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2005年07月06日

マス広告の限界とメディアのリストラクチャリング-特集“質”コミュニケーションのパラダイム・シフト-(大橋 1993)

この論文では,「メディアはメッセージである」というフレーズが多用されており,広告のコピーや映像など内容よりもメディアそのものが持つメッセージ性を重視し,「メディア」が文化や環境を作り出していることを強調している。最近のメディアの変化に比べて,「広告のメディア」の現状が変化していないことに触れ,21世紀の広告のコンセプトについて言及している。

 “メディアはメッセージである”-この言葉は,「M・マクルーハンの『人間拡張の原理』の最初に登場する」(57ページ)。メディアのメッセージ性とは,「例えば印刷は,口述文化の持つ地域性を無くし,国民を同質化しナショナリズムを生み出した」(57ページ)と指摘している。“メディアはメッセージである”この視点を筆者は日常生活が取り巻く個別のメディアに当てはめている。同じコピーや言葉でも,どういう手段=メディアで表現するかによって全く効果は異なる。「コミュニケーションの手段そのものが1つの大きなメッセージになっているということであり,もちろん,広告のコミュニケーションにもあてはまる」(57ページ)。
 広告のメディア選択の際,広告主はターゲットに対するリーチ,フリークエンシー,GRPなどの目標値に基づいて計画され,広告を載せる媒体であるメディア自体が持つ「メッセージ性」は考慮されない場合が多い。考えられてきたにしても,媒体特性程度で,例えば,新製品発売時の広告媒体としてはテレビコマーシャルが一番コストも安く,知名度を高めるには効率がいいと判断されてきた。このようなメディア選択では,誰もが同じメディア・ミックスを行うことになる。ある一定の評価の定まった広告媒体に広告が集中し,新しい媒体として他の何かが採用されたり,「メディア選択の新しい試みは行われにくくなる」(57ページ)。すると受け手は決まりきったメディアでの広告にしか出会えない。メディアの持つメッセージ性は生かされず,広告の内容(表現性・面白さ・コピー・映像・インパクト)だけが「創造性に関わる」(57ページ)問題となる。広告は表現などその内容においては独創的にその変化をさせてきたし,新しい試みなどもしてきたがメディア選択では差異性を求めるよりもむしろ効率を求めたりと保守的であった。 
 しかし,メディアのメッセージ性を組み入れたメディアとして“J-WAVE”がある。この番組編成の仕方は特徴的で時間帯によってターゲットを分け,その時間によって個別の番組を作るというのではなく,その放送が1つの番組のようになっている。その番組編成がメッセージとなっており,リスナーは「J-WAVEを聞きたい」という動機でそのラジオをつけるのである。また,J-WAVEの広告はメディア選択にも特徴があり,「東京というリージョナルな音楽マーケットに徹頭徹尾にこだわって」(58ページ)おり,巨大ポスターは東京の風景の一部となっている。つまり,広告自体が都市の一部になる事で「存在理由の訴求」の達成ができ,都市のイメージに重ねることで強いイメージで定着していく。
 広告媒体はテレビ・新聞・雑誌・ラジオの4つが主要なものであり,この構造は長年,広告の内容の変化に比べるとさほどの変化は見られないが,消費者ニーズの変化や,ニューメディアの登場によって変化が促されつつある。携帯電話やパソコンなどツー・ウェイのコミュニケーションメディアが増えとことも特徴的である。コミュニケーションメディアは新たな広告媒体となりえるだろうか?広告費をできるだけ低コストに抑えたいのは度の企業でも同じである。その有効的な使い方の1つにツー・ウェイのメディアの使用が挙がる。それを中心として「コミュニケーションのメディアの進化が広告のメディアを変えていくことは間違いない」(60ページ)。しかし一方で,情報の質も変わってくる,代表的なものが本文の言葉を借りるとするならば①情報の等身大性と②(消費者の)参加型と言え,より現実的な情報の提供が求められ,受け手が送り手になることをそれは可能にするのである。「企業はユーザーや顧客の声が自由に行き交うメディアをスポンサードすることが求められているし,そのためのメディアがいま用意されているのである」(61ページ)。ネットワークのコミュニケーションが進化していく時代に入った。

結論
 表現においてアイデンティティが必要なように,コミュニケーションのメディアの選択にもそれが求められる。より広告費を効果的に使うためにもダイレクトにコミュニケーションができるツールや対話型のメディアが必要とされており,ネットワークのメディアを作ることが必要になってくる。それを通じてコミュニケーションを創出するべきである。

出典:大橋正房(1993),「マス広告の限界とメディアのリストラクチャリング」『ブレーン』,33(10),56-61ページ。

投稿者 02tsukazaki : 2005年07月06日 23:50

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