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2005年06月15日

リアイティを創造するマーケティング・コミュニケーション-ポストモダン的社会のなかでの一考察-(栗木 2003)

要約
 この論文では,新しい視点でマーケティング・コミュニケーションを現代の消費社会と結びつけながら論じている。情報システムの高度化,グローバリゼーション,生産と物流の多品種少量化がもたらしたポストモダン的な消費社会において消費者は,代替案があふれる商品の中から,相対的な個々の観点により判断し,選択を行っていく。よって,マーケティング・コミュニケーションにおけるリフレクティブ・フローの役割の重要性が以前より増していることを著者は強調している。

 マーケティングを実践していく上で,重要なのは,その一つ一つのアクションが消費者とのコミュニケーションを引き起こすということである。また,消費者にとって「製品やサービスの価値は,物理的な実体としてではなく個々人の知覚や評価を通じて構成される」(30ページ)。消費者の観点が重要なのである。その観点を考慮していかなければならないが,情報の受け手がどのような観点を用いるかによってその評価は大きく変化する。そのため,「マーケティング・コミュニケーションに当たっては,受け手となる消費者の観点に適応するだけではなく,彼/彼女の観点を構成することも必要である」(30ページ)。前者の方は比較的簡単である。消費者調査によって,どのような観点を通じたものが消費者に受け入れやすく,認識・知覚されやすいかを把握する事ができる。しかし,後者のほうはもう少し深く考えていかなければならない。なぜならば,観点そのものが“主観的・流動的・他の代替案がいくらでもあるもの”だからである。製品やサービスの使用価値は,観点次第で変化する。「観点それ自体も,一つのものの見方に過ぎないことを忘れてはならない」(31ページ)。観点とはあくまでも相対的な可能性でしかないのである。そこで必要なのが,その“相対的なもの”を“絶対的なもの”に変えていくためのプロセスである。
 情報伝達型のコミュニケーションとは,「伝えようとする内容を,広告の映像やコピー,あるいは製品のデザインや,スタイルなどの表現として確立し,その受け手である消費者に向けて発信するものである」(31ページ)。このことはこれまでにも多くの学者達が繰り返し取り上げてきた。しかし,それだけでは情報伝達の遡及的な推論,後退に留まってしまう可能性がある。一つの解決策として,ブランドやフレームを用いたアプローチを併用する事が挙げられる。
 ブランドは,特定のある観点に消費者を誘導する役割を担っている。つまり,生産者が伝えようとする概念やイメージはあらかじめ消費者構築されている知識であり,ブランドは新たにそれを確立することなく受け手の記憶を活性化させることによって伝えるのである。ブランドやフレームを通じてマーケティング・コミュニケーションをより,リアリティを創造するコミュニケーションへ転換させていくことが可能である。製品の店頭や広告によるアプローチに加えて,ブランドを用いたアプローチを行うことで,「知覚や評価を導く観点を,当の知覚や評価がメタ観点として支えるという関係が創発する」(32ページ)。そして一旦,“観点が認識を導き,認識が観点を変える”という関係が循環・サイクルになると,その製品に関して他の代替案が入り込み,新たな認識が生成する可能性は低くなる。「認識とその前提が暗黙のうちに相即するため,相対的な可能性が,絶対的な実在であるかのように思えてしまうのである」(32ページ)。消費者をその流れの中に巻き込んでいくのである。
 マーケティング・コミュニケーションには,情報伝達型のものと同時にブランドなどを媒体にして,消費者の感情を喚起させるものがあり,後者は,受け手の知覚・認識を導く観点を触発する情報の“流れ”を造り出す。これをリフレクティブ・フローと呼び,マーケティング・コミュニケーションを通して相対的なものから絶対的なものへ変換させていく過程で非常に重要な役割を果たすのである。ここでいう“絶対的”とは,「少なくとも消費者当人にとっては,『確かに魅力的に見える』,あるいは『確かに必要だと思える』事象」(35ページ)のことである。リフレクティブ・フローを通して,循環する関係の形成と一つのリアリティが構成されていくプロセスが重要な意味を持っている。

出典:栗木契(2003),「リアリティを創造するマーケティング・コミュニケーション-ポストモダン的社会のなかでの一考察-」『日経広告研究所報』,37(3),30-35ページ。


投稿者 02tsukazaki : 2005年06月15日 22:20

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