« 「新しい広告」の理論―AIDMAを超える新しい広告研究を求めて―(飽戸 2003) | メイン | Gauging Foreign Product Promotion (Anderson and William 1972) »

2005年07月05日

消費者の情報処理プロセスとコミュニケーション戦略(清水 2005)

 この論文は,消費者の意思決定プロセスの段階の違いや,製品への関与度によって重視される評価項目や利用メディアがどう異なるのかをデータを用いて分析している。

 文献レビューの結果,情報処理型プロセスについて多数のモデルが提示され,そのモデル研究によって①消費者は過去の経験を知識として蓄え,知識の違いによって外部からの情報の処理方法が異なること,②知識の違いは関与の違いと関係すること,③消費者は何段階かをかけて意思決定すること,④段階によって意思決定の方法,重視する商品属性が異なること,などが外部情報との関連で明らかにされたとしている。過去の研究から,消費者の関与度や意思決定の段階によって,評価項目が異なることは明らかにされているが,必要とされるメディアの違いまでは言及されていないとして「評価項目が異なれば,利用するメディアも異なっていいはずである」(9ページ)という問題意識を提示している。
 
 分析に用いたデータは,大日本印刷のメディアバリュー研究2004年版である。メディアの利用状況から16の商品カテゴリーに分類し,購入に関わるメディアとチャネルの利用方法が似た商品カテゴリーをクラスター分析によって類型化している。その結果,刺激-反応型の意思決定が行われる商品カテゴリーと情報処理型の意思決定が行われる商品カテゴリーにわかれたとし,刺激-反応型からはアルコール飲料を,情報処理型からは自動車が選択され,それぞれが詳しく分析されている。まず,意思決定プロセスの異なる段階での利用メディアを概観している。次に,関与度の違いによって消費者を4つのレベルに分類し,比較検討時と最終決定時にそれぞれ重要視される評価項目を関与度のレベルごとにApriori分析で求めている。最後に,重要視される評価項目と,その際の利用度が高いメディアとの関係を比較検討時,最終決定時それぞれについて偏差値で示している。

 分析の結果,アルコール飲料は「同じ評価項目を同じメディアで評価し,選択していると考えられる」(15ページ)としている。具体的には,①意思決定プロセスのどの段階においても利用メディアの違いはほとんどなく,口コミを除けばテレビなどの受動的なメディアが利用されていること,②関与度のレベルの違いによる評価項目の違いの差はほとんどなく,比較検討時と最終決定時でも同じような結果となっており,周囲の評判,広告・宣伝,品質・性能,ブランド・メーカー,割安感,使用経験が重要視されていること,③どの関与度のレベルでも比較検討時,最終決定時ともにテレビと店頭情報の影響が強く,関与度のレベルの違いが出るのは,関与度のレベルが高いほど積極的に情報を収集しなければ入手できない口コミ(能動的な情報)を重視し,レベルが低いほどメーカーや小売の情報(受動的な情報)で評価すること,が明らかになったとしている。自動車は関与度のレベルに限らず評価項目はほぼ同じだが,関与度のレベルの違いによってその項目の重要度が異なるため,それらの項目の情報を入手するのに利用されるメディアも異なってくると考えられるとしている。具体的には,①意思決定プロセスの段階が進むにつれてテレビなどの受動的な情報から店員や販売員の情報やパンフレットといった能動的な情報へと利用されるメディアがシフトすること,②比較検討時,最終決定時で評価項目に違いがあり,比較検討時は関与度のレベルの違いによる評価項目の違いはあまりないが評価項目の重要度が異なること,関与度のレベルの違いに関わらず比較検討時での評価項目の数が最終決定時よりはるかに多く,最終決定時の評価項目はブランド・メーカー,デザインなど関与度のレベルの違いに関係なくほぼ同じであること,③どの関与度のレベルでも比較検討時と最終決定時ともに店員や販売員の情報やパンフレットの影響が強く,関与度のレベルの違いが出るのは関与度のレベルが低いほど最終決定時に家族の意見を重要視し,関与度のレベルが高いほど比較検討時に多くのメディアを使うこと,が明らかになったとしている。

結論と課題
 この分析の結果は,コミュニケーション戦略において「各メディアが得意とする商品評価項目を明らかにするとともに」(15ページ)消費者が意思決定プロセスのどの段階で何を重視するのかを知ることが必要であることを示しているとしている。今回は言及できなかった,意思決定プロセスの段階ごとのメディアの組み合わせやその効果がどのようなものなのかを見ていければ,コミュニケーション戦略はより精緻なものが導けるだろうとしている。

出典:清水聰(2005)「消費者の情報処理プロセスとコミュニケーション戦略」『日経広告研究所報』,第219号,8-15頁。

投稿者 : 2005年07月05日 17:18

トラックバック

このエントリーのトラックバックURL:
http://www2.ipcku.kansai-u.ac.jp/~t020026/blog/mt-tb.cgi/140

 
Copyright© 2005-2006 Baba Seminar. All rights reserved.