に関係した種種の意思決定は全体のマーケティング実施計画に対して調整され,統合されなければならない」(63ページ)としている。広告意思決定に影響を与える外部要因としては,一つ目に社会的・法的制約があげられ,虚偽広告の規制の問題や社会的,倫理的判断が求められる。二つ目には競争的環境で,広告は多くものと競争しなければならない。それは同業者かもしれないし,他業種の者かもしれない。競争者に気を使うばかりで消費者をないがしろにしがちである。三つ目の要因は協力機関で,広告代理店,調査会社といったものは広告意思決定に参画する。そして四つ目の最も重要な決定要因は広告意思決定者が影響をあたえようとしている人々である。訴求対象層の動機づけと行動を理解することが広告意思決定において最も重要な要素であるとしている
 広告訴求層に働きかけるにあたって市場の細分化は欠かせない。広告訴求層を明確にしてそのターゲットにむけて広告活動することがより効果的だからである。細分化には二つの異なるタイプの戦略があり,二つ以上のグループが識別され,それぞれにマーケティング実施計画を開発する「非差別化」と一つのグループに向けてマーケティング実施計画を開発する「集計化」がある。それらの戦略においては細分化変数による分割が可能で細分化変数の選択にあたって「第一に変数は有望な広告実施計画のアイデアを刺激できなければならない,第二に細分化変数は価値あるセグメントを識別すべきである,第三に結果として出てきたセグメントは適度のコストで接近可能でなければならない」(46ページ)としている。広告意思決定者は不確実性になやまされるが,これらはマス・コミュニケーションの性質である一方的発信に起因している。そのために広告主は消費者がどのように広告メッセージを知覚する傾向があるか,消費者はいかに製品,サービス,銘柄について学習し,これらの態度にはどのような変化がおきるか,消費者に広告がどのように伝播されその過程の人的影響をも知っておかなければならない。

 第3章では予算意思決定について述べられており,「広告予算意思決定の理論的意思決定は限界分析に基づいており,簡単に説明できる。企業の支出の生み出す限界収入が単位あたりの支出増部分を上回っている限り広告予算を増加し続けるべきである」(67ページ)としている。ただ,広告支出と売り上げ間の関数決定は難しく,その理由として広告費が売り上げに影響するというのは間違いであり,また広告費と売り上げの関係の形とパラメーターの決定は容易ではないこと,最後にその関係は時間的に変化することである。限界分析のこのような問題の解決策として3つあり,1つは「意思決定の指針として経験法則に頼ることである。このようなルールはしばしば確固とした経済原則に基づいていないように思えるが,結果的に最適に近い支出をもたらす例が多い」(96ページ),二つ目は困難ではあるが,広告費と売り上げに関係づける反応関数を無理にでも決定することである。そのためには二つのアプローチがとられ,1つは実験でフィールド実験はいつくかの問題はあるが限界分析モデルが依拠する反応関数を明らかにするための最良のデータになりうる。2つめは既に行われた回帰分析のデータを利用することで今まで行われたモデルを比較することにより反応関数を決定するのを推定する一つの要素になりうる。3つめの解決策は限界分析を使うがインプットとアウトプットをより明確にするために従属変数及び独立変数の幅を広げることである。インプットには広告実施計画,訴求対象者,使用媒体などのあらゆる環境状態などが挙げられ,アウトプットは消費者が学習したこと,消費者の態度へのインパクト,購買意思決定へのインパクトなどが挙げられる。

出典:D.A.ア-カ-,J.G.マイヤ-ズ著;野中郁次郎,池上久訳(1977)『アドバタイジング・マネジメント : 広告意思決定の理論』 東洋経済新報社,1-3章(1-101).

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2005年05月05日

広告の理論と戦略 (清水 2004)

目次
第10章 広告効果測定基準とその測定手法
第11章 インボルブメントと消費者意思決定プロセス
第12章 IMCとマーケティング・コミュニケーションの諸ツール

第10章 広告効果測定基準とその測定手法
 第10章では,いろいろな要因が重なり合って効果が現れる広告の効果を,少し整理して考えてみる。広告測定効果はどのように測定されるのか。媒体普及,媒体露出,広告露出,広告知覚,広告コミュニケーション,販売効果といった広告評価基準に従って述べていく。媒体普及の段階は,特殊な測定方法もないため,ABCのリポートや,NHKの調査結果から得ることができる。媒体露出の段階では,視聴率測定によりオーディエンス総数を求める。視聴率には世帯視聴率と個人視聴率があり,世帯視聴率は調査世帯に視聴状況の自動記録装置をつけておいて求め,個人視聴率は日記調査法で調査する。広告露出の段階は,広告が見聞きされる可能性を超えるもので,新聞,雑誌の場合は注目率,生独立測定ということになる。広告知覚段階では,広告コピーが実際に見聞きされる効果を求めるもので,媒体機能とコピー機能との総合効果が測定される。コピー効果の測定法としては,起想法と質問紙法,問合わせ法,ラボラトリー・テスト法があげられる。広告コミュニケーション(態度変容)段階は,広告を認知してから広告商品への態度がどのように変容していくかを測定するものであり,態度測定の方法には,段階法,シュウエリン法,CACテスト法などがある。「販売効果測定は,広告キャンペーンの事前事後の売上高の差を捉えるもので,ストア・オーディット法や,販売地域テスト法などといった単純な方法で行われる。しかし,販売効果は,広告を含むマーケティング変数と,競合他社を含む外部環境変数との係わり合いの結果として現れるもので,この中から広告だけの貢献度を求めるのは困難である」(307ページ)
 
