« 米国ウォルマート社の小売業態開発の展開(渦原 2002) | メイン | 小売業の主要業態の論理的構造―百貨店とスーパーの基本構造(出家 2004) »

2005年07月23日

競争広告の方向性(岩本 1996)

要約
 激化したマーケット市場では,企業の優位性をアピールするような広告を出すことが困難になってきている。そこで本稿は競争力のある広告のコミュニケートの仕方を見直し,競争力を発揮できる広告とはどのようなものであるかの整理を試みるとしている。

1.マーケティング競争のファンダメンタルズ
 マーケティングにおける競争は,競合者,規制,経済状況などの様々な外部からの要因に影響を受ける。そのために企業は,管理可能な資源をうまく組み合わせて,変化する環境に対応しているとし,本稿ではその一つであるマーケティング戦略の基礎となるマーケティング・ミックスに重点をおいている。その組成の背景は,「最適な組み合わせで標的市場に対するアプローチの遺漏をなくし,円滑な購買が遂行されるよう消費者に寄与,貢献することにある」(11ページ)としている。その際,違う変数同士がシナジー効果を期待できるように編成されている。広告などを連動させるプロモーション・ミックスでは,メディアを併用させるメディア・ミックスや訴求内容をメディアに合わせて行うメッセージ・ミックスもよく知られるようになってきたとしている。また,各媒体同士がかけあいをしながら,訴求効果を高めていくブリッジ広告も定着しつつあるとしている。しかし,その一方各部門ごとに独自の訴求を繰り返すことは,企業としての統一感や効率性が欠如してしまうため,統合型マーケティングの重要性も唱えられてきていると記している。
 競争優位を勝ち取るためには,自社資源,競合者の行動と顧客ニーズの3つが重なり合うエリア(オーバーラップ領域)にいかに取り組むかにかかっているとしている。すなわち,いくら競争優位の源泉があっても,その訴求が消費者に的確に届かなければ意味がないのである。そのためにも,どのような広告をうつのかを考えることが重要となってくる。そのような場合「競争優位の訴求は客観的で信頼性が高いことが求められるわけで,情報提供型広告に目が向けられることになる」(12ページ)としている。

2.競争広告とメッセージ戦略
 バーコウィッツらは販売主眼において,製品・サービスの広告を①導入期に用いられる開拓広告(情報提供型広告)②他社との比較優位を強調するための競争広告(説得型広告)③知識の補強や商品の成熟期に用いられる想起広告に分けることができるとしている。その中でも競争広告は競合者との競争優位の差を明確にして,選択的需要を増進することであるが,「競争広告は市場での地位に関係なく,競争原理にのっとり,競争優位性を訴求しながら販売につなげる広告を広く指すものである」(12ページ)としている。また,販売につながらなくとも,競合者の広告活動を相殺することで,自社製品の販売額の減少をおさえる,防御広告と捉えることもできるとしている。マーシャル,ピグーらは,競争広告はシェアの奪い合いになるだけで,社会的浪費であるとしているが,競い合うことで市場活性化につながるので,狭い視野で見るのは適切ではないとしている。競争広告の中で既存の製品の批判をすることで新製品を売り出す広告を挑戦広告と言う。挑戦広告は日本の風習などにそぐわないとしているが,こうした広告が登場すると情報インパクトは絶大なものであるとしている。
 広告戦略のプロセスは,広告目標や標的が設定され,メディア戦略やメッセージ戦略をどのように行うかが決定され,本稿では後者のメッセージ戦略を取り上げている。その手法としては「エンターテイメントとユーモア,証拠だて,名声の利用,スライス・オブ・ライフ,比較,象徴,サブリミナル」(13ページ)があり,それにタレントや動物を組み合わせたものが定式化していると記している。その手法の焦点となるのはユニーク・セリング・ポイントの強調,ブランドのポジショニングであり,ブランド戦略の展開と連携した差別化戦略にスポットが当てられており「差別化の対象は品質,デザイン,支援体制,イメージ,価格である」(13ページ)としている。メッセージのパターンは以下の8つが挙げられている。①No.1の訴求②プロ・先駆者の推奨・保証③専門用語の使用④イノベータの登場⑤プレミアムの付与⑥選択の強要⑦値下げの強調⑧アンチ・セグメンテーション(何にでも合う万能タイプ製品であることを主張し,競争力をもつこと)しかし,競合者との比較したメッセージ戦略には限界があるので,この領域だけで競争広告が展開されることは少なくなったとしている。

3.競争広告の競争力の方向性
 広告が訴求力を発揮するためには,製品自体が明白な比較優位性を保持していなければならない。しかし,すぐに販売やマーケットシェアに直結せずに,のちのち販売などにつながることを見越して,製品は常に市場で入手できる状態にしておかなければならないとしている。
 売上高を誇示する広告は,キーファクターなどを明示しなければ持続性はなく,短期間のプロモーションに終わってしまう危険性があり,プロフィットプロモーションには繋がらないとしている。目先の比較優位性訴求に依存せずに「長期計画の中での性格付け,メディア・ミックス,異業種との連携が組み込まなければならない。値引きを伴わない付加価値提供型のプロモーション,すなわち,ブランドパワーにつながる一貫性のある競争優位を生み出すプロモーションが広告情報に組み込まれる必要があろう」(14ページ)としている。
 競争力を高めるためには,顧客の声を聞かなければならず,そのためには莫大なコストがかかってしまう。そのため企業はコストがかかり見通しのつきにくい新規顧客よりも,既存顧客とのつながりを強化して,維持していく傾向にある。また,新規顧客に何らかのプロモーションを実行しようとしても,新規顧客の情報が乏しいため,競争優位性の訴求も不明確になってしまうとしている。それを避けるためにも,顧客データベースを常に更新し,インタラクティブ性をもち,「自ら入り込んでいくオンデマンド性のある広告から支援を受け,ネガティブな情報ものせていくことで信頼関係や学習関係を保持していくことが欠かせない」(15ページ)としている。

 結論は以下のとおりである。以前からある優位性の訴求やタレントに頼った広告では現在のマーケティング市場では通用しなくなってきており,企業が顧客と同じ場所でコミュニケートし,双方が満足を得る状態を維持することが広告には重要であるとしている。すなわち,広告でアクションを起こすと,それに顧客が応えてスパイラル効果が起こることで,広告は初めて競争力をもつとしている。

出典:岩本俊彦(1999),「競争広告の方向性」『日経広告研究所報』,第30巻4号,11-15頁。

投稿者 : 2005年07月23日 13:58

トラックバック

このエントリーのトラックバックURL:
http://www2.ipcku.kansai-u.ac.jp/~t020026/blog/mt-tb.cgi/174

 
Copyright© 2005-2006 Baba Seminar. All rights reserved.