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2005年05月19日

広告業についての研究(栗原 2002)

 九十年代には外資系企業の本格進出によって,広告取引方法の違いが改めて注目されている。この論文では,こうした広告業の組織,広告取引,日本の広告業の特異性などを中心に研究の系譜をたどる。
 
 広告についての研究
1)広告業の近代化
2)日本の広告取引の特徴
3)広告業の新しい組織・業務

1)広告業の近代化
 戦前の広告取引は新聞,雑誌の活字媒体広告が中心だが,山本武利(1980)は「戦前の萬年社と新聞社の広告取引」という論文で,「戦前の大阪の広告代理店でトップだった萬年者の広告取引データを検証し,広告代理店と新聞社の請負契約内容,広告代理店と広告主の取引内容が個々に大きな差がある」(66ページ)ということを明らかにしている。「明治時代のデータが多いため,必ずしも『戦前』とは言えないが,『大阪朝日』『大阪毎日』などの大手新聞に比較すると,地方紙では好評単価はあっても実際には遥かに低い価格で取引され,萬年社と広告主の取引にも利益率に差がある。終戦に近い一九四四年に広告代理店の手数料が十五%と決められるまで,ある意味では力関係によって媒体料金,媒体手数料が決まる部分があった」と述べられている。(66ページ)戦後,米国広告界が近代化の手本とされる。また,組織としては「勘定代表」(account representative,account executive,account man)がいて,広告主が担当することとなる。

2)日本の広告取引の特徴
 日本の支配的な広告業種が薬品,化粧品,図書であり,耐久消費財が普及しなかったため,戦前の広告取引は「持単価制」によって,広告主ごとに料金が設定されているという状況だった。次に,戦後の近代広告化の動きとして①調査技術の導入②クリエーティブの拡充AEの導入③料金制度の検討-が進んだが,そうした中で,日本的な広告取引が生まれてきたのは,「日本企業は機密意識が強く,外部の機関(広告代理店)に対して必ずしも十分なマーケティング機能を期待していないという事情があった。また,代理店が同業種で複数企業と取引しているという,完全なAEという機能を要請できない条件もあった」(67ページ)とされている。当時の大手企業はマーケティングから広告企画・製作まで自社で担っていた事情がある。九十年代に入り,外資系企業の日本進出がいっそう激しくなったため,これに伴い外資系広告会社の日本進出も,日本広告会社への資本参加という形で活発化した。その結果,日本の広告業及び広告界の取引形態が欧米と異なるということが改めて問題となったとされている。

3)広告業の新しい組織・業務
 八十年代初めに,「広告取引基本契約の文書化」が広告主側から提案される。「いかに商習慣とはいえ,数千万,数千億に上る契約が口頭のような形でなされていることは変則であると思い,取引条件を明確にしようと思いたったのである」と広告取引の文書化に踏み切った富士通の和才(1981)が「広告取引基本契約の文書化」という論文で述べている。八十年代後半には,小林保彦が英国の広告代理店で始まったアカウントプランナーについて日本で紹介したことによると,アカウントプランナーの仕事は,クリエーティブとマーケティングを結びつけ,クリエーティブを経営戦略の視点からとらえる「クリエーティブブリーフ(広告企画書)」を作成することにある,としている。九十年代に起きた議論にIMC戦争がある。これは,マス媒体広告だけではなく,PR,SP関連広告も含めて消費者の視点から統一した展開をし,コミュニケーション効果を上げていこうというものである。広告の大きな流れは九十年代に入って,ブランドとのかかわりに移る。「『広告の機能がブランドの育成にある』との考え方に基づき,広告会社は『ブランド評価システム』の構築を急ぐ」(68ページ)としている。九十年代後半のもう一つの傾向は,インターネット広告に関する論文が増えたことである。「二〇〇一年にはインターネットユーザーが三千万人を超え,インターネット広告への研究者の関心は高まっており,広告効果測定の手法などが研究の中心になりつつある」(69ページ)としている。

出典:栗原信征(2002),「広告業についての研究」 『日経広告研究所報』,36(1),66-70ページ。

投稿者 02hidemin : 2005年05月19日 17:07

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