第11章 インボルブメントと消費者意思決定プロセス
 第11章では始めに,歴代のハイアラーキー・モデルについて述べられ,次にマーケティングにおける消費者意思決定モデルについて考察している。次にニコシア・モデル,ハワード=シェスモデル,アソシエーション・モデルについて述べられている。しかし、これらのモデルは,わが国において適応の可能性は極めて低いと言える。なぜならば,モデルの各段階は全て効果測定が必要であり,実際に調査機関によって,各々の段階の調査が定期的に行われ,データが得られる状態になければ,有効なモデルにはならない。わが国にはこれだけの段階をすべてカバーするだけの調査がなされていないからである。次に、インボルブメントに関する消費者行動研究の流れについて紹介されている。例として,広告媒体へのインボルブメントに関する研究としては,クラグマンが「被験者が説得的刺激の内容と自分自身の生活の内容とを『結びつける言葉の数』,或いは意識の上で明確な刺激の内容について個人の生活の内容に照らして述べる1分当りの言葉の数である」(332ページ)としているインボルブメントの定義に基づいて,雑誌とテレビによる実験を行い次のような結論に達した。「雑誌のような印刷媒体では被験者は自ら読もうとしなければ情報を入手することができないので,能動的学習をすることになり,インボルブメントの度合いが高い。テレビ媒体ではリラックスした状態で見ることができ,受動的学習を伴うので,インボルブメントの度合いが低い。このような状況下では広告が態度変容を起こさせることはほとんどないというものである」(332ページ)そして,インボルブメントを考慮した新しい広告効果モデルの構築が必要となってくるのであるが,筆者は,新しい広告効果モデルは「広告商品」,「媒体評価基準」,「学習セット」,「情動セット」,「行動セット」の五つのボックスからなるモデルを提案している。筆者は,「わが国において,消費者の商品に対するインボルブメントの調査研究が進められつつあるが,媒体に対するインボルブメントの調査研究はまだ行われていない。これらの実証研究が積み重ねられていけば,わが国消費者のロー・インボルブメント意思決定変数が次第に把握できるようになるのであるだろうが、それを待たなければ本当の意味での新しい広告効果モデルは生まれない」(352ページ)としている。

第12章 IMCとマーケティング・コミュニケーションの諸ツール
 第12章では,広告を送り手の立場から見るのではなく,受けてである消費者の立場から考えようとするインテグレーション・マーケティング・コミュニケーション(IMC)について述べられている。筆者は「IMCとは外部環境と消費者データを踏まえ,ターゲット・オーディエンスに対してブランドを統合的なメッセージで効率的にコンタクトさせ,納得してもらうトータル・マーケティング・システムである」(355ページ)と定義している。IMCは企業の一広告宣伝部局だけで遂行できるものではなく,全社的な意思改革と組織改革から始まるものである。今,アメリカに起こったIMC旋風が日本へ上陸しようとしている。次にマーケティング・コミュニケーションのツールについて述べられている。マーケティング・コミュニケーションのツールには、広告,社内販売意識の意欲と技術の向上を目的とした社内向け販売促進と,需要を創造することを目的とした消費者向け販売促進がある販売促進,プロモーション,あるいはマーケティング・コミュニケーションの重要なツールの一つである人的販売,「企業または組織体の活動に影響を受けるグループに対し,企業または組織体が好ましい態度を開発するため働きかける一切の活動あるいは態度である」(371ページ)と定義されているパブリック・リレーションズ(PR),パブリシティ,コーポレート・アイデンティティ(CI),商品/チャネル/コスト・コミュニケーション,インターナショナル・コミュニケーション,マーケティング情報,クチコミがある。

出典:清水公一(2004),広告の理論と戦略,(280-376ページ)

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2005年05月04日

広告の理論と戦略 (清水 2004)

第7章 広告媒体戦略とエンピリカル・データ
第8章 海外およびわが国の広告管理システムモデル
第9章 広告表現戦略と広告制作プロセス

第7章 広告媒体戦略とエンピリカル・データ
本章では媒体戦略の立て方,具体的戦術の方法,戦略・戦術を立てる際の考慮条件や,メディアシステムのためのエンピリカル・データについて述べられている。

第1節 広告媒体戦略と戦術
リチャード・P・ジョーンズのチェックリストを挙げながら,媒体の戦術と戦略について述べられいる。
1 媒体目標
1)大まかな目標を設定する
広告は,マーケティングと連動して初めて,企業目標を達成するツールとなる。そのためにもまず,マーケティングと目標と,戦略に同調した媒体目標を立てる必要がある。また,競合他社のマーケティング活動も十分に考慮しなければならない。
2)体的な目標を設定し,その根拠を明確にする
 ①ターゲットを明確にする:人口統計区分・地理的区分・ライフスタイルによる区分
 ②広告の実施期間と時期を明確にする:通年化特定の時期か
 ③コピーアプローチを把握する:クリエイティブ部門との密な連携により,媒体条件を把握する。
2 媒体戦略
 次に媒体戦略(media strategy)に取り掛かることが出来る。これは,与えられた広告費を効率的に配分するための基本原則の明示であり,その考慮条件は…
1)媒体計画に適応する広告費運用の一般原則を決める。
 ①広告費シェアを競合他社と同程度にするか,多くするかの決定。
 ②広告費の投入に当たり,到達と頻度のいずれかを重視するかの決定。
 ③売上高に対する広告費の割合を地域的に配分する。
2)主要媒体を選択し,その根拠を明らかにしておく。
3)補助媒体の選定を行い,その理由を明確にする。
4)媒体の利用に関する基本原則の決定。
 ①ガバレッジ・エリアを全国か地方のいずれかにするか
 ②スペースやタイムに関するおおまかなプラン
 ③ターゲット・オーディエンスの密度により,媒体ウェイト条件を記入
 ④CPMなど,効率性の基準設定
 ⑤露出は集中的か,継続的か-媒体利用のスケジューリング
5)来上がった代替案を検討する。

3 媒体戦術
 上記の基本条件を踏まえ,さらに具体化している。
1)予算の概要表の作成
総広告費,媒体別の広告費,構成比,広告費の対前年比などを盛り込む
2)媒体計画の概要を書く
 ①主要素の記述
 アイデンティフィケーション:ネットワーク名・局名・番組名
 局,新聞,地域の数
 購入広告単位:スペースやタイムなど
 ②計画内の各要素が,計画目標との関連において,どのように作用しているかの記述
 ③この媒体戦術か他のものよりも優れている理由を示す
3)広告媒体費と売上高との関係表を作成する。
 ①4半期ごとの計画済みの広告媒体費と売上高との関係表を,年間広告費に占める比率を含めて作  成。
4)媒体カバレッジ,頻度,その他の統計データの作成
 ①印刷媒体に関して:観客総数,広告出稿数,広告サイズ,費用,世帯カバレッジ
 ②電波媒体に関して:全/テレビ所有世帯カバレッジ,平均視聴率,CM本数・秒数,費用,CPM
 ③代替案の検討

第2節 到達・頻度・継続
 広告媒体戦術に関しては到達と頻度そして継続をどのように決定するかが重要である。
1 到達
 リーチとも呼ばれ,広告媒体や広告を見たり聞いたりしたりする人の量や割合である。
期間中に広告の露出回数が増えてくると,広告に重複して接触する人が出てくる。累積到達率も同様で,少なくとも1回は接触した世帯または個人の割合で,広告の広がりを測る指標とされる。

2 頻度 
 一般には平均接触頻度として用いられる。世帯または個人がその広告に平均何回接触するかを示しており,接触の深さを測るものと位置付けられる。
3 GRP
 延べ視聴率とも呼ばれCMの視聴・聴取率を合計したもの。到達度の大きさを測定するもの。
4 頻度分布
 複数広告のうち回数ごとに接触した世帯や個人は全体の何パーセントを占めるかを測る。
5 CPM 
 到達1000人当たりのコストで,媒体の費用効果を測定する
6 継続
 1カ月のうち1週間前後継続して広告を提出する短期集中型,1カ月以上継続する連続型,徐々に増加,する増加型,その逆の減少型,波型などがある。

第3節 ネット・リーチの把握
 広告媒体戦略で重要な事は,銘柄媒体の純到度,非重複オーディエンスを求める事である。頻度効果の異なった媒体,銘柄媒体で達成しようとするならば,それらの重複オーディエンスをあらかじめ把握しておき重複オーディエンスの多い媒体を選択することになるであろう。反対に少ない頻度で幅広い到達を目標にしているならば,できるだけ重複の少ない媒体を選ぶことになる。

第4節 広告の効果挿入法
1 印刷媒体への挿入法に関するズィールスクの研究
 1959年にズィールスクが広告の記憶率と忘却率の測定を行った。調査に用いたのはアメリカの一般家庭で使われている食料品13種。2つのグループに分けた婦人に,一方のグループは1年の最初の13週,もう片方は4週ごとに1年間同じ広告プリントを郵送した。ここで,記憶率を見てみると,毎週露出したグループは63%,4週毎露出した場合が48%であり,忘却率は毎週露出したグループは63%あったものがわずか4週間で半減,6週間後には3分の2にまで減少している。次に毎週露出したグループは記憶率が初めの3週間で14%から3%に減少し,その後は48%から37%へ減少している。忘却率は1回目が79%で13回目は23%である。忘却率は広告露出回数の増加に連れて減少していることがわかる。
《結果》
集中的広告は一時的に広告を記憶させる点では効果的である。
広告は継続的に実施しないと直ちに忘れ去られてしまう。
広告露出回数が増加すれば,それだけ広告の忘却率は減少する。
各週の平均広告記憶者数の最大化を図る場合,広告露出を分散させた方が効果的である。
広告の広告費効率は露出回数の増加に連れてよくなる。

第8章  海外およびわが国の広告管理システム・モデル
 媒体戦略・戦術をコンピュータを使って行おうとする各種コンピュータモデルが開発されている。
第1節 これまでのコンピュータ・モデル
1 LPI 2 LPⅡ
一定の制約条件の下で,ある目的関数を最大化,あるいは最小化しようとする方法を線形計画法(LP)という。
 ①市場および媒体情報の入手:まず人口統計特性別に読者,視聴者で,しかも見込み客である     audience marketを求める。
 ②媒体の質的価値:媒体の名声や編集内容などを評価し,REV(Rated Exposure Value)を求める。
 ③媒体計画における制約条件
 ・契約中おTVや雑誌などはそのまま採用する。
 ・広告主の伝統は採用する
 ・広告出稿量の最高/最低限度を守る
 ・料金の割引条件の考慮
 ・事情にかなった表現上の制約条件の設定
 ・特殊媒体の必要性
 ・マーチャンダイジング
 ④センシティビティ分析
 ⑤REU Valueと制約条件は主観的なものであるため,そのウェイトを変化させると,アウトプットに反応 が現れる。
LPⅡはLPⅠを改良したもので,目標志向的なモデルである。LPⅠの利点は,データや,アルゴリズムが比較的単純なので,低コストで媒体計画が立てられるということであり,このモデルの欠点は重複や累積が組み込まれていないこと,アウトプットは,メディア・スケジュールの形では出てこないということである。LPⅡは上記の欠点を保管する目的で開発された。

2 AD-ME-SIM モデム
これは、J.Walter Thompson Co.とDennis H.Genschが開発したもので3つのステップからなる。
1)オーディエンス・データの作成:オーディエンスの人口統計的諸特性とそれに対応した閲読,視聴傾向といったオーディエンス・データの把握をする。
2)オーディエンスのウェイトづけ:オーディエンスのうちターゲット・オーディエンスであるかどうかを把握して,ウェイトづけをする。
3)媒体評価:4つのインプットデータの統合をする。
 ①銘柄媒体のウェイト②広告のタイム,カラー,スペースのウェイト③頻度分布のウェイト④選択した銘  柄媒体の割引料金
次の5つの代替案をアウトプットする。 
 ①媒体スケジュールによる銘柄媒体の到達②銘柄媒体の頻度③コマーシャルの到達④コマーシャル  の頻度⑤インパクト・ユニット
3 MEDIACモデル
4 広告の媒体計画をコンピュータによるオンラインシステムで処理しようとするものである。この利用者は希望する広告のリスト,予算,それに媒体と訴求対象についての諸々の客観データおよび主観データを用意すると,市場反応を最大にするメディア・ミックスとキャンペーン期間の媒体計画表を入手することができる。MEDIACモデル展開のステップを述べると,ある想定される媒体選択計画から計算を始める。そして,次々とその中で一番低い媒体価値のものと比較しながら入れ替え作業を行う。これは予算の範囲内で投下資本当たりの反応の大きい媒体戦略を見つけていく方法である。

第9章 広告表現戦略と広告制作プロセス
 広告表現は広告を製作することで,広告主の意図を全て集約し伝えるので,広告媒体と共に重要な柱である。そして,表現戦略にあたってまず,作成しなければならないのが,コピー・プラットホームである。
商品の特質と利便,広告のポジショニングとコピーフォーマットに至るまでの広告表現戦略における必要事項を一覧表にする。
1 プロダクトプロトファイル
 1)目的 2)商品情報 3)購入状況 4)プロダクト・ヒストリー
2 消費者情報
 1)人口統計的情報 2)サイコグラフィックス 3)消費者特性
3 コピー・プラットホーム
 1)広告に関する問題 2)商品差別化特性 3)見込み客 4)競争他社 5)商品の利便性と訴求ポイン ト 6)広告目標 7)商品ポジショニング 8)表現戦略
コピー・プラットホームのフォーマットは企業によって異なっている。また,この中で企業のスローガンや考え方に対して相反する言葉を用いてはならない。この中には,消費者情報も記入する。それは,企業の生存に関わる最重要要因であるので,十分なスペースを確保する。市場分析・消費者分析・消費者への考慮条件の面から記入する。消費者のニーズに的確に反応しなければならない。次に,外部環境情報を把握すべきである。特に法律関係として法規,倫理などからコピーを書くための注意点をチェックする。商品と社会・文化の関わりを考えておく事は必要である。経済情報はマーケティングや広告活動に最も影響を与える。今日の経済環境をよく見極めて,広告制作が出来れば,内需拡大にも大きく貢献する事が出来る。次に,商品のポジショニングをすることが重要で,生活者とのポジショニング,競争市場におけるポジショニング,社会におけるポジショニングがある。その目的は,生活者と共感し合えるように,商品を個性化することにある。特に,競争市場におけるポジショニングは広告商品のマーケットシェアが業界でどのあたりに位置付けられているかを把握することであり,競争市場におけるポジショニングは大気汚染や水質汚染,騒音,悪臭など社会に迷惑をかけていないかを明らかにする。ポジショニングが終わると,いよいよコピーアプローチ段階に入る。
 
第2節 印刷広告の表現
1 広告コピーの構成要素
 見出しは本文の内容を集約的に表現する比較的大きな活字で組まれた短い語句である。その目的は,①興味を抱かせる②本文の閲読を促す③見込み客の拾い上げ④本文を読まない人に対しても短いメッセージを送るなどが挙げられる。本文は広告コピーのなかで,主張内容をもっとも詳細に表現したものである,広告主のイメージを創成する機能もある。シグは広告主を明示した部分であり,トレードマーク(商標とも言われる)・ロゴ・住所・電話番号などがそれにあたる。
2 印刷広告の製作手順
 広告アプローチとフォーマットが決定すると,まず表現アイディアをラフ・スケッチの形で視覚化する。これを広告主に提示し,承認されたものが製版され印刷される。
第3節 放送広告の表現
1 ラジオCMの製作
 この場合は,表現アイディアをまとめて元原稿をまず書く。次にタレントやスタジオの選定,音楽の手配をしてラジオスクリプトを基に録音・編集する。
2 テレビCMの製作
 テレビCMを製作する際はまず,広告主がマーケティングポリシーや広告ポリシーを決定し,広告会社側との企画会議で,それについてのオリエンテーションを行う。広告主は広告会社によってプレゼンテーションされたストーリーボードや絵コンテの代替案の中からひとつを選び,製作依頼をする。広告会社または製作会社のプロデューサーは製作の総責任者であり,スタッフ・タレントの決定,制作費予算の見積もりをする。
出典:清水公一(2004),『広告の理論と戦略』,創成社,195-278ページ。

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2005年05月03日

広告の理論と戦略(清水 2004)

目次
第4章 コミュニケーション・プロセスと送り手の組織,受け手の保護
第5章 広告計画のプロセスと広告予算の編成
第6章 広告媒体の特性と料金体系

第4章 コミュニケーション・プロセスと送り手の組織,受け手の保護
 第4章では,送り手から受け手に流れるコミュニケーション・プロセスについて述べられている。ソース,メッセージ,レシーバーのコミュニケーション3要素,コミュニケーションの付随的要素としてノイズ,反応,コミュニケーションの機能としてエンコーディング,デコーディング,フィードバックといった諸要素を説明し,モデルにまとめている。このプロセスを効果的にするには「情報が途中で欠落したり,歪められたりすることを防ぐことである」(110ページ)とし,「送り手の経験領域と受け手の経験領域の重複部分がより大きければ,コミュニケーションはより容易なものになるのである」(110ページ)としている。
 次に,送り手の組織として広告主,広告会社,媒体社の組織について説明がなされている。その後,消費者運動の発展,コンシューマリズムの台頭への流れが述べられ,消費者保護の具体的な中身として,ケネディーの4つの権利と消費者保護基本法が取りあげられている。ここでは消費者保護基本法の「施策の基本方向はケネディー大統領の4つの権利を満たし,さらに具体化したものといえよう」(126ページ)としている。また,CBBBとJAROの組織や活動が説明され,さらに広告の自主規制と公的規制について述べられており,自主規制については「法的拘束がなく,処罰規定もない訳であるが,わが国特有の業界相互の信用というものが,大きな抑制力となって作用している」(132ページ)としている。最後に,自主規制と公的規制の中間にあたる,自動車業界の表示に関する公正競争規約の一部を提示している。

第5章 広告計画のプロセスと広告予算の編成
 第5章では,広告計画のプロセスと広告予算の編成について述べられている。これまで行われてきた主な広告計画の研究を挙げ,その中から小林太三郎氏の考えをベースとしたモデルを提示して広告計画を説明している。「広告計画の前提条件であるマーケティング・プロフィールは『7Cs COMPASS MODEL』の各要素がそのまま当てはまる」(135ページ)としている。コーポレート,コモディティ,コミュニケーション,チャネル,コスト,コンシューマー,サーカムスタンスの7つのプロフィールである。
 マーケティング・プロフィールを把握したら,広告の基本計画を立てる。まずは,広告目標を設定するのだが,これは「具体的に数字で表せるようなものでなければならない」(138ページ)とされ,明確にされた広告目標に向かって作業を遂行し,結果を評価する。 広告目標を設定したら,広告予算の編成を行うのだが「自社で立案する場合と,広告会社を参画させる場合,広告会社に企画書を提出させる場合などがある」(139ページ)とされている。
 広告の基本計画が決まれば,次は媒体戦略,表現戦略を策定する。これらは「広告活動の2本の柱ともいえるような重要なものである」(139ページ)としている。媒体戦略から決められることもあれば,表現戦略から決められることもあるが両者は深く関連しあっている。
 媒体戦略・戦術であるが,ここではRichard P.Jonesの考えをもとにしている。媒体目標として,マーケティング計画に連動する大まかな目標と具体的な目標を設定する。媒体戦略では広告費配分の原則を決定後,使用する媒体を選択し,媒体利用の基本原則を決める。媒体戦術では,予算や媒体計画の概要を示したり,媒体費と売り上げの関連表やリーチ(到達)とフリークエンシー(頻度)その他の統計データの作成を行ったりするとしている。
 媒体計画立案の一方で行われる表現戦略・戦術は,1.これまで入手してきたデータの整理。特にコピーに直接結びつくもの(トレードマークやブランド・ネームなど)を把握しておく。2.商品のポジショニング(市場での位置づけや社会での位置づけがある)3.コピーコンセプトを決定。4.コピー・プラットフォームの作成。5.それに従ってコピー・アプローチ(ポジショニングや広告のコンセプトをコピーに接近させる)を決め,コピー・フォーマット(表現の形式)を検討。6.コピーを書く。7.作成されたコピーの代替案をコピー・テストにかけ,決定する。以上のような手順で検討されるとしている。
 制作されたコピーは媒体戦略と照らしあわされ出稿される。広告が掲出されると,計画の修正や次の計画の資料とすることを目的に広告効果測定が行われる。これには多数の方法があるが,結果は関連する活動にフィードバックされる。広告計画は,このようなプロセスを経て遂行されるとしている。
 以下,日本の広告費の推移などについて述べられ,売上高比率法,利益比率法,販売単位法,タスク法,任意法,支出可能額法,競争会社対抗法といった広告予算設定法が説明され,稲川和男氏の広告予算決定の数理モデルを提示した後,ワインバーグの広告予算決定モデルについて述べられている。

第6章 広告媒体の特性と料金体系
 第6章では,広告媒体が取りあげられている。ここでは「見込客に広告メッセージを到達(reach)させるためには伝達手段(communication carrier)が必要である。この伝達手段を広告媒体(advertising media)という」(160ページ)と定義している。
 広告媒体には,1.新聞,2.雑誌,3.ラジオ,4.テレビ,5.屋外広告,6.交通広告,7.映画・スライド,8.ダイレクトメール(DM),9.新聞折り込み広告,10.その他の直接広告,11.POP広告,12.ノベルティー,13.その他があるとしている。これまでの多種多様な分類を整理した分類として,マスコミ4媒体(1~4)と他の媒体(5~13)に大別し,さらに印刷媒体(1,2),電波媒体(3,4),場所媒体(5~7),直接媒体(8~10),POP媒体(11),特殊媒体(12),その他の媒体(13)という分類を示している。
 マスコミ4媒体については,発行・普及状況,媒体自身の種類(印刷媒体のみ),CMの挿入方法(電波媒体のみ),媒体特性,広告の種類,広告料金が詳細に説明されている。例えば,新聞では「一部当たりの人口が2.49人という高い普及率をもっている」(162ページ)ことや「全国紙の普及率も国際的にみて破格な高さである」(163ページ)が発行・普及状況である。ガバレッジ・エリア別でみた全国紙,ブロック紙,県紙,内容別にみた一般紙,スポーツ紙,専門紙,特殊紙,英字紙が媒体自身の種類である。記録性,説得性,反復性,安定性,融通性が媒体特性である。広告の掲載位置,スペース,内容,形態別による分類が広告の種類である。広告料金は各紙ごとの料金が記載された表が添えられている。
 屋外広告と交通広告については,広告の種類と媒体特性が説明されている。その他のものについては,媒体特性を中心に広告の種類にも少し触れて説明されている。また,ニューメディアやマルチメディアの出現として,CATVや衛星放送,インターネットなどについても簡単な説明がなされている。

出典:清水公一(2004),『広告の理論と戦略』 創成社,103-194ページ。

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2005年05月02日

広告の理論と戦略(清水 2004)

目次
第1章 現代における広告の機能と定義および種類
第2章 世界およびわが国における広告の発展
第3章 低成長時代のコ・マーケティングにおける広告の位置づけ

第1章 現代における広告の機能と定義および種類
この章ではまず,広告の社会的機能について述べられている。広告のプラス面では,広告は新商品を人々に認識させ,商品の選択肢を増やす効果があり生活を豊かにし,繰り返し消費者に訴えることによって商品やサービスの信頼性を高める効果,また「企業の売上を伸ばし経済活動を活性化させる」(2ページ)効果がある。逆にマイナス面では,広告は情報過多社会,一部の企業によるマスメディアの支配,社会の低俗化,消費の画一化を招く可能性も存在する。次に広告の経済的機能について述べられており,その機能としては経済の活性化が挙げられる。なぜならば,広告は大量生産によりコストを低減させ,より一層消費を拡大させることができるからである。アメリカ・マーケティング協会(AMA)は広告とは「明示された広告主によるアイデア,商品,もしくはサービスについての有料形態の非人的提示および促進活動である」(4ページ)と定義している。この定義でのポイントは3つあり,広告するもの,つまり「明示された広告主」次に「有料形態」そして広告提示の方法「非人的提示および促進」ということが明示されているところである。そしてこの定義や他の定義を踏まえて「広告とは企業や非営利組織または個人としての広告主が,自己の利益および社会的利益の増大化を目的とし,管理可能な非人的媒体を使って,選択された生活者や使用者に,商品,サービス,またはアイデアを,広告主を明確にして告知し説得するコミュニケーション活動である」(9ページ)と筆者の定義を述べている。

第2章 世界およびわが国における広告の発展
 広告の起源は古代バビロニアで,現存する最古の広告は古代エジプトの「ちらし広告」である。そして15世紀に入り,イギリスで広告は大きな発展を遂げた。それは印刷広告が登場したからである。また日本の広告の起源は8世紀初頭であり,明治時代に広告代理業ができ,広告は一般的なものになったのである。つまり,歴史は連続しているもので広告はその時代の文化と強く結びついているので現在や将来を知るためには過去の歴史を知ることが重要である。

第3章 低成長時代のコ・マーケティングにおける広告の位置づけ
 高度経済成長時代ではマーケティング・ミックスの要素はProduct,Promotion,Place,Priceの「4P」で表されてきたが,低成長期時代ではCommodity,Communication,Channel,CostまたConsumer,Communication,Convenience,Costの「4C」で表す方が適切である。そして,「Pro(前)の接頭語の多い高度経済成長時代のマーケティングはプロ・マーケティング(促進マーケティング),そして低成長時代のマーケティングはCo,Con,Com(共に)の接頭語が多いことからコ・マーケティング(共生マーケティング)になろうかと思う」(82ページ)とマーケティング・フレームワークの変遷を論じている。また先ほどの「4C」にConsumer(消費者),Corporation(企業・団体),Circumstance(環境)を加えたものが「7Cs」であり,「消費者への考慮要因N=Needs(必要性),W=Wants(欲求),S=Security(安全性),E=Education(消費者教育)また環境への考慮要因N=National and international circumstances(国および国際環境),W=Weather(気象・自然環境),S=Social and cultural circumstances(社会・文化環境),E=Economic circumstances(経済環境)のコンパスの形をとっているので7Cs COMPASS MODEL」(97ページ)とし,このフレーム・ワークのコミュニケーション・ミックスに広告が位置づけられている。

出典:清水公一(2004),『広告の理論と戦略』創成社,1-102ページ。

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2005年04月26日

世界消費者とのコミュニケーション

目次
1.グローバル広告と文化
 1)言葉の壁
 2)その他の文化の壁 
2.グローバル広告を展開するための予算設定
 1)売上パーセンテージ
 2)競争的パリティ(competitive parity)
 3)目的と任務 
 4)資源分配
3.創造的戦略
 1)標準化vs適応化 
 2)標準化のメリット
①規模の経済性,②一貫したイメージ,③グローバル消費者セグメント,④相互利用
 3)標準化への障壁
①文化的差異,②広告規制,③市場の成熟,④NIHシンドローム 
 4)広告コピー作成のためのアプローチ
①標準化のプロトタイプ,②地域アプローチ
4.グローバルメディア決定
 1)メディア・インフラストラクチュア 
 2)メディアの限界
 3)グローバルメディアを背景とした最近の発展
5.広告規制・制限
 1)その内容及び現状 
 2)マーケターがとるべき対処法
6.広告代理店の選択 
7.国際広告の調整
 1)広告の報奨金 
 2)広告マニュアル 
 3)グローバルミーティングと汎地域ミーティング
8.その他のコミュニケーションの方法
 1)セールスプロモーション
 2)ダイレクトマーケティング 
 3)イベントスポンサー 
 4)トレードショウ
9.グローバルな統合的マーケティング・コミュニケーション

 インドでチョコレートの人気を高めるために,イギリスのチョコレートメーカーであるCadburyはインドの独立記念日である8月15日に合わせて広告を打った。その広告はインドの地図と共に“Too good to share”(分けるなんてもったいない!)と示した。パンパースブランドでおなじみのアメリカのおむつメーカーP&Gは,アメリカで放映したCMを日本語に翻訳し使用したが,そのコピーは日本人を困惑させた。日本人にはなぜコウノトリがおむつを運ぶのか理解できなかったし,欧米と違ってその鳥が赤ちゃんを運んでくるものだとは考えられていなかったからである。(そのかわりに大きな桃が川に流されながら赤ちゃんを運ぶ)

1では,広告が直面する文化差異について焦点をあてる。

1.グローバル広告と文化
 広告とは文化現象の延長である。先に述べたようなP&Gのように,その広告が地元文化に受け入れられなかったとき,その広告キャンペーンは失敗に終わる。しかし,ぴったりマッチした時は絶大な効果を発揮する。多くの場合,広告は言葉よって形成されるため,まずは言葉の壁について見ていきたい。
1)言葉の壁
 言葉とは国際的な広告主がまず初めに克服しなくてはならない障害である。
翻訳以外で有効なのは適切な解釈であり,国によって言葉,単語を変える場合もある。
翻訳のミスは大きくつあり,1つは単純な不注意,多義的な単語,熟語である。例えば,embarrassmentはスペインでは「妊婦」を意味したりする。同じ言葉を使ったつもりでも現地のスラングに対応できない場合もある。この解決策はどこにあるのだろう?…対処法にプロモーションキャンペーンに現地の広告代理店や翻訳家を用いることが挙げられる。
別の策に,単純に現地の言葉に翻訳してしまわない!というのもある。英語は世界中で使われているので,全てのマーケットに対して有効である。
2)それ以外の文化の壁
 サウジアラビアでは,女性がCMに出演する場合ベールを被らなければならないのでヘアケアのCMが役に立たない例や,キャノンが中国で台湾や香港を国として扱った広告を打った(これは中国人にとって無礼な行為に映った)例がそれである。

2.グローバル広告を展開するための予算設定
 次にお金の,いくら使うか?どの予算編成上のルールを使うか?異なる市場にどうやって資源分配を行うか?などの問題が浮上する。企業によって決められたそれぞれのルールある。以下4つ予算決定基準を挙げておく。
1)売上パーセンテージ
 企業が売上の何パーセントを広告費に充てるか?という問題であり,パーセンテージは過去および予想売上収入を基に算出する。
2)競合的パリティ(conmpetitive parity)
 その原則は非常にシンプルである。ベンチマークとして競合メーカーの広告消費額を使い,簡単にその競合相手の予算に合わす事ができる。このアプローチの理論的根拠は競合相手のまとまった考え方が最適な条件としての消費額として表れているはずであることである(負けないためには相手に合わせてしまうことも一理ある)。しかし広告学者によって模倣であると指摘されることもある。
3)目的やタスク
 目的とタスクはもまた重要なルールであり,このコンセプトは非常にわかりやすく,最初の手順としてゴールを決定し,次にその達成のための任務を決定することである。この方法にはしっかりとした費用と目的の関連の理解が必要である。
4)資源配分
 本社の求める資源を要求する。子会社のキャンペーンの貢献度に応じて資源を配分する例もある。

3.創造的戦略
1)標準化vs適応化
 マーケタ-が戦略を立てている際に直面する難題のひとつに広告テーマの決定がある。複数市場で同じ製品を販売する企業にとってどの程度,広告方法を標準化するのかしっかり決めることが必要である。標準化するということは,一つあるいはそれ以上のコミュニケーション・キャンペーンの要素を同じにすることである。
2)標準化のメリット
 標準化・適応化の問題は激しく物議をかもしてきた。標準化のメリットは大きいが,必要ならば微調整は現地の規則に応じるか,より現地の顧客に魅力ある広告を作成するべきである。
①規模の経済性
標準化が推奨される要因の一つに,規模の経済性があげられる。規一による単一のキャンペーンは人目をひくし,更にそれぞれ個々の市場に対して広告を打つのに比べると格段に安くあがる。またブランド認知度や同じポジショニングテーマなど一貫したイメージを植え付けることにも有効である。
②一貫したイメージ
同じ製品を複数市場でセールス展開する場合,一貫的なブランドイメージを構築する事は非常に大事である。それは旅行なども含め世界中を股にかけたグローバルな消費者に対して商品を売り込む際にも重要だ。
③グローバル消費者セグメント
「一つの地球」という考え方は,しばしばグローバル又は汎地域キャンペーンのメリットをもたらす。文化間をひとまとめにする考えは,エリートや若者という単位でくくる場合,見事に的中する。
④相互利用(cross-Fertilization)
多くの企業は地球規模であるという優位を使おうとする。マーケターは彼らの子会社に他の市場で成功したアイディアを適応させるように誘導する。一度成功したものが他の所でも応用できないか考えるのである。

3)標準化への障害
①文化差異
「一つの地球」といえども,文化の違いは存在する。それらはライフスタイルや利益,慣習などである。欧米と違い性の描写の広告がアジアでは避けられる傾向があり,同じ広告を用いていても,国によってブランデーの捉え方が違っていたりする例がある。
②広告規制
現地における法規制は標準化にとっての弊害となりうる。対アジアに統一のキャンペーンをしても,例えばマレーシアでは白人が登場するCMは規制の対象になる。
③市場の成熟度
マーケットの成熟度が違うとそれに応じて異なったアプローチが要求される。新規参入する場合には,まず現地の人々の懐疑心を取り払うこと,ブランド認知を構築すること,その商品の利便性を学習させることが必要である。
④Not Invented Hereシンドローム
現地の広告代理店は標準化を受け入れない場合がある。外からのものを受け入れるに当たって長い時間をかける必要がある。

4)広告コピー作成のためのアプローチ
 「自由放任主義」または「郷に行っては郷に従え」とでもいうべきか…全てのマーケットにはその現地に根付いたベストの方法があり,現地の市場に任せ本社が決定を下す必要がない場合がある。
①標準化のプロトタイプ
広告の指針はその実行に関係のある子会社に与えられるが,その指針(ガイドライン)は企業のウェブサイトやマニュアル,VCRテープなどを経由して本社から伝えられる。
②地域アプローチ
自由放任主義と中央本部の決定との間の妥協点を模索するアプローチの方法もある。

4.グローバルメディア決定
 その企業がビジネスを行おうとする国で広告のためのメディアを選択する事は大きな問題である。国によってはこちらの方が広告を製作するよりも重要なこともある。(日本の場合はこちらに当たる)
1)メディアのインフラストラクチュア
これの程度は国によって様々であり,国がマス・メディアのアクセスを規制している場合もある。ラジオ,テレビ,映画などのスタンダード・メディアは多くの国で確立しており,ケーブルやサテライト放送などのニューメディアも成長してきている。
2)メディアの限界
スタンダード・メディアがない国では,その国のマーケタ-は新たにそれに代わるものを創造しなければならない。例えばタイでは利用者への接近性とリーチに近いという点で,悪名高いバンコクの渋滞をメディアとして利用した。屋外の広告や交通情報のラジオ,トゥクトゥクなどもメディアになる。
3)グローバルメディアを背景とした最近の発展
メディアのコストも国によって様々であり,それらも考慮する必要がある。
 ・マス・メディアの自由化と商品化
 ・ラジオや紙からテレビ広告へのシフト;テレビは新たな方法を提供してくれる。テレビショッピングが好 例である。
 ・国際メディアや地域メディアの発達
 ・携帯電話で送るメッセージ
 ・メディア規制の進展

5.広告規制・制限
 ブラッド・ピットを用いた広告をマレーシア政府は取りしまった。欧米人の顔はアジアの人間に「我々の国の男はハンサムじゃない?」というコンプレックスを与えるからだ。また,宗教を背景とした規制も多く,広告主は外国市場の規制に戸惑う。
1)その内容及び現状
・有害製品や薬の広告;日本では薬やタバコ,酒類の広告ルールは厳格である。
・広告比較;競合相手の広告をけなすと問題になる場合がある,アメリカではありふれた光景であるが,中国では禁止されており,日本では慣習的にタブーとされている。
・広告メッセージの趣旨(中身);内容がグロテスクであったり,危険なものを連想させる場合,市場から徹退させられることがある。
・子供をターゲットにした広告;国によっては放送時間が制限されたり,両親の指導のもとという制約がついたりする。

2)マーケターが取るべき対処法;
これらの規制に対して,どのように対処するべきか??
・規制と未解決の法律を見守る
・キャンペーンを中止する
・運動団体の活動をする
・法廷で戦う
・マーケティングミックス戦略を適応させる

6.広告代理店の選択
 マーケターにとって選択の自由は多くある。
1)市場の適応範囲
2)品質
3)国際キャンペーンの専門的知識
4) 信頼の創造
5)サポートサービスの充実と範囲
6)グローバルvsローカル・・望ましいイメージ
7)代理店の規模
8)対立するアカウント:ここには2つのリスクがある 
①多くの内密な専売データを保持していること, 
②代理店がその優れた才能を競合相手に向けてしまう恐れ

7.国際広告の調整
1)広告の報奨金
小さな企業では広告の責任を現地に委任することがある。しかし多くの販売者と関わっていくうちに,広告の取り組み方が変化する事や広告コピーに一貫性がなくなってしまう可能性がある。そこでマーケターは金銭的な励みとなるものを販売者との調和と,その広告レベルを維持するために定める。
2)広告のマニュアル
冊子やビデオテープを通じて国際広告を本社から子会社へ指導することは一般的である。
3)グローバルミーティングと・汎地域ミーティング
国際広告を調整するために執り行うがそれらは非常に非公式である。国際広告に関わる全ての国の重役やキーパーソンが参加する

8.その他のコミュニケーションの方法
 多くの企業にとってメディア広告はその一部に過ぎない
ここではつの方法について言及する
1)セールスプロモーション;様々な奨励手段がある。例えば,初期参入段階ではサンプルやクーポン・ボーナスパックなどを用いて再購買(リピート)を促すべきである。
 ・文化理解;ある種のプロモーションは他国では全く効果がない場合がある
2)ダイレクトマーケティング;顧客と直接接する事が出来るので,one to oneの関係を築くことが出来る。ダイレクトメール,訪問販売,インターネット,カタログ販売などが含まれる。
3)スポンサー;国際的なスポーツ人気に後押しされて,多くの多国籍企業はマーケットシェア争いの際 の強みとして使っている
4)トレードショウ;B to Bマーケタ-にとって重要なツールである。直接的な影響と間接的なものがあ る。訪れた顧客がその企業の製品に興味を持つきっかけになる。

9.統合的なグローバルマーケティング・コミュニケーション(GIMC)
 最近の代理店とクライアントは国内だけでなく海外市場に対してもIMC(統合的マーケティング・コミュニケーション)の価値を認識している。IMCの目標はマス・メディア,スポンサー,販売促進,販売時点の展示などの様々なコミュニケーションのツールを調整することである。
5カ国のIMCの予算割合では,インドが15%,オーストラリアが22%,ニュージーランドが40%,イギリスが42%という結果になった。
GIMCは更に一歩進んだ所にある概念で,水平方向(国単位)・垂直方向(プロモーションツール)の両方からグローバルコミュニケーションを統合する役割を果たす。
広告代理店は国境を越えた様々なコミュニケーション方法を統合,調整しようとするであろう。GIMCをブランドの部分あるいは全体としても利用したい企業は,その上記の2つを調節する体系・システムを持つべきである。国を超えて広告代理店は各国のコミュニケーションを調節し,統合しなければならない。
出展:Kotabe Masaaki and Kristian Helsen (2004),“Communication with the World CONSUMER”,GLOBAL MARKETING MANAGEMENT

投稿者 02tsukazaki : 14:56 | コメント (3) | トラックバック